異伝・恋姫 3章 虎牢関の戦い-5
「細作からの報告を聞かせて」
「はっ、未だ遠方に陣をとる袁家率いる大軍5万。その勢力衰えを知らず、そのまま前進。あと7日ほどで虎牢関に着くとのことです」
「……5万、か…」
自室にて、放っていた細作の知らせを聞きながら、詠は俯き、部下に見られぬよう苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。
それは、自らが想定していた悪夢の再現であった。
虎牢関・前編
「……以上が、ボクたちのおかれている状況よ」
詠の話を聞いた董卓軍の面々は一言も口を開かなかった。…いや、開けなかった。
5万対2万。
戦争では、数はそのまま力となる。これはどこの世界でも全く同じことだ。
ここで、霞が気づいたように詠に聞いた
「な、なぁ、それでもこっちは篭城戦が基本なんやろ?籠城戦はだいたい相手が3倍の戦力がないと落ちひんゆうやん。だから大丈夫とちゃうん?」
「……こっちは守りに適さない武将が多すぎる。しかも、それは相手が同じような強さの時ね。さらに、何もかもが想定通りで」
すかさず華雄が続く
「同じような強さではないと?私達の隊は精鋭ぞろいだ!これ以上の隊が一体どこにいると言うのだ!」
「……袁家の隊は数は多いけれど、質はたいしたことないわ。問題は……」
ここで、今まで沈黙を保っていた一刀が口を開く
「曹操と、孫策、だろ」
その瞬間、再び、部屋を静寂が襲う。
曹操、孫策。
三国志で耳にしないことは無いとも言える英雄中の英雄である。他にも劉備なども挙げられるが、個々の能力ではこの二人に追随することはできない。一刀も虎牢関の戦い自体はあまり記憶に残っていないが、英傑がそろう戦いであることは認知している。
「……えぇ、曹の旗と、袁術の旗の中に赤い服の兵士がいることが確認されたわ」
重すぎるほどの静寂。それほどまでにこの2つの力は脅威であった。しかし、その静寂を破るように
「……負けられへんのや」
霞が唸る。続くように詠も
「ええ。幸いにも後7日もあるわ。策ならいくらでも立てようがある。……勝ちに行くわよ」
その言葉と共に先程の静寂を振り飛ばした。
その後、定例の会議が終わり、みんなが部屋から退場していった。そして、残っているのは先程から口数少なく佇んでいた一刀と、詠だけになった。
「…………」
「…………」
二人は何を言おうともせず、静かに佇んでいる。
やがて、
「……なぁ」
一刀が口を開いた。
「………なによ」
詠が促すと、一刀は辛い何かを耐えるような顔で
「…どこまでが、本当だ?」
とだけ口にした。
詠は、はっと顔を上げると、伝染したかのように顔を歪め、
「………1万5000対5万」
搾り出すように口にした。
「………そうか」
「……なんで怒らないの」
恐らく、嘘をついたことに対してだろう。詠は怯えるように顔を向けると、
ふわっ
一刀が詠の頭を撫でていた。
「俺は詠を信じている」
呆気にとられる詠をまっすぐに見つめ、一刀はそう口にした。
「詠が勝てるというならば勝てる。策が献上できるというのなら期待している。……そして」
そこで、一度呼吸をおいて
「力を貸して欲しいと言うのなら友の為に全力で力を貸す」
静かに、しかし力強くそういったのだった。
……虎牢関の戦いまで、あと7日
……一刀にはボクが策を練っている間に月の周りを調査して欲しいの……
あの後、詠が一刀にそういった。
本来ならば、詠以外の人間が、しかも男が月の周りにいることを容認する事自体詠からするとありえないのだが、そうとは知らず、その翌日に一刀は身辺調査をしているのであった。
詠が言うには、今、洛陽では袁家に内通している者がいるらしい。そいつが、最悪、月を生贄にして、袁家に降伏をするという話が出ているようだ。
(やっぱり、どこの世界にもクズは存在するのか)
今更わかりきっていた事を再確認させられた感じがし、一刀は微妙に不機嫌になっていた。
