真・恋姫無双アナザーストーリー
雪蓮√ 今傍に行きます 第14.2話
【素直になれない生徒会長?】
「一刀?なにこの報告書はもう少しまともに書けないのかしら?」
報告書をヒラヒラと振り一刀に抗議する。
「そんな事言ったって初めて書くんだから仕方ないだろ?」
「言い訳は聞きたくないわ。起用した私を失望させないでくれるかしら?」
目を細めると何人かの役員が体を震わせたけど私は気にしないで一刀を見る。
「今日中に再提出しなさい。判ったわね」
「了解。でも、余り期待しないでくれよ?報告書なんて書いたこと無いんだから」
「私も似たようなものよ。ここに居る皆もね。だから弱音なんて認めないわよ?」
「ああ、判ってるさ。琳に認めてもらえるように頑張るさ」
一刀は微笑自分の持ち場へと戻っていく。
っ!ちょっと、何気軽に隣の女子に話しかけているのよ。
一刀は報告書の書き方を隣の書記に聞いているだけなのだろうが、書記である彼女は顔を赤らめて説明をしていた。
「あ、あの会長……」
「なに?」
「そ、その……」
いけないいけない、少しイラついているところを見せてしまったわね。
自分を落ち着かせる為に深く深呼吸をして、
「なにかしら?もう出来てしまったの?」
彼女に対して笑顔で答える。
「は、はい。これでいいのかご確認いただけないでしょうか?」
「ええ、見させてもらうわ。今日はこれで終わりかしら?なら帰っても構わないわよ」
「いえ、修正があるかもしれませんから、それまで待っています」
「そう、わかったわ。では、今すぐ見させてもらうわ」
「はい、よろしくお願いいたします」
お辞儀をして自分に割り当てられた席に戻っていく。
私好みに可愛い子だわ、従順で今すぐ食べてしまいたいくらい。
彼女を見て思わず舌なめずりをしてしまう。
おっと、いけないわ。まずは自分のやるべきことを終わらせてしまいましょう。
彼女から受け取った予算案に目を通す。
「……」
うん、問題なさそうね。あとはどれだけ予算を抑えていけるかと言ったところだけど。
「瞳」
「は、はい!」
「これで問題ないわ。贅沢を言えばもう少し押えて欲しいところかしら」
「わかりました。もう少し練ってみようと思います」
「ええ、お願いするわね。今日のところはこれでいいから明日、もう一度見せて頂戴」
「はい。それでは本日はこれで失礼します」
「ええ、気をつけて帰りなさい」
「はい」
パタパタと歩き扉に行くかと思えば一刀の前に来て頭を下げていた。
「うん、お疲れ様。気をつけて帰るんだよ?」
「はいっ!」
瞳は頬を赤らめて満面の笑みで答えていた。
まったく、その笑顔がどれほど私たちを魅了しているのかわかっているのかしら?
一刀を見ながら溜め息をつく。
まったく、こんなプレゼントまでしておいてあれからまったく何も無いのだから。
自分の耳に着けているイヤリングを指で玩ぶ。
そう、これを貰ったのは……
「ふぅ、これくらいでいいかしらね」
椅子に座りノートパソコンに向かっていた頭を上げ、伸びをする。
「ふふふ、やっと私の思い通りに進めるために計画が実行に移せるわ」
カレンダーを見てニヤリと笑う。
「これからが大変ね。まずは、人を集めなくては……」
何人か候補の人間は既にピックアップしている。
だが、残り人枠だけが見つからないで居た。
「ふぅ……どうしたものかしらね」
ノートパソコンを閉じて横に置いて置いたマグカップを手に取り一口すする。
「はぁ、少し冷めてしまったわね。入れなおそうかしら」
マグカップの中のコーヒーをじっと見つめポツリと呟いた。
「やっぱり一刀かしら」
うん、妥当なところね。
「んっ……」
残りのコーヒーを飲みきる。
これで人選は決まったわ。あとは協力を仰ぐだけ。
「ふふふ、さて、私を満足させてくれる結果になるかしらね」
笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、窓辺に近づき夜景を見下ろす。
「この夜景も最初は詰まらない物だったけど今はそうでも無くなったわね」
いいのか悪いのか、全ては北郷一刀がもたらした結果という所がなんとも言えないわね。
あいつは、私と事をどう思っているのかしら
「……馬鹿馬鹿しい、今はどうでもいいことよ」
頭を振り考える事を止めようとするが、
「……やっぱり雪蓮の事が好きなのかしら」
あの二人は本当に仲がいい。むしろ良すぎるくらいだ。
一刀に一度聞いてみたが、
『そんな事ないよ。きっと雪蓮も同じ考えじゃないかな?』
なんて言ってたけど、あいつは色恋事には鈍い、鈍すぎる。
その癖、落ち込んでいたりすると直ぐに気づいて心配そうに話しかけてくる。
「まったく、鈍いんだか鈍くないんだかはっきりして欲しいものね」
呆れながらも、そんな一刀のことが好きになっている自分自身に苦笑いを浮かべる。
「はぁ、それより一刀は覚えているのかしらね。私の誕生日」
そう、教えた理由は忘れてしまってはいたが確かに一刀に私の誕生日を教えた。
「それにしてもどんな理由で教えたのだったかしら?そこの所の記憶だけが曖昧なのよね」
思い出そうとするのだけれど靄が掛かったように思い出す事が出来ないのよね。
「はぁ、判らないものを考えても仕方が無いわね。そろそろ寝ましょうか」
時計を見ると23時を回っていた。
カップを洗い、軽く明日の弁当の下準備をしておく。
「これでいいわね」
下準備を終わらせて時計を見ると24時を回ろうとしていた。
「いけないわ。早く寝てしまわないと」
急ぎキッチンを片付け、ベットへと向かう。
「ふぁぁぁ……」
ベットに潜り込むと直ぐに睡魔が襲ってきた。
「おやすみなさい……かず、と……」
いとしい人の名前を呼び眠りに付いた。
「一刀、いいところに居たわ」
目の前を一人で歩いている一刀を見つけ声を掛けた。
「ん?琳か、おはよう」
「ええ、おはよう。所で一刀、昼は時間空いているかしら?」
「え?空いてると言えば空いてるけどなんでだ?」
「用があるからに決まっているじゃない。昼になったら直ぐに私のクラスに来なさい。いいわね」
「あ、うん。わかった」
「ふふふ♪」
なぜ呼ばれたのか判らないって顔がとても可愛らしくて思わず微笑んでしまった。
「な、なに?」
「なんでもないわ。それじゃ行くわよ。一刀」
「まってくれよ琳!」
慌てて私の横に来る一刀。
「なあ、俺何かしたのか?」
「別に何もしてないわよ」
どうやら一刀は何かをしでかしてしまったのではないかと思い込んでいるようね。
「ただ、話があるだけよ」
「今ここじゃダメなのか?」
「ええ、ダメよ」
「教えてくれよ」
「だぁめ。しつこい男は嫌われるわよ一刀」
「うぅ……」
ようやく諦めた一刀だったけど、少し苛めすぎたかしら?
