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真・恋姫無双アナザーストーリー 雪蓮√ 今傍に行きます 第14.1話

葉月さん

14話拠点第一弾です。

まずは愛紗のお話です。
一刀の為に弁当を作ってきた愛紗。
しかし、いつもと違っていたことは新しい料理に挑戦したということ……

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2010-07-10 23:14:35 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:6717   閲覧ユーザー数:5098

真・恋姫無双アナザーストーリー 

雪蓮√ 今傍に行きます 第14.1話

 

 

 

 

【愛紗、感激するのこと】

 

「はっ!はっ!」

 

朝のヒンヤリとした空気の中、素振りをする。

 

「ふぅ……そろそろ学園に行く準備をしなくてはな」

 

汗を拭いながら空を見上げて目を細める。

 

「今日もいい天気だ」

 

「さて、まずは……」

 

寮に戻り汗を流す為に風呂へと向かう。

 

「はぁ~いい湯だ」

 

天の世界に来て毎日風呂に入れることが一番驚いたことだったな。

 

「ふふふ~ん♪」

 

思わず鼻歌を歌ってしまうほどだ。

 

「ふぅ、いい湯だった」

 

風呂から上がり髪をタオルで拭きながら部屋へと戻る。

 

「さて、まずは朝餉を作るとするか!」

 

朝餉の準備をする為にタンスを開き制服に着替える。

 

「あとは髪留めを、と……」

 

髪飾りを手に取ろうとしたが手を止める。

 

「……や、やはり一刀さまから貰ったものを着けてみるか」

 

そう思い、いつもの髪留めの横においてある箱を開ける。

 

「……」

 

箱の中には銀細工で出来た筒状の髪留めが入っていた。

 

髪留めの模様には龍があしらわれていて、その目と手には小さいが緑色の宝石がはめ込まれていた。

 

髪留めを箱から大事に取り出し両手で包み込む。

 

ああ、思い出すだけで頬が熱くなり、胸が高鳴ってきてしまう。

 

「そう言えば、一刀さまからの贈り物はこれで二回目なのだな……」

 

私の生まれた世界、一刀さまが天の身遣いとして降り立ってくれた世界で、一刀さまから髪飾りを頂いたことがある。

 

「ふふふ、まさか二回とも私の髪に関わる贈り物とはな……私と乱世を過ごした記憶は無くとも一刀さまは一刀さまなのだな」

 

それがうれしくもあり、あの時の一刀さまでないことが残念でもある。

 

「それにしても、同じ台詞を聞くことになるとは思いもしなかったが」

 

髪留めを見つめながら昨日の事を思い出す。

 

「おはようございます。一刀さま」

 

「や、やあ、愛紗おはよう」

 

「はぁ~い、愛紗」

 

「はよ~。雪蓮どいてよ~、一刀君に抱きつけないよ~」

 

はぁ、毎朝毎朝、いつも同じやり取りを飽きずに……

 

「しぇれっ」

 

「一刀さ~~~ん!おはようございます!」

 

「……はぁ~」

 

ああ、頭が痛くなりそうだ。

 

「おはよう桃香。……あのさ、そろそろ離れてくれるとありがたいんだけど」

 

「あら、一刀は私に抱きつかれて嬉しくないの?」

 

「違うよね~。一刀君は私と一緒に行きたいんだもんね」

 

「なんでそうなるのよぉ~。優未はちょっと黙ってなさい」

 

「雪蓮はさっきからず~っと一刀君にくっ付いてるんだからいいでしょ~」

 

「それなら私も一刀さんに抱きつきたいな~」

 

「……」

 

我慢……我慢だぞ、雲長……

 

「まったく、朝から何を騒いでいるのかしら、あなた達は」

 

「あ、琳さん!おはようございます」

 

「なんだぁ、琳か」

 

「そうね、琳ね」

 

「……優未に雪蓮、朝の挨拶にしては随分ではなくて?」

 

琳殿のこめかみがピクピクと動いているな、まあ無理も無いが。

 

「一刀っ!」

 

「は、はい!」

 

「ちょっとこっちに来なさい」

 

「一刀行ったらダメよ。琳に食べられるわよ」

 

「誰が食べるのよ!へんなことを言わないでくれるかしら」

 

「じゃ、一刀に何の用があるのよ」

 

「貴女には関係なくてよ」

 

「そんなの納得出来ないわね。だから一刀は渡さないわよ」

 

「ち、ちょ!雪蓮!あ、当たってる!当たってるから!」

 

「あら、こんな小さくても恥ずかしがってくれるのね」

 

「あ、当たり前だろ?!」

 

「む~……なら、こっちの胸の方がいいよね!」

 

「ゆ、優未?!」

 

「っ?!」

 

優未殿は前から一刀殿の首に手を廻して抱きついた。

 

「……っ」

 

我慢、我慢……

 

「ちょっと一刀?早くこっちに来なさい」

 

「む、無茶言うなよ!この状態で!」

 

「離れなさいよ優未!」

 

「雪蓮こそ離れてよ~」

 

「わわわ、ど、どうしよう愛紗ちゃん!……愛紗ちゃん?」

 

我慢……がまっ

 

「もう、こうなったら力ずくで!」

 

「あ~、一刀君が!」

 

……

 

(ぷちっ)

 

「今なんか切れる音が聞こえなかったか?」

 

「別に聞こえなかったわよ。一刀、もしかして離れたいからって嘘言ってない?」

 

「言ってないよ。本当に糸が切れるような音が」

 

「あ、愛紗、ちゃん?」

 

「……」

 

一刀さま、あなたと言う人は……

 

「あ、愛紗ちゃん、落ち着いて、ね?」

 

「なんか後ろが騒がしいわね。どうしたのとう、か……優未走るわよ」

 

「え?なんで?……っ?!やばっ!そ、それじゃ先に行くね一刀君!」

 

「え?ど、どうしたんだ二人とも?」

 

「一刀」

 

「ん?どうした琳」

 

「骨は拾ってあげるわ……」

 

「え?……あっ」

 

「か、一刀さんどうしよう。愛紗ちゃんが~」

 

「か~ず~と~さ~ま~~~っ」

 

「お、おお落ちつこう愛紗!まずは、そうだ!し、深呼吸をしよう!な?な?!」

 

「すぅ~~~……はぁ~~~……」

 

「そうそう……ってあ、あれ?なんでそこで構えるのかな?愛紗さん?」

 

「一刀さまの……一刀さまの……」

 

「お、落ちつこう愛紗!」

 

「バカ~~~~~~ッ!」

 

(バチ~~~~~~ンッ!!)

