No.181125

無真・恋姫無双 四話下編~立ち向かいたいこと~

TAPEtさん

蜀ルートで朱里ちゃんと雛里ちゃんが加わったところで繊細なところはカットされていますが、きっと雛里ちゃんのようなこともあっただろうと思います。

あ、台本式に続くのもあれだと思いましたので、ちゃんとした形を目指して書き方を変えてみました。

2010-10-29 21:14:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2873   閲覧ユーザー数:2468

やはり、義勇軍は義勇軍だな。

士気は万全なものの、軍列はちゃんと整っていない。

所々武芸に心構えがちゃんとできている奴らも見かけるから、先ずは伍長、什長を立てて形を作ったほうがいいだろうか。

でも下手したら逆に騒ぎが起きるかもしれないからまだそこまでしないほうがいいか?あまり細かいところまで手をかけると逆効果が起こって逆に義勇軍としてもいいところを害するかも……

 

「あ、あの……」

「うん?」

 

部隊を大体纏めていたところで、後ろから弱弱しい声が聞こえてきたので振り向いてみた。

 

「…鳳士元か」

「は、はひっ」

 

そこに立っていたのは、先仲間に入れてもらった二人中の一人、鳳統であった。

 

「あ、あの…」

「…桃香たちとの話は終わったのか」

 

目が合うとどうやら話がうまくできないようで、とにかく目を合わさず話を進める。

 

「水鏡先生と言ったら…こっちからでも噂を聞いている。多の優秀なな文官や軍師たちを出したようだし…こちらは見たら解ると思うが、軍略に通った者がない。君たちの加わりは、とても頼りになる」

「あ、ありがとうございましゅ…あぅ……」

 

よく噛むな。まだ緊張しているのか。

 

「で、ここに来た理由は?」

「あ、あの…先、ちゃんと紹介できませんでしたから…」

「うん?…ああ」

 

そういえば、彼女が名乗ろうとするところで私が去ってしまったからな。

場を緩めようとしたからと言っても、随分失礼なことをしてしまったな、これは。

 

「すまない。大変失礼なことをしてしまった」

「い、いいえ。あの、私こそ、もうしわけございません。その…あまり人と話すのが慣れていなくて」

「まあ、話しなければならない相手が怖い武人だったらな。怖がるのが正常さ」

 

そういうことには既になれているから、別に怖がられるからって傷ついたりもしない。

 

「私に話をかけるのが嫌うなら、桃香辺りに聞くといい。あの子なら暢気で教えてくれるさ」

「あ、ち、違います」

「うん?」

 

突然否定されたので思わず目を合わせた。

 

「あ、あの、私たち……ひぅ」

「……」

 

ふと私が見ていることに気付いた彼女はまた凹んでしまったが、今度はちゃんと聞いてあげたほうがいいかと思って顔は逸らさない。

 

「あ、あの、私、実はあまり塾の外に出てみたことがなくて…朱里ちゃんは時々先生と一緒に外に出たりしたんですけど…私は水鏡先生や朱里ちゃん以外にはちゃんとした会話をしたことがありませんので、ですから御使いさまや皆さんのことが特に怖かったからではなくて……」

「…単に人知れずなだけだって?」

「あわわ…はい…」

 

何かこう、この子たちは慌てるという言葉が可愛くなるな。

 

「それだけならまだ結構だけどな。…何せ、これから力を貸してもらわなければならない相手に嫌われてしまっては困るからな」

「き、嫌うなんてそんなことは滅相も……」

「うん、お前が言いたいことは良く解ったよ。その証拠で……」

 

私は彼女に向けて素手を出した。

 

「改めて言おう。私の名前は影子だ。残念ながら、他に姓や字も、真名もない。が、これからたくさんの人を助けるために、君たちの力を借りたい。協力してくれるか」

「……はい。えっと…姓は鳳、名は統、字は士元、真名は雛里って言います」

 

彼女は私の手を両手で掴みながら言った。

手の大きさの差が半端ない。彼女の両手合わせても、私の手の方が大きい。

 

「よろしくな、雛里ちゃん」

「ひゃ、ひゃひっ!」

 

ぶちっ

 

え?今、ブチッってした?

