No.197571

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第三章・第一幕

狭乃 狼さん

三章・一幕です。

場面は長安がメインとなります。

新都に入った白亜に、王允との確執が生まれます。

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2011-01-24 11:12:17 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:24209   閲覧ユーザー数:18021

 一刀たちの下に、伊籍が仕官していた丁度その頃。

 

 鄴のある冀州からはるか西の地、”旧都”洛陽からは、函谷関を挟んだ地にある、前漢の都にして後漢の新都となった古の都。

 

 その名は、長安―――。

 

 漢の高祖たる劉邦が、楚の項羽を下した後、皇帝となって都と定めた前漢の帝都。その後、後漢の代になって、都が洛陽へと遷るまで、この世の栄華を極めたこの地であるが、現在はすっかり没落し、ただの地方都市に成り下がっていた。

 

 しかし、今回の遷都によって、再び脚光を浴びることとなったこの都は、現在再開発の真っ最中である。……だが。

 

 

 「じゃから言うておる!優先すべきは街の整備!民の暮らしがよくなれば、自然と税も増え、城を整える余裕も生まれると!」

 

 思わず大声を上げ、王允に自身の方針を強く訴える、漢・十三代皇帝、劉弁。それに対し、司徒の王允はというと、

 

 「それは違いますぞ、陛下。王城が立派であればこそ、民もそれをうらやみ、自らを奮い立たせるもの。上に立つ者が目標を示してやってこそ、下の者も道筋を見つけることができるのです」

 

 劉弁とはまったく正反対の論を展開し、一歩も譲る気配を見せていなかった。両者の思考の根底にある、その違い。それは一重に、皇帝と民の関係が、どういう形であるかという、その一転に尽きた。

 

 劉弁が、民を基本に物事を考え、政の骨子を考えているのに対し、王允の方は、まず漢室ありき、そして、その威光をあまねく天下に示すことこそ、民に幸福をあたえられる、と。

 

 完全に、正反対の思想なのである。

 

 二人の話は常に平行線をたどり、中々結論が出ることなく、かれこれ半日ほど、激しく議論を続けていた。

 

 「……良い。ならば、今日の所はここまでとしよう。じゃが司徒よ、これだけは言うておくぞ。……民をないがしろにし続ければ、いつか手痛い”しっぺ返し”を食らうこととなろう。朕もそなたも、共にそろってな。……以上じゃ、下がれ」

 

 「……御意」

 

 渋々と、ふてくされた顔のまま、王允は部屋から退出していく。

 

 「……まったく、あの頑固頭めが。先の乱の根底にあったものを、まったく理解できておらんな」

 

 いすの背もたれにその背を預け、大きく嘆息する。そこに、

 

 「失礼します。陛下、お茶をお持ちしました」

 

 

 

 「月か。……ふむ、とりあえず、茶でも飲んで落ち着くとするかの」

 

 茶器一式を持ち、劉弁の部屋を訪れたその少女―――劉弁専属の侍女であり、その相談相手でもある、月こと元・相国、董仲頴―――から、茶の入った器を受け取り、それをすする。

 

 「……ふう~。やはり、月の入れた茶が一番口に合うの。……にしても司徒め、あそこまで頭の中身が古いとは思わなんだわ」

 

 「ですが、司徒さまも司徒さまなりに、漢に対する忠義心からでた、そのお考えだと思いますが」

 

 「それは解かっておるがの。……じゃが、朝廷ありきな考えが強すぎる。官も皇帝も、民あってこそ、生きていくことができるのだということが、あれには理解できておらん」

 

 そう。

 

 民という”土台”がまずあってこそ、朝廷という”家”が、そこに立っていることができるのである。土台をないがしろにすれば、いずれ家は倒壊してしまうのが”オチ”である。

 

 王允を初め、現在朝廷に仕えているものの大半は、そこの所を考え違いしているのだと、劉弁はそう顔をしかめてつぶやいた。

 

 「朝廷も、そして皇帝も、所詮は民の”小間使い”よ。天下の主は皇帝ではない。数多いる民こそが、真の主なのだ」

 

 「……はい」

 

 劉弁の言葉に、月も同調して静かにうなずく。

 

 「……ところで、話は変わるがの。どうじゃ、その”めいど服”は?中々に似合っておるぞ」

 

 と、いつぞやかの一刀デザインのメイド服に身を包んだ月を、ニヤニヤとしながらみる。

 

 「へぅ~。……その、はい。とても可愛くて、大変気に入ってます。意匠を考えたのは、北郷さんだそうですが?」

 