 

「綺麗な弧を描いて一刀が飛んでいくわね」

 

「か、一刀さ~~~~ん!」

 

「はぁ……毎度の事ながらよくもまあ、飽きないこと」

 

「はぁ、はぁ……はっ!しまった!」

 

「はぁ~~~~~~~」

 

ああ、またやってしまった……

 

私は頭を抱えて机に俯いていた。

 

いつもの事なのだが、毎回一刀さまに酷いことを……

 

「ああ、一刀さまに嫌われては居ないだろうか……」

 

我慢しようとすればするほど、雪蓮殿や優未殿を見ていると胸のうちが痛くなってくる。

 

「はぁ、分かっていることではないか愛紗よ。一刀さまを好いているのは私だけではないのだぞ?」

 

分かっている、分かっているのだが、どうしても感情が抑えられなくなるのだ。

 

「はぁ~……」

 

もう溜息しか出ないな……ふぅ、関雲長とあろうものが何をしているのだ。

 

「おはよう」

 

「お、かずピーやん、おはようさん」

 

(ぴくっ)

 

「どうしたんやその傷は」

 

(ぴくぴくっ)

 

「いや~ちょっと道でこけちゃってさ」

 

「なんや、かずピーはドジッ子やな~」

 

あぁ~、一刀さま申し訳ありません。私のようなものを庇っていただいて。

 

「ははは、ホントだな。今度から気をつけるよ」

 

「……っ?!」

 

俯いていた私は顔を上げて一刀さまを見ると目が合い、一刀さまは微笑んでくださった。

 

「ん?どうしたんやかずピー」

 

「なんでもないよ、それよりいい加減に止めてくれないかのその呼び方」

 

「なにをいいなさるかずピー!」

 

「いやだから……」

 

なんだか一刀さまと及川殿だったかが言い争いをしている後ろでなんだか数人の女子が集まっていた。

 

なんだあの集団は?……まさか、一刀さまを!

 

(ガタッ!)

 

席を立ち一刀さまにお伝えしようとしたが……

 

「かずっ!」

 

(ポンッ)

 

「なんや?……こ、こりゃ、どうも……」

 

「おはようございます。北郷さま」

 

「あ、ああ。おはよう、みんな」

 

「ああ、北郷に挨拶を返していただけましたわ!」

 

な、なんだかものすごい陶酔しきっているのだが……

 

「あ、あのさ前にも言ったけどさその北郷さまって止めないか?」

 

「何を仰います!北郷さまにそのようなことは!」

 

「は、ははは……」

 

一刀さまは苦笑いを浮かべながら頭をおかきになられている。

 

「そ、それより何か用かな?」

 

「ああ、そうでした。少々この不届き物をお借りしたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「え?あ……」

 

「か、かずピー助けっ」

 

(トスっ)

 

「はぅ!がくっ……」

 

「お、及川?」

 

手前の女性が及川殿の首筋に手刀を当てて及川殿を気絶させた。中々の手際だ、なにか武術でもやっているのだろうか?

 

「おやおや、これはいけませんね。我々が保健室へと連れて参りますのでご安心ください」

 

「あ、ああ。よろしく頼むよ」

 

「はい!では、これにて失礼します……」

 

……毎度の光景なのだがどうしてあの及川殿は懲りないのだろうか?

 

教室から連れ出された及川殿を目で追っていると、

 

「やあ、愛紗」

 

「か、一刀さま……」

 

一刀さまが笑顔で席の前まで来てくださったが私はいつ向いてしまった。

 

一刀さまに合わせる顔が無い。

 

「えっと、今朝の事なんだけどさ」

 

(びくっ!)

 

なにを言われても受け止める覚悟は出来ている。

 

だが、もう近づかないでくれと言われたら……

 

「す、すいません!用があるので失礼します!」

 

「あ、愛紗!」

 

「っ?!は、放してください一刀さま。私には用が……」

 

「用なんて本当は無いんだろ?」

 

「……」

 

言い当てられてしまい何も言えなくなってしまった。

 

「えっとさ、今朝の事は俺が悪かったよ」

 

「っ?!そ、そんな、一刀さまは悪くありません。悪いのは私で……」

 

「そんなことないよ。愛紗がああなったのは元はと言えば俺のせいなんだろ?」

 

「それは……」

 

「だからさ、そのお詫びってわけじゃないんだけど、放課後付き合ってくれるかな?」

 

「しかし……」

 

一刀さまの好意は嬉しいのだがいいのだろうか?私は一刀さまを殴ってしまったのだぞ?

