暑いっすね、甲子園で盛り上がっていた皆様には悪いのですが、個人的には今名古屋グランパスが熱いです。
この前の試合の……っと、話がいきなりそれました。
次世代編、新時代編(呉√アフター魏)、夏祭り用を同時進行していると、どれだけ間隔があいてしまったのかわからなくなって申し訳ないことになっている気がします。
申し訳ない。
それではいってみましょう、まずは
前回のあらすじ
劉備が昭烈帝を名乗ってから即座に行動を開始していた司馬懿。
彼女は突如呉国に現れた。彼女の狙いもわからぬまま、一刀たちはわけのわからない権謀術数に巻き込まれていく。
とりあえず慶賀の使を蜀に送ったものの、しばらくして今度は新たな帝が武昌に起つ。
その名は袁術……え?
しかもなんだか一刀は司馬懿に好かれている模様。これを妻達が許すはずもない。
さぁてさぁて、今回の次世代編はどうなることか?
それでは語り始めましょう。
第十二話 天の意思
武昌とは二国にとっても、そして滅亡した魏にとっても因縁深い土地であるといえるだろう。
長江を上り、中流にいたるところ夏口で呉蜀同盟軍と魏軍はお互い陣を張った。言わずと知れた赤壁の戦いである。
その地がある城郭都市こそが武昌である。
その土地で袁術が皇帝を名乗っているという報が呉蜀に入ったのはほぼ同時であった。
しかも嘘か誠か、名乗っている袁術は伝国の玉璽を手にしているという。呉の主を孫権としていた市井の人々の混乱は増すばかりであった。
まぁ、それはさておきその武昌は赤壁の戦いがあったため、発展した都市といっても過言ではい。
当時、蓮華が張った陣の周りに商人が都市を形成したのが始まりとなっている。
その新興都市で今まさに動乱が始まろうとしている。
「……また、あの馬鹿どもか」
玉座に集まっているうちで祭はげんなりとした様子で第一声をつぶやいた。
それに伴い皆ため息を合わせる。わからない顔をしているのは子供たちばかりなりけり。
「母者、その、袁術とかいうのは馬鹿なのか?」
祭の娘の宴が皆を代表するようにその袁術の人となりを聞く。
「そうよのぉ、まぁ、あれもそろそろいい年じゃろうが、補佐があれではのぉ。相変わらずじゃろうて」
「自分でものを考えるということをしなさそうですものね」
祭にも穏にも散々な言われようである。というよりも基本的に親世代にとってすれば皆袁術に不満があったのは仕方のないことだった。
邪馬台国の海戦で運良く蓮華と明命を助けることになった美羽こと袁術と七乃こと張勲は、その功によって許されることになったのだが、皇帝になるためと華雄を引き連れてどこかへ向かっていたはずだった。
「しかし、何でまた武昌に」
「大方、蜂蜜水をたくさんくれる商人でも見つけたのでしょう」
蓮華は嘆息すると、玉座の間に揃った顔触れを見渡す。今ここに妹のシャオと陸延こと優はいない。間の悪いことに二人とも慶賀の使として成都に向かっている最中であった。
「父様、燐音が申し上げます」
「何だ燐音。気がつくことでも?」
「はい、今後の蜀、いや朝廷の動きです。偽帝が起った今、討伐軍として官軍が出る可能性があります。こちらの動きを決めておく必要があるかと」
亞沙の娘燐音は
「そうね、燐音の言うとおりだわ」
「蓮華様には言っておりません、父様に申しております」
その言葉に蓮華は少し傷ついた顔を見せた。いつも言われているとはいえ、さすがに義理とはいえ娘の言葉だ、こたえるものである。
