(天と地の交わり)
黄巾党の大規模な反乱。
張譲ら宦官による百花誘拐事件。
この二つは多数の血は流れたものの天の御遣いによって無事に終結を迎えた。
それを天下万民に堂々と教えたのは詠の策であった。
これらを隠すことなく公表することには多少の問題もあったが、詠からすればそれは些細なことだと思っていた。
何よりも天の御遣いが漢の皇帝を救い出しより良い国づくりのためにその力を惜しみなく発揮するとすれば、民が抱いている皇帝に対する悪い印象を和らげることができると考えていた。
「名を利用するのか」
「そうよ。実際にアンタはその名に恥じない功績を立てたんだし、別に嘘にもならないわよ」
事実を隠す必要はないがそれをさらに有効利用すると詠は一刀に説明をしていた。
「百花はどう思う?」
「私は……。一刀がいいというのであれば構いません」
救出されてからというもの百花は一刀に対して申し訳ない気持ちが消えなかった。
背中と左手の傷は生々しく、それに触れるたびに泣きそうになる。
だからこれ以上、一刀が傷ついたり迷惑だと思ってしまうことはしたくなかった。
「俺は別に構わないよ。百花の名声が回復できればね」
それに対して一刀は自分の傷や苦労など別に気にしていなかった。
それ以上に百花を怖い目にあわせたことや心配をかけさせたことが申し訳なかった。
「私の名声なんてどうでもいいです。私は一刀がいてくれればそれでいいですから」
「そんなことを言ったらダメだぞ。確かに俺のことを考えてくれるのは嬉しいし、できれば俺も君に苦労をさせたくない。でも、君は漢の皇帝だ」
それはどんなに避けようとしても避けられない事実だった。
「皇帝である以上、名声は大切だよ。君を支えてくれる人が多ければ多いほど、この国を立て直すことだって早く出来る。そのために天の御遣いは何でもするさ」
公的では皇帝と天の御遣い。
私的ではただの女と男。
一刀も公私をはっきりさせているため、百花もそれに従わなければ迷惑をかけてしまう。
「……わかりました。一刀がそういうのであればそうします」
「あ、でも、無理だけはしないで欲しいな」
「はい」
何気ない気遣いが百花を安心させる。
黄巾党の鎮圧から百花の救出まで触れることは愚かその声すら聞けなかっただけに、百花は一刀に寄り添うようにこの数日、一緒にいた。
その様子はまるで初々しい夫婦のように誰の目からも見えた。
「本当に仲がええな」
霞は自分達と同じ、それ以上の笑顔を一刀が百花に向けていることに気づいて何気なくからかいたくなった。
それは霞自身も気づいていない小さな物だったが、それよりも二人を肴にして酒を呑んだら美味いかななどと不謹慎なことを考えていた。
「そうかな?いつもと変わらないけど?」
「その割には友達っちゅう感じじゃあないで?」
「そ、そんなことはありません」
霞の指摘に百花は顔を赤くしながら否定する。
「そ、それよりも都にそろそろ戻りましょう」
「そうだな。詠、さっき話した通りでいけばいいんだよな?」
「ええ。ただし民に混じって不穏な動きをする奴がいたらすぐに捕縛する。その指揮はアンタに任せてもいい?」
「ええで」
百花の凱旋の準備はこうして整え、翌日にはゆっくりと出発をした。
細かい打ち合わせをしながら洛陽に着いた時、百花と一刀は目の前の光景に驚いた。
民、兵士、関係なく彼女達を歓喜の声で出迎えていた。
「どう?」
「凄いな」
民の笑顔を見ていると詠の策は成功したと言えた。
さらに詠は天の御遣いの名を大いに利用し、その武勇伝を制御できる範囲で誇張し、その白い輝きを放っているように見える制服を着た一刀が天の御遣いだと思い歓声は大きくなる。
「なんだかこれだと百花より俺の方が目立ってないか?」
「言ったでしょう。アンタの名前が高まればそれだけ百花様に対して悪い印象が薄くなるのよ」
事実、一刀に対する賞賛の声の中には百花に対する同情の声も混じっていた。
宦官に操られていたことや自らの意思で政治ができなかったことなども知らされていた。
もちろんそんな彼女を批判する者もいたが、馬上で背筋を伸ばして堂々としている百花の姿を見ては声に出すことはしなかった。
「百花がこうして姿を見せることもきちんと計算してのことだよな?」
「もちろんよ。姿を見せないで凱旋なんかしたらそれこそ余計な考えを持たせるようなものよ」
詠の考え出した凱旋計画は上手くいっていた。
「まぁこれだけで満足はしてないでしょう?」
「これからだろ?」
「そうよ。そのためにボク達がいるんだから」
百花に付き従っていくことは詠だけではなく月も同じ思いだった。
ふとそこで一刀は華琳達のことを思い出した。
彼女達の中で月達のように本気で百花を支えようと思っている者はどれぐらいいるだろうか。
もしその全てが敵になった時、自分達は百花を守りきれるだろうか。
考えれば考えるほどため息が出そうになった。
