No.157590

雪蓮愛歌 第05話

三蓮さん

オリジナルの要素あり

2010-07-14 05:08:44 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:4115   閲覧ユーザー数:2890

けいふぁ が なかま に くわわった。

 

「ふん!」

 

「痛ぁ!突然靴を踏むなよ、何するんだ!」

 

「なんか私の扱いがひどい気がしたから」

 

「『扱い』って…そんなこと俺に言われてもなぁ」

 

出発の直前、相変わらず桂花は桂花だなぁと思いながら、俺は自分の乗る馬の点検をしていた。

 

今まで通りなら桂花の作戦で最低限の被害ですむ事件のはず。

 

だけど行軍が久しぶりだからなのか、妙に緊張している自分がいる。

 

「…よし、大丈夫だ」

 

「何が大丈夫なの?」

 

うわっ!、と思わず驚いてしまった。

 

振り返ると華琳がいた。

 

「すまない。いや、久しぶりの行軍だから緊張してしまってな…」

 

「あら、そうなの。でも、貴方の『夢』じゃ一度やったことなんでしょう?」

 

「…ああ」

 

「なら、少なくとも一刀が心配することじゃないわ。しかも今回は雪蓮もいるし、風だって手伝ってくれるそうだから、あなたにとっては、さらに安心できるでしょう?」

 

「わかっては…いるんだがな」

 

あの戦場の空気は、いつまでも一刀は馴染めない。

 

その気持ちを華琳はくみ取ったのか、自信たっぷりに言った。

 

 

「どっしりとかまえていなさい」

 

そしてその目を見開いて、私たちの活躍を眺めていればいいのよ、と。

 

 

「ありがとう、華琳」

 

「ふふっ。何か緊張する場面を違えているようだったから、それを正すのも王の役目よ」

 

そういって華琳が立ち去っていった。

 

 

「かーずと♪」

 

「お兄さん」

 

振り返ると二人がいた。

 

風はいつも通り、雪蓮はあの呉の色の外套を着て。

 

「どうだった?」

 

「細かい調整は終わったわ。移動中は一刀の隣にいるから」

 

「特に問題ないですねー。華琳様たちは凄いです」

 

笑みすら浮かべて一刀に話しかける二人。

 

やっぱ『将』であるべき人間は違うな…俺も気合いを入れていこう。

 

 

「さ、一刀。ちょっと馬で散歩するついでに、獣を狩りに行きましょう」

 

 

その台詞は、かつてトラウマを植え付けた、懐かしい呉の城内の記憶を思い出させた。

 

 

「うん、お兄ちゃん達もよろしくねー」

 

盗賊に襲われているところを春蘭が助け出し、華琳達と一悶着あった後に和解して季衣が仲間に加わってくれた。

 

「てい!」

 

「痛!だから、なんで俺の靴を…」

 

「扱いの違いを感じたからよ」

 

扱いって何だ、扱いって。

 

桂花に理不尽な扱いを受けながら、俺たちは細作の報告を待った。

 

昨日、迷惑をかけた料理屋を手伝うため、俺たちは分かれて馬でいろんな所を行っていた。

 

…のだが、重い荷物を担当していた、春蘭・秋蘭・雪蓮のグループが盗賊に会った。

 

荷物ついでに引っ立てて、春蘭と雪蓮によるg…尋問の結果、砦に連中がたむろっている事までは判明したものの、盗賊の説明が分かりづらく、おおよその位置しか結局分からなかった。

 

しばらくたって、細作が戻ってきて報告した。

 

どうも規模は約三千人、こちらの規模は千人なので、軽く三倍ということになる。

 

 

「嘘は言っていなかったようね、連中」

 

 

華琳が桂花に位置を駒で配置させて地図を見ながら言った。

 

 

砦は分かりにくいいところにあった。

 

岩山に囲まれている、とでも言えばいいのだろうか。

 

