No.188280

真★恋姫†無双-真紅の君-第弐話

月千一夜さん

続けて、弐話目です
この物語を考えたころから、書きたかった場面だけにかなり思い入れがあります

それでは、お楽しみくださいw

2010-12-06 14:56:08 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:7319   閲覧ユーザー数:6166

それは、本当によく似ていて

 

思わず“あの時”の夢を見ているのではと思ったほどに、同じ空気で

 

じゃからワシにはあの時、“お主”の姿にしか見えなくて

 

『・・・姫発?』

 

期待していた

望んでいた

 

間違いなくワシは、お主を求めていた

 

じゃが・・・

 

『・・・はい?』

 

それはやはり・・・叶わない願いで

絶対に、求めてはならないことじゃった

 

 

 

 

 

≪真★恋姫†無双-真紅の君-≫

第参話 賢者は出会い、そして歩き始める

 

ーーーー†ーーーー

 

「えっと・・・あはは、私ってばそんなにそのナントカさんにソックリだったのかしら?」

 

 

目の前で困ったように笑う女性

太公望はその言葉に、バツが悪そうに頭を掻きながら・・・はぁと息を吐いた

 

「すまんな、その・・・あまりに突然のことゆえ、勘違いしたみたいじゃ」

 

とりあえず、まずは謝罪

それから、彼は釣竿代わりに使っていた棒を持ち上げる

 

「それと、質問の答えは否・・・まぁ、つまり何も釣れておらんということじゃ」

 

そこまで話して、太公望は目の前にいる女性からの視線に気づいた

 

 

「・・・なんじゃ?」

 

「いや、変なしゃべり方するなって思って

そんな可愛らしい顔してるのに・・・勿体無いわよ?」

 

「ほっとけ」

 

「ああ、ごめんごめん!

あやまるから、そんな冷たくしないでよ!」

 

失礼な奴だと、太公望はそっぽをむく

そんな彼にたいし、彼女は慌てて謝ってきた

 

 

「そもそも、お主は何なんじゃ?

いきなり話しかけてきたと思ったら、話し方が変などと・・・名も名乗らんで、失礼なことばかり言いおる」

 

「あ、そういえばそうね

まだ名乗ってなかったわね、私の名前は・・・」

 

「策殿!!!」

 

 

彼女が笑いながら自己紹介を始めようとした、その矢先・・・一人の女性が現れ、彼女を庇うよう太公望の前に立ちふさがる

その突然のことに、彼女は眉を少しだけつり上げる

 

「ちょっと祭、どうしたのよ?

いきなりこんなことして・・・・」

 

「策殿・・・先ほどは気がつきませんでしたが、こやつは只者ではありませんぞ」

 

「え・・・?」

 

 

祭と呼ばれた女性の言葉に、彼女は首を傾げる

対して太公望のほうはというと、感心したように『ほぅ・・・』と声をもらしていた

 

「この氣の量・・・お主、並みの使い手ではあるまい?」

 

「ほう、やはりお主は氣を感じることができるのじゃな」

 

「っ・・・お主、いったい何者じゃ!?」

 

「ちょっと祭、落ち着きなさいよ!?」

 

声を荒げる女性を宥めるように、彼女はその肩を掴んだ

その様子に、太公望は小さく溜め息をつく

 

「そこの者の言うとおりじゃ・・・少し落ち着くが良い

別にワシはお主等をどうこうする気はこれっぽっちもない」

 

「ほら、彼もそう言ってるし

ね? 大丈夫だって♪」

 

「むぅ・・・」

 

 

しぶしぶ・・・といった感じだが、祭と呼ばれた女性が太公望から離れていく

まだその表情には、警戒心が見てとれるが

 

「ごめんなさいね、祭ったら急に暴走しちゃって」

 

「かまわん・・・むしろ、感心したくらいじゃ

ワシの氣を感じ取れるとは、中々の使い手のようじゃの」

 

「あはは、よかったわね祭♪」

 

「うむむ・・・」

 

まだ警戒している相手からの予想外の褒め言葉に、頬を赤く染める女性

その姿に、彼女も笑みを浮かべていた

 

