異伝・恋姫 3章 虎牢関の戦い-4
強さの意味
その日、北郷一刀は休暇をどのように過ごすか悩んでいた。
董卓軍の客将になってからは本当に時間が早く過ぎていき、まともな休暇を取ることができなかった。
最近になって、やっと自分の隊もある一点に特化した形で調練をする方針もあり、やっと形になってきたところであった。
そこでわいた休日。そんな本来ならば喜べる状況に北郷一刀は参っていた。
「…どう過ごしていいのかわからん…!!」
いままで兵の調練や事務作業、その他もろもろで忙殺され、「休みもらったら絶対に寝倒してやる!」と躍起になっていたのだが、いざ休日をもらうと、それがひどく勿体無く感じてしまい、行動に移せない、という状態であった。
「………町にでも出てみるか」
結局、ほとんど目的も見いだせないまま、とりあえず外出を決める。
「あー、誰かに言っといた方がいいんだろうか」
言ったら言ったで絶対他に用事押し付けられるんだろうなぁと、ため息をつきながら一刀は自室を出たのであった。
部屋を出て廊下をしばらく歩いていると、見ない顔を発見した。
豪華では無いものの、清潔感あふれるきれいな服を来た少女であった。
淡い紫色の髪の影響か、儚げなイメージが似合う、可愛い少女である。一刀は思わず彼女を見て、一瞬見惚れてしまった。
(綺麗だな…お手伝いの人だろうか)
どうやら、外の植物に水を上げているようだった。
今まで会った人全員が美人だが、どこか変わっている子ばかりだったので、そんな普通の姿に安らぎを見たのかもしれない。
一刀は思わず少女に声をかけていた。
「あ、あの、ちょっといいかな?」
???side
今日は朝起きたら空が透き通るくらい晴れていた。
幸い、今日は詠ちゃんからは何も頼まれていないので一日中開いている(とは言っても、なにかあった時のためにあまり遠くは行けないけれど)
ゆっくり朝ごはんを食べて顔を洗っていると、ふと、外の景色が目に入る。
それは、庭に咲いている色とりどりの花であった。
(最近は、そういったものを全然見なくなったな。ううん、忙しいのもあるけれど、みんなそれどころでは無くなっているのでしょう。…私も含めて)
詠ちゃんは詳しくは言わなかったけれど、きっと近いうちに何かがあるのだろう。それも良くない何かが。
(わたしにも何かできないかな…)
私自身、何時までもお荷物でいるつもりは無い。だけど、詠ちゃんは私に何もさせるつもりが無いように思える。……まぁ、何もできないんだけど…
最近みんながせわしなく準備をしているのを見て私も焦っているのだろう。…そんな自己分析までできるくらい何もできない事を歯がゆく思いながら、その花達を見ていた。
せめて、みんなが安らげるようにしてあげたいな…
(…そうだ!)
突然閃いたことに、顔をほころばせる私。大丈夫かな、詠ちゃんに怒られたりしないかな。そう思いながらも、急いで自室にかけていくのであった。
「こんなんで、いい、のかな?」
そういう私は鏡の前でどこかおかしなところがないか確かめていた。
以前、詠ちゃんに頼み込んで買ってもらった給仕服だ。いつも着ている服はとても綺麗で可愛いけど、これは詠ちゃんと一緒に料理をした時に買った物で、何か作業をするとき(詠ちゃんには内緒)にいつも着ている服だ。
(誰か一人でもいいから、笑ってくれるといいな)
一通り服の確認をして、少女は部屋から抜け出した。そこには、先程の少し焦っているような余裕のない雰囲気ではなく、誰かに喜んでもらいたい。そんな小さな、しかし尊い願いを誓った少女がいた。
そして、裏庭に出て植物の手入れをし始めて、最初は苦戦していたが、だんだんとコツを掴めてきてーーー
「あ、あの、ちょっといいかな?」
Side out
「へぅっ!?!?」
声をかけたら、ものすごいびっくりされた。
別に足音を消していたわけじゃないし、気配を殺していたわけでもない。
少しくらいは驚くかもとは思っていたが、まさかこんな狼狽されるとは。
(ぐはぁ、俺、なんかまずったか?)