二つの岩山が、砦の正面入り口と華琳たちのいる平原をつなぐ一本道をつくっているようだった。

 

別の言い方をすれば、その一本道の両面に岩山がそびえ立っていた。

 

その間は別に狭くなく、部隊を苦労なく展開できる。

 

さらに一本道の両面には、数メートルの段差があるものの、平行して細い道があった。

 

かなり細くて部隊を突撃させるには向いていなかったが、今回の作戦には関係なさそうだった。

 

岩山は、それ以上の高さになると、構造がよく分からなかったが…。

 

 

背面は崖になっていた。砦と崖の間には十分の広さの空間がある。

 

「ここに部隊を設置できます」と、桂花。

 

桂花の作戦は『おとり作戦』だった。盗賊達が気づいていない今のうちに春蘭、秋蘭の部隊を砦背面の広場に待機させる。

 

あとは華琳が正面にたって盗賊を引きつける。秋蘭がタイミングをはかって背面の部隊が奇襲、華琳達が撤退をやめて反転して一緒に盗賊達を叩く…最小の被害で最大の効果を発揮できるものだろう。

 

ちなみに人員の配置は『魏』の外史とそのまま。雪蓮が奇襲、一刀と風がおとり側の部隊に紛れ込んだ。

 

「華琳様、配置完了しました」

 

あとは華琳の号令で作戦が開始する段階となった。

 

「そう…どうやら、今回は桂花のおかげで全て上手くいきそうね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

口ではそういうものの、なんだか俺と風の方をじっと睨んできた。

 

…俺じゃなくて、風か?

 

「ふん。言っておくけれど、私が華琳様の軍師なんだからね」

 

なるほど。風も同じ軍師だから敵対心を抱いているのか。

 

「そうですよ-。風は一応、ただの食客ですから」

 

こっちは相変わらずマイペースだな…ペロペロといつものように飴をなめていた。

 

ぷいっ、と顔を背けると兵に銅鑼を鳴らすように桂花は指示を出した。

 

そして鳴り響く銅鑼。作戦が始まった。

 

銅鑼の音に何故か出てくる敵側の盗賊。

 

あきれながらもギリギリまで引きつけるように指示を出す華琳。

 

飛び出してくる盗賊を見ながら、その流れが途切れるのを待つ三人の女たち。

 

「…まだか、秋蘭」

 

「まだだ、姉者」

 

「もー、落ち着きなさいよ春蘭」

 

「えーい、分かってはいるのだ。やっぱり、私か雪蓮がアッチに行ってくれたほうが華琳様の身にも危険が及ばなかった気がする。あー、心配だ、やっぱり!」

 

「いや、私は華琳の将じゃないからマズいでしょう…季衣もいるし、アナタは華琳が信じられないの?」

 

「そ、そんなことは…ない!!」

 

「ならドッシリ構えていましょうよ。ま、実はアッチに一刀がいるから、私も不安なのよねー」

 

「風は心配じゃないのか?」

 

ちょっと疑問に思った春蘭。

 

「いや、心配なことは心配なんだけどさ。なんていうか…そう、例えば山で一刀と風が一人で遭難したとして、どっちが生きて帰ってきそう?」

 

「…風だな」

 

「風だ」

 

「でしょ?まぁ根拠なんて無いんだけどね」

 

苦笑する雪蓮。

 

「だがよく分かるぞ、うん」

 

「うむ」

 

納得する夏侯姉妹。

 

「秋蘭、そろそろじゃないかしら」

 

「む?そうだな。姉者、号令を」

 

「応!全軍、突撃!!!!!」

 

 

戦闘はあっけなく終了した。

 

さすがに練度が違う。華琳の側は数十名が軽いケガを負うという結果になった。

 

行き場のない盗賊は奇襲にパニックになったのだろう。

 

無論、華琳達が無理に追わなかったので、逃げ出した盗賊もいる。

 

