*注意*
以下に該当する方は「戻る」を押した方が賢明だと思います。
・紫苑√なのに、一刀が他の恋姫といちゃつくのはおかしい。
・拠点なんか書いてないで、はやく話を進めろ。
・霞の関西弁が不自然なのが嫌。
・勢い任せも大概にしろ。
それでも進むと言うならば、もはや止めようがありません。
思う所はあるでしょうが、誹謗中傷はお控えいただけると助かります。
作者は心がとんでもなく脆いので。
月拠点~月と街へ視察へ~
一刀視点
翌日、俺たちは天水城に戻り、董卓さんに賊徒を殲滅したことを報告した。その後、俺は董卓さんから街の視察に付き合って欲しいと頼まれ、現在、二人で街を歩いていた。
「いくら街の中とは言え、護衛も付けずに視察を行うのは危険なのではないですか?」
「いえ、この街は平和ですから。兵士を護衛に付けると、民が無用に不安がってしまいますしね。それに、護衛には北郷さんがいらっしゃるじゃないですか?」
いたずらっぽい微笑みを浮かべながら、董卓さんはそう言った。俺が護衛というのは冗談だとして、この街が平和だというのは、本心でそう思っているのだろう。それほどに自分が治めているこの街を誇りに思っているのだろう。
「董卓様!せっかくいらっしゃったのですから、うちの品をもらっていってくだせぇ!」
「董卓様!うちの飯も食べていってくだせぇ!」
董卓さんが通るたびに、街の人々が挨拶に来たり、自分の店の品物を渡したりしてきた。董卓さんも丁寧に一人一人に挨拶を返したり、お礼を言ったりしているので、視察が始まってから、俺たちはほとんど進むことが出来ていなかった。
「さすが董卓さん、民から慕われていますね」
「へぅ……視察が進まなくて困ってしまいますよ」
こちらに戻ってきた董卓さんの手には、様々なものが持たされていた。困ったような口調で言っていたものの、表情は嬉しそうだった。
確かに董卓さんが一人で視察をしていても問題なさそうだ。もちろん治安という面もしっかり整えられているが、それ以上に、彼女の周囲には自然と民が集まっている。この状況で何か良からぬことを企む人もいないだろう。
「持ちますよ」
自然に、彼女の顔を隠すくらいに積み上げられている、民からの贈り物を持ってあげた。
「あ、ありがとうございます。この先に広場があるので、食べ物だけでも、そこでいただいてしまいしょう」
俺と董卓さんは街の広場に設置されている椅子に座りながら、肉まんなどをいただいた。少し冷めてしまっていたが、董卓さんを慕う民の温かい気持ちで、そんなものは気にならなかった。
月視点
華雄さんたちが賊の征伐から帰還しました。兵士の損耗もそれほど酷くなく、桔梗さんたちに協力を依頼して正解でしたね。
報告に来た時、北郷さんの表情に変化があるのに気が付きました。出発前にあった、緊張感や迷いのようなものがなくなり、より精悍な顔つきになっています。きっと、初陣を乗り越えて、一皮も二皮も剥けたのでしょう。
なぜか今の彼と話してみたくなりました。何を話したいのかも曖昧なまま私は彼を視察に誘いました。
視察に出ると、いつも通り、私は民に囲まれてしまいました。食べ物などを両手いっぱいに渡されてしまい、前が見えません。
「さすが董卓さん、民から慕われていますね」
「へぅ……視察が進まなくて困ってしまいますよ」
口では困っているようなことを言いましたが、自然と笑顔が溢れだしました。私の愛する民は、今日も平和に暮らしている、それが確認できただけでも嬉しいです。
「持ちますよ」
北郷さんは私が持っていた荷物を半分以上引き受けてくれました。
「あ、ありがとうございます。この先に広場があるので、食べ物だけでも、そこでいただいてしまいしょう」
私たちはそのまま広場の椅子に座りながら、民からのもらった品をいただきました。
「おいしいですね」
「そうですね。ちょうど昼時だったので良かったです」
私たちの口数は少なかったです。しかし、それは気まずさによるものではありませんでした。広場で遊ぶ子供たちを、温かい目で見つめていたのです。
無邪気に笑っている子供というのは、実に良いものですね。出来るなら、一人でも多くの子供たちが笑えるような国を作りたいです。でも、そのためには……。
「戦争をなくしたいですね」
え!?