 

「ん~。なら、逆に俺を殴ったお詫びとして放課後付き合ってくれないかな?」

 

「どちらにしろ放課後付き合うのは決定事項なのですね」

 

「だって、どうしても愛紗に用があるからさ。ダメかな?」

 

まったく、お人が悪い方だ一刀さまは。

 

「はぁ、そう言われて断れるわけが無いではありませんか。わかりました、放課後ですね」

 

「うん。まあ、同じクラスなんだから待ち合わせって変だけど、このクラスで」

 

「わかりました」

 

「うん、それじゃ放課後にね」

 

はぁ、やはり一刀さまの調子に狂わされてしまったな。

 

「それがいいことなのか、悪いことなのか……きっと、良いことなのだろうな」

 

一刀さまはクラスメイトと笑いながら会話を楽しんでいた。

 

「まったく……人の気も知らないであのお方は……」

 

呆れながらも、そんな一刀さまを見て心安らぐ自分がいる事に気づき苦笑いを浮かべる。

 

「ふふふ、私もトコトン惚れてしまっているのだな」

 

予鈴が鳴り担任が入ってくると慌しく席に着いていく生徒たち。その中、

 

「ん?及川はどうした」

 

担任が出欠席を取っていると及川殿が居ないことに気がついた。

 

(ガラガラッ)

 

「こ、ここに居ります」

 

ボロボロになって戻ってきた及川殿を見て担任は、

 

「……及川、遅刻っと」

 

「そんな馬鹿な~~っ?!」

 

何事もなかったように出欠席を取っていった。

 

(キーンコーンカーンコーン)

 

チャイムが鳴り皆が待ちに待った昼食の時間になった。

 

「愛紗ちゃ~ん、お昼一緒に食べよ~♪」

 

「はい、今参ります」

 

「一刀さんも一緒にお昼食べましょ!」

 

「ああ、それじゃ、先に行っててくれ、お昼を買って来るよ」

 

「あ、あの!一刀さま」

 

「ん?どうした愛紗?」

 

「そ、その……お弁当でしたら一刀さまの分を作って参りました。よかったら……」

 

おずおずと包みを一刀さまの前に差し出す。

 

「お、俺に?」

 

「は、はい。お嫌でなければですが」

 

「そんなことないよ。ありがとう愛紗」

 

「は、はい!」

 

一刀さまは喜んで包みを受け取ってくださった。

 

「それじゃ、お昼食べようか」

 

「今日は天気もいいので屋上で摂るのは如何でしょうか」

 

「そうだね。桃香もそれでいいか?」

 

「はい!天気もいいしきっとお弁当ももっと美味しくなっちゃいますよ」

 

「よしなら行こうか」

 

私達はお昼を食べるために屋上へと向かった。

 

「ん~、秋空が気持ちがいいね~」

 

桃香さまは屋上に出ると両手を上げてクルクルと回られた。

 

「桃香さま危ないですよ」

 

「これくらい平気だよ~。……っ!あわわ!」

 

「と、桃香さま!」

 

桃香さまは足をもつらせてバランスを崩してしまった。

 

「きゃん!……え?」

 

一刀さまは桃香さまが倒れる寸前の所を体を滑らせて受け止められた。

 

「ふう、間一髪危ないところだったね桃香」

 

「大丈夫ですか。桃香さま!」

 

「う、うん。一刀さんが庇ってくれたから」

 

「一刀さまも大丈夫ですか?」

 

「ああ、これくらい平気だよ」

 

一刀さまは桃香さまを立たせ、自分の制服の埃を叩き落とした。

 

「ごめんなさい。一刀さん、怪我してないですか?」

 

「大丈夫だよ。桃香が無事ならそれで」

 

「えへへ♪」

 

桃香さまは恥ずかしそうに頬を染めていた。

 

「それじゃお昼にしようか」

 

「そうですね。あっ!あそこのベンチが開いてますよ一刀さん!」

 

「走るとまたこけちゃうぞ桃香」

 

「もう、そうなんどもこけないですよ!」

 

少し頬を膨らませて桃香さまは一刀さまに抗議をする姿は私から見ても可愛らしい仕草だ。

 

「やはり、一刀さまは桃香さまのような娘が好きなのだろうか……」

 

ここに居る一刀さまは私の知っている一刀さまではない。

 

私と供に乱世を歩み力を合わせて戦い抜いた一刀さまではない。

 

だが、その優しさ、仕草、笑顔は紛れも無く私に知る一刀さまなのだ。

 

一刀さまにご寵愛を受けた頂いたとはいえ、それは今、目の前に居る一刀さまではない……

 

「ははは、ごめんごめん。そんな怒るなよ桃香」

 

「もう、一刀さんなんて知りません!」

 

目の前で桃香さまに頭を下げて許しを請う一刀さまを見ているとなんとも言えない気持ちになる。

 

「はぁ、私は何を考えているのだ。バカバカしい……そんなことは分かっているではないか」

 

この世界で一刀さまに出会って分かっているではないか、

 

 

『この一刀さまはご主人様では無い』

 

 

だからと言う訳ではないが、桃香さまや雪蓮殿の様に積極的になれていない自分が居る。

 

どうしても、あの世界での一刀さまと比較してしまうから……

 

だが、それでも桃香さまや雪蓮殿、琳殿に抱きつかれている一刀さまを見ていると心が痛くなってくる。

 

「はぁ、いっそう、一刀さまが極悪非道ならこの様な気持ちにはならないのだがな……」

 

「俺がどうしたって?」

 

「へ?!あ、いや、なんでもありません。ごしゅ、じゃ無かった一刀さま」

 

「?そうか、ならお昼食べようぜ。もう、お腹がペコペコだよ」

 

「そうですね。直ぐに参ります」

 

危ない、危うく一刀さまに愚痴を聞かれてしまうところだった。

 

「愛紗ちゃん遅いよ~。私もうお腹ペコペコだよ~」

 

「すいません。少々考え事をしていたもので」

 

「考え事?」

 

「あ、いえ。なんでもありません桃香さま。さ、お昼を頂いてしまいましょう」

 

「?うん。あ、一刀さん、ここに座って座って♪」

 

「おわ!そんな引っ張らなくても」

 

「いいからいいから♪愛紗ちゃんも早く」

 

「は、はい」

 

一刀さまを挟んで両脇に私と桃香さまで座る。

 

「きょ、今日は新たに焼売に挑戦してみました」

 

「へ~、それは楽しみだな。どれどれ……」

 

「わー、愛紗ちゃんが作ったお弁当美味しそう」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ああ、すごく美味しそうだよ」

 

一刀さまに褒めていただき頬が少し赤くなるのが分かった。

 

