No.125236

キミは誰にチョコをあげる?(Latter part)~マクオスDEバレンタイン

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。バレンタインデーを題材にしたパラレル性転換二次小説になります。

2010-02-19 01:11:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1334   閲覧ユーザー数:1323

 

 バレンタイン前日、学園の調理実習室を借りてチョコレート作り決行。

 せっかくだからチョコレートケーキを作るって話になって、材料を近くで調達してきた。

 ……なんか一気にハードルが上がった気がしたけど、考えないようにしよう。うん。

 

 材料を前に皆エプロンつけて準備完了。

 ランタの指導の元でチョコレートケーキ作りを始める。

 

「ええっと、板チョコと生クリームとバターを電子レンジに掛けて……」

「タマゴは卵黄と卵白に分けて下さいねー」

 

 それぞれランタにいろいろ聞きながら、ケーキの下ごしらえを進めていく。

 バレンタインの手作りチョコって、チョコレートを湯煎に掛けて溶かして型に入れるだけなんて思ってたけど、ケーキとなったらそんな簡単にはいかない。

 ――ケーキなんて作るの初めてだし、結構緊張する。

 

「メレンゲ、角が立つ手前くらいのゆるさってこんなもの?」

「ええっと、もうちょっと泡立てた方がいいかな」

「了解」

 

 ミシェルはさすがというか、さくさく手際よく進めていく。

 有限実行、自信満々だっただけある感じ。

 

「その後、卵黄に砂糖入れて、白っぽくなるまで泡立てて下さいね」

「はーい」

 

 ルカは緊張した手付きだけど、言われたとおりの手順でちゃんと進めてるみたいだった。

 さすが手先が器用だと感心する。

 

「溶かしたチョコレートを卵黄に混ぜて、っと」

「あ、それ、さっくり混ぜるだけでいいですからね」

「うん、わかった」

 

 一方の私は、ランタのいう通りに慎重に手順を踏む。

 出来ると言ってしまった手前、失敗するわけにはいかないし。

 

「次はゴムベラでメレンゲを3回に分けて入れて混ぜて。1回目はしっかりと、2、3回目さっくりで大丈夫だから」

「はいっ」

「わかったわ」

 

 ランタの指示でそれぞれ手順を進めてケーキの生地らしくなっていく。

 

「最後に型に流し入れて、190℃に予熱しておいたオーブンで10分、180℃に下げて10分焼きます」

「どうかな……」

「大丈夫ですよ。ちゃんと膨らみますから」

「う、うん」

 

 ケーキの丸い型に入れて、暖めたオーブンに入れる。

 ちゃんと膨らむかどうか心配で中を覗いてたら、ランタが小さく笑ってそう言った。

 

 「大丈夫」って、ランタの言葉にちょっとほっとする。

 うん、ランタが教えてくれたんだし、大丈夫だよね。 

 

 そして、待つこと、約20分。

 オーブンの加熱が終わったとタイマー音が知らせる。

 どきどきする瞬間。

 ちゃんと出来てるといいんだけど。

 

「うん、皆のちゃんと出来てるよ」

 

 ランタが笑顔でオーブンからケーキの乗ったプレートを取り出す。

 熱々で湯気の立っているケーキは全部ふっくら膨らんで甘くていい香りがした。

 

「わあ、ちゃんとチョコレートケーキになってる」

「本当。いい香りね」

「ランタ、これで完成でいい?」

 

 両手を叩いて完成を喜ぶルカ。

 そんなルカを見て、嬉しそうなミシェル。

 そして、私はプレートの上のケーキを見て、ほっと一息ついた。

 

「うん。後は、あら熱取れたら型から外して、冷やしてからラッピングしたら終わりだよ」

 

 にっこり笑って、ランタはそういうと準備してあったラッピングを指差した。

 

「ルカ、よかったわね。明日、コレ持って頑張るのよ」

「は、はい! ランタさん、ありがとうございます!!」

「喜んでもらえてよかったです。明日、頑張ってくださいね」

 

