No.158067

異世界の天の御遣い物語19

暴風雨さん

どうもです、投稿するのが遅いですが勘弁でお願いします

2010-07-16 02:26:50 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1980   閲覧ユーザー数:1710

〝長板の戦い 終編〟

 

 

 

 

 

 

 

 

絡新の叫び声がここまで聞こえてきた。・・・どうやら終わったようだ。その安心感から橋の上に座り込む。

 

「あれ?腕に刺さっていた矢が消えている・・・。あいつを倒したから消えたのか」

 

けど痛みは消えてはくれない。刺さったところから少しずつ血が垂れていき橋の上にぽたぽたと落ちていく。

 

「お、お前・・・。大丈夫なのですか?」

 

痛みのせいで苦顔していたのか、心配そうに覗き込んでくるねねに対して、

 

「ああ。・・・こんなの大したことは―――――《ズキッ!》痛てっ!」

 

「痛いなら痛いとはっきり言うです!隠された方が心配するのです!」

 

安心させようと若干ひきつった笑顔で答えようとしたのだが、途中で激痛が腕に走り、怒られてしまった。

 

「そのままじっとしてるのです。止血くらいなら」

 

ねねは自分の懐からハンカチサイズの布を取り出し、傷口に抑えて止血してくれる。

 

「ありがとう、ねね」

 

腕が折れているから抑えられると正直痛いのだが、ねねの厚意を無駄にしないためにも我慢する。血はそんなに出てはおらず、ねねの処置だけでも止まりそうだった。

 

「鈴々、曹操おねえちゃんに衛生兵呼んでもらうために、ちょっと行ってくるのだ」

 

「頼んだですよーっ!」

 

蛇矛をその場に捨て置き走っていく鈴々にねねは声を掛ける。そうして少ししてから恋、華琳、凪、張遼とさっきの不思議な者?を頭に乗せている少女とメガネでキリッとした少女が衛生兵を引き連れてやってきた。

 

「感謝します、北郷一刀。華琳さまの命を救ってくださって」

 

「あ、ああ」

 

衛生兵の治療を座りながら受けて、こっちが恐縮するほどにメガネの女の子が礼儀正しく頭を下げてくる。

 

「ところで君達の名前は何て言うんだ?・・・俺の名前は知っているみたいだけど、改めて名乗らせてもらうよ。姓は北郷、名は一刀。真名はないから好きに呼んでくれていいよ」

 

「私の名前は郭嘉。真名は稟と申します。この名前貴方に預けます」

 

「ええっ!?いきなり真名を預けるって・・・」

 

この娘には真名はその程度のものなのだろうか・・・と考えていると、

 

「私が一刀に真名を預けなさいと言っておいたのよ」

 

「華琳か。・・・こんなことを言うのはあれだけど、真名を預けるのを命令するなんて」

 

「一刀、貴方は王を助けたのよ。本当なら私の魏を貴方に譲渡するぐらいのことなのよ。・・・でも、今回のこの戦いは」

 

「待った。それ以上言わなくていいから。・・・でも俺は無理に命令された真名を受け取る気には」

 

「待ってください一刀殿、あなたは誤解している。私は自らに意志で貴方に真名を預けているのですよ」

 

「・・・・・え?」

 

俺がキョトンとしながら変な声を出していると、小さく笑い声が聞こえてくる。それは華琳が後ろを向きながら肩を震わせながら笑っている声だった。

 

「・・・華琳」

 

「私は確かに稟に真名を預けなさいと言ったけれど、嫌なら・・・」

 

チラッと郭嘉の方を見て話を区切り、

 

「はい。違う方法で礼をするから断ってもいいと言われました」

 

はい、そういうことでした。・・・はぁ。と息を吐いていると、衛生兵の人もクスクス笑っているのが見えた。

 

「・・・それじゃあ、ありがたく呼ばせてもらうよ、稟」

 

「はい。・・・あとは、風」

 

「・・・・・・・・・ぐう《Zzz・・・》」

 

おお!立ったまま寝ているよこの娘。・・・本当に寝ているのか?

 

「起きなさい風。あなたも真名を預けるって言っていたでしょう」

 

「・・・おおっ」

 

いや、おおって・・・。本当に独特の空気を持っているなぁ。・・・今、真名預けるって言わなかった?

 

「おはようございます、お兄さん」

 

「あ、はい。おはよう」

 

ペコッと頭を下げてくる少女。頭の上の変なのは今の角度でも全く微動だにしなかった。一体どうなっているのか気になるぞ。

 

「風の名前は程イクって言います。真名は風です。風と呼んでください、お兄さん」

 

「・・・もしかして戦う前にお礼がしたいって言っていたのは」

 

「はいー。この事ですよー」

 

「やっぱり!?でも、いいのか?そんな簡単に自分の真名を預けたりして」

 

「いいのですよ~。風自身がいいと言っているので気にしないでください~」

 

「ま、まぁそう言われちゃうとなにも言えないんだけど。・・・じゃ、風。大切に呼ばせてもらう」

 

「はい~」

 

まだ雨が降る中で、橋の上で二人の真名を預けてもらった俺は治療もそこそこに立ち上がる。腕が動かないように固定してもらい、傷口も完全に止血してあり、さっきよりは痛みも良くなっていた。

 

「隊長、大丈夫ですか?」

 

「ああ。おかげでさっきより大分いいな。・・・それよりも」

 

「・・・?」

 

「そろそろ隊長はやめないか?俺はもう隊長じゃないし、凪は俺よりもしっかりと警邏しているんだろ?だったら・・・」

 

「・・・・・・」

 

凪がポカンと口を半開きにしてこっちを見ている。目の前で手を振ってみても反応がないほどに。あ。あれ?俺は何か変な事を言ったんだろうか?

