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真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第十一話・後編

狭乃 狼さん

刀香譚の十一話、後編です。

虎狼関戦、決着です。

では、どうぞ。

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2010-06-24 19:31:41 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:29100   閲覧ユーザー数:24191

 虎狼関。

 

 漢都・洛陽に至るための最大の壁。

 

 その前面にて対峙する、二つの軍。

 

 劉北辰率いる西涼軍八万と、袁本初率いる反西涼軍、十万。

 

 両軍はまさに、一触即発の状態にあった。

 

 軍の先頭に立つ一刀を、冷ややかに見つめる少女、賈駆。

 

 (・・・まったく、月も杏さまも、何を考えてるんだか。こんな男に全軍の指揮権を預けるなんて)

 

 話はほんの少し前、虎狼関内部でのこと。

 

 「詠ではないか。どうした、わざわざ虎狼関まで出張ってくるとは」

 

 そういって賈駆を出迎える華雄。

 

 「月と杏さまから劉翔に書状を届けに来たんだけど、霞達はもう?」

 

 「ああ。今頃は白蓮達と合流して、汜水関の後方にむかっているはずだ」

 

 「華雄どの、お客人なのですか?」

 

 そこに姿を現す一人の少女。

 

 「ねねか。丁度いい。すまんが劉翔たちを呼んでくれんか。詠が月さまからの書状を届けにきていると」

 

 「・・・仕方ないのです。少し待っているのですぞ」

 

 そういって部屋を出て行く少女。

 

 名は陳宮公台。なりは小さいが、一応賈駆とともに董卓軍の参謀を務める、軍師の一人である。

 

 「あれもよくやってくれている」

 

 「まあね。・・・最近はちょっと恋にべったり過ぎるけど」

 

 「フフ。まあ、出会いが出会いだ。ああなるのも仕方あるまい」

 

 「お待たせなのですぞ」

 

 ねねが一刀と桃香、愛紗と真紅の髪の少女、呂布-恋を連れて戻ってきた。

 

 「おまたせ。元気そうだね、賈駆さん。相国様たちからの書状ってことだけど?」

 

 「・・・正直、あたしはまだ納得してないんだけどね。・・・いい?読むわよ」

 

 こほん、と、咳払いをひとつして、手の中の書状を開き、読み始める賈駆。

 

 「相国・董仲頴、及びに、大将軍・馬寿成の名において、虎狼関における全軍の指揮権を、劉北辰に一任する」

 

 「・・・は?」

 

 唖然とする一刀。

 

 「なに間抜け面してんのよ。たった今から、虎狼関にいる八万の兵の総大将になる男が」

 

 「すっごいじゃない!お兄ちゃんてば!!」

 

 「さすが相国さまと大将軍閣下。義兄上のことをわかっていらっしゃる」

 

 「頑張れよ、劉翔」

 

 「恋も頑張る。・・・一刀も頑張る」

 

 「恋どの~!ねねもがんばるのですぞ~!」

 

 盛り上がる周囲の者達。

 

 ただ一人困惑する一刀は、

 

 「てか、何で俺?」

 

 と、思わず問う。

 

 「さあ?ともかく、あたしもここであんたを手伝うから、へましたら承知しないわよ?月のいる洛陽に、あんな連中を近づけるわけにいかないんだから」

 

 委任状を一刀に手渡し、そっぽを向く賈駆。

 

 「まいったな、こりゃ」

 

 一人つぶやく一刀であった。

 

 

 

 場面は再び虎狼関前。

 

 西涼軍の先頭に立つ一刀が、さらに一歩踏み出す。

 

 「われこそは、董相国、および馬大将軍より、全権を預かりし、劉北辰なり!!袁本初!曹孟徳!居るのであればわが前に進み出よ!!」

 

 一刀の呼びかけに、袁紹と曹操が前に進み出る。

 

 「お久しぶりですわね、一刀さん。相も変わらず、貧乏くさい顔ですこと」

 

 「・・・久しぶりね、一刀」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 だが、二人の言葉にまったく無反応の一刀。

 

 「ちょっと!!自分から出て来いといっておいて、無視するとはどういう了見ですの!?」

 

 「黙れ、袁紹!!」

 

 ビクッ!!

