No.158068

異世界の天の御遣い物語20

暴風雨さん

ついに20。こんなに長くなるとは自分でもビックリです

2010-07-16 02:30:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3581   閲覧ユーザー数:2575

 

〝悲しき報せ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

諷陵城入城から次の日の夜――――――。

 

・・・城壁上・・・。

 

 

 

 

〝劉備・趙雲〟

 

 

 

 

「・・・桃香様、またここに入らしていたのですね」

 

諷陵入城から劉備は時間を見つけては城壁の上からみんなが帰ってくるのを心配しながら待っていた。趙雲は部屋にいない劉備を心配し、ここまで探しにきたのだった。

 

「星ちゃん。・・・ここなら遠くのほうまで見えるでしょ。みんなが帰ってくるのが逸早くわかるようにここに居たいんだけど、ダメかな?」

 

「しかし・・・すこし風が出てきた。そろそろ屋内に入いらないと体調を崩しますぞ?」

 

軽い風が吹き抜ける。夜の風はすこし肌寒いくらいだった。

 

「大丈夫。身体はちょっと寒いけど、心の中は真っ赤に燃えてるから」

 

「だから寒くないと?」

 

「うん」

 

劉備は腰のあたりで手を組み、軽く微笑みながら応える。応えたあとすぐに視線を城壁から見渡せる荒野に移す。

 

「ふむ・・・理想に燃える女というわけですな」

 

「心配に燃えてる女でもあるよ」

 

「分かっておりますよ。・・・しかしですな、桃香様。自分の心配してくれる人間の言うことを聞かずに、他人の心配をできるものではありませんぞ」

 

その言葉に劉備はすこし戸惑う。

 

「え!?・・・あの、えっと、星ちゃん。・・・もしかして、怒ってる?」

 

「すこし。・・・ですが、桃香様のその純粋な気持ちも分かってるつもりなので、どうか無理をなさらない程度に部屋にお戻りください」

 

「・・・ありがとう、星ちゃん。もう少ししたら、部屋に戻るよ」

 

その返答にすこし嘆息を吐きしぶしぶだが頷く趙雲。本当なら今にでも屋内に入ってもらいたいのだが、眼前を見据えるその横顔に負け、

 

「ふむ・・・それでは肩掛けをお持ちしよう。・・・夜風は身体だけでなく、心にも染み入りますからな」

 

肩掛けを持ってくることにした。

 

「ん、ありがとう」

 

「では・・・」

 

と歩き出そうとした時、一人の兵士がやってくる。

 

「申し上げます!ただいま殿(しんがり)が戻ってまいりました!」

 

「え!?本当!?」

 

劉備はすぐに城壁の上から見下ろす。そこには暗くてよく見えないが人影がゾロゾロと動いているのが見えていた。

 

「・・・ご主人様っ!」

 

「あ、劉備さま・・・!」

 

すぐに駆け出す劉備。一刻も早くみんなの無事をこの眼で見たいと全力で駆ける。だが、趙雲はここから見下ろし一つの疑問を抱いていた。

 

「・・・主の旗がない?」

 

趙雲は一抹の不安を抱えながら城壁を降りていった。

 

 

 

 

 

場所は移り・・・玉座の間。

 

 

 

 

〝劉備・趙雲・張飛・呂布・陳宮・諸葛亮〟〝関羽・鳳統〟

 

 

 

 

「桃香様!」

 

「・・・・・・・」

 

趙雲は劉備からすこし遅れて玉座の間に入る。そこには、青褪めた顔をして立ち尽くしている劉備。申し訳無さそうにうつむいている呂布や張飛、陳宮の姿があった。

 

「・・・桃香様?」

 

「・・・・・・・」

 

青褪めた顔を見て趙雲は何かを悟るように、玉座の間を見渡し、

 

「主?」

 

自分の主人である北郷一刀がいないことに焦りを感じる。

 

「鈴々、主はどうしたのだ?ここに居ないということは、他の場所にいるのか?」

 

趙雲はそうであって欲しいと心の中で願いながら口にする。だが口にした本人も、もうわかっていた。主が無事に帰ってきたのならばまず始めに姿を見せてくれる、と。

 

つまり、ここに居ないということは―――――――。

 

「・・・お兄ちゃんは帰ってきてないのだ」

 

「・・・・・・・」

 

張飛からのその言葉に心臓を握られるような感覚を味わう。そこへ、殿の帰還の報告を聞いた諸葛亮がやってくる。

 

「みなさーん!ご無事でなにより・・・・。・・・どうかしたんですか?」

 

諸葛亮は玉座の間に入って重苦しい空気を感じる。呂布、張飛、陳宮と順番に見ていき、そして・・・。

 

「あの・・・ご主人様は?」

 

「・・・いない、いないよ・・・!。どうしよう、朱里ちゃん・・・!?・・・ご主人様が、ご主人様が・・・!」

 

「そんな・・・!?一体、何があったんですか!?」

 

