No.176577

魏√after 久遠の月日の中で 6

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で6になります。

前作の番外編から見ていただければ幸いです。

それではどうぞ。

2010-10-05 18:45:38 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:25813   閲覧ユーザー数:20956

華琳は真桜の工房に足を進めていた。

手には先程目を通した書簡。それと同封されていた『ぼうるぺん』の写真。

一刀と真桜が作成したカメラは、その実用性から蜀と呉にも渡されていた。

蛇足だが、現像方法はこの五年間真桜が各国へ行き教育済みである。

 

「真桜、いるかしら?」

 

「ん?なんや華琳様。わざわざこんな所まで来なさって」

 

入り口にいる華琳を見て、真桜は作業を中断する。

 

「貴女に聞きたい事があるの。これを見なさい」

 

「写真かいな。ふむふむ……こ、これは!!」

 

ぼうるぺんの写真を見た真桜は、目を見開く。

 

「華琳様!これ、どないしたん!?」

 

「成都で謎の男が売っていたらしいわよ。これが何か知っているの?」

 

「知ってるも何も、これ隊長が説明してた『ぼうるぺん』って物にそっくりやわ!!」

 

「……なんですって?」

 

「これ、文字が書けるんですよね?この先端の部分にほんま小さな鉄球がはめられておるんです。ウチの技術でもそれが困難で作るまで漕ぎ着けなかったんですよ」

 

真桜が悔しそうに説明する。

この三国に、真桜を超える技術者は存在しない。

ということは……

 

「華琳様、ぼうるぺんを売っていた男ってもしかして……」

 

「真桜、憶測でものを言うのは止めなさい」

 

「でも!そんなもん持ってる可能性がある人って隊長しか……」

 

「真桜!!」

 

華琳が発した声に、真桜はびくりと体を震わす。

 

「……この事は他言無用とする。他の子達に余計な希望を持たせる事になりかねないわ」

 

「せやけど華琳様……」

 

「真桜のお陰でいろいろとわかったわ。ありがとう」

 

写真を取り、踵返す。

 

「華琳様!」

 

真桜の呼びかけに、華琳は振り向かなかった。

一刀が帰ってきているかもしれない。

 

そんな考えが私の中を駆け巡る。

喜び、怒り、悲しみ、様々な感情の念が心に押し寄せる。

 

「ふふ……ふふふ……」

 

笑いが止まらない。

真桜にああ言っておいて、私自身が希望に心を震わせている。

 

しかし帰ってきているなら何故真っ先にここへこないのだろうか。

この書簡によれば、ぼうるぺんを見つけたのは数日も前になるという。

そのくらいの時間があれば、成都から許昌までは十分移動できるはずだ。

 

「…………」

 

……だめ、やはりまだ早い。

こんな不明瞭な証拠で一刀が帰ってきているなんて思ってはいけない。

それを信じ、裏切られれば今度こそ私は耐えられないだろう。

 

風には野盗を捕まえた男の正体を任せている。

桂花に男についての案件は得策ではない。

となるとやはり、稟だろう。

まずは蜀が持つ情報を手に入れよう。こちらよりは確実に詳細を把握しているはずだ。

 

思案を終え、稟が居るであろう書庫へ向かう。

幾分、自分の気持ちが弾んでいるのを否めなかった。

─呉、執務室─

 

「ねぇ冥琳!この『ぼうるぺん』っていうの、すごくない!!」

 

「たまに仕事をしてくれていると思ったら、もう飽きてしまったのか?」

 

ここは呉の執務室。雪蓮は一つの書簡を手に冥琳に詰め寄っていた。

 

「なになに…………ふむ、随分と奇怪なもののようだな」

 

「これ、ほしい!ちょっと成都に行って来るわ!!」

 

「なっ!?おい雪蓮!待て!!」

 

冥琳の静止を聞かず、すぐさま雪蓮は部屋を飛び出していった。

残された冥琳は、静かに怒りを燃やす。

 