 勢いよくお礼を言って頭を下げるルカにランタは真っ赤になって困ったように両手を振る。

 うん、でも、本当にちゃんとバレンタインのプレゼントが完成したのって、ランタのおかげだと思う。

 

「ランタ、本当にありがとうね」

「え、そんなアルトまで。ボクこそ、皆と一緒にケーキが作れて楽しかったよ」

 

 お礼を言うと、さらにランタの顔が赤くなった。

 

「うん。そろそろ粗熱取れたと思うし、ケーキのラッピングしようよ」

 

 照れ隠しなのか、そそくさとケーキを入れる箱の準備を始めるランタ。

 こういうところ、本当にランタらしい。

 男の子にこういうことを思うのもあれかもしれないけど、可愛いと思ってしまう。

 

 あえて、ランタの提案に異を唱えることもないので、そのまま皆でケーキのラッピング作業に入った。

 

「で、アルト。アナタは誰にあげるの?」

「え?」

 

 ケーキを箱に入れて、ラッピングが終わったところでミシェルが思わせ振りに聞いてきた。

 

「苦労して作ったんだから、ちゃんとあげるんでしょ」

「べ、別に、誰かにってことは……」

 

 一瞬、誰かの顔が頭を過ぎりそうになったけど、慌てて頭を振って残像を吹き飛ばす。

 うん、そんなはずない。

 アイツにチョコ渡すつもりなんて、全然ないんだからね!!

 

「ん? 何か騒がしいわね」

 

 廊下から黄色い歓声が聞こえてきた。

 ただならぬ雰囲気にミシェルの気が私から逸れる。

 思わずほっと息をついた。

 

(……何だか分からないけど助かった)

 

 そのまま、何事かと野次馬根性まんまにミシェルが調理実習室から出て行く。

 と言っても、私たちも気になるのは一緒だから、その後を付いて行った。

 

 廊下で目にしたのは信じられない光景だった。

 ――どうして、アイツって、こうも神出鬼没なんだろう?

 

「シェリオ?!」

「わお、また両手に花束抱えちゃって。派手な登場ね」

 

 ひゅうとミシェルが口笛を吹く。

 サングラス姿のシェリオの登場の仕方にも軽くめまいを感じる。

 

(――一体、シェリオって何考えてんだろう)

 

 ミシェルの言葉そのままに見事なまでに派手な登場の仕方だった。

 両手で抱えきれないほどの花束を持って、背後に信者よろしくたくさんの生徒を背後に従えて。

 

(これ、間違いなく正門から入って来たんだ)

 

 ……ちょっとは芸能人らしく、変装とかして大人しくする気はないんだろうか。

 いくら美星に芸能科があって実際プロとして芸能活動をしている生徒がいるって言ったって、天下の『銀河の帝王』が来たとなれば騒ぎにならないわけないっていうのに!!

 

「Bonjour,Mademoiselle.(こんにちは、お嬢さん)」

「一体、何しにきたのよ?」

 

 当たり前みたいにしれっとあいさつしてくるシェリオに顔を顰める。

 しかも、営業スマイル然としたきらきらした笑顔なんて見せるから、周りの生徒たちから悲鳴にも似た黄色い歓声が上がる。

 ……さっき聞こえてきた歓声からして、どうやらここに来るまでにも散々愛想振りまいてきたんだろう。

 本当にとんでもないヤツ。

 

「あら、ご挨拶ねえ。せっかくバレンタインデーの贈り物を届けに来たのに」

「は?」

「素敵で勇敢なお嬢さんたちに感謝の気持ちを。

Merci pour tout.(いろいろとありがとう)」

 

 目を丸くする私に軽くウインクしてみせる。

 そして、私たちの前で跪いて、優雅な所作で持っていた花束を差し出す。

 

「ルカ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 まずはルカに。

 ピンク色の可愛らしい薔薇の花束を。

 

「ミシェル、いろいろありがとう」

「こちらこそ」

 

 次はミシェル。

 薄紫色したブルーローズの薔薇の花束を。

 

「はい、アルト」

「え?」

 