「一刀?」
「うん?」
気がつけば百花の隣まで馬を進めていた。
「あ、悪い。少し下がるよ」
「いえ、そのままで。私は一刀と並んでいきたいですから」
後ろにいる詠が注意をしないため一刀は百花の言うとおり隣に馬を並べて前に進んでいく。
その姿を見て歓声が大きくなっていった。
「それにしても凄いな」
「はい。私も驚いています」
「でもそれだけ期待されているってことかな?」
「そうですね。今までの私なら逃げていたでしょう」
今は逃げることはできない。
それ以前に逃げようとは思わなかった。
これまでの自分から生まれ変わるためにはどんな困難が待ち受けようとも皇帝としての責務を果たさなければならない。
傷つきながらも助け出してくれた一刀のためにも、自分に従ってくれる月達のためにも百花は覚悟を決めていた。
「一刀、私は皇帝として頑張ります」
「うん。俺も百花の為に頑張るよ」
百花は一刀の言葉に微笑んで応える。
そして皇帝一行が歓声の中を進んでいる裏で弓矢を手にして狙いを定めようとしていた者や剣を持った者がいたが、百花はおろか一刀にも気づかれることなく捕縛もしくは討ち取られていた。
「これで全部やな」
その指揮をとっていたのは一刀から全権を任されている霞と恋だった。
宮殿に戻った百花達は馬から降りて中に入っていく。
残留していた曹操軍が復旧作業をしており血生臭さは薄らいでいたが、至る所でその傷跡は残っていた。
そんな中で月と詠にも復旧作業の指揮を任せ、百花と一刀は徐栄が休んでいる部屋へ向かい、徐栄は慌てて寝台から降りて礼を取ろうといた。
「いけません。傷に障りますからそのままで」
百花がそう制したため徐栄は寝台の上で正座をして頭を下げた。
「申し訳ございません」
「徐栄?」
「私の力が及ばなかったばかりに百花様をお守りできなかったこと万死に値いたします」
徐栄にとって自分の身体の傷など百花を守れなかったことに比べたらどうでもよかった。
「一刀様との約束も果たすことができず、申し訳ございません」
二人にどれほど謝罪をしても許されるものではないことぐらい徐栄はわかっていた。
だが、百花や一刀からすれば彼女一人に背負わせた責任の重さは自分達によって課せられたものだと思っているため、彼女を責める資格などなかった。
「徐栄さん、顔を上げてくれるかな?」
「……はっ」
ゆっくりと顔を上げていく徐栄。
その表情は悔しさと申し訳なさが雫となって流れていた。
「徐栄さんは俺が頼んだこと以上のことをしてくれたんだ。確かに一人では限界もあるしそれをもっと考えていなかった俺が悪い」
「か、一刀様は何も悪くはございません」
「なら俺も徐栄さんが悪いなんて思っていないよ」
一刀がそう言うと徐栄は自分の罪ばかりを考えていたことに気づいた。
相手が相手を許しているのであれば後は自分が許すかどうかだけ。
同じ過ちを犯さないために、自分を律するためにはどこかでそれを変換させなければならない。
「徐栄」
寝台に座った百花は徐栄の手をそっと握り柔らかな微笑みを向けた。
「私は貴女に感謝をしなければいけません」
「わ、私は感謝をしていただくことなど何もしておりません……」
「いいえ、貴女は一刀や月達がいなくなっても私のことを守ってくれていました。あの日も徐栄の言うとおりに隠れていれば貴女をこんなに傷つけられることはなかったのです」
目の前で傷ついていく徐栄に何もできなかった自分の非力さ。
文句を言われても言い返せるはずがなかったのに、徐栄は守れなかった自分ばかりを責めている。
それが百花にとって辛かった。
「貴女が生きていてくれたことは何よりも嬉しいです」
「百花様……」
百花の優しさが徐栄にとって嬉しかった。
だからこそ彼女には一刀と同じく笑顔でいて欲しいといつも願っていた。
次から次へと溢れて止まらない涙の雫。
「さあ、ゆっくりと傷を癒してください。そしてまた私を守っていただけませんか?」
命を懸けてまで守ってくれた徐栄にそう願う百花。
「お誓い……致します。この徐栄、生涯、百花様をお守りいたします」
「ありがとうござます、徐栄」
「百花様……」
自分を許したばかりか再び守って欲しいと願われた徐栄は改めて百花に忠誠を誓うことになった。
後日、そのことを月に話し、月も徐栄が自分の軍から離れて皇帝付きの武官になることを正式に受け入れることになった。
そして徐栄は百花がどのような境遇に陥っても決して傍を離れることはなかった。
徐栄の傷に障るからと百花と一刀は彼女を休ませると、静かに部屋を出て自分達の部屋に向かった。
そこは至る所に激しく争った跡が刻まれていた。
「これはひどいな」
先日まで一刀はここで彼女と眠っていた場所であり、二人の特別な場所のように思っていただけに拳を握る力が自然と強くなっていく。
「ここで徐栄は私を守ろうとして傷ついたのです」
その時の光景を思い出したのか百花の声は弱々しかった。
