最近姉者がやけに嬉しそうな顔をするようになった。
あぁ、やはり姉者は可愛いなぁ…。
原因は分かっている、一人の男の存在が姉者のあの笑顔を生み出している。
名を北郷一刀、聖フランチェスカでかなりの人気を誇る青年。
…まぁ、本人は気づいてはいないらしいが…。
我ら、と言うより姉者も例外ではなく、彼に惹かれていた。
だが姉者は北郷と接点は無く、遠くから見ているだけ。だったのだが…。
『あの…大丈夫ですか…?』
たまたま通った道で姉者が躓き、捻挫したところに偶然、北郷一刀が現れた。
その後、北郷に肩を借りた姉者を近くの病院まで運び、病院に寄った事で夜も遅くなったことにより、寮まで送ると言ってきかない北郷と共に帰路につき女子寮で別れた。
それから北郷は我らの姿を見つけると話しかけてくれるようになった。
姉者はそれを大いに喜んだ。もちろん北郷の居ないところでだが。
素直になれない姉者も可愛いなぁ…。
そうして北郷と我らの間に接点がうまれた。
「それで今日は何があったのだ?姉者。」
「うむ、聞いてくれるか秋蘭よ。」
嬉々とした表情を浮かべる姉者。
まぁ最近の姉者がこのような顔を浮かべるような事柄など限られているが。
「秋蘭は明後日の休日が何の日か覚えているか?」
「…明後日?あぁ、我らの誕生日だろ?」
我らは双子の姉妹、だから誕生日も同じ日。
まぁ今の話しで大体は理解したが……。
「そうだ、一刀にそれを話したら祝ってくれると言うのだ。」
普段、北郷の前では「一刀」なんて呼ばないくせに、居ない時はしっかり下の名前で呼ぶ。
恥ずかしがりの姉者も可愛いなぁ…。
「そうか、よかったではないか姉者。」
こうやって姉者の喜ぶ顔が見れるのは私としても嬉しい。
…けれど、私の胸にはなぜか正体の分からないモヤモヤがあった。
姉者が北郷の話ばかりをするからか?
今までずっと二人だったのに北郷が入ってきたからか?
「……蘭?……るか?お………?」
ならばこれは北郷に対する嫉妬?
姉者を北郷にとられたしまったと思う嫉妬心なのだろうか。
「おい、秋蘭!聞いているのか!?」
姉者に肩をつかまれ、現実に引き戻される。
「…すまない、すこし考え事をしていた。」
「全く、もう一度言うからちゃんと聞いておくのだぞ?」
…姉者に注意されるとは、珍しい事もあるものだ。
夜が明けて翌日、姉者と登校していると、
「春蘭さん、秋蘭さ~ん!!」
と、我らを呼ぶ声がきこえた。
振り返ると向こうから走ってくる聖フランチェスカの有名人、北郷一刀の姿があった。
「お早うございます。朝早いッすね。」
北郷が追いついて三人並んで聖フランチェスカへと向かう登校背景。
周りの目が多少気にはなるが、姉者の笑顔が見れるならたいした問題では無い。
……そう思っていた。
いま、この場に居るのが何故か辛い。
昨日考えていた事のせい、と言うのもあるのだろう。
姉者と楽しそうに話しをする北郷を見る事が出来ない。
「北郷、一体お前はいつまで我らに敬語を使うのだ?…後さん付けも。」
「うえっ!?いやだって、お二人共俺より1個上ですし、敬語とか当たり前だと思うんすけど…」
「お前に敬語を使われるのは、こう……虫唾が走る。後さん付けも。だから敬語もさん付けも禁止だ!!」
「ええッ!?そりゃ理不尽ッすよ春蘭さん!?」
「何を言うか、なぁ秋蘭?」
「……………………」
「……秋蘭?」
「……………………」
「…秋蘭さん?大丈夫ですか?」
「……!?あぁ、大丈夫だ。すまない…。」
…またやってしまった。
今度は北郷の居る前で。
「ホントに大丈夫ですか?なんなら保健室まで送っていきますけど?」
北郷が私に手を差し伸べ話しかけてくる。
けれど、私は北郷の顔を見ることができない。
「心配するな、北郷。…姉者、済まないが先に行く。」
下を向きながら、早足でこの場を後にする。
一刻も早くこの場を立ち去りかった。
さらに翌日。
「大丈夫なのか、秋蘭?」
「あぁ、大丈夫だから姉者は楽しんで来てくれ。」
今日は我らの誕生日。
前に姉者が言っていたように北郷が祝ってくれるらしい。
だが…
「…そうか、ならしっかりと療養するんだぞ?」
そう言って姉者はドアをしめた。
…私は姉者に嘘をついた。
体調を崩してなんかいない、いたって健康だ。
ならどうして嘘をついたのか。
…簡単だ。
北郷に会いたくなかった。
北郷と話して楽しそうにする姉者を見たくなかった。
やはりこの胸のモヤモヤは嫉妬だったのだろう。
この世で唯一無二の姉者を取られた。
北郷を知って、ただ一人の姉が口にするのはアイツのことばかり。
私は部屋に篭り、ベッドの上で膝を抱える。
いつも隣にいる筈の姉者が居ないせいか、感じるのは‘寂しさ’
私ではもう姉者を振り向かせることは出来ない。
今姉者は北郷に夢中だからな。
そうして感じるのは‘悔しさ’
「全く、姉者が羨ましい……。」
…待て、何故いま私は姉者が羨ましいなどと言った?
