やっと夏の気配が遠のいた、物理部室。
「あ」
不意の少年の呟きは思いのほかはっきりと響き。
退屈をしていた(そりゃあんな経験をしてしまえば日常など退屈の一言で済まされてしまうことだろう)友人に興味の灯をともす。
「ん?どうしたよ、健二」
「いや思い出したんだ。
そういえばあの事件に似た事件が起きたことがあったなって」
「あんな大騒ぎ、そうそうあって……ん?」
聴いた言葉そのものをさっくりと否定したはずなのに、それを口にしたことに躊躇うように言葉を詰まらせる。
どこか心の琴線に、なにかが触れたような。
「佐久間はさ、覚えてない?知らなかったら、知らないのかもしれないけれど」
「いや、ちょっと待て。それ、10年くらい前の話じゃないか?
アバターじゃなくて、データが食われたって奴。
あと人工衛星じゃなくってICBM乗っ取られて……」
「そうそう!いやちょっと似てたなぁって」
「そうだ。2回あったんだ、春と、4年くらいあとにもう一回・・・
あぁメール初めてアレで打ったんだ。
がんばれ、って初めて心から言った記憶がある。なんだっけ?」
「僕もなんとなーくの記憶しかないんだ。
メールを打ったの、オレもその時がはじめて。
すごく鮮明で、すごいことを目撃していたはずなんだけど」
「なんだっけなぁ・・・・・・」
「でもあの記憶があったから、絶対諦めなかったんだ、多分」
「わかる。あれだって、あと1秒とかそういう世界だったよな。
あぁそうだ。オレアレ見てグラフィックに興味が出たんだ」
「さっしいれだよー」
「あ、夏希先輩」
「お、アイスwあざっす」
「どうしたのー?二人して深刻そうな顔しちゃって。
またなんかあった?」
「いや。健二が懐かしい話を持ってきまして」
「懐かしい話?」
「先輩は見てました?10年前の、ネットワークで起きた・・・多分、戦い」
「戦い?え、今回みたいな?」
「知らないですか?」
「うーん、私の記憶にはないなぁ、そんな物騒なの。
大体私がパソコン触れるようになったのだってここ1年やそこらだもの。健二くんに教えてもらってからよ」
「あぁそっか」
「どんな事件だったの?」
少年二人は顔を見合わせた。
その問いは当然のものだったが、些か幼い時分の頃だ。
そうさらっと言葉が出てくるとは思わなかった。
「どんなって」
「事態は今回と一緒ですよ。ネットワークによるシステムの混乱。それを仕掛けたわけのわからない"化け物"。
OZっていうある意味完成された世界内ではなくて、当時のシステムなんてそれこそ点在する島みたいなもんだったんですが、問答無用でそのどれもを蹂躙する、そうしながら姿を変えていった、何か。
それに立ち向かってく・・・・・・・・えっと、"キョウリュウ"?」
「狼もいたよね。確か」
「あぁ記憶にある。オレンジ色の恐竜と、蒼い狼だ。
あれが、混ざって・・・、あれ?誰かいなかったか?」
「えっと」
「ネットワークに"誰か"がいるわけないじゃない。
アバターじゃないの?」
「先輩。あの頃にアバターはなかったんですよ。あっても精々2Dの、もっとカチコチな感じなんです。動くこともない。でも」
「あぁそうだ。あの時のは、まるで。いや本当に」
共有する記憶に伴って、鮮明に成って行く過去。
だが肝心なところが判らなくて、無意識に少年は手元にあるキーボードに文字を打ち込んでいく。
いきてるみたいな、ひとのめいあんをわけるばけものたちのたたかいを、ひとであるじぶんたちはおうえんするしかなくて。
「ネットワーク上、ただのデータであるはずだったのに、確かにそこには息づいた戦いがあって。
戦っている恐竜と狼は何度も負けるんだけど諦めなくって、戦って、戦って」
「そうだ。なんかわかんねーけど、いきなり合体して」
「がったい?!」
「本当に、いたのはヒーローだったんですよ。
あれを見たから、僕も、多分負けたくなかったんだなぁって」
「本当にな。あっちはたった2体だもんなぁ」
「そういう意味じゃ、僕たちは恵まれていたね」
「ほんとだよな」
「なによぅ、男の子二人でしみじみしちゃって」
「感謝してるんですよ、夏希先輩」
「え?」
「ま、今回のヒーローは間違いなく先輩ですからね」
「なに言ってるのよ。佐久間くんだって健二くんだって、ううん、二人がいたから"勝てた"んだよ?!」
外部から見てるなら、「主役」は「キング・カズマ」と「ナツキ」という二人だろう。
特にナツキの覚悟が、強さが、人を動かした。それこそ世界中の。
だが本当にあの戦いで立役者を選ぶなら、一度は犯罪者扱いをされた少年と、そんなことはないと信頼を躊躇わなかった友人である少年。二人なのだ。
ナツキの「覚悟」も「強さ」も。
彼らに背中を押されたから形を持つことが出来たというのに。
「いやいや、夏希先輩の花札の腕っすよ。
勝てる、っていう希望が、皆を動かした」
「俺たちじゃあの時の事件みたいに、今回みたいに"味方"を得ることは出来なかったでしょうね」
「前の時も?」
「そんな感じっすね。
みんなの応援が、合体したきっかけ、みたいにみえたよな?」
「うん。戦う姿って、すごいっすよね。あ、引っかかった」
「え?」
ぽつりと零れた呟きが、画面に現れていた。
古いのだろう。粗いその画面に、だが白い巨人の姿が映る。
「これ、写真?」
「データでははいっこも残ってないみたいだな。
確かに見たのに、誰もが証明できなかったし、証言しなかったから」
「しなかった?」
「黙ってないといけないって、全然理由はわからないんですけどそう思ったんですよねー?なんでだろ。」
「わからないけれど、僕もそうだな。やっぱりヒーローだから?