「……帰ってきたら、どうしてくれようか……」

 

相変わらず、呉の小覇王はフリーダムだった。

「うむ、やはりこれがいい」

 

「…………」

 

華雄と共に旅を始めてから数日。

馬上の体制に四苦八苦していた華雄だったが、ある体制で満足していた。

それは……

 

「その……こんなに密着していいの?」

 

「ん?言ってる意味がよく分からんが、これが一番落ち着くからな」

 

手綱を持つ俺の両手の間に収まっている華雄。

寄り掛かってくる彼女はとても無防備に思える。

まぁ俺が男として認識されてないだけなんだろうけど。

 

この体制はいつまで経っても俺が慣れなさそうだ。

悶々としながら軽く纏風を走らせていると、初めて村が見えてきた。

適当に進んでいただけに、ちょっとした感動が沸く。

 

数分くらい纏風を飛ばすと、あっという間に村についた。時刻は夕時、今日は野宿は免れそうだ。

纏風を馬舎に預け、宿をとりにいく。華雄は旅路の荷の補充に出て行った。話では四年程旅をしているらしいので心配はないだろう。

 

宿を取り付けやる事は終えた。外は既に暗い。

俺は宿をでてある場所に向かった。今日この村である舞台公演があるようなのだ。

村の男殆どがその公演に足を運んでいるらしい。

 

 

 

会場は凄まじい人だかりができていた。

俺が居る場所は舞台から最奥になるため、舞台上はほんの少ししか伺えない。

だがそれで十分だった。俺は彼女達が元気でいるのを知れればよかったから。あまり近くだとばれかねない。

 

公演が始まった。

 

「みんな大好きーー!」

 

『てんほーちゃーーーーん!!!』

 

「みんなの妹ーー!」

 

『ちーほーちゃーーーーん!!!』

 

「とっても可愛い!」

 

『れんほーちゃーーーーん!!!』

 

「数え役萬☆姉妹の舞台、始まるよー!!」

 

「みんな、最後まで楽しんでねー!」

 

『ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!!!!』

 

……相変わらずすごい。

観客の熱気に当てられ、すこしくらりときてしまった。

 

声援に負けない三人の歌声。明らかに五年前よりうまくなっている。

歌だけではない。舞台を舞う三人はとても美しく、昔には無い妖艶さがあった。

なんか……涙が出てくるな。本当に偶然だけど、彼女達の舞台をまた見る事ができてよかった。

 

見惚れている内に、いつの間にか舞台は終わっていた。ぞろぞろと賞賛の声と共に解散を始める観客。流れに沿い俺も宿に戻る。

 

「おぉ一刀、遅かったな」

 

「……あれ?」

 

部屋に入ると華雄が待っていた。俺はしっかり二部屋とったはずだ。

 

「何故二部屋もとったんだ?寝具はあるのだから一部屋で十分ではないか。路銀も限りがあるのだから、無駄に使ってはいかんぞ」

 

「ご、ごめん……」

 

怒られた。一部屋分のお金はちゃんと返してもらったらしい。

華雄は俺の思った以上にきちんとしていた。

……異性と同室だとうんぬんなどは、もう何も言わないでおこう。

一刀さんが天の国に帰ってしまった。五年前、華琳様からそう伝えられた時、私達三姉妹はすぐに信じられなかった。

でも悲しみに暮れる魏のみんなを見ると、自然とそれが事実だということがわかった。

私達は泣いた。声が枯れるまで泣いた。

その間の公演は延期せざるを得なかった。

程なくして復帰をしたが、天和姉さんはよく呆ける様になった。地和姉さんは元気が無くなった。私はどうだったか覚えていないが、二人と同じくらいひどかったらしい。

そんな私達を元に戻してくれたのが、応援してくれてるみんなだった。

復帰公演初日、溢れんばかりの観客が私達を励ましてくれたのだ。

今までの自分達が情けなく感じた。それと同時にこのままでは一刀さんに悪いとも思った。

私達の中に明確な目標があった。

一刀さんと約束した大陸全土となる大舞台の開催。

それから、目標に向かって邁進をはじめた私達は昨年、ようやく念願を叶えることができた。

私達は一刀さんを想い、歌い踊った。

天の国にいる一刀さんに届けばいいと思った。

 

