徐州にて、輝里が一刀達の下を訪れていたころ。
漢都・洛陽にて。
「おー、孟ちゃんやないか。警邏ご苦労さん」
二人の少女と、数人の兵を引き連れた金髪の少女、曹操-華琳に声をかける女性。
「あら、霞じゃない。・・・そういうあなたは散策中かしら?」
「ああ、そんなとこや。けど、ほんまよう働くなあ、孟ちゃん。たった半年で禁軍の一隊を預けらられるんも、わかるっちゅうもんやわ」
そう。先の一件で洛陽の警備隊の長に任じられた華琳は、この半年の間にしっかりと結果を出し、その働きを評価した皇帝劉弁から禁軍-つまり、皇帝直属の近衛軍の一席を与えられた。
「陛下が華琳さまを、正しく評価してくださってくれていますから」
「華琳さまならとーぜんの結果だね」
華琳に従う二人の少女が言う。
「典韋に許褚やったか。二人ともちっこいのにようがんばっとるらしいな。それに武のほうもなかなかのもんやと聞いたで?なあ、孟ちゃん、いっぺんこの二人とやらせてくれへんか?」
華琳にそう問う霞。
「あら、あなたはそっちの趣味はないんじゃなかったかしら、霞」
ニヤニヤしながら答える華琳。
「そっちの意味やのうて!・・・わかってて言うとるやろ、自分」
「さあ?なんのことかしら?」
クスクスと笑う華琳。
「はあ。まあええわ。ほな、うちはこれで。警邏の邪魔して悪かったな」
頭をかきながら、その場を立ち去ろうとする霞。
「・・・あら?あそこにいるの、華雄じゃない?」
「へ?」
華琳が示すその先には一軒の本屋があり、そこから、何冊かの本を待った女性が出てきたところだった。
「ほんまや。お~い!かゆう~!!」
「ん?・・・おお、霞か。それに曹操殿も」
華琳たちに気づき、その傍へとやってくる華雄。
「なんや、ぎょーさん本なんぞ持って。・・・艶本か?」
二ヒヒと笑う霞。
「馬鹿を言うな。これが艶本に見えるのか?」
「・・・ん~?『孫子』に、『六韜』?って、なんや兵法書か。つまらんなあ」
「何を期待してたの、貴女は」
がっかりする霞に、華琳が突っ込む。
「せやけど華雄、あんたが兵法を?」
「・・・似合わんとでも言いたそうだな」
「そうはいわへんけど、意外なんは確かやな」
「私だってそれは判ってるさ。けど、劉翔にも言われたしな。将としての武を身に着けてこそ、真の武人だとな。・・・せめてこれ位はせねば、次にあったときに顔向けが出来ん」
そう言う華雄。その表情は何故か、心なしか紅くなっていた。
「ふぅん。将としての武ねぇ。・・・うちの誰かさんにも聞かせてやりたい言葉だわ。・・・あら?華雄、そっちの袋は何?」
華琳が、華雄の左手に握られている袋を、目ざとく見つける。
「こ、これか?そ、そのだ、な。これは、そう!私の部屋着だ!!」
何故かあわてて言いつくろう華雄。
「(ぴ---ん!)部屋着か。なあ、華ゆ「見せんぞ!!」・・・そう言われると見とうなるんが人っちゅうもんや。うりゃ!!」
華雄から袋を奪おうと、飛びつく霞。
「!?なんの!!」
とっさに飛びのいて霞をかわす華雄。が。
「あ」
飛びのいた拍子に、袋が華雄の手から離れる。
「おっと」
そしてそれは華琳の手の中に。そして。
「(にやり)・・・ごめんなさい!!手が滑ったわ!!(笑)」
「あーーーーーっ!!」
袋から中身が出て(出されて)、その場に広がる。
「・・・何これ」「・・・着物か?」「着物ですね」「着物だー」
「あうあう」
それは、白い上着と、赤色の履き物。
「でも見たことない着物ね。・・・あら?こっちは霞の袴にそっくりね」
「せやな」
赤色の履き物を見てそう言う、華琳と霞。
「華雄。これは何?」
「こ、これはだな、その、ようするに、あ~~~~」
