第3話「劉玄徳」
酒場が一番栄えるのは夜だ。
では、昼はどうか?
せいぜい、休憩に立ちよる旅人か浮浪人が数人というのが関の山である。
そんな人っ子一人いないような桜桑村の酒場の2階の個室で、関羽は静かに座っていた。
個室にいるのは関羽1人だけだ。実は先程まで簡擁も一緒にいたのだが、肝心の劉備がいつまでたってもここに来ないため、捜しに出て行ってしまったのだった。
(約束の時間も守れんとはなんたる奴だ)
関羽は心からそう思い、美しい顔をむっと歪ませながら出されたお茶を飲んでいた。
ガタ、と音がした。
関羽はピクリと反応し、音が聞こえてきた場所を探す。
「・・・・窓?」
関羽は音が聞こえてきたであろう場所である、窓辺を凝視した。
すると、
「よっこらせっと・・・・」
という声と共に、窓から1人の男が関羽のいる個室に侵入してきた。
「何奴ッ」
関羽はすぐさま青龍偃月刀を引っ掴み、侵入者に向かって構える。
しかし男は突きつけられた偃月刀など気にもとめない様子で、その場にあぐらをかき、言った。
「屋根の上でのんびり昼寝をしていたら空を飛んでいた鷲に襲われてな、慌ててここに戻ってきたのよ。もうすこしで目ん玉喰われてたぜ」
「お前は何者だ」
「お前は李定党の宿将・関雲長だろう。噂通りの美少女だ」
「お前は誰だと聞いている!」
男はひどくめんどくさそうな顔をしてから、
「俺はここの大将の劉備玄徳だ」
とだけ答えた。
「なっ・・・・」
「あんた、幽州一の豪傑らしが、同盟相手の顔もわからんようじゃ、そんなに大したことねェな」
劉備はカラカラと笑って言った。
(劉備!この男が劉備!!)
関羽はまじまじと奇妙な侵入者―その実態は劉備玄徳―を見つめた。
背が高く細身の体にはバランス良く筋肉がついていて顔もなかなか整っておりカッコいいといえなくもないが、白髪混じりでボサボサの髪と清潔感の欠片もないような衣服のせいでただの浮浪者に見えなくもない。
腰にはおそらく酒が入ってるのであろうひょうたんと、身分不相応にしか見えない豪華な装束の施された剣がさされている。
「何ボーっとしてるんだ。俺が劉備玄徳だ。あいさつぐらいしたらどうだ」
出鼻をくじかれた関羽は少し力を抜いて、「関羽でござる」とだけ答えた。
「そうかよく来てくれたな。ゆっくりしていってくれや」
そう言うと今度は劉備が関羽をまじまじと見つめる。
「い、如何した・・」
「いや、けしからん胸だと思ってな」
「なっ・・何を・・・・!」
さすがの関羽も顔を真っ赤にして狼狽する。
「すいませんねえ・・うちの兄ィは思ったことがすぐに口に出る性分で」
いつの間にか部屋に戻ってきていた簡擁が関羽の耳元でささやいた。
「わっ!・・簡擁殿、いきなり耳元で言わないでくれないか・・」
「くすくす・・すいません。驚かせてしまったようですねえ」
「お主達は普通の登場の仕方ができんのか」
関羽の言葉に、玄徳が「はっはっは」と大笑する。
「いやあ、俺達は世間とは少々ずれた所があるからな」
「ええ、それはここ数分で十分分かりました」
「ははは、ならいいや」
劉備はひとしきり笑った後、「さてと」と真面目な顔になって、
「あんたは俺達と同盟の話をしにきたんだろう?」
と問うた。
「ああ・・そうなのだが・・・・・」
「じゃあ李定殿に言っといてくれ。『この劉玄徳は李定殿との同盟に応じる』とな。それだけで十分なはずだ」
そう言うと劉備は、はっはっはと高笑いし、勝手に酒盛りの準備を始めた。
あまりの急展開に関羽がポカンと呆けていると、いつの間にかこの酒屋にやってきた大勢の玄徳党の若者たちがドンチャン騒ぎを始め、さっきまで静寂を保っていた酒場は一気にお祭り騒ぎと化した。
関羽は玄徳がどのような人物か見極め、場合によっては斬ってしまおうとも思っていたが、すっかり玄徳のペースに巻き込まれてしまい。何もできなくなってしまった。
(わからん。この劉備という男、単なるうつけ者なのか、それとも・・・・・)
結局、この会談は劉備の1人舞台で終わってしまった。
劉備は別れ際、城門の前まで関羽を見送った。
関羽は不思議な気持ちを胸に抱きながら、桜桑村を後にした。
その数日後、関羽の仲立ちにより李定党と玄徳党は桃花橋という場所で同盟の杯を交わした。
季節は春。桃の花が最も美しい時期のことであった。
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恋姫無双の2次創作です。
主人公はオリジナルの男劉備で、桃香と一刀は出てきません。
そればかりか、原作崩壊ですので苦手な人はまわれ右を