 「うむ。あやつは本当に多才よな。政や武だけでなく、このような才まで持ち合わせておる。……うらやましいことこの上ないの」

 

 最後は少し自嘲気味に、そんな風につぶやく劉弁。

 

 「陛下……」

 

 「……その才に加え、民に対するその想いの強さ。自己に対する責任、あらゆることに対するその覚悟。……どれをとっても、朕より勝っておる。真に”天”と呼ぶべきは、あやつのほうかも知れんの」

 

 茶器の中の茶に写った、自身の顔をじっと見つめる。そして、ぐっ、と。その茶を一気に飲み干す。

 

 「……じゃが、朕とてこのまま負けておるつもりは毛頭無い。あやつに少しでも近づけるよう、そして、真に民のための為政者となれるよう、これからも精進していくつもりじゃ。……月よ、朕をこれからも、そばで支え続けてくれ。頼む」

 

 「……はい、陛下」

 

 一刀を、自分よりも優れた人物と認め、その上で、その高みを目指すと誓う劉弁。月もまた、そんな彼女を支えて行こうと、改めて誓う。……まあ、相手が本当は、自分と同性だということには、いまだ気づいてはいないが。

 

 しかし、その時その部屋の外で、そっと聞き耳を立てていた人物は、それを是とはしなかった。

 

 「…………おのれ」

 

 そっとその場を離れ、思わず一言漏らす。そして、そのままゆっくりと、闇に包まれた廊下の奥へと歩き出す。

 

 

 

 そして、その日の深夜。

 

 長安城内のとある一室に、三人の男が集まっていた。

 

 「……陛下が、真にそのようなことを申されたのですか」

 

 「そうじゃ。……皇帝は、民の小間使いだと。大陸の真の主は、民草どもだとな」

 

 「何たる情けないこと!かように弱気な皇帝など、古今に類がございませぬぞ!」

 

 三人のうちの一人、白髪の老人――王允から発せられた劉弁の言葉に、激しく憤慨するその大柄な男―――名は、張温、という。

 

 禁軍将軍の一人であり、漢室に対する忠誠心に篤く、漢のためならばなんでもしてきた男。―――表沙汰には決してできない、裏の仕事にいたるまで。

 

 「そのうえ、じゃ。天の御遣いなどという、あの不遜な者を、自らの手本にするなどというておる。……もはや、許せるものではない」

 

 忌々しげ、いや、もはや憎悪と言っていい感情を、その瞳の奥に宿らせ、王允はそう吐き捨てた。……すでにその言葉から、敬語というものが消えた、その口調で。

 

 「では司徒さま。此度も、”先の帝”のように」

 

 「……いや。それは出来ぬ。先帝のように、病に”なってもらう”のは時間がかかりすぎる。一刻も早く、次の、”真の”帝に立ってもらわねば、漢の威光はますます堕ちていくのみ」

 

 「であれば、やはり、私めが直接……」

 

 「そうじゃ。……じゃがその前に、董承」

 

 「は」

 

 部屋の中にいたもう一人の人物―――張温と同じく、禁軍将軍の一人である董承へと、その視線を転じる王允。

 

 「おぬしの権限を持って、旧・董軍の諸将を、しばし都から引き離しておけ。彼奴らはあの愚帝の子飼のようなものだ。都に居られては、厄介なことこの上ない」

 

 「御意」

 

 劉弁を愚帝と呼び、董承にそう指示を出す。

 

 禁軍の中でも、元・董卓軍の将兵たちは、長安へと入って以降、皇帝である劉弁の直卒ともいえる部隊となっていた。そのため、その彼女たちがいては、”事”を為すのに邪魔だと、王允は考えたのである。

 

 だが、結局その目論見が、成功することはなかった。

 

 半年間、張遼と華雄、そして呂布の三人が、都を離れての賊討伐を行っていたのだが、その間に事を為すことは出来なかったのである。

 

 皮肉にも、王允の、彼の姪である王淩の手により、”それ”はことごとく阻止された。しかも、”その事”を劉弁から言外に臭わされ、王允はその後、政に対して、一切口を出せなくなってしまった。

 

 そんな状況を苦々しく思いながら、再開発が進む街と、活気にあふれた人々を眺めつつ、王允は歯噛みをしていた。

 

 「……このままで済ませてなるものか。……漢の栄光はこのわしの、この王允の手でのみ、真に取り戻せるのだ……。あのような愚帝などではなく、このわしの……」

 

 それは、執念か。それとも……。

 