「それじゃ、どれから食べようかな~」

 

箸を手に取り、詰められた弁当箱の中から焼売を箸でお摘みになった。

 

「よし、焼売にしよう。頂きます。ぱくっもぐもぐ……」

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「うん、おいしっ?!……」

 

「ど、どうかなさいましたか?」

 

「いや、なんでもないよ。美味しすぎて言葉を詰まらせただけだよ」

 

「で、ですが、随分と汗が出ているようですが?」

 

「そ、そんな事無いぞ!。うん、美味しいよ」

 

一刀さまは笑ってくださっているがこの感じどこかで覚えがあるような……

 

「わ~、そんなに美味しいなら私も食べたいな~」

 

「だ、ダメだ!」

 

「ふえ?な、なんでですか?」

 

「そ、その……っ!それは、美味しいからあげられないんだ。だから俺が全部食べるんだよ」

 

まさか……

 

私はあることを思い出し自分の弁当箱の中の焼売に目をやる。

 

「え~、そんなのずるいですよ。私も愛紗ちゃんの焼売食べたいでです」

 

「では、私の焼売をおひと「それもダメ~!」……なぜですか?」

 

やはり、そうなのですね。一刀さま……

 

私は一つの確信にたどり着いた。

 

「……美味しくないのですね」

 

「!そ、そんなことない、よ?」

 

「……目が泳いでいますよ一刀さま」

 

「あは、あはははは……そんな事無いぞ愛紗~」

 

「わ、一刀さんすごい汗だよ」

 

「と、桃香!」

 

「……」

 

「あ、あの愛紗?」

 

私は目線を下げじっと手に持っている弁当箱を見つめ、そして……

 

「……ばくっ!」

 

弁当箱の中の焼売を摘まみ口へと運んだ。

 

「あ、愛紗?!」

 

「え?え?どうしたんですか?」

 

「もぐっもぐっもぐっ……」

 

「愛紗?」

 

「愛紗ちゃん?」

 

うっ、なんだか意識が遠のいていく感じ、が……

 

「……」

 

「おーい、愛紗」

 

か、ずと……さま……

 

「きゅ~~」

 

「あ、愛紗しっかりしろ!今、保健室に連れて行くからな!」

 

最後に聞こえたのはそんな一刀さまの叫びと温かい温もりだった。

 

「うっ、ここは……」

 

次に気がついた時は保健室のベットの上だった。

 

体を起こし、周りの気配を探るがどうやら近くには誰も居ないようだった。

 

そうか、私は自分の料理を食べて……。

 

掛けられている布団力強く握り締める。

 

「なんたることだ、これでは一刀さまに顔向けできないでわないか……」

 

あのような、不味い物を食べさせてしまうとは。

 

「しかし誰がここまで私を?」

 

その時だった扉の向こうから人の気配が近づいてきた。

 

(ガラガラッ!)

 

「あ、起きたんだね愛紗」

 

「か、一刀さま」

 

「ああ、そのままでいいよ。まだ気分が悪いんだろ?顔が真っ青だぞ」

 

「申し訳ありません……」

 

「そんなの気にしなくていいよ」

 

「違います。料理の事です」

 

「ああ……」

 

思い出したのか一刀さまは苦笑いを浮かべた。

 

「美味しかったよ」

 

「っ!お世辞は結構です。あんな不味い物を私は一刀さまに食べさせてしまったのですよ?!」

 

「俺はそうは思わないけどな」

 

「一刀さまが気にしなくても私は気にするのです!」

 

「よし、愛紗」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「学校サボろう」

 

「……は?」

 

一刀さまは今、なんと仰られた?学校をサボる?……サボる?!

 

「何を考えているのですか。今の私たちの本分は学生なのですよ。それをサボるなど……」

 

「まあまあ、いいじゃないか。それにどうせあと一時限で放課後だしさ」

 

まったく、このお方は……サボり癖は相変わらずなのですね。

 

「しかし、鞄はクラスに置きっぱなしですよ。まさか、置いて帰るとでも?」

 

私の返しに一刀さまはニコリと笑い二つの鞄を見せた。

 

「ちゃんと持ってきてあるよ。先生にも愛紗は気分が悪いみたいだから送り届けるって言っておいたし」

 

「なっ……まったく、あなたと言う人は」

 

呆れながらも、一刀さまの悪戯が成功した子供のような笑みに苦笑いをしてしまった。

 

「よし、なら。昼間に言ったように付き合ってもらおうかな」

 

そう言えばそのような約束をしていたな、昼間の事ですっかり忘れてしまっていた。

 

「わかりました。では、参りましょう一刀さま」

 

「ああ」

 

ベットから降りようとした私に一刀さまは手を差し出してくださり恥ずかしながらもその手を取った。

 

「な、なんだか照れくさいですね」

 

「はは、そうだね。でも、俺は嬉しいかな」

 

「え?」

 

一刀さまを見ると言った自分も恥ずかしかったのか頭をかいてそっぽを向いておられた。

 

「よし、行こうか愛紗」

 

「はい」

 

私は気持ちを切り替えて楽しむ事にした。

 

「ところで何処に行くのですか?」

 

そう言えばと思い出し私は何処へ行くのかを聞くと、

 

「ん~、特に決めてないよ。ただ、愛紗とこうして歩きたかっただけ、かな」

 

「は?付き合って欲しいと言ったのは一刀さまではありませんか」

 

「まあ、そうなんだけどね」

 

「ほら、そんな事いいから行くぞ愛紗」

 

「か、一刀さま、お待ちください」

 

歯切れの悪い一刀さまを訝しげに思うが歩き出してしまったので慌てて後を追いかけた。

 

「よし、まずは何か食べよう。愛紗もお腹すいてるだろ?」

 

「いえ、私はだ」

 

(くっ~~~)

 

大丈夫と言おうとしたさなか私のお腹が鳴ってしまった。

 

「っ~~~~!」

 

ああ、恨めしい私のお腹!このような時に鳴るではないわ!

