「一刀さん。賊の新たな情報が手に入りましたよ」
「本当か!聞かせてくれ」
「本隊は冀州の広宗に陣を構えているとのことです」
「冀州か・・・少し遠いな」
「ええ、それと。やはり黒幕がいたようです。彼女達はその黒幕に御輿を担がれているだけのようですね。恐らくは失敗したときに罪をなすりつける為だと思われます」
「ギリッ・・・」
符儒のもたらした情報を聞き、歯軋りをする一刀。その手は硬く握られ、爪が皮膚を突き破り出血するほど硬かった。報告をしている符儒も表情は思わしくない。内心では怒りに震えているが、軍師として表に出すわけにはいかないと我慢している為である。だが、悪いことは重なるものだ。
「さらに、曹操を始め多くの有力な諸侯達が賊の本陣を見つけ包囲戦を始めるようです」
「なっ!!」
「まだ、賊の兵力が多いことと、手柄をどうするのかで様子見といったところですが、いつ動いてもおかしくありません」
符儒の報告に言葉が出ない一刀。状況は非常に良くなかった。三姉妹を助けたいと思っているが、表だって助けてしまえば今度は自分達が諸侯から狙われることになる。また、黒幕がいて彼女達は御輿を担がれただけだと言っても証拠がなければ誰も信じないだろう。結末は最初の案と同じである。かといって、あれこれ考えている時間は正直ないと言っていい。いつ諸侯達が討伐に動き出すかわからないからだ。解決案が出ない為、沈黙するしかない一刀。そこで今まで黙っていた蹴が言葉を発した。
「何を黙ってるんだ。もう、方法は一つしかないだろう」
「どうするんだ?」
「少数で敵陣に潜入して、そいつらを攫って来ればいいんだ」
「ばっ!そんなことできるわけ「出来るぞ」本当か!!」
蹴の言葉に藁にも縋る気持ちで問いかける一刀。そんな一刀に対していつもと変わらぬ冷静な顔で蹴は返す。
「ああ、簡単だ。符儒の法術で姿を隠蔽すれば潜入は楽に出来るだろう」
「その手があったか!!」
「ああ、後は潜入と脱出する経路を予め調べておけば救出できる可能性は高いはずだ。だろう?符儒」
「ええ、蹴の言うとおりです。すでに敵陣の構成を調べていますので、我々は潜入する作戦と準備に取り掛かりましょう。これからは時間との勝負です!」
「「おう!!」」
これは、御輿となった三姉妹を助けようと奮闘するおせっかいの物語である。
「これが奴らの本陣の構成です」
「まずはどこから潜入するかだな」
「それもありますが、忘れてならないのが諸侯達の動向です。情報によると、こちら側に陣を張って準備を整えているようです」
「厄介ですね。でしたら、こちら側から潜入、又は退路としたほうがよろしいですわね」
「その通りです」
符儒が得た情報から潜入ルートを話し合う一刀達。諸侯達の動向も気にしつつ、一応の潜入経路と脱出経路を決定し、次に潜入メンバーの話になる。
「潜入するのは俺、符儒、蹴の三人にしようと思う」
「今回は速さが大事です。なので少数での潜入・脱出が必要です。まず、蹴はもし敵と遭遇したときの戦力となります。私は隠蔽法術を、そして、一刀さんはこの中で唯一張三姉妹の顔を知っている為外せません」
「そうですわね。私達では足手まといになってしまいますね」
「仕方ありません。今回は引きましょう」
紫苑と仙花は、本当は着いていきたいと思っていたが、今回の作戦を考えると引くべきだと思い不参加になった。
「絶対に無事に帰ってきてくださいね」
「「「ああ」」」
仙花の言葉に潜入メンバーの三人は力強く答えるのであった。
「華琳様。本陣の設置が完了しました。物資の補充も問題ありません」
「ご苦労様、桂花。秋蘭、賊の様子は?」
「依然、篭城して動く気配を見せません」
「そう。予想通りね。春蘭、部隊のほうはどうなってるかしら?」
「はっ。すでに出撃準備は整っています。華琳様のご命令があれば、すぐに出撃できます」
「よろしい。じゃ、軍議を開きましょう。桂花、任せるわ」