「か「あっ!、一刀さんと琳さんだ!」……」
一刀に話しかけようとして後ろから聞き覚えのあるののほ~んとした声が聞こえてきた。
(パタパタパタッ!)
「えい♪」
「うぉ?!だ、だれだ?」
「えへへ♪誰でしょう~」
「と、桃香、か?」
「うん、おはよう一刀さん!」
「あ、ああ。おはよう桃香」
「琳さんもおはよう」
「ええ、おはよう桃香」
桃香は後ろから一刀に抱きつき、その勢いのせいで一刀は前に倒れこみそうなところを踏みとどまっていた。
ちょっと、なに顔を赤くしているのよ一刀は!
良く見ると一刀の背中に桃香の豊満な胸が押し当てられていた。
そう、そういうこと……フフフ、一刀私の前でいい度胸ね。
「と、桃香降りてくれるかな?」
「え~、それじゃ腕組んでくれたらいいですよ♪」
「ええ?!」
なに驚いているのよ。後ろから抱き付かれるよりましでしょうに。
だが、この後の桃香の行動は私の考えを遥かに超えたものだった。
「わ、わかった!わかったから。背中で暴れないでくれ!」
「わ~い!それじゃ、一刀さん♪」
桃香は一刀の背中か下りてうれしそうに一刀が腕を出してくるのを待っていた。
一刀は恥ずかしそうにしていたけど何を恥ずかしがっているのかしら?
いつも雪蓮に抱き付かれているくせに。
だが、その理由はすぐにわかった。
「と、桃香近すぎだよ」
「え~、そんな事ないですよ。もっと近づきたいくらいです」
(むにゅ)
「っ?!」
なるほど、そう言う事ね……フ、フフフ……いい度胸ね一刀!
「ねえねえ、一刀さん!今日お昼一緒に食べましょ?」
「っ?!」
まずい!一刀なら頷きかねない!
「なら「だめよ。今日の昼は私に付き合ってもらうのだから」……」
「そんなぁ、なら皆で食べましょうよ。皆で食べた方が美味しいですよ!」
くっ、中々食い下がってくるじゃない。
「それでもダメよ。また今度になさい」
「うぅ~……一刀さ~ん……」
「ぅ……」
今度は一刀に助けを求めたわね。
「な、なあ、琳。昼くらいいいんじゃないか?」
「それでもダメよ。それに一刀、桃香を甘やかしすぎよ。桃香の為にならないわ」
とにかく今日だけは二人っきりにならなければならないのよ。あとはどうとでもなるわ。
「ごめんな、桃香。また明日一緒に食べような」
「うん、それじゃ我慢するね……その代わりに学園まで抱きついちゃうんだから!えいっ♪」
「うぉ?!」
「なっ?!」
「んふふ~♪一刀さん、いい匂いがする~♪」
「は、離れなさい桃香!」
「いくら琳さんのお願いでもそれは聞けないですよ。それにお昼は一刀さんを独り占めするんだからいいじゃないですか」
くっ!言い返せない。この子、段々と悪知恵が付いてきてるんじゃないでしょうね?
「おはようございま……何を朝からなさっているのですか、一刀さま、桃香さま」
途中で合流した愛紗は一刀に抱きつく桃香を見て目をすわらせて睨みつけていた。
「あ、愛紗ちゃんだ!おはよう!ほらほら、愛紗ちゃんもこっちに来て!」
今の流れを無視するかしら普通?
「な、なんですか桃香さま」
「こうして、こうしてっと!それで私はこっち♪」
「ちょ!と、桃香さま?!これは一体どういうことですか?」
一刀を中心に桃香と愛紗に腕を組まれる恰好になった一刀。
「これはどういうことですか?」
愛紗は現状がわからず途惑っていたが一刀の腕を放そうとはしていなかった。
「それがね……」
桃香ことの次第を一刀を挟んで愛紗に伝えていた。
……そんなことより、近づきすぎよ。もっと離れなさい!
「なるほど、そうでしたか。では、このまま学園に向かいましょう」
「なっ!あ、あなたたちねぇ!」
「いいではありませんか。琳殿、お昼は二人きりなのでしょ?」
「ぐっ!」
「ふふふ」
愛紗はしてやったり、と目を細めて私を見ていた。
「ふんっ!勝手になさい!一刀、お昼になったら私のクラスにくるのよ。いいわね!」
「は、はい!」
そのまま一刀たちを置いて先に歩き出す。
「なによ、一刀のバカ……」
目線を下げ、自分の胸を見る。
「はぁ……」
私だってもう少し成長すれば胸くらい……
「やめよ。やめやめ、無いものを欲したところで仕方ないもの」
でも、やっぱり一刀は胸が大きい方がいいのかしら?そ、その触り心地とか……
「そんなことないわ。一刀は胸だけで判断するような男ではないはずよ」
でも……
一人ブツブツと歩いていく私は同じやり取りを学園に着くまで繰り返していた。
(キーンコーンカーンコーンッ!)