燐音のファザコンは今に始まったことではないが、一刀の妻の中で一番直りが遅いのは蓮華であった。
その分一刀から寵愛を受けているともいえるのだが、いかんせん親族から好かれないというのは孫家にとってすればなれないことでもあるのだろう。
そのため一刀から慰めがはいり、また燐音からジト目で見られると悪循環になっているのだが一刀自身が気付かないので、どうにもならないようだ。
「燐音、蓮華に失礼だといつも言っているだろう。言い直しなさい」
「はい、申し訳ありません。蓮華様、即刻、袁術軍に対する、いえ、反乱軍に対する備えをなされたほうが賢明かと」
「それでいい、孫呉の絆を大切にする心をいつも忘れるんじゃないぞ」
「はっ!」
小気味いい返事なのだが、これが一刀にしか実行されないのが玉に瑕である。周りはあきれながらも新しい孫呉の頭脳を見つめていた。
その親である亞沙は、すみません、と何度も蓮華に頭を下げている。
「……ふっ、わかったわ、穏、亞沙、燐音は具体的な案を即急に練り上げて頂戴。明命には、そうね……、誠も一緒に事の次第をシャオと優に伝えて。思春と水拠と洪は二人で水軍の編成を。祭と宴それに想華は陸軍をお願い」
全員がその指示に頷き、会議をそれまでとし動き出した。残されたのは孫登と孫仁、すなわち陽蓮と大蓮であった。
「母上、私たちは?」
「孫登は、私の補佐を。孫礼はそれぞれの部署を回ってきなさい。シャオがいないからって、皆を困らせては駄目よ」
「失礼だなぁ、大蓮だって、できる子だよぉ」
大事な孫家の跡取りである孫登には、少しでも蓮華の近くにいて仕事を学び取ってもらわなければいけない。逆に孫仁にはまだこれといって秀でているものが目に付かない。
強いて言うならば芸術に強いというべきか、楽器にしても、舞踊にしてもその感覚は常人のものとはいえなかった。これはある意味シャオの遺伝なのかもしれないが。
だからこそ今この状況でどこに一緒にいろということもできなかった。むしろ孫家のものとして全てをできるだけ平等に見る力を養ってほしい、蓮華はそう考えていたのである。
「一刀、あなたはどうする? 何か思いついたことでもあるかしら?」
「……いや、蜀がどう動くかわからない以上、無駄だろう。この事件がそもそも誰の思惑で動いているのかもわからない。ただの袁術の気まぐれであればいいんだけどな」
「そうではないと?」
「わからない、ただ、司馬懿が裏にいるかもしれないと思っている時点で、俺はまともに動けそうにないよ。大蓮と一緒に皆の所を回ることにする」
「……そう」
「ああ、それにしてもシャオたちに何も問題が出なければいいけど」
「ええ、今あの子達はどの辺りにいるのかしら?」
二人の懸念はそこにあった。外交上の問題として既に二人が蜀の成都に入っていれば問題ない。
偽帝が起った以上二人は捕らえられるかもしれないが、たとえ蜀の役人に捕らえられたとしても、親書を二人が持っている限り、酷い扱いを受けることはないだろう。
しかし、もしまだ呉領に二人がいた場合、二人を呉の使節とみなしてくれるかどうかは難しい所である。偽帝が起った今、その帝の後押しは自然と呉王孫権と考えるだろう。なれば、反逆者からの手紙というものを果たして劉備は受け取るだろうか? その応えは否に近かった。最悪死罪にされる可能性もある。
かといって、呉内で引き返されてもまた困るのである。袁術と与されていると疑われても堪らないからだ。ここばかりはシャオたちの機転にかかっているのだが、さてどう転んだものか?