 

「ははは、それじゃ軽く何か食べようか」

 

「……はい、すいません」

 

「そんな謝らなくてもいいよ。俺もお腹空いてるしさ」

 

「……それはお昼を食べ損ねたからですか?」

 

ジト目で一刀さまを睨む。

 

「ええ?!ち、違うよちゃんと愛紗から貰ったお弁当全部食べたよ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、どれも凄く美味しかったよ」

 

「焼売もですか?」

 

「あ、ああもちろん」

 

「ふ、いいのですよ。あれは私が食べても不味いと思ったのですから無理に褒めて頂かなくても……」

 

「そんなことないよ。愛紗が一生懸命作ってくれたんだから不味いわけがないだろ?」

 

「またそのような事を」

 

「愛紗はさ、料理には何が大事だと思う?」

 

「料理、ですか?やはり味ではないでしょうか」

 

「うん、味も大事だね。でも、もっと大事なものがあるんだよ」

 

「もっと大事なもの?」

 

「それは食べて貰いたい人の事を思って作る事だよ」

 

「食べて貰いたい人……」

 

それは一刀さまに他ならない。だが、それは当たり前なのではないか?

 

「そう、食べて貰いたい人の事を思って作れば、その料理はその人にとって豪華な料理に負けないものになるんだよ」

 

「ですが、それは当たり前なのではないでしょうか?私は一刀さまに食べて頂くときはいつも美味しく食べて頂けるように心がけています」

 

「そう、だから愛紗の料理は美味しいんだよ。だからまた作ってくれると嬉しいな」

 

「一刀さま……はい!」

 

一刀さまの笑顔に勇気付けられ力強く頷いた。

 

そうだ、初めて作った炒飯も失敗したが特訓する事でちゃんと作れるようになったではないか焼売だって特訓すれば……

 

ふふふ、相手にとって不足は無い!焼売よ覚悟しろ!必ず一刀さまに美味しいと言われる焼売にして見せるぞ!

 

「おお、良くわからないけど愛紗が燃えてるぞ」

 

「はい!焼売に今、宣戦布告をしたところです!」

 

「ははは、頼もしいな。なら、次は期待できるかな?」

 

「お任せください一刀さま!……ん?と言う事はやはり、美味しくなかったのではありませんか!」

 

「や!そんな事ないぞ!美味しかったよ!って、今それ何処から出したの?!」

 

私の手には愛刀の青龍堰月刀が握られていた。勿論、刃は潰れている物だが。

 

「乙女の秘密です!」

 

「とりあえず落ち着こう!」

 

「私は落ち着いています!」

 

「どこが?!」

 

「はああぁぁっ!」

 

堰月刀を振り上げた時だった。

 

(くぅ~~~~)

 

「……愛紗?」

 

「っ~~~~!ごほんっ!きょ、今日はこの辺にしておきましょう。さ、行きましょう一刀さま」

 

一刀さまを置いて先に歩き出す私に、我に返った一刀さまは慌てて追いかけてきた。

 

「ふぅ、美味しかったな」

 

「ええ、私もああいった料理を作ってみたいですね」

 

「愛紗なら出来るよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ、俺が保障するよ」

 

「では、お作りしたら真っ先に食べていただかなくては」

 

「その前にちゃんと味見してくれよ?」

 

「わ、判っています!今回はその……つい忘れただけです!」

 

「ははは、わかってるよ。愛紗の料理はいつもは美味しいもんな」

 

「もうその話は終わりです!」

 

「はいはい」

 

まったく、私の気も知らずに……

 

だが、きっと一刀さまは私が落ち込んでいると思って励ましてくれているのだろうな。

 

一刀さまは人の気持ちに敏感なお方だ、悩みを隠していてもそれを察してください。

 

だが、色恋事にはその力を発揮しないのだがな、そのお陰でどれだけやきもきとさせられた事か。

 

横を歩く一刀さまを盗み見る。

 

「っ!?」

 

不意に一刀さまが私を見てニッコリと微笑みかけ、私は不覚にもその微笑に見惚れてしまった。

 

「それじゃ愛紗行きたいところがあるから着いて来てくれるかな?」

 

「は、はい。どこにですか?」

 

「それは着いてからのお楽しみって事で」

 

一刀さまはそう言うと手を差し出してきたので私は手を合わせ握り締めた。

 

「それじゃ、着いてきて」

 

手を引き少し前を歩く一刀さまの手はとても大きく、そして温かかった。

 

このように一刀さまと手を繋いで出歩いた事は無かったな……

 

いつも護衛という立場で横に立っていただけだったからな。

 

そう思うと今更ながら後悔してきてしまった、もっと早くから一刀さまと手を繋いでいればっと。

 

「愛紗」

 

「は、はい。なんでしょうか!」

 

「手、痛いんだけど」

 

「ああ、す、すいません!」

 

いつの間にか手に力を入れてしまい慌てて離すと、一刀さまの手は握っていたところが赤くなっていた。

 

「申し訳ありません。考え事をしていたもので」

 

「別に大丈夫だよ。もう直ぐで着くから」

 

「あっ」

 

「ん?どうした?」

 

そのまま歩いていこうとする一刀さまに思わず声が漏れてしまった。

 

「そ、その……手を」

 

「手?」

 

「手を繋いでもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、いいよ」

 

一刀さまは快く了承してくださった。

 

しばらく歩いていると一軒の店の前で止まった。

 

「ここが目的地だよ」

 

「この店はなんなのですか?なにやら線がのた打ち回ったような看板がありますが」

 

この世界に来てからというものたまに見かけるこの文字は未だに読む事が出来ないでいた。

 

「シルバーファクトリーって読むんだけど。銀細工のお店って言えばわかるかな?」

 

「なるほど。して、ここには何様で?」

 

「ちょっとね。さあ、中に入ろうか」

 

「?わかりました」

 

