No.197284

名家一番! 第七席

第7話です。

ボブカット+メガネ+美女
これこそ至高。

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2011-01-22 22:53:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3071   閲覧ユーザー数:2657

「うわぁ、でっけぇ!! あっ! あそこで売ってるの何?」

 

二人の主である袁紹に謁見するため、猪々子と斗詩に連れられ、南皮の城下町までやってきた。

 

道沿いには多くの店が立ち並び、そしてそれ以上の数の人が行き交っている。

 

陳列されている品から何の店かすぐに分かるものもあれば、生まれて初めて見るような物が売られている店も多い。

 

客を呼びこむ店員の声、顔見知りとする世間話、屋台から聞こえる食器の音など、様々な生活音が溢れかえっている。

 

「はぁ~、すごい人の数だな。この時代でもこんな大きな町があるんだなぁ」

 

袁紹のお膝元ということもあってか、先ほど俺の尋問をした村とは違い、人も建物もひしめき合い、まさに都会といえる賑わいだ。

 

「一刀、あんまりキョロキョロしてっと、お上りさん丸出しでかっこ悪いぞ」

 

視界に入るもの全てに目を奪われていたら、猪々子に注意されてしまった。

 

「ご、ごめん。けど、どれもこれも初めて見るモノばっかりでつい……」

 

さっきまでは、気が動転していたので余裕がなかったが、自分の置かれている立場が理解できると、冷静に周りを見ることもできる。

 

こうやって、人々の日常生活を垣間見ると、自分が本当に異世界に来たのだと、実感できるなぁ。

 

「クスクス……」

 

「んだよ斗詩? 急に笑ったりしたりして」

 

笑い声を漏らした斗詩に猪々子が怪訝そうに尋ねる。

 

「だって、さっき文ちゃんが一刀さんに言ったことって、私達が初めて南皮に来た時に、姫に注意されたことと同じこと言ってたじゃない。

 

だから、おかしくって」

 

猪々子があれこれ質問したり、あたりをチョロチョロと走り回る画は容易に浮かぶけど、斗詩のはイマイチ想像ができない。

 

……いや、そうでもないか。

 

俺が真名のない世界から来た人間と思い、猪々子の剣から俺を守ってくれたりと、斗詩も好奇心が相当強いんだろう。

 

「だってあの時は、どれもこれも初めて見るモノばっかりでつい……」

 

猪々子それ、俺がさっき言ったし。

 

 さて、これから俺は袁紹に謁見するわけだが――、

 

「そういえば袁紹って、どんな人なの?」

 

“姫”って呼ばれているから、やっぱり袁紹も女の子になっているんだろうけど、どんな性格とかある程度知っとかないと、また地雷を踏みかねないからな。

 

「袁紹さまはねぇ、一言でいうと……スゴイ人だね」

 

「うん、あの人はスゴイね」

 

二人とも同じ意見なのだが、どう“スゴイ”のかが全く伝わってこないんですけど。

 

「え~っと……すごく立派な人物ってこと?」

 

「まぁ、立派は立派だよ。なにしろ四代にわたって三公を輩出した、名門袁家の当主様だからね」

 

猪々子が自分のことのように、得意げに答えているが、初めて聞く単語が出てきたな。

 

「“さんこう”って、何?」

 

俺がその質問をすると、途端にうろたえだす猪々子。

 

「うっ!? え、え~っと、斗詩! 一刀に説明してやれ」

 

逃げたなコイツ。

 

「“三公”というのは、漢王朝が定めた官制において、最高位に位置する司徒・司空・太尉の三つの官職のいずれかに就いている大臣のことを指します。

 

袁家は、四代にわたって三公を輩出した一族なので、四世三公なんて言われたりもする名門中の名門なのです」

 

「「へぇ~」」

あれ? 今、俺と一緒に猪々子も感嘆した声を出してなかった?

 

「なるほどねぇ。三公のことはよく分かったんだけど……斗詩?」

 

「はい?」

 

「なんでメガネかけてんの?」

 

斗詩はいつのまにか、インテリメガネをかけていた。てか、この時代にメガネとかあったの?

 

「説明するなら、こっちの方が雰囲気でるかな? と思って、かけてみたんですけど……似合ってなかったですかね?」

 

そう言い、斗詩は指先でメガネの縁を軽く上げた。

 

「いや、似合ってはいるけどね……」

 

どっから取り出したとか、説明するたびにメガネかけるのとか、色々ツッコミたかったが……、

 

まぁ、いいか。可愛いは正義っていう格言もあるし。

 

 斗詩の説明から袁紹を現代風に置き換えるとすれば、高級官僚を代々輩出してきたエリート家系の御令嬢ってことか?

 

……う~ん、会うの不安になってきたなぁ。

 

「そんな身分の高い人に俺なんかが、いきなり会いに行ってもいいの?」

 

自慢じゃないが、俺は学校の先生と話すだけでも緊張してしまうんだよ?

 

「事前に謁見を願い出たい、という書簡は出しておきましたから、大丈夫ですよ」

 

「え? 書簡なんていつの間に出してたの?」

 

「一刀さんを尋問したあの村で、私達が出発するよりも前に早馬を出しましたから、もう袁紹さまの元に届いているはずです」

 

そういえば、斗詩が店の奥に入って何かしていたようだけど、アレは袁紹宛ての書簡を書いていたのか。

 

「けど、事前に願い出たからって、そんな簡単に謁見できるもんなの?」

 

「まぁ、普通なら一月ほど待ってもらわないといけないんですけど、私達二人の推薦ということなら、すぐにできますよ。

 

私と猪々子はこれでも、袁紹軍の全権を任せてもらっている身分ですから」

 

「そうそう。文醜と顔良っていえば、“袁家の二枚看板”で、結構有名なんだからっ!

