今までの人生で味わったことのない虚無感に襲われていた。
『どうでもいい』
それが今の朝霧海斗を表す状態の全てだった。
何も、そう。
何も無かったはずだ。
麗華のことが好きというのは前々から認めていることだ。
それを女性としてか人間的に好きかは別にして、オレ、朝霧海斗は二階堂麗華が好きだ。
だから、好きだからこそオレは麗華の目の前から消えた。
簡単だ。
オレが麗華のためにならないからだ。
だが、実際麗華はオレに会いにきた。
そっちもオレに好意を抱いているのか、ボディーガードとして欲しいのか、又は出会った時に言われた『二階堂麗華としての完璧な人生に傷をつけた』のか、動機は分からないにしろ麗華はオレに会いにきた。
結果、オレが好きな麗華に大事になる前に食い止めることができた。
服も脱がされていないし、汚れる前に助けることができた。
オレと麗華の関係も完全に絶つことができた。
そう。これはオレの描くシナリオ。理想的な展開のはずだ。
しかし、オレを襲う虚無感は一向に無くならない。
むしろどんどん自分自信の愚かさに悔やむ。
いや、悔やむこともできない。
ただ、どうでもいい。
本当にそれだけ。
絶望的な虚無感は、オレの持つ活力と気力を根こそぎ吸い取り続ける。
意識は無かったが、行動は取っているらしい。
気付いたらアパートに帰ってきたが、何も考えられないし、どうやって帰ってきたのかも分からない。
のそのそといつもの定位置に腰を下ろすと、目が合った。
親父の金庫を、みつけた。
海「......」
親父の、大切な金庫。
つまりは宝。
『生きるために宝を持て。オレの宝はこれだ』
この金庫を見るたびに、いつだって親父の台詞が思い出される。
どうでもいい。
どうせこれだって分からないフリはしているが実際のところ見当は付いている。
資産。
恐らく、価値が変動しない金(キン)
通貨や権利書をここの金庫に保管しているはずがないし、そもそもあの男はそういう類に興味を示さない。
欲しい時に欲しい分の小さい買い物ができれば十分なはずだし、何かの権利やカネを生み出す商品にはあの男は屈しない。
どちらにせよ価値の変動しない資産となれば、金(キン)、もしくは宝石という線が近いと見ている。
海「......」
オレは、何も考えず、
金庫を空けた。
そこには、絶望から絶望へと変化する代物が入っていた。
......は?
金庫の中から出てきたのは予想外の代物ばかりであった。
海「......は?」
オレの幼少期の写真。
母親だと思われる人物、家族三人で幸せそうに笑っている写真。
親父と母親の二人が幸せそうに笑っている写真もあれば、オレが二足歩行を始めたと思われる写真。
それを温かい眼差しで見守る両親。
見たことがない、親父の満面な笑み。
オレが親父と二人で笑い合っている写真だってある。
どれもこれもこのエリアに似つかしくないものばかり。
オレと、親父と、母親の、幸せそうな写真ばかりが、
海「......はっ」
同時に身体のどこかにあるスイッチがオンになった。
ああ、
そうか。
そうなのかよ。
絶望の種類が、変わった。
分かった。
つまり、そういうことだ。
写真をまとめた。
そこには写真以外にも色々なモノが入っていた。
アルバム、赤ん坊だった頃のオレの手形、親父のボディーガード時に着けていたと思われる勲章。へそのお、なのだろうか。とにかくその金庫には朝霧家の想い出全てが収納されていた。
オレはそれらを綺麗に重ね合わせる。
懐かしんだり、動揺することはない。
機械的に、それらの想い出の品を全てまとめる。
金庫の奥に他に無いか一旦手で感触を確かめ、覗き込む。
もう残っていないことを確認する。
よかった。
これで全てだ。
こうして並べてみると、結構な数がある。
幼少期、それも記憶に無いぐらい小さいときにこれだけのオレの写真があるということは、親バカと言ってもいい。
海「ふぅ」
頬を少しだけ緩ませ、
一度、小さく溜め息を吐いた。
それらを、綺麗に重ね合わせ、
躊躇いもなくーーー切り裂いた。
つまりこうだ。
あれだけ力に固執していた父親は、実は息子の成長を願うための理由で、本当はとても家族を愛する優しいお父さんだったんだよ、
あまり......ふざけるな。
弱い。
それはあまりにも弱い。
人を襲う、殺す、或いは人の上に立つ人間というのはそれだけの覚悟が必要だ。
だからオレはずっと自分の命を引き合いにしてその覚悟を掲げ、生きるために悪を犯してきた。
だが、親父は......いや、この金庫の持ち主は違う。
優しいお父さんだから。
息子のためだけを思った心優しい父親だから。
だからオレにこの世界の過酷さを教え、この世界で生き抜く力を与えた。
そう。
それは全て父親の愛情。
海「ふざけるなっ!」
バアアアアアアアン!