一刀さまは言葉を濁すと店の中に入ってしまわれたので私も続いて店の中へと入っていった。

 

「これは、素晴しいですね……どのようにしてこのようなものを作っているのですか一刀さま」

 

店の中には今まで見た事の無い飾りや食器が所狭しと飾られていた。

 

「まあ、そう言う職人さんが丹精籠めて作ってるからね。俺はちょっとここの店長さんに用があるから愛紗は見てていいよ」

 

「はい、わかりました」

 

一刀さまは店の奥に居る店主と話をしてそのまま奥に消えてしまった。

 

「しかし、どれも素晴しい工芸だ。この硬い金属にどのようにして模様を描いているのだろうか」

 

銀細工は大小さまざまだったがどの商品にも花や風景などの模様が描かれていた。

 

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 

商品を見ていると店員なのだろうか娘が話しかけてきた。

 

「いや、私は一刀さまの共で来ただけで別に買いに来たわけではないのだ」

 

「そうですか。それじゃさっき奥に入っていった人は彼氏さんなんですね」

 

「なっ?!」

 

「え?違うんですか?」

 

「いや、その……なんだ。聞かないでくれ」

 

「ふふふ、判りました」

 

「それにしてもこの花や風景はどのようにして描いているのだ?」

 

「これはですね。機械を使って描いているんですよ」

 

「ほう、それはここで見れるのか?はい、見れますけど……ちょっと今は無理ですね」

 

「?なぜだ?」

 

「それは秘密です♪彼氏さんが戻ってきたらお見せしますよ♪」

 

「そ、そうか」

 

「はい」

 

少々引っかかる言い方をされてしまったが待っていれば見せてもらえるようなので待ってみるか。

 

「お客様の髪の毛綺麗ですね」

 

「む?そうか?」

 

「はい、しっとりしててツヤツヤでなにか使っているのですか?」

 

「いや、特に特別なものを使っていないが」

 

「そうですか。羨ましいな~。私も髪伸ばしてみようかな……」

 

娘は私の髪を褒めてくれたが長ければその分うっとおしくもあるのだがわかっているのだろうか?。

 

そうは言ったが私自身は切るつもりはまったく無い。

 

「お待たせ愛紗」

 

暫く店内を見て回っていると奥の部屋から一刀さまが戻られた。

 

「奥で何をしていたのですか?」

 

「うん、ちょっとね。愛紗目を瞑って後ろを向いてくれないかな?」

 

「?構いませんが……」

 

言われるままに後ろを向き目を瞑る。

 

「ちょっとごめんね……」

 

「んっ」

 

一刀さまは私の髪を触り始めた。

 

?髪を下ろしてどうするおつもりなのだろうか?

 

「うん、やっぱり愛紗の髪は綺麗だな」

 

「そ、そんな事はありません」

 

「ううん、こんなに綺麗な黒髪見た事ないよ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ああ、自信持っていいよ。愛紗の髪は世界一綺麗な髪だよ」

 

「しょ、少々大袈裟ではないでしょうか一刀さま」

 

「そうかな?でも、俺は世界一だと思ってるよ」

 

「褒めても何も出ませんよ?」

 

「それは残念だな」

 

一刀さまにそう思われているだけで私は幸せですよ。

 

「よし、もう目を開けてもいいよ」

 

「はい……?」

 

目を開けるが特に変わった様子も無いが……

 

「一刀さま?一体何を?」

 

「ふふふ、はい。鏡ですよ♪」

 

「すまぬ」

 

店番の娘が手鏡を持ってきてくれたので受け取り自分をのぞき見ると、

 

「これは……」

 

「どうかな。気に入ってくれるとうれしいんだけど」

 

私の髪留めがいつものものではなく龍の模様が描かれ手と目には緑色をした石がはめ込まれた髪留めに変わっていた。

 

「誕生日おめでとう。愛紗」

 

「え?あっ……」

 

そう言えば今日は私の……色々と問題ごとなどが多くて忘れていた。

 

「覚えていてくれたんですね」

 

「もちろんだよ。色々と悩んだんだけどね。愛紗にはやっぱりその綺麗な黒髪に関わるものかなって思ってさ」

 

一刀さまから今まで使っていた髪留め受け取る。

 

「しかし、私みたいな無骨物にはこのようなものは似合わないですよ」

 

「そんなことないよ愛紗は十分に可愛い女の子なんだよ。だからそれを否定しないで……」

 

「一刀さま……」

 

一刀さまの言葉に嬉しさが込みあがってきた。

 

「愛紗……」

 

「一刀さま……」

 

一刀さまは優しく私を抱き寄せて顔を近づけてきた。

 

「あの~一応店内なんでそう言うのは人が居ないところでお願いしますね~♪」

 

「「っ?!」」

 

慌てて離れると娘はニコニコと笑って私と一刀さまの間に立っていた。

 

「お熱いですねお二人さん♪あ、そうでした。彼女さんは工房を見たいんですよね。どうぞこちらです」

 

「あ、ああ。すまない。では、一刀さま」

 

「ああ、ゆっくり見てくるといいよ」

 

私は娘に連れられて奥にある工房に案内された。

 

「ここが工房だよ。ここでさっきの食器やアクセサリーなんかを作ってるの」

 

「なるほど、この機械で作っているのだな」

 

「ちなみに彼氏さんから貰った髪留めもここで作ってたんだよ」

 

「なっ!」

 

「あ、ちなみにぃ、あの彼氏さん。結構前からここに頼みに来てましたよ」

 

「本当なら素人が行き成り来て『作らせてください』なんていいに来ないと思いませんか?それをなんども店長に頭を下げに来て、等々店長もその熱意に折れちゃったんですよ」

 

一刀さまが……

 

その光景を思い浮かべ、そこまでして作ってくれた髪留めを手に触れる。

 

「は~い、いいな。私も早く彼氏作ってプレゼント贈られてみたいな~」

 

「っ~~~~~」

 

娘の言葉で頬が熱くなっていく。

 