「御意!」
こちらは、官軍の命令により黄巾賊の討伐に来ている曹操が中心となっている討伐軍の本陣である。賊の討伐令から数日経ち、ようやく敵の本陣を突き止め、追い詰めることに成功し現在に至っていた。賊は篭城を決め込み動きが見られない。ここまで各地の同胞を打ち払ってきた諸侯にできる唯一の対抗手段。このまま戦力差で諸侯達が賊を討ち滅ぼすと上手くいく程甘い状況ではない。諸侯達には兵糧という問題が残っていた。賊の主力部隊を見つけるまで、各地で暴れまわっている賊達を討伐していたのだ。その分、兵糧は減っているし兵達の疲労も溜まっている。しかし、いよいよ追い詰めた賊をこのまま逃がすこともできない。時間をかければまた賊が数を増やし、暴れまわるようになるからだ。そんな事情もあり、後に黄巾の乱と呼ばれる戦は最終局面に入るのであった。
「「姉さん」」
「大丈夫だよ。ちぃちゃん、人和ちゃん」
「でも・・・ついに曹操が動いたって・・・」
「私達が表向きの首謀者になってるから、捕らえられたら打ち首は確実よ」
ここは黄巾の本陣の一部屋。ここに今回の騒動の首謀者と呼ばれる張三姉妹がお互いを抱き合うように寝台に座っている。その部屋は首謀者の部屋にしては寝台以外には何もない殺風景な部屋だった。それもそのはず、彼女らは首謀者ではないからだ。彼女らはその歌で大陸を制しよう努力していた旅芸人だった。一刀と別れた後も努力を続け、人が集まるようになってきていた。そんな彼女達がある人物に目をつけられたことが、今回の騒動に発展したのである。
「おやおや、仲睦まじいようで羨ましいですね~。大賢良師様に地公将軍様、人公将軍様」
「・・・張曼成」
三姉妹の部屋に一人の男が入ってきた。片手に古ぼけた本を持って・・・。張曼成と呼ばれた、頬は痩せこけ、目は釣りあがり欲望に塗れて濁っている。彼こそが、黄巾賊の真の頭であった。そして、彼が持っている本は南華老仙という人物から渡された太平要術の書なのである。
あるとき、彼がこの世の中の理不尽なあり方に不満を溜めていたところ、一人の老人が現れ・・・。
「この本を使えばお主の望みが叶うだろう」
と言ってきたのだ。普通なら頭の心配をしてしまいそうな台詞だが、そのときの彼はお酒をしこたま飲んでいたので酔いで正常な判断が出来なかった。よって、老人から古ぼけた一冊の本をもらったのである。最初は胡散臭いと信じていなかったが、この本を手に入れた後から、不思議な力が仕えることがわかった。そして、兵を募り、三姉妹を見出し、現在に至る。
三姉妹がこの殺風景な部屋にいるのも、監禁するという意味であったのだ。そんな彼に良い印象など抱くはずもなく、きっと睨みつける姉妹達。だが、その瞳の中に彼に、否。その持っている本の力に怯えているのも見る人が見れば気付くことだろう。それほどまでにその本の力はすごかった。
「おやおや、ご機嫌が悪いように見える」
「あんたを見たからよ」
「口を慎めよ?俺の能力を使えばお前らを好きに出来ることを。お前らはまだ利用価値があるから無事でいられることを忘れるな」
「くっ・・・」
「うっ・・・」
「・・・」
「いいね、その憎しみに篭った目は。まぁ、それを悦びに変えるほうがなおさら面白いんだがな。これから、戦が始まる。お前らの出番だ。いつも通りにやれ、いいな?」
彼の、否。太平要術の書の力は人の精神を変化させること。つまりは洗脳だ。自分の思うように変えることが出来るこの能力で、彼は黄巾賊を結成したのだ。では、何故張三姉妹が必要なのか?それは、彼のみではいくら太平要術の書を使っても一度に精神を変えることが出来るのはせいぜい2,3人なのである。それを彼女達の歌に乗せて使うことで一度に大勢の精神を変えることが出来るのだ。このことで、大勢力を築き、官軍と渡り合っていたのである。そして、今回の黄巾賊討伐戦。諸侯に囲まれた現状でも、張曼成は勝つつもりであった。この篭城戦も策の一つなのだ。追い詰められた振りで諸侯を一箇所に集め、ここに攻め込んできた瞬間に三姉妹の歌を響かせ、一気に相手を自分の支配下に置き決着をつける予定なのである。
