No.188069

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第一章・第三幕 『黄演終劇(前編)』

狭乃 狼さん

北朝伝、黄巾編三幕目です。

副題については、まあ、気にしないでくださいw

ある情報を元に、ついに行動を開始する一刀たち。

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2010-12-05 11:17:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:28180   閲覧ユーザー数:20574

 そこは、鄴と平原の郡境に位置する小高い丘の上。蒼天の下、黒地に白十字の牙門旗が、その地に揚々とはためいている。

 

 「……これが、袁紹さんの返事、ですか」

 

 怒りと呆れ。その双方を含んだその声を、一刀は眼前の二人に対して投げかける。

 

 『…………』

 

 一刀のその背後には、徐庶と姜維、徐晃の三人が並んで立ち、さらにその後方には、蒼色の鎧を身に着けた鄴郡所属の兵二万が、整然と隊伍を組んでいる。

 

 その反対側――。つまり一刀の正面には、金色の鎧を身に着けた二人の女性が、その顔に無念の表情を浮かべて立つ。

 

 一人は、腰まで届くほどの長いストレートの黒髪と、その紅い瞳が特徴的な、長身の美女。姓は張、名は郃、字を儁艾。

 

 もう一人は、その張郃の半分ほどしか背丈のない、首から下を全身鎧で覆った、童のようにも見える少女。姓は高、名は覧という。字はない。

 

 二人とも、南皮を治める袁紹配下の将であり、一刀たちへの援軍として、この地に現れていた。二人の背後に居並ぶ、”五千”の兵を連れて。

 

 「……俺たちはこれから、”十万”の兵と、黄巾の”首謀者”達が居る地を、攻め落とそうとしているんです。今回の乱を、早急に終わらせる好機と判断したからです」

 

 二人を冷たい視線で見据えたまま、一刀は務めて冷静に、その口から言葉を紡いでいく。

 

 そう。姜維とその配下の者たちの調べにより、現在黄巾の支配下にある平原に、その首領と思しき”三人”が来ていることを、一刀たちはほんの数日前に知ったのである。

 

 黄巾の乱を終わらせる、絶好のチャンスだと、一刀は平原攻略を決断した。だが、その彼我戦力は火を見るより明らかだった。

 

 平原に集結している黄巾軍十万に対し、鄴の戦力はわずかに三万。それも、万が一のことを考えると、すべてを動かすわけにはいかない。

 

 「さきに投降して来た彼らは、いまだ戦力として見込めませんし」

 

 と、徐庶がそんな事をぼやく。

 

 それは、この二日前の出来事。

 

 

 

 再び鄴郡に現れた賊たちの討伐に、一刀達はすぐさま対応すべく動いた。”以前”のような事態を、二度と起こさないように。ところが、いざその賊たちと遭遇し、一刀が名乗りを上げたその瞬間、予想外の事態となった。

 

 賊たちが、一戦も交えることなく、降伏してきたのである。

 

 「……あの時の事が、思わぬ形で返ってきたな」

 

 と、少々拍子抜けした一刀の隣で、徐晃がそうつぶやいた。

 

 その後、降伏してきた者たちの内、半分は農民に戻って働くことを望み、残りが兵として、組み込まれることになった。そして現在は、街に残っているある一人の”将官候補”の指導の下、訓練の真っ最中である。

 

 それはともかくとして、戦力不足を補うために一刀たちが選んだのは、同じ冀州の一郡である、南皮の袁家に援軍を求めることだった。

 

 そしてその結果、一刀たちの下に現れたのが、張郃と高覧の二人と、五千の兵だったのである。

 

 一刀達は、心底から失望した。四世に渡って三公を輩出してきた、世に名門と名高い袁家。

 

 所詮、それは名ばかりのものだったのか、と。実際、事前の調べでは、南皮には戦闘可能な戦力が五万は居たはずである。なのに、送られたきたのはそのわずか十分の一だけなのか、と。

 

 「どうやら、袁紹どのには、本気で今回の乱を終わらせる気が無いと見える」

 

 「蒔ねえの言うとおりやな。こんな大事なときに、兵の出し惜しみなんかして。……あんさんらの大将は何を考えとんねん?」

 

 と、言葉は静かに、その怒りは明らかに。袁家の二将に対してそう言い放つ姜維と徐晃。

 

 『…………』

 

