No.177217

真恋姫無双二次創作 ~盲目の御遣い~ 拾漆話『真意・弐』

投稿37作品目になります。
拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけだら、これ幸い。
いつもの様に、どんな些細な事でも、例え一言だけでもコメントしてくれると尚嬉しいです。
では、どうぞ。

続きを表示

2010-10-09 07:04:44 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:16557   閲覧ユーザー数:12772

 

天幕の内は静寂で構成されていた。

 

 

言の葉一つ聞こえず、

 

 

足音一つ響かず、

 

 

時折、布を揺らめかせる薫風だけが、時の移ろいを示していた。

 

 

天蓋が落とす微かな影の下、大地を更に色濃く塗り潰す影は一つ。

 

 

華雄であった。

 

 

呆然と漠然。

 

 

茫然と混然。

 

 

絡み合う感情に掻き乱される思考回路。

 

 

閉まり切らない唇は一文字とて言語を紡がず、瞳の焦点はただただ虚空を捕えるのみ。

 

 

浮かぶ疑問符は有象無象なれど、結局はこれに収束する。

 

 

「・・・・何なんだ、あの男は」

 

 

僅かに俯く表情、思わず漏れた声、共に心中の混乱をありありと顕しており、

 

 

その下、力無く垂れる両足にはうっすらと跡が残るのみで、既に足の拘束は解かれていた。

 

 

 

 

 

―――――華雄さんの縄を解いてあげて下さい、藍里さん。

 

 

 

『董卓様を救いたい』

 

その発言の後、呆ける私の前で、この男は更にこんな事を言い出し、

 

「・・・・宜しいんですか、白夜様?」

 

直後、聞こえた声に、私は今日何度目とも解らぬ驚愕を覚える。

 

男の背後、三歩ほど下がった場所に、何時の間にか女が一人、立っていた。

 

普段ならば、この距離で気配に気付かないなどあり得ない。

 

隠密に長けた者かと思ったが、線は細く物腰も武人のそれとは程遠い。

 

(この女の気配に気付けないほどに、私がこの男に意識を持っていかれていた、という事か)

 

そんな事を考える私を余所に、男は背後を振り返り、

 

「はい、構いません。このままじゃあ可哀そうですし、実際に話してみて、よく解りましたから」

 

そこで男は再び私の顔を、真正面から見据えるように向き直って、

 

 

 

「この人は、華雄さんは、信じられる人です。私の質問にも、嘘の答えは返ってきませんでした」

 

 

 

「解るんですか?」

 

「ええ。人が嘘を吐いている時は、必ず何処かに綻びがあるものなんです。声の震え、心拍数、あとは・・・・まぁ、私の感覚なんですが、その人の纏う雰囲気で」

 

「・・・・解りました。白夜様が仰られるなら、そうなんでしょうね。でも、全部は駄目です。白夜様が信用しても、雪蓮様達や兵士の皆さんはそうは思っていないんですから」

 

そこで女は一端言葉を切り、

 

「なので、足の縄だけですよ?」

 

「・・・・有難う御座います、藍里さん」

 

そう言って穏やかに微笑むと男は立ち上がり、

 

「華雄さん、最後に一つ」

 

私の顔から見据えた顔を逸らさずに、屈みこみながら人差し指を立て、

 

 

 

「自害なんて、絶対に考えないで下さいね」

 

 

 

「な、に・・・・?」

 

「先程言った通り、私は貴女達に害を及ぼす積もりはありません。それに、貴女が死んでも、喜ぶ人なんて一人もいないし、償いにもなりませんから」

 

それだけ言い残して踵を返し、天幕の出口へと向かう。

 

その途中、入口の前で立ち止まり、

 

「明命さん、そこにいますよね?」

 

虚空に向かって呟いたかと思うと、瞬時に現れたのは長い黒髪の女。

 

隠密の者だと、直ぐに解った。

 

「何時から気付いてらっしゃったんですか?」

 

「最初からですよ。・・・・まぁ、微かにしか感じなかったですけどね。華雄さんの事、ちゃんと見張ってて下さいね」

 

「あ、はい!!任されました!!」

 

快活に答えると女は再び姿を消し、男は天幕を出て行った。

 

「それじゃ、ちょっと動かないで下さいね。・・・・ふむ、随分堅く結ばれてますね。切っちゃった方が早いかも」

 

気付けば女が短剣を片手に、私の両足を縛る縄を断とうとしていた。

 

「私達の陣営内であれば、ある程度動き回って戴いても構いません。先程の周泰が常に貴女を見張っていますから、怪しい動きは控えて下さいね」

 

