〝新しい仲間〟
俺が華琳達のところに行っている間に桃香達のところに朝廷から知らせが来た。
今回の黄巾党鎮圧の恩賞として、平原というところの相に任命された。
時を同じくして華琳も西園八校尉という階級になったそうだが、位がよくわからないので
すごいことなのかわからなかった。
ちなみに華琳のことは人の噂から聞いたものだ。
そして帰ってきた俺を合わせて、俺達は今初体験の連続で毎日が大変だった。
華琳のところに居た時は臨時警備隊長だったが、今度は平原を治める相、と言っても相は桃香なのだが
その手伝いだけでも大変だった。が華琳の所で若干鍛えられていた俺は、桃香よりはテキパキと仕事をこなすことができていた。
桃香は『あう~・・・』とか『はにゃぁあ~・・・』などへばりながらも周りのみんなに支えられ頑張って政務をこなしていた。
そんなある日、俺達のところに訪問者が現れた。
「きょ~うも楽しくみっまわりだぁ~♪」
「ご機嫌だな」
「だってやっと乱も終わったし。みんなが平和そうに暮らしてるのを見ると、私達ちゃんとがんばれたんだなぁ~ってそう思えるの♪」
「まぁそうだな」
半年も戦場を渡り歩いてたもんな・・・
「それが今ではこんなにのんびりと過ごせる。・・・やっぱり平和っていいよな」
「うん。みんながこうやって平和な時間を大切にすれば戦いなんて起こらないのにね」
「・・・それはどうだろうなぁ?」
戦い・争い。そういったものは結局、人それぞれの考え方であれ、正義であれ、千差万別だから
起こるものだ。
人が三人いれば、それで意見が食い違って争いになることは絶対とは言えないが多分あるはずだ。
だからこそ人は争いを意識しつつ平和な時間の有難みを大切にしなくちゃいけないんだと。
「・・・と、俺はそう思うけどね」
「うーん・・・やっぱりそうなのかなぁ」
「まぁ桃香みたいにてんね・・・やさしい女の子ばかりなら、争いなんて起こらないと思うけど」
「・・・ご主人様、今私の事天然って言おうとしたでしょ?」
「・・・ソンナコトアリマセンヨ」
「ううーー。どうせ私は天然ですよー」
「ははっ、悪い悪い」
二人で和気藹々と街を見て回っていると、そこに
「桃香様ー、ご主人様ー」
朱里が息を切らせながら走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと見つけましたぁ」
「どうしたの?なにかあったの?」
「えっとですね、すぐにお城に戻ってもらってもいいですか?」
「どうした?緊急なのか?」
「そういうのじゃないです。実はお城に、桃香様を訪ねて来た方が・・・」
「私に?誰だろう?」
「お名前は確か趙雲さんとか・・・」
趙雲・・・確か桃香が言っていた公孫賛の所に居るって言っていた人だよな。
三国志の中でも有名な武将だ。どんな人なんだろ?
「星ちゃんが?・・・あれ?・・・でも星ちゃんって白連ちゃんのところに居たのに」
「公孫賛の使者として来たんじゃないか?」
「そうかもね・・・とりあえずお城に戻ろう、ご主人様」
「ん、そうだな」
そして俺と桃香は城に向かって駆け出した。
「はわわ、お二人とも、待ってくださいよ~」
朱里はその後に続いて駆け出した。
そうして城の中。
「星ちゃんっ!」
「おお、これは桃香殿。久方ぶりですな」
「ホント、久しぶりだねー♪」
「我等の旗揚げ以来・・・となると、半年振り、ということになりますね」
「久しぶりなのだ。星、元気だったかー?」
「ふふっ。おかげさまでな。息災だった。・・・そちらの方もなかなかの活躍ぶりだったな。
各地の街でえらく評判になっていたぞ」
「ほんと?へへ、頑張った甲斐があったね~♪」
な、なんてことだ・・・まったく会話に入れない・・・俺空気状態だ・・・ぐすん
「あ、星ちゃんは会った事なかったよね。この人が私達のご主人様、北郷一刀様だよ」
と、桃香・・・ありがとーーーー!GJと心の中で親指を立てておく。
「初めまして趙雲さん。さっき桃香が言ってくれたけど改めて、名前は北郷一刀。真名はないから好きなように呼んでくれ」
「・・・なるほど、あなたが噂の北郷一刀殿か。お初に御目にかかる私の名は趙雲、字は子龍と申す」
ま、また噂か・・・化け物御遣い・・・うう・・・泣かないぞ、男の子だもん。
「噂ってどんなのなのだー?」
り、鈴々!?いや!?聞かないで!?言葉に出して聞いたら俺のハートがドカンだぁぁぁぁ!?
「噂というのは、天の御遣いである北郷一刀は――――――」
いやぁぁぁ!?聞きたくないーーー!?俺はその瞬間に耳を手で塞いだ。
そうして趙雲さんの話が終わり耳から手を離すと、
「お兄ちゃん!すごいのだー!」
「へ?」
キラキラとした目で俺を見てくる鈴々。
「さすがです、ご主人様」
うっとりとした目で見てくる愛紗。
「ご主人様はやっぱりすごいなぁー、私も負けないように頑張らなくちゃ」
俺に負けないようにと目をメラメラと燃やす桃香。
え?何?なんでこんなことになってるの?噂って化け物御遣いじゃないの?
そうして考えていると下からクイクイと服を引っ張られ、
「ん?」
そこに雛里と朱里がいた。
「ご主人様は勘違いをしています。その・・・あの・・・化け物御遣いという噂は黄巾党の人が流した噂ですから。」
「だから・・・街の人達の噂ではご主人様は崇められているんですよ。」
と朱里と雛里が俺の顔をみて考えていることがわかったのか、説明してくれた。
そうだったの?俺化け物じゃないのか・・・よっしゃー!と今度は心の中でガッツポーズ。
そうして心の中で喜んでいると、
「ところで、星。さきほど各地の街と言っていたが、もしや・・・」
「ああ、黄巾の乱が収束に向かいだしたころに伯珪殿から暇を貰い、各地を放浪していた」
「放浪?お主ほどの人物がなぜその様な真似を。探せばいくらでも仕官先はあるだろうに」
「私は安く無いのでな。我が剣を預ける人物は、我が眼で見、我が耳で聞いてから判断したかったのだ」
「それで見つかったのかー?」
「ふむ。それが中々難しくてな。主となる人物の器量と徳、そしてその周囲にいる人間の質。その三つを兼ね備える勢力は少なかった」
「少なかったということは、いくつかは見つけたってこと?」
「一応は。・・・ただどの陣営に於いても、どこか肌に合わぬ所があったのです。・・・だからこうして放浪していたというわけです」
「ふむ。・・・それにしても気になる。星ほどの人物が認めた勢力と言うのは、どこになるのだ?」
「まずは曹操だな。兵力、財力、そして人材。すべてを兼ね備えた勢力であり、なおかつ当主である曹操は器量、才能豊かな、まさに英雄だ」
その名前が出てきた時、みんなが少しピクッと反応したように見えた。
「華琳か・・・」
「おや、北郷殿は曹操と知り合いなので?」
「ん、まあ・・・いろいろとね・・・」
「ほう・・・気になるところではありますが、聞くのはやめておきましょう」
「??」
その言葉が不思議で趙雲さんに聞こうとしたが、趙雲さんはある方向に指を指す。
「ん?・・・なんだ――――」
(げっ!?)
