No.185547

真説・恋姫演義 北朝伝 序章・第一幕 『運命発端』

狭乃 狼さん

さてと!

予定よりずいぶん早いですが、改訂版・北朝伝、

これより開幕でございます!

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2010-11-20 11:17:57 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:72962   閲覧ユーザー数:45666

 青年は、ただ静かに、そこに座していた。

 

 純白の上着に蒼色の袴。光の下であれば、白銀にも見えるその、灰色がかった黒髪。

 

 その閉じられた双眸は、少しつり上がり気味に。真一文字に結ばれたその唇から、時折白い息がこぼれる。

 

 季節は、冬。

 

 もう年明けも間近というその日。暖房も無いそこで、かれこれ一時間ほど、彼は正座を続けていた。

 

 「…………」

 

 それでも青年は、身震い一つせず、ぴくりとも動かずにいた。

 

 明鏡止水、という言葉がある。

 

 一点の曇りも無い鏡のごとく明らかで、静止した水面のように穏やかな心境、という意味である。

 青年は、その境地をわずか数年前、十三のときに会得した。

 

 天才。

 

 彼を鍛えた青年の祖父が、自分の孫をそう評価した。それも、百年に一人の武才だと。事実、彼が学校で所属している剣道部においても、また、全国大会などにおいても、彼の右に出るものは、すでに存在していなかった。

 

 もし、真剣を持ち、実戦すらも経験することになれば、彼はまさに、万夫不当と呼ばれる存在になるだろう、とも。

 

 

 

 「……一刀」

 

 正座を続ける青年の、その背を見つめ続けていた祖父が、静かに孫の名を呼んだ。

 

 「……何、じいちゃん」

 

 振り向くことなく、その背を向けたまま、青年は祖父の呼びかけに答えた。

 

 「……正直な。わしはおぬしが空恐ろしい。齢十八にして、わが北郷家に伝わる示現流のすべてを、その身に体得してしまったおぬしが」

 

 「……」

 

 祖父のその、畏れをも含んでいるような声を、青年――北郷一刀は、ただ静かに聞いていた。

 

 「しかもじゃ。おぬしの才は武のみにとどまらぬ。政治、経済、農業。その他、ほとんどの学問においても、その才を発揮しておる」

 

 「……そっちの方は、それこそ学校の知識程度だけどね」

 

 「ふん。それでも十分じゃわい。……まったく、生まれてくる時代を間違えたとしか思えんな、おぬしは」

 

 嘆息してそう言い放つ祖父。だが、その顔は優しい笑顔。

 

 「……もう、わしからお前に教えられることは、後一つしか残っておらん。じゃから、これが最後の教授になる。……一刀、こちらを向け」

 

 「はい」

 

 しゅるり、と。

 

 正座をしたまま、一刀は祖父のほうへと体を回す。その、限りなく蒼に近い瞳で、正面に座る祖父の顔を真っ直ぐに見据える。

 

 「……わが孫ながら、とても澄み切った目をしておる。……祖母さんの血が出おったかの?時折深い蒼に見えることがある」

 

 「祖母ちゃんって、確か、モンゴルの人だっけ?」

 

 「うむ。……さてと。余談はこれくらいでよかろう。一刀よ、心して聞け」

 

 「はい」

 

 一刀の正面に座り、じっとその顔を見つめる祖父。やがて、意を決したかのように、その口を開いた。

 

 「よいか。もしもこの先の人生において、その命を賭してでも、守らねばならぬ者ができたなら、その時は」

 

 「その時は?」

 

 「お前の全てを賭けて守りぬけ。例えその結果、他の命を奪うことになっても、じゃ」

 

 「……!!」

 

 命を賭けてでも守るべきもの。そんなものが、いつか自分に出来るのだろうか。そしてそのために、人を、生き物を殺すことになる時など、来ることがあるのだろうか。

 

 一刀はそんな自問自答をしつつ、祖父のその言葉を黙って聞いていた。

 

 「……これで、わしからお前に伝えられることは、全て伝えた。……明日はまた学園に戻るのじゃろう?今日は早めに寝ておけ」

 

 「……はい」

 

 立ち上がり、そこから退出していく祖父の背を、一刀は静かに、そして礼をとって見送った。

 

 

 

 そして、その日の深夜。

 

 ふと目が覚めた一刀は、”何か”の気配を、室内に感じ取った。

 

 「……誰だ?そこにいるのは」

 

 「あら?もう気がついたの?……今度のご主人様は、随分鋭いわね」

 