 

「隊長。・・・隊長は自分に隊長と呼ばれるのがいやなのですか?」

 

「嫌じゃないよっ!?だけど・・・」

 

「だけど・・・なんですか?」

 

「凪に一刀って呼んでもらいたいな~・・・なんて」

 

頭の後ろを手でポリポリと掻きながら少し恥ずかしいことを言う。

 

「一刀・・・・?」

 

「そう。凪は俺の部下じゃなく一人の魏の将なんだから。俺のことぐらい呼び捨てでいいんじゃないか?」

 

「呼び捨て・・・?一刀・・・・?」

 

小さく何かブツブツといいながら固まってしまう凪。少しすると顔はみるみると真っ赤になっていき、そして

 

「む、む、無理ですっ!?こ、これからも隊長と呼ばせてくださいっ!?お願いしますっ!」

 

凄い早口でお願いまでされてしまったっ!?。・・・そこまで嫌なのだろうか。

 

「そこまで言うなら無理にとは言わないが・・・・ま、凪の好きにしてくれ」

 

「はい!ありがとうございますっ!あ、自分も兵達も纏めてきます!失礼します!」

 

また早口でそう言うと走っていき、橋を渡りきり向こうに見える兵士たちのほうに向かってしまう。

 

「凪があそこまで動揺するなんてなぁ。一刀、凪に何言うたん?」

 

「いや、特にこれといって何も。・・・そういえば張遼とはまだ普通に話したことなかったな」

 

「そうやったっけ?まぁそんなこと気にしなくてもええやろ。でも、まぁ名を名乗ることぐらいしとくか。ウチの名は張遼、字は文遠。真名は霞や。よろしゅうな、一刀」

 

さっぱりとした性格だということがこの挨拶で最初に持った印象だ。ニシシと笑ってくる笑顔にこちらまで笑顔にしてしまうような雰囲気を持つ。

 

「俺は北郷一刀。一刀って呼んでくれてるからそのまま呼んでくれ」

 

「おう。ウチのことは霞でええで。気楽に呼んでや」

 

今日これで三人目の真名を預けられてしまった。言ってきた本人は気楽にとか言っているが、改めて真名ってやつがわからなくなってきた。と考えていると、

 

「一刀、徐州のことで話があるのだけど」

 

華琳が深刻そうな顔で言ってきた。

 

「・・・ああ。わかった。恋、鈴々、ねねは兵たちの所へ行って帰る用意をしといてくれないか?俺も話が終わったら行くから」

 

「・・・ん、わかった」

 

「鈴々もわかったのだ。早く帰っておなかいっぱい食べたいのだー・・・」

 

「お前には言いたいことがあるのですから、早く来るですよー」

 

「風、稟、霞、凪も戻っていていいわよ。私が戻ったら少し軍儀をするから準備をしておきなさい」

 

「御意」

 

とみんなは返事をしたあと、そのまま魏の兵士たちが居るところまで歩いていく。

 

「徐州のことだったな。華琳の言いたいことは大体だがわかっているよ。俺たちが徐州に戻るのは無理だってことだろ」

 

「・・・ええ。残念だけど。あなたたちは逃げ出した。理由はどうあれ徐州の民たちがこれを納得してまた戻ってくるのを・・・許すことは不可能ではないとは言えないけど」

 

「みんなが納得して俺たちを迎え入れてくれるか・・・か。凄く時間が掛かることなんだろうな」

 

「・・・すまないわね。こんな形であなたたちの領土を奪うことになるなんて」

 

「いいさ・・・とは素直には言えないけど、華琳ならうまく徐州をまとめてくれると信じているよ。桃香も華琳を信じているようなこと言っていたぞ」

 

「桃香が?・・・そう」

 

少し微笑みながら目を瞑っている華琳。その姿を見て俺は、自然と頭の上に手を伸ばし撫でる。

 

「なっ、なにしてるのよ、一刀っ?」

 

「これから頑張る華琳に対してのおまじない。それと俺が急にこうしてやりたくなった」

 

雨で濡れている髪の毛はしっとりとしており、なかなかの手触りだった。それに頭が撫でやすい位置にあって―――――――《ドカッ!》

 

「痛たっ!何するんだよっ!」

 

「なんか失礼な感じが一刀から感じたからよ。・・・人の頭を撫でながら何考えてるのよ、まったく」

 

