No.202033

そらのおとしものf 桜井智樹(モテないマイスター)バレンタイン聖戦(中編)

後編までは完成しているのですが、逆襲のアストレアの作業がリアルや他作品の都合で進まないのでのんびりあげていきます。


そらのおとしもの二次創作作品
http://www.tinami.com/view/189954  (ヤンデレ・クイーン降臨)

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2011-02-17 02:10:27 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4434   閲覧ユーザー数:4111

 

そらのおとしものf 二次創作

桜井智樹(モテないマイスター)バレンタイン聖戦(中編)

 

 

前回のあらすじ           とはまるで無縁な嫌がらせ

 

 これはゾンビですか? いえ、パンチラ色情狂です

 

 俺の名前は相川歩(あいかわ あゆむ)。

 俺、ゾンビっす。

 あ、あと、魔装(まそう)少女っす。

 ピンクの縞パンのパンチラを振り撒きながらメガロとかいうあの世から来た何だかよくわからない怪物と戦ってるっす。

 どんなに街に被害が出ても魔法の力で元通り。魔装少女の恥ずかしい衣装を見られても魔法の力で記憶を封印。割と便利な設定っす。

 だけどこの間、織戸っていうもっと神に愛された方がいい哀れな友人に俺の戦っている姿を見られてしまったっす。

 記憶は消した筈なのに、織戸の奴は俺のパンチラだけは覚えているんす。本当にもっと神に愛された方がいい可哀想な奴なんす。

 そしてこともあろうに、織戸の奴はパンチラの主を探し出して告白するって息巻いているっす。

 織戸の鼻息荒いっす。もう年上とか年下とか美少女とか美少年とか関係ないって。涎垂らしながらハアハア言ってるっす。

 俺の貞操大ピンチっす。人生最大に危機っす。俺、ゾンビっすけど。

 俺は一体、どうすればいいっすか?

 

(某知り合いに言われて書くか書かないか迷っている今期アニメ作品概要より 誰か読みたい人いますか? つーか今期アニメは基本的には何も見てないから書きにくいんだってば!)

 

 

 

