No.181279

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART6~

戯言使いさん

PART6です。

大学の学園祭が台風のせいで、野外ライブなしという残念な結果になりとても寂しいです。

さて、ようやく一刀VS蓮華(堅物)の対決です。まぁ、勝敗は言わないでも分かりますね。

2010-10-30 12:37:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:9322   閲覧ユーザー数:6744

 

 

 

―――自分は生まれながらの王様である。

 

 

 

―――そして、生まれながら王様でなければならなかった。

 

 

 

蓮華はずっとそう思っていた。

 

戦の天才と呼ばれている自分の姉、雪蓮に負い目を感じなかった時はなかった。

何をやっても、人並みしか出来ない自分は、人よりも努力をし、血を流し、汗を流し、そしてすべてを犠牲にして王様になろうとした。

 

 

その犠牲は大きかったのか、それとも小さかったのかは分からない。なぜなら、自分自身、何を犠牲にしたかも分からないからだ。

 

 

 

――どうして、自分は王族なんかに生まれてきてしまったのだろう

そんな後悔などしたことはない。言っても仕方がないからだ。

 

 

 

 

―――私は王。

 

 

 

 

 

蓮華は孫呉の次期、王だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主要の武将たちが玉座に集まっている中、一刀と斗詩たちは雪蓮から紹介されていた。元袁家の武将である顔良と文醜は、袁家の二枚看板として有名であったため、武将たちからは特に異論はなかったが、一刀は別だった。

 

 

友好的である武将と、そうでない武将、それがはっきりと別れていた。

 

雪蓮による自己紹介が終わり、そして呉の武将たちの自己紹介を聞いている最中だった。

 

 

「えっと・・・・真名はどうしたらよいでしょうかぁ~」

 

 

と、挨拶の途中だった穏が雪蓮を見る。

雪蓮はそれに対して、頷いた。

 

 

「好きにしなさい。私と冥琳は真名を許したわ」

 

 

「なんてことを!」

 

 

と、会話に急に入ってきたのは、案の定、蓮華だった。

 

 

「お姉さまは孫呉の王としての自覚がないのですか!?こんな得体の知れない男に真名を許すとは・・・!穏!教えては駄目だ!」

 

 

「は、はぁ・・・・」

 

 

「天の使いとか言う不埒者が呉にいるだけでも、私は許しがたいのに」

 

 

「えっと・・・・すみませんね、北郷さん。私のことは陸遜と呼んでください」

 

 

穏は少し申し訳なさそうに頭を下げた。

 

それに対して一刀は「気にすんな」とぶっきらぼうに言った。

 

だが蓮華は相変わらず一刀を睨み、そしてあからさまな不機嫌さを表わしていた。その雰囲気にまだ新人である亞莎と明命は逆らうことが出来ず、結局は真名を授けることが出来なかった。

 

 

「わしは黄蓋。真名は祭じゃ。頼むぞ、北郷」

 

 

「あん?あんたはいいのかい?そこでこわーい人が睨んでるけど」

 

 

「はっはっは、呉の宿老であるわしが、あんな若造ごときにためらうとでも?」

 

 

「へぇ、次期王を若造扱いか・・・・あんた、面白いじゃん。俺のことは一刀って呼べよ。俺も祭って呼ぶから」

 

 

「おぅ!これから頼むぞ一刀」

 

 

祭と一刀はお互いに軽く手を挙げて、友好的に挨拶を交わした。

 

さすがの蓮華も、宿老に命令することは躊躇ったようで、悔しそうに唇をかんだ。

 

 

「それじゃあ、今度は私の妹たちと思春だけね」

 

 

と、雪蓮が蓮華たちを見たが、蓮華は顔をそむけた。雪蓮は仕方がない、とため息をついて、小蓮を見た。それに小蓮はにっこりと笑って前に出る。

 

 

「はいはー!私は孫尚香。真名は小蓮だよ♪よろしくね、一刀!」

 

 

「あ、あぁ・・・・なんつーか、お前も孫呉の姫なんだろ?あっさりしすぎてねーか?」

 

 

「んふふー、お姉ちゃんから話は聞いてたからね!見た目がどうであれ、こんな人だろーなーって分かるし」

 

 

「そうか?お前のねーちゃんは怖い顔してお前を睨んでるけど?」

 

 

「いーのいーの」

 

 

と小蓮はお気楽な笑顔で後に下がった。

 

 

一見すれば、ただ何も考えてないような小蓮だが、一刀や斗詩たちは小蓮が大物であることを感じ取っていた。天の使いと言う訳の分からない者に真名を授けることが出来る度量、そして自分の姉であり、次期王である蓮華にもはむかえる度胸。さすが、雪蓮の妹、と一刀は少し感心した。

 

 

 

