No.191618

そらのおとしものf エンジェロイドの誕生日 クリスマス・イヴ編

 そらのおとしものfの二次創作作品です。
 『ヤンデレ・クイーン降臨』『逆襲のアストレア』とは平行世界のクリスマス用作品です。
 クリスマス・イヴ編とクリスマス編から成り立ちます。

 なお、この作品の主要構成分はコピー&ペーストです。

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2010-12-25 03:49:43 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6018   閲覧ユーザー数:5664

総文字数17,000字 原稿用紙表記56枚

 

 

エンジェロイドの誕生日 クリスマス・イヴ編

 

 

 エンジェロイドに誕生日はない。

 私たちはシナプスで作られた製品だから。

 もしかすると私たちを作ったダイダロスなら製造年月日を知っているかもしれない。

 けれど、それも期待薄。

 何故なら年を取らない私たちが作られたのは気の遠くなるような昔の話。

 人間界の暦が作られる遥か以前のこと。

 それにシナプスの住民たちの寿命は人間に比べてあまりにも長い。

 年齢とか誕生日とか考えるのがバカらしくなるほど長い間生きている。

 そんな状況なのでシナプスには誕生日や年齢という概念がそもそも存在しない。

 だから私にも誕生日なんてなかった。

 アルファもそう。

 誕生日なんてないのが当たり前だった。

 そんな私たちに誕生日をくれたのは智樹たちだった。

 そはらが提案し、智樹や美香子、守形が賛成して私たちの誕生日ができた。

 12月25日。

 智樹たちがクリスマスと呼ぶその日が私とアルファの誕生日になった。

 

 

「智樹ったら、朝っぱらからどこに行っちゃったのよ? 退屈じゃないのよ。もぉ」

 12月24日。

 世間ではクリスマス・イヴと呼ぶらしい今日、私は暇を持て余していた。

 冬休みは退屈で嫌い。

 智樹が構ってくれない。

 一昨日に終業式が終わってから智樹はすぐにどこかへ出掛けてしまった。

 家には寝に戻って来るだけ。

 今朝も6時過ぎにはもう出掛けてしまった。普段は6時に起きた試しもないのに。

 そんな感じなので私やアルファにはちっとも構ってくれない。

 だからテレビでも見て過ごそうと思うのだけど、この時期はクリスマス特集やら年末特番やらで番組がいつもと異なっている。

 私の大好きな昼ドラは真っ先に潰されていた。

 だから私は暇を持て余すしかなかった。

 

「……ニンフ、お茶が入ったわよ」

 午前9時。

 智樹に朝ごはんを食べてもらえず落ち込んでいたアルファが居間に入って来た。

「あっ、ありがとう」

 別にお茶を飲みたい気分じゃなかった。けど、アルファの沈んだ表情を見ていると断るのも悪い気がした。

 アルファから湯飲みを受け取る。

「……シュン」

 アルファは喜怒哀楽が乏しいだけに、こうしてまざまざと哀の表情を見せ付けられると居心地が悪くて堪らない。

 何か気分転換になりそうな話題はないかと周囲を探してみる。

 すると、テレビ画面の中にデコレートされたもみの木が映っているのが見えた。

「ねえ、アルファ?」

「……何?」

 いかにも意気のない返事をされると私の方が凹んでしまいそうになる。でも、ここで挫けないで話を続ける。

「アルファはクリスマスって何だか知っている?」

「……知らない」

 会話が途切れてしまった。

 だけど、それでもめげずに会話を続ける。

「えっと、前のクリスマスの時は智樹たちがパーティーしようと言ってたわよね。クリスマスってパーティーをする日のことなのかな?」

「……前のクリスマスは、ハーピーの襲来で、結局パーティーできなかったから、よく知らない」

「うっ」

 私が原因で起きた騒動のことを指摘されて言葉に詰まる。

 今日のアルファ、何か容赦ない。

 智樹に相手にされないことがよっぽど心をやさぐれさせているのかもしれない。

 今のアルファは刺激しない方が良いかもしれない。

 仕方なくコミュニケーションは諦め、大人しくお茶を飲むことにする。

「……あっ、そうだ」

 するとアルファが思い出したように呟いた。

「……マスターの、DVDの中に、クリスマス、という文字が入った作品が、ありました」

 アルファはテレビの裏をゴソゴソと漁って1枚のDVDケースを取り出した。

「『クリスマス 性夜の贈り物<R-18>』? どんな内容なの?」

「……さぁ? マスターは、見ちゃ駄目って、言ってましたから、見たこと、ない」

 それを聞いて好奇心が疼いた。

「じゃあ、どんな内容か確かめてみようよ」

 アルファの手からすぐさまDVDを奪う。

「……でも、マスタがー……」

 アルファは口では注意している。でも、私の手を持ちグイグイとDVDデッキに押し付けて来る。この行動はつまり、アルファも本当は見たいということ。

「中身が気になるのなら見ればいいじゃない」

「……でも、きっと、見たら、マスターが、怒る」

「それが私の指ごとDVDを機械に入れようとしているエンジェロイドの言うセリフなの?」

 アルファは智樹の言いつけを破れない。

 でも、DVDは見たい。だから智樹がマスターでない私を使って見ようとしている。

「はぁ~。あんたも難儀な性格をしているわね」

 抵抗するのを諦めて、素直にDVDをセットする。

「それじゃあ、再生するわよ」

 申し訳なさそうな、それでいて珍しく好奇心に満ちた瞳をしているアルファを横に私は再生ボタンを押した。

 

 

 

「なっ、何なのよ! あのDVDわぁっ!」

 3時間後、正座しながらわき目も振らずに製作陣の名前を全員覚えてしまうほど集中して3度連続で視聴し終えたDVDを片手に私は憤っていた。

 詳しくは言いたくないけれど、一言で言えばとてもエッチな作品だった。

 私の全く知らない世界がそこには広がっていた。人間の男と女があんなことをするなんて……。こんな物を持っているなんて、智樹ってばやっぱり最っ低っ!