諸葛亮は殿から帰ってきた三人に説明を頼む。すると、三人は長板橋であったことをゆっくりと話していく。趙雲はなんとか三人の話に耳を傾ける。劉備は先に話を聞いていたので、すこし気持ちを落ち着けるために離れた椅子にペタンと座りながら両手を顔に持っていき、

 

「(ご主人様・・・!)」

 

無事であることを心の底から願っていた。

 

「そうですか。・・・そんなことが」

 

「・・・・・守れなかった」

 

呂布はグッと拳をにぎり力をこめる。

 

「恋殿・・・。あ、あれは誰にもどうすることができなかったのですよ!・・・恋殿が・・・そんなに落ち込むことは・・・」

 

「朱里!これからお兄ちゃんを探しに行きたいのだっ!行ってもいいでしょ?」

 

張飛の言葉にすこし考えてから、諸葛亮は

 

「・・・・それは無理です」

 

と苦顔をしながら口にしていた。その言葉に張飛は若干激怒しながら、

 

「なんでなのだっ!?お兄ちゃんのことが心配じゃないのか、朱里は!」

 

「っ!?・・・そ、そんなの心配に決まってるじゃないですかっ!!」

 

「だったら・・・!」

 

と張飛が言葉を続けようとしたとき、玉座の間に関羽と鳳統が入ってくる。

 

「騒がしいぞ。一体どうしたというのだ?」

 

「あわっ、朱里ちゃん、どうしたの大声なんかだして・・・?」

 

「あ、愛紗ーっ!」

 

張飛はすぐに関羽の元へと走っていき抱きつく。

 

「おお、鈴々!無事だったか!よかった。恋もねねも無事なようだな。・・・それでご主人様はどこにおられるのだ?」

 

「あっ!?そうだったのだ!朱里、お兄ちゃんを探しに行っちゃ行けないってどういうことなのだっ!ちゃんと説明するのだ!」

 

関羽の言葉にすぐにさっきの会話を思い出し離れ、諸葛亮の前でギャースカ騒いでいた。

 

「ご主人様を探す?・・・桃香様、どういう・・・って、桃香様は?」

 

「桃香様ならあそこだ」

 

趙雲が関羽のすぐそばまでやってきて劉備が居るほうを指差す。関羽は趙雲の声にどこか元気がないことを気にしながらも、劉備の傍まで歩いていった。鳳統は張飛に一生懸命説明している諸葛亮の傍まで歩いていく。

 

「あの、桃香様?」

 

「あ、愛紗ちゃん・・・。よかった、愛紗ちゃんたちは無事だったんだね。・・・愛紗ちゃんたちまで何かあったらって思っていたから、よかったよ・・・」

 

え、と関羽は固まる。

 

「今・・・なんておっしゃったのですか、桃香様」

 

「え?・・・愛紗ちゃんたちは(・・・)無事でよかったって・・・」

 

「たち?・・・ということは、ここにご主人様が居ないのは、まさか・・・」

 

「愛紗ちゃん、みんなから話を聞いたんじゃ・・・!」

 

「桃香様、正直に答えてください。・・・ご主人様は、どうしたのですか?」

 

ゴクリと一つ生唾を飲み劉備に聞く関羽。そして、劉備の口から、絶対にあってほしくない現実を言われる。

 

 

 

劉備から話を聞き動揺を隠せず落胆してしまう関羽。諸葛亮から話を聞き、泣き出してしまう鳳統など、玉座の間は混乱していた。

 

そんな中、先に話を聞いていて、心がすこし落ち着いていたのか。劉備・趙雲がみんなで落ち着いて話合おうと、この場に居る全員を軍儀のように椅子に座らせていく。

 

「みんな席についた?」

 

劉備は席についているみんなの顔を椅子にすわりながら見渡していく。やはりと言っていいのか、全員が落胆しており、いつものみんなではなくなっていた。

 

「それじゃ、話を始めるね。朱里ちゃん、さっき鈴々ちゃんに話していたことをもう一度話してくれる?」

 

「はい。まず、ご主人様を探すとなるとそれなりの人員が必要です。ですが、今の我々にはそのご主人様を探すに当たる人員を作れないのです」

 

「だから、なんで人員を割けないのだ?」

 

「ご主人様がどこに居るのかもわからず闇雲に探していては、時間の無駄です。その間にもこの益州では内戦が起り、民が苦しむことになります。・・・私達の兵数よりも相手のほうが上なのですから、むやみに兵を割くわけにはいかないのです」

 

「でも、民のみんなに事情を話せば、なんとかなるんじゃないかな?」

 

「ここの人たちは今の太守の劉璋さんに絶望しています。そんな時に桃香さまという方が来られたのに、その桃香さまが安心して暮らしたいといっている方々に、治めるのを待ってほしいなどと言っては、かならず人心が離れていきます」

 

「・・・・・・すぐに成都を落とせば、ご主人様を探しにいける?」

 

「れ、恋殿・・・?何を言って・・・」

 

