No.146764

Cat and me 9.アオイ

まめごさん

ティエンランシリーズ第六巻。
ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。

「ヤン・チャオさまは万年発情期ですよね」

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2010-05-31 09:04:53 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:535

西のクズハから親書が届いた。

届けたのはその国の王子でアオイという名の少年だった。

たまたまスズと追いかけっこを庭園で繰り広げていたわたしは、入城した王子に出会った。

その日に限ってやたらなお転婆ぶりを発揮したスズは、とにかくチョロチョロと逃げまくった。

そして姿を消した。

城の蔭から顔をだしたわたしは、ぽかんと口を開けて一点を見ている団体を発見した。

一人は水色のフワフワとした髪の少年。

一人は黒髪短髪の長身の青年。

一人は目付きの悪い青年。

一人は黒髪の艶やかな女。

一人は長い前髪に目が隠れている少年。

「すまないが、君たち。これくらいの少女を見なかったか」

多分、その目線の先だろう。

「あ…すごい勢いで走って行った後、あの木に登ってしまいましたが…」

呆然としたままの水色の少年が指を指したのは、一本の大樹だった。

礼を言い、ため息をついて大樹の下に立つ。

枝の間にスズの薄碧色の衣が見え隠れしている。

「こら、スズ。降りてきなさい」

嫌だという鳴き声が上から聞こえた。

「外では大人しくしていなさいと言っただろう」

知らなーいと馬鹿にしたような鳴き声が返ってきた。

「そうか、そうか。ではしばらくそこにいなさい」

鼻を鳴らしてやった。

「今日の饅頭はわたしが全部食べてやろう」

すると慌てたように薄碧色の衣が動いた。

「こら、スズ!気をつけ…スズッ!」

木の上から落ちてきたスズを、ガッツリと受け止めた。

腕の中でキョトンとしてわたしを見ている。

木の枝や葉っぱをくっつけて。

「驚かすんじゃないよ。本当にお前はやんちゃだな」

そして、食い意地が張っている。

怪我も傷も付いていなくてホッとした。

ごめんね、と鳴くスズに口づけをする。

「さあ、帰ろう。キムザと饅頭が待っている」

抱えたまま踵を返すと、水色の髪の少年が笑いを堪えてこちらを見ていた。

その後ろにいる三人もそれぞれの格好で震えている。

短髪の男だけは底冷えのするような目で睨みつけていた。

「随分と元気のよいお姫さまですね」

「ありがとう。良かったな、スズ。お姫さまと言われたよ」

スズがペコリと頭を下げた。

「では失礼する」

「はい、後ほど」

その水色の髪の少年が、アオイだった。

 