少女を見てみると、なんだかオロオロしているし
しょうがない、ここはもう一度、今度はちゃんとして
「いきなりごめんね?俺は北郷一刀って言うんだけどさ。ちょっとd「北郷、一刀さん?」…どうしたの?」
いきなりかぶせるように少女が聞いてきた。
「そうだけど…どこかで会ったことあったかな?君みたいな娘は見たこと無いと思うけど…」
「い、いえ…よく詠ちゃんから聞きますので。顔は見たことなかったんですが…」
「詠…?あ、あぁ!詠か!…最初は賈詡って呼んでたからわからんかった」
と、そこで少し考え込み
「真名を呼んでいるってことは、詠とは仲がいいのか?」
「はい、詠ちゃんとは親友です」
そう言って、にっこりほほ笑んだ顔に一刀はしばし見蕩れた。
「…?…一刀さん?」
「あ、あぁ!ごめんごめん。だったら丁度よかった。少し頼みたいことがあるんだけどさ」
(あぶないあぶない。これじゃただの変質者じゃないか)
我に帰った一刀は慌てて本題を話した。
「詠に会ったらでいいんだけどさ。俺はこれから町に行ってくるって言っておいて欲しいんだ」
「…?一刀さんは今日はお暇なんですか?」
「あぁ、やっと仕事が終わったんだけどさ、終わったら終わったで何やったらいいかわからなくてね、気晴らしに町に行ってみようかと」
そういうと、少女は少し考え込んでいた。
(よく見るとこの娘はなんとなく豪華な振る舞いをしているな。お手伝いさんじゃなくてどこかのお嬢様なのか?)
「あの」
「あ、あぁ、どうしたんだ?」
「えっと、…へぅ~」
よく分からないが緊張しているらしい。
少女のそんな姿に和んでいると、意を決したのか、ばっと顔を上げて
「私も、一緒に行っていいでしょうか…?」
そう、尋ねてきたのであった。
「だけど…本当に良かったのか?」
「…?なにがですか?」
「植物の世話だよ。あれって俺のせいで終えるはめになっただろ?」
「へぅ、ち、違いますよ。ちょうどあそこで終わりだったんです。一刀さんは悪くありません」
結局、二人で町に降りてきた一刀。少女は意外と頑固らしく、「でも大変だろう?」「一刀さんが嫌じゃなければついていきたいです」という感じで少女と同伴になったのである。
「そういえば」
「どうしたんですか?」
「君の名前を教えて欲しいな」
「私の名、ですか…?」
「あぁ、なんて呼んでいいか正直わからないからね」
一刀がそういうと、また少女は黙り込んでしまった。
(あれ?なんか地雷踏んだ?)
そう思い、一刀は内心、オロオロしていると、
「…月、です」
「ゆえ…?」
「そうです」
「そ、それって、真名じゃ…!」
「いいんです。詠ちゃんが真名を許しているんです。それが真名を委ねる理由です」
「…まったく」
一刀は心底感心した。
(ただの少女かと思ったが、どうやら俺の思い違いだったみたいだな。この時代の女の子はみんなこんなに強いのか?いずれにしてもすごい信頼だな)
「あ、あの…?どうしたんですか?」
そう言って月は一刀の方を見上げるように伺ってきた。
それが、さっきの台詞を言った本人と合致していなくて、思わず、
「はははっ、大した娘だなって思ってたんだよ。羨ましいな」
そう言って、月の頭を撫でていた。
「へっ!?へぅ~~~~」
いきなり頭を撫でられて、最初はびっくりしていたが、顔を赤く染め、されるがままになる月であった。
はたから見たら、それは、友達でもあるようで、兄妹でもあるようで、恋人でもあるようで…………
「あの…」
それから、他愛の無い話をしたり、世間話しをして、町を歩いていた時のことである。
「どうしたんだ?」
「先ほどなんですが、一刀さんが言っていた『羨ましい』って…」
「あ、あぁ、言ったな」
「どこが羨ましいんですか?…正直私にはわかりません」
そう言って月は顔を下に向けてしまった。一刀は黙って聞いていた。
「私には一刀さんや、霞さん、華雄さん、恋さんのような武はありません。詠ちゃんのような智もありません。…私には何も無いんです。それがどうして…?」
その時、一刀が歩きを止めて月の方へ振り向いた。
「本当に?」
「本当に何もないのかい?」
そう言って月の目をのぞき込んだ。
最初、月は突然のぞき込まれて、顔を真っ赤に染めたが、次第に真剣な顔になっていく、
「例えば、さ」
一刀は続ける。
「例えば、俺の力が強いとする。その俺が自分より弱い者を蹂躙する。それで俺は強いのかい?」
蹂躙、という言葉に顔を青くする月であったが、それでも、顔をそらさず聞いている。
「俺よりも強い人間を倒すことは強いことになるのかい?」
「例えば、月のような娘が今日みたいに庭で花の手入れをしている。それは弱いのかい?」
ここで、一刀は一旦話を切って、
「俺は、そうは、思わない」
そう言った。
「さっき俺がなんで羨ましいって言ったかだよね?」
「…はい」
「それは、月が詠を心の底から信頼しているからだよ」
「え…?」
「人を信じることってのはとても勇気がいる。俺はそう思ってるんだ。だから俺は、君を尊敬している」
「でも!…私にはそれしかできないから…」
