No.136297

暁の護衛二階堂麗華アナザーストーリー〜第八話:朝霧海斗〜

誰だって子どもの持つマシンガンには勝てない。
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最初→第一話『たられば』:http://www.tinami.com/view/130120

2010-04-14 00:20:37 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:14399   閲覧ユーザー数:13895

目の前に、麗華がいる。

『たられば』の話しじゃない。

 

事実。

 

妄想や願望でなく、これはあくまで現実の光景。

どういう経緯があったのか分からないが、麗華は今、オレの目の前にいた。

「おい、誰だよお前」

「こいつはオレ達の獲物だぜ。まあ終わったら条件次第でマワしてやるよ」

動けなかった。

動けない。

目の前で起こっている事実を、それでも事実として容認することができない。

まるでこの光景を朝霧海斗の一人称ではなく、空からこの光景を眺める三人称のような、

ただ、現実味が全く、

全く感じられなかった。

 

怒り、絶望、悔しさ、後悔。

 

オレが自分自身、もしこういう状況に遭遇したら、浮かんでくるであろうと予測される負の感情。

だが今はそんな感情は一切浮かんでこない。

ただ、こんな絶望的な状況を目の当たりにしても、敵を睨みつける麗華が、

 

ただ美しいとだけ思った。

 

綺麗だ。

 

我が儘で、人よりも優れなければならない麗華。

二階堂家の長女というプライドなのか。

いや、それもそもそも彼女からすれば後付けかもしれない。

彼女はただ、どんな状況下でも自分の思い通りにならないと敵に噛み付く強さを持っている。

仮にそれが自分よりも強大な敵だとしても、絶対に彼女は媚びることをしない。

 

赤い瞳の、怒りの炎。

 

ふと、その光が消えた。

 

オレと目が合った。

 

麗「......海斗!」

 

名前を呼んだ。

それも、とても嬉しそうに。

希望と喜びと、幸せな感情を膨らませて読んだたった三文字の名前。

 

オレの中で何かがハジけて、オレの時間軸が現実に戻った。

理性ではこうだ。

麗華と一緒にいると、麗華にとって不都合が生じる。

それは当然オレがこちら側の人間というのが最大の理由だ。

だからオレを諦めさせる、オレがいない非日常を日常に変えてしまえばいい。

 

だが麗華を目の前にした今、そんな考え、理性はどこかに消えてしまった。

 

今度はオレの中に大きな怒りの炎が生まれた。

生きるために人を殺してきた。

それを肯定するわけでも悔やむことでもないが、人を殺す行為を行うサディズムはオレには備わっていない。

ただ、

この瞬間、

 

海「......ゴミが」

 

初めて本気で人を殺したいという欲求が生まれた。

それはゆっくりと、それでいて全てを飲み込む灼熱の炎。

 

一番近くにいる男の首に、指を刺した。

胸鎖乳突筋と喉を同時に潰し、声をあげることができず男は地面にひれ伏した。

一人目。

 

まだ事態に気付いていないのか、麗華を遠くから眺めている男のアゴと髪の毛をわしづかみにして、天地を反転させる。

こちらも同様。

声をあげさせない。

二人目。

 

ここで変化にようやく気付いたのか、視線が麗華からオレに振り返った。同時に、頬に拳が届く。肉をプチプチと潰す感覚を指で感じながらると、首と頭が乖離される一瞬、つまりは首が首としての機能を失った手応えを確かに感じた。

三人目。

 

「あ、朝ぎ......がっ!」

オレの存在に気付いたゴミがうるさいので、目を潰した。こいつより、麗華に馬乗りをしている男を優先させた。こいつだけは麗華の顔を眺めながら笑っていたので、その顔が許せなかった。横から大きく、それでいて素早くサッカーボールキックを食らわし、大きな弧を描きながら足を振り抜く。本気で蹴り飛ばしたが、辛うじて首が繋がっているのが少し気分が削がれた。

四人目。

 

「ああ、目が、ああああ! オレの目が!」

状態が前かがみで目から流れる血液を気にしていたので、そこにアッパーを打ち込んだ。

10キロ前後の頭部にそれ以上の重さを感じながら振り抜いたスウィングは、確実に人間を破壊した手応えだった。

二転、三転して俯せの状態で痙攣をしていた。

海「ほら」

その頭部に、1メートル以上跳躍し、60キロ以上の体重全てが男の頭部を破壊した。

着地地点はまるでトマトを思い切り潰したように、オレに以外の周囲に血痕を巻散らかすゴミだ。

 