知ったのは、クズハの王子が父に謁見した時だった。

ボンクラ二人とわたしも同席していた。

「我が父の言葉で各国を回っているのです」

うやうやしく親書を差し出した後、アオイは笑った。

流暢なジン語で。

「見るもの全てが珍しくて、勉強になります」

「ほうほう。その年でご苦労なことじゃのう」

ボケも相好を崩している。

「中々に大変です。でも、一緒にいてくれる臣下たちが頼りになるので、安心していられます」

「わしの息子も、よく外に出ておる。旅はいいものじゃのう」

ボケの目線がこちらに向いた。

にこやかにほほ笑みながら、内心は馬力雑言が吹き荒れていた。

良く言うわたしはこの城の空気が薄いから息注ぎに旅に出るだけだそれを病弱と勝手に建前ておいて勝手に他国の者に自慢するんじゃないよこのボケ老人。

勿論、言わない。

しばらく和やかなやりとりが行われたのち、アオイが嬉しそうに言った。

「ところで、先ほどとても元気のよいお姫さまを、お見かけしたのですが、あれはどなたですか」

このガキ。早速スズに目を付けたか。

「わたしのネコです」

「ネコ…」

アオイが目を点にしている。

「息子、ヤン・チャオの傍にいる娘じゃ。そうじゃ、今宵の宴に呼ぶがよい」

勘弁してくれ。

「ぜひ、お願いいたします」

少年特有のキラキラした目で見つめてくる。

「生憎、スズは…」

「ヤン・チャオ」

ボケがにこやかに笑ってこっちを見た。

この好欲ジジイも、スズを寄こせ、差し出せとうるさい。

「宴に呼ぶがよい」

ご命令された。

「ああ、スズ」

部屋に戻ったわたしに飛びついて来たスズを抱きしめ、そのままへたり込んだ。

「お前は老人から少年の心までわしづかんでしまう」

不思議そうに見上げるスズに口を重ねる。

「どうかされたのですか」

カイドウ、リンドウに事情を説明する。

二人はクスクス笑った。

「さすがは我らのスズさまですね」

「どうされますか、ヤン・チャオさま。その王子とスズさまが仲良くなってしまったら」

「何を言う。スズはわたしだけのものだ」

なあ、スズ。抱きしめると甘えたように鳴いた。

「とにかく宴には参加するが、すぐに戻る。キムザを呼んでくれ」

スズに口づけしながら言うと、カイドウがため息をついた。

「呼んでくるので、そこをどいてください。ヤン・チャオさま」

 

お付き二人から話をきいたキムザ以下女官たちは、衣の相談を始めた。

十五歳の少年に対し、大人びて魅せるか、愛らしく魅せるか。 

わたしは不貞腐れて寝台にひっくり返っている。

腕の中にはスズがいる。

「西の王子など、どうでもいいではないか」

「いいえ!」

女官たちは声を揃えて口答えした。

「せっかくの機会ですもの」

「スズさまの魅力を存分に引き立てます」

「少年王子に惚れていただかなければ、女官の沽券に関わります」

「おまかせください」

この調子だ。

「スズー。お前はどこにもいくんじゃないよ」

スズはにっこり笑って、口を重ねてきた。

「ああ、スズ…」

帯を解いて衣を脱がそうとすると、ひょいとキムザに奪われた。

「衣装が決まりましたので、お着替えをしましょうね」

お着替えをしたスズは花の精のごとく愛らしかった。

撫子色の衣に、真珠の玉が連なる簪。

女官たちがキャアキャアと自らの腕前を褒めている。

そしてわたしもお着替えをさせられた。

「行ってらっしゃいませ、殿下。スズさま」

行きたくはないのだが、仕方あるまい。

「早く帰ろうな。スズ」

了解したとスズが鳴いた。

 

宴の場に入ると父が目ざとく見つけ、大声で呼ばれた。

ボンクラ兄たちが怒りの視線で睨んでくる。

己らの不甲斐なさを嫉妬に変換しないでほしい。いい迷惑だ。

ボケは嬉しそうにスズの美しい跪礼を堪能した後、傍に置こうとした。

「母上たちが怒りますよ」

笑顔でかわして、自席へとむかう。

スズに飯を食わせている(相変わらず高級食材ばかり差してくる)時だった。

予想通り、少年王子は真っ直ぐこちらに向かってきた。

後ろには四人の臣下が付き添っている。

「始めまして。クズハの第一王子アオイと申します」

少年は真面目くさってスズの前に膝を折り、小さな手を取った。

そっと口を当てる姿にどす黒い感情が湧き上がる。

「この子の名前はスズという。聾唖で話すことができない」

パキパキパッキリと説明してやると、アオイは目を丸くしてスズを見た。

「ですが、とても美しい方ですね。ぼくとお友達になってください」

オトモダチ? オトモダチだと?

お前のいうオトモダチとは、狼を隠し覆う羊皮の意味だろう。

スズはコクンと頷いた(頷くな!)。

「では、お近づきの印に」

そう言ってスズの頬に口を付けた。

なにをするこのガキ!

胸に渦巻いていたどす黒いものが一気に突き上げる。

「まあ、お似合いのお二人だこと」

わざとらしい声を出してセリナがやってきた。

「始めまして、西の王子さま。ヤンさまの婚約者のセリナと申します」

お前は今来るな!