だが、それもすぐには無理だと、諸葛亮は言う。この諷陵は益州でも端の端にあるのだ。成都まで侵攻するには城を二十個ぐらいは落とさないといけない。益州は大陸の四分の一ぐらいある広い地方だから、これぐらいはあって当然なのだろう。

 

「だが、この国は内乱中なのだろう?侵攻するにしても我らを阻む城はそうないのではないか?」

 

「内乱中だとしても、共通の敵ができたら協力しあうかもしれませんから、そう話は簡単ではないです。・・・まずは、劉璋さんに使者を出し諷陵入城の正当性を作らなければありません」

 

「くそっ!ご主人様が苦しんでいるかもしれないのに・・・我々は探すこともできないのか」

 

関羽が机をドンと叩き、嘆く。全員、本当ならすぐにでも探しにいきたいのは当然のこと。でも、ここを放って探しに行っては北郷一刀は何のために戦っていたのか・・・。

 

と、全員が話しているとき玉座の間の扉が開かれる。

 

「話が聞こえていたけど、北郷一刀って本当に生きているのか?」

 

そこには、関羽が待たせていていた人物、馬超の姿があった。

 

「馬超、貴様、ご主人様が死んでいるとでも言うのか?」

 

関羽は椅子からスッと立ち上がり武器を構えようとする。

 

「だってよ、片腕使えない状態で橋から落ちて、おまけに激流の川に流されていったんだろ?・・・普通に考えたら死ぬだろ」

 

「・・・・・・こいつ、誰?」

 

呂布もピリピリした殺気を放ちながら立ち上がる。

 

「こやつは馬超。錦馬超だ。・・・なぜ馬超がここに居るのかはあとで説明するが・・・馬超、お前はご主人様が死んでいてほしいのか?」

 

「そんなことは言ってないだろ。普通に考えたらって話だ。・・・変な風に聞こえたのなら謝るよ、ごめん」

 

「・・・・・・・」

 

呂布は謝った馬超を見て殺気をなくし、座る。

 

「私も北郷一刀には死んでいてもらっちゃ困るからな。・・・だから、私達が北郷一刀を探してやるよ」

 

「え?」

 

その言葉にここにいる全員が驚く。

 

「私はお前達の軍の者じゃないからな。好きに動いてもいいだろう?」

 

「えっと、馬超さん、でしたよね。なんで、ご主人様のこと・・・」

 

「あんたは?」

 

「あ、ごめんなさい。私は劉備。それで、質問の答えなんだけど」

 

「あんたが劉備か・・・ふーん。見た感じじゃ悪い奴には見えないね」

 

「え!?な、何?愛紗ちゃん、説明してよ~・・・」

 

「そうですね。馬超は・・・」

 

「私は自分の部隊を率いて探しにいくから。しばらくしたら報告にくるから、またな」

 

馬超はそれだけを言うと自分の部隊があるところまで行ってしまう。関羽は止めようとしたが、先にみんなに説明をと、全員に馬超のことを話すのだった。

 

「涼州の馬騰さんが殺されるなんて・・・。しかもそれをやったのが」

 

「主と同じ服を着た人間とは・・・なんとも」

 

皆が関羽の話に首を傾げていおると、関羽の部下がやってきて、馬超が部隊を率いて出て行ったことを伝える。

 

「馬超さんは馬一族ですから機動力があります・・・移動のことは心配ないのですが。・・・ご主人様を見つけても襲ったりしないでしょうか?」

 

「それは戦った私が保証しよう。最初は憎しみの塊で人の話を聞かずに襲ってきていたが、今ならご主人様とあってもすぐには戦わないと思う」

 

「えっと、それじゃあ、ご主人様を探すのは一旦馬超さんたちにまかせていいかな?」

 

「自分自身で探しに行きたいが、状況が状況なだけに、仕方あるまい」

 

趙雲の言葉のあとにみんながなんとか自分に納得させる感じで頷いていく。

 

「早くこの益州をまとめてお兄ちゃんを探しに行くのだっ!」

 

「《コクッ》・・・恋、頑張る」

 

「ねねも頑張りますぞーっ!」

 

「朱里ちゃん、頑張って作戦考えようね」

 

「うん、雛里ちゃん」

 

「それじゃあ、今日は明日に備えて休もうか。・・・最後にご主人様の無事をみんなで祈ろう。ね、愛紗ちゃん」

 

「・・・はい、桃香さま」

 

 

「ご主人様《主、あいつ》が無事でありますように・・・」

 

 

 

 

 

その次の日の朝――――・・・。

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

 

「・・・・・ううん・・・・ここどこだ?」

 

 

北郷一刀はとある場所で目を覚ましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝医者王・華佗〟

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

「・・・・・ううん・・・・ここどこだ?」

 

まどろむ意識を覚醒させながら、目を開けると天井が見える。そのあと上半身だけを起こし、首を動かしながらあたりを見るとどこかの部屋のようだった。

 

「(・・・あれ?俺って・・・確か川辺にいなかったか?・・・なんで寝台なんかで寝ているんだ?)」

 

