「何、釣りに行こうだと?」
曹操を撃退して溜まりに溜まった案件を雪蓮がほったらかして、それを片付けている私に驚きと呆れを与えた男、北郷一刀が執務室に入ってくるなり言った言葉が「釣り」だった。
曹操との戦いの際、刺客に狙われた雪蓮をかばって毒矢に刺され倒れたのもまだ記憶には新しい。
自分が刺されたというのに、動揺していた雪蓮を諌め戦場に向かわせたと聞いた時は成長したものと思ったものだ。
毒を抜くために自らの腕に刃を立て、肉を抉り、その場にいた雪蓮でさえ「あんな事しないわ」と言わしめた北郷の行動が功を奏したのか、北郷は一命を取り留めた。のだが………
僅かに残った毒と毒を抜くのにとった行動のせいか、治療を受けると北郷は倒れた。
目覚めるかどうか、と聞かれれば正直分からなかった。
もしかしたら二度と目覚めないかもとも思った…。
けれど…
「一刀は起きるわ、必ずね。」
なんて我らの王が言うのだから、皆それを信じるしかなかった。
まぁ北郷は無事目覚めたが、当分は安静を言い渡されていた。筈なのだが……
「ほら、ずっと寝てると体鈍っちゃうし、リハビリも兼ねてさ。」
「りは……びり……?」
多分天の言葉なのだろう、私には理解出来ない言葉が出てきたが…
「絶対安静だと聞いているが?」
「冥琳だって雪蓮に政務に集中して欲しいんじゃない?」
雪蓮が仕事をサボっているのは--まぁ、いつもの事だが--北郷の看病をしているから。
北郷は自分の代わりに寝たきりになったのだから責任を取る、などと言ってずっと北郷の傍に居る。
確かに北郷の看病につきっきりな雪蓮を働かせるには看病されてる北郷が元気になればいい。
…成る程、賢くなったものだ。
「我らが王と軍師様に鍛えられましたから。」
真・恋姫無双 呉伝 ~誰にも負けるつもりは無い~
「しかし、私は政務の途中だったのだが…。」
あの後、私の手を取り誰にも告げる事無く城を出た私と北郷。
勿論、自分の分は終わらせているが雪蓮がほったらかした案件がまだ残っていた。
「それって雪蓮の分だろ?それなら大丈夫、書置きもしたきたし…。」
そう言って悪戯を成功させたような笑みを浮かべる北郷。
…皆はこの笑顔に堕とされたのだな。
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「ねぇ蓮華~、休憩しましょう~!?」
「まだ始めて全然経っていませんいよ、姉様…。」
「私には一刀の看病が……」
「その一刀が俺より仕事をしろ、と言ったんです。姉様の所にも書置きがあったでしょう?」
「うぅ~~、一刀のバカ~~~~!!」
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北郷が言うには蓮華様に監視兼手伝いを頼んだらしい。
もしそれさえサボるのなら酒を禁止する、という殺し文句も添えて。
これならば流石の雪蓮もサボるわけにはいかないだろう。
「雪蓮はいつも冥琳に任せすぎだし、たまには冥琳がサボるのもいいんじゃない?」
などと言って私の手を握りながら楽しそうに話す北郷。
…私の手を握り続けながら。
「なぁ、北郷。いつまで私の手を握っているつもりだ?」
言うと顔を朱に染め、手を離す北郷。
…ふむ、離れれば離れたで寂しいものだな…。
「ごめん、その……」
「何、気にはしていないがそこまで露骨にされれば傷つくな。」
「えっ?いや、そんなつもりは……」
「ふふっ、嘘だよ。」
…確かにたまにはいいかもしれんな。
「何で俺は釣れないかなぁ~」
川に着き、座れそうな場所に腰を降ろし釣り糸を垂らす。
後は魚がかかるのを待つだけの釣り。
始めてから約半刻ぐらいがたったろうか。
私の竿にはおもしろいぐらいに魚がかかる。
対して北郷の竿には……
「前は釣れたんだけどなぁ~。」
…おもしろいくらいに魚はかかってなかった。
「魚たちもお前に釣られると危険だと感じてるんじゃないか?」
「…危険って何の危険だよ。」
「なんだ、知りたいのか?」
「……イエ、結構デス……。」
なぜだろう…
他愛の無い会話なのに心が弾む。
二人きりになる機会など今では滅多にないからか、間を持たせるのが難しい。
隣にいる男の顔を見る事ができない。
…私は何故こんなにも北郷のことを意識している?