 

「っておい!どんだけ強く噛んだんだ」

「ひ、ひはいでしゅ……」

「うわっ、舌から血が……衛生兵!衛生兵!!」

 

・・・

 

・・

 

 

「いや…とんでもないハプニングだったよ…」

「ごめんなひゃい……」

 

今のは噛んだわけではない。

舌に薬を塗ったので話がうまくでいないのだ。

 

「そういえば、他の皆はどうしている?」

「あ、はい、愛紗さんと朱里ちゃんは一緒に軍の大方の編成について話していますし、鈴々ちゃんも自分の部隊の統率をしています」

「そうか…それじゃあ、私もそろそろそっちに行った方がいいのかな」

「はい…あ、ここは私に任せてください」

「大丈夫なのか?(一人でいる的に」

「はい、もう大丈夫です(舌の問題的に」

 

いや……まぁ、本人が大丈夫っていうからいいか。

 

「それじゃあ、私はちょっと愛紗のところに行く」

「はい」

 

…てか、あっちの方よりこの子をここに一人で置くのがもっと心配なのだが…

取りあえず何人か真面目な奴らに雛里を先ず紹介して、皆も彼女の言うことばに従うようにしておいて、愛紗たちのところへ向かった。

 

 

「愛紗」

「ご主人さま!」

 

愛紗のところに行ってみたら、朱里と愛紗が二人で地図を広げて話をしていた。

 

「ご主人さま、先のような行動は相手に対してよう礼儀というものが…」

「ああ、解っている。私の考えが浅かった…朱里ちゃんだったね。先ほどは失礼を犯してしまった。どうか許してくれ」

 

といいながら私が頭を下げた。

 

「いいえ、大丈夫です。それより、あの…いいのでしょうか。新参者の私たちを重用してくださって…」

「構わん。私たちには今、君たちのような智謀を持った人たちが切実だったからな。寧ろ、そっちから来てくれて大歓迎だ」

「はわ?」

 

元なら三度も会いに行かないとダメなのだからな。

 

「それより、今まで何の話をしていたのだ?」

「あ、はい、まだ具体的な話は今からってところです。ご主人さまも…」

「ああ、同席させてもらう」

「はい、えっと、では先ず私たちの軍の現況ですが、私たちの部隊は義勇軍な故に、士気は高いものの数では激しく劣っています。ですので、現在では私たちより数の少ない黄巾党の群れを狙って攻撃するのが得策となります」

「敵を選べというのか?」

「あ、はい…そういう話になります」

 

愛紗の気迫に圧倒されて凹んでしまう朱里だった。

 

「不満があるようだな、愛紗」

「不満というほどではないのですが、自分より弱い相手だけを攻めるというのは、些か卑怯なのではないかと」

「…喧嘩で大勢にかかるのは卑怯だ。でも、戦いで相手より多い数で攻撃するのは兵法の基本中の基本だ」

「それはそうかも知れませんが…」

「自分より強い相手に挑むことは勇敢なことだ。でも戦いで自分たちが明らかに勝てない相手と戦うことは蛮勇で、命捨てでしかない。私たちは自分たちの命だけを賭けて戦っているわけではないのだからな」

「うぅん……」

 

愛紗が言いたいことも解る。勝てない相手だからって見逃すことは確かに義には合わない。

けど、今の私たちにはその大義すらちゃんと示すことができないというのが現実なのだ。

 

「……いつかは」

「?」

 

私はもうちょっと頼もしいと見えるかなぁってトーンを変えてみた。

 

「利のために義を捨てなくてもいいようになってみせる。だから、その時までは我慢してくれ」

「ご主人さま……」

 