しかし、前回もそうだったが、その屍で一本道に赤の絨毯がしかれているようだ。前回との違いは、割と凄惨な光景をみて堪えられることだったが。

 

 

「一刀、風、皆無事だった?」

 

作戦を終えて走ってくる雪蓮。

 

「ああ、無事だったよ。お疲れ様、雪蓮」

 

「ふふっ、私は殆ど何もやっていないのよー♪」

 

「ああ、そうなんだ。やっぱ春蘭と秋蘭は優秀だな」

 

 

そうこう会話している間に秋蘭がやってきた。

 

 

「秋蘭、お疲れ様。今回雪蓮が何もやらなかったくらい活躍したって?」

 

「いや、別に雪蓮は活躍していないわけではない」

 

「?」

 

「雪蓮がいきなり敵の首を2つほどすっ飛ばした。敵味方問わず一瞬時が止まった。そのせいで雪蓮に敵があまりよらなくなった。むしろ逃げようと必死になっていたので私が見方の兵に動くように声をあげた」

 

「…」

 

「まぁなんだ。鼓舞のため、とてもありがたい兵士だ…やり過ぎな気がするがな」

 

秋蘭の疲労の色がはっきり見えた気がする一刀だった。

 

…奴の首輪は某国の某家の令嬢にして大都督が握らなければならないのかもしれない、と。

 

 

「皆、ご苦労様。活躍は聞いているわ」

 

そういって華琳が皆を集めて戦後処理の準備を始めた。

 

「とりあえず砦を捜索して財産類を没収しないといけないのよ。私に近い部隊が一番疲れていないでしょうから、それを百人程度。あと桂花、一刀、風はきて頂戴。他のものは休息後に手伝って頂戴」

 

「華琳様、どうしてこの獣と余所の軍師を!」

 

「人手は多い方が良いでしょう?酒代を返してくれるっていうんだから、キッチリ働いてもらいましょう」

 

くくっ、と笑う華琳。

 

「それじゃあお手伝いしましょうか、お兄さん」

 

「ああ…あれ、風?」

 

飴をなめるのをやめている風…さすがに死体があるからか?

 

「いえ、ちょっとだけ気になることがあったのですよー」

 

「何?」

 

「いえ、勘違い…多分考えすぎて的外れなことなので、いいです」

 

「そうか…ならいいけど。じゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

俺がそういうと手を挙げたり頷いたりしてくれる三人。その背後では兵隊の皆が律儀に一度姿勢を正した。

 

さすが、魏軍の戒律の厳しさは有名なだけあるな…俺は風と一緒に砦に向かった。

 

 

 

「連中、相当好き勝手にやらかしていたようね、憎いわ」

 

その「憎い」は盗賊の卑劣な行為に対する憎しみか、己の意のままに振舞うという意味での羨望か、そのニュアンスが曖昧なことを華琳は皮肉を言った。

 

主に宝飾などの貴重品と酒が置いてあった。そこはまさに人ではなく『獣』の住処だった。

 

たまに吐きそうになる光景を目にしながら、華琳の一団は砦を捜索させた。

 

「まぁ、少し時間が掛かりそうだけれど、行軍の予定通りかしら?」

 

「はっ。私の計算通りです、華琳様」

 

はっきりと答える桂花。

 

まぁ、この後糧食が噴出するんだが…桂花は幸せになるのだからいっか。

 

「誰か、伝言をお願いできるかしら?」

 

「ああ、それじゃあ「風が行ってくるのですよー」俺が…」

 

「…まぁ、二人でいけばいいんじゃない?」

 

人手がそんなにいらないことを伝えて欲しいのよ。帰りは真ん中の血で染まった道じゃなくて、両脇の細い道をつかいましょう、と。

 

華琳が少しおかしそうに笑った。

 

 

 

「どうしてわざわざ端の道を?砦の前に待機させれば…」

 

「お兄さん、お兄さん。さすがに死体を踏んで歩くのは兵士といえども気分の良いものじゃないのですよー。手間もすこしですしね」

 

