No.173093

生き神少娘(ガール)(Kanon舞&佐祐理編)後編

今構想中の生き神少娘(ガール)とKanonとのクロスオーバー第2弾の後編。
佐祐理さんの過去が明かされます。
2021年現在とは設定やキャラクターの特徴、および天使の名前が異なる部分がありますが、
当時の設定も楽しんでいただければ幸いです。

2010-09-17 22:17:04 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:830   閲覧ユーザー数:825

「ゴメンね…、ゴメンね…、一弥……。お姉ちゃんのせいで…」

 

唯一の弟だった一弥がこの世を去り、佐祐理は独り部屋で泣いていた。

 

 

議員を務める両親の立派な跡継ぎへと育てるべく、彼女は一弥が赤ん坊の頃から厳しく世話をしてきたのだ。

そうすることで、大きくなったら尊敬する両親の様な立派な人間になると信じていたからである。

 

が、皮肉な事にそれが彼の生きる気力を奪うに留まらず、死にまで至らしめてしまった。

 

 

一弥の死後、独り部屋で激しく後悔しながら涙を流していた佐祐理だったが、やがて後悔する事にも慟哭する事にも疲れてしまった。

 

そんな中、彼女は“死になさい、それしか方法がない”という何者かの囁き(ささやき)を聞いた気がした。

 

“そうだ…、一弥が死んだのだから、もう生きてたってしょうがない…。これ以上苦しむくらいなら…”

 

泣き疲れた彼女の心にはもはや死んで楽になることしか浮かばなかった。

思い立つなり佐祐理は近くにあったカッターナイフを取り出し、刃を出して自身の左手首に宛がった(あてがった)。

 

 

“一弥…、もうすぐお姉ちゃんもそっちに行くね…”

 

涙をホロリと流すと、佐祐理はカッターナイフを持つ右手に力を込め、左手首を切ろうとする。

 

 

その時、彼女の脳裏に自分が死んで両親が泣く姿が浮かび上がり、佐祐理は思わず躊躇ってしまった。

そうだ。自分まで死んでしまったら、残された両親はどのくらい悲しむのだろう…?

それに亡くなった一弥はそんな事を絶対に望んでいない…。そうに決まっている。

 

そう思った彼女は左手首からカッターナイフを遠ざけようとする。

 

が、同時に大切な跡継ぎを殺してしまった罪は自分の命で償わねばならないという気持ちもまた芽生えてきた。

 

 

“死んではいけない…。だけど、死ななければいけない…”

 

相反する気持ちが同時に佐祐理の頭の中をかけめぐり、どうすべきか左手首にカッターナイフを宛がいながら佐祐理は迷っていた。

 

葛藤の末、佐祐理は意を決して手首を切ることにした。

 

 

「お父様…、お母様…、ごめんなさい…」

 

涙を流しながらそう呟くと、佐祐理はカッターナイフを持つ右手に力を込める。

 

“サクッ”

 

佐祐理の左手首がカッターナイフにより切れ目が入る。少しして、傷口から血が少し滲み(にじみ)出る。

佐祐理は更に深く切ろうとカッターナイフを持つ右手を動かそうとする。

 

 

“死にたく…、ない……。本当はもっと生きていたい…”

 

手首を切る中で佐祐理の心に死への恐怖と思い留まらせようとする気持ちが新たに芽生え、カッターナイフを握る右手を思わず止めた。

焼ける様な手首の痛みと後悔で、佐祐理の瞳からは止め処ない(とめどない)ほどの涙が流れている。

 

そうだ…、もう一弥には佐祐理の気持ちが十分に伝わった。ここまでならまだ引き返せる…。

 

そう思うなり、カッターナイフを手首から離そうとした。

が、同時に一弥を殺してのうのうと生きるなんて虫が良すぎる、という考えまで佐祐理の頭を過ぎった(よぎった)。

 

 

新たな葛藤の板挟みから躊躇い(ためらい)が生じ、佐祐理は手首を切る体勢のまま動けなかった。

 

“死にたくない…。だけど死ぬ以外に方法は…、どうしたら…?”

 

振り切れない迷いを必死に振り切ろうと顔を傷口から背け、同時に涙溢れる(あふれる)瞳をきつく閉じた、その時だった。

 

 

“ガラッ…”

 

突然、部屋の窓が開くと、何者かが佐祐理の部屋の中に侵入してきた。

そして佐祐理のカッターナイフを持つ右手をグッと力強く握ると、そのまま左手首の傷口から離した。

 

突然の事に佐祐理は面食らった様子で瞳を開けた。

が、溢れる涙で視界がぼやけ、すぐには目の前の様子を確認できなかった。

その為、佐祐理は左手の甲で涙を拭い、改めて目の前の様子を確認しようとする。

 

目の前には白いケープとコートを纏った、見た目20代から30代ほどの見知らぬ女性が片膝立ての体勢で佐祐理を少し睨み(にらみ)つけている。

恐る恐る視線を横に逸らす(そらす)と、その側には長い紐で繋がれたかなり大きな鎌が置かれているのが確認できた。

 

 

もしかして彼女は死神で、自分を殺しに来たのではないか?

