第四話 地獄の姉妹
「・・・くそっ!!何故だ!!何故私はここまで影が薄いんだ!!」
北郷一刀と武将達が暮らす屋敷の一室で、華雄は一人、部屋の中で悶々としていた。
理由は彼女の存在感の無さ、である。
元北郷軍では面識の有るのは一騎打ちをした関羽位な上、魏、呉においては彼女を知っている人物など皆無に等しいのだ。
ならば董卓軍ならば知っている人物も居るだろう、と、思いきや・・・・。
「なんでいつも私が居ることを忘れるんだアアアアアア!!!」
そう、彼女達もしばしば、華雄の存在を忘れることがあるのだ。
ショッピングや食べ歩きに一緒に連れて行ってもらえないのはいつもの事で、時々「あれ?華雄いたんだ」「ごめん、忘れてた」等と忘れられ、酷いときには
「・・・誰?」
「あんた誰やねん」
「あの・・・どちら様でしょう?」
「なによあんた、僕達に何か用なの?」
・・・と、言われてしまうこともある。
「うう・・・しかもこの世界の歴史では私はかませ・・・。・・・最悪だ・・・・」
「・・・最悪?上等じゃねえか・・・」
「!?っだ、誰だ!?」
華雄が後ろを振り向くと、そこには、何者か人が立っていた。
「・・・どうせ私達は堕ちこぼれ、堕ちるところまで堕ちるしかねえんだよ・・・」
「なっ!?お、お前は・・・・」
「・・・華雄、私の妹になれ・・・」
「一刀、ごめんなさい、私の我侭に付き合ってもらっちゃって」
「いいよ、俺も蓮華達と買い物できて楽しいから」
その日、一刀は蓮華達と商店街でショッピングを楽しんでいた。
先程は本屋でノートや勉強用の参考書を買っていた。
ちなみに同行していた穏があまりの本の多さに狂喜して発情しかけたのは別の話。
欲しかった本を見つけられてご機嫌な様子の穏だが、そんな穏とは対照的に、不機嫌そうな顔をしているのは思春である。
「・・・なあ思春、いい加減機嫌直せよ」
「直せるか!くそ・・・、あの漫画め・・・。このような侮辱は初めてだ・・・」
彼女が怒り狂っている理由は、ある一冊の漫画であった。
その漫画の題名は『一騎当千』。
ご存知の方も居るだろうが、三国志の武将が全員女性になっていることが特徴の漫画であり、呉の小覇王こと、孫策が主人公である。
一刀から話を聞いた思春は興味を抱いてその漫画の立ち読みをした
・・・のだが・・・。
「なぜ私があのような狂った男になっているのだああああああ!!!」
「ちょ、ちょっと思春、落ち着いて!!」
「そ、そうよ!あまりこんな所で大声を出さないで!」
「そ~だよ!!思春なんて漫画に書かれてただけまだマシだよ!!私とお姉様なんか登場すらしていないんだから!!」
「あんなふうに書かれるのならむしろ書かれないほうがマシです!!」
一刀と蓮華と小蓮は、怒り狂う思春を必死で抑えているが、思春の怒りは全然治まりそうに無い。
そう、知っている人も居るだろうが、一騎当千での甘寧は主人公である孫策の敵として登場するのだ。それだけならまだしも、そのキャラははっきり言えばどこかイッちゃってる男であり、思春から見れば、かなり我慢のならないものであった。
ちなみにこの漫画を読んだ鈴々と季衣は、自分達をモデルにしたキャラが巨乳であったため、かなり喜んでいる。逆に思春と同じく激怒したのは黄忠こと紫苑である。その理由は、他の五虎将軍の同僚が美少女なのに対して、なぜか黄忠だけむさいおっさんだった為である。そりゃ怒るかもしれない。
「おのれ・・・このやり場の無い怒り、どうすれば・・・」
「まあまあ、とりあえずあの喫茶店で・・・「ふざけてんじゃねえぞコラ!!」・・・何だ?」
突然聞こえた怒声に一刀達が振り向くと、そこには、いかにもヤクザなお兄さん達に囲まれた一人の少女が震えていた。
「てめえがぶつかったせいで俺の肩の骨が折れたじゃねえか!!どう落とし前つけてくれんだコラ!!」
「で、でも、全然元気そうですし・・・」
「うるせえ!!とにかくてめえには慰謝料払ってもらうからな!!手始めに50万ほど貰おうか!!」
「そ、そんな!そんなお金持ってません!!」
「ならてめえの体で払ってもらおうか!!ああ!?」
・・・どうやら少女はこのヤクザ共にぶつかったせいで因縁をつけられたらしい。
「・・・どうするよ、皆」
「決まってるじゃない、あの子を助けましょう」
「それいーね!あいつらボコボコにしちゃおう♪」
「くくくくく、今回の鬱憤、ここで晴らさして貰おう・・・」
「思春ちゃ~ん・・・ちょっと怖いですよ~」
と、一刀達は少女を助けようとヤクザ共に近づいた。
が、その時
ガリガリガリガリガリッ!!