守られる存在でありながら守る者の言葉に従わなかった後悔が拭いきれずにいた。
そんな彼女を見て一刀は拳の力を緩め、両手で彼女を抱き寄せた。
「一刀?」
「ごめんな。俺がもっとしっかり気配りをしていれば君や徐栄に迷惑をかけることはなかったんだ」
過ぎてしまったことを何時までも後悔しているわけにはいかなかったが、それでも一刀は二人に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
「そんなことはありません。一刀は私のことを考えてくれたのですから。徐栄を傷つけたのは私です」
「二人でまた謝りに行こうか?」
「そうですね」
二人はそう言って寝台に腰を下ろした。
「それにしても張譲さんも最後の最後でミスをしたな」
「えっ?」
「だってそうだろう。賊を仲間にしたからってソイツ等が最後まで言うことを聞く保証なんてない。お宝があれば目移りするのも当たり前だよ」
特に宮殿には普段であれば手に入れられない宝物なのがあり、それを無条件で宮殿内には入れたら賊でなくとも欲望を掻き立ててしまう。
「そうですね。張譲らしからぬ失敗ですね」
「それに」
「それに?」
「いや、なんであそこまで漢王朝にこだわったのかなあって」
皇帝ではなく漢王朝を優先していた。
あの山で張譲と対峙した時のことを思い出した一刀は、今になって妙に何かが引っかかっていた。
「それは私にもわかりません。ただ私をどうこうしようしているとは感じられませんでした」
その気になれば誰かに百花を襲わせて子を産ませた後、完全なる権力掌握ができたはずなのに張譲は強引なところはあったものの、決して手を出そうとはしなかった。
まるで自分の宝物を扱うかのように何もせず箱の中にしまい込んでいるといったような感じを百花は今になって思っていた。
「それに強引に事を運ぼうとしたのも一刀が現れてからです」
「俺との婚儀もそうだよな?」
「ええ。今となっては本当に権力を我が物にしたかったのかはわかりませんが」
残留していた楽進率いる曹操軍からは何もそれらしきものの報告は上がってきていない。
張譲の真意には二人とも辿りつけずにいた。
「それよりもこれからです」
「そうだな」
張譲は過去を、百花と一刀には未来がそれぞれある。
そして国の建て直しという大きな課題を前にしてやることが山積みになっていた。
それだけにこれから困難は常に付きまとうことになるが、百花はこうして一刀が傍にいてくれるのであれば大丈夫だと思っていた。
その日の夕食は大人数だった。
徐栄の身体の傷を考えて彼女の部屋で食べることになり、食事もそこへ運ばれた。
「多少狭いけど我慢してくれ」
「どうでもいいけど、変なことしたらしばくわよ?」
「なんだよそれ」
一刀と詠の会話から始まり賑やかな夕食となった。
「それにしても徐栄が無事でよかったです」
徐栄の隣に座っていた月は本当に嬉しそうに彼女が生きてくれていることを喜んでいた。
彼女にとっても大切な家臣であり、友だと思っているだけに徐栄とこうして夕食を共に過ごせることに感謝していた。
「しかし私は何もお役に立てませんでしたから」
端を止めた徐栄に月は両手で彼女の手を優しく握った。
「貴女からすればそうかもしれません。しかし、百花様や一刀様はそのことを責めたりしましたか?」
「いえ……」
「私も同じ気持ちです。死ぬことは許せませんけどこうして生きていてくれたのは本当に嬉しいです」
「董卓様……」
他の誰もが彼女が生きていたことに喜びを感じていた。
そして徐栄にとってもったいないと思うほど彼女達と出会えたことが嬉しかった。
自然と流れていく涙。
そんな彼女を月は優しく頭を撫でる。
「それに引き換え、ウチ等の大将はホンマ手のかかる男やで」
呆れたようにそう言った霞に詠も激しく同意した。
「そうね。もしボクの部下でいたら問答無用で叩き出しているわ」
「悪かったな、手がかかって」
無茶をし過ぎたために反論できない一刀が拗ねて見せると、霞と詠は笑いをかみ締めていた。
「それでアンタ達はいいの?」
詠が聞いたのは霞と恋が一刀の臣下になることだった。
味方になる者は多ければいいがそれが信用に値するかは別だったが、今回に限ってが詠も二人が危険要素を含んでいるとは見ていなかった。
「まぁホンマにええんかって言われたらウチもどうやろうって思っとる。武芸が凄いわけでも頭がええってわけでもない。それでも不思議と放っておけんのや」
気がついたら彼のどうするべきか考えていた霞。
黄巾党の時も百花を救出するときもすべては一刀のために動いていた。
「まぁアンタの言いたいことはわからなくもないわ。でも、それだけの理由で普通は臣下にはならないわよ?」
「まあな。まぁオカンからは上手くいけば嫁に貰ってもらえるって言われたしな」
「「「嫁!?」」」