 暗い意志をその瞳の奥に宿し、王允は静かに、街を見続けた。

 

 

 

 それから半年後。

 

 反董卓連合の戦いから、およそ一年が過ぎた、とある春の日のこと。相も変わらず政務にいそしむ一刀たちの下に、その報せが、突然に、もたらされた。

 

 「……どういうことだよ、これ……」

 

 その手に持った書簡に目を通したまま、一刀は呆然と立ち尽くしていた。

 

 「……どうしたんですか?一刀さん。都から、いったい何を」

 

 その一刀の傍に、徐庶が近づいて問いかける。と、一刀はその書簡を、無言のまま彼女に手渡した。

 

 「……何よ、これ。こんな、こんなの出鱈目に決まってますよ!だって、だって」

 

 その顔を真っ青にし、珍しく狼狽する徐庶。

 

 「カズ、輝里、一体なにがあったっちゅうねん?!」

 

 「長安で、一体何が起きたと?」

 

 「……ロクなことでは、無いでしょうね」

 

 姜維と徐晃が二人に問いかけ、伊籍は二人の様子からそう推測する。そして、黙っていた一刀が、ゆっくりと、その口を開いた。

 

 「…………白亜、が」

 

 『え?』

 

 「……白亜が、王淩さんに、”殺された”……って」

 

 『?!』

 

 

 ”後漢・十三代皇帝、劉弁陛下。側近の、王彦雲の手により、殺害さる。また、禁軍将軍・華雄、および賈文和がそれに共謀。共に、都を脱走した”

 

 

 以上が、その書簡の内容である。

 

 徐庶の手からいつの間にか落ち、自身の足元に来たそれを、司馬懿が拾い上げて目を通す。

 

 「……信憑性の低い、流言飛語、ですね、これは。「瑠里……?」……まさか、信じてないですよね?」

 

 「信じるわけ無いだろ?!こんな……!!あ、ごめん、大声をあげて」

 

 司馬懿の冷静なその問いかけに、一刀は思わず声を荒げる。が、すぐに自分の失態に気づき、彼女にわびた。

 

 「別に構いません。……けど」

 

 「けど?」

 

 「……また、一嵐、来そうですね……」

 

 

 司馬懿のその予感は、それから一月後に、見事に的中した。

 

 

 事の真偽を確かめるために放った、草からの報告を待つ一刀たちの下に、朝廷から、”それ”が届けられた。

 

 ”十四代”皇帝、”劉協”の勅書。

 

 それにより、一刀たちは”ある”決断を、迫られる事となるのである。

 

 

                                  ~続く~

 

 

 

 瑠「第一幕、お届けしました」

 

 輝「・・・瑠里ちゃん、簡潔すぎ」

 

 瑠「長い台詞で言っても、内容は変わりませんから」

 

 由「そらそーかもしらんけど。もちっと情緒っちゅうもんをやね」

 

 瑠「・・・情緒、ですか。・・・よくわかんないです」

 

 

 輝「それはともかく、父さんは?」

 

 由「前回分の反響が相当ショックやったみたいでな。向こうでぶつぶつゆーてるで」

 

 ・・・う~。・・・あれがこうで・・・だから・・・性格は・・・いや、でも・・・。

 

 輝「・・・そっとしておきましょうか」

 

 瑠「ですね。じゃ、今回のお話」

 

 

 輝「思想の違いって難しいですね」

 

 由「せやね。どっちも一応、世の中の安定を願っては、いるんやけど」

 

 瑠「民ありき、か。朝廷ありき、か。・・・ま、普通なら、考えるまでも無いんですが」

 

 輝「思い込みの激しい人って、厄介ですよね」

 

 由「で、それがとうとう暴走したってことやな」

 

 瑠「どうなったんでしょうね、皆さん」

 

 輝「そこらへんは次回のお楽しみにって事で」

 

 由「そーそ。ほな、次回予告と参りますか」

 

 

 瑠「突如、都で起きた政変。白亜さんたちは、一体どうなったのか?」

 

 輝「そして、その都で新たに帝位に就いた、劉協さまからの勅書とは?」

 

 由「うちらの運命は、この先果たして?」

 

 瑠「次回、真説・恋姫演義 北朝伝」

 

 輝「第三章・第二幕にて、お会いいたしましょう」

 

 由「コメント等、いつもどおりに頼むな?誹謗中傷はかんべんやで?」

 

 瑠「それではみなさま」

 

 

 輝・瑠・由『再見~!!』

 

 

 


 
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