「・・・・あの男は、何者なんだ?」

 

思わず尋ねていた。

 

「北条白夜様。孫策様に仕える軍師見習いで、私が仕えている御方です。それ以上でも、それ以下でもありませんよ」

 

女はきつく縛られた縄を一本一本切りながら答える。

 

「そんな訳が無いだろう。ただの軍師見習いがあのような発言を許される訳が――――」

 

「一つだけ言っておきます、華雄さん」

 

有無を言わさず言葉を遮られ、縄を切り終えた女は立ち上がり、

 

 

 

「あの御方の信頼を裏切ったら、赦しませんよ・・・・?」

 

 

 

何処か冷たさを感じるその笑顔を、

 

 

 

喉元に突き付けられたその言葉を、

 

 

 

即座に天幕を出て行ったその背中を、

 

 

 

私は忘れられそうになかった。

 

 

 

 

「董卓を救いたい、か・・・・確かに、北条なら言いかねんな」

 

長い沈黙の中、冥琳のそんな呟きを皮切りに、漂う空気が僅かに和らぐ。

 

「そうですねぇ。むしろそう思わない方が不自然とすら思えてしまいます~」

 

穏の間延びした声に、将達は同意する。

 

共にいた時間に差はあれど、彼という人物を知る者ならば、当然の感想だろう。

 

しかし、

 

「だが雪蓮、それではお前がこのような『暴挙』に出た理由の説明にはならん。北条の願いは、人としては確かに尊いものだが、人の上に立つ者としては些か浅慮だ。・・・・お前は、奴とは違う」

 

「・・・・まぁね」

 

既に通用しないと解っているのだろう、雪蓮も変に誤魔化しはしなかった。

 

「お前を疑っている訳ではない。ただ、解らんのだ。・・・・何故、奴の願いを受け入れた?」

 

天幕内の空気が再び重みを増し始めた、その時だった。

 

 

 

「それは、私から説明しましょう」

 

 

 

皆の背後、突如聞こえた声に皆が一斉に振り向く。

 

噂をすれば影。

 

収束する視線の焦点にいたのは、

 

「もう、白夜。遅かったじゃない・・・・まるで私が悪役扱いよ?」

 

「済みません、雪蓮さん。話を窺っていたら、予想以上に時間が掛かっちゃいまして」

 

「そっか。・・・・それで、決まったの?」

 

「・・・・はい」

 

「宜しい。それじゃ、貴方の口から皆に、ちゃんと説明して頂戴」

 

雪蓮に促されるまま、白夜は彼女の隣に立つ。

 

数歩下がった場所に藍里が控え、卓を挟んで孫呉のほぼ全ての武将が自分に視線を注ぐ中、白夜はゆっくりと語りだす。

 

 

「董卓さんは清廉潔白、完全に無実です」

 

 

「何故、そのような事が言える?」

 

 

「華雄さんから、董卓さんの事を色々と窺いました。彼女の持つ考え、成した事。『悪鬼』なんて二つ名とは、到底結びつかない人物です」

 

 

「信用出来んだろう。そういう所に付け込んで、虚偽の人物像をお前に擦り込もうとしているとは思わんのか?」

 

 

「有り得ません。華雄さんは嘘を吐いていなかった。・・・・何より、そんな器用な真似が出来るような人とは思えません」

 

 

「む・・・・確かに。しかし、我々に利点があるとは思えん。雪蓮にも言ったが、今の我々は非常に複雑な状況下にある。袁術達の手前、目立つ行動をとる訳にもいかんし、下手をすれば連合軍全体を敵に回す事になりかねんぞ。・・・・お前は一体、どうする積もりなんだ?」

 

 

「それも有り得ません。私達がとる行動は、今までと何も変わりませんから」

 

 

「・・・・どういう事ですか~?」

 

 

耳を傾ける皆が疑問符を浮かべる中、白夜はそこで一度深く息を吸い込み。

 

 

 

「董卓軍を、完膚なきまでに叩きのめす。軍の存続が、再興が、不可能になるほどまでに。それが、私の考える、董卓さんを救う方法です」

 

 

 

完全に呑まれていた。

 

 

纏う空気は重苦しく張り詰め、冥琳は次の問いを、ゆっくりと放つ。

 

 

「・・・・どういう事だ?」

 

 

「董卓さんは、人の上に立つ事を、望んでいません。人と並び立ち、共に心を分かち合いたい、そう思っています。そんな彼女を、今の状況から解放するにはそれしかないと、私は考えました」

 

 

