真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-
第56話 ~ 戦いに舞う魂に、蓮の華は春を思う ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋
得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術
最近の悩み:某日、川岸にて(48話参照)
連れた魚に眩しい笑顔で俺に報告してくる彼女、その真っ直ぐさは、俺にはとても眩し
った。 そして、僅かに俺より多く釣った事を喜んでいる姿は、本当に微笑ましかった。
まぁ実際には、あまり多く釣っても仕方ないので、餌の気配を消しているだけなんだけ
どね。 それは言わぬが花だし、こうしてそんな彼女を眺めているだけでも、十分俺は
楽しめているから、問題は無かった。 そんな時、事件が起こった。 遊びに来ていた
らしい明命の顔見知りの猫達が、川に落ち流され、そんな猫達を助けるために、俺の静
止を聞かずに明命は冬の川に飛び込んでいった。 そして、無事戻って来たは良いけど、
全身が濡れた為、服は身体に張り付き、その女性らしい体形を露わにし、濡れた黒髪は
身体に張り付き、妖しさを醸し出している上、猫を助けれた事で、優しい微笑みを浮か
べる彼女は、なんと言うか、凄く危険な香りを出していた。 と、とにかく、このまま
では風邪もひくし何とかしなければ・・・・・・・・・、
俺は、とにかく、焚き火に今ある薪を全て放り込み、上着を脱ぎ彼女にそれに着替える
ように言うなり森に飛び込み、胸の動機と先程の彼女の悩ましげな姿を、振り払うよう
に、一心不乱に薪を拾い集める。やがて両手に一杯になる頃には、それなりの時間が経
っていたため、急いで彼女の所に戻ると、其処には、俺の渡した上着以外は、一切身に
着けず、焚き火の前に座り込んでいる彼女の姿があった。
彼女には大きいダブダブの上着を、まるで短めのワンピースのように、・・・・いや、どち
らかと言えば、情事の後、まるで彼氏のワイシャツ一枚に身を包んだような、彼女の姿
に、 シャワーを浴びて来たばかりのような濡れた髪と、俺の上着一枚に身を包んでい
る彼女の姿に、俺は気恥ずかしい思い以上に、彼女に見惚れてしまった。
それでも、俺が森に入る前より、かなり小さくなってしまった焚き火に、無理やり我を
取り戻し、彼女のために、薪をくべて行く。 無論彼女の方は見ない。 見てしまえば
何か俺の中で崩れてしまいそうだったから、俺は横の森の方を見続ける。
【 ふわっ 】そんな中、彼女が近づいてきた気配と共に、背中に暖かく柔らかな感触
が圧し掛かる。 背中に触れる彼女の綺麗な黒髪の感触、そして、背中から伝わるよう
な、彼女の香り、「ちょっ、み・明命っ」 その感触に焦る俺を無視して彼女は、「こ
うしている方が暖かいです」そう無邪気微笑んでいるのが、気配で分かるが、俺として
は、それ所ではない。 渡された川魚の味すら感じる余裕など無く、もぐもぐと粘土を
租借している感じだ。 何故か心臓が激しく鼓動する中、それに合わせるかのように、
背中越しに、彼女の心臓の鼓動を感じる。 俺と同じように何故か、心臓の鼓動を早く
鳴らしている彼女。 何故かその事が、今の気恥ずかしい思いと、彼女の俺の青少年の
部分を刺激する以上に、俺の心を暖かなもので満たしていく。
気恥ずかしくても、彼女から感じるそれが、とても心地よく大切なものに感じられた。
・・・・・・・・・・・・何なんだろうな、これって? でも、心地良いな。 そう、その気持ちに
心を、身体を、此の安らかな時に身を任せていくのだった。
(今後順序公開)
一刀視点:
軽蔑、
見くだす、
怒り、
嫉み、
無視、
そして、かすかに聞こえる陰口、
俺は目の前の、雑然と立ち並ぶ大勢の人間に、
そんな侮蔑した視線を送られながら、思い悩んでいた。
(うーん、どうしようかな?)
