No.154362

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第十四話

狭乃 狼さん

刀香譚十四話です。

徐州に入った一刀たち。

そこに待ち受けていたのは、名士という壁。

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2010-06-30 15:00:40 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:24993   閲覧ユーザー数:21137

 

 一刀たちが徐州に入ってすでに三ヶ月。

 

 その間、一刀たちは苦労と苦悩の連続であった。

 

 徐州という土地は、もともと名士-つまり、有力豪族の影響力の強い土地である。

 

 ゆえに、新参の一刀たちを快く思わないものがほとんどであった。

 

 それを打開するため、一刀たちはその名士の中でも、特に強い発言力を持つ、孫家と糜家に協力を仰いだ。

 

 勿論最初は、両家とも難色を示した。

 

 いかに皇族の一門とはいえ、それがそのまま信用の証になるわけではない。

 

 一刀と桃香は、政務の合間を見ては、それこそ毎日のように両家を訪れ、時には自分たちの屋敷に招いて、両家を口説いた。

 

 それが二月も続けば、さすがに両者とも気心が知れて来るものである。

 

 孫家の家長である孫乾と、糜家の家長、糜竺・糜芳の姉妹はすっかり一刀と桃香に惚れ込み、気がつけば、全員真名で呼び合う仲になっていた。

 

 

 

 「じゃあ、他の名士たちには、義ではなく、利を以って口説いた方がいいと?」

 

 亜麻色の髪の女性、孫乾・公裕-真名を柊(ひいらぎ)に、問い返す一刀。

 

 「はい。われら三名は一刀さまと桃香さま、お二人のその深い御心に感銘を受け、臣下の礼をとりました。ですが」

 

 「他の豪族たちは、人の心の繋がりなどは何の役にも立たないと、豪語するものばかりです」

 

 柊に続いて話す、白髪の、見た目は幼い少女にしか見えない人物、糜竺・字は子仲。真名は琥珀。

 

 「けどお兄ちゃん。利を持って口説くのはいいけど、何を以って利とするの?」

 

 そう一刀に問う、桃香。最近はすっかり、お兄ちゃんと呼ぶのが普通になっている。

 

 「そうだな。まずは、楼桑村から桑の木と蚕を、こっちにいくらか移させてもらうか。・・・さつ、あ、いや、簡雍さん、手配をお願いします」

 

 「心得ました」

 

 五月-簡雍が一刀に返事をする。

 

 一刀が徐州牧になったことで、その臣下である五月もこちらに移っていた。

 

 「あとは・・・、そうだな。翡翠さん、塩の製造ってやってるんですか?」

 

 一刀がもう一人の白髪の女性、糜芳・字は子方-真名を翡翠に問う。

 

 「やってることはやってるが、基本的に塩の売買は、一部の塩商人に抑えられているからな。我々が入り込むとなると、ちと厄介かもな」

 

 

 

 この時代、貴重な塩の販売は、二種類の経路に限られていた。

 

 つまり、朝廷直轄のものと、一部の民間人によるものである。

 

 そのどちらも塩そのものの質は、ほぼ同じである。

 

 しかし、実際には民間人の手による塩の売買が、市場をほぼ独占していた。その理由は、値段である。

 

 朝廷直轄の塩には、相場の二十倍という値がついている。勿論これは、売買を管理している者たちが、私服を肥やすためにかけた税のせいである。

 

 一方、民間人による塩は、その半分ほどだ。それでも十分高価であるが、人にとって塩は欠かすことのできないものである。

 

 少々値が張っても、その需要は大きいのである。

 

 「ものが同じであれば、少しでも安いほうに、人の目は行くもの。安く、しかも大量に、生産できるのであれば、我々が食い込むこともできましょうが」

 

 という愛紗。

 

 「今の塩の作り方って、海水を人の手で汲んで、それを地面にまいて、天日で乾かす、だっけ」

 

 「よくご存知で。そのとおりです。なので労力が並みではありませんので、どうしても値が張ってしまうのです」

 

 一刀にそう答える柊。

 

 「ねえ、お兄ちゃん。例の方法、試せないかな?」

 

 「うん。俺もそれを考えてた」

 

 「例の方法、とは?」

 

 琥珀が一刀に問う。

 

 「潮の満ち引きを利用するのさ。干潮時に、潮の引いた所を柵で囲んでおくんだ」

 

 簡単な絵を描きつつ、説明する一刀。

 

 「なるほど。そうすれば再び潮が満ちて、勝手に海水がたまる。後は、再び潮が引いた後に、さらに柵を設けて、今度は水が入らないようにしておけば」

 

 「うん。後はただ乾燥するのを待つだけってこと。これなら、労力はかなり減る」

 

 「ふむ。試してみる価値は十二分にありますな。早速、うちの職人たちにやらせて見ましょう。一月あれば結果は出るでしょう」

 

 一刀が描いた図を懐にしまう柊。

 

 

 

 「それにしても、このような方法、どうやって思いつかれたのですか?」

 

 琥珀が一刀に問う。

 

 「実際に思いついたのは桃香なんだけどね。私塾時代の友人で、孫権って子がいるんだけど」

 

 「孫権?もしや、揚州の孫家の者ですか?」

 

 孫権の名に反応する柊。

 

 「あ、そういえば姓が同じですね。何かご関係が?」

 

 愛紗が柊に問う。

 

 「関係も何も、孫家の現当主、孫堅どのは、私のはとこなのです」

 

 「へ?」

 

 「はとこ?ほんとうですか?」 

 