激しく反応したのは月と詠、それに徐栄であり、焦ったのは一刀であり、何よりも一番衝撃を受けたのは百花だった。
その中で恋だけは何事もなかったようにご飯を次々と食べていく。
「百花様?」
一番に正気に戻ったのは徐栄であり百花の方を見ると、今にでも泣きそうな表情を浮かべていた。
「あら?ウチ、何か言うたらあかんこと言ったんか?」
場の雰囲気が変わったことに少し焦る霞。
同時に一刀の表情が何かに怯えているように見えて一人納得した。
「あ~あ、百花様が可哀想ね」
「な、なんでだよ?」
「さあ、なんででしょうね」
詠は「何考えてんのよこのバカ男」という意味を込めて冷ややかな視線を一刀に向けていた。
「えっと、その、嫁とかそういうのはまだ考えていないことで」
「その言い方やと将来はウチ等を娶ってくれるってことやろ?」
「し、霞!」
慌てて霞を注意したが、ゆっくりと視線を百花の方に向けると俯いている姿が映った。
「ち、違うから。天に誓って霞達を娶るなんて言っていないから」
「え~一刀のいけず。ウチ等を散々弄んでポイッするんか?」
「してないしするつもりもない」
完全にからかいモードに入っている霞に半分泣きながら抗議する一刀。
「これじゃあ天の御遣いというより天の女たらしね」
「ぐはっ」
とどめの一撃といわんばかりの詠の言葉に一刀は机の上に顔をぶつけた。
「か、一刀様!」
「だ、大丈夫ですか?」
徐栄と月はあまりにも不憫に思えてならなかった。
まるで燃え尽きたかのように一刀はため息を漏らす。
「ちょっとからかいすぎたか?」
「これぐらい何でもないわよ、ねぇ百花様。あれ?」
百花も演技かと思っていた詠だが、当の本人は俯いたまま肩を震わせていた。
「百花様?」
月も百花の様子がおかしいことに気づいて心配そうに声をかける。
やがて立ち上がり何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
「あれ、あっちは冗談じゃなかったみたいやな」
「そもそも冗談にしても内容が酷すぎるわよ」
「そうですよ」
百花が一刀に友人以上の想いを寄せていることを知っている詠や月は霞に苦言をもらす。
「まぁやりすぎたのはボクもだけど」
「せやな」
詠と霞は同時に半なき状態の一刀の方を見た。
「ほら、男ならさっさと追いかけなさいよ」
「せやで。ちょっとからかわれただけでそんな泣きべそかかんでええやんか」
「霞には言われたくないぞ」
「ちっこいことは気にしたらあかん。ほら、はよう追いかけや」
ゆっくりと身体を起こすと一刀は頭をかきながらため息をついた。
「霞、あまり変なことを言わないでくれよ」
「考えとくわ」
意地の悪い笑みにため息をつきながら一刀は百花を追いかけるため部屋を出て行った。
それを見送ってから恋を除く全員が一度、息をついた。
「もう、詠ちゃんも張遼さんもやりすぎだよ」
「で、でも、アイツがもっと気の利いたこと言うのかと思ったから」
「まさかすんなりいくとは思わんかったし」
「二人には反省してもらいます」
「「えぇ~~~~~」」
その後、月に説教される二人を見ながら徐栄は困った表情を、恋はいつもどおり食事に集中していた。
部屋を出て百花を探していた一刀は庭に向かったがいなかったため、百花の部屋に向かった。
廊下の灯りを頼りに歩いていると、部屋の前でしゃがみこんでいる百花を見つけた。
「百花」
一刀の声に一瞬、肩を震わせた百花は彼を見ようとせずその場から動こうとしなかった。
困ったなあと思いつつも彼女に近寄っていく一刀は同じように廊下にしゃがみこんだ。
「急に出て行ったから皆心配しているぞ?」
「……」
「早く戻ってご飯食べよう。皆も待っているし」
「……」
まったく反応をしない百花に一刀は次に何を話そうか考えるが思いつくものがなかった。
声が消えて辺りは静けさを漂わせていく。
どちらが動くわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
「あのさ」
先に我慢できなくなったのは一刀。
「気に入らないことがあるのなら声に出して言うべきだと思う」
「……」
「何も言わずにああやって席を立ったりしたら皆だってどうしたらいいか困るはずだし、俺もまだ物足りない」
このまま戻っても気まずい雰囲気になるかもしれないが、それでもここでいるよりかはマシだと一刀は思った。
百花も本音を言えば戻って月達と楽しく食事をしたかったが、それ以上に霞の言葉に衝撃を受けていたため戻りたくなかった。
「それともここで一人でいるかい?」
「……」
「そっか、じゃあ俺は戻るよ」
素っ気無くそう言うと一刀は立ち上がりこの場から去ろうとした。
さすがにそれに慌てたのか、百花は顔を上げて一刀の手にしがみついた。
「百花?」
「っ……」
逃げ出した自分を追いかけてきてくれた一刀に甘えることも我侭を言うこともせずただ黙っていた百花はその手を離そうとしたがどうしてか離せなかった。