挨拶をするアオイにセリナはにっこりと笑った。

「碧色の衣がとてもお似合いだわ。ネコちゃんと並んでいると、花の精のようね」

わたしはセリナと同じ表現力しかないのか!

「本当ですか? ありがとうございます! セリナさまもヤン・チャオさまもとても大人びていて羨ましくなります」

大人びているのではなくて、大人だ!

「まあ、口がお上手ね」

どこが!

クルクルと周りの会話を聞いていたスズが、眠そうな声を出した。

よーしよし、いい見計らいだ。

「そうか、スズ。つかれたか。では、わたしたちはこれで」

スズを抱き上げると慇懃無礼に礼をし、さっさと退場した。

義理は果たしたし、害虫の傍にスズを近づけるわけにはいかない。

「まあ、殿下。早すぎるお帰りですね」

「遅いくらいだ。スズ、風呂に入ろうか」

こくりとスズが頷いた。

「お前はあの王子をどう思っている」

白い体を包み込むように優しく洗う。

お友達?とスズが首を傾げた。どうやら友達が何か分からないようだ。

「いいか、友達というものはだな、最初は親しい振りをしてにこやかにしているが、油断すると喉元かっ切られるぞ」

嘘を教える(わたしの心はとてつもなく狭い)と、スズはそんなもの返り打ちにしてくれると鼻を鳴らした。

「お前は勇ましすぎるな」

白い体を洗う手は、その内愛撫に変わる。スズの可愛い声も上がる。

わたしとスズが一緒に風呂に入るとき、女官が付かないのはこういう理由である。

 