「人間とは思えないこの鋭利な傷。やはり犯人はお前か、そはら!」

 動かなくなった部下を地面に横たえながら智樹が叫ぶ。

「見月そはらじゃないわよ、桜井智樹! 今の私はあなたへの復讐だけを目的に生き恥を晒しているMissカラテドーよっ!」

「俺への復讐だと?」

 智樹は額にしわを寄せながら尋ね返す。

「そうよ。あなたはクリスマスで私を裏切り、今日こうしてまた私を裏切った!」

 Missカラテドーが智樹に向かって正面から突っ込んで来る。

 人間技とは思えない高速移動。智樹を眼前に捉え、その首を刎ねるべく手刀を構える。

「俺がお前を裏切ったってどういうことだ!?」

 だが智樹はMissカラテドーの必殺の手刀の軌道を読んで避けていた。

 毎日の様にそはらの手刀攻撃を受けて来た智樹にとって、彼女の攻撃パターンを読むことはそう難しくはなかった。

「白々しいッ! 智ちゃんは私やイカロスさんたちとクリスマスパーティーするって約束したじゃない! それをすっぽかして何でテロ活動なんかに手を染めているのよ!」

「……あれはっ、モテない男たちの為の正義の戦いだったんだ!」

 Missカラテドーが次々とチョップを繰り出して来る。それを紙一重でかわし続ける智樹。

「智ちゃんは……私との約束より、誰だかも知らないモテない男たちの方が重要だって言うのねっ!」

「そっ、それは……」

 Missカラテドーの攻撃が切れ味と速度を増していく。それに対して智樹の動きは鈍化していた。

「それでも……今日バカな真似をしなければ私は智ちゃんを許すことができた。なのに何故、今日もまた乙女たちの夢を、私たちの夢を邪魔してるのよッ!」

 Missカラテドーの手刀が智樹の頬を掠める。智樹の頬から鮮血が吹き飛ぶ。

「俺が立ち上がったのは、全世界のモテない男たちの為だッ!」

 智樹は雪を染める鮮血を気にせずにMissカラテドーの攻撃を避け続ける。

「智ちゃんが今日というバレンタインの日を武力介入対象のままでいてくれたなら……私はこの命を投げ捨ててでも智ちゃんのことを全力で守ったのにぃいいぃっ!」

 Missカラテドーが般若の面を外して智樹へと投げ付ける。

 仮面の下にぐしゃぐしゃに泣き腫らした見月そはらの顔があった。

「俺が武力介入の対象だって?」

 智樹は般若の面が顔に当たるのにも気にせずにそはらの瞳をジッと覗き込んだ。

「そうよ。智ちゃんはフラレテルビーイングの他のマイスターたちから武力介入の標的にされているって会長が言っていたわ」

「モテない男の代表、モテないマイスターである俺がどうして武力介入の対象にならなきゃいけないんだよ!」

 大声で反論を叫ぶ智樹。そんな智樹をそはらは涙を流しながらキツい視線で睨んだ。

「本気でそれを言っているの、智ちゃんっ!?」

「そ、それは……」

「私やイカロスさん、ニンフさん、アストレアさんの気持ちを知った上でそれを言っているの? それとも、知らないフリをしているの?」

「だから、それは……」

「答えなさいよっ、桜井智樹ぃいいいいぃっ!」

 Missカラテドーが腕を振り上げ必殺の手刀を放つ。

 智樹は呆然として反応することができない。

 

「危ないっ! マイスターッ!」

 手刀が智樹の頭を刎ねる寸前、部下の1人が智樹を体当たりして跳ね飛ばす。そして少年は智樹の代わりに手刀の餌食となった。

「おっ、お前……」

 雪の地面に流れる夥しい赤。

「モテない男たちの未来を……世界の未来を……お願いします…………っ」

 少年戦士は智樹に希望を託すとそれきり動かなかった。

「畜生ぉおおおおおぉッ!」

 智樹の慟哭が周囲に響き渡る。

「そはらぁああああぁっ!」

「何よっ!」

 睨み合う2人。そして──

「スマンっ。そはら……」

 智樹はそはらに向かって勢い良く頭を下げた。

「えっ? 智ちゃん?」

 智樹の突然の行動にそはらは困惑していた。

「もしかして、バレンタインに対する武力介入をやめてくれるの? だったら私、会長に智ちゃんたちの罪が軽くなるように掛け合って……」

 Missカラテドーは顔を輝かせる。

 だが、そんな彼女を見ながら智樹は顔をより一層曇らせた。

「ごめんな、そはら。俺は……モテないマイスターなんだ」

「えっ?」

 智樹の表情は沈んでいる。だが、その瞳の色だけはくすんではいなかった。

「俺は、モテない男として一生を過ごすと決めたんだッ!」

 大声で自らの決意を叫ぶ智樹。

「なっ、何よそれぇえええええぇっ!」

 笑顔が一転、憤怒の表情に変わったMissカラテドーが手刀を構える。

「智ちゃんは、私たちよりモテない男の方がそんなに重要なの!?」

「そはら……俺のことを恨んでくれて構わない」

 謝罪ともとれる言葉を吐きながら智樹の顔には一切の後悔が見られない。

「そう。だったら私が、このMissカラテドーが引導を渡してあげるわ、桜井智樹ッ!」

「そはらの提案をことごとく拒否して悪いが……俺はまだここでは死ねない」

 智樹はバックステップを踏みながらMissカラテドーとの距離をとる。

 そしてそはらには聞こえない小さな声で呟いた。

「謝罪は地獄に着いてからいくらでもするから。だから、今、お前に食い止められるわけにはいかない」

 智樹は両手を横に広げ大きく深呼吸を行う。

「智ちゃんがバトルで私に勝てると本気で思っているの?」

「思っているじゃなくて、勝たなきゃいけないんだよ」

 運命の歯車が狂ってしまった幼馴染の2人の戦いは今ここに終止符が打たれようとしていた。

 