「……ここか」
そこは、文官が務めている執務室の奥にある一室。
「影の消失(ロスト・オブ・シャドウ)」
気配を消す魔術を発動し、部屋を調べてみる。
すると、気配を消している為か、部屋の奥から遠慮のない下卑た笑い声とともに複数の男の声が聞こえてきた。
(…ビンゴ、かな)
???side
「もうすぐだ!もうすぐ儂らが天に導かれる時がくるのだ!」
「あの忌々しい董卓も、その下におる賈詡めも一網打尽にしてくれるわ」
「あやつら、儂らを『無能』だなどといいおって!!今から儂らの恐ろしさを思い知るがいい」
「董卓の周りを儂らの部下で囲み、袁紹が攻めて、混乱した時に実権を握ってやるわ」
「…となるとアレですな。あの傀儡であった董卓はもう用済みですな」
「あぁ、アレは袁紹にでもくれてやる」
「「ハッハッハッ、笑いが止まらぬわ!!」」
「面白そうだな、俺にも聴かせてくれないか」
Side out…
なんていうか、ここまであからさまにいってくれるとむしろ呆れてこっちが笑いたくなってしまう。
先程から2人の文官の話を聞いていた一刀は頭痛をこらえるように額に手をやった。
(さて、俺も仕事をしますか)
「面白そうだな、俺にも聴かせてくれないか(さっきまでずっと聴いていたがな)」
いきなりの声に2人の文官は慌てて椅子から転げ落ちた。
「き、貴様!どこから出てきおった!?」
「どこもなにも、普通に入り口から入ってきたが?」
「なんだと!?入り口は儂らが出入を禁じていたはずだ!!」
「まぁ、いいじゃないかそんなこと…それより、先程から可笑しそうに笑っていたな。一体どんな話があるんだ?聴かせてくれよ」
一刀はそういうと、不敵な笑みを浮かべて腕を組み、さらに続ける。
「2人の文官が董卓を謀り、洛陽を支配しようって話だっけか?ほら、続きをどうぞ」
「「!!!」」
文官の顔が強張る。そして、すかさず大声で叫び始めた。
「皆の者!であえ!!ここに董卓虐殺を目論む反逆者がいるぞ!!直ちにこやつをひったてい!!!」
そういうと、今度は一刀に嫌らしい笑みを向ける。
「ふん、貴様が誰かは知らんが儂らはここでは最高官でもある。故に儂らが貴様を『反逆者』と言えば反逆者になるんじゃ。バカめが、無謀な正義心が貴様を殺すのだ」
一刀は何も答えない。
すると、部屋に30人ほどの兵士がやってきた。皆、手には槍や剣など、得物が握られている。
「……まぁ、こんなものか」
ここで、一刀が口を開いた。
「さて、いいことを教えてやるよ。今日はな、俺が無理をいって詠にいろいろと細工させてもらった。例えば、今日はどんなに緊急な件があっても今日一日は兵を休ませるとかな、…これからが忙しくなるんだ。今日くらいは休んでもらいたいだろう?…そして、この宣伝をしたときに正式な董卓軍の兵士には羽飾りをしてもらったんだ。……さて、そこにいる兵士はなんでそれをしてないんだろうな?」
ここで初めて文官の表情が歪む。
「答えは簡単。こいつらは誰かさんの私兵ってわけだ……奸計を円滑に実行するためのな」
「だ、だからどうしたと言うのだ!!いまここには30人の兵がおるのだぞ!貴様一人で何が出来るというのだ!!」
「まぁまぁ、そんなに焦んなよ。…どうせすぐに分かるんだからな」
一刀がそういうと、おもむろに腕を動かした。
すると、脇にいた兵士の体が突如何かに絡め取られたかのように倒れ伏した。
さらに、一刀が腕を振るうたび、兵士が倒れ伏していく。気づいたときには5人もの兵士が床に倒されていた。
「…これが限界か。…さぁ、どうだい?これで25対1になったぞ?」
「貴様!さては妖かしの類か!!ええい!皆の者!どのような手を使おうが構わん!こやつを殺してしまえ!!」
「やれやれ、『殺してしまえ』か。なんとも物騒なことをいうな」
そう言いながら、迫ってくる兵士に対して型を構えた。
「…はぁ!……これで10人目!!」
今、一刀は部屋の入口を背に大立ち回りをしていた。