 

「ふふふ、祭のあんな顔久しぶりに見たわ・・・っと、そういえば自己紹介がまだだったわね」

 

そう言って、彼女は太公望をまっすぐに見据える

それから、満面の笑顔を浮かべたのだ

 

「私の名前は【孫策】、字は【伯符】

それから、彼女は【黄蓋】、字は【公覆】よ」

 

名乗り、『よろしくね』と笑う彼女・・・孫策

黄蓋と呼ばれた女性が未だ納得していないような表情をしているなか、太公望は静かにその両の眼を閉じた

 

「孫策に黄蓋か・・・・」

 

「どうかしたの?」

 

「いやなに・・・ワシは名を名乗れといったな?」

 

『名乗ったじゃない』

そう思い、彼女は困惑したような表情を浮かべている

隣にいる、黄蓋も同様・・・わけがわからないといった表情

 

そんな中、太公望は閉じていた瞳を開き・・・ニヤリと不敵に笑う

 

「それは確かにお主等の名前なのじゃろう

しかしな・・・その名から、お主等をあまり“感じない”のじゃよ」

 

「「!!!」」

 

太公望の言葉に、二人は大いに驚いた

そして黄蓋が再び彼に向かい、殺気に近い氣を放ちはじめる

 

「貴様・・・初対面にも関わらず、図々しくもワシらに【真名】を名乗れと!?

もう我慢ならん・・・」

 

「祭!!」

 

「しかし、策殿!!!」

 

「落ち着きなさい!!」

 

 

ーーーーーーー†ーーーーーーーーーー

 

「落ち着きなさい!!」

 

 

私は祭の腕を掴み、大声で叫ぶ

すると彼女は一瞬驚いたあと・・・ゆっくりと拳を下ろした

 

 

「ふぅ・・・落ち着いたみたいね」

 

「はぁ・・・しかし、まだ許せませぬ

策殿は、何も感じんのですか?」

 

「そうね・・・」

 

祭の言葉に、私は視線を例の青年へと向ける

彼は何事もなかったかのように、私の視線に気づくと笑ってみせた

まったく・・・あの祭に殺気を向けられて、よくあんな平気でいられるわね

 

 

「確かに、初対面で真名を聞こうなんて奴初めてよ」

 

「じゃったら・・・」

 

「でもね」

 

祭の言葉を遮るよう、私は話し出す

それは、先ほどの言葉について

彼は確かに、私達に遠まわしに真名を名乗れといった

 

だけど、その言葉に・・・悪意なんて感じなかった

 

むしろ、なんていうんだろう

純粋に・・・そう純粋に、私達を知るために聞いてきたように感じた

 

まぁどっちにしろ、非常識なことに変わりはないんだけど

 

「貴方から悪意のようなものは感じなかった・・・だから、今回は見逃してあげるわ

今度から、そんな不用意に真名なんて聞かないことね」

 

「まったく、甘いのう・・・珍しく」

 

「ちょっと、珍しいってなによ!?」

 

「ほんとのことじゃろうが」

 

「心外ねぇ・・・」

 

どんな理由であれ、他人の真名をいきなり聞いたりなんて・・・本当なら、この場で切り殺されても文句なんてない

それを見逃すんだから、祭の言うとおり甘いのかもしれない

 

でもとりあえず、これでこの話は解決・・・ってことにしよう

 

そう思っていた矢先のことだったわ

 

「のう・・・仲が良いところ悪いんじゃが」

 

「? どうしたの?」

 

 

 

 

「真名って・・・なんじゃ?」

 

「なんだ、そんなこと・・・って、ええええぇぇぇぇ!!?」

 

 

 

 

彼の口から、とんでもない発言が飛び出してきたのわ

 

 

「お主、今なんと?」

 

あまりに信じられない発言に、祭は恐る恐る彼に聞いた

それに、彼は溜め息と共に答えたのだ

「じゃから、真名とはなんじゃと聞いてるんじゃ

聞きなれない言葉ゆえ、気になってしまっての」

 

「はぁ!? 聞きなれない!? 真名が!?」

 