「・・・・何故、董卓の考えが解るんだ?」

 

 

「そりゃあ解りますよ。だって、」

 

 

どこか儚げな笑み。そして

 

 

 

「彼女は私と、まるで同じ考えの持ち主なんですから」

 

 

 

その言葉に、何も言えなくなった。

 

 

 

「『臣は義を尊び、民は利を尊ぶ』そうとまでは言いません。これから話すのは、もっともらしい理屈を付け足しただけの、私の我儘です。それでも、聞いて下さいますか?」

 

 

 

誰もが呆気にとられ沈黙を余儀なくされる中、

 

「く、くふ、くふふふふふふ、あ~駄目、もう我慢できない―――――あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

「・・・・雪蓮?」

 

抑え切れない笑い声。

 

暫く続いたそれは、やがて肩を上下させながらの息切れに変わり、

 

「・・・・信じられる、冥琳?ついこの前まで戦場も知らなかったのに、戦場で我儘を言うようになったのよ?・・・・他ならぬ私達が、巻き込んだっていうのにね」

 

「・・・・・・・・」

 

自嘲。自責。忸怩。

 

それは間違いなく負の感情。

 

この優しい青年に、これほどの重責を背負わせたのは、自分達だ。

 

「聞いてあげて、皆。白夜の考えに、私は賛成したわ。白夜は、私達の事もちゃんと考えてくれているから」

 

「・・・・ふふっ、そうか。ああ、解った」

 

諦めに似た笑み。

 

「やれやれ、教え子の成長は嬉しい事だが、あまりに段階を飛ばし過ぎではないか、北条?」

 

やれやれと言わんばかりに肩から力を抜きながらの嘆息を吐いて、ほんの少し目を細めて。

 

「聞かせてくれ、お前の覚悟を。構わんだろう、お前達」

 

振り返ったその先には、並ぶ人数と同じ数の首肯。

 

そして、白夜は語り出す。

 

その胸の内を。

 

 

やがて日は暮れ、夜の帳に千万の煌きが灯る。

 

陣営各所に松明の焔が揺らめき、麻の天幕を淡い橙に染め上げる。

 

そんな中、劉備陣営の天幕内。

 

「難攻不落の汜水関に一番乗り、そして陥落。これだけでも、連合に参加した甲斐はあったね、朱里ちゃん」

 

「孫策さん達が華雄さんを抑えてくれたから、っていうのが大きいけどね。・・・・でも、次は虎牢関。最大の難所だよ」

 

「そうだね・・・・今回は退却した張遼さんも、今度はそうはいかないだろうし、何より、汜水関にいなかったって事は、あの人がいるのは間違いないだろうし」

 

「でも、私達は負けられない。例え全力を尽くしても、結果が得られなければ、意味がないんだから」

 

「・・・・何か、今回の朱里ちゃん、凄いね」

 

「――――へ?」

 

「何て言うんだろう・・・・いつもより積極的って言うか、ちょっと怖いよ?」

 

「えと、そ、そうかな・・・・?」

 

「うん・・・・何か、あったの?」

 

覗き込む視線から逃れるように俯くその心中、思い浮かぶのは軍議の席。

 

肩を並べる二人の影が、今も心にちらついていた。

 

「ちょっと、ね・・・・でも、私個人の問題だから」

 

「・・・・そっか。何か出来る事があったら言ってね、朱里ちゃん」

 

「・・・・うん。有難う、雛里ちゃん」

 

それは、心からの感謝だった。

 

女学院に居た頃も、

 

お姉ちゃんが卒業した時も

 

私は、支えてもらってばかりだった。

 

誰かが側にいてくれる。

 

自分を支えてくれる。

 

その有難さを、身に沁みて知っていた。

 

(負けない・・・・負けられない・・・・負けたくない・・・・)

 

自分を奮い立たせる。

 

自分達はこの連合軍で、それなりの成果を挙げなくてはならない。

 

自分達がこの先生き残って行く為に。

 

自分の力を証明しなければならない。

 

お姉ちゃんに、自分の力を認めさせる為に。

 

 

(・・・・あれ?)

 

 

そこで、思った。

 

 

(お姉ちゃんに認めさせて、それから、どうするの?)

 

 

今更ながらに、気付いた。

 

 

自分は既に桃香に仕えており、

 

 

姉もまた既に孫策に仕える身である。

 

 

もし、自分が北条白夜よりも優れていると証明したとしても、

 

 

(何か、変わるの?)

 

 

(私は何の為に、あの人に勝とうとしているの?)