「頭が撫でやすい位置にあるな―――――《ドスッ!》いてっ!」

 

今度は正拳突きを腹めがけて放ってきた。・・・もしかして、

 

「華琳、身長のこと気にしているのか?」

 

「そんな訳ないでしょうっ!私は全然―――――」

 

「可愛いから今のままでいいのに」

 

「え―――・・・・」

 

華琳が驚いたように目を見開きこっちをみている。何か変なこと言ったっけ?っとそろそろ、

 

「さて、そろそろお互い戻るかみんなも心配してるかもしれないし・・・。・・・?。・・・華琳?」

 

「え?あ、ああ。そうね、話も終わったことだし戻るわね。・・・桃香やあなたたちには迷惑かけたわね。この埋め合わせはかならずするわ。この曹孟徳の名に賭けて。真名を預けるだけじゃやっぱり少しは足りないと思うから」

 

「真名だけでも・・・いや。華琳の納得するようにしてくれ。・・・それじゃあ、華琳」

 

握手しようと手を伸ばす。華琳もそれに合わせて手を伸ばして来た。もう少しで手と手が握られようとしたとき、

 

 

 

―――――――――――ヒュュュュゥゥゥヒュンっ!!

 

 

突風が吹き荒れる。俺は雨が眼に入ったため瞼を閉じてしまう。そのあとに聞こえてきた音は、

 

風が橋を切り裂く音だった。

 

「っ!?これは・・・!?―――――華琳っ!!」

 

「――――――。一刀!」

 

橋が崩れたため俺たちは空中へと放り出される。ガラガラと周りで風の音に混じりながら木の破片同士がぶつかっていた。

 

「(このままじゃ二人一緒に川に真っ逆さまだぞっ!?)」

 

下は川なのだが雨で増水しているため流れが急で落ちたらひとたまりもなさそうだった。

 

「(こうなったら!)――――華琳!俺の手につかまれ!」

 

「・・・・っ!」

 

近くに居たのが幸いしたのかすぐに掴まってくれる華琳。さっき話していた場所が華琳たちの兵士よりだったのがよかった、俺はおもいっきり華琳を春蘭たちが居る崖の方向に投げ飛ばす。

 

「受け止めてくれ、みんなーーーっ!!」

 

「一刀っ!?あなた、何私だけ助けようとしてるのよっ!?」

 

投げ飛ばされながら、怒っているが正直今はそんなことを聞いていられる余裕はなかった。

 

「華琳さまーーーーっ!!」

 

春蘭がこっちの橋の破壊音に気がついていたのか走って華琳が落ちるところに向かっていた。そして、春蘭はナイスキャッチを果たす。

 

「ご無事ですかっ!華琳さま!」

 

「私は平気だけど一刀がまだ・・・!」

 

 

「お兄ちゃんーーーっ!」

 

「・・・!ご主人様!」

 

「あのままじゃ川まで一直線なのです!」

 

鈴々たちも橋の破壊音で気がついたのか、橋が架けてあった手前で叫んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝???〟

 

 

 

 

「まだまだ・・・この程度の力しか回復できていないのか」

 

「申し訳ありません。・・・私の力不足で力の回復が遅くて」

 

「(・・・ん?かずピー、曹操を逃がしてるんか?・・・あいかわらずやな)」

 

「まぁ良い。このぐらいの力で今の北郷の力を図ってみるとしよう。・・・今度は当てるぞ」

 

??は手の平を広げるとそこに力を集中する。すると大気中の風が集まっていき、その風は形を変え、鋭い刃のような形を象る。

 

「今度のは、少し強くいくぞ」

 

――――――ビヒュッンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

「くそっ!ただの風でこんな橋が壊れるはずがない!《キョロ・・・キョロ・・・》―――――!?」

 

まだ絡新の奴が生きていて攻撃してきたものだと思い、辺りを探していると前方から、何かものすごい力が飛んでくるのを感じる。

 

「なんだこれ!?肌にビリビリと・・・・大気が震えているのかっ?」

 

少しずつ落ちているのもどうにかしないといけないのだが、前方からくる〝何か〟に俺の頭の緊急信号がなりっぱなしだった。だから、俺は天月を抜き何が来てもいいように構える。

 

「あいつ!あの状況でなに剣など抜いておるのだ!」

 

「いや、待て姉者何か来るぞ・・・!」

 

「・・・なんなのこの震えは?」

 

 

 

 

「・・・・・・来る」

 

「え?何か言いましたか恋殿?」

 

「・・・・!?お兄ちゃん、避けるのだっ!」

 

 

 

鈴々の声が聞こえたのと同時に俺の前方に竜巻みたいな風が飛んでくる。それは飛ぶ斬撃のように鋭利な切れ味を持っているものだと、見ただけでわかった。

 

「何十何百の風が織り交ざって、竜巻の中に―――――!?」

 

それは突然だった。竜巻の中からかまいたちのような風が飛んできて俺の頬を掠めていった。かまいたちは眼に見えるものじゃないと認識していたがそれは考えを改めたほうがよさそうだ。

 

「(この風が上昇気流になっているのか。落ちていくのが止まった・・・)」

 

まだ距離があるのにここまでの力があるなんて、あんなの食らったらまじでやばいぞ・・・!