頭の上に何個も?マークを浮かべながら考えるが、全然わからない。とりあえずここがどこかわからないと始まらないと、寝台から出て部屋にある窓を開ける。

 

「・・・・・・」

 

すこし眩しい日差しに目を眩ませながら、だんだんと慣れてくる視界で辺りを見渡す。そこにあったのは・・・・にぎやかな街の風景だった。

 

「どこかの街か。・・・ますますわからないな」

 

窓からすこし乗り出し上を見てみると看板が見え、そこに書いてあったのは、宿屋兼飯屋と言う文字だった。

 

「宿屋兼飯屋・・・?うむ・・・ここがどこかわからないが、誰かがここまで運んできてくれたということか」

 

自分の服装を見ながら考える。俺の今の服は普通の町民たちがきているようなそんな服だった。ズボンはそのままで、黒のシャツの上に道場着を着せてある感じ。

 

「・・・なんか微妙な組み合わせだな」

 

制服の上は、と探してみると制服の上は綺麗に折りたたんであり、椅子の上においてあった。

 

「身体は・・・ん?変だな、あんまり痛くない?」

 

折れている腕はまだ痛むが、それでもあれだけ斬られていた身体のほうは傷口が塞がっており、治療のあとがあった。

 

「・・・生きてる」

 

身体をポンポンと叩きながら呟く。川辺に倒れていたときはこのまま死ぬんじゃないかと思っていただけに、すこし自分が生きていることに感動・・・に似た感情が出てきていた。

 

「誰が助けてくれたのか、わからないけど。・・・お礼、言わなくちゃ」

 

そう考え、外に出ようとしたとき、気づいたことがあった。

 

「・・・・刀がない」

 

そう俺の愛刀がなくなっていた。しかも三本とも・・・。

 

「もしかして・・・川に流されたときに・・・・?」

 

そう考えたら絶望的だった。あの流れだとどこに行ったのかもわからない。いや、待て。もしかしたら、俺を助けてくれた人が・・・持っていった・・・?

 

いやいや、待て待て。俺が川辺で起きたときに・・・刀ってあったかな?・・・えと、なかった・・・ような・・・。

 

などと頭から煙が出てきそうなほど考えているとき、部屋の扉が開いて、

 

「おお。起きていてのか。・・・身体のほうは大丈夫か?」

 

どこまでも通っている声が聞こえてくる、そこに居たのは、赤い髪に白のロングコートのような服を着た・・・・誰?

 

「あなたが俺を助けてくれたんですか?」

 

「ん、ああ。一緒に行動を共にしていた奴等とはぐれてな。探しているときに偶然、お前が川辺に倒れていているのを見つけて治療したというわけさ」

 

「治療?・・・ってことは、あなたは医者なんですか?」

 

赤い髪の人は立って話すのもなんだからと、椅子に座り俺は寝台の上に座る。

 

「俺は五斗米道という教団の者だ。大陸を歩き回りながら病魔に蝕まれている人間を助けるのが俺の使命だ」

 

「五斗米道・・・?(向こうの世界で聞いたことあったような・・・)」

 

「違うっ!」

 

「うあっ!」

 

え、ええ!?なんかいきなり怒られたんですけど・・・!

 

「五斗米道(ごとべいどう)じゃないっ!五斗米道(ゴッドヴェイドー)だっ!」

 

「ごっど・・・?」

 

「迷わず腹から声を出すように!・・・五斗米道ォォォォォォ!!」

 

「五斗米道ォォォ・・・・」

 

すいません、すごく恥ずかしいんですけど・・・!

 

「発音はまあまあいいが、腹から声が出てないじゃないか。ほらもう一回!五斗米道ォォォォォ!!」

 

「ええい!五斗米道ォォォォォォ!!」

 

「お、いい感じだぞ!今度は一緒に・・・」

 

「五斗米道ォォォォォォ!!」

「五斗米道ォォォォォォ!!」

 

前より身体が楽と言ってもこんなに大声を出していたら、身体が痛いんですけど!?・・・この人本当に医者なのか・・・?

 

そして、しばらく一緒に叫びまくっていた。・・・宿屋の主が怒ってくるまで。

 

 

 

 

 

 

「・・・すまなかった。五斗米道の発音を間違えられると、つい・・・」

 

「いえ、ぎにじないでぐだざい。・・・ぢょっど声ががれているだけでずがら・・・」

 

そうは言ってもやっぱり喉は痛かった。そう思っていると赤い髪の人はおもむろに自分の懐から針を出してきた。

 

「あの・・・」

 

「じっとしているんだ。・・・はああああああああっ!」

 

「(っ!?・・・この氣・・・なんて強い氣なんだ・・・!)」

 

「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒・・・病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

そう叫んだあと鍼を俺の喉に刺して、すぐに抜く。

 

「痛・・・くない?・・・あれ?喉が・・・」

 

鍼を刺されたのに全然痛みはなく、喉の痛さも重さもなくなっていた。

 

「これが五斗米道・・・」

 

「そうだ。あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は華佗」

 