「やっと昼ね」
昼を告げるチャイムが鳴り一刀が来るのを待つ。
「おーい琳、来たぞ」
入り口で手を振りながら私を呼ぶ一刀を見つけ弁当を持って近づく。
「大声出さなくても聞こえてるわよ。さぁ、行くわよ」
「行くって何処に?」
「屋上よ」
「屋上?」
「ええ。着いて来なさい」
「ああ」
言われるまま一刀は私の後を着いて来る。
さて、どういう反応を示すか楽しみだわ♪
屋上に行くと三人の女子生徒が待っていた。
「紹介するわ。彼女は……」
「は、始めまして。一年の加藤 瞳といいます。よ、よろしくお願いします!」
「同じく一年の七瀬 由香です。一年間よろしくお願いします」
「……」
「……起きなさい悠」
「おおっ!暖かな秋のお日様の光でつい寝てしまいましたー。同じく一年の水樹 悠です。よろしくお願いします先輩」
三人に挨拶をさせると一刀は状況がわからず戸惑っていた。
ふふふ。この後、私の一言でどうなるかさらに楽しみだわ。
「一刀」
「え、あ、なに?」
「呆けてないで自分も自己紹介なさい」
「あ、ああ。俺は二年の北郷 一刀だ。皆これからよろしくな」
一刀の笑顔にやはりと言うか全員の頬が赤く染まってるわね。
「それで琳。彼女たちは一体?」
「それをこれからあなたに説明するのよ。彼女たちには既に説明して了解を得ているわ」
「??」
「一刀、私は……」
言葉を止め、一刀を見る。
相変わらず冴えない顔で見ているがそれが一刀のいいところでもある。
その顔を今から驚きの顔に変えてあげるわ。
笑顔で一刀に向かって、
「生徒会長に立候補するわよ」
「……え?り、琳?今なんて?」
ふふふ。驚いてるわね。
「あら、聞こえなかったのかしら?生徒会長に立候補するといったのよ」
「……え、ええ?!マジで?!」
「ええ」
一刀の驚き方に満足して話を進める。
「彼女たちはその役員よ」
「瞳は会計」
「は、はい!が、がんばります!」
「由香は書記」
「期待に応えて見せます」
「悠は副会長よ」
「いつの間にか任命されていましたー」
「そして、あなたは風紀委員よ、一刀」
「ええ?!お、俺が?!」
「他にも役委員に目星はつけているけれど、今のところこの五人よ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺、部活もしてるんだぞ。役委員なんて……」
「あら、殆どサボっているくせに良くそんな事がいえるわね、一刀?」
「う゛っ」
「それに安心なさい。不動には許可を取ってあるわ。『部活に来ない時は扱き使ってよいでござる』だ、そうよ」
「うう゛っ」
「拒否は許さないわよ」
「はぁ、わかった。やればいいんだな」
「ええ。素直な子は嫌いじゃないわ」
「そりゃどうも」
一刀は苦笑いを浮かべて頬をかいていた。
「さて、それじゃお昼にしましょう。あなたたちもここで摂っていいわよ」
「あ、あの俺直ぐに来いって言われたからお昼無いんですが?」
「あら、それは私のせいといいたいのかしら?」
「そういうわけじゃないけどさ」
「仕方ないわね。私のお弁当を分けてあげるわ」
「え、いいのか?」
「かまわないわよ。今日はたまたま作りすぎてしまっただけなんだから。感謝なさい」
ぶっきらぼうに一刀に手渡す。
「ありがとう琳」
「味わって食べなさい。私の手料理なんて早々食べられないわよ」
あくまでついで。絶対、一刀の為になんて言わないんだから。
「旨そうだな。それじゃ、早速。頂きます。はぐっ!もぐもぐ……」
「……」
私が作った弁当を一刀が食べているところを横目で見る。
どうなのよ。美味しくないなんていったら承知しないんだから。
「うん、すごくおいしいよ琳。サンキューな!」
「あ、当たり前よ。私が作ったのだから美味しいに決まっているじゃない」
「そうだよな。琳の料理は美味しいからな」
私は一刀がおいしそうに弁当を食べてくれたことにほっとした。
「それにしてもさ、なんで生徒会長なんかに立候補したんだ?」
「簡単なことよ。同年代の無能なやつの下に居たくなかっただけよ」
「ははは、琳らしいな」
「とくに、桃香にはなってもらいたくは無いわね」
「なんでだ?」
「あの娘ことだから、どうせ『皆で仲良く学校生活をおくりましょー』なんて事を言うに決まっているわ」
「それでもいいと思うけどな」
「ダメね。必要なのは秩序よ。私に従うのなら、何もしないけれど。もし、背いたらそれなりの罰則を受けてもらうわ」
「う~ん……そうかもしれないけど……」
一刀は納得してないのか腕を組んで唸っていた。
「もっとさ、気楽に考えたらどうだ?それじゃ反感が増えるだけのようにも感じるぞ」
「考えておくわ。とりあえずの目標は就任することよ」
「そうだな。それでいつ投票日なんだ?」
「来週の金曜日よ」
「来週……」
「?なにか来週に予定でもあるのかしら?」
「いや、なんでもないよ」
「……そう」
来週の金曜日……投票日であると同時に私の誕生日。
どうやら一刀は覚えていてくれたようね。
そのことにうれしさを感じて頬が赤くなる。
「由香さんその唐揚げおいしそうですね」
「そうですか?お一つ如何ですか瞳さん」
「いいんですか?では、私のもお一つどうぞ」
「……(zzzZZZ)」
横では三人?仲良く雑談をして弁当を食べていた。
「ところでさ琳」
「なにかしら?」
「俺は何か手伝った方がいいのか?」
「そうね……」
顎に指を当てて考えてみる。
一刀にも付き添わせるか……いや、一刀が居る事で票が集まったらそれは私の実力ではなく一刀の実力になってしまうわ……
「一刀は何もしなくていいわ。一刀には当選した後、たっぷりと働いてもらうつもりだから♪」
「うん、わかったよ。それじゃ頑張れよ琳。みんなも琳の事よろしくい頼むな」
「は、はい!」
「お任せください」
「はいなのですー」
……協力はありがたいのだけれど、またライバルを増やしてしまったかしら?
そう思ったが実際の問題。この学園は元が女子高だった為に男子が著しく少ない。
その男子も対した能力を持ってないときている。
まあ、もともと一刀以外、男子を選ぶつもりはまったく無いのだけれどね。
「さあ、そろそろお昼が終わるわ。戻るわよ」
「そうだな。そろそろ戻るか。あ、お弁当ありがとうな琳。凄く美味しかったよ」
「お粗末様。でも、もう作る事はないでしょうね」
「それは残念だな。あんなに美味しいのもう食べられないのか~」
一刀は本当に残念そうにうな垂れた。
そ、そんなに食べたいのかしら。私の料理?