夢が叶えた私達は、変わらず舞台に立ち続けている。

 

今日は地方の公演。途中まではいつも通り恙無く進んでいった。

でも途中から、地和姉さんの動きがおかしかった。

観客達にはわからない、一緒に歌って踊っている私達だから解る綻び。

 

舞台が終わった後、問いただすために私は地和姉さんへ詰め寄ろうとした。

でもそれよりも早く、地和姉さんが外へ駆け出した。

 

「ちーちゃん!?」

「地和姉さん!!」

 

まだ外にはお客さんがいる。衣装のままで出て行っては騒ぎになりかねない。

急いで護衛の人に報告し、後を追う。

地和姉さんの表情には鬼気迫るものがあった。いったいどうしたというのだろう。

 

 

 

観客席の奥の方。騒ぎ出しているお客達を護衛の人たちが鎮圧してる中、地和姉さんが呆然と立ち尽くしていた。

 

「ちーちゃん……?」

「どうしたの?」

 

私と天和姉さんが恐る恐る声をかける。

 

「いたのよ……ここに」

 

「え?」

 

地和姉さんの声は震えている。

 

「ここに、一刀がいたのよ!」

 

「……嘘」

 

「嘘じゃない!ちぃが一刀を見間違えるわけない!!」

 

一刀さんが帰ってきてる?

でもそれなら何で会いにきてくれないのだろう。

やはり地和姉さんの見間違いではないのか?

 

「……ならー、探そっか」

 

今まで黙っていた天和姉さんが、真剣な表情で口を開く。

 

「もし一刀が今日のここで舞台を見てくれてたなら、まだこの村にいるはずでしょ?こんなに遅くから村を出るなんてありえないよ」

 

「そうね!すぐ行きましょう!」

 

「あ、ちょっと……」

 

言うが早いか駆け出す二人。

まだ事後処理や騒いでる観客の鎮圧などが残っている。

一刀さんが居るかもしれないなら、私だってすぐ駆けつけたい。

でも仕事を疎かにはできない。

 

「……もう!」

 

姉さん達に護衛を向かわせて舞台裏に戻る。

私も二人みたいに直情的なら……

我ながら損な性分だと思った。

あとがき

 

 

 

 

  |l、{   j} /,,ィ//|     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     | あ…ありのまま先日起こった事を話すぜ!

  |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |     <『魏√after 霞編の時期は想像に任せると言っ

  fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人.    | たら、みんな一刀が帰ってきた後の事だと思

 ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   | いやがった!』催眠術だとか超スピードだとか

  ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉.  | そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

   ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ. │ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

  /:::丶'T'' /u' __ /:::::::/`\____________________

 

悪ふざけスタート。どうもふぉんです。

ご想像にお任しますと言った自分が悪いですね、本当にごめんなさい。

霞編、今考えると久遠シリーズとか関係無しに短編別作としてupすればよかったと後悔中。

ストーリーとはあまり関係ないので、別作品として楽しんでいただけていれば幸いです。

しかし一度その様にupしたからには、多少久遠シリーズに絡んでく……れればいいなぁ。自分の力量の無さに胃がキリキリ痛みます。

 

真桜の華琳に対しての敬語+口調がわからない……不備がありましたら報告してくださるとうれしいです。

 

一刀視点の話が1pしかないっていうね、展開遅いですよね。ごめんなさい。

遅執なのにいろんな物事を同時展開するとこうなってしまう……わかりにくかったらすいません。

 

言い訳謝罪ばっかのあとがきでした。お気を悪くされたなら申し訳ありません。よければこれからも応援の程をお願いします。


 
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