袁紹さんに対応するためにまずは情報収集が肝要という事で、袁紹さんの治める冀州に加え、お隣の青州と并州に斥候さんを放ちました。
冀州は青州と并州に挟まれているため、そちらにも攻める可能性があったのです。
そして、斥候さんを放つのと同時に、徐州にはお祝いの使者さんを立てました。
またそのお祝いの使者さんには、諸葛亮さんと鳳統さんに向けた手紙を持たせました。
あのお二人の事ですから気付いているとは思いますが、念には念をという事です。
さらには国内の事にも目を向けました。
各村を訪れては、中央への避難をお願いしていきます。
当然これには抵抗がありました。
ですが、そこはお兄さんに登場してもらいました。
天の御遣いの言葉となれば、それはいまや皇帝を凌ぐほどになっています。
避難を拒否していた村の長老達も、割と素直に聞いてくれているようです。
その作業と平行して、避難の済んだ村に少数の兵士さんと兵糧を置いていきます。
一ヶ月の交代制にして、兵糧もそれだけにとどめておきました。
これで、行動もしやすいはずです。
こうして着々と準備が進む中、斥候さんから情報が届きました。
袁紹さんが青州と并州を併合したとの事です。
これで、河北四州と呼ばれる残りの地は、ここ幽州のみとなりました。
河北四州を治める……、いかにも派手好きな袁紹さんが好きそうな肩書きです。
おそらく近いうちに、幽州にも攻め込んで来るであろうという事が誰の目にも明らかです。
私達の中にも、にわかに緊迫した空気が流れました。
しかし、青州と并州を併合してからすぐに攻めてくるかと思いましたが、なかなか攻めてきません。
これはかなり好都合です。
それだけ対応するための準備の時間が取れます。
私達は、中央の守りを固めつつ州の境の警備も予定通り進めました。
それから幾日か過ぎ、ついに袁紹さんが攻めてきました。
想像以上の大軍のようです。
ですが、こちらもそれなりの準備は済ませてあります。
「皆の者、ついに戦いの時が来た!! 袁紹軍は大軍だが、憶することはないぞ!! 我が軍には天がついている!! 天の加護がある限り我々に敗北はないのだ!! 奮い立て!! 公孫賛軍の恐ろしさを袁紹軍に知らしめるのだ!!」
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
白蓮さんの言葉に、全軍の士気が上がります。
「全軍前進!!」
星ちゃんの言葉に合わせ、全軍が進んでいきます。
遼東には、白蓮を始め月さんと詠さんなど少数精鋭を残して、私達はそれよりも手前で袁紹軍を迎え撃つ事になります。
星ちゃんを総大将として、私が参謀、霞さんと華雄さんを部隊長とした編成にしました。
これで、決まろうとした時です。
「俺も行く!!」
お兄さんです。
「北郷、前線は危険だぞ!!」
「そうです……」
「あんたなんか行ったって足手まといなんだからここに残りなさいよ!!」
白蓮さん、月さんが心配そうに言います。
詠さんはあんな言い方をしていますが、他の二人と同じくお兄さんを心配しての発言でしょう。
「それに、お前は天の御遣いだ!! お前に何かあれば、私達はもちろん、この国の民全てが悲しむぞ!!」
「だからこそ、俺も行かないといけないんだ!!」
白蓮さんの言葉にお兄さんは反論します。
その言葉に、白蓮さんは首を傾げました。
「俺が本当に天の御遣いなのかは分からない……。でも、天の御遣いならここに居ちゃいけないんだ!! みんなが命をかける場所、そこに居てこそ国のみんなに胸を張って立っていられると思う」
お兄さんの力強い言葉に、白蓮さんは言葉を失いました。
確かに、前線に立たず後方でのうのうとしている人が、人民の心を惹きつけるはずがありません。
それは分かるのですが、だからと言って、お兄さんを危険な前線に連れて行く理由にはなりません。
そう言いたいのですが、言葉が出てきません。
と、ここでお兄さんを後押しする言葉が出ました。
「一刀はうちらで守るさかい、安心してや!!」
「そうだな!!」
「うむ」
霞さん、華雄さん、そして星ちゃんです。
三人にはお兄さんの言葉が通じたようです。
この三人に言われては、白蓮さんも強くは言えません。
「……分かった。北郷の事頼むぞ!!」
白蓮さんの言葉に三人は強く頷きました。
私も三人と一緒に頷きました。
こうしてお兄さんも一緒に前線に向かうことになりました。
前線に施した策は有効に作用しているように思えました。