 それに対し、二人は何も言い返さずに居た。ただうつむき、その唇をかみ締めている。その両の拳を、思い切り握り締めたままで。

 

 「二人とも、少し落ち着いて。「しかしな」「せやけど」いいから。……張将軍、高将軍。そちらがわずかに五千しか兵を出してこなかったその理由、お伺いしてもよろしいですか?」

 

 怒り心頭、といった感じの姜維と徐晃を制し、一刀が二将にそう問いかける。それに対する二人の答えはというと。

 

 「……色が……です」

 

 「?色が……なんです?」

 

 「その、兵の鎧の色が、地味すぎる、と」

 

 「……え~っと。それは、どういう……」

 

 張郃と高覧の、その言葉の意味がわからず、首を傾げてさらに問い返すのは、徐庶。

 

 

 

 「名門たる袁家の兵は、装備もやはり、それにふさわしいもので無ければならない、と。……それで、すべての兵の鎧を、金無垢で統一してからでなければ、私は決して戦に出て行くことは無い、と。……そう、おっしゃっておいででして……」

 

 『……(ぽか~ん)』

 

 開いた口がふさがらない、とはよく言ったものである。一刀達は正にそんな状態、そして心境であった。

 

 「……なんかもう、あほらしゅうて怒る気ぃも失せたわ」

 

 「そうだな。……張郃どの、高覧どの。……大変だな、あんたたちも」

 

 『御同情、痛み入ります……』

 

 半分涙目になっている二人に対し、先ほどまでの怒りを一転、哀れみの目を向ける徐晃と姜維であった。

 

 「……とりあえず、そちらの事情は承知しました。ですがお二人とも、後ろの兵士たちを見る限り、別段代わり映えはしていないように、見受けられますが?」

 

 「そうですね。思いっきり地味~な、黄色の鎧ですし……。まさか、とは思いますけど、お二人は袁紹さんの許しを得ず、独断で動いてきた、なんてことは……」

 

 『……』

 

 徐庶の問いに何も答えず、ただうつむくだけの二人。それは、彼女の憶測を認めたと同義であった。

 

 「……なんともはや。その心意気は買うが、それでも、主の意向を無視して、勝手に出てきた連中を使ったとなると、後々面倒なことにならないだろうか?なあ、一刀?」

 

 「それは別に心配せんでもええんやないの?”勝手に”出てきた連中が、”勝手に”ウチらと同じところで戦うた。で、”たまたま”思うた通りに動いてくれた。そんだけや。な?輝里」

 

 詭弁。

 

 そんな言葉を知っているかと、徐庶に問われ、何のことやらとそっぽを向く姜維。そして、やれやれと肩をすくめる一刀と徐晃。そして、ぽかん、と呆気に取られる張郃・高覧の二人であった。

 

 「……ま、そういうことだから、もしこのまま、お二人が”勝手に”手伝ってくれるのなら、俺たちにはそれを止める権利は、ありはしません。……どうしますか?お二人とも?」

 

 一刀のその問いに、少しだけ互いの顔を見合わせた後、張郃と高覧は笑顔になって、

 

 『……喜んで、”勝手に”働かさせていただきます!!』

 

 と、答えたのであった。

 

 

 

 

 ちょうどその頃。鄴郡内のとある邑。その中の宿の一室にて。

 

 「ぜーんぜん、駄目じゃないよ~、人和~。みんな、歌は聞いてくれるけど、その後の話はこれっぽっちも聞いてくんないじゃないの~」

 

 と、机に突っ伏し、そう愚痴る三姉妹の次女・張宝。

 

 「……そうね。それどころか、黄巾の”こ”の字でも口にしようものなら、ものすごい白い目を向けられるんだもの」

 

 はあ~、と。頬杖をついてため息を漏らすのは、三女の張梁。

 

 「この郡の人達、今の太守さんがすっごい好きなんだね。……おねえちゃん、ちょっときょーみが湧いたかも」

 

 と、一人だけ嬉々としているのは、長女の張角。

 

 スポンサーである張挙の指示を受けて以降、彼女たち張・三姉妹は、鄴の”街”を避けて、各地に点在する”邑”のみで、興行を打ち続けて来た。だが、その成果は芳しくなかった。人々は、彼女たちの歌にはその耳を傾け、聞き惚れこそするものの、いざ黄巾軍への助力を、という話を始めると、途端にその態度を百八十度変え、彼女たちを激しく非難し始めるのである。

 

 いわく、

 