「…それもそうだな」

 

そういって、砦の入り口まできた一刀と風。

 

具体的な人数はあと十数人でいいという事を秋蘭に伝えるためなのだが、砦の入り口付近で「行き」に風が何かを気にしていた事を一刀は思い出した。

 

「そういえば風、さっき何を気にしていたんだ?」

 

「いえ…人数が数十人…多分五十人前後の誤差が報告とずれている気がしたのですよ」

 

「大体の人数だから、それくらいの誤差は出るんじゃないか?」

 

「ええ、出ます。だからカンなのですよ。でも…」

 

「でも?」

 

「襲ってきた盗賊は、皆『猪突猛進』型の人間でした」

 

「そりゃ、盗賊だからね」

 

「でも、盗賊になる人間は、皆が猪であるわけではないんですよ」

 

「色々な人間がいるだろうから…あれ?」

 

「だから風は、『気にしすぎ』だと思ったんですよ-」

 

 

あれだけの人間がいれば、冷静な奴が何人かはいるはずじゃないか、って。

 

 

 

「おーい、兄ちゃーんー」

 

季衣が向こうで手を振っていた。

 

四人(季衣・春蘭・秋蘭・雪蓮)は華琳達と同じ、百人程度の兵を引き連れてきた。

 

馬は足場が盗賊の死体でわるいので向いていない。なら歩くしかない。

 

そんなにいらないと伝えるために、一刀と風は砦から出てきた。

 

その時、一刀はこの外史がやっかいな外史であることを思い出す。

 

 

今、俺たちは恐ろしいほど無防備じゃないか?

 

 

 

 

「一刀!!!!」

 

雪蓮の叫びが耳に届く前に、俺は風を抱えて伏せた。

 

矢がビシッという音がして当たった。

 

大丈夫だ、紫苑に模擬戦で撃たれた時の痛みを比べれば。

 

距離にして約百メートル。

 

駆け出そうとする雪蓮に対して、

 

「来るな!!!!!」

 

大声で叫ぶ一刀。

 

雪蓮の動きが止まる。二の句がでてこない。

 

「雪蓮、兵の撤退、急げ!!!!」

 

嫌なことに、一刀は次の攻撃を予想してしまったのだ。

 

辺りは…岩山。

 

『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

いきなり無数の岩が兵たちに転がってきた。

 

「「でぇーいっ!!!!!!!!!!!」」

 

季衣と春蘭が初撃をどうにかするが、岩は断続的に襲いかかってくる。

 

パニックにならずに撤退を始められたのは、華琳の軍の完成度の高さ故か。

 

 

一刀は自分の言葉が間違っていなかったことを安堵した。

 

 

襲いかかってくる矢と岩からあの人数で乗り切るには、三人の武将だけではまずい。雪蓮の桁はずれた身体能力が必要だろう、と思ったからまわした。

 

 

何とか兵は安全な距離まで撤退し、一刀と風も砦に撤退出来た。

 

 

「何事だ!!」

 

華琳と桂花が兵士数名と走ってきた。

 

そこで風が簡単に事情を説明した。

 

「そんな…あの岩山に場所なんて」

 

「この辺鄙な地形のあの高さの場所ですから、普通はだれも注目しません」

 

注目したところで勝ちがないですからー、と風。

 

「華琳様…この度の失態…」

 

「誰も軍師に『不可能を想定しろ』なんて言ってないわ。大体、こんなこと一刀達と出会ってこれで二回目。桂花は前半戦でよくやったわ。こんなの不問よ、不問」

 

手をヒラヒラとさせて、二度目の余裕を見せる華琳。

 

「そんなことより現状を報告なさい、桂花」

 

「はっ、砦は完全に封鎖して、見張りの兵をおいてあります。現在、攻撃は止んでいます。見方は入り口より少し離れた所まで撤退した模様です」

 

