風の変化に彼女は顔を上げた。
よく判らないが、なにかが変わったことを感じて。
さほどそのことに意識を持っていかれていたつもりは無かったが、現実にはそうでもなかったらしい。
彼女は名前を呼ばれて振り返った。
「どうしたの?」
そこに立っていたのは家の食客だ。
いつの間にか家に住み着いた、胡散臭いのに悪事を働くとも思えない渡り鳥。
問題があるとすれば家の使用人・・・というかオンナノコにかたっぱしから声をかけていることぐらいか。
その度に完膚なきまでに叩きのめされているのだが、本人は一向に気にしていないらしい。
直に復活するし。
そんな渡り鳥の青年の、ある種の不気味さを、だが彼女の両親は「面白い」と受け入れてしまった。
結果「金を持っていない渡り鳥」は「自分の家に雇われている」立場となったわけだ。
不思議なのはあれだけ彼のナンパには拒否反応を示した使用人たちがそれでも彼が居座ることそのものになんの文句も上げなかったことか。
・・・・・不思議、というのは失礼だろう。
彼女も、なんとなく言葉ではない意味合いでそのことを理解していたから。
そんな青年はへらっ、と笑って彼女の問いに答えた。
「飯の時間でも戻ってこないからって、おつかい」
「え?もうそんな時間?!」
驚いて空を仰ぐ。
確かに太陽は真上にまで来ていた。
眩しさに目を細め、手を翳す。
「またぼんやりしてたんでしょ。
・・・・・・アナスタシアちゃんはこの辺りの風が好きだから」
自分のことを「ちゃん」付けで呼ぶ人間は彼が初めてだった。
そして彼女がぼんやりするクセを「風が好き」という理解を示す人間も、彼が初めてだった。
だから彼女はいつの間にか笑って、自分の為に足労してくれたことに礼を言う。
「ありがと。皆が待ってるわね、急ぎましょう」
「そうやな。オレも腹空きまくっとるし」
「ふふ・・・、ホント、なんであれだけ食べて太らないの?
オンナノコとしては敵よね、敵」
「そうなん?」
「そうよ、ヨコシマ。罰として今日のお昼控えなさいよねっ」
「アナスタシアちゃんのおにーっ?!なんでそないな話になるんやー?!」
・・・・・・
軽口を叩きながら、少女と青年が緑の中を歩く。
空は青く、風は穏やか。
食の欲を果たせば、きっと眠気に浚われてしまうだろう。
先ほどの奇妙な不安は、彼とのやり取りで払拭されてしまった。
そのことに彼女は少々驚いた。
無遠慮に、相手を安心させる能力というのは備わる人にはあるのだなと感心しながらいると、向かっている家・・・・・・城からなにやら固まりが飛び出してきた。
「げ」
「わふっ」
「あ、トニー」
そのカタマリは飛び出してきた勢いのまま、青年、ヨコシマにぶつかってきた。
軽く吹っ飛ばされ、尻餅をついたヨコシマの顔に、べろべろと生暖かいものが纏わりつく。
「こらっ、やめっ、ぬぉっ」
大きな犬だ。
白い毛皮で、ヨコシマの纏う青の殆どが隠れてしまっているかのよう。
ここに訪れたとき、彼は「彼」を伴っていた。
不思議なのはヨコシマは彼の存在を知らない、つれてきた覚えがないといったことだ。
だが長年のパートナーでもあるかのように、彼らはこんな風にじゃれあう。
ヨコシマはクチでは嫌がるものの、その態度を強くは出さない。
とはいえ、今は食事時だ。
「トニー。ごはんのあとでね」
「わんっ」
よいこのお返事。
すとん、とその巨体が彼から離れる。
ヨコシマはそこから立ち上がる。
「ったく、アナスタシアちゃんのことには素直に反応するくせになぁ」
「だってヨコシマも決して嫌がってないんだもの。
トニーも愉しいんじゃない?」
「冗談。オスに好かれて喜ぶシュミはねぇんだよ。つーか犬だし。
てかお前一体なんなんだ?」
大きな体の犬をひょいとなんでもないことのように抱える様は全然重そうではない。
驚くほど自然な様子だが、ちゃんと知っている。
この犬、トニーは見かけ同様相当の重さだと。
こんな時にそれを重いとみせない様に彼の実力を垣間見るのだが・・・・・・
「ねぇ、ヨコシマ」
「んー?」
「そういえば、貴方武器持ってないわね」
「えーっ、と」
「それとも旅の途中でとられちゃったとか?」
「オレのはちょっと、特殊なんでね」
「特殊?」
「あぁ。ま、ここにいるならそんな用はなかろうが・・・・・・」
・・・・・・・・・
だらだら続けていこうかな。
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ワイルドアームズ(2世界過去)×GS横島
多分需要はないとわかっていても頭の中で沸いたネタ
そんなんばっかでごめんなさい。
好きなんだよWA!金子さんの日記は秀逸だと思う。
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