その指差した方を見るとジト~とした目で俺のことを見るみなさん。
「ふふっ、北郷殿は好かれているのですな」
「そ、そうかな?そうだといいな」
「おほん。星、話の続きを頼む」
「うむ、もう一つは孫策殿の所だ」
「孫策・・・江東の麒麟児か」
「ああ。性勇猛、知略にも通じ、従える将はそれぞれ一騎当千・・・なのだが」
「だが?」
「完璧な布陣すぎてつまらんのですよ。私の活躍できる場所が無い」
いや・・・つまらんって・・・でも、確かに新たに登用されても、活躍できる場が無ければ意味がないか・・・
「あとは?」
「その他は有象無象ですな」
「う、有象無象・・・」
一応は歴史に名を残した英雄達のはずなのに、趙雲さんに掛かっては路傍の石と大して変わらないのか・・・。
なんていうか・・・豪毅だな・・・
「そうなのか?河北の袁紹、荊州の袁術、西涼の馬騰、董卓・・・と、大勢力は他にいくつもあると思うのだが・・・」
「勢力が大きくとも、志が天下に向かい、またそれを実現する力があるとなると、先に挙げた二名の他は有象無象」
「それで放浪を続けてきたんだ。・・・すごいなぁ」
「でもどうして鈴々達の所に来たのだー?ちょっと休憩なのかー?」
「ふっ・・・休憩ではない。私自身の戦いを始めるために来たのだ」
「あ、じゃあ、もしかして」
「ええ・・・貴殿らさえ良ければ、私も共に戦わせて頂きたい。貴殿らの理想の実現のために。・・・私の理想を形にするために」
力強い瞳で俺達を見つめる趙雲さんの言葉から、その志の高さが伝わってくる。
「うん!一緒に戦おう星ちゃん!みんなが笑顔を浮かべて、平和に暮らせるその日のために!」
「星が来れば百人力なのだー♪」
「ふふっ、そうだな。・・・星。お主の力、あてにさせてもらうぞ」
「ふっ、任せておけ」
自信満々に頷いた趙雲さんが、スッと俺の方に振り返る。
「さて、北郷殿よ。これから我が主になるあなたに早速だが一戦してもらいたいのだが、どうだろうか?」
「・・・・・へ?え?ええええ!?」
「星!?」
「星ちゃん!?」
「おお!戦うのかお兄ちゃん?鈴々もやりたいのだー!」
「はわわっ!?」
「あわわ!?」
「あ、あの趙雲さん。なんでそういうことになるんでしょうか?」
「いやなに、言葉で語るより剣を交えた方が相手のことがわかるのでな。北郷殿の事は噂では知っているが
私自身はまったくあなたの事を知らない。だから一戦してもらいたいのだが」
た、確かに今日初めて会った人を主に認めるなんてできないかもしれないけど・・・
「お、俺的には穏便に相手の事を知りたいなー、と思ってるんですが・・・」
「おや、北郷殿。私からの誘いを断るということですかな?」
「いや!?だから、話して相手の事をわかっていった方がいいんじゃないかなと―――――」
「その一戦受けて立とう!」
愛紗が俺の言葉を遮った。
「愛紗さん!?」
「ご主人様、星の言っている事も、もっとも。お互いを知るいい機会です」
「だからね、俺は――――」
「おお!やっぱり戦うのかー、頑張るのだお兄ちゃん!」
「あの――――」
「北郷殿、返答やいかに?」
「―――――」
・・・NOOOOO!?君達、人の話聞こうーーーー!!どこ見てる!?俺のこと見えてるよね!?
そして俺はズルズルと愛紗、趙雲さん、鈴々に引きずられ中庭に連れて来られた。
桃香、朱里、雛里は、はわわ、あわわ、オロオロとしながら付いて来ていた。
「さて、準備は出来たか?二人とも」
「私はいつでも良いぞ」
「・・・ぜんぜんまったく良くないです」
俺は鈴々が部屋から取ってきた雷切刀を腰に差し、趙雲さんと向かい合っていた。
なんでこんな事になってるんだ・・・
「ご、ご主人様。大丈夫かな・・・」
「安心するのだお姉ちゃん、お兄ちゃんも強いし星も強いから大丈夫なのだ」
「えっと・・・それって大丈夫なの?朱里ちゃん?」
「はわっ!?わ、私に聞かないでくださいよぉ~」
「あわわ、ご、ご主人様~・・・」
桃香達は俺達とは離れたところで見ていた。
「覚悟を決めてくださいご主人様、こうなった以上やるしかないのですから」
審判役の愛紗がそんなことを言ってきた。
「いやこうなったって、愛紗が――――」
「では、始め!!」
だから人の話を聞こうーーーー!!
ああ、もう!しょうがない!
俺は雷切を抜き、構えに入る。スゥーと構えていると、
「北郷殿の剣はめずらしい形をしていますな」
「ん?・・・ああ、そうだな。この世界では珍しいかもな」
「そんな細い剣で、我が直刀槍〝龍牙〟受けられると思いか?」
「心配しなくてもちゃんと受けて見せるよ」
「・・・そうですか、・・・では!!」
その声と同時に趙雲さんは俺に攻撃を仕掛けてくる。
槍の最大の魅力は突きの威力とリーチの長さだ。
俺の間合いの二倍ほどあるその直槍は俺に容赦ない連続突きを放ってくる。
「はいはいはいはいはいーーーーー!!」
俺はその連続突きを避けていく。時には刀で受け流し、受け止め、そして避ける。
(趙雲さん・・・本気じゃないな・・・なのにこの速さ、すごい!)
俺はなんとか連続突きを避けながら、この速さに驚いていた。
「ほう、この攻撃を避けきるその体捌き、さすが北郷殿。始めて見た時からできると思って
いましたが、まさかここまでとは」
「え?あの・・・」
「ん?なんですかな北郷殿?」
「わかっているなら一戦しなくてもよかったんじゃ・・・」
「うむ、そうですな。しかし武人として強者と戦いたい気持ちが出てしまって
止めることが出来なかったのです。申し訳ない、ですが先ほどの話は真なので
理解していただきたい」
「・・・そうですか。わかりました、なら今度はこちらから行きますよ趙雲さん」
「どうぞ、北郷殿」
俺は鞘をベルトから抜き、雷切を鞘に納刀しそのまま左手に持ち、右手を柄に添える。
(なんという構えだ・・・だがまるで隙がない)
趙雲は感じていた、あの間合いに入ったら斬られると。だが
(ふふっ、おもしろい。我が名は趙子龍。一身これ刃なり!)