「言いたいことがあれば声に出してごらん」
優しく彼女に諭すかのように一刀が声をかけると、百花はどうするべきか悩んでいるように見えた。
しばらく一刀が辛抱強く待っていると、ようやく観念したのか百花は口を動かした。
「行かないで……ください」
「うん」
短く答えた一刀は笑顔で彼女を見下ろし、彼女の前に座った。
「散々心配させて、さらに結婚だなんて聞いたら普通は平然といられないよな」
反省する点が多すぎる一刀だが、中途半端で話を終わらせては後まで蟠りが残ってしまうためきちんと話す必要があった。
「まぁ霞達がいてくれたからこうして百花といられる」
「……そうですね」
「それに俺は百花には傍にいて欲しいから」
「えっ?」
一刀の顔を見ると照れくさそうにしていた。
彼がどれだけ苦労してきたか、そしてそんな彼を守ってくれた霞と恋のことを思うと自分はなんと小さな器なのだろうかと百花は思った。
そんな苦労を思えばさっきのことも笑って受け流すべきだった。
皇帝だからとか人前でとか言い訳をして結局、逃げ出したのは自分。
一刀の言うように言いたいことがあれば声にだせばいいだけなのに、それすら勇気が出ないとできないかった。
「百花は俺がいて迷惑?」
「そ、そんなことはありません。いてくれなければ逆に困ります」
「たとえばどんな時?」
「そ、それは……」
朝起きて一番に挨拶ができなかった寂しさ。
食事も口にすることすらわずらわしく感じた。
寝る前に誰もいない部屋の中でただ一人、身体を丸めるて一人っきりの寂しさから必死になって自分を守ろうとした。
嫌な夢を見たとき、優しい言葉で慰めてくれなかった。
考えれば考えるほど、百花にとって一刀が自分の傍にいることが当たり前になっていた。
「か、一刀が抱きしめてくれなかったからずっと寂しかったのです」
「それだけ?」
「他にもあります。でも誰かに一刀を取られると思うと……、もう二度と抱きしめてくれないと思うと……怖くて……」
「そっか」
そこまで考えつかなかった一刀は何だか申し訳ない気持ちになっていく。
怖い目にも遭ってそれでも一刀を信じ続けていた百花の想いにどう受け止めたらよいのか。
「とりあえず娶る娶らないって話は俺からもきちんと霞に話しておくよ」
「それでいいのですか?」
「一番気になる女の子がいつまでも辛そうにしている姿を放っておくほど俺って最低かな?」
「いえ、一刀はいつも私を助けてくれています。一刀が人として最低だなんて思えません」
「なら戻ろう」
百花の頭を撫でる一刀。
そんな彼に無用な心配をいつまでもかけさせてしまう百花は涙が溢れ出ていく。
「せっかくの美人が台無しだぞ」
「美人ではありませんから」
「俺が勝手に思っているだけだ」
そう言って百花を自分の胸に抱き寄せた。
百花もそれを望んでいたため何の抵抗もすることなく抱きしめられていく。
「一刀はずるいです」
「なんで?」
「そうやって他の女の人を虜にしていくんです」
「好意を寄せられるのは嬉しいけどね。ただ君を裏切りたくないから」
それは一刀の偽りのない想いだった。
その言葉どおりに一刀は決して裏切ることはないとわかっていながらも、心のどこかでは自分と同じ、もしくはそれ以上に一刀を必要とする者は必ず現れる。
もしその時がきたら自分はどうするだろうか。
(やはり私は一刀を失いたくない)
失いたくないのであればどうすればいいか。
その悩みは解決するその日まで彼女の中に深く刻み込まれることになった。
「もう少しこのままいる?」
「はい」
「百花は甘えん坊さんだな」
「一刀だからです」
それも百花の本心だった。
「今日からまた一緒に寝る?」
「はい。でも、今は……」
自分を包み込んでくれる優しくて温かい一刀と離れたくなかった。
一刀ももう少しこのままいてもいいかなと思いながら、ゆっくりと彼女の髪を何度も撫でていた。
その様子を月の説教から解放された詠と霞が物陰から見守っていた。
「ホンマ、陛下って一刀にベタ惚れやな」
「まぁあの宦官のど真ん中で味方はアイツだけだったし、百花様が縋る気持ちもわかるわ」
「アンタも一刀のこと好きなんか?」
「バ、バ、バカ言わないでよ。何でボクがあんな奴を好きにならないといけないわけ?」
その割にはムキになって否定しとるなあと霞は思ったがあえて口には出さなかった。
それよりも百花と一刀が抱き合っている姿を見ていると、一刀がどうしてあそこまで必死になっていたのか、何となくわかったような気がしていた。
「ウチ等はホンマ変な男に惚れてしまうたわ」
「ちょっと、そのウチ等の中にボクや月が含まれてないでしょうね?」
「私は一刀様が好きだよ」
「ゆ、月!?」
いつの間にか自分達の間に立って微笑んでいる月がそう答えたあと、思いだしたのか顔を赤くして両手で頬を押さえながら「へぅ~」と恥ずかしそうにする。