事の起こりは三日前、
どっちを答えても、結果は変わらないような質問(詰問)から、なんとか隙を見て抜け出した後、
孫策に、
『 一刀に兵を少しあげるから、まず自分の部隊を作り上げなさい 』
そんな、孫策の言葉から始まった。
まぁ、『自分の部隊の兵から、まずは信頼を回復しなさい』って事なんだろうけど
伝えられた日時と場所に行って見たら、
其処には二百人程の人達が、有り難いばかりの心温まる視線と共に、俺を迎えてくれた(涙
今朝、明命から、
「一刀さんの隊は、皆さんの隊から、信頼のある、選りすぐりの人達で構成されているんですよ」
なんて、有り難い事を言ってくれたのだけど、
・・・・・・・・・・・・これは、裏目に出たみたいだね。
彼等からしたら、有能な将の下で働いていたのに、其処から外され、俺なんかの下に付けられたと言う不満が、これでもかと言う程、周りに滲み出ていたと言うか、隠そうとしていない奴もいる。
俺からしても、そもそも、こんな大人数をいきなり任されても困ると言うのが本音だ。
他の隊と比べて、部隊としては、かなり少数なのかもしれないけど、俺にとっては、大人数である事に違いない。
そもそも、実家の舞踊の教室で教えるのだって、精々十人程度だ。
学校(生徒としてだけど)だって三十~四十人程度が普通・・・・・・・・、
まぁ、此処から更に小隊に分けて、管理運営するのが望ましいんだけど、
・・・・・・・とりあえずこの空気を何とかしないとな・・・・・・とほほっ、
「知っての通り、今日から、俺がこの部隊の将になった北郷だけど・・・・・・、不満が一杯あるようだね」
「・・・・・・」
俺の言葉に兵士達は、『何を当たり前の事を』と言った目を隠しもせず、中には『フンッ』と鼻を鳴らす者もいる。
・・・・・・成程、
俺は手近な兵士の中で、不満な態度を隠さない体の大きな男の下に行き、
「俺程度が、君達のような精鋭の上官になるのが気に食わないのかい?」
「・・・・・・・・・・そ・そうだっ」
俺の言葉に、仮にも将たる俺が、自分を蔑むような言葉を言う事に、驚きながらも正直に答えてくれる。
そして、その男の言葉に、周りの兵達も、その言葉の尻馬に乗るように、
「精強な将ならともかく、お前みたいな優男に命なんか預けられるかっ」
「お気に入りなだけの成り上がりが、俺達を従えると思うなっ」
「強いのは床の上だけなんだろう、がはははははっ」
「俺達は、孫呉の精鋭なんだぜ。 子供のお守なんて見ていられねえってのっ」
部隊中から、不平不満と悪言雑言が聞こえてくる。
うーん、此処までくると、いっそ清々しいなぁ。
俺は笑顔で、それらを聞き流しながら、やがて収まるのを待ってから、
先程の男に向かって、
「つまり、自分の武に相応しい、将の下で働きたいと言う訳だね」
「そうだっ」
うん、正直で大変よろしい。
これならこれで、やりようがある。
「君は何処の部隊に居たのかな?」
「勇将たる甘将軍の所だ」
成程、自分にも他人にも厳しい思春の所に居ただけあって、それなりに誇りがあるのだろうね。
「まぁ、君達が今回の人事に不平を持つのは分かる。
それに一兵士と言っても、武人として武に誇りを持つのは良いと思うよ。
けど、力に慢心しているようでは武人とは言えないよ。少なくても君の元上官の甘将軍は、武人としても、
将としても、真摯な態度で臨んでいるよ。 例え理不尽な命でも、それを一生懸命成す筈。 違うかい?」
「・・・・・・」
俺の言葉に、正論に黙って佇んでいるが、その目には、はっきりと不満の色が映し出されており、それは周りの兵士達、いや部隊全員が同様だった。
確かに、明命が言っていたように、選りすぐりだね。
孫呉の兵である事に、誇りを持っているからこその不満を、全員が共有している。