そうして趙雲もその構えに対抗するために必殺の構えをとる。
それを見ていた愛紗はウズウズとしていた。
(これほどの闘気のぶつかり合い、見ているだけで動きたくなってくる!)
だがそれを抑え込み愛紗は二人の動きをじっくりと見る。
(ご主人様もあれほど嫌がって居られたのに、今はあんなに凛々しい顔を・・・!)
実際には二人ではなく一刀の顔だった。
(いかんっ!ご主人様のあの顔を見ているだけで鼓動が早くなってきいる)
愛紗にとってこの審判役はある意味拷問に近かった。
戦いを見せられウズウズする体、そして一刀の顔。ある程度離れているとはいえ
まじまじ見ることが出来る。滅多に見せない凛々しい顔。
愛紗は審判役をやったことを心底喜んでいた。
「・・・?なんか愛紗ちゃんモジモジしてない?ねぇ鈴々ちゃん?」
と話しかけても鈴々は、
「・・・・・・」
「鈴々ちゃん?」
再度呼びかけても反応しない鈴々。
それもそのはず、鈴々は今までに見せたことのない集中力で二人の戦いをじぃーと見ていた。
「桃香様、今は話しかけないほうが良さそうですよ」
「そ、そうみたいだね」
「あわ・・・なんかドキドキしてきちゃたよ、朱里ちゃん」
「どうしたの?雛里ちゃん?」
「なんかね・・・ここからご主人様のお顔をよく見ようと思って、見たら・・・《かぁああ~・・・》」
「雛里ちゃん!?・・・そんなにかっこよかったの?」
「(コクコクコクっ!)」
雛里は赤い顔で首が取れるんじゃないかと思うくらい頷く。
そして、朱里も一刀の顔を見ようと視線を顔に持っていく。
「――――はわーーーー!?」
「きゃ!?な、なに?どうしたの朱里ちゃん?」
「《かぁぁああ~~・・》い、い、い、いえ。なんでもありません桃香様っ!」
「??」
桃香は頭に?を浮かべながらも戦いに目を移す。その時一刀が動く。
「いくぞ!」
声と同時に俺は駆け出す。そして、
「天叢流回転式抜刀術〝天の袖引き〟」
駆け出した突進力と途中体を回転させその遠心力を抜刀に加える技を放つ。
その技と同時に趙雲さんは、必殺の構えから、
「星雲神妙撃!!」
その技は自身が出せる最速の弐連突き、その速さから槍が二本に見える神速の突き。
趙雲はこう考えていた。あの構えから出せる攻撃は一撃しかないと。
その予想道理、北郷殿の攻撃は一撃だった、こちらは弐撃。
ならば一撃目で攻撃を迎いうち、弐撃目で勝利しようと。
だがその考えは崩れることになった。
なぜなら、向かってくる剣はそのあまりの速さに刀身がブレ、刀身が三つに見えるからだった。
「!?」
(これではどれか本物かわからない!?)
そして趙雲の放った技は無常にも本物の刀身を捕らえることができず、外す。
止めることの出来なかった、刀身の刃は趙雲の首の一歩まえで止まる。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ。どうやら俺の勝ちみたいだね、趙雲さん」
「・・・そのようだ、今回は私の負けだ。・・・主よ」
「はぁ、はぁ、はぁ。あ、あるじぃ~!?」
俺は肩で息をし雷切を納刀しながら変な声を上げてしまった。
「当然でしょう。愛紗や鈴々にご主人様と呼ばれているのですから。
それにこれほどの武、そして交えてわかったあなたの器量。
我が主にふさわしいお方だ。・・・なので主よ。我が真名をあなたに預けます。これからは星と呼んでください」
「そ、そうか、それじゃありがたく呼ばせてもらうな星」
「ふふっ、ではさっそく何なりとご命令くだされ」
「命令、かぁ・・・」
「兵の調練から街の治安維持、はたまた開墾の指揮や灌漑指導。・・・もちろん夜の伽まで、なんでも命じて
頂いて結構ですぞ」
「と、伽・・・」
ゴクリッ、と喉が鳴るのを止めることが出来なかったのは、健全な男の子なんだから仕方がない
・・・その時、俺の後ろからものすごい怖いオーラを感じる。
「ゴホンっ。決着が付いたすぐからご主人様を誘惑するようなことはやめてもらおうか」
愛紗がいつの間にか俺の後ろに立っていた。
「ふむ、なるほど。・・・では怖いお姉さまに目で殺されないように注意するだけ注意しよう」
ククッと喉で笑いながら、星は愛紗の言葉を華麗にスルーする。
「まぁご主人様が好かれるのはいいことだよ♪」
とまたいつの間にかこちらに来ていた桃香が言う。
「そうそう。お兄ちゃんはみんなのものなのだ。だから鈴々とも勝負してほしいのだー!」
「ええ!?む、無理!?さっきの技でけっこう疲れたんだ、だから勘弁!?」
〝天の袖引き〟は肉体をフルに使うためけっこう体力消費が激しい技なのだ(キラーンっ!
と心の中で誰かに補足しておく俺。
「・・・ふふっ、主。いい環境ですなここは」
「そ、そう?」
後ろから愛紗と鈴々のプレッシャーが来るのを感じながら星の言葉を軽くいなす。・・・軽くか?
「と、とにかく!今、やらなければいけないことって何があったっけ?」
「はい。えーと・・・色々ありますけど、やはり募集に応じてやってきた兵隊さんたちの訓練が急務かと
・・・!?《かぁああ~・・・》」
話し終わり俺と目が合うと俯いてしまう朱里にちょっと傷つく。
「ふむ。ならばその仕事、私に任せてもらおう。・・・お嬢さん」
「あ、そっか。星ちゃんは朱里ちゃんと雛里ちゃんとも会うの初めてだったね」
「ええ。なかなか利発そうなお嬢さんですな」
「あ、あの・・・その・・・。私、諸葛亮って言います。字は孔明で真名は朱里です。朱里って呼んでください」
「朱里と雛里は主に軍師として、俺と桃香を補佐してもらってるんだ」
「ふむ。・・・朱里とは美しい名だ。・・・では我が真名星をおぬしに預けよう。軍師殿、宜しく頼む」
「こ、こちらこそでしゅ!」
初対面の緊張からか、軽く噛みながら勢いよく頭を下げた
「それでこちらのお嬢さんが・・・」
「あわわ、ほ、鳳統でし!」
「・・・・」
雛里の顔をじぃーと見る星。
「二人とも、緊張すると舌を噛んじまうくせがあってな。・・・可愛いだろう?」
「・・・少女のカミカミ口調とは良きものですな」
ニヤッと笑いながらがっちり握手する俺と星。どうみても変態だな。ありがとうございます。
「はぁ・・・何を馬鹿なことを言っているのです。星もさっさと自己紹介を済ませろ」
「おお、怖い怖い。・・・では鳳統殿。我が名は趙雲、字は子龍。真名は星。・・・星と呼んでもらって構わないのだが」
「あわわっ、わ、私もあの、ひ、雛里って言いますから、えと、よ、宜しくです」
「雛里殿か。こちらも良い名だな。その可憐な姿にはぴったりだ」
「あぅ・・・」
まっすぐに雛里の目を見つめ、まるで男が女性を口説くような言い方をする星に俺は、
(なんか華琳と少し似た雰囲気を感じるんだが・・・気のせいか?)