「それでこの後はどうするんですか?」

 

「どうするとはなんのことだ?」

 

なんだか娘の目がキラキラと輝いて何かを期待しているように見えた。

 

「やだな~。とぼけないでくださいよ」

 

「いや、とぼけているわけでは……」

 

「やっぱりこの後は、二人だけで食事をして、そのあと人気の無い公園で……きゃ~~~っ!」

 

「○△◇×○×っ?!」

 

娘は一人で話を膨らませて行き、私は私で赤面して固まっていた。

 

「おーい、愛紗?なんか悲鳴みたいなのが聞こえたけどどうかしたのか?」

 

「な、なんでもありません!」

 

「あ、うん。わかった」

 

「あっ!ねえねえ彼氏さん!この後はどうするんですか?やっぱり食事とかに行くんですか?行くんですよね?!それでそれでその後は人気の無い公園に行って彼女の肩を抱き寄せるんですよね。そうに決まってます!そしてそして見詰め合う二人は顔と顔を寄せてっ!む~~~~?!」

 

「な、何でもありませんよ一刀さま。申し訳ありませんが外で待っていてもらえますか!」

 

慌てて娘の口を押えて、自分でもわかるくらい引きつった笑顔で一刀さまに外で待っていて欲しいと伝える。

 

「あ、ああ。わかったよ」

 

笑顔で頷くと工房から出て行かれた。

 

はぁ、何を言い出すのだこの娘は……

 

「む~~~~!」

 

「ああ、す、すまん!」

 

私の腕の中で口を押えられた娘が暴れている事に気づき慌てて手を離す。

 

「ぷはぁ~。もう息が出来なかったじゃないですか~」

 

「いや、しかしだな。あのような事を言葉早にいわれるとだな」

 

「もしかしなくても照れちゃったりとかしてますか?」

 

「あ、当たり前であろう」

 

「はぁ~、私もこんな感じで恥らえば彼氏出来るのかなぁ?」

 

娘は私を見ながら溜め息をつき言葉を漏らした。

 

「……」

 

店を出た後、ただブラブラと街を歩く。

 

だが、さっきの店での娘の言葉が頭の中をグルグルと回っていた。

 

『二人で食事して!』

 

ふ、二人で食事など出来るものか。いや、したくないと言うわけではなくてだな

 

『人気の無い公園で二人向き合い……』

 

そ、そのような事あるわけが無いではないか!

 

もうこの調子で周りの景色がまったく入ってこなかった。

 

いかん、いかん。これでは一刀さまに変な娘だと思われてしまう。

 

「――ゃ」

 

だが、一刀さまに求められれば私としては拒めない。

 

「あ――ゃ」

 

いや、むしろ一刀さまに求めていただけることはとてもうれしい事だ。拒む道理は、

 

「愛紗!」

 

「は、はい?!」

 

急に声を掛けられて思わずすっとんきょな声を上げてしまった。

 

「さっきから呼んでるのに返事しないからさ。気分でも悪くなったか?」

 

「い、いいえ。そんな事はありません!少々考え事をしていたものですいません」

 

「いや、謝るような事でもないからさ。それより愛紗」

 

「はい、何でしょうか」

 

「もう日も傾いてきたんだけどさ愛紗は夜飯とかどうするの?」

 

「ゆ、夕餉ですか?特に考えてはいませんが」

 

私の答えに満足したのか微笑みそして、

 

「そっか、ならこれから何処かに食べに行こうか」

 

「……は?今、なんと仰られましたか?」

 

「え、だから一緒に夜飯を……あ、愛紗?」

 

さっきまで考えていた事が今現実になろうとしていた。ここで私が頷けば一刀さまと……

 

「いやなら「いやではありません!」……そ、そう、なら食べに行こうか」

 

「はい!」

 

一刀さまが手を差し出してきたので私も手を繋ぎ歩き出した。

 

正直、味など覚えていなかった。

 

一番の感想はこれだった。

 

一刀さまと二人きりと言う事もあり、緊張の余り食事を味わう事が出来なかった。

 

「は~美味しかったな」

 

「そ、そうですね。大変美味しかったです」

 

「だよな。特にあのソースがさぁ」

 

一刀さまは料理の感想を述べてくださっているが、私はそれに曖昧に返事をする事しか出来なかった。

 

ま、まさかこの後はやはり公園に行って……いかん!何を言っているのだ私は。

 

「さて」

 

「っ!は、はい。なんでしょうか」

 

「大分夜も遅くなってきたし」

 

「は、はい……」

 

や、やはり公園へ……

 

「寮まで送るよ」

 

「はい!……はい?」

 

い、今なんと?寮まで送る?え?公園は?甘いひと時は?え?ええ?!

 

「あ、愛紗?どうしたんだ?」

 

「は、ははは。何でもありません一刀さま」

 

一人舞い上がり馬鹿みたいだな私は……

 

そして無言のまま寮への道を一刀さまと歩く。

 

時折、一刀さまは振り返り話しかけてくるが終止俯いたまま私は返事を返す事はしなかった。

 

何をしているのだ私は、勝手に期待をして、落胆しているだけではないか。気持ちを切り替えるのだ愛紗。

 

「かずっ」

 

自分に対し踏ん切りを着かせ、顔を上げ一刀さまに話しかけようとしたが……

 

「それじゃ、ここまでだね」

 

「え、あ……」

 

いつの間にか目的地である寮の前についていた。

 

いつもこうだ、決意を固めるが全て手遅れになってしまっている。

 

「……」

 

上げた顔をまた下げ、両手を力強く握り締める。

 

「……愛紗、顔を上げて」

 

「無理です……」

 

「なんでかな?」

 

「お見せできるような顔ではありませんから」

 

いつの間にか私の視界はぼやけて見えていた。

 

「あっ」

 

「どんな顔をしてても愛紗は愛紗だよ」

 

一刀さまは両手で私の頬に触り、顔を上げさせた。

 

「うん、いつもの愛紗の顔だ。酷い顔なんかじゃないよ」

 

私を慰めるように優しく頬を撫でてくださった。そして……

 

「んっ……ちゅ……ちゅぷ……」

 

「お休み愛紗。また明日ね」

 

え?今、一体何が?