そう直感すると、佐祐理は顔から血の気が引いていくのを覚える。

 

一方の目の前の人物は、“もしかしたら自分を怖がっているのではないか”と感じたのか、“大丈夫よ”と言わんばかりに優しく微笑む。

 

「ごめんなさい、驚かせて…」

 

目の前の何者かは佐祐理に優しく話しかける。が、佐祐理のカッターを持つ右手は離してくれなかった。

恐らく、カッターナイフでまた自身を傷付けるかもしれないと考えたのだろう。

 

「だけどまずはカッターを離して。話はそれからよ」

 

今度は諭すような、そして叱るような少しきつめの口調で佐祐理に話しかける。

 

相手の厳しいながらも優しい雰囲気に安心したのか、佐祐理のカッターナイフを握る右手は自然と弛緩し、持っていた物を床に落とすのだった。

カッターナイフの“カタン”と落ちた音が聞こえると、何者かは佐祐理の右手を解放する。

そしてそれを拾い上げると“カチカチ”と刃を収め、机の上に置いた。

 

 

「左手を見せて」

 

続けて佐祐理の左手を優しく掴むと、カッターで切れた傷口を見つめる。

血こそ流れていたものの傷口は予想していたよりも浅かったようで、“良かった…”と安堵の溜息を吐いた(ついた)。

 

「迷っていたなら、できればあなた自身の意思で思い留まって欲しかったわ…。

 けどこの分なら傷はすぐ治ると思うから、早く手当てしてもらいなさいね」

 

そう言うと、彼女は佐祐理の頭にポンと手を置いた。

 

 

「いきなり入ってきた上に、驚かせてごめんね。けど、もう出て行くから」

 

そして優しい表情でそう話しかける。

 

そして外に出ようと窓の方に体を向けたその時、“あの…”という声と共に後ろに引っ張られる感触に気付いて振り向いた。

そこにはもう少しいて欲しいといった様子の佐祐理が、鎌に繋がれた何者かの腰紐をクイクイと引っ張っていたので、

彼女は佐祐理の目線に合わせて屈み(かがみ)、“どうしたの?”と話しかける。

 

 

「あなたは一体何者なんですか?それにどうして佐祐理の元に来たんですか?」

「え…?

 ああ、そうか!そうよね。話はそれからなんて言っておきながら、何も言わず帰ろうなんてごめんね」

 

佐祐理からの質問にごまかしを含めた笑みで返事すると、自分が何者かについて説明を始めた。

 

 

「私は“生き神の使い”。あなたに生きてもらいたくて来たの」

「いきがみの…、使い…?それで、どうして佐祐理に…?」

 

生き神の使いを名乗る者の答えに、佐祐理はキョトンとした様子で返した。

 

「もっと噛み砕いて言えば、さっきのあなたみたいに自殺しようか止めようか迷ってる人を、生きたいという気持ちにさせる事が私達の仕事。

 あなたの弟くんが病気で亡くなる前から、もしかしたらあなたが自殺を考えるかもと思ってたから、しばらく様子を見てたのよ。

 ともかく、あなたが死なずに済みそうで良かったわ…」

 

生き神の使いは佐祐理を助けられた事に心からホッとしているらしく、安堵の表情を浮かべていた。

 

 

「どうして…?」

「え?」

 

一方の佐祐理は今の彼女の答えが気に入らなかったらしく、声を潤ませながら怒りとも悲しみとも取れる表情を生き神の使いに見せつける。

 

「一弥が死ぬ前から佐祐理の事を見てたなら、どうして先に一弥を助けてくれなかったんですか!?

 佐祐理なんかよりまずは一弥を助けてくれてたら、佐祐理だってこんな想いをせずに済んだのに…。どうして…?」

 

涙こそ溢れているものの、慟哭に駆られそうなのを必死に抑えながら、佐祐理は思いの丈(たけ)を生き神の使いにぶつけた。

佐祐理への配慮が足りなかったと自覚した彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

 

「ごめんなさい…」

 

生き神の使いは、俯きながら涙を必死に堪えよう(こらえよう)とする佐祐理の両肩にポンと手を置いた。

 

「実を言うと私もね、あなたの弟くんを助けてあげられるのなら助けてあげたかったわ。だけど無理なのよ…。

 私達生き神の使いは“使い”だから自殺志願者(ターゲット)…、自殺をしようか止めようか迷ってる人にしか手を差し延べられないの…。

 それ以外の人は助けたくても見殺すしか方法がないのよ…。だから…、ごめんなさい…」

「いえ…、佐祐理の方こそ…」

 