 

 

「智ちゃんが私にバトルで勝てる確率なんて万に1つもないよ」

「これが空手の試合だったらそうだろうな」

 智樹はそはらの挑発を軽く受け流した。

「ボクシングだろうが、ムエタイだろうが、K-1だろうが答えは同じだよ」

「……モテないマイスターには、フラレテルビーイング創始者であるじっちゃんから与えられた“力”があるんだよ」

「“力”?」

 智樹の言葉に反応してMissカラテドーが1歩2歩と後づさる。

「俺はその力を今ここで解放するッ!」

「クッ」

 智樹の得体の知れぬ自信を見てその場で身構えるそはら。

 しかしその行動がまずかった。

「世界を変革する為の力、今こそ見せてやるッ! 脱衣(トランザム)ッ!!」

 叫び声と共に智樹の学生服と下着が一瞬にして消し飛ぶ。

 僅か0.05秒後、黄金のオーラを発しながら一糸もまとわぬ全裸と化した智樹が空美学園の校庭に立っていた。

「と、と、智ちゃん……っ」

 Missカラテドーは智樹を見ながら赤面していた。彼女の視線は7頭身のままの智樹の下半身のとある1点に集中していた。

「小学生の時に一緒にお風呂に入って見たのと違う……夢で見ているのとも違う……私、こんなの知らない……」

 Missカラテドーは智樹のある部分を見ながら硬直している。智樹がその隙を見逃す筈もなかった。

「戦いの最中に立ち止まるとは愚かなりそはら、いや、Missカラテドーっ!」

 叫び声と共に智樹はダッシュを開始する。

「えっ? 智ちゃん? どこ、どこに行ったの!?」

 残像を残して消え去る智樹。Missカラテドーは智樹の動きを肉眼で捕捉することができない。智樹の動きは音速を遥かに超越していた。

 

 通常、人間は衣服を着ている状態では運動能力が低下する。衣服には重量が存在し、また空気抵抗を増やしてしまうからである。その為にスポーツ競技の衣装ではより軽く、より抵抗を受けないものが競って開発されて来た。

 従って人間は全裸になった時、初めてその全能力を開放する為の条件を得る。

 全裸によって得られる特殊効果はそれだけではない。

 全裸によって得られる開放感と爽快感と興奮は心のドライブ(=GNドライブ:ジャイアンナルシストドライブ)に青く輝く炎の光を灯す。GNドライブのオーバークロック作用により全裸の快感を得た人間は一時的に普段の数十倍の能力を引き出すことができる。