これで全員。

 

最後の男を除いたとして、一人一撃で殺したので時間は30秒とかかっていないだろう。

 

誰だって子どもの持つマシンガンには適わない。

 

それは節理だ。

この世界、弱肉強食の世界の節理だ。

数、武器、権力、兵器。

あらゆる方法で人は人以上の存在になし得ることができ、それを手に入れた人物には誰も抗えない。

オレはその節理に反する力を持った唯一無二の存在。

 

麗「かい...と?」

 

ーーーそう、オレは朝霧海斗だ。

再び名前を呼ばれて、初めて麗華に振り返る。

海「......」

 

会わないべきだとか、ここに来たことを追求するようなこととか、そういう理屈の前に好きという気持ちが前面に出ていた。

海「......よお」

照れくさい。

振り返ったはいいものの、視線を合わせることもできない。

杏子と一緒にいた時も、こういう感情を持ったことはない。

海「その...なんだ、結構...久しぶりだな」

倒れている麗華に向けて手を差しのばす。

麗「っひ、」

 

ーーーだよな。

 

麗華は、オレを恐怖していた。

 

先程の、強い炎を纏った意思は見られない。

ただ自分の命を脅かす存在、オレに恐怖をし、後ずさるだけだ。

 

麗「あ、」

魔獣を目の前に、麗華は逃げ出した。

 

当然だ。

 

目の前に人が次々と死んでいく光景を向こうの人間が、いや、そんなバケモノを目の前にして平常を保てるわけがない。

 

ーーーそうだよな。

 

オレに会いに来て、

そしてオレに恐怖して、

 

ーーーそう、なるんだよな。

 

二階堂麗華は禁止区域から去っていった。

 

涙は出なかった。

寂しくは...いや、寂しいな。

だが、オレは間違っていない。

少なくともこの結末をずっと望んだ。

ならしょうがない。

 

残骸のこの禁止区域の地で、殺人者は誰もいない場所で別れを告げた。

「じゃあな、プリンシバル」

 

......最後ぐらいは、ボディーガードらしかったか?

 

 

 

 

ーーーーーー第八話:朝霧海斗_end

 

次→第九話:弱者との違い_4/18うp

『おまけ』(本編と関係ないのでしかとしてもおk)

 

前回投稿した自分の作品に誤字脱字が無いか確認してたんだけど、文字数が極端に少ないなぁおい。

こんなところで駄文書く暇があったら本編書けよゴラ。

......自演乙。

 

にしても、どうも表現描写って難しいっすね。

マジんっぱねぇっすよ。

表現描写んっぱねぇよ(←『んっぱねぇ』をマイブームに登録)

 

心理描写と一人称、それと構成は得意だけど、こうした表現描写が必要な箇所はどうしても書きにくいんだよね〜。

頭の中で思い描いたイメージが「こ、この文で本当にオレの頭の中にあるかっこよさが伝わるのか!?」みたいな不安でいっぱいで。

特に戦闘シーンの表現描写ってのは作品を左右させるから適当な完成度じゃすまないし。

 

あと表現描写だけじゃなくてネーミングセンスと企画は苦手だからSSってその意味ではけっこう自分に向いてるかも。

面白い、面白くないは見てくれる人が決めることとして、書いてて手が止まることはないし、それでいてある程度満足して書けてるし。

もちろん書き手としては『つまらない』と言われるのが怖いので書くからには面白いと思って貰えるものを見せているつもりだが......まだまだ理想には追いつかないかな?

 

今更ですがコメントをもう少しほし〜な〜とか思っちゃったりします(←なんか申し訳ないのでやや遠慮気味)

つまらないならつまらないでどういう展開がいいのか? どこの表現が気になるかなどご指摘を頂けると有り難いです。

ま、......まあキャラ崩壊だけはボクのせいじゃないんだ。

......うん。そうだ。きっとそうだ。

ボクのせいじゃないんだ!

きっと!

次→第九話:弱者との違い_4/18うp

 

 


 
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