真・恋姫†無双 星と共に 第9章(華琳拠点2)
ある日のことであった。
一刀が街の警備に出て警備隊の指揮をしていると、街で春蘭に会った。
「春蘭、珍しいな。街に出るなんて……」
「珍しくて悪かったな。私が買い物に来るのがそんなに不満か?」
「買い物ねぇ……」
「何だ、その含みのある言い方は。私が買い物に来るのが、よっぽど不満なようだな」
「そうじゃないさ。市場とか最近よく回ってるからな。何か探してるなら案内できるかな……と思ってな」
「ふんっ。貴様の案内などアテになるものか」
「この間、季衣に新しく出来た屋台を紹介したら、すっげー喜ばれたけど?」
「……何……」
春蘭がわずかだが食いつく。
「そう言えば、桂花にもコッソリ営業してる無名の古本屋を教えたら、喜ばれたっけ」
「桂花も……」
とは言うものの、桂花が簡単に一刀に感謝の言葉を言うはずはない。
正直な話、感謝の言葉かどうかは微妙な所である。
「そうだ。こないだ、秋蘭が睡蓮の形をしたお菓子、買ってこなかったか?」
「おお、あれはなかなかに美味だったな。……だが、何故それを貴様が知っている」
「実はあれも、俺が秋蘭に紹介したんだよ」
「むむむむむ……」
「これでも、信用できないか?」
「……分かった。ならば、案内を頼もうではないか」
「それで今日は何を買いに来たんだ?」
「下着だ」
「………何?」
「下着だと言ったのだ」
「…………」
一刀は黙った。
「聞こえんとでも言うつもりか? 下着を買いに来たのだ、下着を!」
「大声で言うな! 周りが見てるだろ!」
「……ふん。小心者めが」
一刀は思わず頭を抱える。
「まあ、菓子や書店ならともかく、女物の下着の店を貴様に聞くのは野暮だったな。ふははははは!」
「……知ってるけどな……」
「…………何?」
春蘭は驚きのあまり、目を白くし、口を開ける。
「道を聞かれることはあるからな。どこに何があるかくらいは一通り把握してる」
「そ……そうなのか……」
「若い子によく聞かれる店もいくつか知ってるから、そこで良いなら案内するぞ?」
「あ、ああ……」
春蘭はどもりながらも一刀に案内されるが……。
「ここはダメだ」
店を見てすぐにそんな答えが出た。
「そうなのか?」
「前に来たことがあるが……半裸の筋肉達磨が踊りながら接客に出て来て、思わず叩き斬りそうになったぞ」
(半裸の筋肉達磨……まさかな……)
一刀は恐怖を思い出す。かつて前の世界で自分をおいまわして来たとてつもなく強い半裸の筋肉達磨の男を……。
「そ、そうか……」
「……ここでは買わん! 次!」
(今度星に頼んで探らせてもらうとしよう)
そして別の店に行くが……。
「ここもダメだ。ここの店員は私が何を着ても、お似合いですよとしか言わんのだ」
「本当に似合ってたんじゃないのか?」
「私が最初から着ていた下着を着て出ても、お似合いですよと言ったのだぞ?」
「それはダメだな。(俺が星の下着を買うのに付き合わされた時も似たようなことがあったな……)」
「ともかく、次だ、次に案内しろ!」
そしてまた別の店に行くが……。
「ここもダメだ。ここの生地は妙に固くて、私の肌には合わん!」
「そうか……。じゃあ、春蘭はどんなのがいいんだ?」
「なんでもいい」
(日本人的な答えを言うなよ……)
「ともかく、次だ、次!」
そして最後の店に来ると……。
「………う、む」
「どうした? 来たことがあるのか?」
「いや、無い……が……」
「ならここにしよう。入ろうか……」
「あ、ああ………」
「?」
一刀は春蘭を不審がりながらも一緒に店に入った。
「いらっしゃいませー!」
店に入って最初に言われた言葉は当然の「いらっしゃいませ」であった。
「お、おう……」
「あら、いらっしゃいませ夏侯惇様。今日はどういった物をお探しですか?」
「その……えっと……だな」
「彼女がいくつか下着を新調したいと言うから、よさそうなのを見てあげてください」
「こら北郷っ! 何を勝手に!」
「俺は春蘭がどんな下着が良いのか分からんからな」
「あらあら。それでは、彼氏の喜ぶとっておきの下着をぜひ……」