 

どんどんと近づいてくる竜巻に、

 

「(とにかくあの竜巻を何とかしないと・・・!周りのみんなも危険だ!あれがなくなったら俺は落ちるかもしれないが、今の状況よりはマシだ)」

 

そう思い、天月に氣を込める。俺の飛ぶ斬撃系の技でもっとも強い技――――――・・・。

 

「はああああっ!・・・!」

 

天月を上に振り上げ、さらに氣を込める。その間にも竜巻からはいくつものかまいたちのような風の刃がところどころから飛び出し、向かって来る。だが、それに気を逸らしていては集中できないため、頬が切れようと、腕にかすって切れようとも氣を込めるのに一心不乱集中する。

 

「――――・・・!!・・・月牙!・・・・・天衝っ!!!」

 

振り上げていた天月を思いっきり振り下ろし、刃先から高密度の氣を放出し竜巻に向かって飛ばす。斬撃は唸りながら、飛んでいき竜巻とぶつかり、辺りに衝撃波を生み出し押し合っている。

 

「いけーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

「ちょっとっ!なんなのよこれっ!これはあの馬鹿がやっていることなのっ!?」

 

荀イクは吹き飛ばされないようにしっかりと脚に力を入れながら踏ん張る。

 

「これは洒落にならんでっ!凪の氣弾の数十倍の威力はありそうやな」

 

 

 

 

 

「キャー!恋殿!お助けをーっ!」

 

「・・・・・ん」

 

呂布は腕に陳宮を抱きかかえ踏ん張る。

 

「お兄ちゃんは無事なのかーっ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・良し!」

 

片手で振り下ろしていたから〝月牙〟の威力を心配していたが、もう少しで竜巻を吹き飛ばせそうだった・・・・・のだが。

 

「っ!?―――――――分裂っ!?」

 

それは消滅ではなく分裂だった。竜巻は弾け飛ぶと、かまいたちのような風の刃になり数百もの刃は一斉俺に向かって飛んでくる。〝月牙〟はそのまままっすぐと飛んでいってしまう。

 

「くそっ・・・・!?」

 

弾け飛んだことにより、さっきまでの上昇気流はなくなり俺は落ちながら風の刃を跳ね返していく。だが、やはり数が多すぎるため、受け止めきれず守りを崩され風の刃は俺の体にどんどんと命中していく。

 

「―――――――――」

 

痛みは一瞬で通り過ぎた。全身を切り刻まれた、俺はそこで気を失い、落ちていくか感覚だけが妙に体に残っていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・ご主人様ーーーーっ!?」

 

「お兄ちゃんーーーーっ!?」

 

「お前、しっかりするのですーーっ!」」

 

 

 

 

 

 

「「北郷ーーーっ!?」」

 

「「「隊長ーーーーっ!?」」」

 

「兄ちゃんーーーーっ!?」

 

「兄さまーーーーーっ!?」

 

「お兄さんっ!?」

 

「一刀殿っ!?」

 

「あの馬鹿・・・!?もろに・・・・!?」

 

「くそっ!ウチらには一刀が落ちていくところを黙ってみていることしかできんのかぁ!」

 

「一刀!しっかりしなさい!お願いだから、起きて!?―――――。一刀ーーーーっ!?」

 

 

 

北郷一刀はそのまま目覚めることなく、激流の川へと落ちていき流されていった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝突然の訪問者〟

 

 

 

 

 

――――――――・・・。

 

 

「・・・ふむ。こんなものか。力は試せた。・・・帰るぞ」

 

「はっ。・・・ほら。お前も早く来な。及川」

 

「・・・・・ああ」

 

長板橋からかなり離れた場所にいた三人の人影は跡形もなくなくなっていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・っ!」

 

呂布は崖の下を覗き込んだあと、崖から飛び出そうと戟を放り捨てる。

 

「恋殿っ!?何をやっているのですかっ!?ダメです、こんなところから飛び降りたらいくら恋殿でも・・・!」

 

陳宮は飛び込もうとしている呂布の前に両手を広げ目の前に立ちふさがる。

 

「・・・・・ねね、どいて」

 

「鈴々も行くのだっ!お兄ちゃんを助けなくちゃいけないのだ!」

 

「助けにいくって・・・それはそうですが、このままここから飛び降りても見つかりっこないのですっ!ここは一旦みんなのところに戻って、全員で探したほうが早いのですっ!・・・それでも行くというならば、ねねを退かしてからいくのです」

 

陳宮は必死に行かせまいと、眼の端に涙を溜めながら二人を見る。陳宮も北郷が心配なのは見てわかるほどに二人に伝わる。

 

「・・・・・わかった。ねねの言うとおりにする」

 

「恋殿・・・」

 

「だったら早く兵を纏めて桃香お姉ちゃんたちのところまでいくのだ」

 