 

一刀さまは顔を離し、微笑みながらその場から離れやがて見えなくなった。

 

「……」

 

暫くその場に佇んでいたが一刀さまがした行為が段々と鮮明になってくると徐々に顔が熱くなって来てしまった。

 

「っ~~~~~!」

 

こ、これは、場所は違うが人気も無い場所での口付け!

 

「ああ、一刀さま……」

 

そのまま寮の自分の部屋に戻る。

 

その間も唇を手に当てて顔を綻ばせていた。

 

「まったく、あの時は不意をつかれたがそれ以上にうれしかったのですよ。一刀さま、それをお分かりですか?」

 

ここにはいない人に向かい話しかける。

 

「さて、ではさっそく焼売を作ろうではないか!」

 

包丁を手に具材をきざんでいく。

 

(トントントンッ!)

 

規則正しい包丁の音を聞きながら一刀さまが言われた通り、美味しくなれと祈りながら調理をする。

 

「前回は不覚を取ったが今回はそうは行かんぞ。この関雲長、なんども同じ失敗は繰り返さん!」

 

こうして、私は気合と共に焼売の調理にかかること数十分

 

「うむ、今回は会心の出来だ!」

 

目の前には六個の焼売が完成した。

 

「あとは蒸すだけだな」

 

沸騰させておいた鍋の上に蒸篭を乗せ、その中に焼売を入れる。

 

「よし蓋を閉めあとは五分ほど蒸して完成だな」

 

蒸している間、調理具を洗い、先に作っといたおかずを弁当箱に詰めていく。

 

「あとは……よし、蒸しあがっているな。どれ、味は……はむ、っ!はふはふ……ゴクン。うん、これなら一刀さまも美味しく頂いてくれるだろう」

 

温度が下がったところで弁当箱に焼売を詰め蓋をする。

 

包みに弁当箱を入れ大事に持ち上げる。

 

「よし、では参るぞ。今度こそ一刀さまに美味しいと言って貰うために!」

 

私は玄関へと向かう。

 

その頭には一刀さまから貰った髪留めが輝いていた。

 

葉月「ご無沙汰してます。葉月です」

 

雪蓮「はぁ~い、雪蓮よ♪」

 

葉月「……あの、一つ聞きたいのですが」

 

雪蓮「言わなくても分かるから却下♪逆に言い残したことは無いかしら?」

 

葉月「それじゃ一言だけ……誰か助けて~~~!」

 

雪蓮「情けないわね」

 

葉月「まだ死にたくありません!」

 

雪蓮「ならなんで私を出さなかったのよ。愛紗とちょろっと桃香しか出てなかったじゃない」

 

葉月「雪蓮出しちゃったら必然的に優未が出てきちゃうんですよ、どうしても」

 

雪蓮「私がそんなことで納得するとでも?」

 

葉月「毎回、拠点で話あるんですから偶には雪蓮が出てないのを書いてもいいじゃないですか」

 

雪蓮「ぶーぶー!横暴だ、この作者!」

 

葉月「むちゃくちゃな……」

 

雪蓮「まあいいわ。それにしても愛紗の焼売はどれくらい不味かったのかしら?自分が食べて気絶するなんて」

 

葉月「想像出来ませんね。一刀はよく意識を保っていられたものです」

 

雪蓮「だって一刀だもの♪」

 

葉月「いや、根拠が無いですよ、それ」

 

雪蓮「それと及川だっけ?毎回毎回、めげないわねあの子も」

 

葉月「そこが及川のいいところです。まあ、私は春恋*乙女をやったことが無いので性格は恋姫から勝手に想像してますが」

 

雪蓮「ならやってみればいいじゃない」

 

葉月「なんかもう、萌将伝に向けて色々と途中のゲームを片付けている最中で正直、手が回りません!」

 

雪蓮「そうそう、やっとマスターアップまで来たわね。発売までもう直ぐね」

 

葉月「そうなんですよ!あ~、早く愛……雪蓮に会いたいですね」

 

雪蓮「別にいいのよ?愛紗って言っても」

 

葉月「ハハハ、ナニヲイッテイルノデスカ、雪蓮さん」

 

雪蓮「まあいいわ。で?次回は誰なの?」

 

葉月「はい、次回は我らの琳さんです」

 

雪蓮「我らのって意味が分からないけど」

 

葉月「そこは突っ込んじゃいけないところですよ」

 

雪蓮「はいはい」

 

葉月「でもまだ、琳の話のあらすじすら出来てないんですよね」

 

雪蓮「大丈夫なの?」

 

葉月「わかりません!」

 

雪蓮「キッパリというのね。ところで前も聞いたけどこの話、本当に終われるの?」

 

葉月「お、終わらせますよ?」

 

雪蓮「なぜ、疑問系なのかしら?」

 

葉月「……さて!次回のお話も今回同様、過去話になります。琳はいつ一刀からイヤリングを渡されたのか!乞うご期待です」

 

雪蓮「話をそらしたわね……まあいいわ。このあとじっくりと話し合いましょ♪体でね」

 

葉月「ひぃぃぃぃっ!」

 

雪蓮「それじゃみんな。ちゃんと更新しない葉月だからいつ合えるかわからないけどまたね~」

 

葉月「酷いですよ雪蓮。ぐすん」

 

雪蓮「いいから挨拶しなさい」

 

葉月「いてっ?!せ、背中叩かないでください!……ごほん、では皆さん三週間以上空けないようにがんばりますので次回もお楽しみにしていてください!」

 

雪蓮「無理でしょうけどね(ボソ)」

 

葉月「雪蓮さん?!」

 

雪蓮「それじゃ、またね~~~♪」


 
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