 

 一刀の怒気のこもった声に、身を縮める袁紹と、対照的に微動だにしない曹操。

 

 「本来であれば謀反人として即座に討ち取るところ!!されど昔のよしみに免じ、此度の反乱に対する釈明の機会を与えよう!!申したきことあれば申すがいい!!」

 

 「反乱、ですって?何をおっしゃっていますの?私達は洛陽にて帝を傀儡とする、董卓さんと馬騰さんの討伐の勅を頂いているんですのよ!そうでしょう、華琳さん!?」

 

 「・・・ええ、そうよ」

 

 袁紹の言葉に頷く曹操。

 

 「ならば曹孟徳よ!その勅が本物である証を示せ!そしてそれを、そなたに届けしはどこの誰かも!!」

 

 「答える必要はないわ。一刀、裏でいろいろ仕掛けをしているみたいだけど、全ては無駄なことよ」

 

 曹操がさらに一歩前に踏み出す。

 

 「おそらく今頃、汜水関に別働隊が回ってるのでしょう?再度占拠するために。でもあそこは孫文台が一万五千の兵で守ってるわ。落とすのはかなり困難よ?」

 

 にやりと笑う曹操。

 

 「ちょっと華琳さん!!どういうことですの?!私は聞いていませんわよ!!」

 

 「そ、そうじゃ、そうじゃ!なぜ妾たちに何も言わんのじゃ!!」

 

 袁紹の従姉妹である袁術も、隣に立つ腹心の張勲にしがみついたまま、曹操を責める。

 

 (言っても仕方ないからだろうな)

 

 頭の中でそう思う一同。

 

 その二人を無視し、曹操は話を続ける。

 

 「一刀、私を止めたいのなら、まず力を見せなさい!この曹孟徳のひざを屈したければ、言葉ではなく、己が力を以って!!」

 

 一刀にそう言い放ち、その目を見据える曹操。

 

 「良いだろう!ならば我ら大義の軍の力、身を以って味わうが良い!!」

 

 一刀が腰の靖王伝家を抜き放ち、そのまま天へ掲げる。

 

 「我ら劉翔隊は、正面の曹操軍に!華雄隊は袁紹軍!関羽隊は袁術軍へ!全軍、抜刀!!」

 

 「麗羽!袁術!何をしているの!こちらも戦闘体制を!!」

 

 「そ、そうですわね!お話は後でゆっくりと聞かせていただきますわよ、華琳さん!」

 

 自陣へと戻る袁紹と袁術。

 

 「春蘭!あなたは一刀を抑えなさい!秋蘭は季衣と流琉を連れて、呂布の足止め!」

 

 「「御意!!」」

 

 そして、

 

 『全軍・・・・・・かかれーーーー!!』

 

 戦いの幕が、切って落とされた。

 

 

 

 前曲が激しくぶつかりだしているころ。

 

 反西涼軍の後曲にいる、陶謙軍と孔融軍の陣。

 

 「始まったようだな」

 

 緑の装束をまとった男、孔融が言う。

 

 「ふむ。それにしても西涼の者達は強いの。異民族相手に戦い続けてきただけはある」

 

 今度は、水色の装束の初老の男性、陶謙が、感心したように言う。

 

 「それは認めるがな。所詮は田舎ものの集まり。気品のかけらも無いような者が、相国や大将軍になるなど、許されんわ」

 

 忌々しそうに言う、孔融。

 

 「・・・気品、のう。果たしてそんなもの、本当に必要かの。あの高祖とて、最初は田舎の県令だったではないか」

 

 「・・・それはそうだが・・・。まあ、なんにせよ、この戦の後のことを少しは考えておかねばな。・・・どちらが勝つにせよ、だ」

 

 孔融がそういったときだった。

 

 「申し上げます!!」

 

 兵士の一人が、二人の元にやってくる。

 

 「何事か?」

 

 「は!汜水関の門が開き、孫の旗の軍勢が出て参りました!!」

 

 「なに?孫堅が?・・・どういうことじゃ?」

 

 「おおかた、もっと功がほしくなったとか、そんなところだろう。所詮は田舎もの。底が知れて居るわ」

 

 かかか、と、笑う孔融。

 

 「そ、それが、旗は一つだけではありません!二つの「張」と「馬」、そして「公」の旗も共に出てきております!!」

 

 「な、なんじゃと!!」

 

 「孫文台め!!まさか寝返っておったのか!!もしや、関に残ったのはそのためか!!」

 

 動揺する二人。そこに、馬蹄の音が、確実に近づいてきていた。

 

 

 

 場面は再び前曲。

 

 「つありゃーーーーー!!」

 

 「なんの!!」

 

 ギイン!!と、金属のぶつかる音が響く。

 

 「よくもまあ、片目でこれだけ戦えるもんだ。感心するよ、夏侯惇」

 

 つばぜり合いの状態のまま、一刀が相手に言う。

 

 「ふん!貴様如きに褒められたところで、嬉しくもなんとも無いわ!!この夏侯元譲、華琳さまに歯向かうものは全て、この七星餓狼で切り刻んでくれる!!」

 

 ガキイン!!と、再びの金属音と共に、距離をとる両者。

 