「そう…武人が誰か一人でもいれば良かったかしら?」

 

「すまん、華琳。兵の撤退のために、来るなと指示を出したのは俺だ」

 

「あんたね!」

 

怒る桂花。

 

「いや、お兄さんの判断は結果として正しかったと思いますよ」

 

風はいつも通りに答えた。

 

「そうなの?」

 

「はい。まず、あの時、あの距離を、あの攻撃をすり抜けながらここまでこれるのは、多分雪蓮ちゃんだけでしょう。仮に来れたとしても状況が変わりません」

 

「どうして?」

 

「こちらは百人の兵を抱えているからですよ。雪蓮ちゃんが強くても、百人の防御に徹することは不可能です。それに、あの時、兵が百人ほど来ていましたから雪蓮ちゃん含めて春蘭ちゃん・秋蘭ちゃん・季衣ちゃんで周りをかためて、やっと撤退できていましたからね」

 

「…こちらから攻撃するしかないのかしら」

 

「それなら、将がどちら側にいてもたいして変わらないでしょう。なら、向こう側から引き連れていた兵の生存率が上がるようにした方がいいですね」

 

「…まって、もしかしてもう一つ問題がない」

 

桂花が嫌な顔をした。

 

「ええ、あります。相手が見えないんです。どれくらいか、ということが。多分五十人くらいなんでしょうけれど」

 

「それはカン?」

 

「カンです。だから希望的な観測にすがらないためにこの人数は不明にしましょう」

 

「…籠城はどうだ?その間に更に人数を…ああ、無理か」

 

一刀が自己完結しながらつぶやいた(今の華琳の手勢を殆ど連れてきてあるのを思い出した)。

 

「もしあちらの九百人が離れれば、連中が砦をどうにかする確率が大きくなります。今の状態は言ってみれば睨み合いですからね」

 

動くかどうかは分からないから、九百人のうち何人か残してもそれは同じ事。何しろ敵の規模が大きくないにしろ不明だ。

 

「しかも、そういえば今回は糧食…半分よね?それすらあっちにあるし」

 

城には極端な話、酒と宝飾だけ。

 

しかも半分の糧食も本隊においてきた。

 

さらに、長引けば兵のやる気も下がる。

 

「さて、これで袋小路かしら。殺した盗賊のせいで道は使い物になりそうにないし。あるのは酒とお宝だけ。これは酔っぱらうしかないかもしれないわね」

 

華琳が笑う。

 

「その割には余裕だな」

 

「ええ、多分予定より遅れて明日の朝にはご飯にありつけるわ」

 

「…相変わらず凄い自信だな」

 

そういいながらも、一刀自身も希望を捨てていなかった。

 

 

「あたりまえじゃない。なにせ、酒代のツケのために働いている一人常識から外れている奴もいるし、私の左右も人のことをいえるほど常識なんかに閉じこもっていないのよ」

 

 

 

「まさか本当に今回の討伐でやるとは…思っていなかったな」

 

秋蘭は集中していた。

 

一刀に聞かされた時、「面白い」とは確かに思った。

 

が、本当にやるためには、相当練習する必要があると感じていた。

 

「秋蘭、これ着ていく?」

 

雪蓮が、矢の刺さらないマントを秋蘭に差し出す。

 

「いや…おそらくそれを着ているだけで、もう矢の感覚が狂う。すまない」

 

「いいのよ。さっきの調整、どうだった?」

 

「確かに当たる。が、必要な集中力が普段とは比にならない」

 

「そう。でも今回、秋蘭が一発逆転の要だから、頼むわよ」

 

「うむ。大丈夫だ。姉者も支えてくれるしな」

 

「任せろ!!絶対に秋蘭を守ってみせる!!」

 

「頼りにしている。では季衣、後を頼む」

 

「わかりました。絶対皆を連れて帰ってきて下さいね」

 

 

 

あの攻撃の後、武将たちは作戦会議をすぐに開いた。

 