この策が成功すれば、漢最大の勢力となりもはや彼らを止められるものはいなくなる。瞬く間に漢を支配し、皇帝に上り詰められるだろう。張曼成が描いたシナリオはこのように出来ていた。
「後で案内を寄越す。それまで、喉の調子を整えておけよ?歌えなくなったら即刻処分するからな・・・ガハッ!!」
三姉妹に悪態をついて部屋から出て行こうとする張曼成は自分の意思とは別に勢い良く開けられた扉にぶち当たり横に叩き飛ばされた。
「まずいです・・・諸侯達が群議を始めました」
「なんだって!!」
「時間がないな。とっとと入るぞ」
「「おう!(はい!)」」
時は遡り、華琳達が群議を始めたころ。近くの街で乗ってきた馬を預け、進入経路を調べていた一刀達。諸侯達が群議をはじめ、攻め込むのは時間の問題だと知ることになった。そこで、符儒は素早く自分達に隠蔽の法術をかける。それを認めた一刀達は黄巾の本陣に突入を開始するのであった。
「まずは、あの壁を乗り越えましょう。いくら姿が見えないからといって、扉が勝手に開くのはありえないでしょう」
「了解。蹴、俺が足場になる。壁の上まで飛べるか?」
「まかせろ」
手短な会話で己の役割と行動を決める一同。まずは一刀が壁際に背を向けバレーボールのレシーブのような構えを取ると、そこに蹴が全速力で走りこむ。
「いくぞ!」
「こい!」
蹴が軽くとび、一刀の手に片足をかけると上に飛び上がる。また、一刀も蹴の足が乗っかると蹴を上に上げようと手を持ち上げた。蹴と一刀の上へと上がろうとする力が合わさり、大きく飛び上がった蹴の体は見事、壁上と着地を成功させるのであった。
「よし。成功だ」
「符儒、次はお前だ。俺が上から引っ張り上げる」
「了解。いきますよ。一刀さん」
「おう!」
蹴に続いて今度は符儒が一刀に向かって走る。後は蹴と同じように飛び上がったのだが、さすがに蹴のように壁の上まであがることは出来なかった。が、上にいた蹴が符儒の手を掴み、上へと引き上げることで壁の上に登ることが出来たのである。そして、最後の一刀だが。
「頼む」
壁を三角とびのように蹴り上げ、多少高度を上げた垂直とびを行い腕を精一杯伸ばす。その腕を蹴と符儒が掴み、一気に壁上へと引き上げることで壁上へと到達するのだった。
「潜入成功ってね。これからどう動く?虱潰しに探すのか?」
「いえ、ある程度推測ですが居場所は絞り込んでます。まぁ、複数あるのでそこからは一部屋ずつ確認しなければなりませんが」
「なら、さっさと動くぞ。時間はないだろう?」
「「ああ(ええ)」」
「まずは、ここを直進して突き当たりを右の部屋です」
こうして、一刀達は黄巾の本陣に侵入し三姉妹の探索を開始したのであった。
「ここか!!」
「いや、ここは物置らしい・・・」
「次に行きましょう」
姿を消しているとはいえ、不自然にならないように足音を出来るだけ忍ばせ、人が見ていない時を狙い扉の奥を確認する。が、いつ諸侯が攻撃を始めるかわからない為、慎重かつ素早く確認を行わなければならない。その矛盾した行動を三人は確実にこなしていったのである。
「ここは?」
「・・・なんだここは?」
「寝室・・・じゃないですか?」
「どうでもいいな。次」
「ここは?」
「食糧庫だな」
「燃やしますか?」
「いや、時間が惜しい。放っておく」
次々に部屋を確認しては走り、確認しては走りと動く三人。ここで、さきほどの場面に戻る。
「次はこの場所か」
「中に人の気配がするぞ」
「なら、ここで当たりかな?」
「敵かも知れませんよ」
「なら、最初にドカンと開けてしまおう」
「驚いているところを俺が攻撃すればいいか?」
「ああ」
「それでいきましょう。いきますよ!」
「「おう!!」」
ドカン!!
