ひげ「お頭!あいつらですっ!」
一刀の言葉を遮って三人組の男がこちらを指さして叫んでいた。
少女B「ちょっと何よ、バケモノって、ホントにバケモノじゃないの!
もっとぷにぷにしてキモカワイイのかと思ったら、本気でキモいだけじゃない!」
少女C「しかも一体と聞いていいたけど、増殖している?」
その後をついてきた三人の女の子の小柄な青い髪の女の子と、メガネをかけた紫がかった髪の女の子が貂蝉と卑弥呼を見ながら戦慄していた。
さらにその後方にはそれなりの数の似たような服装の男たちが控えている。
多分先ほどの三人組みの仲間だろう。
第二話:漢達、戦う
貂蝉「……だぁれぇがぁ!異界の狭間からはみ出してきたようなバケモノですってぇ!!」
少女B「そこまで言ってないわよ!」
少女A「あ、あのお兄さんたち、ちょっとイイオトコかも……
お姉ちゃん、服が光ってる可愛いお兄さんもーらいっ」
少女C「姉さん、抜け駆けはいけないわ」
貂蝉がバケモノ呼ばわりに怒り心頭といったところだが、桃色の髪をした女の子の発言にさらに怒りが増していた。
一刀としては貂蝉たちよりも彼女たちと一緒のほうがよかったのだが…
卑弥呼「…私たちのご主人様をさらってその体を使って虜にする心算かぁぁ!!」
貂蝉「そんなこと正史が許してもわたしたちが許さないわよぉ!!」
当の一刀は許したかった。
割と本気で…
華佗「それよりあの娘たちは何者なんだ?」
華佗がもっともらしい意見を言った。
先ほど追剥を行おうとした男たちと一緒に現れ、あまつさえ『お頭』に当たる人物……
ひげ「おうおう!この方々こそ、泣く子も黙る黄巾党の張角さま、張宝さま、張梁さまだ!」
張角「あーっ!それ私たちが言おうと思ってたのにーっ!」
一刀「……張角…に張宝、張梁…か」
黄巾党と言えば三国志を扱ったゲームや漫画でよく用いられる組織のはず。
そして、張角と言えばその黄巾党のトップ。
一刀はここでようやくある考えに至っていた。
ここは三国志の舞台となった時代で、さらに一部の性別が変わっているのではないかと言うことに。
貂蝉・卑弥呼が男というかオカマであるが、張角たち3人はどう見ても可愛い女の子である。
どこまで性別が変わっているかは分からないが、一刀は自分が別の世界の三国志の時代に来たのだと理解した。
卑弥呼「…まぁ、私とご主人さまの愛のイチャイチャ空間を邪魔したこと…」
貂蝉「………万死に値するわ!」
そう言うと二人は臨戦態勢に入る。
一刀としてはそんな状態になった覚えはないのだが…
華佗「黄巾党だと…?お前たち、もしかしてこの辺りで悪事を働いている連中か?」
張角「いや、別に悪事を働いてるわけでは…」
張宝「少なくとも、私たちはやってないけど……」
ひげ「はっはっは!よく知ってるじゃねえか!
テメェも痛い目見たくなかったらとっとと謝っちまいな!
今なら謝って有り金全部出せば許してやってもいいんだぜ?」
張梁「ちょっとあなた!そんな誤解される言い方!」
華佗「そこのお前!」
張梁があわてて訂正しようとするが、華佗がちびの言葉に反応する。
華佗「お前……、今までに何回悪事を働いた!」
ちび「はぁ?そんなのいちいち数えてるワケないだろ?
たくさんだよ、たーくさん!」
圧倒的に数が多いため調子に乗っているのか、貴様は今まで食べたパンの数を数えたことがあるのか?