「な、なら……たまになら作ってきてあげてもいいわよ?」
「本当か?!」
「ええ、勿論、委員の仕事をちゃんとやってくれるのであれば考えてあげるわ」
「わかった!よ~し、なんかやる気が出てきたぞ。風紀委員がんばるか!」
ここまで喜んでくれるとは思わなかったけどやる気を出してくれた事はなによりかしら?
まあ、一刀なら言われた事は最後までやり通してくれるでしょうから、そこらへんは心配していない。
ただ、偶に無理を通している事があるから、そこら辺は私が見極めないといけないわね。
「ふぅ……」
前を歩く一刀を見て溜め息をつく。
まったく、世話がやけるのだから。
こうして、一刀に三人の顔見せや、一刀に弁当を渡す目的は全て完了し、昼も終わりに近づき、この場は解散した。
「一刀……は、居ないみたいね。何処に居たのかしら」
まったく、用があるときに限って居ないのだから。
首輪でも付けておこうかしら?
「琳殿ではないですか。一刀さまなら部活に行くといって先に出て行かれましたよ」
「そう、なら部室の方へ行ってみるわ。ありがとう」
「あ、琳殿!」
礼を言って部室へ行こうとした所、愛紗に呼び止められた。
「何かしら?」
「一刀さまから聞いたのですが生徒会長になると伺ったのですが本当なのですか?」
「ええ」
「で、では、一刀さまも役員になるというのは……」
やはり来たわね愛紗……
「本当の事よ」
「ぶ、部活はどうするのですか!役員など無理です!」
「あら、不動からは許可は得ているわよ?部活に出ないときはこき使ってくれってね。それとも、一部員でしかないあなたに許可を取らないといけないのかしら?」
「くっ……」
「ふふふ。話はそれだけかしら?一刀と今後の事について話さなければいけないから行くわよ」
「っ!な、なら、部活に出るときはそちらには行かないということですね」
「そういうことね」
「わかりました……必ず、毎日部活に出させて見せます!」
「あらあら、一刀も可哀想ね。出たくも無い部活に無理やり出させるなんて」
「そんなことはない。一刀さまは自ら部活に入られたのだ。それくらいなんとも無い……はず」
「はず、ね……そう言うことにしておきましょうか。まあ、今日は盗ったりしないから安心なさい。話だけよ」
「……」
愛紗に見つめられるのは嬉しいのだけれど、そう敵意丸出しではね。
「あら、信用できないって目ね。なら、あなたも付いてくればいいのではなくて?」
「……言われずとも」
「ふふふ……」
無言で後ろを着いて来る愛紗におかしくなり微笑む。
「何がおかしいのですか?」
「対したことではないわ」
「そう、ですか……」
愛紗は訝しげに見ていたが諦めたのか何も言ってこなかった。
まったく、可愛らしいわね。食べてしまいたいわ。
「っ~~~?!」
舌なめずりをした所で愛紗が身震いをして辺りを見回していた。
……中々勘は鋭いようね。これは一筋縄ではいかないかしら?
「一刀っ!」
「はっ!はっ!……ん?琳か、どうした?」
「……」
「琳?」
「……っ!」
一刀の練習姿に見惚れてしまったわ。
「どうしたんだ?」
「用があってきたのよ。今平気かしら?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
汗を拭きながら不動の元へ行く一刀を目で追う。
「……はっ!」
しまった。私としたことがまた一刀に見惚れてしまった。
「琳殿?如何なさいましたか?」
「な、なんでもないわ……ねえ、愛紗」
「はい?」
「一刀は部活をしている時はいつもああなの?」
「ああとは?」
「だ、だから、その……あ、あんなに……なの?」
「は?すいません。聞こえなかったのですが」
「だ、だから……いつもあんなに激しいの?」
「え?……ああ、そうですね。普段は怠けているのですがやる時はいつも真剣に取り組んでいますね」
そう言うと思い出しているのか遠い目をして愛紗はうっとりとした。
なるほど……部活に励ませるのもいいわね。偶には私も見に来ようかしら?
「……ふふふ♪」
さっきまで練習していた一刀を思い浮かべて微笑む。
「琳、お待たせ」
「っ?!え、ええ。それじゃちょっと一刀を借りるわよ」
「それじゃ、愛紗ちょっと行って来るね」
「いいえ、私も着いて行きます」
「え、でも……」
一刀は困った顔で私を見てくる。
「別にいいのよ。愛紗は私に一刀が盗られるのが心配なのよ」
「なっ?!」
「あら、違ったかしら?」
「ち、違っ!くはないが……」
「ふふふ、そう言うことだから別にかまわないのよ」
「あ、ああ。わかったよ」
{っ~~~」
戸惑う一刀と照れる愛紗を見て満足になる。
「さ、時間も余り無いわ。さっさと用件を済まさせてもらおうかしら」
その後、一刀には選挙活動には参加させないとこを伝え、就任後の活動の内容を手短に話した。
だが、そんな私の考えに大きな障害が現れた。
それは……
「みなさ~ん!私、頑張りますから一票をおねがいしま~す♪」
「なっ!」
翌朝、学園に着くとそこには信じられない光景が広がっていた。
「あ、琳さ~ん!おはようございます!」
桃香は笑顔で手を振っていたが其れ処ではなかった。
「桃香!これはどういうこと!」
「はい!私も立候補してみようと思って!」
「私もって……まさか、愛紗から聞いたのかしら?」
「はい!愛紗ちゃんから聞きましたよ。琳さんも立候補してるんですよね」
「はぁ……」
口止めするのを忘れていたわ……
愛紗から聞いたと言う事は、まさか……っ!