「まったく。貴様がこのような不埒な性格だとは思わなかったぞ・・・」
「良いではないか。美味い食事に極上の酒、美しい少女と素晴らしき仲間。・・・戦いだけの
日々では身が持たんというものだ」
「うんうん。星ちゃんの言うとおり♪、仲間がいるって素晴らしいことだよね」
「・・・なんか少し違わない?」
苦笑いしながら答えてる俺に、
「それよりご主人様。お仕事の配分はどうしましょうか?」
「そうだなぁ・・・んじゃ、愛紗と星には新兵の訓練をしてもらおう。
んで鈴々と俺と桃香は街の警邏。朱里は市の管理をして、雛里は兵站の管理・・・ってな感じでどう?」
一時とはいえ隊長職をやっていた俺だ。警邏はまかしてもらうぜ。
「ええっと・・・適材適所かと」
「後は書類の整理とかもあるが、それは警邏の合間に俺がやるからまぁ大丈夫だろ」
「あの、それだとご主人様に負担が掛かってしまうので、その、えと・・・お手伝いします」
「そっか、ありがとうな雛里」
「あぅ・・・えへへ」
雛里の頭を撫でた後、
「じゃあ、そろそろ仕事に戻ろう。夜には星の歓迎会を開くから、みんなそのつもりでな」
「おー!久しぶりに酒が飲めるのだー」
「うんうん。今日はたくさん飲んで良いからね」
「やた!鈴々ね、今日はお仕事頑張るのだ!」
「今日は、ではなくいつも頑張ってほしいモノだ」
「うーっ、イタイところを付かれたのだぁ・・・」
愛紗に言われ頭を掻きながら、鈴々は俺の後ろに隠れる。その姿に皆の間から笑いがこぼれた。
(・・・いいな、こういうの)
理想を共にできる仲間がいる。それはとても素晴らしいことだと俺は感じていた。
そして時間が過ぎ夜、
「それじゃ新しく仲間になった星に乾杯だ!」
「「「「かんぱーーーい!!!」」」
――――こうして俺達に新しい仲間が加わった。
〝鈴々との一日〟
星が仲間になった次の日、俺は鈴々と鍛錬するべく鍛錬場に来ていた。
昨日俺と星が戦ってるのを見て鈴々の闘志に火が点いたらしく、俺と戦ってみたいのだそうだ。
俺も最初は断ったのだがあまりに真剣に頼むので、戦うことにした。
ちなみに今日は仕事は俺は休みだが鈴々はどうだが分からないのが不安だった。
・・・後で愛紗に怒られなきゃいいが。
「よし!準備完了!・・・いつでもいいぞー」
俺は腰に天月、和道、雷切の三本を差し、そこから和道だけ抜き鈴々に構える。
「お兄ちゃん!本気だからね!本気でやらないと鈴々、怒るのだ」
いつもは人懐っこい笑顔でいる鈴々でも戦いの事になると、すぐさま武人の顔に早代わりだ。
さすがは張翼徳というところ。
「わ、わかってるが、これは鍛錬なんだから怪我だけはしない様にしような
怪我したらもともこもないんだから」
「大丈夫なのだ!鈴々は強いから!」
そう言って蛇矛をこちらに構えてくる鈴々。
・・・そのアンバランスさに鈴々を知らない人は笑ってしまうかもしれないがな。
「いや、それは大丈夫なのか?」
鈴々の言ってることはなんとなく、分かるような気がする・・・のだが
強くても怪我はするときはするので、やっぱり首を傾げてしまう。
「そんなことより早く始めよう!お兄ちゃん」
体をウズウズさせ、瞳をキラキラ輝かせ鈴々が急かしてくる。
「そうだな、そろそろ始めるか。分かってると思うが始めから全力でいかず
ゆっくりと――――」
「にゃーーーー!!」
俺が話を言い終わる前に鈴々が俺目掛けて蛇矛を振り下ろしてくる。
ていうか、何度も言うが人の話は最後まで聞こう!これマジ大事!
「ギャーーーー!!」
それを上段で構えた和道で受け止めた・・・のはいいが、俺の立っている地面が
クレーターのようにボコーン!と沈んでいく。
「ぐっ!」
(なんつー馬鹿力!?)
鈴々の戦いは何度か見たことはあるが、その度に思っていた。
なんでこんな小さいのに、こんな力が在るのかと
「にゃ!」
その状態からさらに力を込めてくる鈴々。
「おぉおお!?」
(えーーー!?まだ上がるの!?)
さらに力が加わったおかげでこんなにクレーターが大きくなりましたー!
いや・・・まじで、洒落にならーーーん!?
「うおお!」
受け止めている状態から刀を横に移動させ、攻撃を受け流す。
すると蛇矛は地面にぶつかり、爆音を立てその衝撃で俺は吹き飛んでいく。
それを利用し人工クレーターから脱出する。
「ふふふ、なかなかやるな鈴々よ」
(マジで!?潰される!?かと!?思ったーー!?)
ちょっと強がってみるが内心ビクビクもんだった。
ここまで力があると思ってなかったので、受け止めた後悔と腕の痺れに心の中はいっぱいだった。
「・・・・にゃはは!」
クレーターの中で地面に蛇矛がめり込んだ状態のまま突然鈴々が笑い出す。
「ど、どうした鈴々?」
おそるおそる聞いてみる俺。
「やっぱりお兄ちゃんは強いのだ!鈴々の一撃を受け止めてくれたの、男の人でお兄ちゃんが
初めてなのだ!鈴々なんかうれしいのだ!」
「そ、そうか~」
(そんな無垢な笑顔で言われても、もう受け止められないっす!)