入り口を背にしているのは、文官が逃げないようにするためだが、いかんせん兵士の数が数であり、また、一刀は相手を油断させるため丸腰であった。
それでも、もうすでに部屋には15人もの兵士が横たわっていた。兵士自体も部屋の中で得物を振り回すと味方に当ててしまう危険があるため、うまく振ることが出来ない。一刀があえて部屋で立ち回りをしているのはこの状況を見越してであった。
「……!!この……!!」
だが、一刀の体力も減ってきている。文官に注意を払いながらの戦闘である。次々に襲いかかってくる兵士を殴り、いなし、棒手裏剣で牽制、束縛する。ありとあらゆる戦術を駆使し相手を無力化することだけ念頭に置き、立ち回る。
……また3人を気絶させた。
武器を振り上げた兵士の腕に棒手裏剣を突き刺し、自由を奪う。
その隙に突出してきた兵士のこめかみに回し蹴りを繰り出す。
「………くっ!!!」
疲労により緊張が緩んでしまい、手に持っていた棒手裏剣が兵士の頭に向かってしまう。
「はぁぁ!!!」
それを気合で振り切り、相手の頬を引っかき、その反動を使い引き戻すように肘で後頭部を強打する。
「これで、終わりだぁ!!!」
相手の肩を踵で砕き、そのまま、最後の向かい側にいる兵士の鳩尾に掌底を叩き込んだ。
「……はぁ、はぁ、…ん、はぁ」
必死に息を整える一刀。
周りは、はたから見たら死屍累々の光景にも見える有様であった。
30人もいた兵士は折り重なるように部屋中に倒れ伏し、文官はその光景に恐怖で震え、立ち上がることも出来ない状態であった。
「…はぁ、これ、で、証明できた、はぁ、な……」
そういうと、震えている文官に近づいていく一刀。
ひぃっ、と声をすくませる文官達の襟を片手ずつつかみ自分の顔の高さまで持ち上げ、
「俺の仲間に手を出したら、この程度じゃすまねぇぞ………!!!」
その啖呵で文官達は気を失い、一刀も遅れてやってくるであろう近衛兵達に任せるようにその場を後にするのであった。
所変わって、月は執務室でお茶の用意をしていた。
本来は、そのような仕事は侍従の人が行うのだが、あいにく今日は月ひとりしかいなかった。
…いや、用意しているお茶は2つなので一人で飲むわけではないようだ。
「……♪」
鼻歌交じりにお茶を入れていると、誰かが、バタン!と大きな音を立てて扉を開けて入ってきた。
「へぅっ!!」
その音にびっくりして思わず入れ物を落としそうになるが、かろうじて持ち直す。
ここでやっと、扉を開けて入ってきた者へ注意を向けることができた。
「……詠ちゃん?」
そこには、肩で息をしながらも、一目で不機嫌だとわかる詠の姿があった。
基本的に詠は短気だが、思慮深くもある。まぁ、軍師なのだから当然だ。その詠が、ここまで怒りをあらわにするなんて珍しいといえば珍しかった。
「……月、………あ」
と、ここで詠も月に気づいたようだった。さらに少しお茶が零れている机にも気づき、
「ご、ごめん月!!突然大きな音出しちゃって…」
と、慌てて謝った。
詠の周りが先程よりも若干明るくなった気がし、月はそれに気づくと、少し微笑んで
「大丈夫だよ詠ちゃん。これはちょっと前にこぼしたやつだから、詠ちゃんのせいじゃないよ。…それより、どうしたの?」
と、今度は心配そうに詠を見つめた。その瞳は、『詠ちゃんがここまで怒るなんて珍しいね?』といっているようだった。
と、詠はしばらくこめかみを指先で叩き、考えこむような仕草をした。恐らく話していいのか悩んでいるのだろう。
無理に話さなくてもいいよ、と月が詠に言おうとしたとき、詠が話し始めたのであった。
「ちょっと、一刀に頼みごとをしたのよ……」
その言葉に、今度は月が絶句した。
あんなに男の人が嫌いだった詠ちゃんが…
なんで嫌っているか分からないが(理由:月が無防備だから)詠ちゃんは男の人が苦手らしい。また、あまり自分から友達を作ろうともしないので少し心配していた。