生き神の使いは心の内を佐祐理に伝える。

その言葉には申し訳なさだけでなく、悔しさや憤りといった感情も含まれている事を佐祐理は感じ取った。

 

 

「けどね」

「……!?」

 

その言葉と共に生き神の使いは佐祐理の頭を胸元に寄せて、優しく抱きしめる。その表情は一点の曇りもなく、凛々しかった。

 

「私はそういった辛さ(つらさ)や悔しさが次に繋がると信じてる。それがどんな事でも、どれだけ続いたとしてもね。

 形は違えど、それはあなたにも言える事じゃないかしら?」

 

生き神の使いの佐祐理を抱きしめる力がグッと強くなる。あくまで佐祐理が痛くなく息苦しくならない程度での力ではあるが…。

 

「だけど一弥は佐祐理のせいで…」

「それでもあなたは弟くんを亡くしてから…。ううん、弟くんが病気になってから、十分に後悔してきたじゃない?

 それにあなたが弟くんにしてきた事も、あなたなりに弟くんの為を思ってしてきた事でしょ?」

「けど…、佐祐理は……、佐祐…、理…、は……」

 

佐祐理が一弥を死に追いやった事への後悔はもちろんあるが、間違っていたとしても頑張ってきた事を認めてもらいたい気持ちもあったのだ。

生き神の使いの佐祐理を否定しない優しい言葉に、佐祐理の中で抑えられていた感情が揺さぶられ、泣き出しそうになるのを必死に堪えるのだった。

 

「佐…、祐理…、は…。ヒグッ……、グスッ……」

 

が、溢れ出る感情を抑えきれず、やがて佐祐理は生き神の使いの胸の中で静かに泣き出した。

生き神の使いはそんな彼女の気が治まるまで、抱きしめて頭を優しく撫でて(なでて)いた。

 

 

「どう…、気が楽になったでしょ?」

「はい…」

 

しばらくして佐祐理は気持ちが落ち着いたらしく、泣き止むと生き神の使いの胸元から頭を離した。

 

「とりあえず、これからは弟くんがいなくても大丈夫そう?」

「まだ、分からないです…。けど、お父様とお母様がいてくれたらきっと…」

「よし、それなら大丈夫そうね。佐祐理ちゃん」

 

ここに来て初めて生き神の使いは佐祐理の名前を口にする。

 

 

「これからは佐祐理ちゃんにできる事を生きながら少しずつしていけば良いわ。それが弟くんへの償いになるんじゃないかしら?

 亡くなる前に弟くんと一緒にした遊びだって、せめてもの償いのつもりで考えた事なんでしょ?」

「はい。あの時、一弥が笑ってくれて、辛かった(つらかった)けど楽しかったです」

「弟くんが満足してくれたんだったら、あなたもその気持ちを忘れずに生きなきゃね。

 そうしたら、きっと弟くんも幸せな気持ちになれると思うわよ」

「はい。これからは一弥の為にも、生きて頑張ってみます」

「よし!よく言った!!佐祐理ちゃん」

「ありがとうございます」

 

佐祐理の前向きな言葉に生き神の使いの表情が晴れやかになり、佐祐理の頭に手をポンと置くのだった。

彼女の佐祐理への行為が嬉しかったのか、佐祐理の表情にも笑みが戻る。

 

 

「あっ、そう言えば佐祐理の血が生き神の使いさんの服に…」

「ああ、別に気にしないで大丈夫よ」

 

生き神の使いが纏っている白いケープが血で汚れていたのを見て、佐祐理は申し訳なさそうな表情を生き神の使いに向ける。

どうやら生き神の使いが佐祐理を抱きしめた際に、佐祐理の手首から流れてた血が付着したようだ。

生き神の使いは別にそれを気にしていない様子だった。が…。

 

 

「って、あなた早く傷の手当てをしないとまずいじゃない!!?」

 

佐祐理の手首が切れたままである事に気付いた生き神の使いが、途端に慌しく(あわただしく)なる。

佐祐理が手首を切ってから十分ほど経過しており、傷口は浅く、出血量も最初より少なくなっていたが、早急な手当てが必要な状態だった。

 

「あ…、そう言えば…」

「と、とにかく早く傷の手当てをしてもらいなさい!!急いで!!」

「だったら、生き神の使いさんが…」

「ごめんなさい!!私“使い”だから、あなたの手首を治す事もできないのよ!!