「どんどん行くからね、お兄ちゃん!」
「どんどんですか!?」
鈴々は穴(クレーター)から出てきて、俺の前に立ち蛇矛をヘリコプターのようにブンブンと
上に構えて回す。
そしてその遠心力利用してまた振り下ろしてくる。
その威力はさっきとは比べ物にならないのは目に見えていた。
「はあ!」
その攻撃を俺は上空に飛び避ける。そこから、
「飛天御剣流〝龍槌閃(りゅうついせん)〟」
自然落下を利用した威力の高い斬撃で一気に反撃する。
だが鈴々はその攻撃を避ける。
蛇矛はさっきの攻撃で地面にめり込んでいたらしく、抜けずそのままにし手放した。
「ごめんなのだ、避けちゃって!」
そう言った瞬間にはもう鳩尾あたりに鈴々の頭が来ていた。
「頭突き!?」
その行動に驚きながら刀を持ち上げ、峰で受け止めようとしたが間に合わず頭突きが当たる。
「がっ!?」
刀が手から離れクルクルと回転しながら俺の後方に落ちていき、地面に突き刺さる。
「いてて・・・鈴々はすごいな、切れ替えが早い」
倒れている状態から起き上がり鈴々に言葉をかける。
「にゃはは~、お兄ちゃんに褒めて貰ったのだ」
手を頭の後ろで組み、人懐っこい笑顔で笑っていた。
そして地面にめり込んでいた蛇矛を取り、構えていた。
「褒めて貰ってうれしいけど、勝負は別なのだ!」
「続けるんだな?」
「当然なのだ!」
「よし!わかった、俺もだんだんとやる気になってきた」
俺は天月と雷切を鞘から抜き、構える。
「にゃ!剣二本なのだ!鈴々、二本の剣と戦うの初めてだから楽しみなのだ!」
「すぅー・・・、ふぅー・・・、二刀流〝弐斬り〟」
二本の刀を平行に持つ構えをする。
「?。変な構えなのだ」
「今度はこっちから攻めさしてもらうからな、鈴々」
「来いなのだ!」
俺は地面を力を込めて蹴り、鈴々の懐に入る。
「にゃ!?」
「登楼!」
鈴々に向かって斬り上げる斬撃をする。
鈴々は体を横にずらし攻撃を避ける。
「そんなの食らわないのだ!」
「応登楼!」
「にゃにゃ!?」
斬り上げた状態から今度は振り下ろす斬撃する。
「だから食らわないのだ!」
今度は蛇矛で受け止める。
「これでも駄目なのかよ!?・・・んじゃ〝魔熊〟」
一旦離れまた詰める、二本の刀を逆手に持って振り下ろす斬撃。その攻撃も蛇矛で受け止めるが
鈴々に負けないように押していく。
「だぁりゃーーー!」
「にゃにおーーー!」
しばらく力比べをしていたが、鈴々が渾身の力を入れ俺を払い除ける。
つーかどんだけ力あんだよ!?
払い除けられた俺は空中で体勢を立て直し地面に着地する。
「ふぅ・・・強いな、鈴々」
「当然なのだ!鈴々は無敵なのだ!」
「ふふっ・・・なぁ鈴々?」
「ん?、なにお兄ちゃん?」
「鈴々はなんで戦うんだ?戦いが怖いって思ったことないか?
人を・・・殺めるのは平気か?」
聞いて俺はすぐに後悔していた。鈴々は優しい子。平気なはずはない。
俺は人を殺めるのに相当の覚悟が必要だった。
だから鈴々はどうなのだろうと、ふと思ってしまい、それが咄嗟に出てしまっていた。
「平気じゃないけど平気だよ」
「平気じゃないけど平気・・・?」
「うん。何もしてない人を殺すのは平気じゃないけど・・・でも鈴々が殺すのは悪者だもん。
弱い人たちを苛めるやつ等だもん。そういう奴らからみんなを守りたいってそう思って、
桃香お姉ちゃんや愛紗と戦うって決めたのだ。今はお兄ちゃんも一緒だけど・・・
だから平気。平気じゃないけど平気なのだ」
「そっか・・・」
鈴々や愛紗や桃香だって、みんな様々に悩みながら、それでも誰かを守るために戦っている。
「後、今は朱里や雛里、星もいるから・・・みんなが居るから平気なのだ!」
「やっぱり鈴々は強いな、でも辛くなる時だってあるはずだから、その時は俺が鈴々を守ってやるな」
「鈴々は守られるほど弱くないから別にいいのだ」
「あ、そ、そう?」
ちょっとカッコいい事を言ってみたが否定され落ち込む俺。
「でも」
「?」
「でも、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら考えてあげてもいいのだ」
「どうしても!」
即答!。
「にゃ!?早いのだ!?」
「当然だろ、鈴々を守りたいって思ったのは本当のことなんだし、それにいくら
強くても一人より二人の方が心強いし、なにより仲間だからな」
「最後にこれが一番大切なことなんだが・・・」
「なんなのだ?」
「弱いから守るんじゃなくて、好きだから守るんだ」
「・・・・・・」
その言葉を聞いて鈴々が赤い顔をして動かなくなってしまった。
(あれ?なんか変な事言ったか?・・・・・好き・・・・・だから・・・!?)
自分の言ったことを思い出し赤面している鈴々を見ていると、変に意識しだしてしまった。
「お兄ちゃん、鈴々のこと好きなの?」
「うっ・・・」
確認してくる鈴々があまりにかわいく、口からポロリと、
「・・・かわいい」
と言ってしまう俺。
「鈴々、かわいいの?」
なんかどんどんとどつぼに嵌っていく行くんですけど!
だがここは!
「ああ、かわいいぞ」
「・・・にゃは♪お兄ちゃんに言われるとなんだうれしいのだ!」
俺の言葉でここまで喜んでくれるんだ、言ったことに後悔はない。
「さてと、まだやる鈴々?」
「何を?」
忘れたのか・・・
「鍛錬だよ、鍛錬!話に夢中で止まってたけど、どうする?」
「もちろんや――――《グゥ~~・・・》めるのだ、鈴々お腹減ったのだ・・・」
その言葉としぐさに思わず、ガクッと扱けてしまう。
まあ、でもこれが鈴々なんだ、しょうがないと思わされてしまうのは鈴々の魅力のひとつだ。
「お兄ちゃん、ご飯食べに行こう!」
「そうだな、俺も腹減ったし行こうか」
「やたー!お兄ちゃんとご飯なのだ!」
おおう!?そこまで喜んでくれるのか!可愛いやつめ!
思わず抱き上げ頬擦りしてしまう。
「にゃー!くすぐったいのだ、お兄ちゃん」
「っと、すまんすまん、鈴々が可愛かったもんだから、ついな。・・・嫌だったか?」
「嫌じゃないけど、でも今は早くご飯を食べたいのだ」
「そうだったな、んじゃ行こう」
「行くのだ!」
俺と鈴々は手をつないで街に下りていった。
街に着いた俺と鈴々はお昼をラーメンに決め屋台の椅子に腰を掻けていた。
「ずるるるるる~~!・・・こ、これは、店主このダシは(説明中)だな」
「お若いのにただ者じゃありやせんね、お客さん」
ふふふ、それはそうさなぜなら、じいちゃんとの修行中に世界の味を食べた男だぜ。
これぐらいわからないでどうする!