「何をそんなに驚いておる・・・そんなにめずらしいのか?」

 

「いや、だって・・・ねぇ?」

 

「うむ・・・」

 

私が目で祭にたずねると、彼女は小さく頷いた

 

あり得ない

この国にいて、真名について知らないなんてあり得ない

 

だけど・・・目の前にいる彼

彼が嘘を言っているようにはみえないのだ

 

それは、祭も同じようだ

彼女もまた、戸惑ったように彼を見ていた

 

 

「お主・・・本当に真名について、何も知らんのじゃな?」

 

「うむ、さっぱりわからん」

 

「策殿・・・」

 

「ええ・・・嘘を言っているようには見えないわね」

 

どうやら、彼は本当に真名についてしらないらしい

 

ならば彼は、この国の人間じゃない?

 

「貴方は・・・いったいどこからきたの?」

 

「む・・・?」

 

気になった私が静かにそうたずねると、彼は一瞬何か考えた後に・・・小さく笑った

 

「ここではないどこか・・・そうじゃのう、さしずめワシは【あそこ】から来たのかもしれん」

 

そういって指を差す彼

その指の先に広がるのは、どこまでもひろがる・・・【青】

気持ちの良い青空

 

「あ・・・」

 

そして思い出すのは、先ほどの『流星』

真紅の流れ星

 

まさか・・・

 

「あれは・・・貴方だったの?」

 

「あれ?

はて、なんの話じゃ?」

 

彼は知らないとばかりに、首をかしげた

だけど・・・私の勘がいっている

 

あの光りは、間違いなく彼のものだって

 

だから・・・だから私は、『決めた』

 

「【雪蓮】よ・・・」

 

「・・・む?」

 

「なっ!?」

 

 

私の言葉に彼はまた首を傾げ、祭は驚き声をあげる

だけど、そんなこと気にしない

 

「私の【真名】よ

ほら、私が名乗ったらそっちも名乗るのが礼儀でしょ?」

 

「む・・・なんじゃ急に」

 

「意地でも、貴方の名前が知りたくなったのよ♪」

 

意地?

いやこれは、きっとそんな単純なものじゃない

もっと、何か・・・上手く言葉にできないけど、何か理由があるのよ

 

だけど、今は意地でもいい

今はとにかく、彼が知りたい

 

彼の名前を、彼自身を・・・ただ知りたい

 

 

「さぁ、教えてちょうだい

貴方が答えるまでは、私は意地でも帰らないわよ♪」

 

 

言って、彼に向かって笑いかける

一瞬だけ、彼は驚いた表情を浮かべていたのがみえた

 

「っ・・・くく、見間違えるわけじゃ」

 

「?」

 

 

ふと、彼が急に笑い出す

どこか懐かしさのようなものをかみ締めるかのように・・・

 

 

「ちょっと、どうしたのよ?」

 

「いやな・・・昔、お主にソックリな奴がいてな

ああ、本当に似ておるわ」

 

そう言って、彼はまた笑った

それにつられ、私も笑う

 

「そうじゃ・・・ワシの名じゃったな」

 

ひとしきり笑ったあと、彼は私の目を見つめ・・・ニコリと微笑む

それから、彼は名乗ったのだ

 

 

「ワシの名は【太公望】という

よろしくな、雪蓮よ」

 

「ぇ・・・」

 

 

一瞬、わが耳を疑った

聞き間違いだと思った

 

「太公望・・・?」

 

「そうじゃ・・・覚えたか?」

 

 

だけど、それは違った

彼は確かに、自身を【太公望】だと名乗ったのだ

 

覚えてる

この名前・・・彼が自分の名だと名乗ったこの名前

 

私は、この名前を知っている

 

「嘘でしょ・・・」

 

 

【太公望】

頭の中に何度も響く、彼の名前

そのときのことを、私は一生・・・忘れることはないだろう

 

 

あの青空の下

晴れ渡る空の下

 

私は・・・一人の“賢者”と出会った

 

真紅の瞳を持つ、美しき賢者に

 

この出会いが何を意味するのか・・・どうなってゆくのか

この時の私は、まだ何もわからないでいた

 

太公望

 

そう名乗った彼は、私に向かい・・・優しく微笑んだ

その微笑に、その真紅の瞳に

 

私は、また見とれてしまう

 

そんな私をおかしく思ったのか、彼は何やら心配そうな眼を向けてくる

 

大丈夫・・・私はいたって正常だ

そう、いつも通りだ

 

なら・・・・・・・この気持ちは何?