そして、今度は蓮華と思春の紹介・・・・・だが、二人は押し黙ったまま、無言の間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪蓮は大きくため息をついて、自分が一刀に説明しようとした時、一刀は「っち」と舌うちをして、蓮華を睨んだ。

 

 

「なぁ、あんたはどうしてそんなにも俺が嫌いなんだ?黙ってりゃぁわかんねーぞ」

 

 

「・・・・・あなたには分からないでしょうね。私たち王族は昔から孫呉を支え、そして孫呉に尽くしてきた。その私たちのすべてと言うべき国が、天の使いとか言う、胡散臭い存在を頼らないといけないのが、気に食わないだけだ」

 

 

「なるほどな、そんで、お前は何なんだ?」

 

 

「私は孫権、孫呉の次期王だ。姉様のように占いを信じるほど甘くはない。私は孫呉の未来を背負っているのだ。そう易々と真名を授けられるわけがない!」

 

 

そう言い放つ蓮華は、まさに王としての気迫は充分だった。

 

だが、蓮華は王としては未熟だ、と斗詩は思った。

 

もし、かつての斗詩がその言葉を聞いていたならば、特に思うことはなかっただろうが、一刀と旅をして、そして一刀の傍にいた斗詩には、人の上に立つ人や、人導く人に関してそれなりに感じるようになっていた。蓮華はまだまだ王にはなれない。よっぽど、小蓮の方がよい王になる、と思った。

 

だが、それを素直に述べれるほど斗詩は度胸がなかった。

 

 

 

 

しかし度胸だけなら一人前の男がいる。

 

 

 

 

 

「へぇ、まぁ別にあんたの真名なんて興味もねーし、いらねーよ。でも『呉』って国は大きく見えて、意外と軽いんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀はまるで馬鹿にするかのように、蓮華を見て鼻で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

一刀の言葉を聞いた蓮華はもちろん、傍に控えていた思春も一刀を睨む。そして新人である明命と亞莎は、ただオロオロとしていた。だが、雪蓮と冥琳、祭、穏、そして小蓮の五人だけは、何が言いたいのか理解しているらしく、睨むどころが、逆に笑っている。

 

 

「あなた!呉を侮辱しているの!?」

 

 

当然顔を真っ赤にして怒る蓮華と、刀を抜いて一刀に今にも襲いかかろうとしている思春。しかし、一刀はその様子にも対して気にしてないように話を続けた。

 

 

「侮辱しているつもりはねーが、だってそうだろ?あんた一人で背負えるぐらいの国なんだから、軽いだろ」

 

 

さも当然のように言い放つ一刀に、蓮華の動きが止まった。

 

 

「はぁ・・・・なんつーか、雪蓮と同じだな。なぁ、孫権。あんた一人が呉の未来を背負ってるなら、ここに居る武将なんていらねーだろ。つーか、そもそも武将たちだけじゃなくて、この国の民全員が必要ねーじゃねーか」

 

 

「何を言っているの・・・?」

 

 

「国の未来ってのは、別に王が背負うものじゃねーだろ。この玉座の間を作った大工が必要だし、朝食の材料を作ってくれた農家が必要だし、そんで戦うために武将が必要だし、政治をすることに文官が必要だし、そしてそれを統べる王が必要ってなだけで、国の未来ってのは国民すべて、そんでここに居る武将すべてが等しく背負う物で、それこそ、そこらの農民とあんたが背負う物は同じに思うんだけどな」

 

 

「・・・・・」

 

 

「まぁ、確かに全くの同じとはいわねーよ。お前の方が重いかもしれねーが、そこで刀抜いてる奴も、さっき道で会った祭も、お前の妹の小蓮も、この国に居る全員が背負っていることぐらいは自覚しろや。お前一人でどうにか出来るほど、国は軽いもんじゃねーだろ」

 

 

「うぅ・・・・・でも・・・・」

 

 

「別に俺が気に入らないってんなら、別にいーぜ。俺もあんたが嫌いだからな。だけど一つだけ助言してやるとしたら、お前一人でどうにかなる国なら、滅んだほうがよっぽど大陸の平和のためだと思うぜ」

 

 

「き、貴様!もう許せん!その首叩き斬ってやる!天の使いだが知らんが、呉を侮辱するのなら許せん!」

 

 

 

 

と、一刀の首に刀を振るう思春。しかし、

 

 

「させねーよ!」

 

 

と、猪々子がその刀を自分の大剣で受け止めると、その隙に斗詩が一刀の前で武器を構えた。

 

しかし、たった今殺させそうになったにも関わらず、一刀は全く気にしていないように話を続けた。

 

 

「周りがお前を王と認めるから、お前は王なんだよ。自分が王だから周りが認めてくれるわけじゃねーよ。それを自覚しねーと、いつか王でなくなるぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