アオイはしょっちゅう、わたしの部屋へとやってきた。

そして午前中、わたしが政務でいないことをいいことに、スズを連れ出す。

はりつかせているリンドウによれば、池や庭でただ遊んでいるだけらしい。

「友達と呼べる人が周りにいなかったのです。だからスズさまに会えて嬉しい」

目を潤ませて大人たちを見る少年に、リンドウ以下女官たちはコロリとやられた。

あのキムザでさえも。

「そうか、そうか。ではわたしも君の友達とやらになってやろう」

「はい! ありがとうございます!」

皮肉は裏目に出た。

午前どころか午後までもわたしの部屋に入り浸る。

迷惑で邪魔なことこの上ない。

実際アオイとスズは、本当に仲が良かった。

わたしとスズは身長差が大きい。一概に「お似合いのお二人」とは言えない。

しかし、小柄なアオイと一緒にいると、微笑ましいというか、なるほどセリナの言うとおり「お似合いのお二人」だった。

無邪気に手をつないで池の橋を駆けたり、部屋の中であやとりをしている姿など見ると、口元がほころんでしまうほどだ。

なーんてこのわたしが言うはずがない。

あのマセガキ。スズに色目を使いやがって、と口汚く罵ってやりたい(大人げないので一応は自粛している)。

イライラとハンコを超絶高速で押しまくるわたしに、カイドウが呆れた。

「ヤン・チャオさま。落ち着いてくださいよ、相手は十五の少年ですよ」

「十五だぞ、十五。異性に目覚める青春真っただ中だ。発情期だぞ」

「ヤン・チャオさまは万年発情期ですよね」

「こらこら、カイドウ」

政務を終わらせ、部屋を出る。

どうせ、昼餉が終わってもアオイはわたしの部屋へやってくるだろう。

何とか追い払えないものか。

アオイも心得ているはずである。

一国の代表として挨拶に来ているわけであるから、まさかその国の王子の寵妃(は大げさか)に手を出すほどの馬鹿な真似はしないだろう。

だが、相手が「子供」としてスズに接している以上、わたしも「大人」として対応しなければならない。

西の王子め、そこまで計算しているのだとしたら大したものだ。

忍耐とは無縁のわたしが良く耐えている。

自分で自分を表彰してやりたいくらいだ。

考えごとをしていたわたしは、出合い頭に人にぶつかった。

女だった。アオイの臣下の一人だ。

「すまない、大丈夫か」

「はい」

女はわたしを見上げた。

瞬間、周りの景色と音が一切消えた。

黒い瞳から目が反らせない。身動きもとれない。

まるで蛇に睨まれた蛙のような、もしくは蜘蛛の巣にかかった虫のような感じだった。

女はゆっくりと近づいてくる。

背中に汗が噴き出した。

それでもわたしは動くことができずに、ただ女を見つめるだけだ。

女の紅い唇がわたしの口に重なろうとする。

抗えない。わたしも目を閉じて、紅い唇を受け入れようとした。

思考は全く停止し、朦朧としていた。

その時、左頬にバシンと何かが当たった。

呪縛が解ける。

振り向くと、怒りに涙をにじませたスズと、口を開けてこちらを見ているアオイ、リンドウの姿があった。

足元に落ちていたのは野花で作った花輪だった。

「スズ!」

スズは身をひるがえして駆けてゆく。

浮気(未遂)現場をみられたわたしも、慌てて後を追った(花輪を回収するのも忘れなかった)。

スズの足は速い。わたしも全速力で走る。

部屋に飛び込むと、すぐに扉を閉められた。

おかげでしたたかに顔を打ってしまった(星が弾けた)。

「スズ!」

顔を押さえながら、部屋に入ると昼餉の用意をしていた女官たちが目を丸くしてスズとわたしを交互に見ている。

そんなものはどうでもいい。

スズは怒りながら部屋をグルグルと回っている。

頭から湯気でも出そうなほど顔が赤い。そのくせグズグズと泣いている。

申し訳なさが募った。

なぜわたしはあんな女などによろめいたのだろう。

「スズ」

手を伸ばすと威嚇された。

「わたしが悪かった」

構わずに抱きしめようとすると噛まれた。

「すまない」

小さな体を捕まえて、腕の中に閉じ込めるとスズが暴れた。

活きのいい魚のような暴れっぷりだった。

「わたしにはお前だけだ」

寝台に押し倒すと、スズに腹を蹴られた。

一瞬息が止まったが、痛みを堪えて抱きしめた。

「スズ」

口づけをしようとすれば、歯をくいしばって拒む。

「もう二度としないから」

当たり前だと鳴いた。

「そうだな」

大嫌いと鳴いた。

「お前に嫌われたら、わたしは生きていけない」

とたんにスズが小さく笑った。クスクスと体を震わせている。

「大袈裟なんかじゃない。本当だ」

良かった、ご機嫌は少しずつ直ってきているらしい。

「花の冠をありがとう。お前が作ってくれたのだね」

白い頬を撫でると手を取られた。

スズに噛みつかれたその手は、少しだけ流血している。

申し訳なさそうにスズが血を舐めた。

その顔と感覚にクラクラする。

「ああ、スズ…」

そのまま帯を解こうとした時、カイドウの声がした。

「はい、終了―」

「スズさま、昼餉のご用意が整いましたよ」

リンドウの声にスズが、ご飯!と飛び起きた。

そして踊るような足取りで、卓に向かう。

早く来て食べさせろと鳴いた。

 

ご機嫌は完全に治った。飯で。

 