これは皆に感謝しないといけないな。 好みの手ではないけど、こう言う人達はシンプルで良い。
「俺が甘将軍とまで行かなくても、それなりの力を証明して見せれば、君達の将として認めてくれるかな」
「はっ、構わぬが、どうやってお前のような小僧がそれを証明する気だ」
周りを見渡しながら、その男の言葉に反対する兵がいない事を確認すると、
俺は、その男の言葉には答えず、部隊の中心に向かって足を進める。
やがて、部隊の中心近くに行くと、
「いいよ、君達が自負する武力が、どの程度の力しか持たないのか、教えてあげる」
と、宣言してみるが、周りは意味が分かっていない様子だ。
まぁ、それもしょうがないかな。 彼等にとっては俺は、ただのひ弱な優男らしいからね。
だから、俺は分かりやすいように、手近な兵士の腹に何気なく掌を当て、
「君達全員に、稽古を付けてあげると言ったんだよ」
「・・・・・っ・・・」
俺の言葉と同時に、さっきまでニヤニヤ笑みを浮かべていた兵士は、腹部に当てられた手から襲った衝撃に耐え切れずに、苦悶の声も出す事も出来ないまま、気絶して地面に倒れる。
そして、それと同時に周りの空気は一転するも、今、何が起きたか信じられない様子だ。
そんな中、俺は袖の中から鉄扇を取り出し、呆然とする近くの兵士を、とっさに反応してきた動きを利用して、鉄扇を二人の鳩尾に軽くめり込ませる。
「「う゛っ」」
そうして新に倒れる二人を見て、周りの兵士達は、やっと跳びすざりながら、俺を取り囲むように輪を作る。
「反応が遅いよ。 それでも武人の自覚があるのかい」
俺はそう挑発しながら、前へ歩みを進めると、流石に今度は黙って受けてくれる気はなく、剣(模擬剣)を振りかざしてくる。
それを、一歩前を進みながら半身になる事で避わしながら、下から弧を描くように、鉄扇をその兵士の顎を縦に揺らしてやる。
「ぐっ」
其処へ横から棍が突き出されるが、俺はそれを鉄扇で、そっと横に奇跡をずらしながら、もう一つの鉄扇を男の喉へ軽くめり込ませる。
「う゛ぇっ」
そこで、やっと周りの兵士達は、本気になったのか、周りの空気が殺気じみたものに変わり、俺に襲い掛かってくる。
やり方が甘いよ。
こんな密集した中で、自分達より遥か各上の相手をしたって、盾にされるだけだと言うのに、
俺は冷静に思いながら、絶えず誰かを盾にし、そして相手の攻撃は、別の誰かに行くよう避わし、逸らしながら、兵士達を相手に舞ってゆく。
やがて、なす術もなく倒されていく仲間達に、兵士達の心に恐怖が生まれ、
その攻撃は、多数対一と言う心理も手伝って、次第に単純な物になって行く。
そうなれば後は他だ単に、何も考えずに舞うだけだ。
周りの空気も、
地面を伝わる振動も、
周りの兵士達の思考を、
この場に在る全てのモノを、
この身に映し込み、それに合わせて舞うだけ、
そう、これは舞い故に、舞うのに必要以上の力も速さも要らない。
足りない分は、舞う相手が、地面が補ってくれる。
気を付けないといけないのは、決して重傷を負わせず気絶させるか、すぐに動けないようにしておく事、・・・・・・・・・・・・それだけの事だ。
殺す事を思えば、面倒では在っても、気楽な単純な作業でしか無い。
なら、今は好みではなくても、舞そのものを楽しむ事にしよう。
蓮華視点:
姉様から一刀の隊を作るから、兵士を何人か出して欲しいと言われて、一刀の身を守れるよう、それなりに優秀な者を三十名程出してあげた。
だけど、兵士達の中で流れる一刀の噂を知っている私は、やはり気になって、思春を引き連れて一刀の調練第一日目を城壁の上から視察しに来たのだけど、
・・・・・・やっぱり、
一刀を前にした兵士達は、一刀に罵詈雑言の不満の声を出していた。
それにしたって、なんでいきなりこんな状態に?
一刀は、一体何をやらかしたのかしら?