 だからご両親に診て(みて)もらうか、救急車を呼びなさい!!とにかく、もう帰るわね!」

 

生き神の使いは足元にあった大きな鎌を掴むと、外に出ようと開いていた窓に足を掛けた。

が、言い忘れていた事があったのか、去り際に佐祐理の方へと振り返る。

 

 

「こんな慌しい形でのお別れになっちゃうけど、とにかく頑張ってね。

 助けられなかった人がいて、悔しい思いをした事もあったけど、今日佐祐理ちゃんを助けられた事は忘れないわ」

 

彼女が佐祐理に放った言葉は臭い決まり文句と言ってしまえばそれまでかも知れない。

が、佐祐理にはその言葉が彼女の本心であるように思えるのだった。

 

「はいっ。佐祐理も生き神の使いさんに助けてもらった事を忘れません」

「……。そう…」

「……?」

 

佐祐理の彼女に負けじと屈託のない笑顔で放った言葉に、生き神の使いの表情が一瞬暗くなる。

その瞬間を佐祐理は見逃さなかった。が、違和感こそあったものの、特に気にすることはなかった。

 

「とにかく、弟くんを亡くした事の辛さ(つらさ)と悔しさと、そして今回の事で自殺しようとした事を決して忘れないで。

 どんなに辛く(つらく)ても、もう2度と自殺しようなんて事を考えるのは止めなさい、佐祐理ちゃん」

「はいっ」

「バイバイ、佐祐理ちゃん」

「さようなら」

 

別れの言葉と共に窓から飛び降りる生き神の使い。佐祐理は彼女が見えなくなるまで手を振るつもりで、窓の方に向かう。

 

 

“さようなら、生き神の使いさん。佐祐理はあなたの事を絶対に忘れ………”

 

 

忘れるって……、誰を……?

 

窓に向かっていた佐祐理は、今何をしようとしていたのかが思い出せないでいた。

開けっ放しの窓を見て、“そうだ、窓を閉めるんだ”と窓に向かったその時…。

 

“……っ…、痛い…?”

 

左手首に焼ける様な痛みを覚え、痛みの元に視線を動かすと、スッパリと切れた傷口から血が流れているのを確認した。

 

 

“そうだ、一弥が死んだから佐祐理も死のうとして…。だけど何でカッターが机に置かれてるんだろう…?”

 

カッターの刃を手首に宛がって(あてがって)手首を切り、死にたくないと涙を流したところまでは佐祐理も覚えていた。

ただ、それから先の経緯(いきさつ)は全く覚えていなかった。

気が付けば持っていたカッターは刃が収納された状態で机の上に置かれ、閉まっていた窓も開いており、そして自分は窓の方に向かっていた。

 

 

佐祐理の中にあった生き神の使いに関する記憶は、彼女が見えなくなった瞬間に全て消え失せていたのだ。

 

“生きなきゃ…。佐祐理まで死んだらお父様達がまた悲しむ…。それに一弥だって…”

 

ただ、生き神の使いによってもたらされた、生きようという気持ちだけは佐祐理の心の中にしっかりと残っていた。

 

「そうだ、傷の手当てをしてもらわなくちゃ…」

 

両親から怒られるから秘密裏に済まそうとも考えていたが、窓を閉めると、佐祐理は意を決して部屋を出て両親のいる部屋へと向かった。

 

 

案の定、佐祐理の切れた手首を見た両親は驚き、応急処置を済ませて事情を話したところで殴られた。

が、その後の涙を流しながら自分を抱きしめる両親に、佐祐理は深い罪悪感を抱くと同時に生きてる事の実感を改めて認識した。

 

 

手首の傷は今でも残っており、その傷痕をブレスレットやリストバンドで隠しながら彼女は生きている。

そしてこの学校に入学して舞と出会い、卒業間近の今年初めに祐一と出会った。

舞の誕生日に舞が生み出した魔物で大怪我をした事もあったが、全ての問題が解決した後で“まい”と出会った。

 

あの時、もし死を選択していたならば、彼女達との出会いはなかったし、こうして皆と心から笑っていられる事もなかった。

 

そしてまた、生きていたからこそ経験できた、新たな出会い…。

 

それも関西言葉の生き神さん――――――――

 

 

「あの~…、佐祐理さん…。もうそろそろええかな~?」

 

佐祐理に抱きつかれてからおよそ30秒が経過したところで、ヌイが困惑した様子で佐祐理に聞いた。

 

「~~~~~~~~…………」

「舞姉ちゃんの嫉妬のオーラと無言の威圧感が怖いんよ~…」

「あはは♪舞ったら思い切り嫉妬してる~♪」

“何か、もの凄い修羅場に入りそうだな~…。俺からは見えてないけど、ヌイさんとやらは大丈夫なのか?”