思ったとおり、文醜さんは相手の数が少ないと見るやいなや、そこを攻めるのをやめていました。
これでいくつかの拠点は戦いを避けることができました。
ただ、これも最初のうちだけです。
同じような場所が続くと、ついに痺れを切らして攻撃してくるようになりました。
こちらは少ない人数なので、まともにぶつかったらすぐに敗北してしまいます。
なので、何度かあたってきたらすぐに撤退するようにしていました。
その際、予定通り自軍の兵糧は全て焼き払うようにして、袁紹軍に兵糧の補給をさせないようにしました。
このような事を遼東までの道のりにいくつも配置しておきました。
この策の一番の目的はとにかく時間稼ぎをする事。
そして、時間がかかった分相手の兵糧を消費させ、補給できないようにすることでの自滅を目論んだものでした。
袁紹軍は大軍です。
私達がどんなに人を集めても敵わないでしょう。
ならば、相手の撤退を促すほかありません。
こうして、こちらの被害をなるべく少なくして袁紹軍には食料的な被害を出させてから決戦……のはずだったのですが、前線に送った斥候からの報告に唖然としてしまいました。
「袁紹軍の数……およそ百万!!」
「なんやて!!」
「百万だと……」
「それはまた途方も無い人数だな……」
正直、そこまでの人数だとは思いませんでした。
それに対する私達の人数は約五万。
とてもじゃないですが、太刀打ちできる人数じゃありません。
「風……、どうするのだ?」
星ちゃんに言われ色々考えますが、どう考えてもおかしいです。
開戦前に、袁紹軍は多くて十万程度という情報を得ていました。
ここ数日で、その人数を十倍にするなど普通に考えれば無理な話です。
それとも、その十万程度という情報が誤りだったのでしょうか。
その可能性は否定できませんが、それにしても十倍の数を誤るというのもおかしな話です。
とにかく、今は時間を稼ぐほかありません。
「さすがに、風達では太刀打ちできない数字です~。ですが、撤退も厳しいでしょう~。なら、篭城して時間を稼ぐほかありません~」
「篭城だと!! 私は嫌だぞ!!」
華雄さんが言いました。
そんな華雄さんに、霞さんが意地悪気味に言います。
「汜水関で篭城は嫌や言うて出ていって、負けたんは誰やったかなぁ?」
「そ……それは……」
「ただ篭城するだけやない。なんや、策でもあるんやろ?」
霞さんはそう言って、私の言葉を待ちます。
ですが、そんなものはありません。
ただ、時間を稼げば好転する可能性はあります。
「風にも策なんてありませんよ~。ですが、時間を稼げば事態を好転できる布石はうってあります~」
この私の言葉に星ちゃんが頷きました。
「布石をうってあるのなら、それを信じるしかあるまい」
「せやな。今は、とにかく被害を減らして時間を稼ぐ事を考えるんや」
「……分かった」
あまり納得がいってないようですが、華雄さんはそう言いました。
「北郷殿もそれで……、どうしたのだ?」
星ちゃんがお兄さんに話しかけたのですが、お兄さんの様子が変です。
袁紹軍の居る方向を見ながら首を傾げています。
「いや、所々に人間っぽくない動きをしている奴がいるなって……」
「そんな奴、おるか?」
お兄さんの言葉を聞いて、霞さんが袁紹軍を見ました。
しばらくして、霞さんは大きく頷きました。
「確かに変な奴がおるな」
霞さんもお兄さんのような事を言ったので、私も改めて袁紹軍を見てみました。
一見すると普通のようですが、所々におかしな動きをしている人がいます。
よく見ると、ほとんどの人がそんな感じでした。
「あの人達はなんなのでしょう~?」
私は素直に疑問を口にしてみました。
ですが、ここにその答えを出してくれる人はいません。
そう思いましたが、意外な人物から回答が出てきました。
「あれは傀儡達ね」
「貂蝉!!」
そう、そこには遼東のお城にいるはずの貂蝉さんでした。
貂蝉さんは、ここにいるのがさも当たり前のような堂々とした姿で立っています。
「貂蝉、おぬしは白蓮殿と一緒にいるはずでは?」
「星ちゃん、細かいことはいいのよ。それよりもあいつらの事だけど……」
「せやせや、その傀儡っちゅーんのはなんや?」
星ちゃんの質問を無視して霞さんが聞いてきました。
確かに、傀儡というのはあんまり聞き慣れない言葉です。
ですが、最近この言葉を聞いていました。
「傀儡とは、あの白装束軍団の関係ですか~?」
そう、洛陽で出会いお兄さんの命を狙った白装束軍団。
その親玉のような青年が、星ちゃんの事を傀儡と言っていました。