「そうかもしれない。でも、俺はとても怖い…人を信じ続けるってのはね…はは、とんだ臆病者だな、俺は」
そう言って、一刀は自虐的に笑った。
「…ょ…な…ん…」
その笑い声はあまりにも寂しくて、
「臆病者なんかじゃありません!!」
そんな笑いをかき消したのは、先程まで俯いていた月であった。
「一刀さんと私はまだ、出会って少ししか経っていないけれど、それでも分かります。一刀さんは決して、臆病者なんかじゃありません」
「月…ごめんな」
「謝らないでください。先程の一刀さんの例えも酷いです。一刀さんはそんなことしません。詠ちゃんから聞いていた。という事もありますけれど、私自身が見、聞いて分かりました。一刀さんは良い人です。それもとびきり。そんな人だから…!」
そこでなぜか顔を赤くする月。そして、それまで黙っていた一刀だが、
「やっぱり強いよ、月は。俺が保証する。その『人を信じる』っていう強さがある」
そう言ってまた、月の頭を撫でるのであった。
その時、月は
(そんな人だから…なんて言おうと思ったの私!?…へぅぅ、恥ずかしいよ~)
赤い顔のまま、撫でられるがままになっているのであった。
その後、陽も暗くなり、二人で帰っている時に、重大なことに気がついた。
「……あ、俺、町に行ってること誰にも言ってないや」
一刀は、確かに、伝言を頼もうとしていた。しかし、その頼んだ相手と一緒に出てきてしまっている。
そして、月もまた、
「あ、いつでも連絡取れるところにしてって言われてたんだった…」
だから庭のお手入れをしていたのだから。
その時、
「ゆ~~~~え~~~~~~!!!!!」
と、前方からものすごい勢いで走ってくるモノがいた。
一刀は初めて般若を見た。
後世に語り継がれるだろう。
般若は、眼鏡をしていた。と…(それで背が短い)
「…………おい」
「すいませんした」
一刀は今、頭を地に付けていた。
今はやりのThe・土下座ってやつだ。
そろそろと顔を上げ、詠の様子を見てみる。願わくば笑って済ましてくれると…………
「いないと思ったら、よりにもよって一刀なんかと…」
かなりお怒りのようだった。
もうめっちゃ怒ってた。
「ちょっとはいいやつかなぁと思ってたのに………やっぱり男ってのはみんな同じね!!」
「ちょっと、詠ちゃん……」
流石に悪いと思ったのか、月がたしなめようとするが、
「月は黙ってて!だいたい、月も月よ。なんでボクに一言言わないのよ。心配したんだから」
と、逆に怒られてしまった。
「アンタも!!こんなところボクじゃないやつに見つかったら、最悪極刑モノよ?」
と一刀に食って掛かる。と、ここで一刀が尋ねる。
「……極刑?」
「そうよ、極刑。首チョンパ。アンタが連れ出したのは誰かわかってる?」
「…月じゃないのか?」
「アンタが月の真名を言うなぁ!!…ってもしかして聞いてないの?名前。………月?」
月に目を向ける二人
「う、うん…言ってない」
おずおずと月が言った途端に天を仰ぐ詠。さっきから展開についていけていない一刀。
「…この娘の名前ね、董卓よ。知ってるわよね?北郷か・ず・と・さん?」
「と、うたく……?…………!!!!」
しばらく続く不気味な沈黙。
そして、
「あの、詠さん?」
「なによ?万年発情男」
「つかぬことをお聞きしますが、私どもが属する部隊はなんという名前でしょうか?」
「…『董卓』軍遊撃部隊よ。部隊長北郷一刀さん?」
「…あら、偶然の一致」
「それが辞世の句ね。わかったわ」
その後、一刀の悲鳴が町中に響き、しばらく怪談として語り継がれるのであった。
「もう、詠ちゃんったら、一刀さんの事も心配してたって言えばいいのに…『ボクじゃなかったら極刑モノって』…素直じゃないんだから」
「なんか言った!?月!!」
「へぅっ!!なんでもないよ。詠ちゃん」
そうして、一刀の休日は過ぎていく。
もうすぐ、運命の日はやってくる。
あとがき
拠点って難しいよね。書くのに1ヶ月かかっちゃった。テヘ。
えっと、マジです。別にサボっていたわけじゃないんです。今は春休みなんですが、まぁ、バイトが有ったり、サークルがあったりして、書く時間も取れないとかもありましたが、拠点て相当書くのが難しいんです。少なくとも自分にとっては。
そんなこんなで、拠点を書いてみましたが、どうでしょうか?駄目ですか?駄目ですねスイマセン…orz
これからも更新が遅くなりがちですが、ノロノロと書いていきたいと思います。そして、舞台は虎牢関の戦いへ。…戦いの描写って難しいですよね。戦い飛ばしてぇなぁ…スイマセン。嘘です石投げないでください。痛い痛い。
そんな訳で(どんな訳?)いつも通り支離滅裂な文であとがきと致しました。
こんな駄文に付き合ってくれる皆様に抱え切れないほどの感謝の意を
では次回また会いましょう。では、ほっち~でした。
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拠点て難しぃぃい!!ってなわけで、いつもよりも遅い更新なのが申し訳ないです。では、まだまだ、拙い文章ですが暖かい目で見守ってやってください。