ド ド ソ ソ ラ ラ ソ
ド ド ミ ド ファド ミ ド
「聞いたぞ。山内のこと、ふったんだって?」
ファファミ ミ レ レ ド
レ シ ド ラ ファソ ド
「情報早いね。昨日コクられたよ」
「なーにが悪かったんだ。あいつは頭もいいし、スポーツできるし、顔もいい」
「性格が悪かった。有り難く思え的な態度がみえみえで」
「マジでか」
あたしの横には幼馴染の優介がいる。二人でピアノ用の椅子に座って鍵盤をたたいている。
あたしは右手でメロディーを。
優介は左手で伴奏を。
作曲家知らずのキラキラ星。幼稚園の頃、ピアノの発表会でひいた曲。
その時から優介との距離は変わっていない。
たった10センチの短い距離。
ああ、神さま。あたしは本当に憶病者です。
同じ所をグルグルしているまま、高校生になってしまいました。
白い鍵盤を叩いている手に触れられたいと願っているのに。
ソ ソ ファファミ ミ レ
ミ ソ レ ソ ド ソ ミ ソ
ソ ソ ファファミ ミ レ
ミ ソ レ ソ ド ソ ミ ソ
「な、絵理子。お前、好きなやつがいるんだろう」
びくんと心臓がはねた。
ええ、いますとも。あんただよ、あんた。
「なんで知ってるのよ」
「見ていりゃわかるよ」
もう、神さま。こいつは敏感なくせに超鈍感です。
それとももしかして全て知った上でカマかけているのか?
「もし、お前がこっぴどく振られて失恋しても、おれが胸を貸してやるよ」
思わずため息が出た。
そうだった、そんな複雑な思考回路を持つやつじゃなかった。
無邪気ってなんて残酷。
あんたに振られても、あんたの胸で泣かせてくれるの?
嫌だよ、振られた相手に同情されるなんて、屈辱以外の何物でもない。
結局あたしは、また一人でグルグルするしかない。
「……馬鹿」
なんて言ったらいいかわからなくて口をとがらせると、優介はふふふと笑った。
「なんとでも」
ド ド ソ ソ ラ ラ ソ
ド ド ミ ド ファド ミ ド
あたしの横には優介がいる。
その距離、たった10センチ。
友達には近すぎる、恋人には遠すぎる微妙な距離。
ファファミ ミ レ レ ド
レ シ ド ラ ファソ ド
たった10センチ。
近づきたい、近づけない、臆病なあたしにとっては遠い距離。
Tweet |
|
|
6
|
0
|
追加するフォルダを選択
恋とピアノと名曲と。
片思いでもやもやんな話が書きたかった。