まるで私の考えを先読みしたかのように、北郷さんはそう呟きました。
「初陣を迎えて、いろいろと考えてみました。どうして戦争が起こるのか、どうすれば戦争をなくせるのか、答えはまだわかりませんが、俺も少しでも桔梗さんや紫苑さんの力になりたいなって思います」
なるほど、戦争から帰還した北郷さんの顔つきが違って見えた理由が、何だかわかったような気がします。
この人は、ただ自分が戦争を乗り越えることだけを考えていただけではなく、その中で自分に何が出来るのかまで考えていたのですね。
大した人です。初陣の恐怖に潰されることなく、ここまで冷静に周囲を見ることが出来る人なんて滅多にいません。
「北郷さん。あなたならきっと桔梗さんや紫苑さんを助けられると思います」
「いや、そんなことありませんよ。俺はまだ何もしてませんから」
「でも、これからのことはわかりませんよね。私は少なくともあなたを過大評価しているつもりはありません。そして、一国の君主として、人を見誤るような目を持ってるつもりもありません」
自分に謙虚なのも一つの美徳ではありますが、それもやりすぎれば欠点になりかねません。
私の言葉に少し照れたのか、北郷さんは顔を赤くして頬を掻いています。フフ……そういうところは少し可愛らしいな。
「あー!董卓様だ!」
視線を北郷さんから前へ戻すと、先ほどまで私たちが眺めていた子供たちが、どうやら私の存在に気付いたようで、手を振りながらこちらに駆け寄ってきました。
「董卓さま、こんにちは!」
「何やってるの?」
「遊ぼうよー」
子供たちはそれぞれ挨拶もほどほどに、私と遊ぼうと、私の服の袖を引っ張ってきました。
「はい、こんにちは。みんなと遊んであげたいんだけど、今は視察中で……ってダメだよ、そんな強く引っ張ったら。あ、コラ、そこは触らないの!」
子供たちは私の話など聞かずに、私と遊ぼうと腕を強引に引っ張ったり、背中に抱きつく子も出始めました。
「へぅ……。わかったよぅ」
とうとう根負けした私は子供たちと遊ぶことを承諾しそうになりました。
一刀視点
董卓さんは子供たちに引っ張られて行ってしまった。子供慣れ、というか子供の扱いに慣れていないのだろう、子供たちに振り回されていた。
「こーら、あんまり董卓さんを困らせたらダメだろ?」
董卓さんの腕を引っ張っていた子供の頭を撫でながら優しく叱った。
「えー、だって……」
「だってじゃない。代わりに兄ちゃんが遊んであげるよ」
「ホントー??やったー!!」
「ただし、董卓さんは忙しい人なんだから、もう困らせちゃダメだぞ」
「はーい!」
子供にテキパキと指示を与えた。こっちが仕切ってあげれば、素直だし、ちゃんと言う事も聞いてくれる。この世界も元の世界も、子供の無邪気さに変わりはないな。
結局、俺は若さ溢れる子供たちのパワフルさに圧倒されて、すぐにバテてしまった。
遊び足りなくてブーブー文句を言う子供たちに謝り、俺は董卓さんが座って待っていてくれている椅子に戻った。
「はい、北郷さん、お疲れ様です」
董卓さんは笑顔で俺に水筒を渡してくれた。冷たい水が俺の身体に沁み渡り、心地よかった。
「すいません。俺のせいで視察が進まなくて……」
さすがに子供と遊んでいて視察が進まなかったなんて、言い訳にもなりはしないだろう。
「いいえ、いつもならあの子たちに振り回されて、もっと時間がかかってしまうんですよ」
董卓さんは少し照れたような表情で、さらに続けた。
「私、中身も幼く見られがちで、もう少し、大人っぽくあの子たちの相手が出来ると良いんですけどね。だから、私は紫苑さんや桔梗さんに憧れているんですよ。私もいつかあんな女性になりたいなって……あ、ごめんなさい。変な話をしてしまって」
「いや、董卓さんが幼いなんて大きな間違いですよ。董卓さんは自分の中に強い意志を持ってますし、自分としっかり向き合えてるじゃないですか。素敵な大人の女性ですよ」
「す、素敵!?」
董卓さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。熱でもあるのか?いや、今日は結構暑いから、もしかしたら熱射病にでも罹ったのかも?