「ちょっと待て! どこの誰が彼氏などと……っ!」
春蘭が懸命に否定するが……。
「でも、殿方に真名で呼ばせるだなんて……ねぇ?」
「ねぇ?」
店員達はお互いを見て、顔をかしげる。
「ねー、じゃないっ! これには深い理由がっておいこらそこ、その紐は何だ、その紐は……っ!」
「あら、こちらは西方の職人が精魂込めて織り上げた、究極の紐下着ですわ」
それは現代で言うかなりきわどい下着である。
「そんなの下着とは言わんだろうがっ!」
「では、こちらは? さる名山で織り上げられた、秘伝織りの下着ですの」
「それはあれか! 莫迦には見えない布か何かか! 向こうの景色が透けて見えるじゃないか!」
よく言う「裸の王様」のあれのようなものである。
「さすがお目が高い。いやらしい心を持っている物には見せない布地で作られているのですわ」
「それは意味が無いだろうが!」
「ほんとに透けてるな……。どうやって作ってるんだ、これ」
「うふふ。だから、秘伝の織り方ですの。織工の秘中の秘……ですわ」
(相変わらず外史の職人の秘伝はすごいな……)
「ってお前も納得するなーーーー!」
春蘭は剣を抜こうとする。
「こら待て春蘭! そこで抜こうとするな! やめろーーーーーー!」
一刀は思わず腰に付けている銃を抜こうとすると……。
「おやめなさい!」
店内を貫く声に、皆が動きを止める。
「……まったく、どこの田舎者が騒いでいるのかと思えば……。呆れて物も言えないわ」
「か……華琳様っ!?」
そこに現れたのは華琳と秋蘭、それに永琳に光琳であった。
「それに秋蘭に永琳と光琳も……」
「あら一刀。今日は仕事だと言ってなかった?」
「これも仕事の一環だ」
「変わった仕事の一環だな」
「女性の下着を見るのも仕事ねぇ……」
「まあいいわ。それは後できっちり報告するように。……で、何? 仕事を放り出して、春蘭と買い物? 隅に置けないわね」
「だからこれも仕事だっての……」
「まあ……何となく予想はつくが……」
「ええ、春蘭の事ですもん。あらかた想像できるわね」
「あろうことかこの馬鹿者が、店員にこんな下着を勧めさせようとするのだ……!」
そして春蘭は店員が持ってきた下着を華琳達に見せる。
『…………』
華琳達はとても冷たい目で一刀を見る。
「そんな目で見るなよ……」
「あ、あまつさえ、私と北郷の事を…そ、その……だな! まったくもう、ワケが分かりませぬ!」
「それは姉者が悪い」
「それは春蘭が悪い」
「それは春蘭が悪いわね」
「それは春蘭が悪いわ」
秋蘭、永琳、光琳、華琳が同じ事を言う。
「なんですと!」
「女性物の下着を売る店に男連れで来れば、その連れはそれなりに近しい関係と考えるだろう」
「姉者。北郷が男だと……忘れているのではないか?」
「ちゃんと覚えているに決まっているだろう! こいつが男だと忘れたことなど、一度とてあるものか!」
「では言って御覧なさい。男と女で、どう違うと言うの?」
「金的を蹴れば悶絶する!」
『…………』
全員が驚きの目をする。
「な、なんだその目は!」
「否定は出来ないけど……」
「……今回ばかりは部下の無知を詫びさせて頂戴。一刀」
「もう慣れたからいいよ……」
「姉者。姉者の下着は私が選んでやるから。な? こっちへ来い」
「お? おう……?」
「華琳様。申し訳ありませんが、私は我が愚姉の面倒を見ねばならぬようです。代わりに北郷が相手をいたしますゆえ……それでご寬恕賜りたく」
「……仕方ないわね。いいわ、行って来なさい」
「姉上、私も光琳の下着選びに行こうと……」
「いいでしょう。行ってくるといいわ」
「北郷。すまんが、華琳様のお相手を頼むぞ」
「どっちにしても、ここから出るって選択肢はないんだな。俺には」
「あるわけないでしょ。しっかり私の相手をなさい。分かったわね? 一刀」
「はいはい」
一刀は相変わらず華琳は華琳だと思った。
そして華琳に連れられては一刀は店の奥に入る。
それから華琳は下着を何枚も並べさせる。
「これはあれか? 店の一部を指差して、ここからここまで頂戴、とかそう言うノリか?」
「……そんな馬鹿なお金の使い方を、誰がするの?」