 今の智樹は人間にして人間の数十倍の能力を有する新たなる存在、露出狂(イノベイダー)として覚醒を遂げていた。

「Missカラテドー、覚悟ぉおおおおぉっ!」

 Missカラテドーの背後を取った智樹がその背中の中心に向かって右手を伸ばす。パンッと何かが弾ける音が背中から鳴る。

「えっ? 智ちゃん、今、何をしたの…………きゃぁああああああああああぁっ!?」

 一瞬背中に手を掠めただけの智樹の行動の意図がわからず唖然とするMissカラテドー。しかし、次の瞬間自分の身に起きたことを理解して両手で胸を押さえながら蹲る。

「智ちゃん、私のブラのホック外したでしょっ!」

 Missカラテドーは赤面しながら叫ぶ。

「今頃気付いたのかヴァカめがっ!」

 言いながら智樹は中央本陣へと向かい次々と女子生徒に近付き──

「君たちのその育ち盛りの胸を、ブラという圧政から解放して自由にしてあげようっ!」

「きゃぁあああああぁっ!」

「嫌ぁああああああああぁっ!」

 次々とブラのホックを外していく。

 胸を押さえながら次々と地面へと崩れ落ちていくアロハーズ防衛隊。

 智樹が脱衣(トランザム)を発動して僅か1分ほどで残存防衛隊の約3分の2が地面に蹲り戦闘不能に陥っていた。

「……私まだ、ブラしてません。……すみません」

「会長も今日はノーブラ~なの~。直に触ってみる~?」

「直にって……ブハッ!」

 一部の女子生徒にはブラホック外しが効かなかったが、アロハーズが総崩れとなったことには変わりがなかった。

「それ~っ! アロハーズを駆逐して一気に下駄箱を占領せよっ!」

 智樹の掛け声と共に残った戦力で一斉攻撃を仕掛けるフラレテルビーイング。僅か1分ほどの間に攻守は完全に交替した。

「あらあら~。これはちょっとまずいことになったわね~」

 崩壊していく戦線を見ながらアロハーズ司令官五月田根美香子は首を傾げていた。

「まさか彼女たちを投入することになっちゃうとは~桜井くんも気の毒ね~」

 だが、その唇は笑いを堪えるように上下に動いていた。

 

 

 

「下駄箱を占拠し、モテ男の靴入れに生ごみを詰めるのだぁっ!」

「「「了解っ!」」」

 露出狂(イノベイダー)として覚醒した智樹を先頭に、靴箱へと突入を開始するフラレテルビーイング10数名。しかし──

「パラダイス・ソングッ!」

 巨大な空気の奔流により校舎外へと吹き飛ばされる。

「なっ、何事だ?」

 頭をさする智樹。

 そんな智樹の前にツインテールの髪型をした小柄な少女が立ちはだかった。

「私の仕業よ、智樹」

「お前は…………ニンフっ!」

 簡易甲冑にマントを羽織った少女は、智樹の家に居候している電子戦用エンジェロイド・タイプβ(ベータ)・ニンフだった。

「何故ニンフが俺たちの邪魔をする!」

「そんなことは簡単よ。智樹にバレンタインを邪魔して欲しくないから」

 目を剥き怒る智樹に冷ややかに答えるニンフ。

「どういうことだ、それは!」

「智樹はバレンタインを楽しんでればそれで良いのよ」

 ニンフは智樹と初めて出会った頃の様に意地の悪い笑みを浮かべた。

「バレンタインを楽しむなど、俺にはできない。邪魔をするなら力尽くで通るまでだ」

「フッ。どうやって通る気?」

 人間を地蟲(ダウナー)と呼び蔑んでいた頃のニンフの冷めた視線。

「俺にはじっちゃんから受け継いだこの力がある。脱衣(トランザム)ッ!」

「無駄よ」

 智樹はツインテール少女に全裸を見られている興奮を力に変えて潜在能力を引き出そうとする。しかし──

「力が、出ない?」

 興奮は力に変換されなかった。

「何でだぁっ!?」

「脱衣(トランザム)の力の効果持続は精々3分。それ以上はただの脱いでいる人よ」

 ニンフは首を横に振った。

「ううん。それだけじゃない。脱衣(トランザム)の反動と今が2月だという事実が智樹を襲うわ」

「何っ?」

 わけがわからない智樹。だが、次の瞬間、智樹の全身を悪寒と激痛を駆け巡る。

「ぐぎゃぁあああああああぁっ!」

 激痛に体が耐え切れず、その場に転げ回る智樹。

「大きすぎる力を使ったのだから体に反動が来るのは当たり前でしょ。それに、今2月よ。全裸で外にいたら寒さで体が悲鳴を上げるのは当然のことでしょ?」

 ニンフは雪が舞い振る空を見上げた。

「どうする? 降伏してくれる?」

「誰が降伏などするかっ!」

 智樹が痛みを堪えながら立ち上がる。体は満足に動かずとも、その心は、その瞳にはいまだ強い意志が宿っていた。

「そう。だったら、体だけじゃなく心も砕かないとダメみたいだわね……アルファ、デルタッ!」

 ニンフの声を聞き、2人の白い翼を生やした少女が超高速で飛来しながら智樹たちの前へと現れる。

 少女たちが降り立った際に生じた突風でフラレテルビーイングの戦士たちが吹き飛んでいく。

「イカロスッ、アストレアッ!」

 智樹は新たに現れた少女たちの名を叫ぶ。

 