敵は高いところにいて、数は不明。

 

あの一本道を進もうとすれば、矢と岩の嵐にやられる。

 

しかも、主な道は死体で足場が悪い。

 

ならば、山狩りは…とも考えたが、この岩山の端がどうなっているのかも不明だし、時間が掛かりすぎる。華琳達は一切食料を持っていない。どうせ山自体にも罠が掛かっているだろう。

 

雪蓮が一度、情報を手に入れるために道を走ったのだが、両側の端から端まで、一斉に矢が飛んできた。

 

ここで秋蘭が仮説をたてる。つまり、敵は数の暴力で押すのが主な戦術で、弓の腕自体はさして上手くないのではないか、と。

 

つまり、一人で矢を的のド真ん中に的中させるほどの腕の持ち主はいないのではないか。

 

そんな事をしなくても、岩を転がしてひたすら矢を放てば、高低差が勝手に盗賊達を優位にしていくのだ。

 

 

だから、先と同じくおとりを使って、敵に矢を撃たせる。矢を撃つために敵が前に出たとき、敵を一撃で仕留めればいい。

 

 

 

盗賊Aは心からおかしくて仕方がなかった。

 

馬鹿な奴に官軍の規模を計らせる。当然、死体になることも予測済みだった。

 

それでも何も思わない、だって奴らは馬鹿なのだから。

 

まんまと勝利したと思わせておいて、敵を孤立させる。

 

本隊が逃げ帰れば砦にいる奴をじっくりとなぶればいい。

 

ここにはどうやっても来れない。何せ、道自体が特殊で、岩でふさがっていたりと何も知らなければ一週間はかかる。

 

その間に奴らは補給をどうにかしなければならない。あの規模だ。そうは持つまい。

 

そんなとき、向こう側から悲鳴が聞こえた。

 

足でも滑らせて死んだか?まぁ一人減ったところで何も変わらない。

 

盗賊Aは目が良かったので向こう側が見えた…が、何も無かった。

 

そしてどうでもよくなった。が、向こう側の細道を走っている馬二匹がいた。

 

先頭は赤い女。それに次いで青い女が走っていた。

 

先の金色の女の手先だろうか?まぁ、殺してしまうのはもったいないが、これも作戦。

 

勇敢であることがどんなに愚かか、奴らは分かっていない。

 

今の時代、己の好き勝手に生きることがすべてだ。

 

さて、今回もよってたかってなぶるかのように、弓で射殺せばいい。

 

女二人。他に兵士を一人も連れてきていない。

 

既に矢は何十本も飛んでいる。が、自分たちは盗賊なので矢が上手いわけではない。

 

だから走っている馬になかなか当たらない。が、それでもいい。

 

どうせいずれ当たるのだから。

 

そうほくそ笑んで、前に出て弓を構えた。

 

 

その青い女と『目』があった。

 

奴は氷よりも冷たい殺気を、『こちら』に向けていた。

 

男はその冷たさに背筋が凍り付いた。

 

次の瞬間、男の眉間に何かが刺さった気がしたが、男はそれが何か知ることはなかった。

 

だって、そんな事は考えつかなかったのだから。

 

 

 

馬に乗っている奴から、弓矢が飛んでくるはずがない。

 

 

 

「見えない敵をおびき出すために、おとりがいるわ」

 

雪蓮は地面に書いた簡易の見取り図を木の棒で指して言った。

 

「条件は色々あるわ。まず真ん中は使い物にならない。真ん中を普通に人間の足で突っ込んだら足を取られるし、馬もあんな足場じゃ走れない。簡単に矢と岩の餌食になる。そこで両脇を進む必要があるのだけれどここは馬が併走して二騎、ギリギリ走れるかどうかね」

 

「戦うならばやめるべきだろう」

 

春蘭が答えた。

 

「そこで、片側を馬で走っておとりにする。すると両側から盗賊が一斉に矢を撃ってくるのだけれど、多分岩はいきなり落ちてこないと思うのよ」

 