一刀と蓮華は同じ悩みを抱えながら、それぞれの仕事へと戻っていった。
一方その頃、シャオと優は既に武昌を通り過ぎ蜀の国境線で足止めを食っていた。理由は簡単である。呉領内から蜀領内への入国者に昭烈帝が検問を掛けたからである。
さすがに商人と同じ扱いはできないためか、シャオと優は貴賓室で、使節団は別室で待機させられていた。
とはいっても、使節団だけで五百人、その使節団の荷物も馬鹿にならないほど多いる。数少ない検閲の役人の人数ではいつ終わるか知れたものではない。
優は足止めを食らった後、一旦シャオのもとを離れ、周囲の状況をうかがっていた。しばらくしてある程度の情報を得てから貴賓室にいたシャオのもとに戻ったのだった。
「小蓮様、どうやら噂は本当みたいですよ」
「そうなの優?」
「ええ、袁術さんが武昌で皇帝を名乗っているみたいですね」
基本的には旅商が情報源である。しかし、大方情報が一致しているのだから、この袁術に関する情報は間違いないのだろうと優は悟っていた。
「うわぁ、相変わらず馬鹿なまんまだ」
「そうなんですか?」
「そうだよ、優はまだ生まれてなかったから知らないだろうけど、あの戦乱の時代の中で軍事の『ぐ』の字もわからないようなお馬鹿さんだったんだよ」
「でも、邪馬台国の海戦では蓮華様を助けたってお聞きしていますけど……」
「偶然よ、ぐ・う・ぜ・ん。そもそもあの二人が良く雪蓮お姉さまに殺されなかったと今でも思うもの」
「そんなにですか……」
優も先代孫策のありえないような逸話や苛烈な性格などは母や父から聞いて知っていたため、その人間性ならば確かに、と思うところがあった。
「そういえば、小蓮様。さすがにこれは嘘だと思われるんですが、その袁術がなんでも玉璽を持っているらしいという噂もあるんですよ」
「はいっ?」
思わず声をあげてしまったことに恥を覚えたのか、小蓮は優の耳元でぼそぼそと話し始めた
「え、でも、玉璽ってお姉ちゃんが管理してるはずでしょ?」
「そうですね、おそらく後は一刀父様ぐらいしか知らないんじゃないでしょうか?」
反董卓連合で洛陽に攻め入った際、一刀たちは光放つ井戸から玉璽を手にいれていた。
何かしらすがれるものがあるところに人材というものは集まるものである。ましてや雪蓮の王としての器は非凡なものであった。
そんな当時の呉にとって、玉璽を手に入れたことはまさに天佑だったのである。
しかしその後、その玉璽は使われることはなく、そのまま蓮華へと代替わりすることになった。では今呉の玉璽はどこにあるのか? それが問題になる。
「まさか、袁術が玉璽を持ち出したなんてことはないだろうし」
「……小蓮様、袁術のところにもですが、蜀にも玉璽はあるのですよ」
「そうなんだよね、少しややこしくなりそうだよね」
「ややこしいで済めばいいんですけど」
「どういうこと?」
「それは……」
優が語ろうとしたところで扉から声が聞こえる。
「孫尚香様、陸延様、関雲長殿がお待ちです。お越しいただけますか?」
「えぇっ!」
「また大物が出てきましたねぇ」
驚くシャオに、苦笑せざるを得ない優。武神と呼ばれた関雲長。蜀と呉の国境警備の指揮を執っていたのはたまたまだったのか。はたして……。
明命と誠はこのときまだここまでたどり着いていない。
「ふむ、孫尚香殿とは久しいが、そなたと会うのは初めてだな。名はなんと言う」
「はっ、陸遜が第一子陸延と申します」
「おぉ陸遜殿の子でありましたか? ふむ、そういわれれば面影があります」
二人に面会した愛紗は相も変らぬ美しさを保っていた。その美髪公と呼ばれた美しい髪の色めきは未だ失われていない。同じ卓を囲むように三人で座った。
「して、私は武人でありますゆえ、あまりしち面倒なことは嫌いです。単刀直入に聞きますが、呉は漢に仇為す意思ありやなしや」
二人の面がこわばった。軽く気を当てられたせいもあるが、この場の問いは呉のこれからに直結するものだからだ。