 

佐祐理がヌイに抱きついているその後ろでは、ジト目の舞が今にもヌイに斬りかからんと刀に手をかけていた。

更にその後ろから“まい”がヌイ達を茶化し、祐一は相変わらず怪訝(けげん)そうにその様子を見ていた。

 

 

「ウッ…、グスッ…」

「ちょっ、佐祐理さん!?何で泣いて…!?」

 

突如、すすり泣く佐祐理にヌイは困惑した。

 

「佐祐理を泣かせた魔物は…、斬る!」

「ま…、ま…。ワイ何もしとらんから、ちょっと落ち……」

「ちょっ、待て舞!」

 

佐祐理が泣くところを目の当りにした舞は、ヌイが佐祐理を泣かせたと顔つきが一瞬で険しくなる。

持っていた刀を鞘から抜こうとした時、

 

「待って!違うの、舞!」

 

ヌイから離れた佐祐理が、涙を流しながら舞を制止した。

 

 

「一体どうしたんだ?何で急に…?」

「思い出したの…、祐一君…。生き神さんに昔、助けてもらった事があったんだよ…」

 

佐祐理は自身の記憶から抜け落ちていた、生き神との出会いに関する全ての事を祐一達に説明した。

 

手首を更に深く切ろうとしてカッターを持っていた右腕を掴まれた事から、エールの言葉をかけてくれた事まで…。

 

 

「そ…、そんなことがあったんだ…。グシュッ…」

「グシュグシュ…」

「やだ~、そんなオーバーだよ~」

 

話の全てを聞いて、舞と“まい”の2人は感動のあまり涙を思い切り流していた。

そんな2人に照れ笑いで返した佐祐理もまた、未だに涙を流していたが…。

 

「生きてて何よりだったって事さ」

「そうだよね…、祐一君。あの時、生き神さんが止めてくれなかったら、舞や皆と出会えなかったし、

 こうして笑っていられる事もなかったんだって…。生きてて良かったって…。そう思ったら急に涙が出てきちゃった…」

「全くやね。生きてくれるんは、ワイら生き神にとっても嬉しい事や」

 

指で涙を拭いながら現在の心境を伝える佐祐理は、どこか憑き物(つきもの)が落ちた様な表情をしていた。

今まで、自殺を思い留まった理由が朧げ(おぼろげ)だった為、まだ一弥の事で後ろ髪を引かれていたのかもしれない。

しかし生き神の使いであるヌイとの出会いで全てを思い出し、それを断ち切る事に繋がったのだろう。

 

 

“こ~いう話も悪うない。……んやけど、元はと言えば佐祐理さんが自殺をしかけた事から始まった訳なんやし、何だかな~…”

 

そんな中、ヌイだけは複雑な心境で会話に加わっていた。

 

かつて佐祐理が自分と同族である生き神に助けられ、そして生きて良かったと感謝の気持ちを表してくれたのはヌイにとっても嬉しい事だった。

が、自分達生き神が現れる前にできれば自殺志願者(ターゲット)自身の意思で思い留まって欲しかったという気持ちもまた存在していたのだ。

 

“ま…、そもそもワイ自身も人の事は言えへん立場にあったし、思い留まってくれたんやから、それでもええかな”

 

とりあえずは今ある目の前の現状を素直に一緒に喜んであげる事にして、再び会話に加わった。

 

 

「だけど佐祐理、何でそんな事忘れてたの?」

「う~ん…、それが分からないんだよね~」

 

佐祐理が生き神の使いに助けられた事を今まで忘れていた理由について気になってたのか、

“まい”が佐祐理に質問したが、佐祐理にはその理由が分からない様子だった。そこで、話題をヌイに持ちかける。

 

「ヌイなら分かるでしょ?教えてくれる?」

「ああ、それはやな~…」

 

「ぶっちゃければ運だよ。運が良ければ覚えてられると思う。尤も(もっとも)、この事を忘れてる方が普通なんだけどな」

 

“まい”の質問を受けてヌイが答えようとすると、別の誰が質問に答えてくれた。

 

 

“こ…、この声は……”

 

「へぇ~。あれ…?」

「ヌイさんの声じゃない…?」

“別の…、魔物…?”

“見えてないから状況が全然分からんが…。もしかして別の誰かが来たのか?”

 

祐一を含む4人が違和感を感じるより先に、その声を聞いたヌイの表情が一瞬で固った。

 

 

「それで何故お前はあたしを忘れていたのか、じっくりと聞かせてもらいたいものだな…!!」

“わっ……”

 

聞き覚えのある声にヌイは声のする方に恐る恐る視線を向けると、いつの間に来ていたのか、

そこには見覚えのある天使らしき少女が無表情ながら不機嫌そうにジト目でヌイを見ていた。

 

“忘れとったあああああ~~~ッッッ!!!”

 

視線の先の人物に、ヌイは両手で頭を抱えてオーバーなアクションで天を仰いだ。

見た目にそぐわぬドスの効いた声の主は、ヌイの相方である天使の使いミクだった。

 

 

「天使さんだね~♪佐祐理」

「うん、すごくきれいだね~…」

「きれい…」

「なあ…、天使ってあの天使か?何で天使が来てるんだ?俺にも分かるようにしてくれ」

 

目の前のミクの姿は従来の聖なるイメージには程遠いものの、祐一を除く3人は初めて見る天使の姿に見とれるのだった。

ただヌイの時と同じく、やはり天使の使いであるミクが見えない祐一には、何がなんだか分からないままであるが。

 

 