「ガハッ!!」
「っと、当たりだ」
「ということは、彼女達が?」
「ああ、張三姉妹だよ」
扉をぶち破って入ってきた一刀達。部屋の中を確認すると、中央で驚きの表情を浮かべている三姉妹を発見し、当たりだったと緊張を解くのであった。ちなみに、張曼成は扉が視界を塞いでいた為、一刀達が気付くことがなかったのである。
「あ、あれ?あいつ、扉に吹き飛ばされたわよ?」
「そんなに強い風が吹いてたのかな~?ひとりでに凄い勢いで扉が開いたもんね~」
「姉さん。これは逃げる好機かも!!」
一刀達は符儒の法術によって姿が見えない為、三姉妹には勝手に扉が開いて張曼成を吹き飛ばしたと認識していた。そんな様子の姉妹にようやく一刀が気付き、符儒に頼んで一旦術を解除してもらう。
「天和さん、地和ちゃん、人和ちゃん。無事だったか?」
「「「一刀(さん)!?」」」
いきなり出現した一刀の姿に、さきほどまでの逃げる算段が真っ白になるほど驚愕する三姉妹。出現したのが久しぶりにあった恩人の姿だったことがさらに拍車をかけていた。
「な、なんで一刀がここにいるのよ!!」
「君達を助けにきたんだよ。とても心配したんだぞ」
「わ~、一刀~。ありがと~」
「一刀さん、ありがとうございます」
その言葉に一刀に抱きつきながら喜ぶ天和と人和。出遅れた地和は少し頬を膨らますが、その雰囲気を破ったのは会話に入っていけなかった蹴だった。
「一刀。すまんが、とっととここを出るぞ」
「っと、そうだな。みんな、早くここを出るよ」
「待て!!」
蹴の言葉に状況を思い出した一同は、すぐに行動に移したが、ここでようやくさきほど扉に吹き飛ばされた張曼成が復活したのである。彼は出口の前で本を片手に一刀達に立ち塞がっていた。
「ほう、俺に無手で挑むのか?」
「あ、あれは!?」
武器も持たずに自分に挑もうとしている張曼成に殺気をぶつける蹴だったが、張曼成の手にある本の正体に気付いた符儒の叫びでその顔は驚愕に彩られることになる。
「『太平要術の書』!?」
「な、なんだと!?」
元管理者である蹴と符儒は、太平要術の書についても知っていた。その能力も。その中でただ一人知らないのが一刀である。
「ねぇ、天和さん。太平要術の書って何?」
「あの本はね。人を操ることが出来る本なの!」
「私達の歌に乗せるとさらに能力が高くなってより多くの人を操ることが出来るんだって!」
「私達はそれで奴に利用されていたんです」
「な!そんな恐ろしい力があるのか!?」
天和達の説明でようやく本の恐ろしさを知る一刀。そんな彼らに張曼成が余裕の笑みを浮かべる。
「貴様!何故それを持っている!!」
珍しく声を荒げる蹴。こんなのは初めて一刀に会ったときくらいである。いつもは冷静でクールな蹴が、これほどまでに取り乱す程あの本は恐ろしい力があるのかと思う一刀。
確かに一刀の考えは半分は当たっていた。が、それだけではない。あの本は管理者達が所有しているはずの道具なのである。本来は、外史の人間が持ってはならない物のはず。それを目の前の張曼成が持っているのはおかしいのだ。
「それを言うと思うか?ふふふ。これを知っているなら話は早い!さあ!地面に這い蹲るがいい!それと、張角、張宝、張梁。てめぇらはもう用済みだ!犯しつくして捨ててやる!」
『■■■■■■■■■■■■■■■■』
本の一節だろうか?呪文のような言葉を放つと、空間が歪むような錯覚が置き、膝をついてしまう一刀達。
「ふはははは!全く、驚かせおって。侵入者とはな。ここの連中は何をやっているのか、嘆かわしい。まぁ、この力があれば敵はないがなぁ!」
本の力で膝をついた一刀達に余裕の笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄る張曼成。
足を止めたのは本の力で膝をついている一刀達の前である。
「靴でも舐めて命乞いでもするか?」
張曼成の言葉にそんなことするかと思うが、思考とは裏腹に符儒と蹴の顔は張曼成の靴に近づいていき、舌までだし始めた。これが太平要術の書の力である。このままでは本当に符儒と蹴は靴を舐めてしまう。だが、一刀は?思い出して欲しい。彼が初めて符儒達と出会った時のことを。太平要術の書は管理者の道具だということを。
「んなことするわけないだろうが!」
バシッ!!
「ぐあ!!」
膝をついていた体勢から勢い良く立ち上がり、張曼成の腕を太平要術の書の毎はたき落とす。
そう、一刀は管理者の能力に耐性を持っているのである。
「しまった!!本が!!」
「取らせるか!」
ゲシッ!
