数日後、蜀
「ふぇ~ん…。仕事が終わんないよぉ…」
董卓への降伏が決まった軍議の日から数日が経ったある日、蜀王劉備はダパーっと涙を流しつつ政務に取り組んでいた
「桃香様。少しよろしいですか?」
そんな時、諸葛亮がが彼女の下を訪れたのだった
「あ、朱里ちゃん。帰ってきてたんだ」
先ほどまで泣きながら仕事をしていた劉備が瞬く間に笑顔になる
あの軍議の後、諸葛亮と龐統は南蛮に赴き、戦後の事後処理を行っていたのだった
「はい。あちらは雛里ちゃんに任せて私は先に戻ってまいりました。南蛮の政治を安定させるのも
急務ではありますが蜀の政務もおろそかにできませんからね」
「朱里ちゃんが帰ってきてくれたなら大助かりだよ~。私や紫苑さん、愛紗ちゃんだけじゃとても回らなくって」
そういって諸葛亮の手を取り感激する劉備
「最近仕事が溜まってたから簡雍さんの様子を見にもいけなかったけど、やっとお見舞いにいけそうだよ」
「…え?何を言ってるんですか桃香様。簡雍さんなら使者の任で董卓さんのところに…」
劉備の言葉を聞き、意味が分からないといった風に問いかける諸葛亮
「あ、朱里ちゃんは出かけた後だったから知らないかな?あの後簡雍さんが具合が良くないからって…「そ、そんなことありえませんよ!!」…え?」
劉備の話をきき、物凄い剣幕で諸葛亮が言う
「私達が南蛮に発つ時、一緒に簡雍さんも出立したんですよ!?なのに私達が発った後にそんな話がある筈がありません!!」
諸葛亮の話によると、あの後急ぎ出立する必要があった両軍師と簡雍は、見送り無しで出立していたという
「え?で、でも!!簡雍さんの代わりに、って張任さんが…!!朱里ちゃんの印が押された書簡も持ってたんだよ!?」
その話を聞き、一気に難しい顔になる諸葛亮
「…桃香様。この一件、簡雍さんの所在、張任さんの言動など怪しい部分が多すぎます。簡雍さんの捜索、そして張任に謀反の疑いありとして捕縛の許可を!!」
「謀反の疑いって…!!そんな、まさか…!!それに、捕まえるって言ってもそろそろ董卓さんの所に付く頃だよ!!?」
「そうだとしてもです!!もし私の考えが真実だとしたら、大変な事になってしまいます!!」
諸葛亮の剣幕に押された劉備は諸葛亮に聞く
「考えって何?大変な事って…!!」
「もしかしたら張任さんは…我等と董卓さんの開戦を目論んでいるかも知れないんです…!!」
長安
「…以上が蜀王の決定でございます。詳しくは蜀の丞相諸葛亮が書いた書簡がこちらにありますゆえ、これをお渡しいたします」
俺達は長安で劉備さんからの使者との面会に臨んでいた
その使者…張任の話によると、蜀は俺達の出した条件を飲み、降伏を決意してくれたらしかった
(ただ、蜀の劉備さんの使者なのに、張任ってのが気になるんだけど…)
俺はそんな微かな疑問が気になったものの、大陸の制覇、そして月の望んだ大陸の平和が現実になったことによる興奮を抑えられなかった
「分かりました。良くぞ決意してくださいました、と劉備さんにお伝えください。それと、降伏といっても仲間になるんですからこれからは助け合って平和な世を作っていきたい、ともお伝えいただけますか」
月が張任に向かって言う…月も俺と同じ気持ちなのか、溢れんばかりの笑顔をしていた
書簡を改める詠とねね、冥琳さん部屋の脇に並ぶ華雄、霞、恋、雪蓮…皆、平和な世の実現を喜び、少しばかり浮ついているといっていいほどの空気になっていた
だからだろうか、俺を含め、誰もが張任が微かに発する不穏な気配に気付かなかったのだった…
「…これからは助け合って平和な世を作っていきたい、ともお伝えいただけますか」
そんな董卓の言葉を張任は聞き流しつつ、機を見計らっていた