「・・・白状しい。なんやのこれは。言わんのやったら、この場で引き裂くで?」
霞が袴を手に、華雄に迫る。
「・・・い、衣装屋の親父がな、その、わ、私に似合うと言って、無理やり押し付けてきたのだ。・・・試し物だから、銭もいいといってな」
「ふ~ん。・・・はは~ん。さてはあなた、これで”誰かさん”を・・・」
「そ!!そんなことするわけないだろう!!大体、こんなものを着たからといって、劉翔が私なんかを・・・あ」
自身で墓穴を掘った華雄。
そして、みるみるうちに顔を真っ赤にしていく華雄を、にやにや見る華琳たち。
「う、う、う、う、うあ~~~~~~~!!!」
衣装を霞の手からひったくって、走り去る華雄。
「・・・うぶやなあ、華雄のやつ」
「そうね。いい物を見せてもらったわ。・・・ふむ。わたしもあれ、作らせて見ようかしら」
「孟ちゃんがあれ着るんか?・・・・・・・・・ぷっ」
「・・・霞。最後のはどういう意味かしら?」
絶を構える華琳。
「あ。うちそろそろ行かんと。ほな!!」
ピューーーーン。
と、一目散に霞は逃亡した。
「・・・逃げ足の速い。・・・さてと、季衣、流琉。早いところ警邏を終わらせるわよ?」
「「はい、華琳さま」」
(あとで、あの衣装を作った店を探さないと)
何故か笑顔の華琳であった。
その夜。
洛陽城内の一室。
「・・・これが、わたしの、素性を示す、か」
自身の部屋で、それを見つめる華雄。
「こんなものがなぜ、私の素性につながるのだ。こんな、”巫女服”とやらが」
(しかし、あいつは確かにそう言った。この着物が、私の失われた記憶に繋がると)
昼間、華琳たちに出会う前、本屋で兵法書を物色していた華雄に、一人の男が声をかけてきた。
その男は言った。
「私は貴女の出自を知っている。その証に、これを渡そう。あなたにゆかりのあるものだ」
と言って、男が華雄に手渡したものが、先ほどの着物だった。
華琳たちには、とっさに嘘をついてしまった。
何故かは判らないが、言ってはいけないような気がしたからだ。
「・・・袖を通してみるか。もしあの男が言ったことが本当なら、何か思い出せるかも知れんし」
不審ではある。その男を問い詰めようとしたが、すでにその姿はなかった。
だが、手にとって見ると、何故か、懐かしさのようなものを感じたのは確かだった。
華雄は寝着を脱ぎ、その着物を身に着ける。
そして、姿見に自身の姿を映す。
だが。
「・・・しっくりはくる。不思議と。・・・しかし、何も思い出せそうもないな。ふ、私ともあろうものが、馬鹿馬鹿しい」
巫女服を脱ごうとする華雄。
だが、ふとその動きを止める。
「・・・この姿なら、少しは女らしく見えるだろうか。だとすればあいつもわたしを・・・」
そこまでつぶやいたところで、はたと、われに返る。
「な、何を言ってるんだ私は!!」
巫女服を脱ぎ捨てる。
すると今度は、当然、生まれたままの姿の自分が、姿見に写る。
「・・・われながら、およそ女の体とは思えんな。ふ」
そうひとりごち、寝台に潜り込む。
「勅使として徐州に発つのは、三日後だったな。・・・劉翔たちは元気でいるだろうか」
華雄の脳裏に、一刀達の姿が浮かぶ。
その彼らとの再会を楽しみにしつつ、華雄は夢の世界へと入っていった。
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刀香譚、十五話です。
が!これははっきり言って、華雄応援作品です!!
公式投票は残念な結果でしたが、
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