張飛たちはすぐに崖の傍を離れる。一回それぞれが崖のほうを振り返るが北郷が生きていることを信じて二度は振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝曹操〟

 

 

 

 

二度も助けられてしまった・・・。私を助けるために一刀は・・・。

 

「華琳さま?・・・・・・華琳さまっ!!」

 

「っ!?」

 

「しっかりしてください華琳さま!王の貴女がしっかりしなくてどうするのですか!・・・北郷はかならず生きています。今はここを引き上げ、城に帰ったあと北郷を捜索しましょう。・・・徐州のことを任されたのですよね?だったら、ここで蹲ってないで。さ、立って歩きましょう」

 

夏侯淵は曹操を一喝する。普段ならこんなことは言えないのだが、王が崩れたときに立て直すのも部下・・・仲間の役目。夏侯淵は曹操の傍に立ち、立ち上がるのを待つ。あくまで手は貸さず自分の力で立つのを待つ。

 

「秋蘭・・・」

 

「秋蘭さま・・・」

 

・・・しっかりしなさい曹孟徳。立って命令を出すのよ。

 

「すぅー・・・はぁー・・・・」

 

曹操はゆっくりと立ち上がり一つ深呼吸をする。立ち上がったその姿にはさっきまでの弱弱しい面影は一切なかった。

 

「・・・ありがとう、秋蘭」

 

「いえ。・・・さぁ命令を」

 

「ええ」

 

曹操は眼前にいる将や兵士たちを見渡し、命令を下す。

 

「この場を持ってこの戦いに終止符を打つ。各員、兵をまとめ許昌へ」

 

―――――北郷一刀はかならず生きていると信じて。それは将たちも同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――長板橋の戦いから一日後・・・。

 

 

 

〝劉備軍〟

 

 

 

 

「え?入城していいって、どういうこと?」

 

益州と荊州の国境沿いにある城の一つ諷陵からやってきた使者に入城してくださいと言われ戸惑う劉備たち。使者の話では益州の内部はすでにボロボロ状態で、国民たちは大乱に巻き込まれるのではないかと日々恐れている。

この乱世の時代に無能な太守に治められていては、国中が戦火に巻き込まれる。ならばこそ、有能な人間に太守となってもらい、安心して暮らしたい―――――。

使者は村長たちの話を劉備に伝えると城へと戻っていく。

 

「有能って・・・。私、有能じゃないよ~・・・」

 

「心配ありません。桃香さまは太守としての器はとても有能です」

 

「でも、政務とか・・・政務とか・・・政務とか」

 

「政務だけが太守に必要な能力ではありません。・・・ご主人様なら、足りないならみんなで補い合う、と言うはずです」

 

「私補ってもらってばかりだけど・・・。・・・うん。頑張るよ、愛紗ちゃん」

 

「はい。・・・・・ん?どうやら城門が開いたようです」

 

「では、一応念のために私が先に入城しよう。・・・何かあったらすぐに動けるように準備をしておてくれ」

 

「そうですね。お願いします、星さん」

 

趙雲はそれに頷くと隊を率いて先行する。

 

「朱里ちゃん、別に警戒しなくてもいいんじゃない?」

 

「星さんに先行してもらうのは、念のための処置です。大きな心配はないと思いますが」

 

「それならいいんだけど。・・・それよりも愛紗ちゃん。後方の様子・・・なにかわかった?」

 

「・・・まだ何も」

 

「そう・・・なんだ」

 

「きっと・・・大丈夫です。ご主人様たちはきっと無事に戻って来てくれますよ」

 

「・・・ん。そうだね」

 

後方の様子を心配している劉備たちに一人の兵士がやってくる。

 

「申し上げます!」

 

「なんだ!」

 

「北方に砂塵を確認しました!」

 

「ほ、北方?ご主人様たちが戻ってくるとしたら・・・」

 

「東方から砂塵が上がるはずです。・・・一体どこの部隊のものでしょう?」

 

「わからん。・・・全軍警戒態勢!先行する星にも伝令を出せ!」

 

「はっ!」

 

兵士は返事をして城へと向かっていく。

 

「桃香様はこのまま待機を。私は雛里と共に北方に軍を移動させ、状況を確認してきます」

 

「うん、わかった。・・・気をつけてね、愛紗ちゃん」

 

「はっ。・・・雛里、頼む」

 

「はいっ!」

 

関羽、鳳統は軍をまとめ北方に移動を開始する。

 

「みんないなくなっちゃったね・・・」

 

「けど、みんなちゃんと帰ってきてくれます。・・・私はそう信じてます」

 

「・・・うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

〝袁術・張勲・董卓・賈駆・公孫賛・袁紹・文醜・顔良〟

 

 

 

 

馬車の中―――――・・・・。

 

 

「月、祈ってばかりだと疲れるわよ。少しは休んだら?」

 

「私にはこれくらいしかできないから。・・・ご主人様やみんなが無事でありますようにって」

 

「・・・月。・・・大丈夫よ。月がこんなにも祈ってるんだからみんな無事に決まってるわよ」

 