「ああっ本が!?」
取り落とした本を慌てて拾おうとする張曼成だが、それよりも先に一刀が本を張曼成から見て、後方に蹴り飛ばす。すぐさま反転して本を拾おうとする張曼成、それを阻止しようと一刀も走る。
「絶対にこれは渡さんぞ!!」
「させない!」
張曼成の横からラグビーのように腰にタックルをする一刀。勢い良く二人は床へと倒れこんだ。
「ええい!離せ!!邪魔をするなぁああ!」
「ぐぁ!」
もう、ただただ闇雲に腕を振るっていた張曼成の拳が一刀の顔面にヒットした為、張曼成の腰から腕が離れてしまう。張曼成が自由を取り戻し再び本を拾う為に走り出した。もう、本を拾う障害はない。今度こそ、自分の前に跪かせてやると意気込む張曼成だったが。
「残念だったな。お前が本を落とした時点で術は解けたぞ」
「な、なんだとぉ!!」
いつの間にか、さきほどまで膝をついていた蹴が一刀ともみ合っている間に回復して、太平要術の書を拾い上げていたのである。
「それを渡せ~!!」
「却下だ。阿呆が・・・符儒」
冷静さをなくした張曼成が蹴へと飛び掛るが、その前に蹴は太平要術の書を符儒へと投げ渡していたのである。本を受けとった符儒はすかさず、術で火を起こし。
「これであなたは終わりですね」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ボウ!メラメラメラメラ・・・・
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
本を焼き払ったのである。目の前で本を焼き払われた張曼成は絶叫。燃えているのも構わず、本を拾い上げようとするもすでに中身は灰になり、もはや本としての機能はなくなっていたのであった。
「本が!絶対的な力があああああああああああああああああああ!!」
「蹴・・・」
「ああ」
「力がああああああああああ・・・(ドサッ)」
これ以上騒がれるのはまずいと蹴は張曼成の首に蹴りを叩き込み(延髄蹴り)気絶させる。これでようやくここから脱出することが出来る。そこにようやく一刀が立ち上がってきた。
「いつつ・・・」
「大丈夫か?一刀」
「ああ。ただ打撲だよ。符儒、仕上げに入ろう」
「はい・・・しかし、後二人足りませんね」
「だったら、俺が調達してこよう」
「よろしくお願いします」
蹴は気配を消して部屋から出て行った。数分経ち戻ってきた彼の両腕には二人の黄色のバンダナを巻いた男が引きずられていた。二人とも気絶している状態で、首には痣が出来ていることから、どうしてこの状態になったのかが想像できるだろう。とにかく、蹴は引きずってきた男を寝ている張曼成の横に並べるように寝かせる。
「こんなもんか」
「ええ、では始めましょう」
三人の気絶した男を並べると、符儒が小さく呪文を唱え男の耳元に何かを語りかけた。そして・・・。
「では、起きなさい」
パン!
符儒の一回の拍手音が響くと男達の目が開き起き上がる。
「ちょ、ちょっと!そいつらを起こしたら・・・」
「大丈夫だよ、地和ちゃん。しばらく静かにね」
「わかったわよ」
いきなり、男達を起こしたことに食って掛かろうとした地和だったが、一刀に宥められて渋々だが落ち着く。何も言わないが天和と人和も同じ気持ちだったのだろう。顔が僅かに引きつっていた。
「名前を申せ」
「ワレハ張角」「ワレハ張宝」「ワレハ張梁」
「この軍の首謀者は?」
「ワレワレ三兄弟ダ!」
「よろしい。では、行きなさい」
「「「ハッ!!」」」
符儒の合図で部屋を出て行く三人。ここでようやく、三姉妹が口を開く。
「ちょっと!あんた何やったのよ?」
「そうだよ。あのひとたち私達の名前を言ってたんだよ!」
と天和と地和が質問する。ただ一人、人和だけは何かを悟ったように納得顔を浮かべていたが。
「あれは暗示ですよ。彼らに自分達は張角、張宝、張梁だと思い込ませただけです。あなた達は今回の反乱で首謀者ということになってますので、反乱が鎮圧されれば必ず首謀者の首が求められます。それの対策です。本来なら、彼らを犠牲にするのは心苦しいところですが、本物の首謀者なので今回は責任をとって貰いましょう」