「ゆえ~~~~~」
まさかの告白に詠は涙目になり月に訂正を求めたが、柔らかく拒否された。
「張遼さんも呂布さんも一刀様のことは好きなのですよね?」
「霞でええで。そやな。ウチがもし惚れるとしたらアイツだけやろうな」
「(コクッ)」
「ちょ、アンタまでいたの?」
まったく気配を感じさせなかった恋だが、月と一緒に来ていた。
「まぁ順番からいえば、陛下、董卓はん、アンタ、徐栄はん、ウチ、恋。凄いなあ、もう六人も嫁ぎ先がきまっとる」
「だから、ボクを勝手に含まないでよ」
「月と呼んでください。詠ちゃんは嫌なの?」
「嫌っていうか、無茶しすぎるような奴を好きになったらこっちの身が持たないわよ。ボクは詠って呼んでいいわよ」
「じゃあ無茶しなければ好きってことだよね?」
「だから違うって」
どんなに否定してもそう取られない不憫な董卓軍随一の軍師。
「まぁ冗談はその辺にして、アンタ等に聞きたいことがあるんや」
「奇遇ね、ボクもよ」
「ほな先に言わしてもらうわ。アンタ等はどこまであの二人に味方するつもりや?」
信用していないわけではないが月達の気持ちを確かめたかった。
今後、敵になるようであれば容赦をするつもりはなかったが、そうなることはないだろうと自分でわかっていたので少々意地の悪い質問だった。
「私達は百花様についていくつもりです」
月は真剣な表情で霞の質問に真っ直ぐに答えた。
そこには何の迷いもなかった。
「他がすべて敵になってもそれでもついていくつもりか?」
「もちろんです。たとえどのようなことが起ころうとも私達は百花様と一刀様と共に立ち向かう覚悟はしています」
自分達を信じてくれている二人の想いを裏切らないためにも全力で守り抜く。
霞はそれだけで十分満足いく回答を得た。
「今度はこっちの番よ。アンタ達の忠誠はどこにあるわけ?アイツ?それとも百花様?」
「ウチ等は一刀個人に忠誠を誓ったんや。でも、一刀が守りたいと思うものがあればそれも守るつもりや」
彼が大切に想っている者すべてを守る。
詠は霞と恋の力が加われば百花はもちろん、自分達にとっても強力な味方となることは彼女達の実績を知って確信していた。
ただ、その力の指し示す先が一個人である場合は危険要素を含んでいたため、それを確認しておきたかった。
「まぁアンタ達はあの男を、ボク達は百花様と一応、あの男を守るという共通の目的があるわけね」
「せやな。もっともそれを快く思わん連中もいるわな」
「今回のことで朝廷に力なしと思われたら厄介なことになるわ」
この国の状況、朝廷内外の敵味方、可能な限り詠が得た情報からして決して楽観できるものではなかった。
特に今回の黄巾党の一件は漢王朝の権威にかなりのヒビを入れる結果となった。
「ボクが一番気にしているのは曹操ね」
「曹操?ああ、一刀が全軍の指揮権を与えた相手やな。うん?」
そこで霞は何かを思い出したかのように表情を険しくする。
「今も全権を持ってるんやったらまずくないか?」
「そうね。今、その力をこっち向けられたらひとたまりもないわ。しかも、都には曹操軍の一隊がいるのよ」
「宦官に代わって権力を簡単に取れるわな」
もしそうなったら黄巾党どころの騒ぎではない。
この都には董卓軍数万と一刀が率いてきた騎兵三千、それに曹操軍二千がいる。
都の絶対数を数えれば曹操軍を圧倒しているが、それでも二千という数は侮れない。
「まぁ今心配しても仕方ないわ」
華琳がその気であればすでに手を打ってあるだろうし、それに対して講じる策を考える時間もない。
なるようにしかならない。
最悪、百花を長安へ移動させることも考えていた。
「最もそこまで考えて全権を与えたとは思えないし、大丈夫じゃない?」
自分で煽っておきながら自己完結させてしまった詠に霞は苦笑いを浮かべるだけだった。
「それよりもよ」
今は二人のことの方が気になる。
月達はそっと二人の方を見ると、いつの間にか一刀と百花は仲良く並んで近くまでやってきていた。
「みんなしてこんな所で何しているんだ?」
「月までいるとは思いませんでした」
「なんでばれたのよ」
「あのな、あれだけ声が大きければわからない方がおかしいぞ」
一刀は呆れたように詠達がいつの間にか声を高くして話していたことを伝えると、詠は真っ赤な顔になった。
「あ、アンタがいつまでも帰ってこないからでしょう。まったく月に迷惑かけないでよね」
「詠ちゃんが一番心配していたんだよね?」
「そうなのか?」
「心配なんかしてないわよ。あ、百花様のことは心配していましたから安心してください」
俺のことは心配していないのかよと不満顔の一刀。
「何よ、その変な顔は?だいたいアンタが百花様に心配かけすぎているんだからその責任は取りなさいよ」
「わかっているよ。俺だってそれぐらいは思っているんだからな」
「はいはい。百花様、今なら何を言っても大丈夫ですから」