「華佗さんですね。・・・俺は北郷一刀と言います。遅れましたが助けてくださってありがとうございました」

 

華佗・・・確か伝説的な名医だったはずだ。まさか、男だったとは・・・。俺はてっきり華佗も女の子だと思っていた。

 

「ん?・・・俺の顔に何かついてるか?」

 

「あ、いえ。あっ、そういえば華佗さん」

 

「呼び捨てでいいぞ。それでなんだ?」

 

「えっと、俺を見つけたとき、近くに刀じゃないや・・・剣みたいのなかったですか?」

 

「剣?・・・んー、いや。俺が見つけたときにはそんなものはなかったぞ」

 

「そう・・・ですか」

 

となると、完璧に流されたのか・・・。うーんと頭を悩ませていると、

 

「まだ起きたばかりなのだから、そう無理に考えるな。身体はまだ完全じゃないんだから」

 

「・・・そうですね」

 

刀はとても大切なのだが、ここは身体を休め早く動けるようにして、探すことにする。

 

「さて、悪いが俺は行かなくてはならない。ここの宿代はしばらく居られるように払ってあるから安心してここで休んでいてくれ」

 

「え?そこまでして・・・」

 

「気にするな。困ったときはお互い様だ。あ、あとこれは困ったときに使ってくれ」

 

ガチャと袋を机の上に置く華佗。それは、なんとお金だった。華佗が言うには飯代その他もろもろなんだそうだ。

 

やばい、この人めちゃくちゃいい人だ・・・!五斗米道・華佗さま、万歳と心の中で叫んでおく。・・・また宿屋の主が来るかもしれないので。

 

「あ、そういえばここってどこなんですか?」

 

「変な事を聞くな。ここは宿屋兼飯屋の・・・」

 

「いえ、そうではなくて」

 

「ん?・・・ああ。そういうことか。ここは・・・呉だ」

 

「・・・・・へ?」

 

あまりに聞いたことのある名前にキョトンとしてしまう。

 

「それじゃ、よく寝てよく食べて早く良くなれよ。・・・一刀、達者でな」

 

手をビッとした華佗は扉を開け、去っていった。

 

「呉ぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

去っていった華佗が開けた扉を見ながら俺は叫んでいた。・・・そのあとすぐに宿屋の主がきて、頭を叩かれてしまう。

 

 

 

 

 

次の日―――――・・・。

 

俺は今朝食を食べている。左腕が使えないので茶碗も持てず不便だが、なんとか食事中。味はなかなかにうまい。

 

「・・・《モグモグモグ・・・》」

 

味はおいしいのだが、一人で食べていると・・・なんとも寂しい。早く刀を見つけ出して帰りたいと、闘志に火をつけ店から出る。もちろんお金を払って。

 

店から出た俺は、とりあえず空を仰ぎ見る。ここは呉で、首都の建業らしいけど・・・実感が湧かん。

 

「(とりあえず街を散策してみるか。川で流されていても、刀だって打ち上げられて誰かが拾ってるかもしれないし、聞き込みもやるか)」

 

そうして俺はゆっくりと歩き出した。・・・ちなみに服装は昨日と同じだ。ここは呉なのでなるべく将たちには見つからないようにしなければいけない。

 

「(制服なんか着てたら目立つしな・・・そういえば、こっちに着てから、この世界の服を着るのは初めてだった)」

 

自分の服装を見下ろす。・・・やっぱりちょっと微妙だった。

 

それから俺は日が沈みそうになるまで、途中休憩も挟みながらこの街を歩き回った。

 

途中で刀のことを知らないかと聞き込みもしてみたが、なかなか成果があがらず、しょんぼりとして宿屋に帰っていった。

 

「はぁ~・・・疲れた。もう少し休んでから、動いたほうが良かったか・・・。」

 

寝台に倒れながら、そう呟く。仰向けで横になっていると、だんだんと眠気が襲ってきて眠りそうになっている。

 

「っと、その前に腹が減ったし、隣の飯屋に行くか」

 

俺は眠い頭を振り起こしながら、立ち上がる。そうして、扉に手を掛けた時、

 

―――――ドドドドドドドドド!!

 

とものすごい速さで近づいてくる足音が聞こえてくる。その足音は俺の部屋の前で止まり、そして、

 

「一刀~っ!無事っ!?」

 

扉を蹴破りそうな勢いで入ってくる。俺は扉から離れておいたので吹っ飛ばされずにすんだ。

 

「え~と・・・君は?」

 

金髪にロングヘアーで碧眼で、頭にはネコミミがあり、腰のあたりにはシッポみたいのがあった。

 

「ん?・・・あれ?今、おかしくないか。・・・名前呼ばれたよな」

 

名前・・・?ネコミミ・・・?シッポ・・・?・・・つけものだよな・・・って動いてるっ!?