「董卓さん?大丈夫ですか?」
とりあえず、熱がないか確認するために、俺の額と彼女の額を付けた。ん?どんどん体温が上昇しているような気が……。
「へ、へうぅぅぅぅぅ!!」
董卓さんは突然大きな声を出すと、俺を突き飛ばして走り去ろうとした。
「へぅ!!!!」
しかし、目の前で転倒しそうになった。咄嗟に俺は董卓さんに手を伸ばし、彼女の腕を掴み、力いっぱいこちら側へ引き寄せた。勢い余って、彼女を抱き寄せるような形になってしまった。
「へぅ…………」
ものすごい至近距離で俺と目が合ってしまった。彼女は尋常じゃないほど顔を赤くすると、そのまま気絶してしまった。
「えーと、何がどうなってんだか……」
月視点
「ん……」
何だか温かいです。私、どうしてしまったのでしょう?確か、北郷さんと視察に街に出かけて、子供たちに振り回されそうになったのを北郷さんに助けられて、それから……。
そうでした!北郷さんに素敵な女性なんて言われて動揺してしまって、思わず逃げようと思ってしまったのです。
それからどうしてしまったのでしょう?そこからの記憶がありません。それに何だか馬に乗っているような、揺れている感覚は何でしょう?そこで私は目を開けて周囲を見回そうとしました。
「へ、へぅ!!?」
「あぁ、目を覚ましましたか?良かったぁ」
え?え!?何なのでしょうか、この状況は?私は自分の目を疑いました。北郷さんに背負われて街中を歩いているではないですか。どうしてこんな状況になってしまったのでしょう?
「あ、あの!ど、どうして?」
「覚えていないんですか?董卓さん、急に走り出して、転びそうになったんですよ。何とか、転ばないようにすることは出来たんですけど、そこで董卓さんは気絶してしまって」
「す、すいません!もう大丈夫ですから降ろして……あ、痛ぅ!」
「あぁ、動いたらダメですよ。たぶん転びそうになったときに足を挫いたみたいなんです。さっきもらった水で濡らした布を一応巻いてますけど、応急処置なんで。このまま城に戻ってきちんと手当てしましょう」
「へぅ……はい」
恥ずかしいです。男の人に背負われて街中を移動するなんて。民にも見られています。何か、みんなニヤニヤしながらこちらを見ています。
北郷さんが悪いんです!急に、す、素敵だなんて言うから!でも、北郷さんの背中に顔をすり寄せるようにすると、改めて男の人の背中の広さを実感しました。
温かくて、ちょっと汗の匂いもするけど、優しい匂いがしました。
「……北郷さん、汗の匂いがします」
「え!?すいません!子供たちと思い切り遊んでしまったから!え、えーと、いま降ろしますね」
「足を挫いて痛がっている私に歩けと……?」
「い、いや……そういうわけじゃないんですけど……」
フフフ……焦っているのが背中越しにはっきりと感じ取れます。私に恥ずかしい思いをさせた罰です。これくらいのいたずらは当然ですよね?まぁ、今回はこれくらいで許してあげます。
私は彼の肩をしっかりと掴みなおした。何だか今日は疲れてしまいました。このまま少し寝てしまいましょう。
私たちはそのまま城に戻った。戻るなり、私が勝手に視察に出てしまったこと、北郷さんと二人きりになっていたこと、そして、私が怪我を負ってしまったことなどで、北郷さんは詠ちゃんからしばらくの間、説教を受ける羽目になってしまいました。
霞拠点~霞の勘違い~
霞視点
その日、うちはやっとのことで賊の征伐から戻ることが出来た。全く、最近は本当に賊が出現して多くて困るわ。うちかて戦は好きやけど、こんなくだらん戦には反吐が出る。もっと身体の底から熱くなれるような戦が、うちはしたいんや。
城に戻って、月に戦の報告をすると、桔梗や焔耶も協力してくれて、天水近辺の賊はほとんど殲滅出来たらしい。これで少しは落ち着けるっちゅうわけや。
戦を指揮した華雄に詳しく聞いてみると、紫苑の従者をやってる北郷一刀も出陣したらしい。確か、桔梗たちと一緒にいた、あの可愛らしい子やったのは覚えている。