「(前の世界だとしたんだけどな……。まあその時はもう華琳は魏の王じゃなかったけどな……)しないのか?」
「するわけないでしょう。ここから必要な数に絞るのよ」
「どうやるんだ?」
「……本当は、秋蘭や永琳に選んでもらおうと思ったのだけれど……」
「……なるほど……」
一刀は前に星に同じような事をやらされたので華琳が何がしたいのかが分かった。
「察しが良い子は嫌いじゃないわよ? 一刀」
そして華琳は並べられた下着から一つ取り出し、それを鏡の前まで持って、自分の体の前に合わせる。
「これはどう?」
華琳が取り上げた下着はシンプルなデザインのピンク色の下着であった。
「うーん……良いんじゃないかな?」
「そう。なら、これはそちらに」
「あ、ああ……」
合格点と思われる物の山にその下着を乗せる。
「次をよこしなさい」
一刀は華琳に次の下着を渡す。
「今度のは……」
次は結構派手な水色の下着であった。
「……イマイチだな」
「そうね。これは向こうに」
華琳は不合格点の山に重ね、また新しい下着を取る。
「じゃ、これは?」
次は黒い下着であった。
「似合ってるけど?」
「そう?」
「ああ、華琳に似合う色だと俺は思うが……」
「それはそうよね。さっきまで私が着ていた下着だもの」
「やられた……」
「ふふっ。まだ暖かいでしょう?」
一刀は少しばかり赤くなる。
「冗談よ」
「またやられた……。しかしそんな冗談、心臓に悪いからやめてくれ」
「あら。それはどういう意味かしら?」
「どうもこうないって……」
「ほら、次を渡しなさい。早く」
次に華琳が選んだものは最初のものとあんまり変わらないものだった。
「最初のとあんまり変わらない気がするが……。似合ってると思うぞ」
「……あなた、どの問いにも似合ってるよ、って言えばいいと思っていない?」
「思ってないよ。前に星の下着を選ぶ際も星の似たようなことを言われたからな……」
「星のね……」
華琳は少し不満そうな顔をするが、すぐに納得したような顔をする。
「まあ星と一緒にここに来たのだから仕方ないわね。ほら、次いくわよ」
「はいはい」
その二人の楽しそうなやり取りを遠くから見る春蘭と秋蘭。
「楽しそうだな、華琳様……」
「まったく、華琳様の事となると気が付くのだな。姉者は。……うらやましいか?」
「う、うらやましくなど……うぅ」
「うらやましいのね」
春蘭達の所に永琳と光琳が来る。
「永琳様、光琳様の下着選びは終わったのですか?」
「ああ」
「後は会計ね」
「まあ、買い物が終わればお茶の時間の一つも取れよう。だがまずは自身の下着を選ばねばな、姉者」
「うむ……。それにしても何故武人たるこの私が、こんな下着までわざわざ選んで買わねばならんのだ……おお?」
「何か良い物が見つかったか? 姉者」
「なんだ、良い物があるではないか!」
「三枚一組で……」
「「「ちょっと待てぃ!」」」
三人が思いっきり叫ぶ。
「な、何だ……?」
「それだけはやめろ! いや、むしろそれを選んだら私は姉者との縁を切る! 切らせてもらう!」
「私も友人をやめさせてもらう!」
「私だってあんたとの仲を切るわ!」
「おう……? 分かった……これはやめればいいんだな、やめれば……?」
「……はぁ。もう姉者は座っていれば良い。姉者の下着は、私が選ぼう」
「うむ……。ならば、お前に任せよう」
そして下着を選び終えて、一刀達は店を出る。
「あー、楽しかった」
「……そうだな」
「もう一件、行きましょうか」
「まだ行くのか……。仕方ない……付き合うとするか……」
そしてまた華琳の下着に付き合わされるのであった。
おまけ
作者「第9章だ」
一刀「もう第9章か」
作者「最近は他事やってるせいで執筆は遅いな。まあ何とか第18章くらいはかいたがな」
一刀「それでもまだ多いだろ」
作者「まあな。とりあえず夕方あたりにでも投稿しようとか思っている。それでは!」
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この作品は真・恋姫†無双が前作(PS2)の続編だったらという過程で作られた作品です。