 

この不思議な感覚は、いったいなんなの?

 

わからない

 

わからないから、私は知りたい

 

私は、もっと彼のことが知りたい

 

そう思ったの・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

「・・・ってことなんだけど、わかったかしら?」

 

「うむ、大体は把握した」

 

 

ワシの隣に座る孫策・・・雪蓮の言葉に、ワシは頷く

その後ろにいた黄蓋が感心したように『ほぅ』と声をもらす

 

「たったあれだけの説明で、大体を把握するとはのぅ・・・」

 

「なに、それくらいなら簡単じゃ

もともと、“そういうこと”ならワシの得意分野じゃしな」

 

そう、頭を使うことならばワシの得意分野

そこらの者に負けてやる気などない

今ワシは、雪蓮から色々と・・・『この世界』のことについて聞いておった

どのような場所なのか、どのような文化があるのか

そして、今はどのような世の中になっておるのか

 

聞いていくうちに、ここがワシが元いた世界とよく似た世界じゃということがわかった

 

文化や食生活、衣服や建物の構造

聞けば、どれもワシがいた世界とよく似ているものが多い

 

そして、ワシがいた世界にはなかったもの・・・『真名』の存在

 

これはどうやら、親しき者・大切な者にしか教えてはならん神聖な名前らしい

らしい・・・というのも、教えてくれた本人があんな簡単に預けてきたところを見ると少し怪しいところじゃが

まぁとにかく、むやみやたらに口に出せるものでないということじゃな

 

「やれやれ・・・面倒じゃのう」

 

「ん? どうかしたの、望ちゃん?」

 

「なんでもない・・・って、なんじゃその慣れなれしい呼び方わ」

 

「こう呼んだほうがなんか可愛いかなって♪」

 

「勘弁してくれ・・・」

 

 

一瞬、ずきりと頭が痛んだ

その痛みと共に、浮かぶ姿に・・・胸が痛む

 

 

 

『こんなところにいたんだね・・・望ちゃん』

 

 

 

まさか、“お主”まで重なって見えるとはな

 

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」

 

「ああ、大丈夫じゃ

はよう続けてくれ」

 

「じゃ、続けるわよ?」

 

「うむ」

 

 

続けて雪蓮の口から語られるのは、今のこの国・・・『漢』の現状

 

今の国の実権は、皇帝ではなくその臣である【宦官】

その中でも特に力のある【十常侍】と呼ばれる輩が握っておるらしい

つまり、帝はいまただのお飾りに成り下がっておるというわけじゃ

 

まったく・・・

 

「許せんのぅ」

 

「うむ、まったくじゃ

十常侍の輩のやることは、目にあまる」

 

 

ワシの言葉に、後ろにいる黄蓋が溜め息を吐く

 

ふむ、なにやら勘違いしておるようじゃの

 

「違う・・・ワシが許せぬのは、十常侍ではない

むろん、そやつらもほってはおけぬがな」

 

「む・・・ならば、何が許せぬというのじゃ?」

 

「そうね、是非聞きたいわ」

 

黄蓋の言葉に、雪蓮も興味を示してきた

しかも、なぜか楽しそうに

 

まぁ、よい・・・答えてやるか

 

「ワシが許せぬのは他でもない・・・帝じゃよ」

 

「なんじゃと!?」

 

「へぇ~・・・」

 

そう、ワシが一番許せないのは帝じゃった

そもそも、政はおんぶに抱っこでは絶対にやっていけんものじゃ

それを、自分からは一切口に出さず臣に任せきりなど・・・呆れてものもいえん

 

まぁ、しかし・・・もし仮に、『何らかの理由』で政に口が出せぬとあればまた状況がちがってくるんじゃが

 