「桃香、一つ聞きたいのだけれど」
「はい、なんですか?」
「まさかと思うのだけど、一刀も?」
「はい!一刀さんには副会長をしてもらおうかなって思ってます」
やっぱり……
「だめよ、一刀は私が先に風紀委員としてスカウトしたのだから、桃香は諦めてくれるかしら?」
「そんな~、酷いですよ琳さん」
「酷いも何も先に一刀に話をしたのよ?桃香の方がずるいのではなくて?」
「そ、そんなことないですよ」
軽く睨みつけると桃香は怯えたように首を窄めた。
「あっ!そうですよ!一刀さんには当選した方についてもらえばいいんですよ!」
「なっ!あなたねえ!」
「うん、いいアイディアですよね。そう思いませんか琳さん!」
「いいアイディアって……」
ああ、頭が痛くなってきたわ。
「はぁ、取り合えず桃香は諦めるつもりは無いのね」
「はい。ありません」
「キッパリというのね、わかったわ。私もなりふり構ってられないということね。手加減しないわよ」
「わたしだって。絶対当選して見せますよ!」
そのまま、桃香に背を向けて校舎へと歩き出す。
一刀の名前は出さない予定だったけど桃香が大々的に言っては確実に票は桃香に傾く。
「こちらも一刀の名前を出さないといけないとはね。余計なことをしてくれたものね、愛紗も」
それでも張り合う相手が居なくて、このままじゃ面白味に掛けていたし丁度いいのかもしれないわね。
状況は五分と五分、あとは内容で攻めるしかない。
「見てなさい桃香。私の実力を……」
その後の私達の主張はどちらも相反するものだった。
「私は、皆が笑顔で居られる学園生活にしていきたいと思っています!だから、皆さんのお力を貸して下さい!よろしく願いします」
相変わらずの理想主義だこと。でも、それだけで世の中やっていけ無いって事をわかってないのかしら。
今は、全校生徒の前での立候補者の演説中、私と桃香の他にも立候補者は居るが正直、話にならないお粗末なものだった。
「それにしても……」
桃香の演説には必ずと言っていいほど、笑顔で、楽しく、仲良くという言葉が入っている。
「世の中、それだけではやっていけないのよ。誰かが道を示さないとね」
「えっと……以上で私の主張は終わります。ありがとうございました!」
お辞儀をして戻ってくる桃香、だけど……
「きゃん!……いった~い!」
「……なんで、何も無いところでこけられるのかしらね。あの娘は」
溜息を吐きながら立ち上がり桃香の前に立つ。
「ほら、早く起きなさい」
「あ、琳さん。ありがとうございます」
「まったく、何も無いところでこけるなんてあなただけよ」
「えへへ、それほどでも」
「褒めてないのだけれどね……まあいいわ、あなたは座って見ていなさい。私の発言をね」
桃香の横をすり抜け全校生徒の前に立つ。
「……すぅ、はぁ」
深呼吸をして目の前を見渡す。
一刀……
見回しある一点に目を向けるとそこには一刀が居た。
一刀は微笑みながら何かを喋っていた。
ふふ、私に『頑張れ』ですって?まったく、一刀は私の事何も分かってないのね。でも、取りあえずはそのことは受け取っておきましょうか。
「……私についてきなさい。そうすればなに不自由なく学園生活を送らせてあげるわ」
(どよどよ、がやがや)
私の発言に生徒達がどよめく。
「静かになさい。私に逆らったりしたらそれ相応の罰を受けてもらうわ。ただし、従ってさえ居れば何をやってもかまわないわ」
横を見ると何人かの教師が止めに入ろうとしていたが、筋肉ダルマ……理事長がそれをなだめていた。
「っ~~~?!」
筋肉ダルマが私を見てウィンクをして背中に寒気が走り身震いをしてしまった。
まったく、なんであんなのが理事長なのよ。美しくないわ……
気を取り直して前を見る。
「まず、この学園は元は女子高だった。だが、去年から共学になり男子生徒も入ってくるようになった。それはすばらしいことよ」
「しかし、その男子生徒の中にはよからぬ事を何が得ている者たちが居る!実際、私はその女子の被害も聞いたわ。まったく、これだから男は……失敬」
私としたことが思わず本音が出てしまったわ。
「そこで私は休みの時間の度に教室、廊下などを巡回させるつもりで居るわ」
(なんだって!)
(横暴だ!)
生徒の中から非難の声が聞こえてくるが無視をする。
「もちろん、巡回に当たるのは私の信頼における人物よ」
そこで一刀を見て目を細めてニヤリと笑う。
(っ!?)
一刀は驚き目を見開いていた。
「さて、他にも色々といいたことはあるけれど。これで締めくくるわ……」
「私に一票を入れなさい。そして、生徒会長になったら意見がある者は私のところに来なさい。ただ、それ相応の理由が無い限り私達は動かないわよ」
(……)
もう一度生徒達を見回しその場から離れ椅子に座った。
『え~、これで生徒会立候補者の演説を終わります。投票は三日後の金曜日に行い即日開票を予定しています。それでは解散します』
後ろのほうからどんどん講堂から出て行く中、一刀は一度微笑みかけてから生徒の波に流されて講堂から出て行った。
「さて、どう転ぶか楽しみね……ふふふ♪」
三日後……
この日は午前中が全て投票時間に充てられていて一年から順番に投票会場へと移動していった。
そして、関係者は一箇所に集められ不正の無いように教師が扉の前に付いていた。
「誰が当選するんですかね。琳さん」
「そんなの終わってみないと分からないでしょ?」
「そうだけど、やっぱり気になりますよ~」
「どちらにしろ投票結果は放課後の発表よ。それまでは気楽に居なさい。それに……」
「それに?」
「きっと、私か桃香が競い合う結果になるでしょうからね」
「ええ?!そうなんですか?何で分かるんですか」
「……あなた、他の人の演説聞いてなかったの?」
「ええ?!き、聞いてましたよ?ホント、寝てませんよ!」
……寝ていたのね、この娘は。
「はぁ、わかったわ。そう言うことにしておきましょう」
「ほ、本当ですよ。寝てませんから!」
「はいはい」
『あと五分で投票を終了させて頂きます。投票されていない方はお急ぎください』
「そろそろ時間ね」
開票は教師が昼休みの間に行うことになっている。
生徒による不正を防ぐためだ。
その教師を見張る役目が理事長らしいけど役に立つのかしら……
(なによん、私だってやる時はやるんだから。どぅふ♪)
「……ひっ!」
「?どうしたんですか琳さん?」
「な、なんでもないわ……」
想像の中でも迫られると鳥肌が立つわ。
頭の中から理事長を追いやり気持ちを切り替えるために深呼吸をした。
「ふぅ、時間ね」