「智樹ってば、普段からあんなことをしようと考えていたのねっ!」

 智樹はとてもエッチだ。

 暇さえあれば女子更衣室や女湯を覗く計画を立て、実行している。

 女の子の裸を見るのが目的だと思っていたけれど、その先に更に破廉恥な野心を隠し持っていたなんて。

 あれ、でも、それだと……?

「私たちって、エンジェロイドだけど女の子よね?」

「……そう。だと思う」

 アルファが無表情のまま頬を赤く染めた。

「智樹はDVDにあるようなことを実際にしたいと思っているのかしら?」

「……そう。だと思う」

 アルファが無表情のままおでこまで赤く染めた。

「じゃあ、智樹はあのDVDにあるような内容を私たちにしたいと思っているのかしら?」

「……そう。だと思う」

 アルファが無表情のまま耳も首も真っ赤に染めた。瞳は紅に染まって瞳孔は開き、翼は本来の大きさに戻り、頭の上には輪っかまで出現している。

「ああっ、もうっ! 智樹ってば本当に最低ぇ~っ!」

 気が付くと大声で叫んでいた。

 だって、もし、智樹が女の子である私にあんなことを望んでいるのだとしたら……。

 

『智樹にクリスマスプレゼントがあるの♪(顔ピカピカ度30%UP)』

『何だい? 俺の可愛いニンフ。キラキラキラ☆☆(身長2割増し、美形50%増量)』

『プレゼントは……私なの♪(裸にリボン、Eカップ増量中)』

『こんな嬉しいプレゼントは生まれて初めてさ。ありがとう、ニンフ。キラ☆☆(裸王)』

『うん、智樹……愛してる……(ベーゼ)』

『俺も愛しているよ、ニンフ……(ぶっちゅぅ~)』

 

 そして2人は……という展開を望んでいるに違いない。最低っ、最低っ、本当最低っ!

「…………ニンフ、顔、にやけきっている」

 アルファの声に我に返る。

 何故かはわからないけれど、このままの流れを続けると、何かとても面倒なルートに進んでしまう気がする。

 呼んではいけない厄災をこの世に降臨させてしまう様なそんな予感が。

 それに私は自分で言うのもなんだけど潔癖症なので破廉恥な話題は好きじゃない。

 ここはあのDVDの中からクリスマスに関する情報だけを抜き出すことにする。

「つまりクリスマスというのは女の子が男の子にプレゼントをあげる日のことなのよ!」

 作品中、主人公の女の人は裸の状態で自分の体に赤いリボンを巻きつけて、男に自分をプレゼントと言っていた。

 テレビのクリスマス特番では裸にリボンという言葉は出てこないけれど、プレゼントという単語は度々登場している。

 つまりこれは、クリスマスがプレゼントを相手に贈る日、特に女の子が好きな男の子にプレゼントを贈る日であることを指していると思って間違いない筈。

「……でも、私、マスターに、プレゼントを、買う、お金、ない」

 アルファがまた落ち込んだ。

「お小遣い、またスイカに使い果たしちゃったの?」

 アルファはコクンと首を縦に振った。

 アルファはマスターである智樹のこと以外は無頓着なのだけど、例外的にスイカだけは強い執着を見せている。

 夏ごろから貰うようになったお小遣いは全てスイカに費やしている。今みたいにスイカが売っていない季節には暖かい国にまで飛んでいって買って来る執着ぶり。

 今月のお小遣いも、今アルファが撫でているスイカに変わってしまったようだった。

「バッカねえ。いざという時に備えておくのは基本で……って、私も一昨日、貯めていた分のお金を新発売のお菓子に使っちゃったわよぉっ!」

 ガックリと膝をつく。

 2度の物入りに対応できるほどニンフ銀行は堅調じゃなかった。

「はぁ。智樹へのプレゼントはお金の掛からないものにするしかないわね」

「……うん」

 恋のライバルであるそはらが豪華なプレゼントを準備していたらどうしようと心配にはなる。けれど、ないものはないのだから仕方ない。

「…………いざとなったら、赤いリボン、だけあれば、十分。ポッ」

「何か言った?」

「……ううん、何も」

 プレゼントに関しては、明日までに何か考えておかないいけない。お金がない分、頭を使わなくちゃ。でも、その前に……

「アルファ、お腹空いたわ。お昼ごはんにして」

 腹が減っては戦ができぬというし、良いアイディアも浮かばない。

「……うん、わかった」

 台所に向けて出て行くアルファを見ながら、今頃智樹は何をしているのかなと窓の外を見ながらちょっとだけ考えた。

 

 

 

「クリスマス・イヴって何でこんなに退屈なのよぉ? つまんな~い!」

 クリスマス・イヴのテレビはとてもつまらない。

 私の大好きなドロドロした愛憎劇がちっともやってない。

 裏切ったり裏切られたり、刺したり刺されたり、禁断とか背徳とかそんな文字が付くドラマがちっともやってない。

 やたら格好良い男とやたら綺麗な女が出てきて、ちょっとコミカルで所々シリアスで、でも最後は綺麗に結ばれて。そんなドラマばかり流れている。私の趣味じゃない、そんなドラマばかり。