そんな詠ちゃんが男の人、それも一刀さんに頼みごとなんて…
なんだか分からないが、胸に、ささった
「……どうしたの?月」
月がぼぉっとしていたことが気にかかったのか、不思議そうに聞いてきた。
「…!ううん、何でもないの。ごめん詠ちゃん、ちょっとぼおっとしてたからもう一回最初からお願いしていい?」
月がそういうと、詠は「月が大丈夫って言うならいいけど…」となおも心配そうにしながらも最初から語り始めた。
詠は廊下を走っていた。
それというのも、先程、衛兵から、一刀からの伝言を聞いたからである。
『月にかかった暗雲は払ってやったぞ』
最初に聞いたときは「何なの?」と不思議に思ったが、すぐにピンときた。
(アイツへの頼みごとは極秘扱いだからこういうふうに言ったのね。それにしても解決が早すぎない…?…まぁ、できるだけ早くして欲しかったけれどさ)
そんなことを考えている間に衛兵が続ける。
「それにしても北郷様はすごいお方ですね。逆賊ども30人を相手に武器も持たず、そのまま倒してしまうのですから、まさに豪傑とでも言えるお方。尊敬してしまいます」
「………ちょっと待って、どういうこと?」
「ええ、ですから、北郷様はとても尊敬できるお方で…「違うわよ!その前に言ってたこと!!」…30人もの逆賊を相手にしたということですか?」
「そうよ!!……あっのバカ……!!」
そういいながら詠は一刀の部屋へ走っていった。
そして今の状況である。
(いくらなんでも無茶しすぎなのよ!!)
一刀の部屋の前まで休みなしで走りきり、扉を開け放つ。
すると、一刀は執務用の席についてお菓子を食べていた。
「おー、詠じゃないか、どうs「バカなのアンタバッカじゃないの!!!」…」
いきなりの剣幕に一刀が呆然とする。…と、一刀は何かに気づいたようにはっとし
「こ、このお菓子は俺の自費で作ったんだからな!?別に持ってきたわけじゃ「……いっぺん死んでみる…!?」…違うのか」
「あっれぇ、おっかしいなぁ」などと言いながら、しきりに首をかしげている一刀を見て内心ほっとする詠。
(…ってなんでボクがコイツの心配しないといけないのよ!!?)
先程とは違った意味でエキサイティングする詠。
と、ここで一刀が、
「そういや、なんであんな剣幕で飛び込んできたんだ?」
「うっさいわよアンタに関係ないでしょ!?」
「………関係ないのか!?」
「あるに決まってんでしょバカなの!?」
「………」
ここで、一刀の目が点になる。
流石に支離滅裂だったことに詠が気づき、
「…さっき衛兵から報告聞いてきたのよ…」
とため息をつきながら言ってきた。
「……勝手に捕まえちゃ不味かったか…?」
そういう一刀を無視して近づき、一刀の胸ぐらを両手でつかむ。
動揺する一刀に
「…もっと自分を大切にしなさいよ…バカ…」
と、絞り出したような声で言った。
その一言で、詠が血相を変えてきた理由を悟った一刀。
「アンタが強いのはわかってるわよ…でも、無敵じゃないでしょ?丸腰で立ち向かうなんて無謀よ…」
そう言いながらも、胸ぐらをつかんでいる腕は少し震えていた。
「…ごめんな」
一刀がそういうと、とたんに詠は距離をとり、
「べ、別にアンタの心配をしてるわけじゃないわ!!単にボクはこの後の戦いに使う駒を無駄に失いたくないだけなんだから!!勘違いしてるんじゃないわよバカずと!!!」
と、勢い良くまくし立てた。それに一刀は苦笑いしながら
「…はは、まぁ、無理をしたのは認めるし、今考えるともうちょっとやり様があったかもしれないな」
と言って詠の頭にポンポンと手をのせる。その仕草に恥ずかしさ半分で食って掛かろうとするが、
「…でも、今度また、同じ様になったときも、俺は同じ様に突っ走るだろうな」
「…アンタ……!!」
詠が憤激することがわかっていたのだろう。一刀はささっと入り口に身を翻し、
「そこにあるお菓子は食べていいから!じゃ、な。あんまり根詰めるなよ」
と言いながら部屋を後にするのであった。