立ち上がったと同時にスピーカーから、
『ただいまをもちまして、投票を終了させて頂きます』
「さ、桃香、お昼を食べに行くわよ」
「はい!一刀さんと愛紗ちゃん、それに雪蓮さんも誘って皆で食べましょ♪」
「わかったわ。それじゃ、私が一刀と愛紗を呼んでくるから、あなたは雪蓮をお願いね」
「はい!」
元気良く返事をして扉に向かい走り出した桃香だったが……
「きゃん!……いた~い!」
「……学習能力は無いのあなたは……」
もう、呆れるしかないわね。
それでも微笑んでしまうのは桃香のいいところなのだけれどね。
桃香を立たせ一刀が居る教室へと向かった。
「一刀は居るかしら?」
「え?あ、は、はい!」
入り口近くに居た女子に訪ねると慌てて 立ち上がり一刀の元へと駆けて行った。
「呼んできました!直ぐに来ると思います」
「ありがとう。すまなかったわね」
「いえ……あ、あの琳さんですよね?」
「ええ、そうだけど?」
「当選してるといいですね!がんばってください!」
「ええ、ありがとう」
笑顔で答えると顔を赤らめて席に戻っていった。
「やあ、琳。演説凄かったね」
「当たり前よ。あれ位出来なければ生徒会長なんて務まらないわよ」
「ははは、琳らしいな」
「私らしいってどういうことよ」
少し不機嫌そうに言うと一刀は慌てて訂正してきた。
「わ、悪い意味じゃないぞ。琳らしくていいなって意味で!」
「ふふふ、判ってるわよ。そこまで慌てなくてもいいのよ」
「はぁ、ならそう睨まないでくれよ?ただでさえ琳の顔は整ってて可愛いんだから、睨まれたら慌てちゃうだろ」
「っ!そ、そう」
平然と可愛いなんて言わないで欲しいのだけれど、心の準備が出来ていない時に言われるとくるわね。
私は一刀に顔が赤くなっているのを悟られないようにした。
「所で俺に何か用か?」
「昼に呼び出ししたのよ?昼を誘いに来たに決まっているでしょ」
「決まってるんだ」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
聞こえてるわよ。まったく……
「所で、愛紗の姿が見えないようだけど?」
「ああ、愛紗なら桃香を探しに行ったよ」
「入れ違いになってしまったようね……ふふ」
私はそこでニヤリと笑う。
「一刀行くわよ」
「行くって何処に?」
「昼食を食べるに決まっているでしょ?早くついてきなさい」
「おわ!そ、そんな引っ張らなくても!」
一刀の手をとりツカツカと歩き出す。
さて、桃香たちが来なさそうな所は……
結局、人気の無い屋上を選んだ。
「ん~!まさに秋晴れだな!」
両手を挙げて伸びをする一刀を見て微笑む。
「そんな所になっていないで食べるわよ」
「あ、俺、お昼買って来てないや」
一刀が私の横を通り抜けようとしたので袖を掴んだ。
「琳?」
「お弁当ならあるわよ」
「え?」
「っ~!だから、あなたの分もあると言っているのよ!」
「本当か?」
「ええ……それとも要らなかったかしら?なら……」
「そんなことないよ!こんなに早く琳の弁当が食べられるとは思わなかったよ」
一刀は本当にうれしそうに喜んでくれた事に少し気恥ずかしくなった。
「大袈裟すぎよ。それに約束を破ってしまったからそのお詫びよ」
「約束?なんかしてたっけ?」
一刀は首を傾げて思い当たる節がないと言った。
「あ、あなたねぇ……」
おでこに手を当てて首を振る。
「私は、当選するまであなたの名前を出さないと言ったわよね?」
「ああ、その事か。俺は別に気にしてないよ。必要だったから言ったんだろ?」
まったく、判ってるのか判ってないのか判断のつかない奴ね……
「判っているじゃない。そのお詫びよ」
「そんな気にしなくても良かったのに。でも、ありがとうな」
「な、なんであなたがお礼を言うのよ」
「だって、少しは気にかけてくれてたって事だろ?それがうれしくてさ」
「ぅ……」
一刀は屈託無く微笑み私は何も言えなくなってしまった。
やっぱり、一刀の笑顔は兵器よ。最終兵器だわ。
「ねえ、かず……」
「ん~!これ美味しいな!琳も早く食べようぜ」
一刀はいつの間にか弁当の蓋を開けて食べていた。
「……はぁ、なんでこんな男を好きになたのかしらね。私は……」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもないわよ……それより、先弁当を食べるなんてどういうことかしら?」
「あ……いや、お腹が減っててさ。我慢できなくて、つい……」
弁当と箸を手にベンチに座っている一刀を見下ろす。
「ふ~ん……私が考えている最中なのに、ね」
「う゛……」
「一刀は話している最中に食事を摂る様な人だったのね」
「う゛ぅ……」
段々と一刀の肩身が小さくなってくるのを心の中で笑いながら見ていた。
「許して欲しい?」
「……はい」
一刀はいつの間にかベンチの上で正座をしていた。
「なら私を満足させて見せなさい。そうしたら許してあげるわ」
「満足?」
「ええ、ちゃんと考えるのよ。満足させられなかったら……判っているわね?」
「ええ?!う~ん……」
腕を組んで考える一刀を微笑みながら見る。
ふふふ、さて……一刀はどう私を楽しませてくれるのかしらね。
「うぅ~ん……っ!これだ!」
何かを思いついたのか一刀は立ち上がった。
「何か思いついたようね」
「ああ、琳……」
一刀は無言で近づき私の一歩手前で立ち止まると……
「はい、あ~ん」
急に一刀は箸にご飯を乗せて目の前に差し出してきた。
「はい?」
「だから口開けて、あ~ん」
「な、なんでよ」
……今、一刀は何と言った?ま、まさか……
「食べさせるから」
「っ~~~?!」
顔が一気に赤くなる。
「そ、そんなこと出来るわけっ「はい、あ~んっと」むぐっ?!」
私が抗議をしようとした一瞬の隙を突いて口に箸を入れてきた。
「どう?」
「もぐもぐ……ごくん」
無言のまま一刀を睨みつける。
しかしあることに気が付いた私はさらに顔を赤らめた。
今のは一刀の箸、よね……それにさっき食べていた……勿論、一刀の口にも触れた……と、言う事は……
間接キス?!
い、いけない落ち着くのよ琳!たかが、間接キスじゃない……たか、が……
「っ~~~~~~!」
「り、琳?」
「なに!」
「な、なんでもありません!」
思わず叫んでしまい一刀は方を強張らせていたがそれど頃ではなかった。
落ち着くのよ。そうよ深呼吸すれば……
「あ、琳。ちょっと動かないで」
「え?」
私はその場でピタリと止まると一刀の手が私の頬に伸びてきた。
な、何をするつもり?