「退屈で死んじゃいそうよぉ~」

 ちょっとお行儀悪いけれど、畳の上に寝転がる。

 時計を見ればまだ2時になるかならないか。

「シナプスにいた時は、何百年という単位も一瞬だったのに。私、変わったのかな……」

 空中に浮かぶシナプスは文字通り、地上とは別世界を形成している。

 時間の流れ方に関してもそう。

 シナプスはほとんど時が止まった場所。何百年、何千年経っても何も変わらない。

 私がシナプスにいて時の流れを唯一感じたのは、元マスターに呼び出されて虐げられていた時だけ。

 踏み付けられ、蹴られ、なじられ、廃棄処分にすると脅かされ。

 あの時だけは唯一1分、1秒という単位を実感することができた。

 そんな私の現在の環境は当時と比べて大きく変わった。

 何もない1日がとても苦痛に思えるほどに充実した時間を過ごしている。

 そして環境の変化と共に私の心も大きく変わったと思う。

 全ては智樹やアルファたちのおかげ。

 意地っ張りで理屈屋な私1人だけじゃ変わることなんてできなかったと思う。

 今はその智樹のせいでとっても困っているのだけれども。

「……ニンフ、お茶が入ったわよ」

 午後2時。

 智樹に昼ごはんを食べてもらえず落ち込んでいたアルファが居間に入って来た。

「毎回悪いわね」

 別にお茶を飲みたい気分じゃない。けど、アルファの沈んだ表情を見ていると断れない。

「……シュン」

 智樹分が不足しているアルファは一昨日からずっと元気がない。

 そして落ち込む度にお茶を持って来て私に構ってサインを出して来る。けど、私が話題を振っても会話には乗って来ないので扱いに困る。

 とはいえ、人生もうおしまいです的な表情をしたアルファが隣にいると私の動力炉の健康に良くない。

 今回もまた適当に話を振ってみる。

「明日は私たちの誕生日だけど、アルファは誕生日って何をするか知ってる?」

「……知らない」

 また、会話が途切れてしまった。

 だけど、それでもめげずに会話を続ける。

「えっと、前の誕生日の時は智樹たちがパーティーしようと言ってたわよね。誕生日ってパーティーをするのが人間界の風習なのかな?」

「……前の誕生日は、ハーピーの襲来で、結局パーティーできなかったから、よく知らない」

「うっ」

 私が原因で起きた騒動のことを指摘されてまた言葉に詰まる。

 今日のアルファ、やっぱり容赦ない。

「……あっ、そうだ」

 するとアルファが思い出したように呟いた。

「……マスターの、DVDの中に、誕生日、という文字が入った作品が、ありました」

 アルファはテレビの裏をゴソゴソと漁って1枚のDVDケースを取り出した。

「『誕生日 お兄ちゃん、私もう子供じゃないよ<R-18>』? どんな内容なの?」

「……さぁ? マスターは、見ちゃ駄目って、言ってましたから、見たこと、ない」

 気のせいか午前中のやり取りと何も変わらない気がする。でも、好奇心が疼いた。

「じゃあ、どんな内容か確かめてみようよ」

 アルファの手からすぐさまDVDを奪う。

「……でも、マスタがー……」

 アルファは口では注意している。でも、アルファは私の手からDVDを奪い返し、自分の手でさっさとDVDをデッキの中に入れてしまった。この行動はつまり、アルファも本当は見たいということ。

「ねえ、今、アルファが自分でセットしたわよね?」

「……でも、きっと、見たら、マスターが、怒る」

「言動が全然一致してないわよね?」

 アルファはいつもの様に無表情に戻って黙ってしまった。白を切るつもりらしい。

「はぁ~。あんたも本当に難儀な性格をしているわね」

 抗議するのを諦める。

「それじゃあ、再生するわよ」

 既に瞳を輝かせながら正座して待つアルファを横に私は再生ボタンを押した。

 

 

 

「なっ、何なのよ! あのDVDわぁっ!」

 4時間半後、正座しながらわき目も振らずに製作陣の名前を全員覚えて、作中の台詞を全部暗記してしまうほど集中して3度連続で視聴し終えたDVDを片手に私は憤っていた。

 詳しくは言いたくないけれど、一言で言えばとてもエッチな作品だった。

 私のあまり知らない世界がそこには広がっていた。人間の男と女があんなことをするなんて……。こんな物を持っているなんて、智樹ってばやっぱり最っ低っ!

「智樹ってば、誕生日の女の子にあんなことをしようと考えていたのねっ!」

 智樹はとてもとてもエッチだ。

 暇さえあれば女の子の部屋やプールを覗く計画を立て、実行している。

 女の子の裸を見るのが目的だと思っていたけれど、その先に更に破廉恥な野心を隠し持っていたなんて。

あれ、でも、それだと……?

「私たちって、明日誕生日の女の子よね?」

「……うん」

 アルファが無表情のままアルテミスを周囲に散会させている。

「智樹はDVDにあるようなことを実際にしたいと思っているのかしら?」

「……うん」

 アルファが無表情のままアルテミスで智樹の秘蔵エロ本を攻撃し始めた。

「じゃあ、智樹はあのDVDにあるような内容を私たちにしたいと思っているのかしら?」

「……うん」

 アルファは無表情のまま、智樹ムフフグッズを次々と攻撃している。智樹を悲しませることになるアルファらしくない行動。ちょっと暴走しているのかもしれない。

「ああっ、もうっ! 智樹ってば本当に最低ぇ~っ!」

 気が付くと大声で叫んでいた。

 だって、もし、智樹が女の子である私にあんなことを望んでいるのだとしたら……。

 

『智樹お兄ちゃん。私、誕生日プレゼントが欲しいな♪(瞳ウルウル度50%UP)』

『何だい? 俺の可愛い妹ニンフ。キラキラキラ☆☆(身長3割増し、美形80%増量)』

『プレゼントは……私、お兄ちゃんの子供が欲しい♪(裸にリボン、Fカップ増量中)』

『こんな嬉しいプレゼントは要求されたのは生まれて初めてさ。ありがとう、ニンフ。キラ☆☆(裸王)』

『うん、智樹お兄ちゃん……愛してる……(ディープキス)』

『俺も愛しているよ、ニンフ……(音を立てて唇吸ってます)』

 

 そして2人は……という展開を望んでいるに違いない。最低っ、最低っ、本当最低っ!