「浮気者」

「不潔」

冷淡で冷酷なお付きたちの詰る声を聞きながら、スズの口へ飯を運ぶ。

「そうは言ってもお前たちも見ただろう。ただものじゃなかったぞ、あの女」

「まあ、いきなり他国の王子に迫る女なぞ初めて見ましたから」

「まさか、ヤン・チャオさまも素直に受けようとするなんて思いもしませんでしたし」

「なぜお前たちは止めなかった」

「いやあ、お色気ムンムンで入る隙がなかったんですよ」

「完全に二人の世界でしたからね」

スズが不機嫌そうに鳴いた。

「この話はもうやめよう。スズが怒る」

「そりゃ怒りますよ」

「ねえ、スズさま」

どうやら悪いのは全てわたしらしい。

しかし、アオイの四人の臣下たちはどこかおかしい。四六時中、金魚の糞のごとくアオイにひっつきまわっているのはいいとして。

短髪の男は笑顔の一つも見せず、スズとわたしを睨みつける。

目付きの悪い男は、たまに赤い顔して酒臭い。

わたしを誘惑しようとした紅い唇の女。

そして長い前髪に目が隠れている少年は、よく森に入って草を取っているそうだ。

が、所詮は他国の者だ。関係ない。

満腹して腹を叩いているスズを膝に乗せたまま、わたしも自分の膳を片付けた。

 

それ以降、スズはアオイの目の前で、わたしに大層甘えるようになった。

まあ、アオイというより、臣下の一人の女(?)への権制のようなものだが。

この男はあたしのものだ、手を出すなとばかりにひっついてくる。

何となく気分は良い。というより嬉しい。

その女(?)は白けたような目でスズを見ているだけだった。

「大変申し訳ありません。うちの臣下がつまらぬことを」

騒動の翌日、アオイが平身低頭で謝った。

「気にするな」

「御心の広いお言葉、感謝します。あの女、実は男なんです」

思わずあんぐりと口を開けた。

わたしは男に迫られたのか!

「ぼくの臣下たちは中々に個性派揃いで」

アオイがクスクスと笑いながら言った。

「おかげで旅も楽しいのですけどね」

姉と、あの人がいたらもっと楽しかったろうな。そう言ってアオイはため息をついた。

「あの人とは」

「ぼくの初恋の人です。スズさまによく似ているので…」

遠い目をして、カイドウとネコじゃらしで遊んでいるスズを見た。

「アオイ」

「はい。ヤン・チャオさま」

「その女性はどういった人だったのだ」

もしかしたら、スズなのか。あのネコの過去をわたしは一切知らない。

「可愛い人でした。その時、ぼくは本当に子供だったので、大人の女性に憧れていたのかもしれない」

そう言ってひっそりと笑った。

大人の女性ねえ。スズとは縁遠い言葉だ。

違うな。わたしのネコではない。

ところでその夕方。丁度スズと厩で、かくれんぼをしている時だった。

その蔭で、言い争っている声が聞こえた。

「不用意な発言するんじゃねえ! どれだけおれらが肝を冷やしたと思ってんだ!」

「あれぐらい言わせろよ! ちゃんと誤魔化したからいいだろう? 大体、ワカを手放したイランが悪い…もがっ!」

壁からひょっこり顔を覗かせると、不貞腐れた顔のアオイが一人で立っていた。

「一人か? 誰かと言い合いをしている声がしたのだが」

他国の言葉でも一応の教育を受けているわたしには分かる。

アオイが取り繕うように口を開こうとした時だった。

スズが後ろから飛び付いてきた。

探してくれるのを待っていたのにと大いに怒っている。

「こらこら、スズ、止めなさい」

ポカポカと殴るスズを抱き上げる。

「アオイと話していたのだよ」

知るもんかとばかりに鼻を鳴らして、ツーンと横を向いた。

「そろそろ帰って夕餉を食おうか」

ご機嫌はたちまちに治った。そのままスズを肩車する。

外では滅多にやらないこれにスズが喜んだ。

部屋の中では度々やってやる。

一度、余りにも喜んだスズに、調子に乗って担いだまま走ったことがある。

スズは仰天し、頭にかじりついてきた。

目を塞がれ、視覚を失ったわたしはそのまま蛇行し、二人で壁に激突した。

「アオイも一緒に来るか」

「いえ、お邪魔ですから」

またねーとスズが頭上で手を振った。

夕暮れ時の茜色の空に、鳥たちが声を上げてねぐらへと帰ってゆく。

わたしとスズも、腹を空かせた子供のように、今日の夕餉はなんだろうと笑いながら帰路についた。

アオイは盛夏の頃、四人の臣下と共に他国へと去っていった。

 


 
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