百花が望むことであれば何でも叶えられるようにすると詠は不適な笑みを浮かべた。
「そうですね。それでは一つみなさんにお願いをしてもよろしいですか?」
「私達にですか?」
一刀にではなくここにいる全員に対してのお願い。
それはどんなものなのだろうかとお互いの顔を見合す。
「皇帝としてまだまだ未熟ですがこれからもみなさんのお力をお貸しください」
頭を深く下げてそうお願いをする百花。
「百花様、どうか頭を上げてください」
慌てて月が膝をついて百花の手を握った。
月ばかりか詠も彼女が誘拐された原因は自分達が都を留守にしたためであることを未だに後悔していた。
「私達はわかっていながらも離れてしまったことをずっと後悔しています。どうしてあの時、離れてしまったのかと」
「月」
「このような不忠義者に頭をどうかお下げくださいませぬようお願いいたします」
手を離して両手をついて頭を下げる月に今度は百花が膝をついて彼女に手を差し伸べた。
「貴女の責任ではありません。月はずっと私のために頑張ってくれたでしょう?」
「しかし」
「貴女もいてくれたからここに私がいるのです」
馬騰との会戦を寸前とところで回避できたことは月ばかりか百花にとっても喜ばしいことだった。
無益な血を流さずに済んだという喜び。
それは回避しようとしていた月の努力があったからこそだった。
「これからも私と共に歩んでくれますか?」
「百花様」
自分の失敗を責めることなく許してくれた百花に月はもはや何も言わなかった。
ただ、この方についていこう。
命の限りを尽くして最後まで。
「なるほどな」
「うん?どうした霞」
「いや、何かアンタと似とるなあって思っただけや」
「俺?」
どこが似ているのだろうかと思いながら百花と月を見守る一刀は不思議そうな表情を浮かべた。
「まぁ何にしてもアンタが命をかけてまで守ろうとした意味がこれでようやくわかったことやし、祝い酒といかへん?」
嬉しそうに手で呑む仕草をする霞に一刀は思わず苦笑いを浮かべた。
「酒は今度にしてくれ。少なくとも今夜はみんなで久しぶりの食事なんだから」
「わかったわ。でも次は美味い酒が呑めるようにしてほしいわ」
「善処するよ」
気さくに話をする霞に一刀はやはり自然と笑顔になっていく。
それを見ていた百花と月もつられるように笑顔になる。
「さあ百花様、今日は戻りましょうか」
頃合を見計らって詠がそう言うと、他の者達も頷いた。
「そうそう、アンタに一言言い忘れていたわ」
何かを思い出した詠は不意に一刀にそんなことを言ってきた。
「なんだよ?愛の告白か?」
「違うわよ!」
一瞬にして般若顔になる詠。
それとなぜか立ち上がって百花が一刀の足を踏んでいた。
「百花!?」
「知りません」
一瞬怒った表情をしたがすぐに笑顔に変わった百花。
「百花様、後でたくさんこき使ってくださいね。それよりもアンタ」
「はいはい」
「次、百花様を悲しませたりしたらどうなるか覚えておきなさいよ」
脅迫とも取れるその言葉に一刀は頭を掻いた後、素直に頷いた。
部屋に戻って食事を終えると、疲れをとるため百花は湯に浸かり着替えを済ませて臨時に用意された部屋に一人でいた。
ようやく気が緩められるとあって寝台の上に力なく横たわっていると、部屋の入り口を叩く音がした。
「百花、入っていいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
身体を起こそうとしたがそれよりも早く扉が開いて夜着に着替え両手を後ろに回した一刀が入ってきた。
「俺は何処で寝たらいいかなって聞いたら問答無用でここだって言われてね」
もう張譲達がいないのだから一緒の部屋で寝ることもないだろうと一刀は思っていただけに、どことなく申し訳なさそうにしていた。
「私は今までどおりでいいですけど?」
「俺も嬉しいんだけど、一人になる時間も必要だと思うしね」
「一人の時間ですか」
そんな時間など自分には必要ないものだと百花は思っていたが、正式に婚儀を済ませているわけでもない以上、それなりの節度は必要だった。
「俺も一人で考えたりしたい時があるし、そういう時に必要かなって」
「それは確かにそうですね」
ゆっくりと起き上がり寝台の上に正座をする百花の表情は寂しさを滲ませていた。
「で、でも今日は一緒に寝てくれますよね?」
「まぁそうなるね。それに今日はもっと話がしたいから」
離れていた間のことを知りたかったのと、自分が見てきたものを話したい気持ちだった。
「私もたくさんお話がしたいです」
「うん。というわけでこんな物を持ってきたよ」
そう言って両手を前に持ってくると酒瓶を一つと杯を二つ、嬉しそうに見せた。
「お酒ですか」
「うん。たまにはいいだろうと思ってね」
「私は強くないことは知っていますよね?」
「忘れた」
楽しそうに答える一刀に百花もおかしくなっていく。