 驚く一刀たちにうなづく柊。

 

 「私の母の姉の娘が文台殿の母御です。まあ、実際に会ったことはないのですが」

 

 「・・・あの~。話を戻してもらっていいですか?」

 

 琥珀が脱線した話を、本題に戻そうと口を挟む。

 

 「あ、すいません。で、その蓮華、いや、孫権から聞いていたんですよ、塩の製法を。で、あまりにも非効率だったんで、なんかいい方法はないものかと、みなで話し合った事があるんです」

 

 「で、それを考え付いたのが桃香さま、と」

 

 「うん、まあ」

 

 照れる桃香。

 

 「やっぱりお姉ちゃんは、頭いいのだ」

 

 「そうだな。良い義姉を持てて、我らは幸せ者だな、鈴々」

 

 「も~、二人ともそんなに褒めないでよ~。恥ずかしいよぅ」

 

 『あははははははは』

 

 笑い声がこだまする、室内であった。

 

 

 

 それからさらに三ヵ月後。

 

 一刀たちの方策が功を奏し、いくつもの名士たちが一刀に臣従を誓った。

 

 さらに、塩の値が安価で安定したことで、民も一刀たちをようやく認めた。

 

 一部、塩の売買で利益を得ていた者たちが反発し、軍を率いて反乱を起こしたが、所詮兵の錬度が違いすぎた。瞬く間に反乱は鎮圧され、しかも、敗れた名士たちがこれまで貯めこんでいた、かなりの財を民に還元することで、一刀たちの徐州での地位は、完全に安定した。

 

 そしてある日のこと。

 

 一刀たちの下を来客が訪れた。

 

 「カズくん!みんな!ひさしぶり~!!」

 

 「輝里(かがり)!!元気だったかい!?」

 

 そう、幽州で別れた輝里こと、徐庶であった。

 

 「約束どおり、カズくんの力になりにきたよ!カズく、いえ、劉北辰さま。この徐元直。劉翔様にお仕えすべくまかりこしました。ぜひ、ご陣営にお加えくださいませ」

 

 うやうやしく跪く輝里。

 

 「もちろん。みんなも良いよね?」

 

 「もちろんだよ!!輝里ちゃん、よろしくね!!」

 

 「私も異論はありません。徐庶どの、その知、期待させていただきます」

 

 「鈴々も大歓迎なのだ!!」

 

 「私は孫公裕です。よろしくお願いいたします」

 

 「糜子仲。よろしくです」

 

 「その妹、糜子方だ。よろしくな」

 

 輝里に挨拶をする一同。

 

 「改めまして、私は徐庶元直。真名は輝里です!この真名、皆さんにお預けします!!」

 

 そう言って、礼をする輝里であった。

 

 

 

 「・・・と・こ・ろ・でェ。ね~え、カ~ズくん。例のや・く・そ・く、なんだけど」

 

 顔を上げ、そう言いながら一刀にとことこと近づく輝里。

 

 「約束?・・・・・・ちょっとまて、まさかそれって」

 

 「そ!今度会ったら、カズくんのお嫁さんにしてくれるっていったよね?」

 

 「まてまてまて!!俺はそんなことは一言も言ってないぞ!!お前が一方的に言っただけだろが!!」

 

 「え~?そ~お?じゃあ、あらためて」

 

 ぎゅっと。

 

 一刀に抱きつく輝里。

 

 「カズくん。あたしをカズくんのお嫁さんにしてく、ほえ?」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 輝里が一刀の表情の変化に気づく。

 

 そして後ろを振り向くと、そこには。

 

 「カーガーリィーチャーーーーン?」

 

 「ナーニーオーシーテーマースーカー?」

 

 すごい形相の、桃香と愛紗がいた。

 

 「ト、トウカオネエチャン?アイシャサン?メガ、メガコワイデスヨ?」

 

 一刀から離れ、じりじりとその場を離れようとする輝里。

 

 「「ニガスガーーーーーーーー!!ゴンンンンノ、マセガギィィィィィ!!!!」

 

 「イヤアアアアアアアア!!!!」

 

 逃げ出す輝里と、それを追いかける桃香と愛紗。

 

 「・・・アイシャゴン降臨なのだ」

 

 「というか、あの標的って、女子もなるんですな」

 

 「・・・さらば輝里。君の事は忘れない。どうか安らかに」

 

 手をあわせる一同であった。

 

 

 「たああすけてええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 さてさて。

 

 十四話でございますよ、と。

 

 いかがでございましたでしょうか。

 

 

 オリキャラが一気に三名登場です。

 

 全員、正史で劉備の陣営に加わった人ばっかです。

 

 

 で、作中の塩に関することなんですが、

 

 実際にそういう風だったかどうかはわかりません。

 

 世界中どこの国でも、当時塩は貴重だったでしょうから、

 

 こんな風になっててもおかしくないよなーと。

 

 妄想の結果でございます。

 

 

 もうひとつ、孫家について。

 

 すいません。謝ります。

 

 妄想大暴走です。

 

 実際にはまったく関係ない両・孫家ですが、ここではこんな関係にしました。

 

 後々のための伏線のつもりです。

 

 どう関係してくるかは、はるか先のことですが。

 

 あと、輝里が正式参戦です。

 

 キャラ的には、蒲公英とシャオを足して二で割ったような子だと、思ってください。

 

 例の徐州三人組についても、そのうち紹介したいと思ってます。

 

 それでは、また次回にて。

 

 コメント、(できたら支援も)お待ちしております。

 

 それでは~。

 


 
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