 

「《ウルウル・・・》・・・一刀~っ!会いたかったよ~っ!」

 

「うああっ!?」

 

いきなり飛び掛ってくる女の子に俺は尻餅をしながら受け止める。左腕に当たって、痛かったがなんとか我慢する。

 

「一刀の匂いだ~。ほっぺ舐めちゃお。《ペロ・・・ペロ・・・》」

 

「うひゃ!な、何を・・・!?」

 

突然のほっぺの感触に俺は変な声を出して驚く。

 

「一刀が無事でよかったよ~・・・。あんなところもう絶対に帰らないっ!」

 

「すいません、俺の上で息巻いても困るんですけど。・・・それに痛い」

 

俺はなんとか金髪碧眼の女の子にどいて貰い、まずは誰なのかを教えてもらうことにする。

 

「ええっ!?一刀、私の事がわからないの・・・!?・・・そんなぁ~・・・」

 

「生憎と俺は金髪碧眼で美少女でネコミミとシッポをつけた知り合いはいないんだ」

 

「美少女・・・。一刀にそんなこと言われると・・・」

 

「あの~、いい加減名前だけでも教えてくれても・・・」

 

ネコミミがシュンとなって赤くなっている姿はとても可愛い・・・じゃなくてっ!

 

「名前を言うより、猫の姿になったらわかるんじゃない?」

 

「へ?・・・猫の・・・姿?」

 

そう言って女の子は寝台に上がると、淡く光り始める。そして、どんどんと身体が縮んでいき、最後には、

 

「・・・・・・・」

 

俺はその姿をみて、唖然としていた。だって、猫に・・・って、あれ?・・・・・・・あっ!

 

「ねっちゃんっ!?」

 

「にゃーん!」

 

鳴き声をあげたねっちゃんは俺の肩にトンッと一回乗りそのまま俺の頭にペターンと身体を広げ乗る。

 

「なるほど、ねっちゃんだったのか。なーんだ、はっはっはっはっはっ!・・・って、納得できるかぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

俺は部屋の中で前方に向かって大声をあげた。・・・しばらくして宿屋の主が来て、俺の頭を叩こうとしたが、猫(ねっちゃん)を見て、菩薩のような顔で帰っていった。

 

どうやらここの主は猫好きのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝ねっちゃん〟

 

 

 

 

 

それから、場所は移り、飯屋へ――――・・・。

 

 

 

「注文したのより豪勢になっている・・・」

 

俺は米が食べたかったのでマーボー豆腐と白米を頼んで、麻婆丼にして食べようと思っていたのだが、注文してないものまで運ばれてきた。

 

運んできた人に聞いてみたら主からです、と言われて、厨房の方を見てみると、菩薩のような顔でこっちを見ていた。・・・ちなみにネコマンマみたいなものも運ばれている。

 

「これ、ねっちゃんにだってさ。・・・はい」

 

ねっちゃんは俺の向かいに座っている、椅子にではなく机の上に。行儀がというかそこはいけないだろうと言ったのだが、別にいいじゃないと一言で終わってしまい、厨房を見てみるとやっぱり菩薩のような顔でこっちを・・・というかねっちゃんを見ていた。

 

「・・・ま、いっか。いただきます」

 

「いただきます」

 

肉球と肉球を合わせてお辞儀をしている。ちょうど俺が壁になって他の方には見えていないが、見えていたら大変だったな。・・・厨房は・・・よし、どうやらいないようだ。

 

「あれ?そういえば、普通に人語話しているね」

 

「人型化できるようになってから、猫の姿でも人語が喋れるようになったのよ。・・・人前ではさすがに喋らないけど」

 

「・・・そりゃ懸命な判断だ。・・・あのさ、さっきの質問の」

 

「絶対に言わない」

 

「・・・あそ」

 

俺はここに来る前にねっちゃんにいろいろと質問していた。どうして人の姿になれるのか?なんで俺がここに居ることがわかったのか?。などいろいろだ。

 

けど、ねっちゃんはその質問にどれも答えてはくれなかった。あまりに答えてくれないので、喋りたくなるまで聞かないことにしたんだが。・・・やっぱり気になるから、間をおいては軽く聞くぐらいにしている。

 

・・・結果は同じだけど。

 

そうしている間にも俺とねっちゃんは飯を食べ終わり部屋に戻っていく。ねっちゃんはあいかわらず俺の頭の上に乗っかっている。ま、暖かいからいいんだけど、よく落ちないよなぁ~、などと感心しながら部屋の扉を開け寝台に寝転がる、仰向けで。

 

「はぁ、いい感じの疲れだな。そろそろ寝るか」

 

「そうね。よっ」

 

ねっちゃんは当然のごとく俺の上に丸まって寝ようとしていた。

 

「俺が寝返ったらつぶれないか?」

 

「人間ってのは痛めている箇所を無意識にでも守ろうとするわ。腕が折れているんだから寝返ったりしないわよ」

 

「そんなもんか?・・・ま、いいか。・・・おやすみ」

 

「・・・おやすみ、一刀」

 

 

 

 

 

 

〝五胡〟

 

 

 

「夢幻様、金嘩の奴が・・・」

 

「わかっている。・・・ほうっておけ」

 