「・・・・どうやら、北郷が、兵の不満をわざと爆発させたようです」
と、状況を不思議がる私に、思春が教えてくれる。
「なんでそんな事を?」
「おそらく、兵士の心を、一つに纏めさせる為でしょう。
不平不満であろうと、兵士の心が一つになる事には違いありません」
確かに、そういう意味なら、あれも一つになると言えば一つなんでしょうけど。
不満を爆発させるだなんて、普通は回避すべき事のはず。 一体なんでそんな事を・・・・・・、
「そう言えば、思春はどんな兵士を一刀の所に送ったの?」
「・・・・・・はっきり言えば問題が在る連中です」
「えっ」
思春の言葉に、私は驚きの声を漏らす。
思春は三度だけとは言え、武術において一刀に師事を仰いだと言っていた。
そんな相手に、問題ある人間を送るだなんて、思春らしくないと思ったのだけど。
「何が問題なの?」
「・・・・腕は立ちますが、武人である事に拘りを持ち過ぎている連中です。 ですが北郷なら、上手く扱うだろ
うと送りました」
「腕が立つって、どれ程の者なの?」
「・・・・稽古では、ほんの少し手こずる程度の腕です」
思春のその言葉を聞いて、私は彼女らしいと、笑みを浮かべる。
思春が、少しとは言え、手こずる程の腕なら、きっと一刀を守り、力になってくれるはず。
でも一刀は一体、この事態をどう治めるつもりなのかしら?
やがて一刀が、部隊の中に入り込み、その姿が兵士達の中に埋もれてゆく。
「ねぇ思春、一刀は一体何をするつもりなのかしら?」
「・・・・・・・・」
私の質問に、思春は一向に答えてくれず。
そちらを見ると、思春は怖いほど真剣な顔で、一刀の消えた辺りを見つめていた。
私の声が聞こえない程、思春は集中しているみたいね。
一体何が起きると言うの?
私は呆然と、眼下の繰り広げられている光景に、目を奪われていた。
最初は、部隊の中心での騒ぎじみたものだった。
だけど、それはすぐに部隊全体に広がり、兵士達が必死な顔で一刀に襲い掛かっていく。
襲う?
自分で思っていながら、その言葉に疑問を覚える。
それくらい、一刀は兵達の攻撃を苦も無く、紙一重に避け続け、襲い掛かる兵士達を気絶、もしくは悶絶させていた。 幾つもの剣を、棍をまるで、宙を舞う一枚の羽毛のように、その攻撃をが当たる事は無く、相手の懐に潜り込んでいる。
上から見れば、一刀は密集した状態を利用して、周りの兵士を盾にしながら、相手の攻撃を限定的にし、その攻撃すらも、避わし、逸らし、相手の姿勢を崩してやる事で、周りの兵士達に行くように仕向けて、更に攻撃を限定的にしているのが分かる。
ましてや、兵士達にとって、訳も分からず仲間の兵士達が倒されていく様は、兵士達から冷静さを奪い、恐慌状態に落としいれられている。 そうなれば、多数と言う利点を活かす事もできず。 一刀の思うつぼでしかない。 無論、中には頭の回る人間が、最初の方に策を仕掛けてはいたけど、それも通用しずに早々に一刀に倒されていった。
でも、そうやって兵士達を相手に立ち回る一刀の姿は、
とても戦っているようには見えず。
その綺麗な動きは、
空を舞うような鉄扇の動きは、
静かな足運びは、
一見無表情に見える、静かな笑みを浮かべた表情は、
まるで、兵士達を相手に舞いを舞っている様にしか見えず。
二百余名対一と言う信じられない光景が、それを余計に幻想的に見せる。
そんな光景に、その舞の美しさに、私は魅せられていった。
やがて、最後の一刀の舞の相手が地面に静かに転がると、
「・・・・・・蓮華様、これが先程の答えです。 不満があるならば、その不満をあえて一点に絞り、それが誤り
だと、その身に叩きつけてやる。 一見無謀ですが、北郷ならではの手段と言えます」
そんな思春の言葉が、舞に魅せられていた私を現実に引き戻した。
正直、実際に目にしておきながら、目の前で起こった出来事は、信じられないようなものだった。
「思春は同じ事が出来るの?」
「・・・・・・私は北郷のように、甘くありません。 するならば、皆殺しでしょう」
思春の、呆れたような口調とは裏腹に、真剣な目は、堅く握られた拳は、
殺す事を前提に、挑まなければ無理だと、
今見せられたように、手加減していては出来ないと、そう言っていた。
一刀の武は、話には聞いていたけど、正直信じていなかったわ。
無論、その力の一端を窺い知る事の出来る事も在ったとは言え、
あの戦場での辛そうな顔と、張遼との一戦、