「……マスター……」

 ニンフの右側に立つ短髪の少女の名はイカロス。空の女王(ウラヌス・クイーン)の名を持つシナプス最強のエンジェロイド。

「バカは痛い目見ないと治らないようね」

 ニンフの左側に立つブロンドの長髪の少女の名はアストレア。近接戦闘においてはイカロスをも上回る能力を持つエンジェロイド。

「イカロスっ、お前まで会長側につくのか!?」

「……はい。マスター」

 智樹はイカロスの返答を聞いて驚愕した。

 エンジェロイドにとってマスターは絶対的な存在。にも関わらずイカロスは智樹と敵対する勢力に身を置くことを選んだ。それは──

「会長に強要されたのか?」

「……いいえ。私の、意志です」

「そうか……お前の……意志か……」

 知らず、智樹の瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。

「あれ? 俺、泣いて……?」

 涙は止まらない。

「……マスター。降伏してください。お願いします」

 イカロスは片膝を地面について智樹に向かって頭を垂れた。

「……悪いな、イカロス。俺は降伏できない」

「……しかし、それでは、マスターのお命が……」

 顔を上げたイカロスの双眸にはうっすらと涙が滲んでいた。

「悪いな、イカロス。俺は……モテない男なんだ」

「……マスター」

 見つめあう智樹とマスター。

 互いが互いを思いあっている。にも関わらず2人は対峙しなければならなかった。

「交渉は決裂のようね」

 そんな2人の間に割って入ったのはニンフだった。智樹を見つめるその瞳は凍てつくような冷たい波動を放っていたが、その頬はプクッと膨れていた。

「デルタっ、智樹を攻撃しなさい。アルファはフラレテルビーイングの残党を叩きのめしなさい」

「わっかりましたぁっ!」

 勢い良く返事したアストレアの頬もこれ以上ないぐらいにパンパンに膨れ上がっていた。

「覚悟しなさい、桜井智樹っ! 超振動光子剣(クリュサオル)ッ!」

 アストレアが全長10mを超える巨大な光の剣を智樹に向かって横に薙ぎ払う。

「……アルテミス、敵、フラレテルビーイングに向けて、全弾発射」

 時を同じくしてイカロスの追尾型邀撃兵器が残存していたフラレテルビーイングの戦士たちに一斉に襲い掛かる。

「うぉおおぉ!?」

 間一髪でしゃがみ込んでアストレアの攻撃を避ける智樹。しかし──

「ぎゃぁあああああああぁっ!」

 イカロスの攻撃により次々に倒れていくフラレテルビーイング構成員。

 人間とエンジェロイドでは端から勝負にはならなかった。

 両組織の勝敗はもはや明らかだった。

「退却っ、退却だぁああああああぁっ!」

 智樹が下せる命令はもう他に存在しなかった。

 

 

 

 午前7時50分。

「敵、フラレテルビーイングの撤退を確認しました」

「そう。報告ご苦労様」

 美香子は智樹以下5、6名ほどが散り散りになって学園から遠ざかっていくのを確認しながら感情も篭めずに返答した。

 戦場跡を見渡せば、そこかしこに泣きながら蹲っている女子生徒たちの姿があった。

 イカロスたちの投入により辛くも勝利は収めたものの、アロハーズの被害は甚大だった。

 体に傷を負った者はほとんどいなかったものの、大半の隊員たちが心に大きな傷を負っていた。

「みんな喜んで~会長たちの大勝利よ~」

 美香子は殊更に大きな声で勝利を告げた。

「倒れているフラレテルビーイング構成員は打ち首獄門晒し首~もしくは一生の強制労働の刑を課すわ~。大勝利した女の子たちはバレンタインデーを楽しみましょう~」

 美香子の指揮の下、戦後処理が進んでいく。

 