そ、いつかは…桃香や皆が望むような世界のためにためらいなく戦えるようにならなくてはならない。

だけど今は……

 

「朱里ちゃん、続けてくれ」

「はい、えっと…先言ったように、私たちは…悪く言えば敵を選んで戦いながら、戦果をあげるような方法を使うしか他ありません。ですから、先ずこの辺りに斥候を放って、黄巾党の動きを掴んでみようと思います」

「そうだな。じゃあ、先ずは斥候を放ったところで何かあったら詳しい作戦はその時考えるのだな」

「はい」

 

 

 

 

愛紗と朱里ちゃんと話をしているところで、

 

「御使い様!!」

「!お前は…」

 

先雛里ちゃんの補佐を任せた兵士だった。

 

「何故お前がここにいる」

「大変です!一部の兵たちが、鳳士元様の命令には従えないと暴れ出して…」

「…!!」

「なんだとー!」

「雛里ちゃん!」

 

その場にいた愛紗と朱里ちゃんも、私も驚愕した。

 

「雛里ちゃんはどうなった!」

「鳳士元様はご無事ですが、一部の兵士たちが騒ぎを起こして部隊が混乱しています」

「馬鹿者!何のためにお前にその場の補佐を任せたと…!」

 

いや、やめよう。先ずは雛里ちゃんだ。

 

「っ!」

「あっ、朱里!」

 

そんなところを朱里ちゃんは先に走っていってしまった。

 

「っ、愛紗、朱里ちゃんのことを頼む!」

「はいっ!」

「…なんて無様だ……」

 

私のせいだ。こうなることを念に入れておくべきだった。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

伝えに来た兵士と一緒に例の所に着いた。

部隊は……

 

「俺たちはよ。あんな小娘の命令にはいはいと従おうとここに来たわけじゃねぇんだよ」

「そうだ、そうだ」

 

……愚か者どもが…!

 

 

 

「静まれ!!」

「!!」

 

私の一喝で、一瞬で騒ぎは先ず静まった。

 

「……雛里ちゃんの…鳳士元の命令に一番先に異議を唱えた奴は前に出ろ」

 

間もなく、男一人が前に出てきた。

 

「…彼女に従えない理由は?」

「相手は戦い方も知らない小娘です。私は、御使いさまと劉備さまたちに惹かれて命を賭けてここに来ました。あのようなガキに、私の命を託すつもりはございません!」

「……」

 

理屈は、わからなくもない。

まだ功も名もない彼女だけを残しておいたのが間違いだった。

が、

 

「…彼女に指揮権を渡したのは私だ。皆もそう聞いたはずだ」

「……それでも」

「彼女は武芸に心構えはなくても戦略に関してはここにいる誰よりも詳しい。なのに相手をただ見た目だけで判断して貴様は私の命令を無視した。そんな者の命なら私も負かされたくない。……今すぐ武器を返してご両親のところへ戻れ」

「!御使い殿!」

「でなければ軍法で貴様の首をここで斬る!」

「!!」

 

周りの連中が騒ぎ始める。

騒いでいる問題の部隊の数はおおよそ五百。

 

「ここに居る全員!鳳士元や諸葛孔明の指揮に従うと言う者だけ前に出ろ。従える者だけだ」

 

直ぐに何十人かが私の元へ来る。また何人ぐらいはその後をついて出てくる。

部隊に残っている中にはどうすればいいか迷っているものも居て、最初に前に出た者と同じ考えのようにそのままじっとしている奴らも居る。

でも大体は周りの動きを見ながら様子見しているところだ。

 

「残っていた全員、この者と同じく家に戻れ」

「「!!」」

 

私の話を聞いた何人かが遅れて前に出ようとする。

 

「今出てくる連中はその首を斬る!」

 

と一喝したら止まる。

 