「何故だ?」

 

「最初に攻撃されたとき、矢が撃たれた後に岩が落ちてきたでしょう?あれだけの大きさの岩をころがすんだから、転がすまでに準備が必要なはず、というか、絶対に準備がいるわ」

 

「…馬で走って両側の敵をおびき出した後は?」

 

「片側は私が崖の上に昇った後、疾走して全員斬り殺せるわ、多分ね。でももう片側にたどり着くまでにはすでに敵はもぬけの殻よ。華琳達を救出するだけなら、それでもいいかもね」

 

「敵を逃すのか!相手は盗賊だぞ!!」

 

それだけではない、華琳様にこのような目を合わせているのだ!!、と憤る春蘭。

 

「華琳を救出するだけだったらいいんだけれどね。そいつらを野放しにするには私も反対よ。だから両側を一気に始末するの」

 

秋蘭が一刀の言っていた『ヤブサメ』をつかってね。

 

 

 

一刀が提案したものは二つあった。

 

一つは馬上から弓を射ることだった。

 

が、姿勢が安定せず、無理だと秋蘭は言った。

 

この時代、馬は両足で馬の胴を挟んでいた。

 

だから、槍などは幼い頃から特殊な訓練をすれば操れたかもしれないが、弓を射るには体制が不安定すぎた。

 

 

そこで肝心のもう一つは、足場を馬に付けることだった。

 

 

つまるところ、鐙を設置することだったのが、この発想が華琳達にはあるはずがない。

 

実際、この技術は華琳達の時代の何百年後と先の時代のものだからである。

 

日本の歴史でも、流鏑馬の元の弓馬礼法は896年に宇多天皇の下制定されている。

 

一刀が秋蘭にこれを提示したのは、弓の名手は『呉』や『蜀』にもいるが、馬に乗りながらこれを行えて、しかも向いているのはおそらく秋蘭とその部隊だと考えたからである。

 

 

 

「秋蘭!あの先端付近!三人!!!」

 

秋蘭はかつて無いほど神経を尖らせていた。

 

先行する春蘭は、念のために先導してもらったのだが、実際に射るのは秋蘭一人。

 

しかも使うかどうかもわからなかった鐙を用いた射撃を、ぶっつけ本番でやらされるのである。

 

 

敵はこちらを殺すために、集団で襲いかかってくる。

 

逆に言えば、集団で襲いかからざるを得ない。

 

 

今、必死に弓を放っているが、まさか馬上で弓を射る奴など発想そのものが盗賊達にはなかった。

 

だからその盲点をねらって、気づかれる前に全員倒さなくてはならない。

 

 

全神経を集中させて、弓を引いていく。

 

己の好きな姉の声が、霞んで聞こえなくなってしまいそうなほど。

 

 

 

「これで、最後!!!!!!!!!!!」

 

 

 

時間にして十分も経っていないだろうか。

 

二回目のおとり作戦は、秋蘭の奮闘あって成功した。

 

 

 

「春蘭!!秋蘭!!」

 

砦から華琳が駆けだしてきた。

 

「華琳様!!」

 

「華琳様、ご無事でしたか」

 

迎える双子は、己の主をこうして無事に助け出せたことにほっとした。

 

「さすがだな秋蘭…まさか本当に今回できるとは、さすがに考えてなかった」

 

一刀にとっては改めて武将のすごさを見せつけられた。

 

しかも、今回秋蘭が狙撃した位置は本来の流鏑馬とは比べものにならない距離である。

 

「北郷の発想があったからな…賭だったが、盗賊を一掃しなければ今回の討伐の意味も無くなるだろうからな。礼をいうよ」

 

崖から雪蓮がズズッと滑ってきた。

 

「どうやら成功ね♪これで敵の伏兵におびえ続けるとか無駄な事を考えずにすみそうね」

 