「ふっ、何を深く考える・・・もうワシには関係のないことじゃろうに」

 

「いかがした?」

 

「ああいや、聞かなかったことにしてくれ

この国のことなど、ワシがどうこう言えた義理はないからのぅ」

 

そうじゃ・・・もうワシには関係のないことじゃ

 

ワシがここでやるべきことは、たったひとつ

たったひとつだけじゃ

 

 

ワシは・・・己の背負った“罪”を償う

 

ただそのためだけに、ここに来たんじゃから

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

悪いのは、十常侍だけじゃない

好き勝手やられてるのに、それに口出ししない帝も悪い

望ちゃんの言ったことは、私が思っていたこととまったく一緒だった

 

祭なんて考えの古い人間だから、こんなことを言うと怒るのだけど・・・その祭よりも遥かに古い人間のはずの彼がそう言うなんて

 

それに短い説明にも関わらず、要点を確実におさえている

お世辞にも、私はそんなに何かを教えるのが上手いっていうわけじゃないのに

 

流石は、【太公望】といったところかしら

 

なんてかっこつけて言ってみるけど、正直そんなのは私にはどーでもいいことだわ

 

ただ、【望ちゃん】と同じ考えだった

それだけで、私はすごく嬉しかった

 

それと同時に・・・思ったの

 

彼なら・・・望ちゃんならもしかして

 

私の・・・私達の【夢】

それを叶える為に、力を貸してくれるかもしれないと

 

そう思ったんだ

 

「ねぇ、望ちゃん」

 

「なんじゃ・・・というか、望ちゃんはやめんか」

 

「いいじゃない、別に♪

それよりも、私達のことをさっき話したわよね」

 

「うむ、確か今お主等は袁術とかいう輩のもとにおるのじゃったな」

 

「そうよ・・・」

 

私達・・・孫家については、もう彼に話してあった

私達が今、どのような状況にあるのか

 

家族・仲間から引き離され、ていのいい駒として扱われている事を

 

 

「でもね、私達はこのままで終わるつもりはないわ」

 

「っ・・・まさか策殿」

 

「なんじゃ、どうかしたのか?」

 

私が言おうとしていることに気づいたのか、祭は慌てて私の方を見てきた

 

祭・・・そのまさかよ♪

 

「望ちゃん、もう一度言うわ

私はね、このままで終わるつもりはないわ

このままあいつらに、私達の【家】で好き勝手させるつもりなんてない

ここに住む人たちの笑顔を、私たちは奪わせなどしない」

 

そうよ・・・このまま終わるわけにはいかないのよ

仲間を、家族を、民の笑顔を取り戻すためにも

 

私たちは、戦わなくちゃいけないのよ

だから・・・

 

 

「望ちゃん・・・貴方の力を貸して欲しいの」

 

 

吐き出した想い

 

精一杯に伸ばした手

 

お願い、望ちゃん

 

この手を・・・掴んで!!

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

似ていた

 

透き通るような声も、身に纏う雰囲気も

 

内に秘める、温かく真っ直ぐな想いも

 

何もかもが・・・お主と似ていた

 

そして、伸ばされた手

 

 

『こいよ・・・兄弟

俺と一緒に、天下丸ごと救ってやろうぜ』

 

 

 

よぎる言葉

大切な言葉

 

ワシは・・・

 

「雪蓮・・・」

 

ワシの答えは・・・

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

~荊州南陽、孫策の屋敷

 

 

「やっと帰ってきたか、雪蓮よ」

 

屋敷の前、冥琳からの言葉に私は苦笑する

日はもう落ちきっている・・・どうやら、心配になって待っていてくれたみたいだ

 

「ごめん冥琳、ちょっと色々あってさ」

 

『ね、祭』と私がふると、彼女も首を縦に振る

それから馬からおり、私の馬と自分の馬を連れ屋敷に入っていった

 

「まったく・・・日が落ちるまでには帰ってこいといっただろう?」

 

「ごめんってば、ほんとに色々あってさ」

 

そうだ、本当に色々あった

こうして、時間を忘れてしまうくらいに・・・色々と

 