 

 午前8時00分。

 校門前に伏していたフラレテルビーイング隊員たちは捕獲され、美香子が手配したトラックに分乗して矯正施設へと運ばれていった。

「それでは本日のアロハーズの任務は終了よ~。みんな~好きな男の子に頑張ってチョコレートと気持ちを贈るのよ~」

「やったぁ!」

 美香子の宣言を聞いてようやく安堵の声を上げるアロハーズ隊員たち。

 戦場はようやく元の明るい学園へとその雰囲気を戻しつつあった。

 誰にチョコをあげるか黄色い声をあげながら話し合う女子生徒たち。

 そんな女子生徒たちを美香子は眩しそうに見つめていた。

「会長はどなたにチョコレートを贈るつもりなのですか?」

 武装を解除した女子生徒の1人が美香子の元へと近寄ってきた。

「私は誰にもあげないわ。そんな資格はないもの」

「えっ?」

 美香子は空を見上げるだけでそれ以上答えない。

 不思議がる少女に代わって美香子に近付いてきたのはニンフたちエンジェロイドとそはらだった。

「美香子、決着をつけに行きましょう」

 ニンフが告げる。強い決意を込めた瞳で。

「……マスターを、取り戻す為に」

「あのバカに反省させなきゃ!」

「智ちゃんを止めないと」

 更に6つの決意に燃えた瞳が美香子をジッと見つめる。

「……そうね。決着をつけないといけない時が来たわよね」

 美香子は4人の少女へと視線を向け直す。

「まだ抵抗を続ける桜井くんのお尻をペンペンしてあげないといけないわね」

 美香子の口から笑みが毀れる。

 

「そうだ、見月さん」

「何でしょう、会長?」

「この学園の生徒会は会長の私と会計の見月さんだけだったわね?」

「そうですが、それが何か?」

 そはらは首を傾げた。

「空美学園をよろしくお願いね」

「あの、それはどういう?」

 そはらは更に首をかしげた。

「フラレテルビーイング掃討作戦に向かうわよ」

「「「「はいっ!」」」」

 元気一杯に返事をする4人の少女。

「……さようなら、空美学園」

 美香子の呟きは4人の少女には聞こえなかった。

 

 

 

 午前8時30分。

 空美学園から逃亡してきた智樹と10名の戦士たちは空美神社境内へと命からがら逃亡してきた。

 途中から合流してきた4名の戦士の証言により、捕らえれた仲間たちが五月田根家の矯正施設に送られたという情報を智樹たちは得た。

「あの山の方角には矯正施設どころか建物1つ建ってないぞ!」

 部下の報告から、車が向かった方角には矯正施設がないことを確認する。それが意味する凄惨な予測が脳裏をよぎり、大きな舌打ちが周囲に鳴り響く。

「やはり戦力を立て直した後、町でもう一騒動を起こして五月田根家をおびき出す必要があるな。手遅れになる前に!」

 騒動を起こし五月田根家の縁者を捕まえて仲間たちが囚われている場所を聞き出す。そして一刻も早く仲間の奪還に向かう。それが今の智樹が取るべきプランとなっていた。

「して、マイスター。具体的にはどのようなプランをお考えでしょうか?」

「チーム鳳凰院(トリニティー)と合流し、私立空美学院を叩くっ!」

 腰にタオルを1枚巻いただけの智樹が力強く立ち上がる。

 

「おいおいおい。僕の学校で暴れられては困るなあ」

「私の学校は動物園ではありませんのよ。おサルさんに暴れられては敵いませんわ」

 そんな智樹のやる気を拒絶する男女の声。

「お前は鳳凰院・キング・義経とその妹月乃!」

 智樹の前に現れたのは義経と月乃だった。更にその後ろには屈強な体つきの黒服の男たちが4名。

「お前たちは私立空美学院に武力介入しているんじゃなかったのか?」

「僕もモテない男としてバレンタインデーを潰すべく私立空美学院に向かったさ。ところがね、学校に着いたら沢山の女の子たちに囲まれてチョコを渡されてしまってね。神は僕がモテない男でいることをお許しにならなかったんだよ」