壁を力一杯叩く。
一撃で崩れた脆い壁に苛立ちながら、強く拳を握りしめた。
弱い、
弱い、
弱い!
それはあまりにも弱い!
自己の罪を、罪の道徳的責任を全て人のせいにして自分を美化し、あまつさえオレにこの宝を見るように誘導して自分自身を正当化。
そんな人間に十年以上媚びてきた自分があまりにも愚かしい!
海「......ああ、なるほど」
握った拳からは血が溢れて自分の握力で壊れそうになったが、答えが出たところでようやく力を抜いた。
自分の理想像が、少し、いや、大分見えてきた。
オレはあんな弱者とは根本が違う。
オレは強い。
誰よりも強い。
それは今まで生き抜いてきたオレが証明している。
なら、オレの道は一つ。
ーーー奪ってやる。
欲しいものは、全て奪ってやる。
責任も、罪の意識も、被害者の悲しみも、
全て背負った上で、奪ってやる。
海「確か食料は今日の夜には尽きるか......」
となれば明日の夜......否、早朝だ。
明日の早朝。
海「二階堂麗華を、誘拐する」
それが、朝霧海斗の答えだった。
ーーーーーー第九話:弱者との違い_end
次→第十話:4/19
おまけ(本編と関係ないので飛ばしてもおk)
理性「なあ、海斗ってこんなキャラだっけ?」
オレ「仕方ねーだろ! だってこうなったんだから!」
理性「こうなったっておま......一応ライターだろ? なんちゃってでもライター名乗ってんだろ?」
オレ「しょうがないだろ! そもそも海斗のキャラが不安定すぎんだよ! 平民設定なのか禁止区域の底辺設定なのか本編プレイしてても分かんねーんだよ! ファンデスクプレイした人なら底辺設定で納得してくれるって!」
理性「でもこれは流石にダークサイドすぐるだろ」
オレ「ああそうだよダークサイドすぐるよ! オレのせいじゃねーよ! そう、きっと海斗が元々ダークサイドだったんだよ......」
理性「いや、海斗の性格はもうちょっと無頓着で空っぽな感情っていうか......」
オレ「それは三人称の時の性格で、そもそも海斗は二階堂家を出て変わったんだよ! 色々苦悩しながら考えたんだお!」
理性「それに、なんか口調もぶっきらぼうから中二っぽくなってないか?」
オレ「それはほら......厳しい社会で色々と!」
理性「第一にこんな感情的じゃないだろ。誰だよコイツ。そもそも厳しい社会って何だよ。特別禁止区域に社会なんて成り立ってないだろ」
オレ「ぐ......」
理性「前提として、一人称の心理描写メインで表現描写書けないってライターとしてどうよ?」
オレ「黙れジュラル星人!」
理性「ぐああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
完 全 論 破 !
......ふう。
そもそもオレは、WEBの仕事で文を作るライターだ。
ルポだよルポ。
こいつらとはジャンルが違うんだ。
というわけでキャラ崩壊にビクビクしながら書いています。
いや、実は執筆2話目でゲーム本編アンインストールしたんでキャラ崩壊はずっと怖かったんですよ。
しょうがないだろ、だってHD80Gしかないんだから。
まあそんな感じでキャラの口調とか設定がうろ覚えなのでちょっと違和感感じたら『あ、このキャラ崩壊はSSだからなのか!』とか思ってくれれば楽勝です。嬉しいとかじゃなく、書き手としては楽勝。
そういやTINAMIで前後の作品にリンク貼ったりインスパイア元で前の作品とか書いたがあれって需要あんのかな?
いや、利便性高めるという意味ではいいだろう。
それよりも問題はサムネだな。
ちょっと力入れて作ったはいいけど新着で見えないし、そもそもサイズ的に文字が見えにくいし......最悪じゃん。
暁の護衛新作発売まで時間が無いので次回から更新が早まります。
一応誤字脱字は見直すが......まあ多分大丈夫でしょう。
次→第十話:オレが惚れた女_4/19うp
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悪が罪の意識、責任を背負い、それでも悪を繰り返すならば、それは正義と呼べなくても確固たる信念を持ち合わせている悪である。
次へ→第十話『オレが惚れた女』:http://www.tinami.com/view/137252
前へ→第八話『朝霧海斗』:http://www.tinami.com/view/136297
最初→第一話『たられば』:http://www.tinami.com/view/130120