とでもいいそうな口ぶりで、ちびが答える。
華佗「……それは、三回よりも多いか?」
華佗の顔はうつ向き気味でよく見えないがその背中からはただならぬ怒気を感じる。
しかし、ちびはそれを怯えと思ったのか小馬鹿にするように続ける。
ちび「三回はたくさんっていわねーよバーカ!」
華佗「そうか……」
顔をあげた華佗の顔は諦めと同時に覚悟完了したような顔になっていた。
張梁「ち、ちぃ姉さん…」
張宝「う、うん……なんか…」
張角「なんかヤバい雰囲気だね……」
張角たちは華佗たちのただならぬ雰囲気に気づき少し距離を置く。
華佗「三度までなら我が五斗米道の教えに従い、見逃してやろうと思ったが……四度を超えているのなら、許すわけにはいかないぞ!」
卑弥呼「なにぃっ!五斗米道だと!」
五斗米道という言葉に卑弥呼が反応する。
貂蝉「知っているのっ!卑弥呼!」
卑弥呼「うむ…かつて神話の時代、神濃大帝が編み出したと言われる究極医術の一流派よ。
受け継いだものもおらず、歴史の闇に消え去ったと聞いておったが……!」
一刀「……でもさっき(第一話参照)、華佗は五斗米道の教えを受けた医者だって言ってたぞ」
卑弥呼「なんと!」
華佗「罪もない民たちから金品を奪い、あまつさえ怪我人死人を増やすなど……お前たちこそ大陸にはびこる最低最悪の病魔なり!」
華佗が鋭い視線でちびをにらみつける。
華佗「五斗米道の教えを受けて、この華佗が貴様らを治療してやる!覚悟しろ!」
貂蝉「そして、この天の御遣いの従者、美しき踊り子!貂蝉と…」
卑弥呼「謎の巫女!卑弥呼が助太刀するっ!!」
左慈「同列に扱われたくはないが、俺も気が立ってるんでな!八つ当たりをさせてもらうぞ!!」
血の気の多い4人はすでにやる気満々だが、一方で天の御遣いである一刀は考えていた。
一刀「(さっきのちびの言葉に対する彼女たちの反応………)」
ひげ「ええい、野郎ども!やっちまえ!」
ひげの怒号とともに黄巾党のメンバーがひげとともに華佗たちに襲いかかる。
先ほど貂蝉に秒殺された後に治療されたことなど覚えてもいないのだろう。
華佗「ふっ、医は仁術なり!天の御遣いが仲間にいる以上俺たちは負けない!」
左慈「……不本意だが、天の御使いは俺たちが守る!!」
そういって華佗と左慈の二人が突出する。
華佗「でえええええぇえぇいっ!!」
ちび「ぎゃああっ!」
華佗は懐から出した鍼をちびの膝に突き立てる。
華佗「俺は医者だ!殺しはしない!その腐った性根、俺が治してやる!」
ちび「が……がは…っ!膝が……動かねえ…」
華佗「お前の膝のツボを突いた……厠で用を足すときにも座れない恐怖、半月ばかり味わうがいいっ!!」
華佗は得意の鍼で相手のツボを突いて行動不能にしていく。
一刀は華佗の背後に胸に北斗七星の傷がある男を見た気がした。
左慈「ふん!お前らみたいなのを見るとイライラするんだよっ!!」
盗賊「がっ!」
左慈は鋭い蹴りで確実に倒していく。
顎や鳩尾を打ち抜き、時に足を払って体制を崩す、そして敵の攻撃はすべてすれすれで避けている。
それに対して残る二人は……
貂蝉「私が戦うのはただ愛のため!
愛しのご主人様に頼まれた以上、この身に敗北はないわよぉん!
うっふっふぅぅん!」
卑弥呼「ふっはっはっはっはっは、なっちゃい!全然なっちゃいないぞ!
その程度の武で我がご主人さまへの愛は屈するなどあり得んっ!!
むっふぅぅぅん!」
心配要らない。むしろ相手を心配するべきかもしれない。
一刀はそう思い周囲の敵を確認する。
直接戦うことが出来そうもないので、相手の行動を観察することで怪しい動きをしている者を知らせようと思っての行動だ。
本来ならば隙だらけなのだが、4人の奮闘により一刀を直接狙う相手はいない。
張宝「こ……こいつら、強い!っていうか、キモい!!」
張角「と、とりあえず逃げよぅ!なんかこの人たち怖いよぅ!」
張梁「そ、そうね。みんな撤退!撤退ーっ!」
張梁が張角の発言に反応し、味方に撤退命令を出す。
その命令を受け、蜘蛛の子を散らすように逃げていく黄巾党。
貂蝉「あらあら、みんな随分早いのねぇ
こんない早くっちゃ、お姉さんモノ足りないわぁ」
左慈「ふん、歯ごたえのない奴らめ」
華佗「なぁ……みんな、良かったらもうひと働き、手伝ってくれないか?」
黄巾党が逃げ出すのを確認してから華佗が聞いてくる。