「…………ニンフ、顔、にやけきっている。そんな、幸せそうな顔、私、見たことない」

 アルファの声に我に返る。

 何故かはわからないけれど、このままの流れを続けると、やっぱり何かとても面倒なルートに進んでしまう気がする。

 私の手にはあり余る厄災をこの世に降臨させてしまう様なそんな予感が。

 それに私は自分で言うのもなんだけどピュアなので破廉恥な話題は好きじゃない。

 ここはあのDVDの中から誕生日に関する情報だけを抜き出すことにする。

「つまり誕生日は好きな男の子からプレゼントを貰える日のことなのよ!」

 作品中、主人公の女の人は裸の状態で自分の体に黄色いリボンを巻きつけて、男に子供が欲しいと言っていた。

 テレビの誕生日特集では裸にリボンという言葉は出てこないけれど、プレゼントという単語は度々登場している。

 つまりこれは、クリスマスがプレゼントを貰える日、特に好きな男の子からプレゼントを贈って貰える日であることを指していると思って間違いない筈。

「……でも、マスターには、私たちに、プレゼントを、買う、お金、ない」

 アルファがまた落ち込んだ。

「智樹の奴、お小遣い、またムフフグッズに使い果たしちゃったの?」

 アルファはコクンと首を縦に振った。

 智樹はエッチなことに異常に強い執着を見せている。

 お小遣いは全てムフフグッズに費やしている。お金で買えないムフフは、アルファの力を借りて女になったり、水になったり、床になってでも集める異常な執着ぶり。

 今月のお小遣いも、先ほどアルファが灰にしたエッチな本に変わってしまったようだ。

「バッカねえ。明日は私たちの誕生日という大事な日なのに無駄遣いしちゃうなんて……って、私も人のことは言えないわね」

 ガックリと膝をつく。

 お金がないのは智樹も私たちも変わりがない。

「はぁ。智樹からのプレゼントはお金の掛からないものになりそうだわね」

「……うん」

 恋のライバルであるそはらには豪華な誕生日プレゼントをあげていたらどうしようと心配にはなる。けれど、ないものはないのだから仕方ない。

「…………いざとなったら、黄色いリボン、だけ巻きつけてくれれば、十分。ポッ」

「何か言った?」

「……ううん、何も」

 プレゼントに関しては、智樹がどうにかすることで私が何か言う権利はない。お金がない分、頭を使ってもらわなくちゃ。でも、その前に……

「アルファ、お腹空いたわ。夕ごはんにして」

 腹が減っては戦ができぬというし、下手な考え休むに似たり。

「……うん、わかった」

 台所に向けて出て行くアルファを見ながら、今頃智樹は何をしているのかなと窓の外を見ながらちょっとだけ考えた。

 

 

 

 夕食後。

「クリスマス・イヴって何でこんなに退屈なのよぉ? 本当に全然つまんな~い!」

 クリスマス・イヴのテレビは本当にとてもつまらない。

 何で刺さないの? 何で裏切らないの? 何で憎んだり妬んだりしないの?

 何で清い物語ばっかり作ろうとするの?

 そんなの全然、私の見たいドラマじゃない。

 私は“ふ”のドラマが見たいの。

 漢字で言うと不、負、訃、腐、怖とかそんな“ふ”が付きそうなドラマが。

「あ~ん。退屈で本当に死んじゃいそうよぉ~」

 畳の上で寝転がって手足をバタバタさせる。

「シナプスにいた時は、退屈がこんなにも辛いなんて全然思いもしなかったわよ」

 地上に降りてからシナプスのことを考えると、やはり異常な世界だったと思う。

 退屈が当たり前というか、何も変わらないのが当たり前。

 退屈という言葉を否定的に考えていたのは私の元マスターとその仲間だけ。後の住民たちは退屈に関して何も感じない。私もそうだった。

「智樹ったら、私のことを放っておいて、どこで何をやっているのかしら?」

 センサーで感知している限り智樹はこの空美町を出てはいない。

 でも、それ以上の詳しいことはよくわからない。

 もっと詳細に情報を集めることは可能なのだけど、それは私が智樹を監視しているようで気分が悪いのでしない。

 私が地上に降りて来た頃の智樹はアルファのマスターとして要監視対象だった。だから細部に至る情報まで漏れなく集めようとした。

 でも、今の智樹は違う。智樹は私にとって大事な人。誰よりも大事な人。愛しい人。大好きな人。だから、見張るなんてことはしたくない。

 智樹は私やアルファに関わっている以上シナプスからの刺客に命を狙われる危険はある。なので最低限度の警戒は怠らないようにしている。でも、それだけ。

 智樹のプライベートをむやみに侵食したりしないように、私はあのクリスマス以来自分を固く戒めている。でも……

「退屈なものは退屈なのよ~!」

 今の私は心の必須栄養分と言える昼ドラを奪われたことで自分でもわかるぐらいにとても幼稚な言動を取っている。

 智樹のプライバシーを尊重することに決めたのは私。でも、そのせいで困っている。

 