「お兄さまが女性から大人気なのは当然ですわ。他の女がお兄様に近付くのは目障りですけども」

 髪を掻き揚げる義経とその兄を見ながら膨れてみせる月乃。

「そして僕はレディーたちの味方だからね。レディーたちが想いを伝えようとする神聖なる儀式を邪魔しようとする無粋な輩は許せなくてね。それで……殲滅したのさ」

「殲滅? お前、まさか!」

 智樹が大きく目を見開く。

「チーム鳳凰院(トリニティー)の他のメンバーはこの僕と、後ろの男たちが葬ったのさ」

「乙女の恋路を邪魔するような輩を生かしておくことはできませんわ」

 鳳凰院兄妹の言葉にフラレテルビーイングの隊員が一斉に驚愕する。

「仲間を自らの手で葬ったというのか!」

「仲間じゃない。モテ男である僕の敵だ。それに僕の行動はMiss五月田根も賛同してくれている」

「昨夜あのいけ好かない悪女から連絡を受けた時は何事かと腹立ちましたが、お兄様が私のチョコを受け取ってもらえるようになってとりあえず良かったですわ」

「貴様という奴はぁああああぁっ!」

 智樹の歯軋りの音が鳴り響く。

「そういうわけでMr.桜井とフラレタルビーイングの諸君。レディーたちのバレンタインを邪魔した罪で君たちにはここで死んでもらうよ」

 義経の後ろに控えていた男たちが警棒を取り出す。

「さようなら、Mr.桜井。イカロスさんは僕が幸せにするさ。……やれっ」

 義経の合図と共に黒服の男たちが傷付いたフラレテルビーイングに襲い掛かる。

 人数ではフラレテルビーイングが上回っていたが、所詮は戦いのプロと素人。そしてその素人の体力が尽きているのでは戦いにすらならなかった。

「お、お、お前たちぃいいいいぃっ!」

 智樹の前で1人、また1人と狩られていくフラレテルビーイング。

「ま、マイスター……」

 それは戦いというには余りにも一方的な凄惨劇だった。

 

 

 