「ふふっ、ありがとう詠ちゃん」

 

 

 

 

 

「・・・・美羽さま?美羽お嬢様ー?」

 

「ええい!なんじゃ、七乃!わらわも祈っておるのだから、静かにせい!」

 

「でも、お昼ごはん・・・」

 

「何っ!ごはんっ!・・・あ、いや、こほん。・・・祈ってから食べるから先に食べておれ」

 

「それなら私も美羽さまと一緒に祈ります。そのあと二人で食べましょう」

 

「・・・七乃。うむ!一生懸命祈るのじゃぞ」

 

 

 

 

 

 

「すぅー・・・《Zzz・・・》」

 

「・・・もう・・・食べられないぞ、斗詩・・・」

 

「ムネムネ団、ばんざーい!・・・・《Zzz・・・》」

 

「こいつ等ー!のんきに寝ていやがってー!」

 

 

 

 

―――――それぞれができることをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

〝関羽・鳳統〟

 

 

 

 

 

「雛里、部隊の展開は?」

 

「完了しました。でも・・・一体誰の部隊なんでしょうか・・・?」

 

「もしかすると曹操の部隊かもしれん。・・・斥候は放っているのか?」

 

「部隊の移動と同時に放ちました。おっつけ情報が届くと思うのですが・・・」

 

そこへ兵士がやってくる。

 

「関羽様!前方の部隊の旗印を確認しました!」

 

「うむ!で、旗印は?」

 

「〝馬〟です!」

 

「馬?馬というと・・・」

 

「涼州を根拠地とする馬一族の可能性が高いですね。・・・しかしなぜ益州に・・・?」

 

「侵攻してきたというのか?・・・全軍警戒態勢!相手の動きがわからん!油断するな!」

 

「はっ!」

 

「雛里。相手の出方によってはこちらから先制攻撃を掛けたいのだが・・・」

 

鳳統は指を額におき、

 

「問題はないかと。でも・・・あっ、見てください。相手に動きがあるようですよ?」

 

「進軍を止めて・・・なんだ?誰か来るな」

 

「軍使でしょう・・・なにか要求があるのかもしれませんね」

 

「ふむ。・・・軍使には私が会おう。もし私に何かあった場合、部隊の指揮を頼む」

 

「・・・了解です。愛紗さん、お気をつけて」

 

「ああ。・・・」

 

関羽は歩いて軍使のところまで近づいていく。軍使は馬から降りて、関羽の歩調に合わせて近づいていく。二人はちょうど部隊と部隊の中央で対面する。

 

「あんたがあの部隊の代表者?」

 

「そうだ。・・・お前は何者だ?」

 

関羽は警戒しながら話す。会ったときから殺気めいたものがこの軍使から放たれているからである。

 

「あたしの名前は馬超。字は孟起。・・・北郷一刀に殺された西涼太守馬騰の娘だ!」

 

「なっ・・・・!?貴様、いきなり何を言う!そんなことあるはずないだろう!ご主人様は西涼などには行っては居ないぞ!」

 

「だったら、本人に会わせろ。本人から直接聞きたい。今のがうそじゃないなら会わせられるだろう?」

 

「それは・・・!。・・・・無理だ。ご主人様はここには居ない」

 

「・・・会わせられないのなら、今の言葉は信じられないな。それにここに居ないってどういうことだ?北郷一刀が西涼に行って別行動をしているから、居ないんじゃないのか?」

 

「違うっ!居ないのには、訳が・・・!」

 

「もういいっ!」

 

「っ!?」

 

「ここに居ないにしても、隠れているにしても、北郷一刀の部下であるお前・・・関羽。お前を殺すっ!」

 

「こ、これはっ・・・!?」

 

それは一瞬だった。抑えられていた殺気は一気に噴出し、関羽の体を射抜くように突き刺さる。

 

「馬超っ!話を聞けっ!」

 

「問答無用だっ!父の仇、晴らさせてもらうっ!後ろの部隊の者たちには手を出さないように言ってある。・・・一騎打ちだっ!!」

 

「ちぃ!やるしかないのか・・・!」

 

関羽は青龍偃月刀を構える。

 

「行くぞーーーーーーっ!!」

 

「くっ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――・・・・・・。

 

 

 

 

 

体はひどく重かった。まるで鉄の錘でもつけられているみたいに・・・。動かそうとしても動けず意識だけがぼんやりと目覚めていた。

 

日が当たっているのか、瞼を閉じていても明るい日差しが眼に入ってくるように眩しかった。

 

「―――――――・・・」

 

ゆっくりと眼を開ける。ぼやける眼で最初に見たのは川と砂利だった。どうやら川辺にうちあげられたようだ。砂利が体に当たっていて少し寝心地が悪い。しかし動こうにも体は動いてくれない。

 

「(このままで居たら俺、死ぬのかなぁ・・・)」

 

陽気が良く体に日差しが当たっていて暖かい所為なのか、あまり〝死〟という実感は湧いてこなかった。

 