ふと私は、自分の右手を眺める

 

私の手、伸ばしたはずの手

 

「色々か・・・貴女がそんなに元気がないことと、関係してるのかしら?」

 

「あはは・・・まぁ、そんなところかな」

 

冥琳の言葉に、私は思い出す

 

あの真紅の瞳を・・・・

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

~数時間前

 

『ワシは・・・その手を掴むことはできん』

 

『え・・・?』

 

そう言って彼は・・・望ちゃんは、私から目をそらした

そのとき一瞬だけ見えた彼の瞳が、ゆらりと揺れる

私はゆっくりと伸ばしたてを戻し、彼を見つめた

 

『どうして?』

 

『ワシは、ワシにはそのような資格はないからじゃ』

 

泣きそうな、いやもしかしたら泣いてるのかもしれない

震える声で、彼は語りだす

 

『ワシには、罪がある・・・償わなくてはならん、大きな罪が』

 

『大きな罪?』

 

『うむ』

 

彼の・・・罪?

 

彼は、【太公望】は英雄だったはずだ

 

それこそ、国を救って見せた本物の英雄

 

そんな彼の罪・・・?

 

『今でも思い出す

かけられた声、向けられた笑顔

そして・・・』

 

 

~伸ばされた手・・・掴んだ手を~

 

『・・・!』

 

『それなのに、ワシは一人生きておる

繋いでいた手が減っていくなか、ワシは最後まで生き残ってしまった』

 

彼は見つめていた

自分の手を、そして私の手を

 

何度も、何度も・・・

 

『そんなワシに、もう他人と手を繋ぐ権利などありはせん

ワシの残りの命は、せいぜい死んでいった者のため・・・罪滅ぼしのためにつかう』

 

『・・・んなの』

 

なに、それ?

 

なんなのよ、それ?

 

 

『そんなの・・・貴方が一人で背負う必要はないじゃない!!』

 

『!?』

 

私は叫んだ

鳥がいっせいに羽ばたいていったが、そんなの気にしない

 

『大体なによ! 

貴方のそれは、ただ恐いだけでしょ!?

繋いだ手がまた傍からなくなるのに怯えてるだけよ!!

それを、罪滅ぼしだのなんだのと死んだ人を言い訳に使ってるだけじゃない!!』

 

『策・・・殿』

 

 

 

わかってる

 

望ちゃんはきっと、思い出したんだ

 

私が伸ばした手を見て、自分が掴んだ手を・・・思いだしてしまったんだ

自分の前から消えてしまった、大切な手を

 

だから、掴まなかった

 

いや、掴めなかったんだ

きっと彼は、そんなことを繰り返してきたんだろう

また目の前から消えてしまうのが恐くて

 

亡くしてしまった命を、言い訳にして

 

だけど・・・それじゃ駄目なのよ

 

 

『それじゃぁ貴方は、いつまでたっても前には進めないわ』

 

いつまでも、いつまでも同じ場所で苦しみ続ける

 

そんなの・・・

 

『そんな貴方の姿を、貴方と手を繋いでいた人たちは・・・望んでいたの?』

 

『雪蓮・・・』

 

望ちゃんは優しい

ついさっき会ったばかりの私でもわかってしまうほどに

 

そんな彼と手を繋いだ人達だ

 

願わないはずがない

想わないはずがない

 

彼が、また笑顔で歩んでいくその姿を

 

だから・・・

 

 

『もう一度、歩いてみない?