「後は君1人だよ、Mr.桜井」

 黒服の男たちの攻撃開始から僅か3分。血に染まる雪の境内に立っているフラレテルビーイング構成員は智樹だけになっていた。

「何故俺をまだ生かしている?」

「それは勿論、僕が君を直接葬ってやる為さ。イカロスさんに僕の偉大さを知らしめる為にも1対1で勝負さ」

「鳳凰院、貴様という奴は、どこまで性根が腐ってやがる!」

 智樹は怒りを表しながら瞳だけは敵の戦力分析を注意深く行っていた。

「……あの4人さえいなければ、俺があの武力介入対象を葬ってやるものを」

 義経を囲んでいる黒服の男たち。

義経に危機が迫れば攻撃してくることは目に見えていた。

 つまり、義経は1対1を謳っているが、実際には1対5。

「僕は美の追求の為にあらゆる格闘技を習いこの究極の肉体に磨きを掛けている。その僕に君が勝てるかな?」

 義経がボクシングの構えから鋭いジョブを放って来る。

「ウワッ」

 プロボクサー顔負けの素早い攻撃を紙一重でかわす智樹。

「ほぉ。あのジャブをかわすとはなかなかやるじゃないか。それではこれならどうかな?」

 足技を加えた連続攻撃を仕掛けてくる義経。

「ウォッ、ウワッ、ウエッ」

 叫びながらも義経の連続攻撃を次々とかわしていく智樹。

 義経の攻撃は決して甘いものではない。しかし、そはらやエンジェロイドたちの攻撃を毎日のように受けている智樹にとって人間レベルの攻撃は大したものではなかった。

 攻撃に驚くふりをしながら反撃する機会を窺う。義経は攻撃に夢中になり、その結果段々と隙が見えるようになっていた。

「これで終わりだよ、Mr.桜井ッ!」

 義経が大きく振りかぶりながら右ストレートを放つ。その瞬間を智樹は見逃さなかった。

「終わりなのは貴様だ、鳳凰院ッ!」

 パンチをかわしながらがら空きになった懐へと飛び込む智樹。

「ぐはぁああああぁっ!?」

 しかし吹き飛んだのは智樹の方だった。

 義経の部下の1人が智樹を警棒で殴り飛ばしたのだった。

「おいおいおい。僕の勝利を邪魔しないでくれよ」

 笑いながら雪の地面に転がる智樹へと近付いていく義経。

「畜生っ、1対5でなければこんな奴にやられはしないものを……」

 右の頬を押さえながら反撃の機会を窺う智樹。しかし、義経の周りは男たちに囲まれており飛び込めば先ほどと同じ結果を迎えることは目に見えていた。

「それでは今度こそトドメを刺させてもらうよ、Mr.桜井っ!」

 義経が拳を振りかぶる。

「こうなったら、玉砕覚悟でせめて一撃をっ!」

 智樹が覚悟を決めたその瞬間──

「……アルテミス、発射!」

「パラダイス・ソング!」

「超振動光子剣(クリュサオル)ッ!」

「殺人チョップッ!」

 突風と光の渦が智樹の横を通り過ぎていく。

「ぎゃぁあああああああああぁっ!」

 そして黒服の男たちが悲鳴を上げながら地面に倒れ伏していた。

 

「……マスター、大丈夫、ですか?」

 イカロスが飛翔して智樹の元へとやって来る。

「悪いな、イカロス……」

 智樹は立ち上がるとイカロスの方を見ずに義経を睨む。

「フッ。誰かと思えばイカロスさんではありませんか。どうです、今度一緒に食事でも?」

 部下を倒されたにも関わらず取り乱す様子のない義経。むしろイカロスがこの地に現れたことで高揚していた。

「……私は、マスターの、エンジェロイド、ですから」

 イカロスはにべもなく義経の提案を断る。そして期待を込めた眼差しで智樹を見る。

しかし智樹の視線は義経を向いたままだった。

 イカロスは僅かに視線を伏せた。

「……マスター。フラレテルビーイングは、壊滅しました。これ以上、無益な戦いを、続けないでください。お願いします」

「無益なんかじゃ、ない!」

 智樹は強い口調でイカロスの申し出を跳ね除けた。

「世界の歪みの元凶が俺の目の前にいる。俺はモテないマイスター桜井智樹。鳳凰院・キング・義経! モテ男の貴様に武力介入して世界の歪みを修正するッ!」

「フッ。面白いことを言ってくれる。ならば僕も世界のモテ男を代表して本気で相手をしてあげよう、Mr.桜井。いや、フラレテルビーイングモテないマイスター桜井智樹よっ!」

 対峙する2人の男。

 1人はモテない男たちの未来に為に。

 1人はモテ男たちの未来の為に。

 男たちの瞳には互いの姿しか映っていない。

「……マスター」

「智樹の奴。どうして私たちに囲まれたハーレムエンドよりもあんな男との戦いに命を賭けるのよ」

「私は桜井智樹のことなんか何とも思ってませんが、腹がとっても立ちます!」

「智ちゃんの……バカ」

 4人の少女たちは寂しそうに悔しそうに唇を噛みながら男たちの対決を見守るしかなかった。

「勝負だっ、鳳凰院・キング・義経ッ!」

「来いっ、Mr.桜井ッ!」

 

 モテ男とモテない男の世界の未来を賭けた最後の決着の瞬間が近付いていた。

 

 

後編に続く

 

 

 

 


 
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