「関羽殿、もともと呉は漢王朝の臣でございます。血脈を大事にする呉国がどうして臣下の礼を忘れることがありましょうか」
応えたのは優だった。とっさの機転を利かせるのであれば、既に小蓮よりは優のほうが優れている。
「そうか、だが、お主の国には我が主をあろうことか偽帝と指差し、自らを帝であると称するものがいると聞くが」
「滅相もございません。呉国にそのようなものはおりません。いるとするならばそれは賊の類か何かでしょう。道理というものを忘れた者たちに違いありません」
まるで茶番のようなやり取りだが、これをしなければならないときもある。
「それを示すべきものはあるか?」
「はっ、ここに我が王孫権様から帝へと宛てた親書が御座います」
優の言葉に従うように小蓮は身に付けていた親書を愛紗に差し出す。
「ふむ、確かに……。内容を検めさせていただいてもよろしいか?」
「……関羽将軍、あなたにそれほどの権利がおありか?」
「なっ!」
部屋にぴりりとした緊張が走った。言葉一つで今ここにいいる呉の大使の首が飛ぶ。それは間違いない。
「帝と貴女が義姉妹の契りを交わしたことは全土の知る所。しかし、だからといって呉王の親書を一存で検める権利を貴女はお持ちではないでしょう?」
しかし優はこの武神にひるむことなく、眼光鋭く彼女を見つめた。しかも年の差は親子ほども違うのである。
「この親書は呉が漢の臣であることを示すための書。そしてここに控えられる方をどなたと心得ますか? 呉王孫権の妹君孫尚香様であらせられます。呉はそれだけの信を漢王朝に対して示そうとしていますのに、関羽殿はそれをお疑いになられるか?」
愛紗はもともと正統な理屈に弱い。またそれらしく聞こえる理屈にも弱い。だからこそ優の論理に正当性を見出してしまったのである。そうなってしまえば、後は押し黙るしかなかった。
しばらく愛紗は俯き沈黙が流れた。対して優はそんな彼女の顔をまっすぐに見つめている。そして愛紗が視線を上げるとまっすぐ見つめていた優と瞳がぶつかり合った。
「これは失礼いたしました」
そこで愛紗は負けたかのように爽やかな笑みを浮かべる。場の雰囲気が弛緩する。
「しかし、呉国にはずいぶんと才能豊かな者達が育っているようですね」
「そうそう、小蓮もなかなか立場がなくてね、でも関羽殿も、養子を迎えたと聞いてるよ」
「ふふふ、孫尚香殿にはそういった話し方がお似合いだ。桃香様も、いえ皇帝陛下もさぞお喜びになられるでしょう」
「ありがとう、関羽。でも、まぁ、成都に着いたら少しは孫呉の姫らしく振舞わせてもらうわよ」
「……わかりました。慶賀の使としてのお役目ご苦労です。長い間お引止めして申し訳ない。どうぞお部屋へお戻りください。しばらく滞在なされることになると思われますがよろしいか?」
「まぁ仕方がないでしょ?」
シャオはそこで屈託のない笑みを浮かべた。そこに優が一言付け加えた。
「それと、関羽将軍。我が国からしばらくすると伝令がやってくると思いますので、滞在はそれまでしていてもよろしいでしょうか?」
「伝令?」
関羽はいぶかしげに首をかしげる。
「はい、今このような状況下にある以上、下手に私たちは動くことはならないでしょう。ですから、本国からの指令を待ちたいと思います」
「既に連絡は?」
「いえ、……ですが、みん、失礼しました。周泰様と周卲がこちらに向かっているはずですから」
「そうですか、わかりました」
「ありがとうございます」
愛紗の許諾を得て二人は顔を見合わせた。そして会見は終わり、シャオと優はその場を退出する。
黙して一度そのまま部屋に戻り、二人は壮大なため息を漏らす。
「あんまり無理しないでよ、優」
「ですけど、小蓮様。母様たちならもっと上手くやりましたよ」
「まぁ、そうかもしれないけどね。でも優もよくやったよ」
そういったシャオは義理の娘の頭を少し背伸びをしてなでた。
「背も伸びたね。まだ私より小さいのは、大蓮と燐音だけかぁ」
「ふふふ、私はその小蓮様の愛らしさのほうが羨ましいですけど。文官で背が高すぎるのいうのも……」
