「無関心の災厄」 -- 過去編 ヤマザクラ
第6話 はじまるまえのおわり
例えば――例えばの話、オレの目の前に一つの問題があったとしよう。
その場合、解決するのがオレの使命なのかとか、そんな事はどうでもいい。
「なぜかな」
オレは問う。
ダレに? キミに? アナタに? オマエに?
とんでもない。
自分自身に、だ。
増殖する事はなく、ただ淘汰していくだけの珪素生命体《シリカ》の存在。何も残さずに消すマイクロヴァース。
「オレも、死ぬ時は何も残さずに消えたいよ」
マイクロヴァースに喰われて消える、珪素生命体《シリカ》のように。
この体も声も意識も思想も、全部分解されて自然に還ればいい。
そうか、珪素生命体(シリカ)の始祖はきっとそう思ったんだろう。消えるなら自然に還りたい。だから、最初っからマイクロヴァースを埋め込んだ。
「何とも美しい願望じゃねーか」
オレはいつか死ぬ。そして、この体はマイクロヴァースなんて使わなくても地に還るだろう。
もしオレが死んでも、アイツの脳内にこの言葉も声も姿も、すべて残るというのなら、アイツが消える時に自然に還るモノはいったいどれほどの量になるのだろう?
「凡人にはわかんねーよ」
不明、という史上最悪の回答を提出し、口先道化師《オレ》は再びヤマサクラの樹を見上げる。
「なぁ、夙夜……」
そんな問いにすら興味がないであろうヤツの姿を思い浮かべ、オレは苦笑した。
大丈夫だ、まだ、ちゃんと覚えている。意地っ張りなあのキツネの最後の姿は、オレの中に残っている。何しろ、オレは『口先道化師』――見守ることしかできないのさ。
それから梨鈴、オマエは一つだけ間違ってる。
アイツは、オマエの事を何一つ忘れやしない。
声も顔も、オマエの行動一つ一つがアイツの中には残るんだ。
アイツが知らず自身に刻んできた無限大の情報とともに、自然に還るまで。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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オレにはちょっと変わった同級生がいる。
ソイツは、ちょっとぼーっとしている、一見無邪気な17歳男。
――きっとソイツはオレを非日常と災厄に導く張本人。
※「無関心の災厄」シリーズの番外、過去編です。
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