出陣したと言っても、あの子は初陣やったらしく、後詰の軍にいただけらしいんやけど。確かにあまり強いようには見えへんかった。でも、桔梗が旅に連れているっちゅうことは、何か持ってるんやと思う。
桔梗は確かに物好きではあるけど、つまらんような奴を連れて歩くようなやつではない。 そんなことを考えているうちに、自然と足は桔梗たちがいる部屋へと向かっていた。
「おう、霞ではないか。戦から戻ってきたのだな」
「そうや。桔梗、まだ天水にいるんやろ?今晩こそは酒に付き合ってもらうで」
「もちろんだ。儂も久しぶりに飲みたいからの」
「よし、決まりや。あ、そうや、焔耶ちょっと借りてええか?」
「え?私ですか?」
「好きにしろ」
「よーし、なら焔耶、行こかー?」
「え、ちょ、私の意思はないのですか!?」
「ないない」
うちはそのまま焔耶を引っ張って中庭の方へ向かった。焔耶と会うんも久しぶりやもん。可愛がってあげなきゃ罪ってもんやろ?
「霞様、なにをするんですか?」
「まぁ、ええから。そこに座ってみ?」
「はい……って霞様!?」
「んー、焔耶の膝枕は気持ちええなぁ」
焔耶を座らせて膝の上に頭を乗せた。すると、恥ずかしそうに顔を赤らめている焔耶の表情がよく見えた。この子はやっぱかわええなぁ。本当、このままうちの部下に欲しいくらいや。
すると、向こう側から一刀が歩いてやって来るのが見えた。
一刀視点
昨日は酷い目にあった。董卓さんと視察から戻ってみると、賈駆さんから延々と深夜まで説教された。俺、そんな酷いことしたのかな?確かに董卓さんを怪我させてしまったのは、俺の責任でもあるからな。
桔梗さんも説教されている俺をニヤニヤ笑いながら見ていて、さすがじゃのぅ、とか言われてしまった。意味がわからん!
おかげで今日は寝不足だ。桔梗さんの話だと、そろそろ天水を出発するそうだ。そういえば、賊の制圧とかであんまりここの武将と話していないな。
「おーい、一刀やないの」
そんなことを思いながら中庭をぶらぶら歩いていると、どこからか声をかけられた。どこからだと思いながら、周囲を見回すと、木陰で焔耶に膝枕されている霞さんが目に映った。
「張遼さん、賊の征伐から戻ってきたんですね?」
軽く会釈しながら、彼女の元に向かった。焔耶の膝の上で、気持ち良さそうにしていた。焔耶の方は居心地が悪げにモジモジしていた。
「ん、焔耶、動いたらあかんよ」
「でも、霞様。いつまでこれをなさるつもりなんですか?は、恥ずかしいですよ」
「いつまでもや。うちが飽きるまで」
「そ、そんなぁ……」
焔耶は張遼さんにかなり気に入られているのだろう。焔耶の方はそれに振り回せれているようだ。桔梗さんといい、張遼さんといい、なんだか焔耶に少し同情してしまった。
「ところで、一刀はこんなところで何してるん?」
「特に何も。ぶらぶら散歩してるってところですね」
「暇ならうちに付き合わん?」
猫のように目を細めて笑うと、後ろから酒瓶を取り出した。こんな昼間から飲んでいるなんて、賈駆さんに知られたら、きっと大惨事だな。そういえば、張遼さんとちゃんと会話するのって初めてな気がするな。若干緊張するけど、焔耶もいるし平気かな。
そんなことを思いながらも、焔耶の横に座って、張遼さんから御酌を受ける。昼間から飲む酒は格別だ、なんてよく聞く台詞だけど、それって本当だな。確かに美味いや。
「ええ飲みっぷりやんけ。ほれ、どんどん飲みや」
「え?あ、はい」
張遼さんはかなりの飲ませ上手なようで、おれの盃にどんどん酒を注いできた。張遼さんはどれくらい飲んでいるのか知らないけど、全然酔っているようには見えなかった。
「焔耶は飲まないのか?」
「私が昼間から酒を飲むわけにはいかないだろ。それにこの後、桔梗様と鍛錬の約束をしているのだ」
「ん~、そんな堅いこと言わへんの。ほれ」
張遼さんは素早く焔耶の膝の上から、焔耶の後ろへ回ると、焔耶に抱きついた。抵抗するには遅すぎて、焔耶は口元に酒の入った盃を押し付けられてしまった。
「神速の張遼を舐めたらあかんて。ほーら、飲んでまえって」
「んん!……霞様、ちょ……んく、ゴクン」