「お弁当が付いてたぞ……あむ」
「なっ?!?!?!?!?!」
あろう事か私の頬についていた米粒を一刀は手で取りそのまま食べてしまった。
「な、なな……」
「ん?どうかしたか?」
「なに考えてるのよあなたはーーーーーーっ!」
(バチコーンッ!)
「な、なぜ?!」
「うるさい!黙れ!喋ったら踏みつける!」
「す、既に踏みつけてます!」
(ゲシッ!ゲシッ!)
恥ずかし紛れに一刀を蹴るが治まる気配は無かった。
(ゲシッ!ゲシッ!)
放課後、いよいよ生徒会長をが決まる。
「これでいよいよ決まるわね……いつまで拗ねているの桃香」
あの後、校内に戻った私と一刀は桃香たち三人に見つかり文句を散々言われた。
まあ、その殆どが一刀に向いていたけれどね。
「ふ~んだ。琳さんとは口聞かないも~んだ。私だって一刀さんとお昼一緒に食べたかったのにさ~……ブツブツ」
桃香はそっぽを向いてブツブツと何か言っていた。
はぁ、まあ、直ぐに機嫌は直るでしょうから放っておきましょか。
こうなった桃香は手が付けられないから、あとは一刀に任せるしかないわね。
『お待たせしました。これより今期生徒会長の開票結果をお伝えします。開票総数は……』
スピーカーから立候補者の票数が読み上げられていく。
今のところ予想通りの結果ね……
この学園の生徒数は約450人、そして既に発表された合計票数は95票。発表されていない人数は私を含め残り三人。
次の人もきっと十数人でしょうから実質、約340人の票が私か桃香に入れられている事になるわね。
『桜崎桃香さんの票数は……』
(びくっ!)
ふふふ……
自分の名前を言われて姿勢を正す桃香に思わず微笑んでしまった。
『173票でした』
……これは中々……ここまで票数が均衡してるとは思わなかったわ。
それだけ桃香を指示している人が居るということね。
愛紗のことだ、『流石、桃香さま!生徒会長は桃香さまで決まりですね!』なんて言っているに違いないわね。
丁度その頃……
「流石、桃香さま!生徒会長は桃香さまに決まったも同然です!琳殿の出る幕はありませんぞ!」
場所は戻り、
なんか一瞬不快な気分になったわね……気のせいかしら?
『続きまして最後になります華澄琳さんの票数は……』
いよいよ私の番ね……残り票数から言って桃香との票数差は一、二票と言ったところでしょうね。
『17……』
……溜める必要あるのかしら?
スピーカーから流れてくる声になぜか溜めが入りあたりは静かになっていた。
(ごくっ)
誰かの喉が鳴る音が聞こえた。が、既にこの教室には私と桃香しか居なかったから必然的に桃香が鳴らしたことになる。
なぜ私と桃香しか居ないかというと票数が少ない人から教室を出て行ったからだ。
よってここに居るのは現在最高票数の桃香と発表されていない私ということだ。
『……』
いつまで引っ張るのかしら、どこぞのクイズ番組ではないのだから早く言いなさいよ。
『……4票です。よって今期生徒会長は174票獲得した華澄琳さんに決まりました』
まさか一票差だったとはね。
正直驚いたわ。まあ、総票数より少なかったのは無効票とかがあったせいなのだけれど。
「琳!」
廊下を歩きながら投票の結果の事を考えていると後ろから声を掛けられた。
「あら一刀、もう帰ったのかと思ったわ」
「そんな訳無いだろ?わかってて言ってるだろ」
「ふふふ、さあ、どうかしらね?それで、私に用があるのでしょ」
「ああ、ここじゃなんだし移動しようか」
「わかったわ。なら、お昼に行った屋上に来ましょうか」
「う、あ、ああ。そうだな」
昼休みの事を思い出したのか一瞬驚きを見せた。
「ほら、何をしているの?早く行くわよ」
一刀に背を向け歩き出すと一刀も慌てて私の横に並んできた。
「ん~!風が気持ちいいわね」
屋上に出ると夕焼けが当たり一面を照らしオレンジ色に染め上げていた。
「それで?私に何の用かしら?」
手すりまで近づき夕日に背を向けて一刀を見る。
「ああ、琳に渡したいものがあってね」
「あらなにかしら?」
あくまでとぼけた不利をする。だけど、私の鼓動は早くなってきていた。
「今日は琳の誕生日だろ?だからプレゼントをさ」
「覚えていたとは驚きね。それで?何をプレゼントしてくれるのかしら?」
「琳なら似合うかなと思って買ってきたんだけど、気に入らなかったら捨ててもらっても構わないからさ」
そう言うと掌に乗るサイズの包みを取り出した。
っ!まさかね……一刀がそこまで気が回るとは思えないわ。
一瞬、ドキッ!っとしたが一刀がそこまで気の回る奴ではないと思い心を落ち着かせた。
「開けてもいいかしら?」
「もちろん、琳にプレゼントする為に買って来たんだからさ」
包みを丁寧にはがすと箱が姿を現した。その箱を開けると……
「これって……」
中に入っていたのは青い宝石を付けたイヤリングだった。
「どうかな?」
「……」
どうかな?ですって?あなたって人はどれだけ鈍感なのよ……バカ。
このイヤリングは以前、一刀をショッピングに連れまわしていた時に偶々入ったアクセサリー屋で見つけたものだった。
その時は買うには至らなかったが、その時私は呟いていた。
『綺麗だわ……』
きっと一刀はその言葉を聴いていたのだろう。
そのまま買わずに店を出ると
『あのイヤリング買わないのか?』
『ええ、手持ちも少ないし今日は他に買う予定の物があるのよ』
そう言って買わなかったのだ。
一ヶ月くらい後に、またあのアクセサリー屋に行ったがあの時見たイヤリングは買われていた。
店員に聞いてみるとあれは特注品で現品だけしかない、との事だった。
まさか、一刀が買っていたなんて……
箱からイヤリングを取り出し耳につける。
「うん、やっぱり琳にお似合いだね」
「当たり前よ。私に似合わないアクセサリーなんて無いんだから」
表面上は澄まして見せているけど内心、嬉しくて仕方が無かった。だから……
「一刀、屈んで目を瞑りなさい」
「え?なんでだ?」