何か関係があるに違いありません。
「風ちゃん、良く覚えているわね。そう、あいつの仕業ね」
「俺の命を狙ったあいつか……」
お兄さんも思い出したようです。
と、同時に星ちゃんが珍しく苦々しい表情をしています。
全く相手にならなかった事を思い出しているのでしょう。
一方、霞さんや華雄さんも何か思うところがあるようです。
「白装束軍団ってあいつらか……」
「月の両親を誘拐して脅していた奴らや!!」
霞さんの言葉に驚きました。
そんな事があったとは初耳です。
董卓連合の真実の一つが垣間見えたような気がします。
これも知っておきたい事柄ですが、それよりも今はこの状況をどうにかするのが先決です。
「傀儡の正体は何となく分かった。だからといって状況が改善したわけではあるまい」
星ちゃんが凄みながら言いました。
さすがの星ちゃんもこの人数の差はいかんともしがたいようです。
それは、一騎当千の霞さんや華雄さんも同様でした。
ですが、この事態をなんとか出来そうな言葉が発せられました。
「傀儡達は、わたしがなんとかするわ」
貂蝉さんの言葉に少し安堵の空気が流れました。
しかし、すぐに疑問が浮かびました。
「なんとかするって、あれだけの人数をどうするんだ?」
お兄さんの言葉に、再び場の空気が沈みます。
ですが、それをあざ笑うかのように貂蝉さんが笑顔で言いました。
「それは、ひ・み・つよ。乙女には秘密がつきものでしょ」
この貂蝉さんの言葉で場の空気が和みました。
この事を確認すると、貂蝉さんは遠くを見ながら言いました。
「傀儡をどうにかするにはちょっと時間がかかるのよね。……時間稼ぎお願いできるかしら?」
「時間稼ぎか……。それなら任せてもらおう」
「うちらを誰や思うてんねん!!」
「そうだな!!」
貂蝉さんの言葉に三人が頷きます。
確かに、百万の大軍を倒すのは厳しいですが、それを相手に時間を稼ぐことなど、この三人ならやってのけるでしょう。
なんだかそんな気がしました。
「それを聞いて安心したわ。それじゃお願いね」
そう言うと貂蝉さんは、何やら力を込めています。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
この世の物とは思えない叫び声を放つと空高く飛び上がりました。
その姿を私達はただ呆然と見上げてしまいました。
「あやつは人間か?」
星ちゃんの言葉が全てを物語っていました。
時間稼ぎ……。
言葉にすると至極単純な事ですが、実際にやるとなると大変です。
こちらは砦の中にいる上に、地理的にも有利ですが、それでも相手が自分達の二十倍もの人数がいるとなると困難に感じます。
ただ、それをものともしない人がこちらにはいました。
「それじゃ、張遼軍行ってくるで!!」
「華雄軍もそれに続くぞ!!」
「おー!!」
砦の中にいては時間稼ぎなど無理と判断して、霞さんと華雄さんが部下を連れて出陣していきます。
星ちゃんは、砦内に残って全体の指揮を執っています。
私は、それの補佐、お兄さんも他の兵士さんに混じって頑張っています。
これは、上で眺めているだけじゃ嫌だというお兄さんの意向を汲んでの事です。
本当は後方で待機していてもらうのが気持ち的に楽なのですが……。
「そりゃ、袁紹軍をかき回したるんや!!」
霞さんの軍がその足の速さを生かし、袁紹軍の中を縦横無尽に駆けめぐっています。
「私達も張遼軍に負けるな!!」
そんな霞さんに負けじと、華雄さんの軍も同じように駆けめぐっています。
私達は、それを補佐するように、矢や投石などの攻撃を行いました。
袁紹軍でもっとも怖いのは文醜さんでしょう。
その辺りを心得ているのか、霞さんも華雄さんも上手いこと文醜さんに当たらないようにしています。
今のところ非常に順調ですが、これにも限界があります。
しばらくして、二人の動きに乱れが出てきました。
それに伴って、袁紹軍にやられてしまう者も増えてきたようです。
しかし、だからといって星ちゃんも出陣させるわけにはいかず、私達はとにかく被害が少なくなるよう、攻撃を続けるしかありませんでした。
さらに砦への被害も出始めました。
そろそろ限界かもしれません。
「貂蝉の奴はまだなんか!! そろそろ限界や!!」
「私もだ!!」
二人がこういうのですから、本当に限界です。
と、ここで大きな声が聞こえてきました。
「二人とも、もう充分よ!! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