「ちょ、ちょっと………。はぁ、全くもう…ボクの言う事全然聞いてくれないんだから…」
そういいながら、詠は机の上にある焼き菓子を見てみる。
見たことないものだ。先程、一刀は『買った』ではなく『作った』と言っていたのだからきっとその通りなのであろう。
手にとって眺めてみる。
まあるい外形と、ほんのり香る甘い匂いの菓子である。意を決してかじってみると
「……甘い」
そんなにまで甘ったるい訳ではないが、ここまで慣れない運動をしてきたからだろう、口の中にとても心地よい甘さが広がった。
それでも、素直に美味しいと言えない詠は、一かじりするごとに「…甘い、甘い」と言いながら、焼き菓子を口に運ぶのであった。
「……んで、そのお菓子がこれなんだけど」
といって、袋を出す詠。
「……も、持ってきたんだね、詠ちゃん…」
若干引き笑いをする月。
「だ、だって、アイツには勿体無いし、意外と美味しかったし、やるって言ってたし……」
と尻すぼみながらも言い訳をする詠。
「ま、まぁ、これからお茶にするんだから、丁度いいじゃない。ほら、月も食べてみて。見たこと無いでしょ?」
そう言って、誤魔化しながら目の前に広げる。
「そ、そうだね。じゃあ私も貰おうかな………ん、……美味しい…!」
焼き菓子を一欠片口に含み、月の顔がほころぶ、
「でしょ?……アイツ、お菓子も作れるんだ……」
詠もお菓子を口に含み、少し表情を緩ませる。そこには、美味しさ以外の感情があるような気がし、
「詠ちゃん…てさ、か、一刀さんのこと、好きなの……?」
と、思わず聞いてしまった。
途端、
「ぶふぅっ」
口にしていたお茶を吹き出す詠。
「な、なんでボクがあんなヤツのことを……!!」
そう言って月の方を見ると、月は笑いながらも、目が真剣な色をしていて、思わず、
「…き、嫌いじゃ、ない、かも………」
と、もごもごしながら言ってしまった。
「…ふふ、そうなんだ」
「でも、好きでもないからね!?だいたいなんでボクがあんなヤツのことを好きにならなきゃいけないのよ」
「…でも、好きだったら嬉しいな」
「なんでよ!?」
月のあまりに意外な発言に詠が動揺すると
「だって、好きな人は二人とも一緒の方がいいんだもん」
……スキナヒトハフタリトモイッショノホウガイインダモン???
「……はぁぁ!?も、もしかして月、アイツが好きなの!?」
そういうと、月は少し頬を染めて、
「へぅぅ」
両手を頬に添えていやんいやんしていた。
「…………(ワナワナワナ)」
と、先程まで喋っていた詠が突然黙り込み、
「待ってて、ちょっとアイツ殺してくるから☆」
と、とってもいい笑顔で言いながら席を立った。
「ちょ、ちょっと詠ちゃん!」
慌てて月が詠の腕をとる。
「止めないで月!一回だけ、一回だけでいいからアイツ殺させてぇ!!」
と、言いながらもなお詠は出ていこうとする。
(一回だけなら…)
と月は思うも、
「い、一回殺しちゃったらだめだよ!詠ちゃんっ!」
考えてみたら、一回殺しちゃったら二回目はないことに気づきなおも止める。
この二人の奇行は、先程の疲れが取れきれていない詠が音を上げたことで終わるのであった。
あれから、月と詠は、静かにお茶を飲んでいた。静かと言っても他愛のない世間話などを交えた、穏やかなお茶会と言うことである。
二人ともさっきの奇行は恥ずかしいらしく、お互いに触れていない。それを隠すかのように静かにお茶を飲んでいた。
と、月がつぶやいた。
「一刀さん、いつまでいてくれるのかな……」
そのつぶやきは、小さいながらも詠の耳にも届いた。
「わからないよ。少なくともこの戦い中はいなくはならないと思うんだけど…ボクは一刀じゃないから」
「でも…」と詠は続ける。
「多分……アイツはいなくなっちゃうと思う」
その言葉に、月は震えた。それを見た詠は
「べ、別に月が嫌って訳じゃないわよ!?そうじゃなくて………アイツはまだ飛びたがってる」
「…飛びたがって?」