 「誰が賊なんぞに手を貸すか!」

 

 「太守さまに歯向かう?そんな罰当たりで恩知らずなこと、できる訳が無かろうが!!」 

 

 「北郷さまは私たちを第一に考えてくれる、とっても素晴らしいお方よ!ふざけるもの大概にしてよね!!」

 

 などなど。

 

 一刀を擁護する声が、そこかしこから挙がってくるのである。

 

 「正直言って、これ以上鄴郡での興行は難しいわ。そこでね、これから平原に向かおうと思うの」

 

 『平原に?』

 

 と、声を揃えて張梁の考えに首をかしげる、二人の姉。

 

 「そう。あそこには今、張挙さんたちが揃って出張ってきているそうだから、今後のことを直接話し合いたいと思うの。どうかしら、天和姉さん、地和姉さん?」

 

 「……そうだね。わたしも、それが良いと思う」

 

 「あたしもさんせー。ていうかさ、あたしらいつまで、連中の言う事を聞かなきゃなんないの?」

 

 「……もう暫くは、続けるしかないと思う。……それじゃ、明日の朝一番で、平原に向けて出発しましょう」

 

 折も折り、一刀たちが平原攻めを開始しようとしていた矢先。彼女たちもまた、平原に向かうことになった。

 

 そしてさらに、同じ地を目指す、別の一団がいた。

 

 

 

 「なあ、賈駆っち。ホンマに、これで終わるんやろな?」

 

 「安心なさいな。ボクの情報に間違いは無いわよ。……それよりも霞、あの馬鹿の手綱、ちゃんと握っておきなさいよ?もしもまた」

 

 「そないしつこう言わんでも、ようわかっとるって。……にしても、なんで月っちまで一緒について来んねんよ?戦なんか嫌いなはずやろに」

 

 チラ、と目線だけを後方の馬車に移す、霞と呼ばれたその女性。

 

 「止めたんだけど全然聞かないのよ、月ってば。……太子さまと、何か話していたのは、知ってるんだけど」

 

 その女性同様、視線だけを馬車へと送る、賈駆と呼ばれた眼鏡の少女。

 

 その馬車の横には、紫色のビキニのような鎧を身に着けた女性が、柄の長い斧をその手に携えて並走し、周囲に警戒の気を配っている。そしてその馬車の中では、一人の少女が一本の竹簡をその手に持ち、こうつぶやいていた。

 

 「……殿下のご友人、北郷一刀さん、か……。へう~。どんな人なんだろうな……」

 

 

 その一団の先頭に、紫色に染め上げられた、少女の牙門旗が翻り、風を受けて静かにはためいていた。

 

 『董』と書かれたその牙門旗。

 

 それは、涼州刺史・董卓仲頴、その人のものであった。

 

                                ~続く~

 

 

 

 あとがき

 

 「の、コーナーでっす。どーもー!一刀さんの正妻、輝里で~す!!」

 

 「輝里・・・ケンカウットンノ?・・・由や。よろしゅうに」

 

 (こそこそ)

 

 「またんかい、作者。どこいくんねん」

 

 ・・・病院ですよ。こないだ誰かさんが”責めて”くれた部分。思ったより酷い事になってたしね。

 

 「ほ~う。ウチのせいやと。・・・”また”掘ったろか?」

 

 「ちょっと、由。んなことして八つ当たりばっかしてたら、本当に一刀さんと・・・はなくなっちゃうかもよ?」

 

 「む。・・・ち、しゃーないな。こら作者、早いとこウチの順番、回しいや?でないと・・・」

 

 わ、わかりました・・・。黄巾編終わってからってことで、ここは一つ・・・。

 

 

 というわけで、今回のお話、いかがだったでしょうか?

 

 「いよいよ次回、大規模な攻城戦ですね」

 

 「せやな。天和たちもあそこにやってくるみたいやし、それに」

 

 「月さんたちも、同地へと歩を進めてるね。・・・次で決着つくのかな?」

 

 そこはまだ秘密。もしかしたら、三部位に分けることになるかも。というわけで、今回は予告無しで、ご勘弁を。

 

 「じゃ、みなさん、コメントなどなど、たくさん、お待ちしておりますね」

 

 「支援もポチッと、してやってくれたら、作者が喜ぶんで、よろしゅうに」

 

 それではみなさん、また次回にて、お会いしましょう。

 

 

 『再見~!!』

 

 


 
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