焔耶は抵抗する間もなく盃に入った酒を飲みこんでしまった。それにしても神速の張遼の通り名は有名だけど、ここで使うと、なんだかひどく安いものに感じるな。
「霞様!困りますよ!!」
「にゃはは、ええやないの。相変わらず焔耶はかわええなぁ」
反省する気は全くないようで、焔耶の怒りを片手であしらいつつ、盃に注いだ酒を一息に飲んだ。
「全く、失礼します!」
さすがの焔耶も多少怒ったらしく、立ち上がって立ち去ってしまった。焔耶の事だから本気で怒ったわけでもないのだろうけど。そして、俺と張遼さんは二人になってしまった。すると、さすがに俺も緊張してしまった。
霞視点
「おーい、一刀やないの」
とりあえず、一刀に声をかけてみた。特に用があるわけでもなかったし、こうやって話しかけるほど親しい間柄でもなかった。
単純に興味があっただけやった。桔梗がどうして、こいつを一緒に旅に連れているのかが、うちには不思議に思えて仕方がなかったんや。
一刀は独特な空気感を持った奴やった。焔耶も普段なら、こんな恰好をしているところを誰かに見られたら、ものすごく嫌がるはずなんやけど。今も妙にもじもじしとるだけやし。こいつも多少、一刀に気を許してるっちゅう証や。
「ん、焔耶、動いたらあかんよ」
「でも、霞様。いつまでこれをなさるつもりなんですか?は、恥ずかしいですよ」
「いつまでもや。うちが飽きるまで」
「そ、そんなぁ……」
それにしても、一刀が来てから、妙に目が泳いどるし、顔もさっきよりも赤くなっとるなぁ。もしかしたら、焔耶のやつ一刀に惚れてるんと違うん?だったら、お姐さんはかわええ焔耶ちゃんのために一肌脱いだらんとあかんな。
「ところで、一刀はこんなところで何してるん?」
「特に何も。ぶらぶら散歩してるってところですね」
「暇ならうちに付き合わん?」
一刀に酒瓶を見せると、一瞬あきれたような顔をしたが、笑顔で了承してくれた。うんうん、狙い通りに焔耶の横に座ったな。
焔耶はきっと奥手やから、ここは一刀にかわええとこをいっぱい見せつけて、一刀からも焔耶に惚れてもらわんとな。
酒を断ったことを口実に、焔耶の後ろに回り込んで口元に盃を押し付けて無理やり飲ませた。じたばたと抵抗しようとする焔耶はやっぱかわええな。このまま口移しで飲ませたいくらいや。
「全く、失礼します!」
そのまま焔耶は行ってしもうた。あかん、やりすぎたやろか?桔梗の所に飲みに行くときにでも謝っておかんとな。まぁ、どうせ本気では怒ってないやろ。どうせ、一刀の前で恰好悪い所を晒したもんやから、恥ずかしくなってしまったんやな。
「焔耶と仲が良いんですね?」
「んん?そうか?怒らせてしもうたよ?」
「いや、きっと焔耶の事ですので本気では怒ってはないですよ」
「何でそう思うん?」
「あいつがあんな風に可愛い所を見せるなんて、滅多にないですからね。張遼さんを信頼している証拠ですよ」
「ふーん、何や焔耶の事よくわかってるみたいやね?」
「いえ、張遼さんも本当はわかってるんでしょ?」
うちのこともしっかり見てるんやなぁ。うちの本心もわかってるやん。かわええ顔して、意外と食えへんやつなのかもしれんな。
まぁ、せっかく一刀と二人きりになれたんや。焔耶のためにしっかり働かないとあかんな。
一刀視点
「焔耶と仲が良いんですね?」
「んん?そうか?怒らせてしもうたよ?」
「いや、きっと焔耶の事ですので本気では怒ってはないですよ」
「何でそう思うん?」
「あいつがあんな風に可愛い所を見せるなんて、滅多にないですからね。張遼さんを信頼している証拠ですよ」
「ふーん、何や焔耶の事よくわかってるみたいやね?」
「いえ、張遼さんも本当はわかってるんでしょ?」
いつも通り、二人きりというシチュエーションで、気まずい雰囲気にならないように、思ったことを口に出して、会話を試みてみた。今回はどうやら上手くいきそうだな。
「そういえば、一刀って想い人とかっておるん?」
「はい!?」
張遼さんは急に話題を変えた。文脈も何も関係なかった。想い人って好きな人のことなのかな?
