はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役のはずの恋姫もどきな作品です。
原作重視、歴史改変の方、ご注意ください。
大丈夫
もうすぐお母さんが帰ってくるからね
あなたの家族皆
皆であなたの元へ帰ってくるからね
だから泣かないで
それまで僕が
僕があなたを守るから
虎牢関での戦いの火蓋が落とされた同時刻
帝都洛陽に無数の火の手が上がった
燃えさかる帝都、混乱の宮殿内を彼女は数少ない近衛兵に守られながら
腕の中で泣き続ける劉協を必死に宥めながら…詠は必死に逃げていた
反董連合との決戦にほぼ全ての兵力を虎牢関に注ぎ込み、守備の薄くなった洛陽に襲い掛かった者達
それはかつて洛陽を我が物顔で歩き、己の私欲のままに民を虐げてきた高官、貴族達
月と詠によって身分を剥奪され、洛陽から追い出された者達
各地に散らばる諸侯を焚付け、その混乱に乗じて今一度自らの権力を取り戻さんと画策し、虎牢関に敵味方の目が映っている内にと洛陽を強襲していた
「賈詡殿!此方へ!」
「我等が時間を稼ぎます!帝を連れてお逃げください!」
宮殿の奥へ奥へ
逃げ惑う臣官、女官を引き連れ、詠もまた近衛兵に守られながら逃げていく
それを
「逃がすな!追えぇ!」
「帝を取り戻せ!」
「帝さえ手に入ればいい!他の奴等は殺せ!」
かつての権力を欲する者とその者の話に乗せられたならず者や私兵が甘い蜜に群がらんと、彼女達を追っていた
宮殿の守備に就いていた兵達は既に数十人と居らず、迫り来る敵兵は三千。
もはや対抗など無意味であり
「いたぞ!!」
「もはや董卓の兵など死兵!我等が敵ではない!」
宮殿の最奥で遂に詠達は取り囲まれた
「はあ…はあ…っく!」
四方から同時に攻め込まれたことで外に逃げる道は塞がれ、宮殿内を逃げるに逃げ回り続け、もはや足がいう事を聞かない。
さらに彼女を守る兵達もいつしか五人となり、風前の灯であった
「女ぁ…そいつを此方に渡してもらおうか?」
正規の軍の兵とはまるで違う、無骨ななりをした兵が手を伸ばしてくる
「触るな下郎!」
手を伸ばしてきた兵に近衛兵の一人が斬りかかる…が
「やっちまえ」
瞬く間に取り囲まれ、体中から血飛沫があがる
ドサァ…
見渡せば周りにいた近衛兵達もまた皆同様に倒れていた
「あ~あ、とうとう一人になってしまいましたでちゅね~♪」
「さあさあ…帝を此方によこしな」
再び伸ばされる手を
「触んないで!」
パシンと叩く詠
手を伸ばしていた男は叩かれた手を擦りながら口の端を吊り上げた
「へへへ…気の強いお嬢さんだ」
男の笑い声に釣られるように周りの兵達も声を上げていく
「帝を素直に渡せば楽にしてやるのによ~」
「殺す前にたっぷり可愛がってあげようじゃねえか?」
「そうだぜ、こんな上玉を唯斬っちまうのは勿体ねえや」
「この数で回しちゃ…俺に出番は来るのかよ?」
口々に上がる声に
「下種が!」
詠の悪態に男が舌なめずりをし
「うひょ~言うねえ」
「その強気な目がいいねえ」
「そんな怒ってないで良い声で鳴いてくれよう…があっはっはっは」
詠の体を嘗め回す様な目で見渡し、笑い出す
「帝奪還の御褒美の前に楽しませてもらおうかい?」
取り囲んでいた兵達の一人が前に出た…と
ゴト…
「はへ?」
男が最期に見たのは自分の身体…首から上を失い、倒れゆく自分の胴体
そして真っ赤な鮮血が噴水の様に男の首から噴出した
「「「な!?」」」
詠を含めたその場の誰もが驚愕の声を上げた
首を失い倒れた男を見下ろすのは
「誰だてめえ!」
「あんたは…!?」
白く輝く聖フランチェスカの制服を纏い
異様なまでに薄い、大陸の誰もが見たことのない剣を手にした青年
「天の遣い…そう言えば伝わるかな?」
刀を正面に構え、一刀が答える
「天の遣いだあ?ふざけろ!」
一刀目掛けて飛び掛る兵…だが
「あらん?オイタは駄目よん♪」
身体に浮遊感を感じた兵が見上げれば
「ば!?ばけも…」
最期まで言い終える前に
ゴキィ!!