しかし、うまいなこのラーメン、さすが中国四千年。
「ずるるるる~~っ!!ゴクッゴクッ!!ぷはぁ!・・・鈴々は難しい事はよく分からないけど
このラーメンはおいしいのだ!」
鈴々の食べているものは、にんにくラーメン。そして量も半端ない。
麺はどっさり、チャーシューも山盛り、ねぎもテンコ盛り、この量がこの体のどこに入っていくのか
不思議でしょうがなかった俺だが、鈴々が幸せそうに食べているので気にしないことにした。
「このチャーシューもトロトロで口の中で蕩けておいしいのだ~」
もう完全なフードファイター状態だった。
俺のラーメンがお子様サイズに見えてくる。
「確かにこのチャーシューもうまいよな!がぶっ!もぐもぐっ!・・・うまい!」
「ありがとうございやす、お二人共。そんだけおいしそうに食ってもらいやすと、作り甲斐が
あるというもんでさぁ」
「はふぅ、はふぅ、もぐもぐ、これじゃすぐになくなっちゃうのだ、ずずぅううぅう!」
「ははっ、鈴々の食べっぷりは見ていて気持ちいいな」
「にゃ?」
「ああ、気にしなくていいよ、どんどん食べようぜ」
「うん、ずるるる~~っ、がぶっ、はふっ、ずずぅう!」
俺達はしばらくラーメンに没頭しながら食べていた。
そしてしばらくして俺と鈴々はラーメンを堪能して店を出た。
「いや~おいしかった。・・・それにしても」
さっきはすごかったなぁ。鈴々の食べっぷりにいつの間にか回りにギャラリーが沢山居たからな。
ギャラリー達も鈴々の食べっぷりを見て我慢できなかったのか、俺達が出るころには店が混んでいたな。
「鈴々、ちょっと食いすぎじゃないか。ラーメンあんだけ食べてお土産に点心そんなに持って」
鈴々は超山盛りラーメンを二杯食べた後、なんとラーメンばっかりじゃ飽きるからと
お土産に点心を籠にどっさりともらっていた。
・・・おかげで俺のお金がかなり飛んでいったが・・・トホホ。
「ぜんぜん大丈夫なのだ、まだまだいけるのだ」
ぜ、ぜんぜん・・・ま、まだまだ・・・ね。
「さてと、昼も食べたしそろそろ・・・・・・鈴々?」
「・・・・・・・・」
鈴々はフラフラと俺の二の腕にコツンとおでこを当ててくる。
「鈴々?どうしたんだ~?」
「・・・・・・・」
「鈴――――」
と名前を呼ぼうとした時、
「ふぁあああぁああああぁ~~~・・・」
・・・・・・。
「瞼が重い~~。・・・このままだと、寝ちゃうという悲しい確信があるのだ」
「ふわああぁあ~~・・・あう、おにいちゃ~~ん」
「しょうがないな・・・っほれ、おぶされ背中」
そういってしゃがんで鈴々に背中を向ける。
「んしょ、あは・・・♪お兄ちゃんの背中、広いのだ」
「そうか」
「うん・・・・・・くー」
え?はやっ!俺の背中では鈴々がすぅーすぅーと気持ちよく寝ていた。
「んにゃ・・・えへへへ」
「さてと城に帰るとするか」
そうして俺は鈴々を背負いスタスタと歩き出した。
とそこで終わればよかったんだけど、そうは行かなかった。
「ご主人様?」
「え?」
と少し離れたところに愛紗が居た。
「愛紗か、どうしたんだ街に出てきて?確か今日は新兵の訓練じゃなかったか?」
「はい、そうなのですが・・・ご主人様、鈴々を見掛けませんでしたか?」
「え?鈴々なら――――」
俺の背中で寝ているけどと言う前に、
「鈴々め、今日は自分が警邏の仕事だということを忘れてどこに行ったのだ、まったく」
その言葉を聞いて口が止まる。そして体がカチンと固まる。
え?仕事?そうだったの?じゃあ、その事を知らなかったとはいえ、鈴々と行動していた
俺は同罪・・・?いや、でも知らなかった訳だし・・・でも最初に鈴々確認しておけばとか言われたら・・・
そう考えていたら変な汗が出てきた俺。
(い、いかん。・・・ピンチだ!)
幸い鈴々は俺の背中に隠れていて愛紗からは見えないことが奇跡に近かった。
鈴々の寝息も街のざわめきに掻き消されている。
(なんとかこの場から離脱しなければ・・・!)
「あの、ご主人様?どうかなさいました?」
「へっ!?な、なにが?」
「いえ、さっきから後ろに手を組んでいられますし、それにその足・・・」
し、し、しまったぁぁぁあ!!足が丸見えだ!っていうか隠せてるわけなかったよー!
隠せてるの鈴々の上半身のみじゃん!
「・・・ご主人様、少しお話があるのですがよろしいでしょうか?」
「で、できれば遠慮したいです」
「却下です♪」
「で、ですよねー・・・」
そうして俺は鈴々を背負いながら城へと帰っていった。先導人付きで。
城に帰ってきた俺は鈴々を救うため愛紗にいろいろと説明した。
最初は怒っていた愛紗だが、やっぱり姉妹なのだろう。
鈴々には甘いということがわかった。
なんとか俺がかわりに警邏することで鈴々は怒られずにすんだ。
―――俺が愛紗に説明している間、鈴々は自室でぐっすりと幸せそうに眠っていた。
「にへへ・・・お兄ちゃん・・・・ずっと一緒なのだ」
〝勉強とメンマ〟
ただいま鍛錬中。政務を雛里や朱里に手伝ってもらい早めに終わった俺は中庭で雷切を振り回していた。
最近、星や鈴々と戦って分かったことだが強い。戦いを見てその人のクセや次にどんな攻撃を
してくるのか、など分かったつもりでいたが実際戦ってみると全然分かっていなかったことを痛感する。
「はっ!やぁ!」
淡蒼の刀身が陽光を照り返しながら淡く光る。
「ふっ!はぁ!―――――・・・ふぅー・・・」
素振りやいろいろな技を試してきて数時間。そろそろやめようかと雷切を鞘に収めていると、
「あううぅぅぅ~~~・・・ぅ」
誰かのうめき声みたいなものが聞こえてきた。
「ん?」
耳を澄ましてうめき声を聞いてみる。
あの声・・・。
「ふえぇええ~~~・・・」
なんかこの声を聞いてるだけで、頭を抱えている様が容易に想像できる。
一言に中庭といっても広さはかなりある。木陰を選んで机やベンチは点々と用意されている。
声もおそらくその辺から・・・ぐるりと周囲を見渡して・・・。
「はうぅぅ~~~~ん」
居た。俺は見つけた桃香に近づいていく。傍らに硯、手には筆。さらには分厚い本を抱えている。
なんか勉強中みたいだな・・・邪魔しちゃ悪いか。
「・・・・??あ、ご主人様・・・」
俺が立ち去ろうとする前に桃香が俺に気づいた。集中が乱れていたようだ。
「っと、ごめん。勉強中に邪魔しちゃって」
「ううん、それは大丈夫だよ。・・・それよりもご主人様は何してたの?」
「俺?俺は少し鍛錬をしていたんだけど、桃香の声が聞こえたから・・・」
「へぇ~、秘密特訓?」
「そんな大層なもんじゃないよ。体の動きとか技とかの確認みたいなもんだよ」
「ご主人様も、影ながら色々と頑張ってるんだね~。やっぱりすごいな~」
「桃香だって頑張ってるじゃないか。なんの勉強をしてるんだ?」
「これ?これは・・・・」
歯切れが悪いな・・・。目を伏せて、一度筆を置いてしまう。
「もしかして字の練習?もしそうなら悪かった!この事は誰にも―――」
と俺がしゃべってるのを遮り、
「私、そんなに字は汚くないもん。もっとちゃんとしたお勉強っ!」
まぁわかってたけどね・・・桃香の字は何回も見たことあるし。
ちょっと天然な桃香は、からかうと面白いのだ。