目の前の明らかに武の心得のない女子を巻き込むのは武人として忍びない…そう思いながらも決意を固める
元々張任は劉備が攻め取る前の蜀…劉璋が治める蜀の臣下であった
張任の生まれは貧しかったものの、劉璋にその才を見出されたこともあり蜀の重臣へと上り詰めたのだった
そんな彼だからこそ劉璋には絶対の忠誠を誓っていたし、政治に関して愚暗であった劉璋が暴政を敷いていたときも、必死に彼を盛り立てていた
だが、ついには劉備に国を取られ、劉璋も処断されてしまったのだった
蜀の老臣二君に仕えず
その想いを胸に果てようとしたのだが厳顔を始め蜀の将に説得され、さらには民達が劉備を熱狂的
に支持していたこともあり、劉備のためではなく劉璋が治めた蜀の民の為に生きると決めたのだった
蜀の為、亡き劉璋の為と張任は懸命に働いた
だが、そんな彼に待っていたのは…戦わずして、蜀が大国に下るといった決断だった
劉璋が追放されたのも乱世の習い、そう自分に言い聞かせてきた彼にとってその決断は裏切りにも等しい行為だった
乱世に生きる為、蜀の民を守る為といって劉璋を殺した劉備があろう事かその蜀を手土産に敵に下る
そんな風に張任には見えたのだった
(売国奴が如き所業をする劉備に、わしの命を賭け、乱世とはどういうものかを教えてやるわ!!)
そういって懐に手を入れつつ、張任が言う
「そうそう。董卓様に劉備殿から贈り物がありましてな」
そういって張任は、懐に隠し持っていた短刀を握り締めるのだった
「そうそう。董卓様に劉備殿から贈り物がありましてな」
俺がその動きに気付けたのは、僅かながらも張任を疑っていたからだったかもしれない
奴の懐から光るものが見え、反射的にゆえに向かって駆け出す
「月!!危ない!!」
「これが蜀王からの土産だ!!董卓、覚悟!!」
俺が声を上げると同時、張任が短刀を構え、月に向かっていく
あまりの出来事に、華雄たちは一瞬動きが遅れていた
「きゃぁぁぁ!!」
張任の刃が月に迫る
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その刃が届く刹那、俺は月を庇うように立ちふさがり、張任を止めようと掴みかかる
「く、この餓鬼ぃ!!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
取っ組み合いになるも、必死の抵抗もあってか張任を弾き飛ばす…その瞬間、硬直から解けた雪蓮が張任の首を飛ばしていた
(ああ、良かった)
その光景を見て安堵したからなのか、力が入らなくなった俺はその場に倒れこんでしまう
先ほどぶつかったときに痛めたのか、腹部から物凄い痛みを感じた
(はは、庇ったって言うのに、こんなんじゃ格好付かないな)
そんなことを考えていると、自分の視界に月たちが映る
「…ずとさん!!か…さん!!」
月が泣きながら何かを叫んでいるが、上手く聞き取れなかった
(どうして泣いてるんだよ、月。俺は大丈夫…)
そう思い、起き上がろうとするのだが全く力が入らない
そんな自分に苛立ちつつ、痛む腹部に目をやる
(…ああ、なるほどな)
それを見ると、何故起き上がれないのかが妙に得心できてしまった
俺の腹部には…赤黒く染まった、無骨な刃が突き立っていたのだった
(俺がこんな有様じゃあ、華雄に命を粗末にするな、なんて怒れない、よな…)
遠くなる意識の中、そんな愚にも付かない事を考える
(月、泣かせて、御免な…)
そうして俺の意識は途切れてしまうのだった…
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董卓軍IF√二十七話です
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けるとありがたいです