そして街に戻って来てからの一刀の弱り様、
あれを見ていれば、とても信じる気にはなれなかった・・・・・・。
「まさか、これ程とはね。 姉様が、あの時斬り掛かろうとした私を、止める訳だわ」
一刀の武の腕に感嘆しながらも、あの時の自分を深く恥じる。
今思えば、あの時の私は、孫家に相応しい人間であろうと、肩に力が入りすぎ、何も見えていなかった。
一刀の想いを知ったあの日から、相手の事を、相手の置かれている立場を、よく考えるようになった。
無論、幾らかマシになったとは言え、まだまだ自分の力不足を感じるけど、
それでも、その変化のおかげで、私を守り、導いてくれる人間が、意外に多い事を知る事が出来たし、
その事は、今の私にとって掛け替えの無い宝の一つになっている。
「姉様達が、一刀の存在を公にしなかった訳ね。 連合の時に見せた軍略に、天の知識、それに加えて、この
武ですもの。 前もって知られていたら、確実に一刀は袁術に取られていたわね」
「・・・・・・そう思います」
私の言葉に、そう素直に頷く思春、
そして、その視線の先には、あれだけの事をしておきながら、息一つ乱さず、呑気に此方に向かって手を振っている一刀の姿が映っていた。
「くすっ」
・・・・・・・何処までも、自然体なのね、あの人は、
一刀視点:
きりの良い所で、見に来ていた蓮華と思春に手を振ってから、
俺は、手近の兵士達を起こし、全員を手分けして、叩き起こす様に命じると。
その兵士は、素直に指示に従ってくれた。
やがて暫らくすると、全員が無事意識を取り戻し、今度は俺の前に整然と整列してくれた。
うん、やっぱり、元々孫呉の兵士である事に誇りを持っている人達だけあって、誤解さえ解ければ、素直に俺に力を貸してくれそうだな。
「これで、俺を君達の将として認めてくれるかな?」
「「「「「 は、はいっ! 」」」」」
うん、やっぱり意思の確認って言うのは必要だよね。
これなら例え不満が在っても、言えないだろうからね。
俺は部隊の意思を確認すると、再び兵士達の中に入り込んで行き
「君、隊列の前で立ってて」
「はい」
と言った感じで、兵士達の中から、十人の男女を織り交ぜて声を掛けて行く。
やがて、
「この部隊をとりあえず十の小隊に分け、君達を小隊長に命ずるから頑張ってね
隊員は君達から見て、相談して振り分けてくれて結構だから」
俺の言葉に、部隊は騒がしくもなるも、小隊長達は命じられたままに、部隊分けを行っていくが、
「な、納得行きませんっ!」
何人かの兵士が、俺の前に整列する。
その中心には、最初の思春の所から来た男の姿が在った。
「納得行かないのは、俺が君達の将である事? それとも、自分達が小隊長に選ばれなかった事かな?」
答えなど分かりきった事を、小さく息を吐いてから、あえて聞いてみる。
「無論、後者であります。
失礼ながら、あの者達より、我らの方が何倍も強いからです」
「そうだね。 武の強さだけなら、君がこの部隊で一番強いんじゃないかな」
「だったら何故ですかっ!?」
「今の君達では、多少の強さの差なんて、無意味だなんて事は、今証明して見せたでしょ。
それに、・」
俺はそこで、小隊長に命じた兵士の中から、一人を選んで呼び出し、
「君と彼女との力の差が、どれくらいと在ると思う?」
「自分なら、この者が十人居たとしても、負ける気はありません」
その兵士は、小隊長の一人である少女を見て、自信満々に言う。
でも・・・・・・、
「無理だね。 彼女が三人居たら、君は確実負ける」
「なっ」
「確かに単純な武の腕だけなら、君と彼女の間には、それくらいの差はあるだろうけど、戦闘は武の腕だけで
決まるものじゃない。 先程の稽古にしたって、俺は幾つもの戦術を織り込んで居たんだ。
だけど君は単純に俺に立ち向かい、彼女達は、まともに向かって行っても、勝てないと見切りをつけ、策を
講じた。 だから、そう言う動きを見せた彼女等を、俺は逸早く叩いたんだ」
俺の言葉に、兵士達は驚愕の顔を見せ、
「あ・あの中で、其処まで見られていたのですかっ!?」
「当たり前だろう。 でなければ、あんな稽古をした意味は殆ど無い。
将って言うのは、その武力より、状況を見極める目を持ち、部隊を生き残らせるための、策を講じる事が出
来る者の事を言うんだ。 それが出来ない者には幾ら武があろうと、将たる資格は無いよ」
「・・・・・・・・・・・・」