卑弥呼「どうしたのだ?追い掛けていってもう一度懲らしめるか?」
卑弥呼が物騒な返答をするが、華佗の視線の先には先ほどの戦闘で負傷した黄巾党たちがいた。
華佗「それも必要だろうけど…まずはこの人たちを助けるのが先だ
この人たちは確かに悪事を働いたけど、懲らしめた後はただのけが人だからな」
華佗の言葉を聞いた後、貂蝉と卑弥呼が一刀を見る。
一刀はため息をひとつ吐いて言葉を紡いだ。
一刀「……戦闘じゃ役に立てないけど、軽い傷の手当て位なら部活動でよくやってたから任せてくれ」
卑弥呼「おお、さすが我らのご主人様!ご自分の命を奪おうとしたものにすら慈悲を授けるか!」
貂蝉「わたしたちも頑張っちゃうわよ!」
左慈「ふんっ、甘いことだな」
悪態をつきながらも一刀たちの手伝いをしている左慈であった。
卑弥呼「ほら、しっかりしろ!傷は浅いぞ、気をしっかり持て!」
盗賊「うぅ…お、俺は…死なずに……すんだのか…?」
貂蝉「ほら、しっかり!んっちゅううぅぅぅ…」
盗賊「ぐぎゃあああぁぁぁぁあぁあぁぁ!!!……がくっ」
貂蝉「……あら、気を失っちゃったわ」
卑弥呼「気がついて安心したのだろう
幸せそうな寝顔ではないか」
一刀には青色だった顔が土色になった様にしか見えない。
何故だろうか、心が砕ける音が聞こえた気がした。
華佗「よかった
なら、寝ている人たちはこっちに並べて寝かせておこう」
一刀「わかったよ
………間隔はこのぐらいでいいかな?」
これ以上貂蝉たちに任せのは、彼らに(精神的)負担がかかりそうなので一刀は進んで運んだ。
気を失った人間を運ぶのは重労働で一刀には少々辛かった。
華佗「けど、たいしたもんだな
俺は最初から手加減してたけど、あんたたちもしっかり手加減している…」
卑弥呼「ふっ、我らのご主人様の御心に従っただけだ」
一刀「え?……俺は何も言わなかったような…」
―――確かにあまりひどくやらないようにとは思ってたけど…
と続けようとしたとき貂蝉が卑弥呼の言葉に続いた。
貂蝉「愛しの殿方の心を見通すのは、漢女道の初歩の初歩なのよん」
華佗「へぇ、さすが天の御遣いの従者だな。主従揃って和を重んじるか…」
愛しの殿方は華麗にスルーして話を進める華佗、案外彼は抜けているのかもしれないと一刀は思った。
卑弥呼「ほれ、目を覚ますのだ
目覚めねば、愛の接吻をぶちくらわせてくれよう
むちゅぅぅぅぅぅ…」
せっかく彼らの体の傷が癒えようとしているのに、心に修復できない傷を負わせていく卑弥呼。
一刀は耳をふさぎ、彼らの断末魔を聞かないように努める。
左慈も青い顔をしながら目をそらす。
??「そこのお前たち!何をしているっ!」
その時だった。
年の若い女の声が響いた。
貂蝉「あらん、誰?」
女性「それはワシらの台詞じゃな
見ればそこに並べておるのは、黄巾の一味のようだが…?」
前髪の一部の色が違う少女とかんざしをした青みがかった銀髪の妙齢の女性が立っていた。
妙齢の女性は寝かせている黄巾党たちをみるとこちらを怪しむように見る。
少女「それにそんなに怪しい恰好をして……!」
貂蝉「ぬぁんですってぇぇぇ!!」
少女「……ひっ!キモっ!」
貂蝉と卑弥呼を怪しいというのは当然のことなのだが…
卑弥呼「誰が、悪夢から抜けた出た存在というよりも、悪夢そのもののような存在だと!!」
少女「そこまで言ってないだろ!」
??「焔耶ちゃん、桔梗、二人とも武器をお引きなさい
あなたたち……良かったら、詳しく事情を聞かせてもらえないかしら?」
卑弥呼の被害妄想が大量に含まれた物言いに、少女が反論するが、後ろから現れたもう一人の女性が二人の女性をいさめる。
貂蝉「……しおn…じゃない、黄忠ちゃんね?ということは、ここは……」
黄忠「??…ここは漢中よ」
黄漢升、彼女があの老益々盛(おいてますますさかん)と言われた弓の名手。
一刀は残る二人もどこかの武将かもしれないと思ったが、焔耶、桔梗という名の武将は記憶にない。
とりあえず、一刀が黄巾党に襲われてからの経緯(貂蝉、卑弥呼の喧嘩は省く)を説明すると、黄忠たちは納得してくれた。
ただ、ブラック○ャックみたいな髪の少女は傷の治療をした後にしては顔色が悪く呻いていることに疑問を持ったようだった。
そして、話し合いの結果、黄巾党は黄忠たちにしかるべき裁きを受た後、郷里に帰すことになったが…
少女「っていうか!……二人ともなに平然と話してるんですかっ!