「いえ、そういう人はいませんけど……」
元の世界でもそんな人間はいなかった。剣の修行でそれどころじゃなかったし、女の子に挨拶しても、無視されたり、逃げられることもあったからな。きっと怖がられていたんだろう。
こっちの世界に来てからは、もちろんそんな余裕はなかった。ん?何で一瞬、紫苑さんの顔が浮かんだろ?きっと恩人だからかな。
「ふーん……」
まるで俺を値踏みするかのように、張遼さんのエメラルドグリーンの瞳が俺を見つめていた。綺麗な瞳だったが、彼女が何を考えているのかわからなかった。
「どういう女の子が好みなん?」
「え?好みですか?んー、そういうのはあまりないですね。女の子にはそれぞれ魅力はありますからね」
「ふーん……」
また、俺を値踏みするように見つめる。うーん、何かを見極めようとしてるようにも見えるんだけど、いまいちはっきりとはわからない。
「そりゃあ、勿体ないなぁ。一刀の周りには焔耶みたいなかわええ子がたくさんおるのに」
「そうですね。まぁ、でも俺なんか釣り合わないですから」
苦笑しながら答えていると、何だか張遼さんの顔が少し不機嫌になったような気がした。そういえば、酒を飲むペースがさっきよりも速いような気がするな。
「そんなん関係ないやん。大事なんは自分が好きかどうかやと思うよ。うちやったら焔耶みたいなかわええ子はほっとかへんけどな」
盃に入った酒を一息に飲み干してから、張遼さんはそう言った。何だか、さっきから焔耶の事をすごく誉めてるな。
は!まさか、張遼さんはそっちの筋の人なのか。日本でも戦国時代にはそういう愛の形もあったってよく聞くから、この世界でもあったっておかしくはないよな。
焔耶はすこし意地っ張りな所もあるけど、実は優しくてとても良い子だし、張遼さんにも頑張ってもらいたいな。
霞視点
「そういえば、一刀って想い人とかっておるん?」
「はい!?」
「いえ、そういう人はいませんけど……」
「ふーん……」
とりあえず、一刀にはそういう相手はいないんやな。一刀の瞳を見つめてみると、どうやら嘘はついてないようや。焔耶にもまだ機会はいくらでもあるっちゅうことや。
「どういう女の子が好みなん?」
「え?好みですか?んー、そういうのはあまりないですね。女の子にはそれぞれ魅力はありますからね」
「ふーん……」
むむ、それはないやろ?誰かて好みの一つや二つくらいあって当たり前やんか。しかし、一刀は苦笑はしているものの、うちと目を離そうとはしない。
「そりゃあ、勿体ないなぁ。一刀の周りには焔耶みたいなかわええ子がたくさんおるのに」
「そうですね。まぁ、でも俺なんか釣り合わないですから」
少し面倒臭くなってきて、焔耶の名前を出してみたけど、それでも一刀は苦笑するだけで、本音を言おうとはしなかった。
あー!もうイライラする奴やな!酒瓶から盃に酒を注いで、それを一気に飲み干した。
「そんなん関係ないやん。大事なんは自分が好きかどうかやと思うよ。うちやったら焔耶みたいなかわええ子はほっとかへんけどな」
それを言った瞬間に、一刀の表情に変化が生じた。何か考え込むような表情の後に、その答えが見つかったようや。
「張遼さん!」
言うや否や、うちの手を両手で握り、顔をぐっと寄せてきた。
「うひゃあ!近っ!!」
「俺、応援してますから!張遼さんみたいな美人なら大丈夫です!」
「はぁ!!?」
一刀が何を言っているのか、意味がわからへんかったけど、うちが美人!?武人として、ずっと戦場に立ち続けたうちのことを、こいつは美人やと言うんか!?