「(せっかく意識が少し戻ったのにまた眠くなってきた・・・。・・・いいか。少し寝れば動けるかもしれないし・・・今はただ眠りたい)」

 

俺は開けていた瞼をまた閉じる。そうして、意識を手放し眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一時的な和解〟

 

 

 

 

 

 

〝関羽・馬超〟

 

 

 

 

 

二人が戦い始めてから数十合目の鉄と鉄のぶつかり合う音が聞こえる―――――――。

 

 

 

 

「はああああっ!」

 

「うらああああっ!」

 

振りは常に全力。関羽は始め、いなしてなんとか話を聞いてもらおうとしていたが馬超のあまりの殺気と強さに全力で向かい合う。

 

馬超も始めは怒り・怨みを募らせた一撃で関羽を殺そうとしていたが、戦い始めてどこか関羽の言っていることが嘘ではないと感じつつも、親が殺された場面が頭から離れず、武器を振るい続ける。

 

ぶつかり合った両者は同時に後ろに飛び退き、相手の様子を窺うために武器を構え、相手を見る。

 

「(・・・強い。噂で聞いたことはあったがここまで強いとは。・・・槍捌きは白銀の流星と謳われ、一騎当千の強さを誇るか)」

 

「(くそっ!戦いに集中できない・・・!。・・・関羽の言っていることは・・・・嘘じゃないのか?)」

 

だが馬超は頭を振り、自らの武器である〝十文字槍「銀閃(ぎんせん)」〟を構える。

 

「(関羽は父上を殺した北郷一刀の仲間だ!・・・迷うな!)」

 

〝達人同士は武器を交えただけで相手のことがわかる〟馬超はそれを感じていた。しかし親を殺されて冷静で居られるわけもない。馬超の頭の中は混乱しつつあった。

 

「・・・馬超、話を聞いてくれないか?」

 

「随分余裕じゃないか?話を聞いてくれって・・・。そういうのは私を倒してからにしろよな」

 

「こんな戦いは無意味だ。ご主人様は絶対に馬騰殿を殺してはいない。馬超、お前は誰かに嵌められているんだ」

 

「だから、そういう話は私を倒した後にしろって・・・・・・言ってんだろっ!」

 

馬超の姿が消えたように動く。槍の刃に跳ね返された陽光がきらめき、その一撃は白銀の流星だった。

 

「ちぃ!」

 

関羽は武人としての勘で頸を引っ込める。さっきまで頸のあった位置に空を裂いたように一閃が奔りぬける。

 

「ええい!そろそろ話を聞いてもよいだろうに!」

 

「父上が殺されたとき、北郷一刀と同じ服を着ていた奴がいた。あんな服この大陸では見たことない。・・・北郷一刀を除いてな」

 

「それはっ・・・!」

 

「それを説明できないなら、関羽・・・お前の話を聞いても信じられない。・・・どんな言葉を言われても」

 

「(確かに陽光を反射するあのような服はこの大陸ではご主人様以外に着ている人間は聞いたことがない。だが、ご主人様は後方で戦って居られる筈、一体・・・?)」

 

関羽はなんとか馬超を説得しようと考えるが何も思いつかず、ただ戦うことしか出来なかった。

 

それから、二人はまた動き出し、相手の攻撃をよく読み、かわし、攻防一体の戦いを続ける。太陽が沈みかける夕日のなか、お互いにまた飛び退き、

 

「そろそろ終わりにさせてもらう。お前の後は、北郷一刀を見つけ出して・・・・殺す」

 

「っ!?・・・馬超、なんとか話を聞いてもらい、この戦いを終わりにしたかったが、北郷一刀様に手を出させるわけにはいかない」

 

関羽はそう言うと、武器を構え、体から迸るほどの闘氣を見せる。

 

「我が最高の一撃で終わらせてもらうぞ!」

 

その闘氣に生唾をゴクリとならす馬超。さっきまで混乱していた頭が一気に晴れたような感じだった。

 

「(これは・・・本当なのかもな。・・・ごめんな、たんぽぽ。私、死ぬかもしれないや)」

 

けど、とそのあとに馬超は続ける。

 

「(勘違いして、こう思うのもあれだけど。・・・関羽、最後にあんたと闘えてよかった)」

 

馬超は少し、うつむきながらほんの少し微笑み、顔を上げるときにはキリッとした武人の顔になっていた。

 

「・・・ん?」

 

関羽は感じていた。さっきまでの痛いくらいの殺気が和らいでいることに。

 

「行くぞ!関羽!白銀の一撃をその身に受けて吹っ飛びなーっ!」

 

「我が魂魄の込めた一撃ににて斬る!―――――青龍逆鱗斬っ!!」

 

 

 

―――――太陽が沈みかけている夕暮れの中、二人の影が交差する。

 

 

 

 

 

 

 

―――――時は過ぎ去り、夜。

 

 

 

 

「・・・・・ううん・・・・ここは?」

 

馬超が痛む体を横になりながら動かし、辺りを見渡していると、

 

「ここは我らの天幕の中だ」

 

頭の方から誰かの声がする。馬超はその声を頼りに上を見上げると、

 