符儒の説明に納得したのか、天和と地和は表情を和らげて下がる。が、今度は人和が一歩前に出て質問した。
「疑問があります。諸侯達は首謀者である私達の情報をどれくらい掴んでいるのですか?」
そうなのだ、先ほど暗示で影武者を作ったはいいが、張三姉妹の顔を知っていたら無駄になってしまう。それを危惧しての質問だった。
「名前と性別だけですね」
「性別って・・・あの人たちは男だったじゃない!どうすんのよ!!」
「大丈夫ですよ。兵力確保の為には女のほうが都合が良かったからという言い訳も追加してあります。まぁ、他にもあるんですがあまり重要ではないんで割愛しますね。そろそろ脱出しないとまずいですし」
「確かに。さぁ、天和さん達。ここを早く出よう」
「「「うん!」」」
六人は符儒の隠蔽の法術の下、黄巾の本陣から脱出するのであった。この数分後に曹操を中心とした黄巾賊討伐軍が攻撃を開始。黄巾賊は抵抗も出来ないまま、討伐軍に蹂躙されるのであった。
「あれ?ねぇ、一刀。村に戻るんじゃないの?」
「そうだけど、その前によっておくところがあるんだ」
黄巾の陣からの帰路。一刀の村に住んでいたこともある張三姉妹は、一刀が途中で違う道に入ったことに気付いて質問する。そこは、今復興中の街であるが、そのときにはすでにいなかった張三姉妹はわからなかったのである。
「ええ~!!一刀って県令になってたの~!?」
「ってか、村の他にこんな街まで・・・一体どんなことがあったのよ!!」
「これはもう、立派な領主よね・・・」
復興中の街に到着し、現状の説明を受けた姉妹は大いに驚いた。自分達が知り合ったときはまだ、数人の住人しかいない小さな村だった。それが、数ヶ月たっただけで、大勢の住む街の県令をやっていたのだから、驚くなというほうが無理である。
「でも、一刀。よく太平要術の書の力に抵抗できたね。私達、指一本動かせなかったんだよ?」
「ん?そうなのか?俺は強烈な頭痛に襲われて思わず蹲っていただけなんだけどね。あいつの言葉にムカついて、頭痛を我慢して起きたわけなんだけど」
「そういえば、一刀さんはそういう術にはかかりにくい体質でしたね。私の法術も見抜かれましたから」
「そんなことがあったんだ~」
仙花達のところに向かっている途中での談笑で、太平要術の書を使われたときのことを説明していた一刀。と、ここに一刀達の帰還に気付いた小さな乱入者が現れる。
「あっ!おかえりなさい。おとうさん!!」
「おっ?璃々ちゃんか。ただいま~。お母さん達はいる?」
「うん!あっちにいるよ~。あんないしてあげる~」
「あはは。よろしくね」
紫苑の娘、璃々である。笑顔で駆け寄る彼女を一刀は抱き上げた。彼女は以前の一件以来一刀のことをお父さんと呼ぶようになっていた。これに関しては符儒と蹴は慣れたものであったが、初めて聞く天和達は落ち着いていられなかった。
「か、一刀って子持ちだったの!?」
「奥さんは誰なの!!」
「この子の見た目から・・・もしかして一刀さんって童顔なの?」
「あ~・・・説明するからまずは落ち着いてくれ」
そんな天和達の威圧感たっぷりの質問攻めに、多少の気恥ずかしさを抱きつつ説明をする。一刀の説明を理解した姉妹達は自分達の勘違いだったことにちょっぴり安堵するのであった。
「お帰りなさい。その様子ですと、無事に完了したようですね」
「皆さん、ご無事で何よりです。お疲れ様でした」
出迎えてくれたのは仙花と紫苑。一刀達の後ろにいる三姉妹を見て、今回の作戦が成功したことを理解した二人は、満面の笑みで労ってくれたのだった。
「この後の三姉妹の処遇ですが・・・どうしましょうか?」
「そうだな。とりあえず、反乱の首謀者である張角、張宝、張梁は死んだことになってるから、名前を変えないといけないと思う」
「後はあいつらの意志に任せるべきだ。ここにいるにしろ、再び旅芸人になるにしろな・・・」
「「だな(ですね)」」
と言うわけで、三姉妹のこれからについては決められたのである。まずは早急に改名しなければならない。本名は死んだことになっているのだから。また、真名だけにするというのも問題があると思うというのは一刀の弁。真名とは心から信頼した者だけに許される大切な名前である。それを軽々しく、他人に呼ばせるわけにはいかないとの考えからだ。