「……ニンフ、お茶が入ったわよ」

 午後7時30分。

 智樹に夕ごはんを食べてもらえず落ち込んでいたアルファが居間に入って来た。

「えっとぉ、やっぱり夕飯の後はお茶よね」

 全然お茶を飲みたい気分じゃない。けど、アルファの沈んだ表情を見ていると飲むしかない。

「……シュン」

 智樹分が枯渇しているアルファは体全身にもう生気がまるでない。

 話し掛けても会話を続ける気はサラサラないのに私に構って欲しいだワンサインを出して来る。

 とはいえ、あなたを殺して私も死にます的な表情をしたアルファが隣にいると私の動力炉の健康に良くない。

 毎度めげずにまた適当に話を振ってみる。

「そう言えば12月24日、要するに今日のことをクリスマス・イヴって人間界では言うらしいけれど、アルファはクリスマス・イヴって何をするか日なのか知ってる?」

「……知らない」

 今回も会話が途切れてしまった。

 だけどめげない。もうめげることにも飽きてしまった。

「えっと、前のクリスマス・イヴの時は……何かあったっけ?」

「ニンフが首に仕掛けられた爆弾がいつ爆発するかそわそわしてた以外は、よく知らない」

「うっ」

 私が原因で起きた騒動のプロローグのことを指摘されてまた言葉に詰まる。

 今日のアルファ、やっぱり半端ない。

「……あっ、そうだ」

 するとアルファが思い出したように呟いた。

「……マスターの、DVDの中に、クリスマス・イヴ、という文字が入った作品が、ありました」

 アルファはテレビの裏をゴソゴソと漁って1枚のDVDケースを取り出した。

「『クリスマス・イヴ 掘ーリーナイトの恋人たち<R-18>』? どんな内容なの?」

「……さぁ? マスターは、見ちゃ駄目って、言ってましたから、見たこと、ない」

 気のせいか今日1日ずっとこんなやり取りをしている気がする。でも、好奇心が疼いた。

「じゃあ、どんな内容か確かめてみようよ」

 アルファの手からDVDを奪おうと手を伸ばす。

「……でも、マスタがー……」

 アルファは口では注意している。でも、アルファは自分の手でさっさとDVDをデッキの中に入れて再生のスイッチを押していた。

「ねえ、アルファ? あんた、今、智樹の命令に逆らったわよね?」

「……でも、きっと、見たら、マスターが、怒る」

「再生ボタンまで押したのアルファよね?」

 アルファはいつもの様に無表情を浮かべて黙ってしまった。白を切るつもりらしい。

「はぁ~。あんたも本当に意固地な性格をしているわね」

 抗議するのを諦める。

「それじゃあ、もう始まったことだし鑑賞するわよ」

 既に瞳を輝かせながらメモ帳を準備し正座して待つアルファを横に私はテレビを見入った。

 

 

 

「なっ、何なのよ! あのDVDわぁっ!」

 5時間半後、正座しながらわき目も振らずに製作陣の名前を全員覚えて、作中の台詞を全部暗記して今すぐ原稿用紙100枚の論評を執筆できそうなほど集中して3度連続で視聴し終えたDVDを片手に私は憤っていた。

 詳しくは言いたくないけれど、一言で言えばとてもエッチな作品だった。

 私の割と知っている世界がそこには広がっていた。人間の男と女があんなことをするなんて……。こんな物を持っているなんて、智樹ってばやっぱり最っ低っ!

「智樹ってば、クリスマス・イヴ、つまり今夜、女の子にあんなことをしようと考えていたのねっ!」

 智樹はとてもとてもエッチだ。

 暇さえあれば全裸姿を女の子に見せ付ける計画を立て、実行している。

 露出の快感が目的だと思っていたけれど、その先に更に破廉恥な野心を隠し持っていたなんて。

あれ、でも、それだと……?

「私たちって、智樹と一つ屋根の下でクリスマス・イヴの夜を過ごす女の子よね?」

「……Yes, we can!」

 アルファの声に合わせ、アルファ最強の兵器であるウラヌス・システムが異次元からこの世界に現れたという脳内アラームが鳴る。

「智樹はDVDにあるようなことを実際にしたいと思っているのかしら?」

「……Yes, we can!」

 アルファの声に合わせ、ウラヌス・システムが空美町上空に浮かぶシナプスをロックしたという脳内アラームが鳴る。

「じゃあ、智樹はあのDVDにあるような内容を私たちにしたいと思っているのかしら?」

「……Yes, we can!」

 アルファの声に合わせ、ウラヌス・システムが空美町上空に浮かぶシナプスに対して砲撃を開始したという脳内アラームが鳴る。

 半永久的に変わらないと思っていたシナプスの歴史が今日終わるかもしれない。たった1人のエンジェロイドの暴走によって。

「ああっ、もうっ! 智樹ってば本当に最低ぇ~っ!」

 気が付くと大声で叫んでいた。

 だって、もし、智樹が女の子である私にあんなことを望んでいるのだとしたら……。

 

「智樹、私、今夜は帰りたくないの(瞳ウルウル度50%UP、5歳擬似成長)」

「俺も、今夜はお前のことを帰すつもりはないぜ(身長3割増し、美形100%増量、6つに割れた腹筋標準装備)

「私のこと、一生大事にしてね……(裸にリボン、Gカップ増量中)」

「ニンフ。もうお前のこと、一生離さないぜ(裸王)」

「うん、智樹……愛してる……(唇ごと食べられている)」

「俺もだぜ、ニンフ……(唇ごと食べている)」

 