「ミ…、ミクちゃん…?何で…、ここに…?」

 

ミクに思わず見とれている3人をよそに、引きつり笑いを浮かべながらヌイはミクに質問する。

尤も(もっとも)、ヌイにはその理由が容易く(たやすく)想像できるのだが…。

 

「何でもかんでも、お前が自殺志願者(ターゲット)探しに行ったままなかなか戻ってこないから、

 自殺志願者(ターゲット)の説得に時間がかかってるんじゃないかとか、最悪、死神にやられたんじゃないかとか気になったんだよ。

 で、気になって来てみれば、自殺志願者(ターゲット)じゃない者とダベってるとは、どういう事だ!?あ!!?」

「いや~…。途中まで自殺志願者(ターゲット)探しをしとったんやけど、この姉ちゃんから闇討ち食らってやられかけたり、

 自殺志願者(ターゲット)がおらんから帰ろう思うたら、昔生き神さんに助けられたっちゅう姉ちゃんに押し倒されたりで…」

 

 

「あははは~♪お2人とも仲が良いんですね~」

「ねえ天使のお姉ちゃ~ん、ヌイとどういう関係~?」

 

イラついた様子でヌイを問い詰めているミクに佐祐理と“まい”は嬉しそうに話しかける。ヌイは2人の言葉に反応し、

 

「フフン♪何を隠そうワイら2人は…」

「とりあえず、お前は黙っとけ。…まあぶっちゃけると、このバカの相方だよ」

「タップタップ…、痛い痛い…。後、ワイはバカやない…」

 

格好つけて、でしゃばろうとするのだった。が、ミクはそんなヌイをウザく思ったのか、ジト目無表情のままアイアンクローをかました。

佐祐理に少しベッタリされてたヌイが気に食わず、そんなミクを“頑張れ”と舞が心の中で応援していたのはここだけの話だ。

 

 

「はえ~…、ヌイさんの相方さんですか~?しかしヌイさんって、いつもこうなんですか?」

「じゃない?ヌイったらアイアンクロー食らってるのに、微妙に嬉しそうな顔してるし」

“天使さん頑張って…”

「おい、アイアンクローって何だ?目の前で一体何が起きてるんだ?見えない俺に絵でも実況でも良いから伝えてくれ、頼む」

 

2人のコントの様なやり取りに祐一を除く3人は釘付けとなっていた。

ヌイとミクが何をしているかを祐一に伝える事どころか、2人が祐一には見えていない事を忘れてしまうほどに…。

 

「まあ、昔からこいつはこんな感じだからな」

「あ~…、痛かったぁ~…」

 

とりあえずは全力でやって気が済んだらしく、ミクはアイアンクローからヌイを解放した。

 

 

「さて…、と……」

 

ジト目無表情のまま、解放したついでにヌイの左横に回り込むと、ミクはヌイの服の襟首(えりくび)をむんずと掴んだ。

 

「会ったばかりで悪いけど、こいつを返してもらうよ」

「ええ~っ!!?そんな~…」

「お前が先に驚いてどうすんだよ!?」

 

真っ先に驚愕の叫びを上げたのはヌイだった。そんなヌイにミクがすかさずツッコむ。

 

「だけどせっかく来てくれたんだから、もうちょっとゆっくりしてくれても良いのに…」

「そうですよ~。まだアドレスとか交換してないですし…」

「そ…、そうだよな~…。せっかく知り合ったんだし…」

 

続けて、佐祐理と“まい”も驚き、そして2人を引き留めようとする。

祐一に関しては状況が掴めて(つかめて)いなかったが、佐祐理達に流されて彼もまた、見えない誰かを引き留めようとした。

ただ、舞だけは賛成しているようで、ボソッと“ぽんぽこたぬきさん”と呟いた(つぶやいた)。

 

 

「あんたらの気持ちは分からなくはないけど、これからもこいつとやらなきゃならない事があるからな」

「そうなんや~…。ワイらまた別の自殺志願者(ターゲット)を探して助けなアカンし…」

「切り替え早いですね~…」

 

「っちゅう事で、ワイらはお暇(おいとま)…」

「さっさと行くぞ!!」

 

ミクはヌイの服の襟首を掴んだまま宙に浮かび上がると、そのままズルズルとヌイを出口まで引っ張っていく。

 

「皆さんさいなら~…。短い間やったけど、ワイは皆の事…」

「重い!!さっさと歩け、バカ」

「あたっ…」

 

イラついた様子で引きずりながらヌイにハリセンでツッコミをかますミクだった。が、それでもヌイは手を振るばかりで歩く様子はなかった。

 

「さいなら~…、お元気で~…」

「まだ引きずらせる気かよ!?」

 

結局、出口を出てからもミクはヌイを引きずるハメになるのだった…。

 

 

「ヌイさんいなくなったね~」

「うん。ちょっとしか会ってないけど、ドタバタしてて楽しかったよね~♪また来ないかな…」

“ぽんぽこたぬきさん…”

 

ヌイが見えなくなってから、佐祐理と“まい”は名残惜しそうに彼女といた時の事を思い返していた(舞だけはむしろ逆だったが…)。

 

 

「なあ…、そういえば俺達って誰と話してたんだっけ?」

 

突如、祐一がスッキリしない表情で佐祐理達に質問する。その表情は先ほど佐祐理がヌイに抱きついた時とほぼ同じだった。

 

「誰って…?祐一には見えてなかったけど、生き神の使いのヌイって子と話してたじゃない?