こいつらのこと怪しいとか思わないんですかっ!」
一刀と左慈の二人は貂蝉達と同列に扱われるのは甚だ憤慨ではあるが、実際自己紹介らしいものもしていないし当然のことなのかもしれない。
妙齢の女性「おお!そういえばお主ら、何者だ?」
華佗「俺は華佗
五斗米道の教えを受けて、大陸を旅してまわるしがない医者だ」
貂蝉「都の踊り子にして絶世の美女、貂蝉よぉん」
卑弥呼「謎の巫女、卑弥呼だ」
左慈「峨眉山の道士、左慈だ」
一刀「俺は北郷一刀……天の御遣い…かな?」
華佗を除けば全員身分が怪しいことこの上ないのだが、黄忠たちは気にした風もなく続ける。
厳顔「なるほど、…わしは厳顔という、こっちの若いのが魏延、そしてもう一人は知っておるようだが、黄忠だ」
魏延「なるほど、じゃないです!怪しさで言ったらこいつら黄巾党の百倍は怪しいじゃないですか!!」
黄忠「そうかしら?確かに服が光ってる人なんて珍しいけど……」
え?俺?と一刀が反応するが、ブラッ○ジャック改め魏延としては貂蝉と卑弥呼のことを言ってるつもりだった。
魏延「そっちじゃないですっ!こっちの二人ですよ!
五胡の妖術遣いだってここまで怪しくないでしょう!!」
卑弥呼「ご主人さま、私たちって…変かの……?」
一刀「十人に聞いたら『20回』は『変』って言うよ」
大事なことは2回言うのです。
華佗「そうか?いい骨格といい筋肉だと思うが?」
左慈「そういう意味の質問じゃないだろ!」
華佗の見当はずれな答えに一刀と魏延はこけそうになった。
結果としては「人として判断できるなら、外見は気にしない」ということで落ち着いた。
厳顔「それよりお主ら、そこまで腕が立つなら、少々手伝ってもらえんだろうか?」
華佗「黄巾党の討伐か?」
黄忠「話が早いわね
あなたたちさえ良ければ、手伝ってもらえないかしら?
もちろん、褒賞は十分に用意させてもらうわ」
一刀はまたも考えていた。
つい先ほどの戦闘ですら何も出来なかった自分が着いていっても足手まといにしかならないのではないかと。
華佗「それが大陸を蝕む病魔を討つためならば!」
卑弥呼「我らが主の天命のため、我らも戦おう」
貂蝉「…それに、黄忠ちゃんの頼みとなら、わたし頑張っちゃう!」
しかし、一刀の思考とは別に卑弥呼たちが勝手に引き受けていた。
黄忠「……あなた、わたしもことを知ってるようだけれど……どこかでお会いしたことがあったかしら?」
左慈「俺のことも知っているような口調だったな
外見的に師匠に近い類の存在だとは思うが……」
卑弥呼「うぅ~ん、黄忠ちゃんとは随分と昔に会ったことがあるのよ
左慈ちゃんは……そうねぇ、漢女の直感と言うことで事で…」
左慈「……訳の分からん事を…」
黄忠「随分と昔って私が年寄りみたいじゃない?」
黄忠の笑顔に凄まじい威圧感を感じる一刀たち。
女性として年齢のことで妥協は存在しないようだった。
厳顔「まあとにかく進撃だ
場所の目星は既についておるから、このまま一気に突き進むぞ!」
一刀「……もう…どうにでもなれ……」
一刀の言葉は流され、一行は黄巾党の拠点に向けて黄忠たちの兵と共に進むのであった。
そして、彼らのことを観察していた存在は音を立てずにその場を後にしていた……
あとがき
皆さん、こんばんは。
大鷲です。
今朝投稿したくせに何やってんの?と思った人もおられるかもしれません。
ですが、TINAMIのシステム上応援メッセージって見習いだと確認できないんですよね……
コメントにもありましたがやっぱりこの組み合わせは新鮮なようです。
恋姫†無双といえば女の子たちがいて何ぼですもんね……北郷君の本領もこんなメンバーじゃ発揮できないかもしれませんが、それは話が進めば……ということで…
コメントとかもらえるとうれしいです。すごく…とても……
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名前がややこしいですが、隠しルートである『漢(かん)ルート』の再構成した『漢(おとこ)ルート』です。
ガチムチな展開は精々ネタ程度にしか出て来ないのでご安心ください。
ただし、漢女成分が多分に含まれるかもしれませんので心臓が弱い方はご注意ください。