「名前?」
「う~・・・すぐには思いつかないわよ」
「そうね」
だが、いきなり名前を変えろと言われてもすぐに名前が考え付くわけもなく唸る三姉妹。が、その内の長女だとんでもないことを言い出した。
「そうだ!一刀が決めて!!」
「はっ?」
「いいわね、それ!一刀が私たちの名前を決めなさい!」
「ちょっとま・・・」
「そうね。私達の命があるのは一刀さんのおかげだし。その恩人からの名前だったら納得できるもの」
「人和ちゃんまで!?」
と言うわけで問答無用で一刀が、彼女達の名前を考えることになったのである。期限は翌日の朝まで。一刀はその後から名前を決める為にうんうん唸ることになる。
「それでは、私はそろそろ寝ることにします。おやすみなさい一刀様」
「ああ、おやすみ。仙花」
夜もふけ、紫苑は眠気を覚えた璃々を寝かしつける為、早々に寝床へ向かい、張三姉妹もいろいろとあって疲れたのだろう、紫苑達が去って幾分もしない内に寝床へと向かった。そして今、仙花が寝床へ向かい、一人となった一刀は囲炉裏の火を見つめながら物思いにふけるのであった。
トットットットットット
一刀が物思いにふけってしばらく経ったとき、誰かの足音が聞こえてきたのである。トイレに起きたのだろうと思い、足音を意識から外すとまた物思いにふける一刀だったが、予想が外れその足音は自分の隣までやってきたのである。
「一刀・・・」
「天和さん?寝たんじゃなかったの?どうかした?」
「うん・・・寝ようと思ったんだけどね。考え事してたら眠れなくなっちゃって」
「そっか。隣座る?」
「うん」
一刀に促され、天和は隣に腰を下ろすと同じように囲炉裏の火を見つめながらしばらく無言になる。何を考えていたのか気になった一刀だったが、天和の様子から今は何も聞かないほうがいいだろうと思い何も聞かないことにする。そのかわり、体を冷やさない為、また落ち着いて考えられるようにコップを取り出し、お茶を注ぎ始めるのであった。
コポポポ・・・
「はい。天和さん。夜も襲いから体が冷えないようにお茶でも飲もう」
「ありがとう。一刀」
渡されたお茶を一口飲み込み、ホウっとため息を一つ。再び沈黙が訪れるかと思われたが、天和は言葉を紡いだ。
「地和ちゃんも人和ちゃんもぐっすり寝ちゃってるんだ~。今日はいろいろあったから疲れちゃってたんだね」
「天和さんだって疲れただろ?」
「うん・・・ねえ。地和ちゃんも、人和ちゃんもしっかりしてるでしょ?」
「うん」
「だよね。私と違って・・・今回だってそう。私はいつもあの二人に頼って、甘えてばかりで。お姉ちゃんなのに・・・」
「天和さん?」
いつも笑顔の天和が、このときは泣きそうな顔で心情を吐き出していた。目には涙が浮かんでいる。おそらく黄巾賊に監禁されているときもずっと考えていたに違いない。一度毀れた言葉は留まることなく次々と発せられた。
「地和ちゃんは力強く引っ張ってってくれる。人和ちゃんは冷静に考えて間違った道にいかないように補助してくれる。そんな二人に私はいつも甘えてばかりで。ただ、ついていくだけ」
「・・・・」
「今回のこともそう・・・私、何も出来なかった。お姉ちゃんなのに。それが悔しくて、情けなくて・・・悲しくなって」
「天和さん・・・」
「その考えが消えてくれなくて、眠れなくなっちゃった・・・ぐすっ」
ついにはお茶を置いて、両手で顔を覆い泣き出してしまった。一刀はずっと黙って天和の言葉を聞いていたが、泣き出してしまった彼女を優しく抱き寄せると、ゆっくりと頭を撫で始め、静かに語りかけた。
「天和さん。きっと、あの二人も同じようなことを思っているんじゃないかな?」
「うぅ・・・ぐすっ、同じようなこと?」
「うん。同じようなこと。きっとね、あの二人も天和さんを頼っていると思うんだ」
「嘘・・・」
「嘘じゃないよ。俺はね、天和さんがいつも笑顔でいてくれるからあの二人は安心して、強気な発言が出来るし引っ張っていけたり、冷静に考えて行動できると思うんだ。天和さんがいなかったら、あの二人は冷静でいられないし、強気にもなれないと思う。天和さんがいてからこそなんだよ?」