 佐祐理と私で通訳してたし、祐一からもヌイに質問してたじゃん。ほら、この紙の女の子」

「いや…、さっき佐祐理さんが話してた自殺未遂を起こした時の話は少し覚えてるんだが、それ以外は真っ白なんだ。

 そもそも“いきがみ”って何だ?何で鎌なんか持ってるんだ?」

 

佐祐理が描いたヌイのイラストを見ても、祐一は頭にハテナマークを浮かべるばかりだった。

 

ヌイ達が校舎を去り、祐一の中の生き神と関わっていた時の記憶はほとんど消え失せていた。

 

「え~!?祐一には見えてなかったけど、あれだけ盛り上がったじゃん?なのに、それを忘れちゃうなんて…」

「もう良いんだよ、“まい”」

 

納得いかない様子の“まい”を佐祐理が優しく静止した。そして窓越しの遠くの景色を眺めながら、話を続けた。

 

 

「祐一君とあの時の私が何で忘れてたのかは分からないけど、それには何か理由があると思うんだ」

「あれ、佐祐理。今、“私”って…」

「そう言えば…」

 

達観した様子の佐祐理の口から自然に出た“私”という一人称に一同は少し驚きを見せる。

 

「死んだ一弥の事でどこかまだ引きずってた事があったと思うの。

 だけどヌイさんに会って、あの時の生き神さんの事を思い出したから、それも吹っ切れたと思うんだ。

 それにあの時と違って、ヌイさん達が見えなくなっても、あの2人だけじゃなく私を助けて生き神さんの事も忘れてないしね。

 そうしたら、自然に“私”って言葉が口に出てきちゃってたんだ」

「佐祐理さん…」

「だからね…」

 

再び一同の方に顔を向けた。その表情は固い決意を秘めているかのごとく力強かった。

 

「私、将来は苦しんでる人を助けてあげたいって思ってるんだ。

 特にヌイさんやあの時の生き神さんみたいに、死のうって考えてる人を思い留まらせてあげたいの!」

「良いじゃん、それ。“いきがみ”ってのが何かはよく分かんないけど、それを目指すのは悪くないと思うぜ」

「カッコ良いよ~、佐祐理♪」

「佐祐理…」

 

そしてその表情に負けぬ、人を助けたいという力強い宣言は一同を絶賛させるのに十分だった。

 

 

「だからね、これから私達にできる事をやってみようと思うの。祐一君達も良いかな?」

「良いよ~♪」

「はちみつくまさん」

「まあ構わないぜ。けど、何をどうやってするんだ?」

「うん♪それはね……」

 

佐祐理は自身が思いついた、人を助ける方法について一同に話した。が、

 

「本気なのか……?佐祐理さん…」

「うん♪協力してくれる?」

 

その内容にみるみる蒼ざめていく祐一だった…。

 

 

「この町の眺めは最高やな~…。温泉入って一献やったらも~っと最高なんやろうな~…。けど何か(な~んか)退屈や~…」

 

翌晩、町のどこかの屋上から夜の雪景色をのんびり眺めているヌイの姿があった。

妙にリラックスしているせいで、表情どころか語尾までもが間延びしている。

 

「だったら自殺志願者(ターゲット)探してこいよ。死神に悪魔もいるかもしれないぞ」

「散々探したけど、自殺志願者(ターゲット)も死神も悪魔もおらんや~ん…。こういう時くらい平和を満喫しまひょ~…」

 

隣にいたミクが腑抜けた(ふぬけた)様子のヌイにやる気を促そうとするも、ヌイは動じない。

 

 

「しかし、ワイらが使いになってから自殺志願者(ターゲット)をぎょうさん助けてきたけど、

 昨日みたいに他の生き神さんに助けられた事があるっちゅう人に会うんは久々やったな~…。

 思い出すわ~…。あの日の事…」

 

昨日の佐祐理の話を振り返りながら、ヌイは昔の事をしみじみと思い浮かべていた。

 

忘れもしない、あの夏の終わりの日――――――――

 

 

当時の彼女は不治の病に匹敵する重い病苦を始めとした様々な苦痛に耐え切れず、死を考えていた。

そしてあの日の夜、自殺をしようと入院先の病院の屋上に向かい、そしてそこから転落した。

 

本来ならば、そこで終わっていてもおかしくはなかった。が、地面に激突する寸前に彼女は助けられた。

 