「政務であんまりみんなに迷惑かけないように頑張ろうと思って、愛紗ちゃんに
何を勉強したらいいか聞いたら、これをやらされていてね・・・」
「愛紗に、ねぇ・・・」
人差し指を立てて、桃香にくどくど言う愛紗の姿がすぐに思い浮かんだ。
「街を統括して、民の皆さんの生活を支えるには学問が必要なの」
「って、愛紗が?」
「うん、愛紗ちゃんが・・・」
「例えば国や街はどういう風に成り立っているか、国に生きるみんなが生活の糧を得るのかとか
そんな感じのお勉強」
「なるほどね・・・」
「知ってる?国家経済の仕組みって言うんだって」
「多少はね・・・しかし、なかなか難しいことを勉強してるんだな」
俺も華琳に少し教えてもらったことがあったが、完全には覚え切れなかったからな・・・
まぁそのおかげで桃香よりは仕事が早くできるわけだがな。
「そうなの、難しいの」
「朱里や雛里に教えてもらったらどうだ?あの二人ならちゃんと教えてくれるだろう」
「それは・・・そうなんだけど、いつも政務を手伝ってもらってるから、なんか頼りすぎてるな~と思って」
そう・・・かもしれないな。俺もわからないところはすぐに頼っちゃうし、負担かけすぎかな・・・反省。
「わたし、自分で思ったよりおバカだったかも・・・都で白連ちゃん達と一緒にお勉強したのに、あんまり覚えてないの」
「・・・素直に忘れたと言いなさい」
頭を抱えながらウンウンと唸っている桃香。なんか本気で悩んでるな・・・よし。
「なんなら俺が教えてやろうか?俺もそんなに詳しくないが少しなら教えてやれると思うから」
「え?本当に?ご主人様わかるの?じゅよーときょーきゅーとか、かへーの流れとか」
なんか桃香の言い方だと漢字に変換できなさそう・・・
「・・・今、言った言葉くらいならわかるよ」
「・・・・・・《パアアアァァーー・・・》」
「うお!?」
桃香の顔が輝いてる!?目もキラキラしてるし!?
「よ、よろしくお願いします、先生!」
「うむ!任せんしゃい!」
「大好き!」
「うむ!・・・って、え!?」
歓声と共に握られた俺の手は、この一秒で汗まみれになった。
「大好きとか、そんな冗談いいから!?ほらほら、勉強だろ!」
「ほんとに大好きだし、感謝でいっぱいなの」
胸に俺の手を引き寄せる桃香。おっぱいがやわらかいじゃないか!
「隣に来て!聞きたいことはい~っぱいあるの」
「椅子、一個しかないじゃん!」
「どうぞ」
お尻を動かして、椅子を半分譲ってくれる素振り。
「・・・・・・・気が散るからこうでいい」
「なんで?」
いくらなんでも刺激が強すぎるので、桃香の側面に回って屈む。
「変なの。隣からだと、文字も読みづらいと思うのに」
この子、分かって言ってんじゃないだろうな・・・恐ろしい娘!
「いいから。で?どこが分からないんだ?」
「んっと~」
集中しなくちゃな・・・
スレンダーなのに豊かな胸元とか、淡いピンク色に咲いた唇とか。
「・・・・・聞いてる?ご主人様?」
「う、うん!」
ぜ、全然気にしてませんよ!・・・・本当だからね。
こうして俺と桃香の勉強会が始まった。・・・この言葉を見てエロイ妄想をした人は正座だ!
(勉強中・・・)
「っと、だいたいこんな感じだな、わかったか?」
「んっと、えっと・・・なんとなくは」
「なんとなくで上等だよ。簡単には扱えない、化け物みたいなものだって認識しておけば、無茶はしなくなるだろう?」
「・・・・・多分」
「なら、桃香は大丈夫だよ」
そろそろ頃合だと思い、俺は腰を上げる。
「桃香は人の話をちゃんと聞く子ってのは、よくわかった。」
戦いの事になると人の話を全然聞いてくれない人達の事を俺は、心の中で涙を流しながら思い出していた。・・・主に三人。
「あ、ご主人様」
「桃香はこんなに頑張ってるんだ。なら、さ・・・周りのみんなが助けてくれるさ。さっき、桃香は頼りすぎかもって言ってただろう
俺も負担かけすぎかなって思った、けど、俺達は仲間だ。だから負担や頼った分、違うことでその人達に返していけばいいんだ」
「・・・ご主人様。・・・そっか、そうだね」
桃香は何か掴んだような、不安がなくなったような笑顔をしていた。
「わたし、政務があんまりうまくできなくてちょっと焦ってたかも・・・ありがとう、ご主人様。
だから、勉強しないでいいってわけではないと思うけど・・・うん、ご主人様にそう言ってもらえたら
凄く楽になった」
「そりゃよかった」
経済云々より大事な話ができたと思った。
「うん。わたしお友達をたくさん作る!わたしに足りないたくさんのものを持ってて、私の力になってくれる人を」
「その代わり、わたしもその人たちに足りない何かになるね!」
「はははっ!いいんじゃないか。それで」
「あ・・・・えへへへへ」
頭を撫でて、笑いあう俺と桃香。こうしてると晴れやかな気分になってくる。
「俺も、桃香にとって足りない何かになれるといいな・・・」
と小声で口から出ていた俺。
「え?なにか言った?ご主人様」
「ううん、なんでもないよ」
そう言いながら、少し撫でている手に力を込める。
「さてと、そろそろ行くな」
「あ、ご主人様・・・行っちゃうの?」
「うん。後で星に一杯付き合わないかって誘われていたの思い出してさ」
「そ、そうなんだ」
「じゃな~、また~」
手を振って・・・多少の名残惜しさがあるが。俺はその場を後にした。
「行っちゃった・・・」
私はその背中が見えなくなるまで見つめていた。
「私にとって足りない何かになれるといいな、か・・・」
もう十分になっているって言おうとしたが聞こえない振りをしてしまった。
「はぁ・・・なんで言わなかったんだろう、わたし」
頭を撫でられて、ご主人様の顔を見ていたら・・・・
「ご主人様は不思議。わたしが持ってない、たくさんを持ってて・・・なのにちっとも飾らないで」
「・・・なんだろう?ご主人様の事考えてたらドキドキしてきちゃった」
「はにゃ~~~ん、お勉強が手につかないよぅ」
「さて、確かこのあたりにいるはずなんだが・・・」
俺は今、街を見下ろす城壁の上を歩いている。見晴らしのいい場所で飲んでいると
星に誘われたときに言われていたので、この場所なんじゃないかと思い探している。
「うーん・・・いないなぁ。ここじゃないのか?」
そうしてしばらく城壁の上を歩いていると、
「ん?」
城壁の上に建てられた物見やぐらの上に、見知った姿がいるのが見えた。
「いたいた、お―――――」
星を呼ぼうとして・・・
膝丈の裾が、ひらひらしているのが目に映る。いや、ちょっと、これ風が吹いたら大変なこに・・・。
「・・・にゃあ」
「にゃ、にゃあ、・・・にゃっ」
これは・・・まさか。
「ふにゃ~、にゃう~ん、にゃあ」
やぐらの上で肘を突き、星は『誰か』と真剣に話している。その話相手とは・・・・・猫だ。
「ふにゃ、にゃ?」
星の隣にちょこんと腰を下ろしているのは、まぎれもなく一匹の猫だ。
「へぇ~、星も猫語しゃべれるのか・・・」
そう俺は驚いている。何に驚いてるかと言うと星も猫語をしゃべれるということだ。
決して猫と話していることに驚いているのではない。・・・え?君達はできないの?