「待ってください、御使いさま、私はただ……」

「ただ、己の浅い武を誇って私の命令で出てきた小さな子供に見栄を張った……違うか」

「うっ……」

 

異議を言おうとした兵が口を閉じて下を向く。

 

「ここから私たちが行こうとする道は厳しい。少しの油断が個人一人一人の命取りとなる。そんな中で、私や指揮官の命令に従わず己の偉さだけを唱えるというのなら、私はお前らの命を守ってあげる自身がない。…お前たちに失望した」

 

前に出てきた兵の数は約半分ぐらい……残りの250人ぐらいは何人騒ぎ出しただけで本当にやるべきことが何か忘れて戸惑った。そんな連中ならどれだけいい統率をしても無駄だ。

 

「……武器を返して各自の住んでた場所で戻れ。話は以上だ」

 

「ご主人さま!」「お兄ちゃん!」

「…桃香か」

 

あそこから遅く話を聞いたのか桃香と鈴々が来た。

 

「どうしたの、ご主人さま?」

「ここに立っている連中を除いて、こいつと後ろの連中は全員武装を解除させて村に帰らせろ。……残しておいたら死ぬことしかないやつらだ」

「ご主人さま……」

「言うとおりにしてくれ…鈴々」

「にゃ?」

「愛紗たちはどこに居る?」

「あっちで会ったのだ」

「桃香とここの整理をしてくれ」

「解ったのだ。雛里ちゃんは大丈夫なのだ?」

「……解らん」

 

私はそう言って雛里ちゃんたちがいると言われた場所へと向かった。

 

 

 

 

「ひぐっ……ひっ……」

「雛里ちゃん……」

「……」

 

鈴々が教えてくれたところに着いてみたら、朱里ちゃんは雛里ちゃんを慰めていて、愛紗はそれを見つめるだけだった。

 

「愛紗」

「ご主人さま」

「雛里ちゃんは……」

 

泣いていた。

多分急な出来事で驚いてしまったのだろう。

状況は詳しくは解らないけど、およそ予想はつく。

雛里ちゃんの指揮に反発した連中のせいで、恐慌状態になった雛里ちゃんがここまで逃げてきたのだろう。

 

「あちらの方は」

「……従わなかった連中と従うと確かに意思を示さない兵士たちは解散させた」

 

考えだけではあいつら全員殺したいぐらいだ。

が、連中はあくまで義勇軍として集まってくれた者ども。

あまりの仕打ちは士気にも関わる。

 

 

取りあえず雛里ちゃんと朱里ちゃんのところへ行った。

 

「…次から次へと、何と言えばいいのか解らないぐらいだ」

「ひうっ……うぅっ…」

「どうか、許して欲しい」

 

そう言って私は膝を折って頭を下げた。

今、何の力もない私にできることなんて、こうして謝罪することぐらいしかできない。

 

「はわっ!?い、いえ、ご主人さまがそこまでなさることは…」

「いや、私たちを信じてここまで来てくれたのに…こうでもしないと面目が立たない」

「はわわ……あ、ひ、雛里ちゃん」

「あ、あわわ……あ、あの、おきてください。わ、私は大丈夫です」

 

んなわけがあるか……ただ、どうかこのことのせいで彼女たちが傷つくことになってしまって申し訳ないだけだ。

 

「その…ありがとうございます。新参者の私たちにここまでしてくださって……感謝しています。だから、頭を上げてください」

「……それなら」

 

私は膝はそのままにして頭を上げて言った。

 

「これからも二人とも、私たちを助けてもらえるか」

「は、はい」「はい」

「…ありがとう」

 

私は二人の頭に手を伸ばして、二人の頭を撫でた。

 

「ひゃうぅ」

「あわわ……」

「改めて、これからよろしく頼むぞ。朱里ちゃん、雛里ちゃん」

「「……はい」」

 

二人は小さく、でも覚悟をこめてそう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 


 
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