「誰…、や…?」

「私は…、生き神よ」

「生き……、神……」

 

生き神と名乗る女性に…。

 

 

その日以降、彼女は死を考える事を止めた。

そして生きる希望と生来持っていた明るさを取り戻し、病苦を抱えながらも健気に充実した生活を送り、そして……。

 

 

“もし、あの時生き神さんが来てくれへんかったら、ワイは今頃…”

 

そして、いつしか生き神になりたいと憧れを抱く様になり、やがて“使い”ながらも生き神となり、現在に至るのだった――――――――

 

 

「なあミクちゃ~ん…、昨日会った佐祐理さんっちゅう人を昔助けたのって、やっぱあん時の生き神さんなんかな~…?」

「さあ…、な…。まあ、そう思いたければ思っても良いんじゃないか」

 

間延びした表情と語尾のままだが、過去を思い返して若干シリアスな雰囲気となったヌイがミクに質問する。

本来なら“そんな訳ないだろう”という答えが返ってきそうな内容だったが、それをミクは頭から否定せずに答えるのだった。

 

「もうムリかも知れへんけど、もし大丈夫ならまた佐祐理さんと会って、その辺について詳しく話し合ってみたいわ~…」

 

そんなヌイを横目に、偶然視界に飛び込んできた妙な光景にミクの表情が変わる。

 

“何だアレ……!!?もしかして……?”

 

それが何かを理解したミクの表情が見る見る引きつっていく。

 

 

「それだけどな…、今ならできるかも知れないぞ…」

「……??どういう事や~…?」

「まあ…、右を見てみな…」

 

蒼ざめた様子で人差し指をさすミクに従い、ヌイは間延びした状態のまま視線を右に移した。

 

 

「あははは~♪パトロールって楽しいね~♪」

「ホウキと絨毯(じゅうたん)の操縦は私に任して!佐祐理はターゲット探さなきゃ!」

 

ヌイの視線に飛び込んできたのは、魔法使いの様な衣装を身に纏い、ホウキに跨って(またがって)空を飛ぶ佐祐理と“まい”、

 

「なあ相沢君。僕は何故こんな事を…?それに倉田さんともあろうお方が何故こんな…」

「自殺しそうな人間を探して助けたいんだと。その為には空から探した方が早いんだとさ。人数多い方が良いし、

 何よりお前も人助けに貢献すれば、生徒会長としてのお前のお株もより上がるだろうから、是非呼んでくれって」

「だからと言って、こんな…!!」

「心配すんな。俺もお前と同じくらい恥ずかしいからよ。お前1人で抱え込む必要なんてないぜ」

「巻き込んだのは君達だろう!!?」

「お前も佐祐理さんの誘いならと喜んで賛成してただろうが」

 

そして“まい”の力で浮かぶ絨毯(じゅうたん)の上でいがみ合う、祐一と彼が通う高校の同級生で生徒会長の男子生徒・久瀬だった。

 

ちなみに舞は1人校舎に残って、新たな魔物を待ち構えている。が、昨日と違って魔物らしき者は未だに現れていなかった。

 

 

「佐祐理さん達や~…、楽しそうで何よりや~…」

「楽しそうよりも前に、良いのかよ!!?ってか、絨毯のヤツら嫌がってるんじゃないか?」

「まあ、ああゆう形で人助けするんもエエと思うで~…。楽しそうやし、また別の日に声かけようかな~…」

「そういう問題か!?」

 

この光景を見てもヌイは未だにのんびりとしたままだった。隣でミクが顔面蒼白状態でツッコんでいるにもかかわらず、である。

 

 

「2人共、何喧嘩してるの~?祐一君達も探してくれないとターゲット見落としちゃうよ~?」

「ねえ、佐祐理~。下の人が私達に気付いたみたいだよ~」

「本当だ~♪よ~し、ここは派手に…」

「倉田さん、頼みますからこれ以上は止めてください!!」

「っつーか、もう十分派手にやってるよな、俺ら…。絶対イタい噂になるよ。下手したら顔(ツラ)まで広まるんじゃねーか?」

「あっ、佐祐理。お巡りさんも来てる」

「よ~し、お巡りさんにもご挨拶……」

「止めてください!というより、もう降ろしてくださ~い!!後生ですから~…!!」

「ってか、もういっその事殺してくれ…。頼む…」

 

たまらず悲鳴を上げる久瀬と半ば諦めモードの祐一を尻目に、佐祐理と“まい”は屋上のヌイ達に気付かぬまま、

楽しそうに空を飛びながら自殺志願者(ターゲット)を探し続けるのだった……。

 

 

「しかし、佐祐理さんのあの魔女っ娘の衣装(コス)カッコええな~…。次自殺志願者(ターゲット)見つけたら、アレで行こかな~…」

「お前もコスプレすんの、大概にしとけよ」

 


 
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