「しかし!金嘩が我々の計画を誰かに漏らしたりでもすれば・・・!」

 

「・・・・・」

 

「あっ!?・・・いえ、失礼します」

 

西王母は一礼をするとある部屋を出て行く。

 

そして、場所は軍儀室――――。

 

 

「ま、抜け出してもしゃあないやろ。かずピーを傷つけたんやし」

 

「及川は黙ってなさい!」

 

「うお!?ああ、コワ。それじゃ俺は自室で休んでるとしよか」

 

そう言って軍儀室を出て行く及川。

 

「ちっ!・・・こうなったら、銀っ!」

 

「なに、カカ様」

 

椅子に座っていた幻狼の銀樺がトコトコと西王母の近くまで行き見上げる。

 

「銀に頼みたいことがあるんだ。カカの言うこと聞いてくれる?」

 

「うん!カカ様のお願いならなんでもやるよ」

 

「そう。いい娘だね、銀は。それじゃあ――――――。できる?」

 

「簡単だよ。それじゃあ、すぐに行ってくるね」

 

銀樺は人の姿から狼の姿になると、軍儀室から出て行き、もの凄い速さで駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

朝、目を覚ますと最初に目に飛び込んできたのは、もちろん天井・・・ではなく、誰かの唇・・・って、うおおおおっ!?

 

「な、な、なんだ・・・!?」

 

俺はすぐに飛び起きて状況を把握する。寝台の横に人の姿でブーと膨れっ面しているねっちゃんが立っていた。

 

「もう少しで唇を合わせられたのに・・・残念」

 

ネコミミがシュンとしている。そこまで落ち込まれると、罪悪感が・・・。キスしても・・・いやいやっ!自重だ、俺!

 

首をブンブンと振って変な考えを振り落とす。新鮮な空気を吸おうと窓を開け、深呼吸して心を落ち着ける。二、三回してから振り返るとねっちゃんは猫に姿になっていた。

 

「一刀、ご飯食べに行こう」

 

昨日と同じように頭の上に乗っかってそう言ってくる。肉球でおでこあたりをポンポンと叩いてきたりしたのは、なんとも言えない気持ちよさだった。・・・変な意味じゃないよ?

 

そして、朝食を食べ、昨日と同じように菩薩店主の顔を見て、店から出て行く。

 

「これからどこに行くの?」

 

「俺の刀がなくなっちゃって昨日から探しているんだけど、これが中々見つからなくて困ってるんだよ。だから、今日も街を回って聞き込みしようと思って」

 

と俺とねっちゃんは周りに聞こえないほどの小声で喋る。

 

「ふーん・・・。なら、私も手伝ってあげる」

 

ねっちゃんはピョンと俺の頭から降り、地面に着地してから走り去っていった。去って行くときに「いろいろと街の話を盗み聞きしてくる」と言い残して・・・。

 

俺はそんな猫の後ろ姿を見送り、一人で歩き出す。頭のモフモフ感がないのは、ちょっと寂しく感じるようになっていた。

 

そんなこんなで、昼に差し掛かり、俺とねっちゃんは合流する。

 

 

「ここまで聞き込んで、拾った人の情報もなければ見たって人もいない。・・・はぁ、刀なしでみんなのところへ帰ることになるのかなぁ」

 

そうして頭を垂れて茶屋の外の椅子に座って落ち込んでいると、頭の上にあのモフモフ感がやってくる。

 

「一刀、情報が手に入ったわよ。・・・聞きたい?」

 

「え!?おお、すごく聞きたいっ!」

 

頭の上にいるねっちゃんを片手で抱きかかえ、頬ずりしながら頼み込む。

 

「にゃーっ!?ちょっ・・・!?心の準備がっ・・・!」

 

「頼むーっ!この通りだーっ!」

 

どの通りだと、突っ込みをいれたくなるような頼みかたをしている俺。しばらく頬ずりしていると、「どこに頬ずりしてるのよーっ!」という声とともに頬を引っ掻かれてしまった。

 

「まったく・・・!話すから、すこしは落ち着いてよね」

 

「・・・ういっす」

 

引っ掻かれた俺は頭を冷やし、椅子に腰掛ける。・・・ねっちゃんが話をする前に、お店の人が「その猫、喋ってませんでした・・・?」と怯えながら聞いてきたので、「腹話術ですっ!」と笑顔で答えた。その笑顔をどう受け取ってもらえたのか、若干引き気味に店の中に帰って行く店員さん。

 

「歩きながら小声で話すわね・・・」

 

「了解」

 

そそくさと立ち上がり、店をあとにする。

 

 

 

 

 

 

「え?・・・城に?」

 

「ええ。ここの商人が偶然、川の近くで落ちているめずらしい形状をした剣を見つけたんですって。その剣は三本あって、王様にいつものお礼だと献上したそうよ」

 

「・・・王様。呉の王様・・・。・・・《ダラダラダラ・・・》」

 

俺はいやな汗が出てくるのを感じながら、考える。呉の将に見つからないようにしていたのに、まさか刀が城にあるなんて最悪じゃないか・・・。

 

普通に城に行って「俺の落し物があるんで返してください、てへ」なんて行って言ってみろ・・・。命がなくなるじゃないかっ!?

