彼女は腰から素早くフランベルジュを抜いた。
刀身が波打っている片手剣。
淡く不気味に彼女の手の内で光っている。
そして重厚な鎧を装備しているとは感じさせないような迅速な動きで、間合いを詰める。
返り血で薄汚れてしまった金髪が風に舞った。
直後、草原に響く轟音。
地響きさえも感じさせるその咆哮は、大きな角を二本生やした熊の中でも王たる存在の「角熊」と呼ばれる生物。
その体躯は彼女の優に三倍はあろうかという身の丈で、立ち上がった姿はまさに壁であった。
咆哮は彼女の肌をピリピリと震わせた。
ふいに角熊が突進を仕掛けてくる。
その鋭利な角を前面に突き出して大地を揺らす。
彼女は素早く横へ飛び、同時に角熊の足元へ向けてフランベルジュを薙いだ。
しかし手応えは浅く、少量の血潮が草原に散るのみであった。
振り向いた角熊はもはや突進などという安直な行動には出ずに、こちらの様子を伺い始める。
彼女は「はっ」と笑う。
そして駆け出した。
大地をえぐらんばかりの強さで踏み締めながら、それでも眼光は鋭く獲物を捉え、フランベルジュを両手で携える。
背の高い向日葵が頬を掠めた。
それでも彼女は気にも止めずにただひたすら歯を食いしばる。
並々ならぬ殺意を抱いて立ち向かってくる人間に、王たる角熊はたじろいだ。
いや、王たる存在ゆえに今まで立ち向かってくる者などいなかったのだ。
言わば初めて迎えた危機であり、初めて感じた恐怖でもあった。
角熊は自慢の右手を突進してくる彼女に目掛けて振り下ろした。
その判断は悪くない。
しかし彼女はそれを上回る速さで避け、直後に大きく跳躍した。
彼女は雄叫びとともに角熊の右肩に斬り下ろす。
深くえぐりこむ感触。
同時に角熊の狂ったような叫び。
次は反対側に素早く回り込んで足元を横に薙いだ。
辺り一帯を血が濡らす。
よろめいた角熊であったが、それでも怯まずに王たる二本の角を振り回した。
だが全ての動作は遅い。
彼女は素早く飛んで片方の角を叩き斬った。
そしてその勢いを反転させて、再び斬撃をくらわせる。
角熊は膝を折った。
同時に腹から大地を震わせる咆哮。
彼女は動じずに角熊の顔に目掛けてフランベルジュを垂直に振り下ろした。
咆哮はふつりと途絶え、角熊は大きな痙攣とともに絶命した。
それを見届けた彼女は長く息を吐いて背を向ける。
べっとりと濡れてしまった血を振り払うかのように剣を振った。
赤い半円が草原に描かれる。
そこで頬を掠めた背の高い向日葵が薙ぎ倒されている事に、彼女は気付いた。
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友人との企画により生まれた小話。
確かテーマは「闘う女性」。
しかし戦闘シーンの描写は苦手だな。