姉者の何が羨ましいと思った?
…本当に胸のモヤモヤは北郷に対する嫉妬か?
ーーヤメロ、カンガエルナーー
…北郷に姉者を取られるのが悔しかった?
ーーキヅイテハイケナイーー
…本当に北郷と居て楽しそうにする姉者を見たく無かった?
全て……逆だったのでは?
この嫉妬は北郷ではなく、姉者に向いていたとしたら。
姉者といて楽しそうな北郷を見たく無かったとしたら。
姉者に北郷を取られたくなかったとしたら?
…つまりは、
私は北郷の事を…?
……まさか、姉者だけではなく私まで北郷に毒されていたとは。
いつからだろうか?
姉者とともにアイツを見ていた時からだろうか?
姉者がアイツの事を聞かせてきた時からだろうか?
接点を持ってからアイツと話し始めたときからだろうか?
…考えだしたらきりがないだろう。
まぁ、その、あれだ…、私は北郷が好きなのだろう。
結論を言えばそれになる。
だから、姉者と私と北郷の三人で居るのが辛かった。
私の知らない北郷の話をする姉者に嫉妬した。
姉者と楽しそうに話す北郷を見たく無かった。
「全く、ずいぶんと乙女だな。」
素直になれないのは、どっちなんだか…。
大きなため息を零し、窓の外を見る。
ずいぶんと暗くなったものだ。
「…しかし、姉者は随分と遅いな。」
いくら、姉者が北郷より強いからと言っても北郷も男だ。
まさか……
‘ピンポ~ン’
などと考えていたらチャイムが鳴った。
「…ようやく帰ったか、姉者。」
扉の鍵を開けてからふと思う。
あの姉者がチャイムなど鳴らすだろうか?
そして扉を開ければ………
「お届けもので~す。」
姉者を背負った北郷がそこに居た。
「すまなかったな、姉者が迷惑をかけた。」
姉者を部屋に寝かせ、リビングに待たせていた北郷に礼を述べる。
しかし、幸せそうに寝ている姉者も可愛いなぁ。
「いえ、別にたいした事じゃないんで大丈夫っす。それより秋蘭さんこそ大丈夫ですか?」
多分姉者に聞いたのだろう、いや姉者が話したのだろう。
「あぁ、大丈夫だ。心配をかけたか?」
「心配するに決まってるじゃないですか。」
その些細な言葉が私の心を満たしていく。
あぁ、不思議な気分だ。
「それで?姉者はどうしてああなった?」
「…!?あの、それはですね…」
北郷が言いずらそうな顔をした。
「成る程、姉者は酒を飲んだのだな。」
その言葉に北郷は顔を顰める。
やはりか……。
「気にするな、たまに飲ませてるからお前のせいではない。」
その言葉に安心したのか、ほっ、と息を漏らす。
「さて、姉者を運んで来てくれた礼をしたいのだが何がいい?」
「いえ、ホント大したことじゃないですし…」
「そう言うな、人の好意は素直に受け取れ。」
「…それじゃ、珈琲貰えますか?」
なんとも不思議な感覚だ。
私の目の前で珈琲を飲む北郷とこうして二人きりになるのは初めてだ。
「なぁ、姉者は今日楽しそうだったか?」
「…そうだと嬉しいんですけどね。」
「…というと?」
大方、姉者がテンパっていたのだろうが。
「その、酒を飲んで暴れだすまで、静かだったんで…」
そう言って珈琲を飲む北郷。
予想通り過ぎる答えに私も溜め息がでる。
「それで、姉者には何をプレゼントしたのだ?」
「……あぁぁぁぁぁ!?」
私の言葉に大声を出す北郷。
そして、ポケットを漁り始め、
「はい、遅くなりましたけど誕生日プレゼントです。」
「………これは、私にか?」
「此処に秋蘭さん以外に人いますか?」
安物なんですけど、なんて言って苦笑を浮かべる北郷。
けれど、
どんな安物だろうが私にはそれが嬉しかった。
北郷が私にくれたモノ。
その事実が私にとってどれだけ喜ばしかったか。
「北郷……いや、一刀。ありがとう。」
「…え?秋蘭さん、今なんて…?」
「あぁ、それからさん付けと敬語も禁止だ。いいな?」
またまた翌日。
「お早う、姉者。よく眠れたか?」
「うむ、お早う秋蘭。しかし私はいつ帰ったのだ…?」
あぁ、寝ぼける姉者も可愛いなぁ…。
「なぁ秋蘭?その指輪はどうしたのだ?」
「これか?これはな……」
あぁ、驚く姉者も可愛いだろうなぁ。
あとがき
という名の反省文です。
君の名を呼ぶを更新せずにごめんなさい。
けれど後悔はしていません、ごめんなさい嘘です。
ここらで報告を…
作者がもうすぐ定期テストに入るので当分更新できないかもしれません。
はい、作者は学生です。
でも今日中に君の名を呼ぶを更新しますので…
ではまた…
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音楽を聴いていたら頭の中に浮かびあがったので、やっちゃいました。
反省はしてる、後悔はしていない!