 

一刀は何も心配せずに、泥舟に乗った気でいればいいんだぞ」

 

「文ちゃん、乗る船間違えてない?」

 

二人の漫才を見ていると忘れそうになるが、やっぱり“あの”文醜と顔良なんだなぁ……。

 

「お! 見えてきたな」

 

猪々子が指差した前方には、巨大な塀が延々と横に広がっていた。

 

町に入るときも大きな塀と門をくぐってきたが、この町はどうやら内と外の二重の塀で守りを固めているようだ。

 

この向こう側に袁紹がいるわけか……緊張してきたし、すでに疲れた。

 

ここに来るまで町の人達に、何度呼び止められたことか……。

 

猪々子と斗詩がそれだけ町の人達に慕われている、ってことの証なんだろうけど、みんな話が長いんだもんな。

 

さて、それはさておき――、

 

「袁紹の城って、どの辺りにあるの?」

 

「どの辺りって……目の前にあるじゃん」

 

は?

 

「まさか!? この塀の向こう側全部が、袁紹の城ってこと!?」

 

「そぉだよ」

 

ま、マジかよ……塀の端が見えないくらい広いんですけど? これが、名門袁家コンツェルンの財力ってわけ?

 

「なに? 一刀ビビってんの?」

 

俺の表情の変化を目聡く感じ取った猪々子が、挑発するかのようにニヤついてやがる。

 

「べ、別にビビってねぇーし」

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。謁見には私達も立ち会いますから」

 

「“決して”ビビってはいないが、そうしてくれると非常に助かるよ」

 

「それをビビってるって――」

「さぁ、行こうか! 待たせたら悪いもんなっ!」

 

猪々子がまだ何か言いかけたが、無視して歩を進めた。

 

 門をくぐると、さっき通ってきた町並みとまるで別世界だった。

 

まず、静かだ。町ではあれほど溢れかえっていた生活音が、一切聞こえない。聞こえてくるのは足音ぐらい。

 

すれ違う人も皆、汚れも味気もない似たような服を纏い、猪々子と斗詩に気付くと二言三言、事務的なあいさつを交わすだけ。

 

(市役所や図書館でも、もう少し暖かみがあったような気がするな)

 

塀を隔てた世界がまるで違うことに戸惑いながらしばらく進むと、広く長い階段の前で二人は立ち止まった。

 

汚れが一切見られない程に磨きこまれた階段にも驚いたが、階段の先を目で辿っていくと、さらに仰天した。

 

階段の頂上には、今まで見てきた中でもひときわ大きく立派な建物があった。その荘厳な佇まいは見るものを圧倒する。

 

「ひょっとしてここに……?」

 

「はい。ここの本殿に袁紹さまはおられます……多分」

 

「多分?」

 

「う~ん、私が出した書簡をちゃんと読んでくれているなら、ここの本殿で待ってくれているはずなんですけど……」

 

「自由奔放な人だからなぁ。仕事放り出して、どこかに出掛けてるかもなぁ」

 

「文ちゃんがそれを言う?」

 

「なにぉう!? アタイは姫みたいにお気楽極楽な思考回路じゃないぞ」

 

自由奔放、お気楽極楽な思考回路……なんかイメージしていた人物像と違うな。

 

名門一族のお姫様って聞いてたから、もっとお堅いキャラを想像してたんだけど……。

 

そういうことなら、こんなに身構えなくても大丈夫かな?

 

二人の後ろに付き従い、長い階段を上ると、華美な装飾が施された重厚な扉と、その扉を守護する屈強な兵士が二人立っていた。

 

「文醜将軍・顔良将軍、警邏の任務お疲れ様でした! 袁紹様が中でお待ちです!」

 

兵士達は猪々子と斗詩に向かって拝礼すると、扉の横に下がった。

 

「よかった。ちゃんと待ってくれているみたい」

 

斗詩は兵士達に向かって軽く頷くと、息を少し吸い、

 

「顔良・文醜の両名、ただいま任務より帰還しました!」

 

胆にまで響く声量で扉に向かって叫んだ。

 

斗詩の叫び声に呼応するように、扉がゆっくりと開いていく間、俺は背筋を伸ばし、服装を正した。

 

(いよいよ袁紹姫とのご対面か……しっかし、ここに来るまでの短い間だけでも色んな事があったよな)

 

タイムスリップして、賊に殺されそうになったり、三国志の武将が女の子に変わっていたりと、こっちの世界に来てから驚かされてばかりだった。

 

しかし、袁本初という人物に出会ったことに比べれば、それまでの出来事なんて、取るに足らぬ小事だということを、俺はこの後すぐに痛感することになる……。

 

あとがき。

 

第7話いかがだったでしょうか?

あの人が登場すると思い期待してくださった方、申し訳ありません。

どうしてもここで、話を区切りたかったのです。理由は次回を読んでもらえば分かると思います。

 

あと、斗詩にメガネをかけさせたのは完全に私の趣味です、ハイ。

なじるならなじってくださって、大いに結構! しかし私は間違ったことはしていないっ!

……終始かけさせるわけじゃないから大丈夫ですよね? ね!?

 

さて、次回いよいよ“名前を呼んではいけない例のあの人”が登場します。

なるべく“あの人”らしさを出せるよう頑張りますので、よければ次回も見てやってください。

 

ここまで読んで頂き、多謝^^


 
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