『あの日、関将軍や張将軍率いる軍勢が私達のいる本陣に兵糧とともに辿り着いた時の喜びを私は生涯忘れる事はないだろう。その日のうちに粥が炊きだされ、私達は腹いっぱい飯を食べ、久しぶりに安らかな眠りに就いた(といっても夜の見張り番に起こされたので朝までというわけにはいかなかったが)。
そして―――』
魏漢軍に従軍した一兵士の日記より抜粋。
華琳達魏漢軍の首脳を悩ませていた遊撃部隊が破られ、合肥から霞率いる救援部隊及び兵糧などの物資が届いた魏漢軍の士気は天を突かんばかりに高揚していた。
魏漢軍が勢力を回復させた事を好機と踏んだ桂花が、仲軍徐州方面軍・紀霊の軍に調略を仕掛けて内紛を起こさせたのだ。結果的に紀霊の首が反乱軍の手によって挙がり、徐州軍は降伏。徐州は呉と再び和睦したことで合肥の守りを薄くする事が出来た曹真が引き揚げて守り、さらに徐州を押さえられて孤立した青州方面軍の劉勲の軍も兵士たちが動揺して彼らの逃亡が相次いだことで青州方面軍は自然消滅。大将の劉勲は逃亡して姿を消した。
「よし、勝鬨を上げろ!」
そして最後の并州方面軍もこの日、春蘭率いる軍が撃破。敵将袁尚こそ逃がしたが、5万の敵軍を叩きのめした大勝利である。勝鬨を上げる自軍を尻目に春蘭は本陣に戻って書簡を睨んでいる双子の妹に声をかけた。
「どうした、秋蘭?そのような厳しい顔をして」
「姉者、敵の本隊は中々忠誠心溢れる奴らのようだぞ」
春蘭が姉によこした本陣―――華琳からの書簡によると、『天和城に籠る敵本隊10万余は将校から末端兵の一人に至るまで調略を全く受けぬ』とあり、舞人は最後の手段を講じているという。その為春蘭たちに本隊に合流するよう書かれていた。
山を利用した天然の要害―――天和城を睨む舞人の背を華琳はその瞳に恐怖の色を称えて見詰めていた。
「・・・本気、なの。それは」
「ああ。もう我慢も限界だ。これで3人だぞ―――和睦に赴いた使者が首を斬られて帰ってきたのは」
各方面軍を潰した舞人と華琳は敵軍内に調略を仕掛けると同時に和睦・降伏を求める使者を3度まで派遣したが、その寸鉄帯びぬ彼らを仲軍は処刑して首だけを送り返してきたのである。
「最後に一度だけ文で警告して、それでもう武装解除しないならもう容赦する事はない」
悪党どもが巣食う根城を睨む舞人の瞳には怒りの色が灯っていた。
「俺は世の末まで悪名を轟かせる事になるだろう。いや、俺が正義なのか悪なのかは後世の歴史家が決める事だ」
彼は華琳に向き直り、改めて告げた。
「武装解除なくば、奴らを―――大陸の平穏を乱し、無辜の民の生活を乱す連中には煉獄の如き炎を味わってもらう」
織田舞人が大陸中に悪名を轟かす『天和城焼き討ち』の攻撃命令を下す運命の日は、もうすぐそこまで迫っていた―――
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GW明けの10話です。そろそろ煉獄編も完結に向かいます。
特に書く事がないよぅ・・・