「うん。よくわからないけど…ね。それに、もともとアイツはここに志願してきた訳じゃないし、ホントはこんなに長く留まる気はなかったみたいだから…」
「………」
「そ、それでも、まだまだ先のことだと思うから………」
「…そうだね、うん、そうだ」
「月?」
「少なくともまだここにいてくれる。先のことなんか話していてもしょうがない。今できることをやればいい」
「月……」
「一刀さんだったらこういうと思うの。だから…私も立ち止まらない。一刀さんが私を信頼してくれるかぎり私は頑張る、頑張れる」
「もちろん詠ちゃんの応援も必要だよ?」
そう言っておどける月の表情にはちょっと前には無かった『強さ』があった。
(…やっぱりムカつくわ、北郷一刀…)
そう思いながらも、詠は一刀に感謝すらしていた
(ボクや月、それに董卓軍みんなに刺激を与える…か)
(まるで天の御使い、みたい…ね)
そう思い、バカバカしいと鼻で笑いながらも「意外とあってるかもね……アイツ変だし」とつぶやく詠であった。
おまけ
「なぁ、詠」
「なに、バカずと」
「…それ結構ひどくね?」
「バカにはお似合いよ」
「ちょい真面目な話しがしたい」
「…なによ」
「ちょっと俺のところに、地学の学者と、土木の工事ができる人間を貸してくれないか?」
「…何に使うの?すごい嫌な予感がするけど…」
「はっはっは、相変わらずツン子ちゃんだな詠は」
「はぁ!?なによツン子ちゃんて!?しかも理由になってないし!!」
「まぁ、落ち着け、…あれだ。どうしてもこの戦い、不利な状況になる。だから俺の方でもいろいろと細工したいんだ。…主に扉あたりでな」
「……勝算は」
「失敗したら戦いが終わった後それから7日間昼飯おごってやる」
「…微妙ね」
「なんや、おもしろそうやん」
「「霞?」」
「それはもちろん私たちの分も入っているのだろう?」
「華雄も…」
「……ええい、いいとも!この作戦、絶対失敗しないからな!!やってやんよ!」
「……全く、しょうがないわね。いいわ、今日中に手配しておくわ、多分明日には使えると思う」
「あ、あぁ。ありがとうな」
「でもただでさえ少ない人員を回すんだから、成功しないと承知しないわよ?」
「まかせろい」
………そうして、一刀くんの陰謀が始まったとさ……
あとがき
拠点地獄(?)から脱出
ヒャッハー!!と思い書きました虎牢関・前編。これから中編、後編と書きたいと思います。だいたい話は考えているのであとはプロットだけになっている感じです。
…しかし、これから学校が始まるんですよね…書けるかなぁ。
そんなこんなで書きました3-5。まだどの陣営に着くかは決まってません(泣)
…しかし、虎牢関の戦いが終わってからの陣営はほぼ決まっている状態です。
今回の話では、主に月、詠の話に重点を置きました。次は、武闘派将軍たちのお話にするつもりです。また、おまけですが、これはちゃんと伏線として貼っておきたいけど、話をかませるのが難しかったのでおまけと致しました。ちゃんと本編に影響します。ホントです。…多分、そんな気が、すると思います。
例によって誤字・脱字報告、アドバイス等お待ちいたしております。…ただ、批判はオブラートに包んでいただけると嬉しいです。ごめんなさいマインド弱いんです私許してください。
長くなりましたが、ここまでこんな駄文にお付き合いしてくださった皆様に抱え切れないほどの感謝の意を。
追伸、お気に入り登録150人突破いたしました。皆様本当にどうもありがとうございます。
ではでは次回また会いましょう。ほっち~でした。
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できるだけ早く更新したつもりがやっぱり遅いですね…私。まだまだ拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいです。では、異伝・恋姫3-5、どうぞ読んでいってください。