「そして2人は……という展開を望んでいるに違いないわ。最低っ、最低っ、本当最低っ!」

「…………ニンフ、全部、声に出てる。その顔、全エンジェロイドで、一番、幸せそう」

 アルファの声に我に返る。

 何故かはわからないけれど、このままの流れを続けると、もうどうしようもないほど面倒なルートに進んでしまう気がする。

 美香子あたりに簡単にたぶらかされそうな厄災をこの世に降臨させてしまう様なそんな予感が。

 それに私は自分で言うのもなんだけど真(トゥルー)ツンデレなので破廉恥な話題は好きじゃない。

 ここはあのDVDの中からクリスマス・イヴに関する情報だけを抜き出すことにする。

「つまりクリスマス・イヴは好きな人に愛の告白をする日のことなのよ!」

 作品中、主人公の女の人は裸の状態で自分の体に赤と黄色いリボンを巻きつけて、男に好きだと言っていた。

 テレビのクリスマス・イヴ特集では裸にリボンという言葉は出てこないけれど、愛の告白という単語は度々登場している。

 つまりこれは、クリスマス・イヴが愛の告白をする日であることを指していると思って間違いない筈。

「……でも、マスターが、帰って、来ない」

 アルファがまた落ち込んだ。

「智樹の奴、ここにこんな可愛い女の子が2人もいるのにどこで何をしているのかしら?」

 アルファはコクンと首を縦に振った。

 時計を見れば時間は既に午後11時59分。

 後1分でクリスマス・イヴは終わってしまう。

 智樹はモテることに異常に強い執着を見せている。

 学校でのクラスメイト男子との会話はほぼ全てモテ男への恨みつらみ。モテ男がいるから自分は女にモテないのだと逆恨みしまくっている異常な執着ぶり。

「バッカねえ。ここに愛の告白をしてくれれば快く受け入れてくれる可愛い女の子が2人もいるのにせっかくの機会を無駄にするなんて……って、私も人のことは言えないわね」

 ガックリと膝をつく。

 告白できないのは智樹も私たちも変わりがない。

「はぁ。智樹からの愛の告白はないと思った方が良さそうね」

「……うん」

 恋のライバルであるそはらに愛の告白をしていたらどうしようと心配にはなる。けれど、いないものはいないのだから仕方ない。

「…………いざとなったら、赤と黄色いリボン、だけあれば、十分。ポッ」

「何か言った?」

「……ううん、何も」

 ここに存在しない智樹に告白する、されるもない。

「あーあ、クリスマス・イヴも終わっちゃった」

 時計を見れば既に12時1分。

 クリスマス・イヴは終わりクリスマスになってしまった。

 

 

 

「……マスター、遅い」

「そう言えばそうね」

 智樹はここ2、3日、帰って来るのが午後11時ぐらいでとても遅い。

 だけど日付をまたいだことはなかった。

 いつもより帰りが遅いと気が付くと確かに心配になって来る。

「もしかして、どこかで事故に遭ったんじゃ……」

「…………事故っ!?」

 アルファの瞳が紅に染まり、大きくなった翼が眩しい光を発し出す。頭上には光る輪。アルファはどこからどう見てもウラヌス・クイーン・モードになっていた。

「ちょっと、アルファっ!? あんた、一体何と戦うつもりなのよ?」

「…………この世界の、全ての自動車を、破壊して、マスターの、仇を討つッ!」

 アルファの表情は真剣そのもので冗談を言っているようには欠片も見えない。

「あのねえ、まだ智樹が事故に遭ったと決まった訳ではないでしょう? というか、既にアルファの中で智樹は死んでるの?」

「……でも、マスターは、アストレア並の、バカだから……」

「言うようになったわね、アルファ……」

 額に冷や汗が垂れる。

「確かに智樹はデルタ並にバカかもしれない。けれど、デルタだって別に事故には遭ってないじゃない」

「……ううん、私は、アストレアが、毎日のように、車に、轢かれているんだって、固く信じている」

 アルファはとてもとても真っ直ぐな瞳をしていた。自分の信念に少しも揺らぎを感じていない王者の貫禄。

「とにかく、世界中の車を破壊しようとするのはやめた方が良いわよ。智樹が怒って、下手をすればマスターをやめるとか言い出しかねないわよ」

 「平和が一番」が口癖の智樹は私たちが騒動を引き起こすことを極端に嫌う。アルファが世界中の車を壊したとなれば、その怒りは尋常でないものになると思う。

 まあその前に、アルファと智樹の関係が知られれば、怒った人間たちによって智樹は確実に殺されちゃうだろうけど。

「……だけど」

 アルファはそれでもまた不満そうだった。アルファは何事にも執着してなさそうに見せて、その芯はとても頑固。

「じゃあ、中間を取ってデルタを攻撃なさい。今回はそれで我慢するのよ」

 幾ら不満が多いとはいえ、アルファも今回の件と無関係なデルタを攻撃するようなことは流石にしないと思う。アルファもきっとこれで少しは冷静になってくれる筈。

「…………ウラヌス・システム、攻撃スタンバイ。敵、局地戦闘用エンジェロイド・タイプ・デルタ・アストレア。全砲門、開け」

 あれ?

「…………攻撃、開始」

 あれ? あれ? あれあれ?

「本当、智樹、遅いわねえ」

 遠くの山の中腹が眩い光に包まれ大轟音を発したのは無視して話題を戻すことにする。

 遠くから「ぴぎゃあああぁっ!?」悲鳴のようなものが聞こえた様な気がするが無視する。

 

「……マスター、今どこに……?」

 ここは気を付けないとまた先ほどの二の前になりかねない。

 でも、本当に智樹はどこに行ったのだろう?

 クリスマス・イヴだったと言うのに、こんな可愛い女の子を2人も置いてどこへ?

 ……まっ、まさか!