と、なにかで地面を擦る音が聞こえた。
一刀達は突然聞こえたその音に驚いて、その音が聞こえた方向に目を向けた。
そこには、黒いコートを纏った赤い髪の女性が、西部劇に出てくるカウボーイがはくような踵に金属製の小さな車輪がついたブーツを地面に擦り付けていた。
その女性は、やがてゆっくりと立ち上がり、ヤクザ共と少女に顔を向けた。
「なっ!?」
「あ、あなたは!?」
「ええ!?」
「な、なんだと・・・?」
「ほえ~~!?」
その顔を見た一刀達は驚愕の叫びを上げた。
なぜならその女性は彼らが知っている人物だったからである
その女性の正体は公孫賛、白蓮であった。
しかし、その表情、容姿共にいつもの彼女とは全く異なっていた。
まず着ている服は、いつもの聖フランチェスカの制服ではなく、白い薄汚れたシャツの上に黒いコートを羽織り、足にはブーツとジーンズを履いている。
そして彼女の表情は、いつものような明るい表情ではなく、どこまでも暗い、まるで凄まじい絶望を味わったかのような表情であった。
「な、何だてめえは!?」
自分達に近づいてくる白蓮を警戒したのかヤクザ達は警戒する。しかし白蓮はそんなことには構いもせず、ただヤクザ達に近づいていく。
「こ、このアマアアアアアア!!」
ついに耐え切れなくなったヤクザのうちの一人が白蓮に飛び掛る・・・が、
「・・・・もう、白馬も義従もないんだよ・・・・」
一瞬で白蓮に蹴り飛ばされて、あげく足で踏みつけられた。
「・・・どうせ私なんて・・・・」
白蓮はそう呟きながら、ヤクザ達に再び目を向ける。足元には、白蓮に蹴られた挙句に踏みつけられて悶絶したヤクザの構成員が転がっていた。
「ひっ・・・!」
その表情の凄まじさに怖気づいたのか、ヤクザ達の中から、そんな悲鳴がこぼれる。
・・・と、突如、白蓮の目の色が変わった。
「・・・今、誰か私を笑ったか・・・?」
白蓮はそう呟きながらヤクザの一人を蹴りつける。
「・・・お前か?」
後ろからナイフで襲い掛かってきたヤクザの側頭部に回し蹴りを叩き込む。
「・・・お前か?」
やがてヤクザ達は次々と倒されていき、最後に残ったのは、ヤクザ達のリーダーたった一人だけだった。
「ま、待ってくれ!!お、俺が悪かった、悪かったから・・・」
「・・・お前も私の事を馬鹿にしてるんだろ?・・・笑えよ。大きな声で笑えよ」
「もうやらないから、だから許して・・・」
ゴシャア!!
ヤクザ達のリーダーは、股間に蹴りを叩き込まれて、悶絶した挙句、側頭部に回し蹴りを叩き込まれて、気絶した。
白蓮は周りで気絶しているヤクザ達を黙って見回していたが、すぐに興味を失ったのか、さっさとどこかに立ち去ってしまった。
「・・・ねえ、一刀、あれって・・・」
「ああ・・・間違いなく白蓮だよな・・・」
「で、でもなんか人格変貌してない?」
「確かに、完全にやさぐれてしまってますね・・・」
「あんな人、どこかで見たような~・・・」
一刀達は暫く呆然としていた。ちなみに思春だが、どうやら例の怒りは先程のサプライズで吹き飛んでしまったらしい。
「・・・とりあえず、追いかけるか」
「そうね・・・「あ、あの~・・・」・・・へ?あら?あなたは・・・」
突然後ろから声をかけられたので一刀達が振り向くと、そこにはさっきまでヤクザに絡まれていた女子生徒が立っていた。そして、その少女の顔を、よく見ると・・・。
「なっ、無刀おおおおおおお!?」
そう、その女子生徒は一刀のいとこである北郷無刀(性別、男)であった。が、今の彼は聖フランチェスカの女子用の制服を着ており、どこからどう見ても少女、それもとびきりの美少女にしか見えなかった。
「あはは~、一刀、相変わらずモテモテだね~♪」
「悪かったな、それよりお前、なんでそんな女装してるんだよ?まさかお前、女装癖とかあるんじゃ・・・」
「ち、違うよおおおお!!!僕は嫌だっていったんだけど、バイトの常連の女の子達が・・・」
無刀曰く、いつも執事喫茶で自分を指名してくる常連の女子生徒(やっぱりというべきかうちの学校の生徒だ)の要望等で、女子の制服を着て、一緒に買い物に行くことになり、その途中で彼女達とはぐれ、今に至るという。
一刀達は黙って無刀の話を聞いていた。
「なるほど、まあお前も哀れだな・・・」
「うう・・・でもすごい可愛いわ・・・。私なんか霞んでしまうくらい・・・」
「う~、シャオ、女としての自信が無くなっちゃう~・・・」
「・・・全然嬉しくないよ~二人共~」
無刀は蓮華と小蓮のどこかうらやましそうな言葉に引きつった笑みを浮かべた。
「ああそうだ、一刀、僕はそろそろ僕と一緒に居た子達を探しに行かないといけないから、白蓮さんに無刀がありがとうって言ってたって伝えておいて」
「ん?ああ、分かったよ」
「でも今日の白蓮さん、なんか変だったね~。まるで仮面ライダーカブトの矢車さんみたいだったね~」
無刀の言葉を聞いた一刀達は苦笑した。
確かにさっきの白蓮は、まるで仮面ライダーキックホッパーこと矢車想みたいな口調と風体だった。
「ひょっとしたら白蓮、実は矢車のファンだった、とか?」
一刀達はそう考えた。よくよく思い出してみると、白蓮は時々TUTAYAで何かDVDを借りていた。それを観て矢車のファンになって矢車みたいになってしまったとか?