首があらぬ方向に曲がる
「ひいい!」
その様相に一人の兵が一歩下がると
トン
背中に何かが当たって振り向けば
「ダーリンに傷は付けさせんぞ!」
「うああああ!化け物がもう一匹!?」
咄嗟に斬りかかるが
ゴキャ!
人の頭程もある拳が兵の顔面にめり込んだ
瞬く間に倒されていく兵…とうとう最後の一兵も
ドサリっ!
胴を薙ぎ払う様に斬られ…倒れた
騒然だった場内が静かになり
「何故あんたが此処にいるの?…天の遣い」
立ち尽くす詠は目の前に立つ一刀に震える声で問いかけた
「~もらうよ」
「え?」
一刀の言葉を聞き取ることなく
詠は意識を失い膝から崩れ落ちた
~虎牢関~
「これはどういうことかしら…比呂?」
城壁を伝い櫓まで駆けつけてみれば比呂が月と共に櫓から降りてくるところだった
「見てのとおりです…董卓は」
月の肩を抱き寄せ雪連との間に立つ比呂
「このまま洛陽まで我等が連行する」
比呂の宣言に雪連はふ~んと頷き
「連行することには依存は無いわ…でも『我等が』ってとこには納得がいかないわ」
南海覇王の切っ先を比呂に向け
「その子を此方によこしなさい…彼女は私達が『保護』するわ」
雪連の宣言に比呂が目を細める
「ほう…理由をお尋ねしても?」
身体を半身に引き、腰の剣に手をかけ尋ねる
「この戦は民に圧政を強いてきた高官共が彼女に追放されたことから始まった…云わば逆恨みが元にあるわ、私は戦まで嗾けたそのアホ共の首を帝に献上する…その上で彼女を私達が引き取るわ」
比呂の油断の無い構えに雪連が一歩前に出る
「帝はまだ御歳一歳にも満たない赤子だとご存知で?」
「それが何だというのかしら?」
「彼女は帝の…『母親』なのですよ」
雪連はふうっと息を吐く
「彼女を従えたまま帝に執り付こうっての?袁家の人間が考えそうな事だわ」
心底落胆したかのように肩を落としてみせる雪連
「…彼女もそれに応えてくれました」
ギュウっと比呂の袖にしがみ付く月
…なるほどね
「それでも容認するわけには行かないわ、華雄…『月』と約束したんですもの、もうひとつの月を救うって」
「え?」
声をあげたのは月
比呂は眉を顰めて此方を見据えていた…と
何処からか赤子の泣き声が聞こえる
「…なに?」
「これは?」
辺りを見渡す二人…そして
「り…劉協?」
月が泣き声の主に気づき
「帝は袁家にも孫呉にも渡さない…曹魏がその身を預かる」
いつから
何処からそこに居たのか
三人の目の前に北郷一刀が立っていた
「天の…遣い」
まったく気配の無いところから急に現れた青年に呆気にとられる雪連
そして
「…!?」
「詠ちゃん!?」
一刀の足元に横たわる詠を見て月が悲鳴をあげる
「何故貴様が此処に居る?」
半泣きになり詠の下へ駆け寄る月を他所に一刀を睨みつける比呂
「帝と賈詡文和を華淋に届けるためさ」
そう…これがこの戦いの結末
そして『三国志』の新たなる幕開けなんだ
あとがき
此処までお読み頂き有難う御座います
ねこじゃらしです
いよいよ董卓の乱編も最終局面
ああ、ジーク・カズトを期待していた超極一部の皆さん
残念でした。
それでは次の講釈で
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第32話です。
ようやく新生活にも慣れてきました。