「まさか智樹の奴、他の女の所に行ったんじゃ!?」

 先ほどのDVDの映像が少しだけ改変されながら頭を過ぎる。

 智樹と並んでいるあのポニーテールの女の顔は……

「相手は、やっぱりそはらなの!?」

 一番あり得そうな相手、それは美月そはらで間違いなかった。

 2人は付き合いも長いし、そはらは智樹のことが好き。更にそはらは顔も可愛くてスタイルも智樹好みのナイスバディー。そして同じ人間同士。

 同じ家に住んでいるという優位以外、私たちでは分が悪い相手、それがそはらだった。

「…………自爆コード、検索」

 何か今、物騒な声が隣から聞こえて来たような?

「…………半径、500km以内の、全ての物体を、消去予定。マスター、あの世でも、誠心誠意、お使え致します」

 勝てそうにないからって、無理心中をする気なの、アルファ!? というか、その爆発に巻き込まれたら私も確実に死んじゃうじゃない!

「そう言えば、そはらは明日というか今日の午前中まで家族旅行に出掛けている筈よ。だからそはらが智樹と一緒にいることはないわね」

「…………自爆コード、解除」

 私は今、この星の、少なくともこの国の未来を救った。これは誇っても良いことじゃないかと思う。まあ、私の一言が原因で滅びそうになったのだけど。

「…………じゃあ、どこの女と、一緒に?」

 アルファの言い方が普段より怖い。ここは気を引き締めて掛からないと。

 アルファも、一緒にいるのが冗談だとわかる相手と言うと……

「美香子、じゃないかしら?」

 美香子は腹黒いし興味本位で動くし滅茶苦茶だけど何だかんだ言っても結局守形一筋の女の子。それは流石にアルファもわかっている筈。

「…………ウラヌス・システム、攻撃スタンバイ。敵、五月田根美香子。全砲門、開け」

 ちょっ? 本気なのっ!? 本気で人間を攻撃するつもりなの!?

 アルファの瞳は余りにも真剣で、とても冗談ですよねと聞ける雰囲気じゃない。

 アルファは本気で美香子を消す気だっ!

「やっぱ嘘。今の嘘。智樹が今一緒にいるのは……え~と……そう、デルタよ。デルタに間違いないわ! 智樹ったらあの胸にたぶらかされたに違いないわッ!」

「…………アストレアに、対して、攻撃、開始」

 今、昼間なんじゃないかと錯覚するぐらいに激しい閃光が窓の外に見え、それとほぼ同時に「またなのぉ!? ひぃやぁあああぁあああぁっ!?」という断末魔のような叫び声が聞こえた。

 ……今なら私、デルタにいつもより優しく接することができる気がする。もう会うことはないだろうけど。

「あんた、デルタ相手に容赦ないわね……」

「…………私は、アストレアに、言った。マスターに、手を出すなら、容赦しないって」

「それ、手を出すの意味が違ってるわよね?」

 私の記憶に拠れば、アルファがその言葉を発した時、デルタは智樹の命をまだ付け狙っていた。だからアルファは智樹に危害を加えようとするなら許さないという意味で使った筈。なのでデルタが智樹と色恋沙汰になるのを許さないという意味ではなかったと思う。

 勿論それを指摘すれば私もデルタと同じ運命を辿るだけなので何も言わない。

 今はただ、一刻も早くこのおかしな空気が過ぎ去るのを待つばかり。

 何か、空気を一変させてくれるようなことでも起これば……

 

 

 

「ただいまぁ……」

 その時、玄関が開いて人が入って来る音がした。

 この時間に、しかも「ただいま」と言って桜井家に入って来るのは1人しかいない。

「智樹っ!」

 地獄に仏とはこのことだった。

 私は慌てて玄関へと足を運ぶ。けれど……

「……マスター、お帰りなさい」

 私が玄関に到着した時、既にアルファは智樹に向かって頭を下げていた。

 緑色の瞳に戻り、いつもの無表情な顔で。

 それを見て私は張り詰めた緊張が解けていくのを感じた。だけど……

「ああ、疲れた、よ」

 智樹は言葉通り、精彩を欠いた表情を浮かべていた。

 智樹が帰って来てくれたことは嬉しい。

 けれど、こんなに疲れるまで一体どこで何をしていたのか。

 そして、何故それを私たちに知らせてくれないのか。

 大事なクリスマス・イヴなのに、どうして一緒に過ごしてくれなかったのか。

 そんなことを考えていると急に腹が立ってきた。

「ちょっと、智樹! あんた今まで一体どこで何をしていたのよ?」

 智樹の顔を見るまでは労わりの言葉を掛けようと思っていたのに、実際に私の口から出たのは強い非難の言葉だった。

「別に、どこでもいいだろ?」

 智樹の気のない返答にカチンと来てしまう。

「どこでもいいってことはないでしょ! 私たちがどれだけ心配したと思っているの? それとも何? 私たちには知らせられないような場所にいたんじゃないでしょうね?」

 我ながら驚いてしまうほど言葉に棘があった。

「はぁ、今日はもう静かにしてくれ」

 智樹は心底疲れたように溜め息を吐く。

「そうやって誤魔化して! 本当は、女の子とデートしたり、破廉恥なことをしていたんじゃないでしょうね? DVD、見たんだからね!」

「……ニンフ」

 アルファの制止とも懇願とも取れる声が聞こえる。でも、私の苛立ちは収まらない。智樹にどこで何をしていたのかきちんと説明してもらわないと納得できない。

「ちゃんと説明してよ、智樹っ!」

 大声で叫びながら気付く。私はいるかいないのかも知らない智樹と一緒にクリスマス・イヴを過ごした女に嫉妬しているのだと。

「……とにかく俺は今日凄く疲れてるんだ。話はまたにしてくれ」

 智樹が私の脇を通り過ぎ、2階に向けて体を引きずる様に歩いていく。

 それは私にとって、どんな非難の言葉よりも辛い拒絶に感じられた。

 私は金縛りに遭ってしまったかのように指1本動かすことができない。振り返って智樹を追うことができなかった。

「……あの、マスター。夕飯は?」

「外で食べて来たから、良いや」

「……あっ」

 そしてアルファもまた私と同じように意気消沈した。

 私たちは智樹の背中を追うことが出来なかった。

 智樹との距離が、心の距離があまりにも遠かった。

 