 「なるほど。華琳はいい人材に巡り会えたもんだ」

 

 「貴様如きが、華琳さまの神聖な真名をよぶな!!華琳さまが穢れる!!」

 

 夏侯惇の言を聞いて、にやりと笑う一刀。

 

 「華琳」

 

 ぴくっ。

 

 「華琳、華琳、華琳、華琳、華琳、華琳(以下続く)」

 

 「きっ・・・!!貴っ様ああーーーーー!!」

 

 曹操の真名を連呼する一刀に、怒り心頭となって突っ込む夏侯惇。

 

 「・・・この位のことで我を忘れるか。まだまだ、未熟だな」

 

 振り下ろされる七星餓狼を軽々と避け、そして、

 

 「ふっ!!」

 

 どごっ!!

 

 「がはっ!!」

 

 靖王伝家の柄を、思い切り夏侯惇のみぞおちにくらわす一刀。

 

 「華琳さま・・・。もうしわけ、ありま、せ・・・」

 

 ドサッ、と。

 

 その場に倒れる夏侯惇。

 

 「曹操軍が将、夏侯元譲!劉北辰が捕らえたり!!」

 

 

 

 一刀の声は、少し離れた場所で、馬上の人となっていた曹操の耳にも届いた。

 

 「春蘭がやられたの?・・・相変わらず、剣の腕は確かみたいね。・・・桂花、秋蘭たちは?」

 

 曹操が、自身の後ろに控える少女、荀彧に問う。

 

 「・・・先ほど、彼女の旗が降ろされるのを確認しました・・・」

 

 「そう。・・・仕方ないわ。我々も前に出る!!直ちに進軍を・・・!!」

 

 「た、大変です!!」

 

 「何事か!!」

 

 後方から駆け寄ってきた兵に、荀彧が問う。

 

 「後曲の陶謙軍、および孔融軍が、「孫」、「馬」、「張」、「公」の旗の軍勢に急襲され、壊滅!!孔融さまは、討ち死に!陶謙様も、捕らわれたとのこと!!」

 

 「・・・なんですって?」

 

 愕然とする曹操。

 

 (孫堅が寝返った?どうして?一刀たちが何かした?だとしたらいつの間に、どうやって?)

 

 「か、華琳さま・・・」

 

 「え?」

 

 荀彧の声で我に返り、正面を見る曹操。

 

 そこには、

 

 「・・・華琳」

 

 「一刀・・・」

 

 一刀が曹操のすぐ傍まで来ていた。

 

 「華琳さま!!」

 

 荀彧があわてて曹操の前に出る。

 

 「・・・やってくれたじゃない、一刀。いつの間に孫堅を篭絡したの?」

 

 「・・・汜水関の時さ。華雄さんに、孫堅にあてた手紙を届けてもらったのさ」

 

 「・・・そう。一騎打ちの間にこっそり忍ばせた、と。けど、あの孫文台が簡単に寝返るとはね。どんな悪知恵を使ったわけ?」

 

 あくまでも冷静に問う曹操。

 

 「たいしたことは書いていないさ。書いたのも桃香だけど。『孫文台には、反乱軍にあえて参画し、うちから崩す役目を任す。汜水関にて、こちらの手勢と合流すべし』それだけさ。あ、一応陛下にも承認の印は押してもらったけどね」

 

 「・・・ふ、ふふふ。ふはははは」

 

 「か、華琳さま?」

 

 突如笑い出す曹操。

 

 「あはははははははは!!この曹孟徳をこれほどまで出し抜くとはね。・・・どうやら私の認識が甘かったようね。・・・で、私をこの後どうする気?打ち首にでもする?」

 

 「・・・」

 

 「それとも、一生あなたの慰み者にでもするのかしら?」

 

 「・・・それを決めるのは俺じゃない。洛陽に居られる陛下たちだ。おとなしく来て貰おうか、曹操孟徳」

 

 あえて、姓名を呼ぶ一刀。

 

 「いやだ、と言ったら」

 

 「力ずくになる」

 

 にらみ合う一刀と曹操。

 

 しばらくして、馬から下りる曹操。

 

 「華琳さま?」

 

 「桂花、あなたも馬を下りなさい。そして私の旗を降ろしなさい。・・・私の負けよ、一刀」

 

 

 

 曹操が降伏してまもなく、袁紹と袁術も、それぞれ華雄と愛紗に捕縛された。

 

 

 

 虎狼関の戦いは、こうして終結した。

 

 

 

 西涼軍の勝利を以って。

 

 

 

 翌日、

 

 

 

 一刀たちは残兵をまとめ、洛陽へと、帰還の途についた。

 

 

 

 みな、晴れ晴れとした表情であった。

 

 


 
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