でも誰か、残したかったんだろうな。あれが幻じゃないって」
これが、私たちの「先輩」になるのかと夏希はその姿を眺め見た。
画面越し、映像越しなのに、強い意志を感じる。ただの「データ」のはずなのに。
ラブマシーンも「生きている」ようだったが、あんな乱暴さはどこにもなかった。
戦っているというのに、全然違う。
ヒーローとは言ったものだ。
「幻じゃない、でも幻のヒーロー、か」
「コレみると、本当だったなーって思うよね」
「あぁ。間違いないな。拝んどく?」
「どうだろ、それ」
「だよなー」
警視庁。取調室。
「陣内侘助さん、今回の事件の"きっかけ"となった方ですね?」
「警察にはみえねぇな。だがおまえさん、みたことあるな。」
「ハジメマシテ。単刀直入で大変申し訳ありませんが、データをいただけますか?」
「何の話だ?」
「10年前、消していなかったんでしょう?
・・・・・・・"クラモン"のデータです」
「・・・・・・・なんの話かわからねぇな」
「そうですか?でも貴方はいたはずだ。あのレインボーブリッジに。
封印に協力したはずだ。ラブマシーンの"ソタイ"は、間違いなく"アレ"です」
「・・・・・・・思い出した。
あそこにいた、携帯を翳せと命じたガキだ」
「覚えていていただいて、光栄ですね」
「ついでに。もう一つ。OZの最高権限アカウントの持ち主の一人だな。Dr.泉」
「・・・・・・・・・・」
「ナツキに吉祥のアイテムを渡したのも、お前さんか?」
「既にあれは、彼らの戦いでしたから。応援したかっただけですよ」
「・・・・・・・で。なんの権限で、お前さんはここに来ているんだ?」
「警察には友人がいまして。ちょっと口利きしてもらいました。
アレが関わっているとなると、僕らは少々……融通がきかないので」
「妙なことを」
「"奴"はどこにいます?」
「探して観るかい?あの、10年前の"ばけもの"たちを使って」
「はぁ・・・やっぱりですか」
「あ?」
「現実化(リアライズ)するデータ。
米国が本当に狙っているのは、量産できる不死身の戦士」
「冷静だな。化け物だろうが、強けりゃいいって国だからな、あそこは。
制御できると、ふざけた常識を確信して持っている。根拠もねぇのにな。
ちなみにラブマもちゃんと使う気だったらしいぜ?そいつらの制御プログラムとして、な」
「制御プログラムすら出来ないからこそ、結果的にこの騒ぎなんですけどね。
冷静なのはこの手のことが珍しくないからなんですよ。申し訳ないんですけれどね」
「一体何者なんだか」
「どういうことですか」
「そのままさ。君は……色々なものを理解しすぎているみたいだ。年の割りにね」
「褒め言葉と受け取っておきます。
あぁその年不相応的アラサーなガキからの忠告ですけれど」
「うん?」
「悪ぶってもあんまり意味はないですよ」
「何を」
「"キング"の一撃の直前、LMの防御力が0になってました。
他にそんなクラッキングをかけることが出来る人はいません。
例のナツキさんに、協力したのはあなたもでしょう?」
「可愛い姪っ子だからな。」
「そうですか」
「それに。」
「・・・・僕は失礼します。これからあなたの研究室に行って、やつを片付けなければならないので」
「やれやれ。真似っこピエロには用がないってか」
「あれをまねできたのは神が如き実力ですよ。単なる担当の問題です」
「やれやれ。じゃぁそんなお前さんにヒントだ」
「え?」
「パスワードは、LMが唯一勝った役」
「なっ」
「いや、単なる偶然だがな」
「ご協力ありがとうございます。失礼します」
「まったく。親に似るってのかね。俺が…ばーさん相手に初めて上がった役だ」
・・・・・・・・・・・・
やべぇええええなにこれ?!なにこの長編カラー?!
っつーか何を考えていたんだ昨夜のオレ?!
でも続かないよ!
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※タイトル変わってますけど内容かわってないよう。
目が覚めたら書いてた。
何番煎じかもわからない、夏戦争×戦争遊戯
オレ、なにがやりたかったんだろう・・・・?
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