 闇の中。聞こえてきたのは、うら若い女性の声。だが、気配こそあるものの、その姿は一向に見えてこない。

 

 「……姿くらい、見せてくれてもいいんじゃないの?」

 

 「うふふ。ご主人様ってば、せっかちねえ。……でも、残念ながら姿を見せることは出来ないの」

 

 声から判断すれば、二十代ぐらいであろうか。声の主は少し、寂しげなトーンで答えた。

 

 「……まあ、いいさ。声と気配からは、邪気は感じられないし。で、まずは聞きたい。……なんで俺のことを”ご主人様”と?」

 

 最初に感じた率直な疑問を、一刀はその声の主に問いかけた。

 

 「そりゃ、ご主人様は、ご主人様だから♪」

 

 「……それじゃ、答えになってない」

 

 「んもう、細かいわねえ。そんなところは相変わらずなんだから」

 

 「……どういう意味だよ?」

 

 相変わらず、と。

 

 その声の主はそう言った。それではまるで、初対面ではないように聞こえる。だが、一刀には思い当たる節が、まったく無かった。

 

 「……じゃあ、一つだけ教えてあ・げ・る。……私はね、ご主人様と何度も何度もあっているの。それこそ、たくさんの”外史”において」

 

 「何度もあってる?……それに、『がいし』って……?」

 

 外史、と聞いて、一刀の脳裏に浮かぶのは、正史として認められなかった、様々な古文書に記された歴史の異説。もしくは、時代に埋もれ、世に伝わるこのの無かった、闇の歴史。それぐらいなものである。

 

 

 

 「残念ながら、ご主人様の考えている外史とは違うわ。私が言う外史ってのはね、人の想念によって生み出された、パラレルワールドのことよ」

 

 「!?……なんで、俺の考えてることが、判ったんだよ?」

 

 「それはおとめの、ひ・み・つ♪」

 

 「……あのな。……で、あんたは俺に何をさせたいんだ?その外史とやらと何か関係でもあるのか?」

 

 声の主の言葉にあきれつつも、その来訪目的を問いただす一刀。

 

 「話が早くて助かるわ。……ぶっちゃけて言うとね、ご主人様には、その外史の一つに行ってもらうことになるわ」

 

 「……随分唐突だな。しかも決定事項かよ。……何のために?」

 

 「内緒」

 

 「おい」

 

 秘密主義にもほどがある、と。一刀はだんだんと、その声の主に腹が立ってきていた。

 

 「てなわけで、新たな外史にご招待よん。あ、一応今夜の記憶は封印させてもらうわね?……今度は、”向こう”でお会いしましょ♪じゃあね」

 

 「あ!おい、ちょっと待て!せめて名前ぐらい名乗っていけ!」

 

 「……ま、すぐ忘れちゃうけど、名乗るぐらいは良いでしょ。……貂蝉」

 

 「は?」

 

 「あたしは貂蝉よ。永遠のオトメにして、あなたの愛のど・れ・い。……じゃね、ご主人様。また会う日まで」

 

 声とともに、その気配も掻き消えていく。そして、パアッ!と。室内が白い光に包まれた。

 

 「くっ!ま、まぶしっっ……!!」

 

 その白い光に、瞬く間に包まれていく一刀の体。やがて、光は徐々に小さくなり、そして再び、闇が室内を支配する。

 

 だが、そこには誰の気配も、残されていなかった。そう、部屋の主である、一刀の姿さえも。

 

 

 

 「……?流れ星……?こんな時間に……?」

 

 緑が広がる平原の中、蒼空を見上げる一人の少女がいた。その紺碧の瞳の中に、蒼空を切り裂いて飛んでいく、一筋の流星が映りこむ。

 

 ツインテールにしたその黒髪が、風にたなびいて揺れる。赤いロングコートを羽織り、その下には縦じまのシャツと、ジーンズのようなズボン。足には皮で出来たブーツを履いていた。

 

 「おーい!輝里(かがり)ー!どーしたー?!」

 

 「由(ゆい)。……ねえ、今、流星があっちに落ちていくのが見えたわ。気付いた?」

 

 「いんや?うちは気づかんかったけど。……こんな真昼間に流星やなんて、もしかして、例の占いの奴やったりして」

 

 「……天より、流星に乗って御遣いが降りくる。その者、白き光を纏て、大陸に安寧をもたらさん……っていうあれ?」

 

 「せや。……な、ちと見に行かへんか?」

 