「・・・とりあえず本人に聞いてみるか」
そう考えた一刀は、蓮華達と共に、白蓮を探し始めた。
白蓮はあっさり見つかった。
セブンイレブンの駐車場に座りながらカップ麺を食べていたのである。
「お~い!白蓮~!」
一刀が白蓮に声をかけると、白蓮は顔を上げてこっちに向かってくる一刀達を見つめた。
「・・・北郷」
「さっきはありがとうな。無刀の事を助けてくれて。あいつもありがとうって言ってたぜ」
一刀は明るい口調で白蓮にそう言うが、白蓮は相変わらず暗い表情で黙って一刀達を見つめていた。
「・・・いいよなあ、お前達は」
「は?」
「北郷は人から好かれて、孫権も孫尚香も甘寧も陸遜もそれぞれ個性や特技があって・・・。・・・私なんてどこまで行っても普通、凡人にしかならねえ・・・。しかもいつもいつも貧乏くじを引かされて、袁紹の奴に殺されて、生き返っても袁紹の奴にこき使われる・・・。勝ち組のお前たちには分かんねえよな、この気持ち・・・」
「あ~・・・」
「それは・・・」
「なんて言ったらいいか・・・」
「・・・・・」
「あはははは・・・・・」
あまりにも暗い白蓮の独白に一刀達は若干引いていた。そして白蓮の独白は続く。
「そして私は堕ちたのさ・・・、暗い暗い闇の中へ・・・。もう何も失うものはないからな・・・。堕ちた最初の日に袁紹をボコボコにしてやったよ・・・。あの痣だらけの腫れ上がった顔・・・、三公を輩出した名門が、ざまあねえな・・・」
(そういやあ袁紹、この所ずっと休みっぱなしだったな・・・。顔良と文醜に聞いても苦笑いするだけだったし・・・)
一刀がそんなことを思い出していると、白蓮は一刀達ににやりと笑みを浮かべた。
「もう私達は、闇に身をまかせた闇の住人・・・、ただ・・・どこまでも堕ちていくだけなのさ・・・、誰にも知られないまま・・・」
一刀達は黙ったまま白蓮の独白を聞いていた。
確かに自分たちは白蓮の事を忘れがちだった。
そこについては言い訳するつもりはない。
さらに一刀には彼女を救えなかったという自責の念も存在する。
だから彼女が間違っている等と言う資格はない、そう考えている。
「でも俺は、いつも明るく笑っている白蓮が好きだったよ」
それでも一刀は偽りのない本心を口にする。それに対して白蓮は皮肉げな笑みを浮かべた。
「・・・悪く思うな。あの頃にはもう・・・、戻れねえよ、私達は・・・」
そこで一刀は白蓮の言った言葉にはっとした。
「・・・なあ白蓮」
「・・・ああ?」
「今、私達って言わなかったか?」
「・・・言ったけど?」
「ってことは、誰かもう一人仲間がいるのか・・・「待たせたな、姉貴」・・・!?こ、この声は確か・・・」
一刀達が突然聞こえた声に振り向くと・・・。
「「「「「か、華雄ううううううう!?」」」」」
「・・・なんだ、お前達か・・・。姉貴、頼まれてたものだ・・・」
「ああ・・・お前はやっぱり最高だぜ・・・相棒・・・」
その後
「ご主人様!!また、またあの二人が!!」
「また白蓮達か!!今度は一体なんだ!!」
「は!何でも暴力団事務所を壊滅させたとか・・・」
「一刀!!またあいつらが・・・」
「またかよ!!今度は!?」
「春蘭と秋蘭の二人と乱闘をしているわよ!!」
「まじかよ・・・」
白蓮と華雄はあちこちで騒ぎを起こし、彼女達を知らない人間からは、地獄姉妹と呼ばれるようになったという。
結果、彼女達の影の薄いという悩みも解消されたのだが、それは別の話。
あとがき
ようやく投稿完了しました新年特別企画第四弾です。
いい加減普通の連載にしたほうがいいかな・・・、これ。
まあそれはそれとして、今回の話は公孫賛と華雄が主役です!
元ネタは作中にあるとおり地獄兄弟からです!
仮面ライダーキャラと恋姫キャラのクロスって意外といけると思うんですよね・・・。
では今回はこれにて。どうかコメント、どしどし書いてください!!私としては励みになりますので!
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どうも皆さん、もう新年過ぎましたけど第四話投稿完了しました。
今回は公孫賛と華雄が主役です。
二人が・・・してしまいます。
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