あの日から何年もの月日が流れた。
あの日というのは、俺こと北郷一刀が三国志の世界から元いた世界に帰ってきた日だ。
帰ってから俺は最初に三国志について調べてみたが、やっぱり俺が知っている男の武将たちの物語だった。曹操や劉備や孫策が女だったなんていう記述はどこにも無かった。
もしかしたら本当にただの夢だったのかも知れないと思ったが、どうにも信じられなかった。
その理由に何度も華琳たちのことを夢に見た。魏の人たちが俺のために悲しんでくれたこと。それを華琳が励ましたこと。そして桜華が生まれたこと。これには驚いた。まさか華琳が俺の子供を妊娠していたなんてまったく思っていなかった。そして俺の考えた真名をつけてくれたことにも驚いた。あの時のあの話しって真面目な話しだったんだなぁ。
ともかく、俺は何とかあの世界に、華琳たちのもとに戻ることは出来ないか必至にいろんなことを学び、調べた。
だが、まったく成果を得られずここまで来た。夢のほうも年々見ることがなくなっていた。
ある日、変な夢を見た。
「おい、北郷一刀。おい!」
「ん?誰だ、俺を呼ぶのは」
「わしか?わしはまぁ、いわゆる神様みたいなもんだ」
「神様?」
「そうそう。って信じて無いじゃろ」
「いや、まぁ普通疑うでしょ」
「まぁわからんでもない。じゃがわしにそのようなことを言ってもよいのかのう」
「は?どういう意味だ?」
「お主はある目的というか夢みたいなものがあるじゃろ?それを叶えてやろうかと思ってな」
「本当か?」
「神様は嘘は言わんよ」
「なんでそんなことをしてくれるんだ?」
「うーーーーん。気まぐれ?」
「気まぐれかよっ!!」
「まぁ嘘なんじゃが」
「さっき嘘は言わないとか言ってたじゃねぇかよ!!」
「冗談はこれくらいにして。本題を話そうかの」
「本題?」
「ふむ。お主のいたあの世界な、今結構不安定な状態なんじゃよ」
「不安定?どういう意味だ?」
「簡潔に言うとお主の影響力が強すぎたんじゃよ。分かりやすく言うと、大黒柱の抜けた家みたいな状態なんじゃよ」
「つまり、柱を戻してバランスを取り戻そうということか」
「その通りじゃ。その代わりもう二度とこっちには戻れなくなるぞ?」
「それを聞けたのは良かった」
「?何故じゃ?」
「夢で見たんだ。魏のみんなが俺のために泣いていて、最近は見れていないけどいつも無理に笑っている感じだったから。あっちに行ってまた戻されたら今度こそ想像したくないことになるかもしれないからさ」
「そうかそうか。では、早速行くかの」
「ああ。頼むよ」
楽しい時間は本当に過ぎるのが早い。
昨夜は多くの人が自分の誕生日を祝ってくれた。まぁ途中からすごいことになっていたけど。
今、私は魏のみんなと一緒に昨日行った父の石碑に向かっていた。
今日は魏に帰る日なので最後にもう一度見ておこうと思い、城を出ようとしら行く先々で色んな人と会い結局全員で行くことになった。
市を歩いていると、どこからか声をかけられた。
「そこのお嬢さん」
「え?私?」
「そうそう。巻き髪のあんたじゃ」
男か女か良く分からなかったが、占い師と思われる人に声をかけられた。
「私、今持ち合わせないんですけど」
「いやいや、いらんよ。わしが勝手に言うだけじゃから」
「はぁ」
「もうまもなく、この地に再び流星が舞い落ちる」
(え?今流星が舞い落ちるって。流星ってもしかして父上のこと?)
そう考えていると母に呼ばれた。
「桜華。何をしているの?置いて行くわよ」
「あ、はい!今行きます」
そう母に返事をし、占い師さっき言われたことをちゃんと聞こうとしたが、もうそこに占い師はいなかった。
「あれ?消えた?」
辺りを見回してみたがそれっぽい人はいなかった。しかたがないので早足で母たちのもとに急いだ
やってきた父の石碑は昨日となんら変わっていなかった。もちろん木々の色も桃色ではなく、普通の緑色。
「久しぶりね、一刀。そういえばここに全員で来るのは、この石碑を建てたとき以来ね」
そう石碑に向かって話しをしている母の横顔は、父について尋ねた時と同じ顔をしている。母だけではなくみんなも同じような顔だ。
(みんな、やっぱり辛そうだ。必至に堪えているみたいだけど。それにしても本当に父上はみんなから愛されているんだな)
そう思っていると突然<ビシビシ>という音が聞こえてきた。その音は石碑がひび割れて行く音だった。
やがてひびは上から下まで走り、石碑は真っ二つに割れた。その場にいる全員が驚き硬直しているとさらに驚くことが起こった。なんと割れた石碑の中から人が出てきたのだ。
「いててて、鼻打ったぁ。うう、ここどこだ?」
そう言って顔をあげたその人を見て心臓がドキッとした。そうその人は昨日ここであった人だった。
早速行こうと言われたので、よろしくと頼むといきなり視界が暗転した。
暗転したかと思うと今度は前に倒れこむ感覚、そして鼻に激痛。
「いててて、鼻打ったぁ。うう、ここどこだ?」
顔を上げると懐かしい顔ぶれがとても驚いた顔をしていた。
華琳はかなり大人な雰囲気になっていた。他のみんなも年相応の雰囲気になっていた。
「やっと帰ってこれたよ。ただいまって、おわー」
そういうとみんな一斉に飛び掛ってきた。
みんな泣きながらもおかえりと言ってくれた。
ただいまと石碑から男性が言った途端にみんなが飛び掛かった。
みんな一度も見たことない顔をしていた。泣き顔なのにどこかうれしそうな顔をしている。
「皆、一度落ち着きなさい!」
母の一喝にみんな平常を取り戻した。
「本当に一刀なの?」
「ああ、ただいま華琳」
そう男性が言うと今度は母が飛びついた。周りにいる何人かが「ああー」とか「ずるい」とか言っていたが母を引き離そうとはしなかった。
初めてみた母の泣き顔はみんなと同じようにうれしそうな顔だった。
少しすると母が男性から離れると私のほう見た。
「彼女は私とあなたの子供の曹丕、真名はあなたが考えた桜華よ」
母はいたずらっ子のような顔をしながら私のことを紹介した。男性はいや、父は私のことを見つめた。私はどうしていいかわからず目線をはずした。
「桜華。おいで」
そう言われ見ると笑顔で手を広げていた。その笑顔を見ると涙が込み上げてきた。今まであって欲しかったものが今、目の前にあった。あの時のような睡魔は襲ってこない。
「父、上・・・?」
「うん。おいで。桜華」
「父上。父上ぇぇぇぇぇ」
私もみんなのように父の胸に飛び込んだ。父は優しくも力強く抱きしめてくれた。
Tweet |
|
|
78
|
4
|
追加するフォルダを選択
これでこの話しはENDです。
こんな感じでいいですか?
誤字脱字がありましたら指摘していただきたいです
続きを表示