「あら、雪蓮はおびえたことがあるのかしら?」

 

「…記憶にはないわね♪」

 

ハハッと笑う一同。

 

これで帰るだけ…に思えた。

 

「ちくしょう…ちくしょ、う」

 

盗賊の男は動いていた。

 

実際、秋蘭の矢は頭部に刺さっていたのだが、当たり所が良かったのか、まだ活動できた。

 

そんな中、砦の入り口付近で笑う連中。

 

男にはとうてい許される光景ではなかっただろう。

 

付近には己と同じく矢を射る連中が頭部を打ち抜かれて倒れていた。

 

このまま、死ぬのは絶対に嫌だ。

 

男はありったけの憎悪を込めて設置してあった岩を動かした。

 

「死んでしまえ―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

とんでもない内容の声が聞こえたので、見上げるとかなり大きい…それこそ、この場にいる全員がケガではすまないほどの岩が転がってきた。

 

まずい、逃げなければ。

 

しかし、秋蘭は集中力が果てていて、動くことが出来なかった。

 

刹那、その場にいた全員がそれに気づいた。

 

仕方がない、もう一働きと雪蓮は思ったが、

 

それよりも早く突進していった者がいた。

 

「でぇええええええええい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

崖を登りながら、魏武の大剣、夏侯惇元譲は

 

岩を叩き切って破壊した。

 

男は、岩の影から春蘭が出てくるのをみて思った。

 

こいつらに関わったことがまちがいだったのか、と。

 

「秋蘭に何をするんだぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

それが男が聞いた最後の台詞だった。

 

 

 

「…終わったわね」

 

「はっ、確実に仕留めました」

 

こうして一同は、本当に討伐を終えることができた。

 

 

帰り道は行きよりも和やかだった。

 

「しかし、あの春蘭の台詞は傑作だわ。やっぱり、私よりも秋蘭なのね」

 

そういってわざと悲しそうにする華琳。

 

それにあたふたとする春蘭。

 

それをみて笑う一同。

 

結果的には被害も殆ど出ていない。

 

食料問題があったものの、華琳は桂花の正式な採用をした。

 

後日、なんらかのお仕置きがあったそうだが、ずいぶんうれしそうな顔を桂花はしていた。

 

 

 

 

数日後。

 

「あの時は本当によかったよ」

 

そういって一刀が討伐を振り返った。

 

偶然が重なりすぎて怖いとも思ったが、考えても仕方がないので気にしないことにした。

 

ここは華琳の城の庭。一刀、雪蓮、風の三人はお茶をしていた。

 

「でも、今度から違和感を持ったらお兄さんや雪蓮ちゃんにすぐ言うようにしますねー」

 

「ああ、頼む。風の視点はすごく助かるよ」

 

やはり自分なんかより、風の感性は鋭いのだろう。

 

「ぶーぶー、かずとったら、風ばっかり」

 

つーん、とする雪蓮。

 

「す、すまん。雪蓮がいたから何とかなったことも、忘れてないよ」

 

あわててフォローにはいる一刀。無論雪蓮も本気ですねているわけではない。

 

 

「さて、これからどうするか」

 

「そうよね-」

 

「あら、三人で悪巧みかしら」

 

華琳が酒瓶をもってやってきた。

 

「昼間から飲むのか?」

 

「違うわよ。雪蓮への報酬。まだ仮だけれど」

 

「ああ、それはすま…っていきなり飲むなよ雪蓮」

 

「えー、いいじゃんー、かずとも飲ませてあげようか♪」

 

 

そういってふざける雪蓮。

 

 

「はぁっ、どうして普段は、こう」

 

「あら、別に良いじゃない。あと、あなたたちのために情報があるけれど」

 

「情報?」

 

「ええ。最近、公孫賛のところに良い評判の将が入ったそうよ」

 

その瞬間、雪蓮の顔も一瞬で真剣に変わる。

 

「名を…『劉備』と言うそうよ」


 
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