「一刀は意地悪ですね」
「大丈夫。後の介抱は任せてくれ」
自信満々に言う一刀に笑い声が百花の口からこぼれた。
気落ちしている自分を励ましてくれている一刀に近寄っていき、杯を一つ受け取ると酒が注がれた。
一刀も自分の杯に酒を注ぎ、百花の杯と乾杯をして見せた。
「天の風習というものは面白い物ですね」
「めんどくさいのもあるけどね」
二人は一口酒を呑んでいく。
久しぶりの酒に息を漏らす百花と一刀。
「なんだかお酒は慣れません」
「俺もだ。でも、こうして百花と呑んでいると美味く感じる」
「あ、そう言えばそうですね」
「何となくわざとらしいぞ?」
「そんなことはありません、ほら」
一気に呑み干した百花だったがそのせいで酔いが回るのが早くなった。
それでも一刀と話ができるという喜びが辛うじて理性を保っていたが、それも対して長く持たなかった。
顔を赤くし、薄っすらと蕩けるよう両目で一刀を真っ直ぐに見た。
「だ、大丈夫か?」
一気呑みをするとは思っていなかっただけに一刀の慌てようはひどかった。
前回の時も酔ってしまった百花なだけに、今回もこのまま眠ってしまうのだろうかと思ったが、そうはならなかった。
「か~ず~と~♪」
甘い声で一刀の名前を呼びながら百花は両手を彼の首に回していく。
(大丈夫じゃなかった!)
極端に酒に弱すぎるのも考えものだなと思いながら甘えてくる百花を抱きしめて頭を撫でる一刀だが、こういった一面もまた可愛らしいと思っていた。
「かずと、ずっと寂しかったのですよ」
「俺も寂しかったよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
嘘はついていなかった。
一刀は百花のことを一日たりとも忘れたことなどなかった。
「では証をみせてください」
「証?」
「寂しかったっていう証です」
自分はこれぐらい寂しかったのだといわんばかりに百花は一刀の首筋を頬擦りする。
「証ねぇ。まぁこんなことぐらいしかできないけど」
そう言って百花の顎に指を当てると少し持ち上げたところに自分の唇を彼女の唇に重ねた。
柔らかく温かい感触をお互いに伝え合う。
時間が止まったかのように二人は離そうとしない。
「んっ」
長い口付けが終わると百花は幸せそうな微笑むを一刀に向けた。
「百花がくれた七星のおかげで俺はまたこうして君を抱きしめることができた」
「少しは役に立てましたね」
「かなりだよ。俺と君を結びつける大切な剣をありがとうな」
「私は剣より貴方の方が大切ですから」
今度は百花から口付けを交わしていく。
誰にも邪魔をされない二人だけの世界の中で自然とお互いを求めたいという気持ちになっていく。
「今夜だけは私だけを考えてくれませんか?」
彼女は自分自身を一刀に捧げるつもりでいた。
同じ『天』であっても今は普通のどこにでもいるうら若き男女。
「後悔しない?」
「貴方を失うほうが後悔します」
きっと朝になればいつもどおりの二人に戻れる。
だがそれまでは何の束縛を受けることなくただ彼を愛し愛されたかった。
一刀も引き返すのであればここだったが、目の前の愛しく感じる百花を離したくなかった。
「好きだよ、百花」
「好きです、一刀」
そう言って二人はゆっくりと寝台へ横たわっていく。
一刀に触れられるたびに百花は愛しそうに「一刀、一刀」と彼を呼び続けた。
酒の力を借りても本心から好きだと想っている相手に自分を捧げることができる悦びに幸福を感じる百花はやがて全身を貫く痛みと共にさらなる幸福を感じ、一刀の腕の中で意識を手放していった。
その寝顔は穏やかなものだった。
(あとがき)
梅雨に入ってしまいそろそろキノコ栽培を始めようと思っています。
こんばんわ、二週間ぶりの更新でした。
本作も黄巾が終わり、次はいよいよアレに突入します。
次回はその間のお話を一つ書く予定にしていますので第二部はその次から本格始動ということになります。
余談ですが、TVシリーズの第二期エンディングでふと思ったことがあります。
雪蓮と華琳はいいのですが、なぜ桃香ではなく愛紗?とたぶん何人か人が思っているはずです。
なぜでしょうね。
第二部からは私の大好きなあの方々が出てきます。
ようやくといった感じで今から楽しみです。
あと応援メッセージや過去コメントもできる限り返事ができるようにがんばります!(><)
たくさんのメッセージ、コメントありがとうございます。
では次回もよろしくお願いいたします。
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二週間ぶりの投稿です。
今回でとりあえず第一部は完結のはずです。(もしかしたら次回?)
取り戻した二人の時間。
空白を埋めるかのように寄り添う二人。
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