今更ながら当然の事を言う俺に、何故か兵士達は言葉を失い、呆然とする。
でも驚くと言う事は、それはそれで良い事だ。 それを素直に受け入れる余裕があると言う事なんだからね。
だから、
「もし君達が彼女達の元で、その考え方を素直に学び、身につける事が出来たならば、君達はもっと強くなる
事が出来る。 より多くの仲間を守る事が出来るって事だよ。 無論、逆もそうだけどね」
「「「 ! 」」」
そんな双方共に納得してくれた様子に、俺は安堵の息を付く。
とりあえず、小隊長にした少女と、元思春の部下に名を聞くと、
「朱然(しゅぜん)と申します」
「丁奉(ていほう)と言います」
「二人とも良い名前だね。 では丁奉、君は彼女、朱然の元で多くの事を学ぶと良いよ。
それから朱然、君をこの部隊の副隊長に命じるから、丁奉に武の腕を磨いてもらいながら、俺を助けて欲し
い」
丁奉は素直に頷くものの、朱然は
「わ・私が北郷様を助けるだなんて、そ・そんなとても無理です」
と年相応に、慌てふためく。
でも、彼女が一番周りを良く見て、的確に動いていたんだよね。
なら、足りないのは経験と自信だ。
後は、今まで彼女が学んできたものと経験が結びつけば、
きっと彼女は、大きくその翼を伸ばしてくれるはず。
「と言っても、俺は調練なんかやった事は無いし、受けた事も無いから、やり方なんて知らないんだ。
そもそも俺は、武人じゃないしね」
俺の言葉に、またもや部隊を包む周りの空気が凍る。
まぁ、将である俺が、調練を知らないって言ったら、普通驚くよな。
でも、本当の事だから仕方が無い。
彼女に断られたら、他の人も多分結果は一緒だろうと思い。
せめて、誠意を籠めて、
「君が頼りなんだ、頼むよ」
そう、精一杯の笑顔を向けて頼んでみる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ、はい、私でよければ、精一杯やらせていただきます」
と、快く引き受けてもらえたものの、何故か、下を向かれて、顔を合わせてくれない。
うーん、やっぱりあまりにも、情け無い事を言うから、呆れられたのかな・・・・・・?
「ははははっ、情け無い事を言う隊長ですまないけど、これからよろしく頼むな」
俺は、何故か呆然としている朱然達から離れ、此方に向かってくる蓮華達に足を向ける。
情け無い話だけど、暫らくは彼女達任せになる。
なら俺は、その様子を見ながら学ぶ事しか出来ない。
調練のやり方とかもそうだけど、
この世界の事を、
この世界に住む人達の事を、
もっと多くの事を学ばなければいけないんだ。
皆を守るために、
皆が笑って過ごせる国にするために、
俺も、この部隊も強くならないとな。
さぁ、まずはこんな良い人達を、俺の隊のために譲ってくれた皆に、お礼を言わないといけないな。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第56話 ~ 戦いに舞う魂に、蓮の華は春を思う ~ を此処にお送りしました。
今回は、一刀の部隊結成のお話になりましたが如何でしたでしょうか?
尋常で無い力を持つ此の世界の武将達の前では、地味だったかもしれませんが、これが一刀の力の一端となります。 筋力は一般兵並みかそれ以下しかありませんが、それを補って余りある裏舞踊の技術が、一刀を支えています。 そして、その技術を支える核となる物の片鱗を、今話では、以前より少し明かして見せました。
ちなみに文中にでてきた丁奉と朱然ですが、呉の武将として実在していた人物を適当にとって来ました。
朱然は周泰の部下の一人で、丁奉は甘寧の部下一人のようですが、三国志に詳しくないので、その辺りは適当です(汗 まぁ名前は出てきましたが、今後の話の展開上名前が在った方がやりやすいだけなので、過度の期待はしないでください。
さて、次回はそろそろ明命を出したいなぁと思いつつ、まだ登場していない人物にもスポットを当てたいと、悩み中です(w 此の辺りのプロットは、多少前後しても問題は特に無い程、いい加減な物なので(汗
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
何とか、活路を見出した一刀、
そんな一刀に、孫策達は一刀に兵の信頼を回復させるための手を打つ・・・・・・・・・・
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