「どうして・・・そう思うの?」
ここでようやく天和は涙をとめて、一刀の顔を見上げることが出来た。一刀は天和の目を見て優しく微笑み言葉を続ける。
「俺達が部屋に入った時のね、三人の体勢だね」
「体勢?」
「うん、三人がお互いを励ましあうように抱き合ってただろ?天和が言うように何も出来ない人だったら、そんなことしないで天和を庇うようになっているはずさ」
「あっ」
「だから、天和さんは二人にちゃんと頼りにされてるよ。地和ちゃんが案を出して、人和ちゃんが補足・修正を入れて、天和さんが決定を下す。こんな感じで三人で一つみたいな関係だと思うな」
「・・・ありがとう」
その言葉に一刀の胸に顔を埋めて顔を赤らめた天和は小さく呟くのであった。そして、彼女の中のある思いも強くなりあふれ出したのである。
「ねぇ、一刀」
「なんだい?」
しばらくその体勢が続いたとき、不意に天和が口を開く。
「私ね、今回のことですごい怖かったの。でもね、地和ちゃんや人和ちゃんっていうね心の拠り所があったから耐えられたんだ」
「うん」
「だけどね。もう一つ心の拠り所が欲しくなっちゃったの。ねぇ、一刀。私達の拠り所になって欲しいの。傍において欲しいの。一緒にいて欲しいの」
少し甘えた口調で、そして真剣に言う天和。彼女の真摯な願い、それに対する答えは一つしかない。彼は『おせっかい』なのだから。
「ああ、俺でよければ喜んでならせてもらうよ」
答えと同時に彼女を軽く抱きしめる一刀。それに安心した天和は安心したように笑顔を浮かべる。
「今夜はずっと一緒にね」
「わかった」
二人はその後、同じ寝床で寝たのである。
ちなみに、やはり疲れていたのか二人とも寝床に入ったらすぐに寝てしまった為、やましいことはしていない。ただ添い寝をしただけである。が、翌朝。
「一刀様、朝ですよ。おきて・・・」
「ねぇ、管輅さん。天和姉さんがいないんだけど、しらな・・・」
一刀を起こしにきた仙花。目を覚ましたら天和の姿が見えなかった為、探しに来た地和、人和。三人の視線の先には一刀の腕枕で幸せそうに眠る天和の姿が。
「一刀様・・・」
「一刀!!」
「一刀さん・・・」
「「「どういうことか説明して下さい(しなさい)!」」」
「いいな~。りりもおとうさんといっしょにねたいよ~」
「あらあら」
天和と寝ていた件について尋問を受け、若干修羅場る一刀と、それを面白そうに見る紫苑の姿があった。もう一人の当事者である天和は・・・。
「えへへ、すっごく安心したんだよ」
火に油を注いでくれるのでした。
天和のターン!
ドロー!
マジックカード添い寝!意中の人物と添い寝が出来るマジックだ!
これにより女性キャラは嫉妬し、攻撃力が500UP!!
さて、黄巾編ですがあっさりと終わらせました。
そして天和のターン。
私なりの解釈で書きました。この作品での天和ちゃんにはちょっぴりお姉さん風になってもらってますw
今回ちょこっと話に出ている天和達の新しい名前ですが、すでに決めてあります。
といっても変えるのは性の部分だけです。
原作のように真名だけっていうのは、真名は信頼できる人にしか呼ばせない大切なものというイメージを軽くしてしまうと思ったので、改名という方法を取りました。
実は張遼も姓のほうを改名していたらしいし、風はご存知の通り改名しましたもんね。
なので、天和達も改名です。
さて、次回の話なのですが・・・
少し方向性に迷っていまして。
アンケートという形を取らせていただきたいと思っています。
1、拠点というか幕間話復興作業中の話(若干、張三姉妹多目)←予定ですので、少なくなるかも・・・
2、本編進行
3、ぶるぁああ出現(嘘です)
無事に天和達を救出できて、キャラも増えましたので拠点話(本編とリンク)を書こうかな?と
思ったのがきっかけで迷っています。
たっでさえ、進みが遅いこのストーリーにさらに遅らせてどうするという考えもあるので。
では、よろしくお願いします。
PS,安西先生・・・甘い話が読みたいです・・・
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