何も罪滅ぼしをやめろって言ってるわけじゃない

ただそれは一人で背負う必要もなければ、ましてや貴方がそのために幸せになっちゃいけない理由なんかにはならないわ

だから・・・一緒に考えてあげる』

 

 

そう、一人で悩む必要なんてないんだ

一人で、全部背負う必要なんてないんだ

 

一人が大変だったら二人で

二人でも苦しかったら三人で

それでも駄目だったら、もっと沢山の人と

 

私たちは、手を繋いでいけばいいんだ

 

だから・・・

 

 

『大丈夫よ、私はそう簡単に消えてなんてあげないから♪』

 

もう一度差し伸べる

 

彼に、望ちゃんに向かい

 

『一緒に生きましょう・・・望ちゃん』

 

長い沈黙

いや、もしかしたらそれはほんの少しの時間だったのかもしれない

そんな沈黙の中、彼がゆっくりと手を伸ばしてくる

 

小さく震えるその手

 

望ちゃんはそれを・・・

 

 

『ありがとう、雪蓮』

 

 

スッと・・・引いたのだ

 

笑顔で、もう震えのないその手を

 

『お主の言葉を聞いて、ワシは・・・目が覚めた

確かにワシは、甘えていたのかもしれん

恐かったんじゃ、目の前から大切な者が消えていくのが・・・恐かったんじゃ』

 

かみ締めるように言う望ちゃん

そう言って望ちゃんが見上げた空は、微かに赤みがかっていた

 

『それをわしは死んだ者のせいにし、ひたすらに距離をとりつづけた』

 

 

~そんなの、あやつらは望んでいないのに・・・~

 

 

『だったら・・』

 

『じゃからこそ、おぬしの手をとることはできんのじゃ』

 

『・・・望ちゃん』

 

私の言葉をさえぎる望ちゃん

彼はそれから、照れくさそうに頬をかく

 

『あ~・・・今のままじゃと、ワシは恐らくお主に甘えてしまう

それじゃ駄目なんじゃ』

 

『あら、別に甘えてくれてもいいのに♪』

 

『それじゃ駄目なんじゃよ

雪蓮・・・いや、孫伯符よ』

 

『なにかしら?』

 

突然・・・彼の雰囲気が変わる

先ほどまでとは違う、彼の雰囲気に私は唾を飲み込んだ

 

『今はまだ、おぬしの手は握れん

このままお主の手をとっても、ワシはきっと何も変われんと思う

じゃから、しばし時をくれんか?

ワシが再び歩き出す、そのための覚悟を決めるための時を』

 

『あら、ということは期待してもいいのかしら?』

 

『ふっ・・・どうじゃろうな』

 

お互いに顔を見合い、そして笑いあう

祭はこの展開についていけないのか、ぽかんとしていた

 

 

『じゃがそうじゃな・・・約束の証として、これを渡しておこう』

 

そういって、がさがさと懐を漁る彼

やがて懐から一冊の古ぼけた本を取り出すと、それを私にむけ放り投げる

私はそれを、なんとか受け止めた

 

『わっと・・・これは?』

 

『ワシが書き綴った書じゃ

名を【六韜】という

お主が目指すことの役にたつやもしれん』

 

“それと”と、望ちゃんはぴっと指をたてる

 

『天下の将とは・・・【冒刃・陥陳・勇鋭・勇力・冠(当て字)兵・死闘・死憤・必死・励鈍・倖用・待命】、これらを備えたる者じゃ』

 

『いきなりなに?

それに、そんな奴・・・』

 

『うむ、はっきり言ってそんな万能な者おらんじゃろうな』

 

『むぅ・・・なら、何が言いたいのよ?』

 

私の言葉に、望ちゃんはふっと微笑む

それから、私を指差してから・・・こう言ったのだ

 

『雪蓮よ・・・仲間を集めろ

一人に全てを求めずに、多くの仲間を集めるのじゃ

それらが合わされば、立派な天下の将となるじゃろう』

 

『あ・・・』

 

なるほど

一人にそれら全てを求めず、一人に少しずつ求めていく

 

それは確かに一人だと小さな力かもしれない

だけどそうやって集まった仲間が力を合わせれば・・・誰にも負けない、大きな力になる

 

『あはは・・・流石は太公望ってとこかしら』

『何かいったか?』

 

『いいえ、気にしないで

ありがとう望ちゃん、なんだかやる気が出てきたわ』

 

『うむ、ならばよかった』

 

うん・・・ここで望ちゃんの手を繋げなかったのは残念だけど

 

約束したから

 

 

『望ちゃん、私は待ってるわよ

貴方が集めろっていった仲間のうちの一人に、貴方もはいってるんだから♪』

 

『ははは、それは責任重大じゃのう』

 

 

だから・・・

 

 

『絶対に、私は諦めないわよ【太公望】』

 

『ならば期待に応えてみせよう、【孫策伯符】よ』

 

 

 

ーーーー†ーーーー

なんてことがあってから、屋敷に戻った時にはもう日は落ちきっていた

 

おかげで、冥琳からの長い説教が待っていたわけで

それもようやく終わり、今は部屋で冥琳に今日のことを話していた

 

「しかし・・・太公望か

時を越え、やってきたとでもいうのか?」

 

「さぁ? 