「大丈夫大丈夫、冥琳だって、穏だって背は高いじゃない。……胸も大きいし」
と、小蓮の瞳が怪しく光った。
「ちょっ、小蓮様、そんな目で見ないでくださいよ」
「さぁてお母様に少し計らせて御覧なさい」
指先の動きが明らかにおかしかった。この辺りはさすが孫呉の血、いや雪蓮の妹という所だろうか。
「いやっ、あ、あっ、あああぁぁ」
部屋に可愛い悲鳴がこだまする。優の乱れっぷりは実は母を凌ぐとか凌がないとか
ところ変わってここは、噂の的の地、武昌。
「のう七乃、これでええのかや?」
「どれどれ~、よっお嬢様、さすがですねぇ~、見事に印を押せてますよぉ」
と相変わらずの二人は護衛に華雄をおき、書簡をせっせと書いていた。ちなみに書いているのは七乃で、印を押しているのが美羽である。
「のう、かゆうま、これでわらわも皇帝ぞ、わらわの権限でそなたを大将軍に任命してやるのじゃ」
「……まぁ構わんが。というか、美羽、お前の持っているその玉璽本物なのか? 後私は華雄だ。……もう諦めているが」
「玉璽? このキンキラキンのは孫権のところから貰ってきたやつなのじゃ。七乃がこれがあれば皇帝になれるというから、わらわは皇帝になることにしたのじゃ」
「おい、七乃。さすがにまずいんじゃないのかそれは?」
あきれたように恨み言を呟く華雄。しかし、七乃は大丈夫ですよぉ、と調子はずれにしゃべっている。
「そもそも、お嬢様と似たり寄ったりの劉備さんですら皇帝ができるんですから、お嬢様に出来ないはずがないじゃないですかぁ」
「いや、そうじゃなくて玉璽を盗んだことに問題があるだろう」
「ばれなければいいんですよ。それに、孫策さんがいた頃に手にしていたものをこちらに献上しなかったんですよ。本来ならあったはずのものを返してもらっただけですよ」
「それは屁理屈と……まぁ、いい。だが、蜀にはいろいろいるだろう。こちらと違って。軍師にしても武将にしても」
「だから、書簡を出すんですよ」
「誰に」
「袁紹さんと董卓さんと呂布さんですよぉ」
そうあっさり言ってのけるが、その言葉に華雄は愕然とした。
「なっ、月様が生きていらっしゃるのか?」
「ん?……ああ、董卓さんですか? なんでも劉備さんのところで侍女みたいなことをやっているらしいですよ」
「信じられん……」
元の主が生きていたことに喜びを隠せない華雄。しかしそんな華雄に七乃が釘を刺す。
「まさか、華雄さんこんな所で裏切ろうなんて思っていませんよねぇ」
意地悪く聞く七乃。華雄は忠義の武人である。もと君主が生きていたとはいえ、今の主からそう簡単に鞍替えしようと思うことなどできなかった。
「わかっているさ、一度失われた命、最後まで主のために尽くそう……ん、誰だ!」
すっと現れた気配に気付いて華雄は武器を構えた。が、その相手を見て刃を振るわず構えでとどめる。
「おっと、これは失礼。どうだい、見たところ順調に進んでいるみたいだね。袁術」
「おぉ、仲達ではないか。うむ、お主のお陰でわらわもようやく皇帝になることができたのじゃ」
城内に現れたのは、数人の護衛を伴った司馬懿仲達だった。
「それは僥倖。でも大丈夫かい? 話だと、蜀がこっちに攻めてきているそうじゃないか」
「そうなのかえ、七乃?」
「そうですねぇ、でも大丈夫ですよ。その人たちにはこれから裏切ってもらいますから。ねぇ、仲達さん」
「ははは、まったく張勲はおそろしい」
「いえいえ、仲達さんには負けますよ」
(なんだか黒いな)
背後で華雄がそんなことを思っているとぐるりと司馬懿の首が回転した。
「うおわっ」
「今、なんかへんなこと考えませんでした?」
「な、なんだ変なこととは」
「いえ、なんでもないならいいんですよ。ああ、そうそう袁術。美味しい蜂蜜ををもらってきたから後で飲むといい」
「本当かえ?」
嬉しそうに頬をふくらませる袁術。鼻息も少し荒い。
「ああ、すべては皇帝陛下の思うままに……あと、そうだった。これで私は帰るけれど面白い楽士を連れてきてあげたから、後で話でも聴いてあげるといいよ」