「いいから、早くなさい」
「あ、ああ……これでいいか?」
「ええ、そのままよ」
私は一刀の横にそっと近づき……
「ちゅっ」
「え?」
一刀は驚き目を見開いた。
「今のって……」
「お、お礼よ。誕生日を覚えててくれたことと、このイヤリングののね!」
恥ずかしくなり、腕を組んで夕日の方へと顔を向け顔が赤くなっているのを隠した。
「ほらさっさと帰るわよ!」
こうして私は生徒会長になり一刀を風紀委員の代表にして学園の風紀を乱さないようにさせた。
「一刀、まだなの?これでは下校時刻を過ぎてしまうわよ」
頬に手を当てていかにも不機嫌に見えるように指で机を叩く。
「で、出来た!これでどうだ?」
「どれどれ……」
一刀から報告書を受け取り確認する。
「やれば出来るじゃない。毎回これくらい出来るといいのだけれど?」
「はぁ、無茶言うなよ。部活と掛け持ちでやってるんだから、俺だけじゃないのか?委員と部活の掛け持ちなんて」
「言い訳は見苦しいわよ。あなただって了承したことでしょ?なら、私を失望させないでくれるかしら?」
「わかったよ。期待に応えて見せるよ琳」
「ええ、期待しているわ」
一刀が微笑む。
この教室には今は私と一刀しか居ない。他の役員は既に自分の業務、報告を終わらせて下校した。
そう、今この瞬間一刀の笑顔は私だけのもの。
これは誰にも邪魔されたくないかけがえの無い瞬間だ。
「ん?どうかしたか琳?」
「なんでもないわ。それじゃそろそろ帰りましょうか」
「そうだな……あ、明日は部活の方に出るからこれないと思う」
「そう、わかったわ」
「もう愛紗がさ『部活にはいつ来るんですか』って毎日言われてさ」
「あの娘らしいわね」
きっと私に盗られたって思っているのでしょうね。ふふふ、可愛らしいじゃない愛紗。
「それじゃ明日は部活に出るからよろし「一刀」え、なんだ?」
「ふふふ、明日は私も剣道部に視察に行くわ」
「ええ?!な、なんでだ?!」
「あら、生徒会長だもの、そろそろ各部活の活動状況を見て回ろうと思っていたところよ。それにより予算も決めさせてもらうのよ」
「だ、だからって剣道部からじゃなくても……」
「何か不服でも?」
「いいえ!ありません!心行くまで視察してください!」
目を細めて一刀を見ると一刀は『快く』承諾してくれた。
「そう、なら今日はこれでおしまい。帰るわよ」
席を立ち教室から一刀と出る。
ふと、毎日ではないが良く見る夢を廊下を歩きながら思い出した。
夢の中の私もこうやって誰かの横を歩いて幸せそうにしていたわね……
「……」
横目で一刀を盗み見る。
「ん?なんだ?」
「なんでもないわ。明日の視察が楽しみだと思っただけよ」
廊下を歩きながら思った。
きっと前世でも好きな人とこうして歩いていたのかもしれないっと……
葉月「発売一日前に投稿出来た~~~~!こんにちは葉月です」
雪蓮「いよいよ明日ね。もちろん私から攻略してくれるのよね?」
葉月「なにを仰います。最初はもちろん愛紗に決まってますよ!」
雪蓮「ウェイターさん、私の南海覇王持ってきてちょうだ~い♪」
葉月「ひどっ!いいじゃないですか。好きなキャラから攻略したって!」
雪蓮「そんなの私が許すわけ無いでしょ~。私といいなさい葉月!」
葉月「きょ、脅迫だ~~~!」
雪蓮「違うわよ。これはお・ね・が・い♪」
葉月「南海覇王を突きつけてお願いとかありえないから!」
雪蓮「ぶーぶー。まあいいわ、仕方ないから二番目で我慢してあげるわよ」
葉月「それでも次なんですね……」
雪蓮「あら、それとも二番目は私以外なのかしら?(ギラリ)」
葉月「滅相もございません」
雪蓮「よろしい♪ところで今回の話はやけに長かったわね」
葉月「はい。これまでで最長ですね。思うように表現できなくて大変でした」
雪蓮「その割には前回より早かったわね」
葉月「まあ、色々と裏技を使いましたから」
雪蓮「ふ~ん……興味ないからいいわ。それよりも生徒会役員で紹介された三人、あれって亞……」
葉月「おっとそれは言ってはいけませんよ。ちなみにまったく本編とは絡まないキャラです」
雪蓮「そうなの?てっきりまた増えるのかと思ったわよ」
葉月「いや~これ以上増やすと私では手に負えなくなりますからね」
雪蓮「ふ~ん、そう言う事にしておいてあげるわ。それより次は私の話なのよね?ね?」
葉月「そうなんですが……」
雪蓮「なによ、煮え切らないわね」
葉月「だって明日から萌将伝発売じゃないですか、書けるかな?っと」
雪蓮「二週間は我慢してあげるわ」
葉月「いやいや、呼んでくれている方々も来ないような……」
雪蓮「そんな言い訳聞こえないわよ」
葉月「ぐすん……頑張って書きます」
雪蓮「よろしい♪楽しみにしてるわよ。私と一刀とのラブラブな生か(カンッ!)いったーい!誰よ!」
葉月「誰も居ませんね」
雪蓮「じゃあ、誰がこの缶投げてきたのよ」
葉月「さあ?」
雪蓮「絶対犯人を見つけてやるわ。行くわよ葉月!」
葉月「ええ?!私もですか!行くのはいいですけど、まずは締めないと」
雪蓮「そうだったわね。それじゃみんな。萌将伝もいいけどTINAMIに来てくれなきゃダメよ?」
葉月「ではでは、次回までご機嫌よ~」
雪蓮「じゃあね~~……ほら、葉月行くわよ!」
葉月「あ~れ~~~~~」
???「一刀君とイチャイチャなんてさせないんだからね!」
???「お主の出番はまだ先だぞ」
???「それでも雪蓮と一刀君がイチャイチャする所を指を咥えて見てられないもん!」
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萌将伝発売日前日の更新になっちゃいました。
今回は琳の話になっています。
少し長くなってしまいましたが琳らしさを出せたかなと?と思っています。
では、お楽しみください。
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