マーシー・サスは疾走していました。
風と大地は彼女の味方です。
風は背中を押してくれ、ぬかるみは歩きやすくかわいてくれます。
彼女は追われていました。
肉獣ドノバンの縄張りに足を踏み入れてしまったのです。
「いやぁー」
「大地を司る仏さん!力!イケェ!カーテンマントル」
大地が咆哮しました。
地表面が稲妻の如く裂け渡りますと、次の瞬間には溶岩流が噴き出して炸裂し、諸共に肉獣は四散しました。
「助けてー。誰かー。」
イーグルの街の空を硝煙が覆っていた。
その光景を見たとき、胸の鼓動が早くなるのを感じた。肉獣から逃れるしか、それしか自分にはー?
肉獣は消し飛んでいた。
「あれれー?ドノバンが跡形もなくなってる」
鮮血があたり一面を赤黒く染め上げ、骨や肉片や臓器がことごとく撒き散らされてしまったのです。
少し気分が悪い。
「取り敢えずイーグルを目指してみようかしらん」
マーシーはぬかるみを出て直ぐの草原を歩いていく。
こうしていると昔を思い出す。まだサス家の名声が、地位が永遠のように感じられた。
令嬢であった私はなに不自由なく暮らした。そんな時。
ー草原を撫でる風は髪を吹いた。
祖父は私と人に慣れたドノバンを連れて草原へとやってきた。
死霊を殺しに。
「術によって迷える魂はここに集められかりそめの肉体を得るのじゃ」
草原に体毛の無い人間のようなもの達が顕現しはじめた。
「何が始まるんでしょうお爺様、私怖い」
私は怖くなってお爺様の長いコートの裾にしがみついた。
「征くぞ!マーシー」
そう言って詠唱をし始めた。
「聖なる十字よ!闇を照らしたもうッ!シャイニークロオオス!!」
太陽光が爺さまの右手に集約され、死霊に放射されました。すると死霊達は跡形もなく光になったのです。
「すごい」
マーシーは最初こそ怖がっていましたが、その楽しげなパレードに心を踊らせるのでした。
死霊となった人々が消し飛ぶ刹那の安らかで笑みすら浮かべて昇天する様を見ていると自分まで安らいでいくのを感じたのでしょう。
「懐かしいわ」
歩いているといきなり視界が揺れた
「あ」
衝撃、そのままマーシーは意識を失った。
顔面を異様な仮面で覆った屈強な男たちがいた。
彼らはハフ族と自らを称する人たちで、生まれついたその時から狩人として育てられる。
彼らは彼らの縄張りであるイーグル近郊のフリンジ山の麓の密林でまずは肉体を極限まで鍛え上げ、その後野獣と牙を交えながら格闘術や、足音や気配をたくみに消してしまう術を体得している。
彼らはいま昏倒させたマーシーを担ぎ、森へ向かっていくのでした。
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マーシー・サスは冒険者だが、まるでなっちゃいなかった。