そういって含み笑う彼女を華雄は胡散臭いものを見るような目で見つめていた。
司馬懿が去り、場内には再びもとの三人になる。書簡は彼女に持たせて、蜀へと送り込んだ。
蜂蜜水を美味しそうに飲む袁術を尻目に華雄は七乃に問いかける。
「あいつは信用できる人間なのか?」
「うーん、どうでしょうねぇ。でも、私たちが美羽様の願いを叶えるためなら、こうするしか方法がなかったのも事実ですしいいんじゃないですかね。その道筋を示したのもあの方に他ありませんしぃ。利用されているとしても、何を考えているか私には解りませんからまぁ諦めるしかないですかねぇ」
「というか、折角大陸が平和になったというのにあいつは何がしたいんだ?」
華雄であっても皇帝が二人も起てばまたこの大陸は荒れるというくらいわかる。しかしそれをするメリットが華雄にはわからないのだ。
「まさか、自分が皇帝にでもなるつもりか?」
「そういうのとも違う感じがしますけどねぇ。どちらかといえば、嫉妬心みたいなものですかね」
「……七乃、私は真面目に」
ジト目で見つめる華雄に七乃は平然と言葉を返す。
「私だって真面目ですよぉ、ほら、よく言うじゃないですか。好きな子ほどいじめたくなるって……って、どうして華雄さんはそこで私を見るんですか?」
「なに、その通りだなと思っただけだ」
そんな私はそんなことしませんよぉ、という張勲を尻目に華雄は自らの好敵手がつくった国のことを思った。
(さて、この状況で呉はどう出てくる?)
「ちょっと、華雄さん聞いてますか?」
七乃叫びがむなしく広間に轟いた。
「あ、あのぉ」
そんなとき、三人のこれまた綺麗な踊り子のような女性達が現れた。
「仲達さんに言われて、ここにくれば雇ってくれると訊いたんですけど」
「およ、七乃、七乃? 何かいるのじゃ」
「あれ、本当ですねぇ。あぁ先ほど言われてた楽士さんの方達ですか?」
その女性達はそれぞれ、桃色の髪に青色の髪、紫色の髪と特色のある様子だった。
その中でもとにかく気の強そうな青髪の少し胸が控えめな女性が喋った。
「ちょっとぉ、ちぃ達のこと知らないなんてどういうこと? 私たちそんじょそこらの楽士より人気あるんだからね!」
「ちぃ姉さん、少し黙って」
それを紫髪に眼鏡の女性が押しとどめる。
「あの、仲達さんからのご紹介でこちらで働いてはといわれたものなのですが……」
このとき誰が知っていたであろうか、かつての黄巾党の首謀者がまだ生きていたということを。
この三人が袁家の専属楽士となったとき、武昌周辺の地域はすでに何もせずに陥落することとなった。表向きは呉に従ったままで。
平和な時、それは幻想だったのだろうか? 世界に暗雲がたれ込め始める。
天は一体何を求めているのか?
あとがき兼次回予告
すみませんでした!!!!!
アップが遅くなりました。
いや、何が悪いってパソコンが壊れたことに端を発する私の怠け癖が悪いんですけれども、……ほんとうにすみません。
しかも次回予告が次回予告になってないし。ということで、これからは次回予告は書かないことにします。
有言不実行はすぐに直さないと。
で、もうひとつ情けないお知らせなのですが、今までできるだけ週一回のペースで作品をお届けしてきたのですが、なんか周囲が忙しくなり始めたので、更新が少し難しい状況です。
そういうわけなのでひとつよろしくお願いいたします。
ではでは、コメントよろしくお願いします。
夏祭り用もう一作品ぐらいは書きたいなぁ。
ではごきげんよう
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更新遅れてすみません。
誤字などあればご指摘お願いいします。
あらかた役者はそろいました。
第十一話へhttp://www.tinami.com/view/161265
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