ちなみに今の会話の内容は・・・秘密だ。大人の事情というやつだ。
「にゃっ!」
あ、気づかれた。猫はその場をバッと飛び出して、そのまま物見やぐらの骨組みを器用に駆け下りていった。
そして俺の近くに下りてきた。俺は話しかけようとしたが、ものすごい早さで駆けて行ってしまった。
「にゃっぁ!にゃぅ~~~ん!」
星が猫語をしゃべりながら物見やぐらから飛び降りてきた。
「主!」
「星、やっと見つけた。誘われたとおり来たぞ」
「誘っておいてあれなのですが、主。頃合が悪すぎです。せっかく世間話をしておったのに逃げられてしまったではありませんか」
「うっ・・・すまん。」
「すまんではありませんぞ。話の続きが気になって仕方ないではありませんか。一体どうしてくれるのです?」
「ここからじゃよく聞こえなかったが、そんなに気になる話だったのか?」
「ええ、それはもう・・・って、主?」
「ん?なんだ?」
「もしや主も猫と対話できるのですか?」
「ああ・・・」
「・・・そうですか」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
それっきり二人とも無言になる。そして、
「飲むか、星」
「承知」
二人に共通の何かが生まれた瞬間だった。
「へぇ、この酒うまいな」
星が袖から取り出してくれたのは二つの徳利。一方は普通だったけど、もうひとつには赤い紙の封印が厳重に施してあった。何かもう見た感じでヤバイのがわかるシロモノだった。
俺は普通のほうを星に注いでもらい、杯を傾け飲んでいた。
封印の方も気になったので聞いてみたが、星が不敵な笑みを浮かべたのでやめた。
「さすが主。この酒の味が分かるとは」
「後これにつまみなんかあれば最高だったな・・・と思って作ってきたんだが、星食べるか?」
「ほう、主。なかなかやりますな、頂きましょう」
そうして隠しておいた物を取り出す。
「!?・・・あ、主。こ、これは、ま、まさか!」
「ど、どうした星?・・・もしかしてメンマ嫌いだったか?」
取り出したのは俺が味付けした特製メンマだ。
それを星の目の前に置いたのだが、プルプルと震えていた。
「わ、悪い星!すぐに片付けるから―――」
そう言ってメンマの入った器に手を掛けようとしたら、
「・・・・・《ガシィ!》」
「え!?」
その手を凄い力で掴まれてしまった。
「あの、せ―――」
「・・・主」
「は、はい!?」
声は小さかったがその雰囲気は只ならぬ感じがして名前を呼ぶのを躊躇ってしまった。
「・・・主はなにゆえつまみにメンマを選びなさった?」
「えっと・・・そ、それは、俺がメンマ、好きだから・・・です」
なんか・・・メンマに告白してるようなセリフになってるやんけ!だが今はそれどころではない。
「ご、ごめん!星の好みも考えずに・・・」
「・・・同志」
「へ?」
また小さい声で言ったが今度はよく聞こえなかった。
「星、今なんて言ったんだ?」
その瞬間両肩をがしっと掴まれ、
「同志と申したのです。我が主よ!」
その顔はさっきの桃香にも負けないほどの輝きだった。
「ど、同志?えっと・・・つまり、星はメンマ好きなのか?」
「愚問ですな主。私にメンマの事を語らせて右にでるものなどおりますまい!」
「そ、そうか・・・ならよかったよ。さっそく食べてみてくれよ」
語らせると大変なことになりそうなので、メンマを勧めてみる。
「では・・・《ぱくっ》」
星は箸でひと掴みし口の中へと運んでいく。
「こ、こ、これは・・・!?」
「不味いか?けっこう美味く出来たはずなんだが・・・」
リアクションが大きいので、美味いのか不味いのかよく分からないので、ちょっと不安な俺。
「・・・主」
「なに――――うお!?」
感想を聞こうとしたが、星は涙を流していた。
「主、これは・・・美味すぎます。メンマの極致と言っても過言ではありません」
「え?そんなに?それはいくらなんでも・・・」
「・・・あなたを主に選んでよかった」
「え!?メンマで!?」
メンマでよかったなんて・・・喜んでいいのか?
「ああ、美味しゅう、美味しゅうございます、主よ!」
星はどんどんと口に運んでいく。
「いや、まあ、そんなに喜んでくれるならいいか」
俺は酒を飲みながら、その姿を見ていた。
「うん、やっぱりうまいな。この酒」
「うむむ・・・いったいどうやったらこのような味が・・・」
星は酒を飲むもの忘れ、メンマに夢中だった。
「なんなら味付け教えてあげようか?」
「ほ、本当ですか!?―――――・・・いえ、やっぱり遠慮いたします」
「なんで?」
「教えていただくのは簡単。しかし私はこの味の謎を解いてみたいのです」
・・・じっちゃんの名に賭けて、とか言わないだろうな。
「まぁいいけど、気が向いたら言ってくれ」
「はっ、感謝いたします。主よ」
こうして今日という日々を過ごしていった。
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また暇つぶし程度になれれば幸いです。
どうぞご覧ください。