 

 

「?・・・・朱里ちゃん、どうしたの?」

 

自問自答が終わらない。

 

何度問うても、答えが出ない。

 

答えが思い浮かばない。

 

こんな体験は初めてだった。

 

違和感が肥大する。

 

胸の真ん中辺りに靄がかかったような、奇妙な感覚。

 

「朱里ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」

 

「っ!ううん、大丈夫、何でもないから・・・・」

 

揺さぶられて初めて、我に帰れた。

 

心底心配そうに自分を気遣う親友の顔を見て、頭を振った、その時だった。

 

 

 

「朱里、雛里、失礼するぞ」

 

 

 

天幕の入口が揺らめき、真っ先に目に付くのは艶やかな黒髪。

 

躊躇いがちに天幕を訪れた彼女を、自分達はよく知っていた。

 

「愛紗さん」

 

「済まないな、こんな時間に。・・・・少し、聞きたい事があってな」

 

「?どうかなさいましたか?何か問題でも?」

 

小首を傾げる親友と同じく、自分もまったく心当たりが無かった。

 

明日の行軍の際の予定や虎牢関での策など、そういった類の確認や質問だと思っていた。

 

だからだろう。

 

 

 

「いや、その、世間に流布している、董卓の噂についてなんだが・・・・あれは、本当に真実なのだろうか?」

 

 

 

その単語を聴き取った瞬間、心臓が鷲掴みにされたように、身体が硬直した。

 

 

 

「・・・・どうして、そのような事を聞かれるんですか?」

 

 

震わせないようにするのが精一杯だった。

 

 

「今日、華雄と刃を交えた時に、彼女の怒りを直に感じて解ったんだ・・・・彼女は自分への挑発ではなく、私が最後に吐き捨てた主への侮辱に対して純粋に怒りを感じていた。・・・・それは、真に悪逆非道たる主に仕えていては出来ることではない。少なくとも、私には」

 

 

ふと視線を横に流すと、隣に座る親友もまた、うっすらと表情を青くしていた。

 

 

「私の思い過ごしなら別に構わんのだが、もし違ったらと思うと、な・・・・何か知っているなら、教えてくれないか?」

 

 

固唾を呑む。

 

 

両の拳を強く握る。

 

 

冷や汗が滲み、

 

 

動悸が高まる。

 

 

喉が狭まり、

 

 

言葉が紡げない。

 

 

それでも、何かを言おうと唇を開こうとした、その瞬間。

 

 

 

「朱里~!雛里~!ここにいるのか~?」

 

 

 

正に天真爛漫な声と共に天幕の入り口が大きく開かれた。

 

 

「あや、愛紗もいたのか?呼びに行く手間が省けたのだ」

 

 

「鈴々?どうした、こんな時間に」

 

 

「愛紗、朱里、雛里、お客さんが来てるのだ」

 

 

「お客さん、ですか・・・・?」

 

 

やっと絞り出した声での問いに返って来たのは、

 

 

 

「うん。孫策おね~ちゃんと、昼間に孫策おね~ちゃんと一緒に来た、目をつぶったおに~ちゃんと、朱里そっくりのおね~ちゃんなのだ」

 

 

 

自分の動悸を更に高まらせるのに、充分だった。

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

『蒼穹』を挟んでこっちは久々の更新ですね。

 

久々に徹夜で書いたので、文脈とか大丈夫かどうか、少々不安ですww

 

大学も後期日程が始まりましたが、今まで頑張って単位稼いでたんで、殆ど午前中に終わる素晴らしいスケジュールに。

 

その分サークルや趣味に時間を回せそうなので、今までよりも更新速度がちょっと上がるかもです。

 

 

で、

 

 

一気に事態が回り始めます。

 

夜分遅くの来訪。

 

再び相見える白夜、藍里と朱里。

 

果たして、彼等の来訪の理由とは?

 

彼女はその姿に何を思うのか?

 

無理しない程度に頑張りますんで、拙い文章ですが、これからも宜しくお願いします。

 

 

閑話休題。

 

 

北海道も一気に冷え込み初め、相も変わらず短い秋があっという間に過ぎて行きそうです。

 

早ければ来月末には初雪降るでしょうねぇ・・・・コートとかフリースとか、そろそろ出さないとな。

 

季節の変わり目、体調を崩しやすい時期でもあります。

 

皆さんも健康には十二分に気をつけて日々をお過ごしください。

 

俺は今年も作務衣に腹巻、ヒートテックの三大神器で寒さを凌ぎます。

 

それでは、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

・・・・・・・・最近、天気の悪い日続きで軽い鬱気味です。


 
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