そのへんはよくわからないわ

本人にいたっては、ここが自分のいた時代の未来の姿だってことに気づいてなかったみたいだし」

 

私が渡した【六韜】を見ながら、冥琳は言った

その言葉に、私は苦笑する

 

そういえば、そのことを望ちゃんに言ってなかったなぁ

まぁいっか、そのうちわかるだろうし

 

「でも・・・私は本物だと思うな」

 

「勘か?」

 

「そ♪ 勘よ♪

というよりも、話してみれば冥琳だってそう思うはずよ

そもそも幽州のほうでは“天の御遣い”とかいう胡散臭いのが降り立ったっていうじゃない

それに比べれば、こっちのほうが本当っぽいでしょ?」

 

「なるほどな・・・少なくとも、これは【本物】だとは思うが

多少の差異も、これが原本だというのなら納得できる

それに、これは何度も書き直しまた試したということまで書いてある」

 

「あら、それなら【穏】にでも見せてあげようかしら」

 

「っ、死ぬ気か雪蓮!!!!」

 

「ちょ・・・冥琳必死すぎ」

 

今の反応だけで、これがどれほどすごい本なのかということが理解できた

 

冥琳から受け取ったそれを、私はぎゅっと抱きしめる

「望ちゃん・・・私、待ってるからね」

 

貴方が・・・私の手を、掴んでくれるのを

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

「よい月じゃ」

 

夜空を見上げ、太公望は呟く

その手には、紅く・・・真紅の宝石が握られていた

その宝石を見つめながら、太公望はふっと苦笑する

「ワシは・・・本当に馬鹿じゃった

お主等のせいにして、一人でウジウジ悩んで

本当に・・・愚か者じゃ」

 

その言葉のあと、思い出すのは一人の女性

真紅の衣を身に纏った、美しき姫君

 

真紅の姫君

 

「本当に、お主によく似ておる

じゃが・・・奴は、“雪蓮はお主じゃない”

似ているが、確実に違う

彼女は孫策伯符・・・お主以外でワシの心を、こんなにも揺さぶる者」

 

 

~ワシが・・・お主以外で、唯一支えてみたいと思った者

 

じゃから・・・・~

 

 

「【姫発】よ・・・ワシはまた、歩き出してみようと思う」

 

 

 

~険しい道のりになるだろう

 

もしかしたら、裏切り者と言われることもあるかもしれない

 

もちろん、目的だって果たしてみせる

 

そのうえで・・・~

 

 

「ワシも・・・幸せというやつを、探してみてもいいかのう?」

 

誰一人いない森の中

 

彼の問いに答えるものはいない

 

だが、それでもかまわなかった

 

今はただ、歩いていく・・・そのことだけ考えていればいい

 

 

 

『歩けばいい・・・歩き続ければいい

そうすればよ、答えなんて案外そこら辺に落ちてるかもしれないだろ?』

 

 

 

 

それは遥か昔・・・彼の大切な者が残した言葉

 

 

「ああ、歩いてやるさ

この世界で、ワシは歩き続けてやる」

 

 

彼は、ゆっくりとその物語のなかを歩き始めたのだ

 

“真紅の君”

 

賢者の瞳が、大きく揺らいでいた・・・

 

 

 

★あとがき★

 

さってと、ある意味でこの物語はまだまだ序章です

いえ・・・もしかしたら“真紅の君”は、それ自体が序章なのかもしれません

 

ま、まだまだ先のお話でしょうがww

 

それでは、またお会いしましょう


 
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