 

 

「智樹、どこに行っていたのか結局行ってくれなかったね」

「……うん」

 居間に戻った私たちはまるで葬式か通夜の後のように生気が抜けていた。

「智樹、誰と会っていたのか結局教えてくれなかったね」

「……うん」

 話し掛ける私も、返事をするアルファも抜け殻みたい。

 こんな空虚な気分になったのは地上に降りて来てから初めてかもしれない。

 他ならぬ智樹に拒絶されていると感じたのは初めてのことだから。

 シナプスには帰れない。そして智樹にも見捨てられたら、私はもうこの世のどこにも存在して良い場所がなくなってしまう。

「消えちゃいたいな」

 不意にそう思った。

 隣を見ると、アルファも体育座りをしながら自分の顔を強く足に押し付けていた。

 アルファも同じ気持ちなのかもしれない。

 好きな人と結ばれる筈のクリスマス・イヴは私たちと智樹の間の心の確執を生み出した。

 やっぱり、クリスマス・イヴなんて私は大嫌い。

 少しも幸せになれない。

 智樹にも捨てられて、それで……

 

≪諦めたらそこで試合終了ですよ、先輩≫

 

 急に声が聞こえた気がした。

 慌てて周囲を振り返るけど誰もいない。だけどアルファもキョロキョロと周囲を見回しているから声は聞こえたみたい。

 姿は見えない。けれど、聞き覚えのあるあの声は……

「……アストレア、なの?」

 そう。アルファの言う通り、デルタの声で間違いなかった。

 でも、デルタは先ほどの不幸な事故でもう……。

 確かめるように夜空を仰ぐと

「デルタ……」

 デルタの面影が、満点の空美町の夜空の中に浮かび上がっていた。

 

≪先輩たちには私の分まで幸せになってもらわないと。だからそんな簡単に桜井智樹を諦められては困りますよ≫

 

 デルタは楽しそうに笑い掛けて来る。けれど、幾らデルタの霊にそう励まされても私たちは暗い気分を払拭することはできない。

「だけど、デルタ。智樹はクリスマス・イヴを私たちと一緒に過ごしてくれなかった。どこに行っていたのかさえ教えてくれなかったんだよ」

 アルファが私の言葉に頷いた。

 

≪それがどうしたと言うのですか? 先輩たちの誕生日は今日。今日こそが先輩たちにとっての本当の勝負の日なのです。本妻の余裕をもっと見せて下さいよ≫

 

 デルタは私たちの境遇が何でもないと言わないばかりに笑っていた。本妻なんていう言葉まで使って……。

「でも、私たち、やっぱり智樹のことがどこか信じられなくて」

 智樹が他の女と会っていたんじゃないかという可能性は私の胸を締め付ける。

 智樹は私の夫でも彼氏でもないのに。

 

≪良い女は水に流す。先輩たちは過ぎ去ったクリスマス・イヴを悔やむのではなく、今日のクリスマスを最高の日とできるように努力してください≫

 

「良い女は、水に流す……」

 男にとって都合の良い言葉だと思った。でも、今の私やアルファにとっては凄く大事な言葉だとも思った。

 確かに私たちはクリスマス・イヴのことを水に流してリセットしなければ先に進めない。今という時間の後悔に押し潰されてしまうだけ。だったら……

「私、良い女になれるかな? 流せるかな、デルタ?」

 

≪先輩なら、流せますよ……良い女っ!≫

 

「ありがとうデルタ。私、頑張って流すからっ!」

 先ほどまで萎え掛けていた生きる気力が嘘みたいに溢れて来る。

 そうよ。デルタと違って私にはまだ今日という日がある。

 落ち込んでいる場合じゃない。

 本妻の強さを、余裕を見せてやらないといけない。

 両足に力を篭めながら立ち上がる。そして隣でうずくまる相棒に声を掛ける。

「アルファ、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないわよ!」

「……うんっ」

 アルファもまた凛々しい顔立ちで立ち上がった。デルタに勇気付けられたに違いない。

「そうよ。考えてみれば、クリスマスの今日こそが私たちの誕生日。今日という日を幸せに過ごせれば私たちが智樹の本妻であることを再確認できる筈よっ!」

「……うんっ」

 アルファの顔を見て頷く。

 私たちはデルタの助けを借りて完全復活を果たした。

「それじゃあ、クリスマスと誕生日がどんな日なのか、DVDを見て復習するわよ!」

「……うんっ」

『クリスマス 性夜の贈り物<R-18>』と『誕生日 お兄ちゃん、私もう子供じゃないよ<R-18>』を用意してDVDデッキの前に置く。

「情報戦を制する者が、現代の戦いを制するのよ!」

「……うんっ」

 そして私たちは部屋を暗くし、正座しながらDVDデッキの再生ボタンを押した。

 

 エンジェロイドは眠らない。

 

 私たちの知的探求は朝まで続いた。

 

 明けの明星が登る頃、ふと空を見上げると大空にデルタが笑顔でキメていた。

 

 

(クリスマス編に続く)

 

 

 

 


 
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