 

「どうするの、一刀。・・・夜に忍び込むって、手もあるわよ」

 

「・・・うーん、もうちょい考えさせてくれ。とりあえず昼だし、どこかに・・・」

 

と言いかけた時、誰かの突き刺さる視線に気づき、振り返る。

 

「(ねっちゃん・・・)」

 

「(うん・・・!何か居るわよ・・・。人ごみが邪魔でわかんないわね・・・。)」

 

一人と一匹であたりをキョロキョロと目だけで見渡す。そして、俺は見つけた視線の人物を・・・!そこに居たのは・・・!

 

「・・・・女の子?」

 

黒髪で背は小さく背中に日本刀みたいな形状をした長刀を持っており、遠くからでもわかるくらいに目が輝いている。

 

「・・・・え?」

 

その女の子はいきなりこっちに向かって大声で何かを言いながら走ってきた。

 

「おーねーこーさーまーっ!!」

 

「ぎゃーーーーーっ!!」

「にゃーーーーーっ!!」

 

 

俺とねっちゃんは訳もわからず、ただ怖くなり、いきよいよく後ろへと走って逃げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

逃げ始めてから少しして俺たちは、その女の子に捕まえられてしまった。場所は路地裏で。

 

まだこの街の道を詳しく知らない俺では、逃げ切れるはずもなかった。捕まってしまった俺は、なんで追いかけてきたのと聞くためにも女の子と話を始める。

 

「・・・《じぃ~・・・》」

 

「あの・・・?もしもし・・・?」

 

「・・・《じぃ~・・・》」

 

しかし、話そうにも女の子は俺の頭の上のねっちゃんをキラキラした目で見ていて、俺の声はまったくと言っていいほど聞こえては居なかった。

 

「にゃ、にゃーん、にゃ」

(ちょっと一刀どうすんのよ、この娘。さっきから私の事じっと見つめてきてるんだけど・・・)

 

「・・・・・・」

 

俺は猫語でねっちゃんと会話するわけにもいかないので、だんまりする。人前で猫語を話すと変な人に思われるからで、だから――――。

 

「あなた、一刀さんと言うんですね。・・・あの、その、・・・っ!・・・お猫様、モフモフさせてもらってもいいですかっ!!」

 

「え?モフモフ?・・・あれ、今名前・・・」

 

「はい。そのお猫様が言っていたので・・・はっ!もしかして真名だったでしょうかっ!?あうぁぅ・・・申し訳ありませんっ!?」

 

「いや、そういうことじゃないから、落ち着いてくれ。・・・君、猫の言葉わかるの?」

 

「はい。・・・変でしょうか?」

 

星、ここにも猫語がわかる人間が居たぞ・・・。

 

「変じゃないよ、俺も猫の言葉わかるから・・・って、うおっ!?」

 

女の子のキラキラした瞳は俺のほうに向いていた。

 

「仲間ですねっ!猫語がわかるということは猫、大好きなんですか!」

 

「おお、大好きだぞ。ちなみに、俺の名前は北郷一刀で猫の名前がねっちゃんだ。よろしく」

 

「北郷一刀さんとねっちゃん様ですね。はい、よろしくです。私の名前は周泰、字は幼平と言います」

 

両手を胸の前で合わせて、ニコニコ顔で言ってくる。・・・俺が〝さん〟でねっちゃんが〝様〟は突っ込まないでおこう。

 

「あの、それで、・・・モフモフいいですか?ねっちゃん様」

 

俺は頭の上のねっちゃんを頭から降ろし、目線を合わせる。

 

「ミャアー」

(・・・いいけど、痛くしないでね)

 

「はいー!・・・では、失礼して」

 

ねっちゃんは〝様〟と言われたことにまんざらでもない様子で答えていた。そのあと、周泰がねっちゃんをモフモフしている間、顔が破顔していたのは、ちょっとビックリした。

 

そうして、しばらくモフモフしていると、急に思い出したように立ち上がり、

 

「あっ!そうでした、警邏中でしたっ!?あうぁぅ~・・・もっとモフモフしたいけど、一刀さんねっちゃん様失礼しますっ!」

 

「あ―――・・・。ものすごい速さで行ってしまったな・・・。表情が豊かな娘だったな、ねっちゃん」

 

頭の上に戻り、ペターンと寝ているねっちゃん。どうやらモフモフされて疲れたようだ。しばらく寝かしておくか。

 

そう思って歩き出し、ふと思ったことがあった。

 

「(周泰ってどこかで聞いたような名前だな・・・。それに警邏って・・・。ま、いっか。将だったとしても俺のことわからなかったみたいだし)」

 

そうして、俺は路地裏を出て、昼飯を食べるために飯屋へと向かって歩き始めた。

 

「はぁ、早く腕治んないかなぁー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 
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