空高く飛び立ったときと同じ声が、戦場に響きました。
「貂蝉だ!!」
お兄さんのそう言う言葉と同時に、袁紹軍の兵士さん達の多くが苦しみ出しました。
そして、その体が煙のように消えていきます。
その様子に、私達はもちろん、高みの見物を決め込んでいた袁紹さんも唖然とした表情で見ています。
しばらくして、その現象が収まると戦場には驚くほど僅かの兵士さんしか残っていませんでした。
「これなら勝てるぞ!! 総員出陣だ!!」
星ちゃんの言葉に呼応するように、砦の門が開かれ趙雲軍が出ていきました。
「逃げ回るのは終わりや!! 張遼軍、趙雲軍や華雄軍に負けんなや!!」
「それはこっちの台詞だ!! 華雄軍、今こそ本領発揮の時だ!!」
士気の上がった私達は袁紹軍をおしていきます。
しかし、元々数では上の袁紹軍。
だんだんと、こちらがおされてくるようになりました。
「風、まずいんじゃないか?」
戦えないお兄さんと私は砦に残っています。
確かにこのままでは私達は負けてしまいますが、私は悲観していませんでした。
「お兄さん忘れたのですか~? 風が、時間さえ稼げれば大丈夫な布石を打っていると言ったのを~」
「それはそうだけど……、あっ!!」
お兄さんも気付いたようです。
遠くから砂煙が近づいてきています。
「なんや、あれは?」
「ようやく来たか」
星ちゃんには話をしておいたので、特に驚いてはいないようです。
ここで、兵士さんより報告がありました。
「申し上げます。南方より近づいている者達があります」
「旗印は~?」
「はっ、関に張、劉と……、あれは深紅の呂」
「関は愛紗、張は鈴々、劉は桃香……、じゃあ、残りの深紅の呂って?」
「呂布さんですね~」
「呂布!?」
お兄さんはその名前に驚いています。
私も、まさか呂布さんが桃香さん達と一緒にいるとは思わなかったので、ちょっと驚きました。
ですが、ここで動揺を見せると軍の士気にも関わってきますのであえて冷静に対応しました。
そう、時間を稼げば大丈夫な布石。
それは桃香さん達に援軍を要請してあったのです。
祝いの使者さんに持たせた手紙は、こういう意味があったのです。
正直争いを嫌いそうな桃香さんが援軍を出してくれるか分かりませんでしたが、諸葛亮さんや鳳統さんはその辺りを理解してくれるだろと踏んでました。
これで、逆に我が軍が優勢になりました。
さすが呂布さんです。
袁紹軍など何もないかのように蹴散らしながら、こちらに向かっています。
愛紗さんや鈴々ちゃんもそれに負けじと、袁紹軍を倒していきます。
桃香さん達の登場で、袁紹軍の中に逃げ出す者が出始めました。
劉備軍というより、呂布さんの存在が相当士気を下げたようです。
虎牢関の印象もまだ記憶に新しいので、それも相当な影響でしょう。
これは好機とばかりに、星ちゃんや霞さんや華雄さんは袁紹さんを追い詰めます。
顔良さんに文醜さんも反撃をしてきますが、すでに焼け石に水の状態です。
私やお兄さんも、袁紹さんの元に向かいました。
本当にあっという間でした。
公孫賛軍と劉備軍で、袁紹さん達を取り囲みました。
勝負有りです。
あとがき
ようやくアップできた(;^_^A アセアセ…
2ヶ月以上も経っているのにこれだけでどうもすみません……。
どうにも筆が進みませんでした。
公孫賛軍と袁紹軍との戦いですが、原作では数行で終わってしまいますが
公孫賛メインのこの話では、多めに割かざる終えません。
なんとなく流れはイメージできてましたが、それを文字にするというのはやはり難しい。
あーでもないこーでもないと、うだうだやっていたらあっという間に2ヶ月経ってしまいました。。。
正直、百万の軍に五万では太刀打ちできないでしょうね。
そこは地の利と、袁紹軍の大半は傀儡だったという事でご了承下さい。
次は袁紹軍を倒し河北四州を治めることになった白蓮ですが……という感じで進めていくつもりです。
またかなりの期間が空いてしまうかもしれませんが、頑張りますので応援よろしくお願いします。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真・恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
本当にご無沙汰といった感じになってしまいました。
約2ヶ月ぶりの更新になります。
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