顔がぼっと火照るのがわかった。あかん、急に恥ずかしくなってしもうた。てか、いつまで手を握ってんねん!
「う、うちが美人て、ほんま?」
うちも何聞いとんねん!!あぁ、あかん!お前も何を笑顔でもちろんですよ、とか言ってんねん!
でも、こいつよく見たら、結構端正な顔立ちしとるし、身体も意外に引き締まってるやんか。ダメや!うちは焔耶を応援するんやから!
「あかん!そういえば、うち月のとこに行かんと!」
一刀の手を振り払って、そう言い捨てると、急いで玉座の間の方へ逃げ去った。後ろを振り向くこともしなかった。
食えへん奴やとは思っていたけど、まさかここまでの奴やとはな。顔が尋常じゃないくらい熱くなっているのを感じながら、うちは自室へと逃げ去った。
一刀視点
「あかん!そういえば、うち月のとこに行かんと!」
そう言うと、俺の手を払って、張遼さんは行ってしまった。あまりのスピードで走り去ってしまったので、ろくに挨拶もすることが出来なかった。
「あれ?おかしいな」
俺は応援しようとしていただけなのに、何かまずいことでも言ったのだろうか?女性は本当に何を考えているのかがわからなかった。
周囲を見回すと、張遼さんが飲んでいた酒瓶やら盃やらが落ちていた。酒の方はほんの少量しか残っていなかった。
「中途半端だな……んく」
酒瓶の中身はちょうど盃に一杯分だった。返すには少ないし、捨てるには勿体ないから、その場で飲み干した。
「あんた~~そこで何やっているのかしら~~?」
身体が反射的にビクッと反応した。あの声は、今もっとも聞きたくない声の一つだった。何も聞こえない振りをしようとしたが、すでに肩をがっちり掴まれていた。
「こ、これは賈駆様!本日は実にお日柄も良く、賈駆様におかれましても……」
「は!?何ふざけてんのよ!!そんなことより、昼間から一人で酒盛りなんて、贅沢なことね」
はぐらかそうとしたが、全然効果はなかった。確かにこの状況を見れば、俺が一人で酒を飲んでいたと思ってもおかしくはないのだけど。
「い、いや、これは張遼さんが……」
「問答無用!!言い訳は後でじっくり聞かせてもらうわよ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
昨日に続き、今日も俺は地獄のような賈駆さんの説教を喰らう羽目になってしまった。本当、俺は何か悪いことをしているのか!?誰か、誰か教えてください。
あとがき
二点謝らせてください。
まずは、更新が遅れてしまってごめんなさい。
バイトでは社員以上の働きをせねばならず、学校では卒論に追われ、なかなか自由な時間を得られませんでした。
今後も更新が遅れるかもしれませんが、気長にお待ちいただけると僥倖です。
二点目、またしても勢い任せに書いてしまってごめんなさい。霞の関西弁とか全然下手くそで。キャラ崩壊も甚だしいですよね。
前回反省をしたはずなんですが……。
ごめんなさい!その手にお持ちの石を置いてください!当たったらきっと痛いです!
とりあえず、これで董卓との出会い編は終了になります。
次回はまた別のところへ旅に行きます。
旅編が予想以上に時間がかかってしまいますね。さすがに紫苑さんをそろそろ出してあげたいので、次回の所を旅の終わりにしようかなとも思っています。
次回は真面目に書かせていただきますので、今回は寛大な御心で対処していただけると非常に助かります。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれればうれしいです。
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第十話の投稿です。
更新が遅くなってしまって申し訳ありません。
前回のコメントにあまり反対意見がなかったので、拠点を書きました!今回は月と霞です。
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