「起きたか。体はまだ痛むだろう。もう少しそのままで寝ておけ」

 

関羽が丸太のような木に座っていた。

 

「・・・なんで?」

 

「・・・・??」

 

「なんで私を殺さなかったんだ?・・・私はあんたのことを殺そうとしていたのに。北郷一刀のことも」

 

「殺そうとしていたってことは、もうご主人様に手を出すつもりはない、ということだな」

 

「あっ・・・!いや、まだ全部納得したわけじゃないっ!・・・あんたの闘氣、心氣を感じて嘘をついてないと感じただけだっ!」

 

関羽はその返答を聞いて嘆息をすこし吐く。

 

「馬超、だったら全部納得するためにご主人様にあってみたらどうだ?」

 

「・・・え?」

 

「というか、私はご主人様にお前を会わせるために生かしたんだ」

 

「でも、ここには居ないって・・・」

 

「ここには居ないが・・・・そうだな。順番に話していこう」

 

関羽は今までのことをゆっくりと急がずに馬超に話した。徐州に曹操が攻めてきたこと。民たちがついて来た事。北郷一刀が追っ手を防ぐために後方に移動したこと。

 

馬超はその話を時々頷きながら聞いていた。そして―――――話が終わり・・・。

 

 

 

 

「もう少ししたら、ご主人様たちは帰ってこられる。・・・だからその前に桃香様に会ってみないか?」

 

「劉備か・・・。確かにあんたの話が本当なら北郷一刀がここに居ないことも納得できるが・・・。いいのか?そんな簡単に君主に私を会わせて。・・・今度は劉備の頸を狙うかもしれないぜ?」

 

「その時は私がまた全力をもって相手をしよう」

 

「うっ・・・」

 

「ふふっ、安心しろ馬超がそんなことをする奴ではないと先ほどの戦いでよくわかった。・・・最後の一撃見事だったぞ」

 

関羽はそう言って肩にある傷を見せる。今は包帯で巻かれて見えないが、綺麗に斬られていたため血があまりでなかったそうだ。

 

「・・・あんたの一撃も凄かったよ。と言っても、途中からは無我夢中でよく覚えてないんだけど。・・・気づいたらここだったし」

 

馬超は苦笑いをして関羽に答える。そして馬超は、

 

「・・・わかった。劉備に会わせてもらう。そのあと、北郷一刀にあって真実を確かめる。・・・もし、真実があんたの言っていることと違かったら、北郷一刀と一騎打ちさせてもらう。それでいいだろう?」

 

「・・・わかった。関雲長の名に賭けて」

 

関羽と馬超はそれぞれに一つ頷くと張っていた気を緩ませる。

 

「そういえばうちの部隊の奴らどうした?」

 

「最初は私達のことを警戒していたが、馬超を治すために衛生兵を呼ぶといったら・・・」

 

・・・~回想~・・・。

 

『え!?本当に姉さまを治してくれるの?あ、もしかして、そう言ってタンポポ達を油断させて姉さまを・・・!』

 

『いや!?そちらに衛生兵が居るのならばそちらの部隊にまかせるが・・・・見たところ居ないようだが、いいのか?』

 

『それは・・・!。・・・じゃあお願いするけど、タンポポも傍にいさせてもらうからね!』

 

・・・~回想終了~・・・。

 

 

「ということで、さっきまでここに居たのだが、馬岱にも先ほどに似た話をしたら部隊のみんなと話してくると言って出て行ったぞ」

 

「・・・そうか。なら、私も部隊のみんなと話してくるよ」

 

立ち上がろうとする馬超に関羽は、

 

「まだ動かないほうがいいんじゃないか?」

 

「大丈夫だ。・・・それじゃあ」

 

そう言って天幕を出て行く馬超。それとかわりに入ってくる鳳統。

 

「あ、ば、馬超さん・・・。動いても平気なんですか?」

 

「ああ。えっと・・・」

 

「ほ、鳳統でし。・・・あう。・・・噛んじゃいました」

 

その姿にすこし微笑む馬超。それを見て鳳統もすこし赤くなりながら笑う。

 

「鳳統、タンポポって・・・いや、うちの部隊はどこにいる?」

 

「あ、それなら向こうの――――」

 

鳳統は焚き火で明るくなっているほうを指差す。

 

「あそこか。・・・ありがとう」

 

馬超は軽く礼を言うとゆっくりと歩いていく。

 

「雛里、今日はここで休んで、明日、桃香様と合流しようと思うのだが」

 

「はい。それで問題ないと思います。・・・愛紗さん、ご主人様たちは無事・・・ですよね?」

 

「当然だ。ご主人様は無事に戻ってくると言った。私はその言葉を信じて送り出したのだ。鈴々も恋もねねもちゃんと無事に戻ってくる」

 

「・・・そうですね。明日になればみんなに会えますね」

 

関羽はそれに頷く。そして、天幕から出て、夜の中綺麗に出ている月を見つめる。

 

 

「(明日になれば、きっと―――――・・・)」

 

 

 

 

 

 


 
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