――――王である自分は、王らしくなければならない、そうずっと思っていた蓮華にとって、一刀の言うことは簡単に認めることは出来なかった。

だが、思い返せば、雪蓮や小蓮は、一刀の言っていたことを分かっているからこそ、あぁも自由なのだとも思っていた。

 

蓮華が雪蓮に視線を移すと、雪蓮はとても面白そうに笑っている。

 

一刀は大きくため息をつくと、雪蓮に振り向いて。

 

 

「なぁ、雪蓮。お前はまだまだ王様でねーと駄目だな」

 

 

「そうよねー。まだまだ楽出来そうにないわ」

 

 

「そうだな。おい孫権。何か言うことはあるか?」

 

 

「あっ・・・・」

 

 

と、さきほどまでの強気な態度が嘘のように、もじもじ、と何か言い返そうとしている蓮華に、一刀は舌うちをすると、怒声をあげる。

 

 

「あぁん!?いいてぇことがあるならはっきり言えや!」

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

「ったく、雪蓮。こいつは本当にお前の妹か?お前の方がまだ素直で可愛かったよ」

 

 

「ほんとよねぇ、この子ったら堅物だから。でも蓮華。一刀の言う通りよ?それにここに居る武将全員も分かっているわよね。祭はどう思う?」

 

 

すべてを分かっている祭は、ただ破顔の笑みを浮かべて大きく頷いた。

 

 

「いやはや・・・・肝っ玉が座っておるとは思っておったが、予想以上の男気ぶりだな。ふむ!わしはこやつを気に行った!もしこやつの妻になれと命令されても喜んで妻になるぐらい惚れこんだわ!」

 

 

「あら、モテモテね。一刀」

 

 

「黙れ雪蓮。ババァに惚れ・・・・・お姉さんに惚れられても困る」

 

 

「ふふ、さて、改めて問うは。彼は信頼に値するかどうか」

 

 

雪蓮は武将たちを見渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉の武将たちは、雪蓮の問いかけに、笑顔でうなずいた。

 

 

と言っても、雪蓮は別に質問をしなくても、ほぼすべての武将たちの心は決まっていたことを知っていた。

 

一言二言会話しただけで、蓮華の王としての欠点を見抜き、そしてそれを諭すことの出来る人物など、この大陸に何人もいない。度胸、観察眼、それらだけでも十分に及第点であり、そして本音を言うと、自分たちを呉の未来、と言ってくれた一刀に少ながらず好意を抱いていた。特に新人の亞莎と明命にとっては身に余る光栄であり、亞莎はすでに一刀のメロメロだった。

 

ただ、素直でないのは蓮華だけであって、蓮華は「うぅ・・・」と唸っている。

 

それを見て一刀は、イライラ。

 

そして

 

 

 

 

「おい。雪蓮。しばらくこいつ貸せ」

 

 

 

「別にいいけど、何するつもり?もし閨の相手だったら、私たちが相手になるけど?」

 

 

 

 

「冗談はやめろ。ババァに誘われても気持ち悪ぃ・・・・・あ、いや、ごめん。うん、とっても嬉しいけど、今はそう言う話じゃないんです・・・・・・・・あーったく、つまり、こいつを虐めるだけだ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

今度は蓮華が声を上げる番だった。

 

 

「何だぁ!?文句あるっていうのか!?」

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

すっかり一刀に怯えきった蓮華は、一刀の視線にすぐさま俯いてしまう。

 

 

 

 

 

 

―――王としての蓮華は強く、賢く、そして自信に充ち溢れていた。

 

だが、一刀に王である資格がないと言われ、そして自分自身でも、王としての自信を失った蓮華は、今はただの女の子となっていた。それゆえに、彼女は一刀の言葉に戸惑っていた。

 

 

 

 

しかし、これはよい傾向である。

 

 

 

 

 

雪蓮のように『公』と『私』を使い分けることが出来なかった蓮華に、初めて『私』が生まれたのだ。

 

 

 

 

雪蓮や冥琳たちはそれを確かに感じ、そして一刀に任せることにした。

 

 

 

「あ、あの・・・・私は・・・・」

 

 

「黙れや!てめぇに拒否権なんてねーんだよ」

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

そんな一刀と蓮華の二人の会話を、斗詩は傍で見ていた。

 

最初は少し嫉妬した。いくら教育のためとは言え、自分以外の女の傍にいることが嫌だった。

 

だが、すぐに思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

まさか、蓮華が一刀に惚れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、そのまま「呉に天の使いの血を入れる」とか言い出して、一刀を取ったりはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

あはは、と斗詩は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・・・ね」

 

 

 

 

 

そう斗詩は言いながらも、無意識のうちに自分の武器を握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 


 
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