…成る程、つまりは私も北郷によって堕とされていたわけか。
皆のことを言えたことでは無かったな。
「……琳?………冥琳!?大丈夫か?」
「…!?あぁ、すまない。大丈夫だ。」
どうやら気付かぬうちに考えに没頭していたらしい。
北郷が話しかけていたことに全くわからなかった。
「…本当に大丈夫か?何ならもう帰るか?」
「大丈夫だと言ったろう?…それよりもだな、北郷。」
「私を釣りに誘った真意は何だ?」
北郷の体がびくりと震えた。
…やはり、何か他意があったか。
「な、何言ってんだよ冥琳。リハビリだって言った…」
「りはびり、と言うのが何を指すのかは知らんが別に私を誘う必要は無かった筈だ。それこそ雪蓮を誘えばいい。」
そう、遊ぶということに関しては私より雪蓮のほうが優れている。
…まぁあまり優れていてほしくは無いが。
「それは…そのだな…」
「まぁ別に怒りはしないが、隠し事をされるのはあまりいい気分ではないからな。」
「……ほんとに怒らないか?」
「あぁ、私は寛容だからな。」
なんて言ってみたが皆から好かれている北郷が何故私を選んだのか。
…それが単純に知りたかった。
「あのさ…俺って寝てただろう?それで目が覚めた時、真っ先に思い浮かんだのがさ…冥琳だったんだ。」
雪蓮でも無く蓮華様でも無く、私が思い浮かんだという北郷。
「けれど冥琳が見舞いに来る気配は無いしさ、皆は来てくれるけどなんか寂しいって言うかなんというか……。まぁ雪蓮のせいって後で分かったんだけどね。」
仕方ない、と頬を掻きながら苦笑を浮かべる北郷。
確かに忙しくて北郷の見舞いに行けなかったが、今はそれが悔やまれる。
「だからさ、待つよりも行動してみたわけです。」
まさか見抜かれるとは思ってなかったわけで。
全部洗いざらい話してしまえばなんとも恥ずかしいわけで。
この沈黙が何故か気まずいわけで。
俺としては何でもいいから喋って欲しいんだけど、冥琳が口を開く気配は無く、ただ沈黙が流れるだけで…。
どうして冥琳なのかって聞かれると俺にもわかんない。
目が覚めて今いる場所が自分の部屋、城だと気付いたときには無性に冥琳に逢いたいって思う俺が居て、けどその思いとは裏腹に逢えないのがもどかしくて。
だから、ある程度動けるようになってから冥琳に逢いに行った。
少しばかり雪蓮には悪いことしたかも知れないけどまぁいい薬だろう。
手を握ったのも久しぶりに冥琳に逢えたのが嬉しかったから。
誰にも言わなかったのは冥琳と二人きりがよかったから。
たまにはこんな我侭を言ってもいいだろう?
…いや、いつも我侭ばかりか。
「…なぁ北郷、さっきの言葉に嘘は無いか?」
「流石にこの雰囲気で嘘つける程強くないですよ、俺…」
沈黙を破ったのは冥琳。
…いや、顔近いッスよ、冥琳さん。
「冥琳?顔近い……」
…それから先の言葉は続かなかった。
冥琳の顔が目の前にあって、俺の唇を冥琳がふさいでいるから。
よく漫画とかで「どれだけ時間が経ったか分からない」なんて表現があるけど今まさに俺はそれを体験している。
…ただ思うのは、ずっとこの時間が続けばいいと思った。
「おっそいわよ、一刀!!」
現在王座にて正座をさせられている一刀。
病み上がりにも関わらず抜け出し、帰りも遅くなったのだから当然といえば当然か。
「全く、心配かけないでほしいわよ。」
「雪蓮がそれ言う…?」
「何か言ったかしら…?」
「イエ、ナニモ…」
「まぁ策殿、北郷も反省しておるみたいだし、そこいらで…」
「祭さん、今すごく祭さんが輝いて…」
「今まで何をしていたかを聞き出そうではないか。」
祭殿の言葉に一瞬で灰と化した一刀。
やれやれ、仕方ない。か……
「雪蓮、一刀は病み上がりなのだからそこら辺でやめおけ。」
「……冥琳?あなた今…?」
「あぁ、それからいくらお前でも譲るつもりは無い。勿論皆にもだが…。」
負けるつもりなど更々無い。
ならば勝って一番を手に入れるのみ、なぁ一刀?
あとがき
お久しぶりです!!
まずは君の名を呼ぶの更新じゃなくてごめんなさい!
勿論更新はしますしネタがつきたわけではありません。
ただ…テストの間に数え切れないほどの妄想が思い浮かんだものですから…
とりあえずこの作品でニヤニヤしていただけたらなぁと。
短いですが今回はこれにて
また次回
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終わった…
テストと言う名の悪夢が終わりました!!
君の名を呼ぶも更新したいですし、溜まりに溜まった妄想もかいていきたいなぁ、なんて思ってます。