 何か、新しい玩具を見つけた子供の様に、その少し幼さの残る顔に、満面の笑みを浮かべる、由、と呼ばれたその少女。

 ショートカットにしたその栗色の髪が、傍から見れば少年のようにも見える、その少女によく似合っており。紺色のジャケットに、同じ色の半ズボンといういでたちが、さらに少年ぽさを引き立てていた。

 

 「……相も変わらず、好奇心の塊ね、貴女は」

 

 「にはは。そーゆー輝里かて、めっちゃ興味津々なんやろ?お互い様っちゅうこっちゃ」

 

 「ま、そうなんだけどね。……でも、あんまり蒔(まき)ねえさんを待たせるわけにも、いかないわよ?」

 

 「ちょっとぐらい大丈夫やて。ねえさんのこっちゃ。ちょっと帰りが遅れたぐらいじゃ、怒らせーへんよ」

 

 「……そうね。じゃ、星を拾いに行くとしましょうか」

 

 「そうこなくっちゃやで!」

 

 馬首をめぐらせ、流星の落ちたほうへと、二人の少女は馬を並べて駆け出す。

 

 その先に、自分たちの運命を大きく動かすことになる、そんな出会いが待ち受けていることなど、夢想だにもせずに。

 

 

 

 

 黒髪の、ツインテールの少女。

 

 

 姓は徐、名は庶、字は元直。

 

 

 栗色の、ショートカットの少女。

 

 

 姓は姜、名は維、字は伯約。

 

 

 二人と、そして、北郷一刀。

 

 その運命の歯車が、今まさに、噛み合おうとしていた。

 

 

 新たなる、外史の始まり。

 

 

 それは、どのような物語となるのか。

 

 

 新たなる世界は、どのように、紡がれていくのか。

 

 

 さあ、開きましょう。

 

 

 新たなる、外史の扉を。

 

 

 さあ、始めましょう。

 

 

 数多の恋姫たちが織り成す、この物語を。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       『 真説・恋姫演義 北朝伝 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       始まります――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 と。いうわけで。

 

 

 「はい!改訂版北朝伝、ここに開幕と相成りました!」

 

 「後書きコーナー担当、姜維伯約こと、由やで~!皆さんおひさしゅう~!」

 

 「おなじく、徐庶元直こと、輝里でっす!ご無沙汰してま~す!」

 

 

 さて、と。まずは何から話しましょうかね?

 

 「予定より随分早くなったけど、その理由は?」

 

 まあ、ぶっちゃけ、ほかの話が浮かばなかった。

 

 「・・・・・あいかわらずというか、なんというか」

 

 「まあ、良いじゃない、由。ついにあたしたちの時代が来た!ってことで」

 

 「せやねんけどね。・・・・・ところで、なんでうちの配役、孟達から姜維に変わったん?」

 

 メジャーかそうでないか。あと、俺の趣味。

 

 「・・・あ、そ。で、刀香譚に出てきたみんなも出てくるんですか?蒔さんの名前は、今回あったけど」

 

 「朔耶はんとか、舞はん、拓海になんかも、出てくるん?」

 

 ま、一部配役は変わるけどね。

 

 

 とりあえず、今後に向けて一つだけ、目標をば。・・・・・・・二度とカオスにしない。

 

 「あー、まあ、その。刀香譚はひどかったからねー」

 

 「せやなー。・・・・ぶっちゃけ、どこで狂ったん?」

 

 豫州戦、いや、仲達を出したあたりかなー。ほんとの予定だったら、

 

 「一刀さんと桃香さんが、考えの違いから仲違いして」

 

 「別々に勢力を築く、って予定やったんよね?」

 

 そ。で、最終的に二人の王が並び立って、天下は二分され、双天王記という、サブタイ通りの展開・・・のはずだったんだが。

 

 「ま、あれやね。ぶっ飛んだ連中をだしたら、それでおわりっちゅうこっちゃな」

 

 「あっちは改訂する気ないの?」

 

 とーぶん無し。こっちに集中。あれは”黒歴史”。も、忘れてください。

 

 

 

 といったところで、次回予告。

 

 

 「大陸に降り立った一刀さん。そして、めぐり合う私たち」

 

 「その影で、時代は少しづつ動いていく」

 

 世に満ちる怨嗟の声。それが希望を見出したとき、それは破壊の使者となるのか。

 

 「次回、真説・恋姫演義 北朝伝。 序章・第二幕」

 

 「『運命邂逅』。ご期待ください」

 

 各種コメント、その他ツッコミ、お待ちしてます。それでは、

 

 

 『再見~!!』

 

 

 


 
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