真っ赤に海が燃えていた。
誰もが勝利を確信して疑わなかったあの日。
そして、私のもとでついに天が一つにまとまるはずだったあの日。
私たちは、天の前に敗れ去ったのだ。
そのこと自体、誰かを恨むわけがない。
もし、仮に許せないとしたら一人、ただ一人だけ。
そう、私を愛してくれていたあの子たちに報いることの出来なかった私自身。
ああ、一人の巫女に導かれ私たちは大海へと漕ぎ出す。
……ヤマト、私たちの新しい外史が今始まる。
真恋姫†無双呉√アフター~新たな外史をつむぐもの~
春蘭編~わが剣は主のために~
船は今大修理の真っ最中であった。
赤壁の戦いに負け、華琳こと曹操の率いる魏軍は、とある漢女の力によって命からがらも長江を抜けることに成功。
さらにこの大陸から逃れるため大海へと漕ぎ出すことを決意。
また漢女からの要請もあり、大陸よりも東にあるというヤマトを目指すことにしたのだ。
もちろん、この場に着いてきたものでも、故郷を離れることを嫌がったものはその場で故郷へと返した。
それは華琳に今出来る最低限のことだった。
もう、華琳には残されていないのだ。『彼女達』以外には、何も。
今までのことを振り返り、省みる。
これから自分の足となる船を見つめながら。
(この国で覇を唱えられなかったのは、民よりも将を愛してしまったから)
華琳はそう感じていた。
いや、行動が物語っていた。
もう都へ帰ることはままならなかった。後は彼女たちが上手くやっていくだろう。
同じ夢を追った同志として。
赤壁の戦いから一月。
彼女達は国を捨てた。
あるのは一つ、曹の牙門旗。
もう魏を名乗ることもない。
華琳は人知れず思った。
(ああ、そうか。私は負けたのだ)
涙の流し方を忘れた一人の覇王は、これから旅立つ海へと目を向けていた。
その目はもう少女のものに代わることはないのだろうか?
答えは誰も知らない。
「ねぇ、春蘭」
「何だ桂花、こんなとこまで来て、薄気味悪い」
「あんたねー! 人がちょっと頑張ってって……まぁ、いいわ。それにしてもいいの、こんなとこにいて」
春蘭はいま、木材を切り出すために山に入っていた。
途中で狩った猪は今、ついてきた季衣に運ばせている。
これは軍師たちの指示だったはずだ。
春蘭からすれば、それを指示しさらに頭脳労働担当の桂花がわざわざこんなとこまで来たことがむしろ疑問だった。
「こんなとこにって、それはお前達が言ったからであろう? それとも他に仕事があるのか?」
「いえ、ないんだけれど」
「ならいいではないか」
春蘭の受け答えに、なにやら釈然としないのか、桂花が口火を切った。
「単刀直入にいうけど、あなた辛くないの?」
「辛い? 何がだ?」
「私たちが、……」
桂花が言いたくなさそうに、唇をゆがめる。
「……負けたことよ」
「ああ、そのことか。……どうでもよかろう、今となっては」
春蘭は目を瞑り七星餓狼の代わりにの獲物を持ち、彼女の身体の倍以上はあるだろうという気に狙いを定めた。
「なっ!」
「お前達軍師は頭が固すぎるのだ、特に桂花、お前はな」
呼吸を合わせ、軽く桂花に応える。
「あんたみたいな脳筋に言われたくないわよ!」
「ふん、いつもより悪口の切れが落ちるな」
春蘭は黙々と代用品である真桜特製の斧を振るう。
信じられないことに一撃で木が倒れ、ずしんと地面をならした。
ため息とともに、空を見上げる春蘭。既に陽が暮れかかっていた。
「なぁ、桂花。お前はどうしてここに残った?」
「そんなの決まっているじゃない! 華琳様のいる所に私がいないでどうするのよ!」
「なら、戦に勝とうと負けようとどうでもいいことじゃないのか? 私はそう思うぞ」
「……でも!」
春蘭とてわかっていた。自分と同じく主を愛するがこそ、捧げるべきは最大の喜び。
そんなことは当にわかっていた。
それが中原の統一でないわけはなかった。
だからこそ桂花が悔しがるのもわかるのだ。
それでも認めなければならないこともある。
「くどいぞ! 荀文若!」
激しい怒気が春蘭が発せられた。
「我々は負けた。だから華琳様は兵を帰した。魏の民を漢の民へと帰したのだ。そして今ここに残ったのは私たちだけだ。それは」
一旦、呼吸をおく。これからいうことは確認作業だといわんばかりに。
「私たちが魏に残ったわけじゃないからだ、華琳様に残ったからだ。違うのか?」
沈黙が訪れた。誰もが、口にしたくなかった言葉。
敗北。
それを春蘭は魏の頭脳である桂花よりも早く悟っていた。
魏の武であるがゆえに。
最初に理解したのだ。自分はもう振られないのだと。
剣は、折れない限り持ち主の傍にあるだろう。
だが、折れない剣は、ただの剣だ。
使う主に使う意思がなければただの剣なのだ。
本能で春蘭はそのことを理解していた。
今、戦えるときではない。
(華琳様があんな目をされることなど滅多にない。この穴は私や秋蘭、桂花にだって埋められはしないのだ。紛れることはあっても)
新しい門出が必要。それまでは、雌伏のときと春蘭は思っていた。
それが今の華琳にしてやれることだと、流せぬ涙を感じながら。
二人の上にはいつの間にか月が輝いていた。
桂花編へ
あとがき
はい、萌将伝発売されてから初めての投稿となります。
次世代編を楽しみにしていた方はしばらくお待ちください。
微調整した後、すぐに投稿しますので。
それでですね、せっかくコンテストも始まりましたし、コンテストようの作品もやっていこうかなと思ってます。
ええ、もちろんゲームもやりながらが望ましいのですが、正直難しそうなので、ゲームは落ち着いたらやる感じで。
で、今回初めての投稿となります。
呉アフター魏√編いかがでしたでしょうか?
個人的には少し薄味になってしまいましたが、とりあえず、イントロっぽく始めるために、少し成長した、いや一刀が魏にいないために成長せざるを得なかった雰囲気で、春蘭を描かせていただきました。
ちょっと桂花が憐れですね。
……いや、ちゃんとキャラクターは壊さないように頑張りますので、桂花ファンの方許してください。
で、不定期にやっていくことが決まったのですが、話の流れがどうも自分の筆の進みが短編が嫌いらしく、長編になりそうです。
ともかく第一部は邪馬台国編です。
第二部は……秘密なのだ。
ということはあの人が第一部で出てくるわけですが、まぁ上手く付き合いたいと思います。
なんか、ぼかしまくってよくわからないかもしれませんが、この下手な文章を気に入ってくれれば幸いです。
それでは、またお逢いしましょう。
ごきげんよう!
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お待たせいたしました。
待ってないかな?
とりあえず、作りましたよ。
こんな感じで話がすすんでいきます。
ぶっちゃけ、短いですが、プロローグなんで許してください。
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