 最後は私だった。

 戸惑う私に差し出されたのは深い紅色の大輪の薔薇の花束だった。

 

「Je vous remercie.(あなたに感謝しています)」

「あ、ありがと……」

 

 中世の騎士然とした空気に飲まれて受け取ってしまう。

 ――受け取らないと言う選択肢はその瞬間思いつけなかった。

 甘い濃厚な花の香りが辺りを包み込む。

 

「で、あなたからの贈り物は?」

「はい?」

 

 せっかくの雰囲気を台無しにする一言。

 花束を渡してた時と同一人物とは思えない。

 さっきの空気はどこへやら。

 ぽかんと呆れる私に右手を出してせっつく姿は子供っぽいとしか表現できないんですけど。

 

「さっきから甘い香りがしてるけど、これってチョコレートでしょ」

「そうだけど、何で」

「日本じゃ、バレンタインデーにチョコレート渡すって聞いたんだけど」

「え、うん。それはそうだけど」

 

 何故か得意そうにバレンタインの話をするシェリオに頷く。

 確かにその話の通りだけど、なんでその話を今するんだろう?

 

「くれないの?」

「くれないのって――」

 

 当たり前のように言われて、言葉を失う。

 もしかして、そのために今日、ここに来たとかいうんだろうか。

 ……そもそも、その前にバレンタインデーは明日なんだけど。

 

「あら、ちゃんとあるじゃない」

「は?」

「これ、そうなんでしょ?」

「あ、いつの間に!」

 

 いつの間に取って来たのか、誰かが代わりに取りに行ったのかわからないけど、見覚えのある箱がシェリオの手に。

 どう考えてもあれってさっき作ったケーキの入ってる箱じゃない!

 

「ありがと」

「ちょっと勝手に! 返しなさいよ!」

「いやぁよ」

「シェリオ!!」

 

 勝手に礼なんて言われても困るんですけど!!

 必死に取り返そうとしても、歴然としたリーチ差に物言わせるシェリオが簡単にそれを許してくれるわけもなく。

 軽くかわされて、ケーキの箱はシェリオの手の中のまま。

 

「ほんっとうに真面目ねえ」

「きゃっ――?!」

 

 シェリオが頭上に持ち上げた箱に手を伸ばした瞬間、バランスを崩して思わず悲鳴を上げる。

 器用に片手で箱を持ったまま、シェリオは私の腰に手を回されて身体が引き寄せた。

 いきなりシェリオの顔が間近になって、混乱する。

 

「ちょっ――!」

「Alto,Je t'adore.(アルト、大好きよ)」

 

 パニック状態の私の耳元で囁いた。

 いつになく甘い声音に顔が真っ赤になる。

 

(――何でこんな時にそんなこと言うのよ!!)

 

「やっぱ、可愛いな」

 

 一瞬、素に戻ったシェリオの笑みを履いた唇がさらに近づく。

 そして、その瞳に映る自分の姿まで見えるところまで近づいたと思ったら……。

 

「!!」

 

 唇に柔らかい感触。

 近いなんてのじゃ済まされない距離にシェリオの顔がある。

 いつかと同じ不意打ちのキス。

 こ、こんなのって――!!

 

「きゃぁーっ!!」

 

 耳を劈くような黄色い悲鳴が周りから上がる。

 そ、そ、そうだった。

 ここって、学園の廊下!!

 

「まぁ、牽制にはこれで十分か。――ご馳走様、アルト姫。またな」

 

 悲鳴と歓声に辺りが包まれる。

 その中心にいて、パニックにパニックが重なる。

 凍りついた私の頬にさらにキスを残して、シェリオはパニックに陥っているギャラリーを尻目にひらひらと手を振っていなくなった。

 

「………」

「アルト? ア・ル・トー、大丈夫ー?」

 

 シェリオがいなくなって、立ち尽くす私の目の前でミシェルが意識を確かめるように名前を呼んで手を振る。

 

「ああもう、相当重症ねえ。さすがに大丈夫じゃない、か」

「アルト先輩――その、とりあえず、ここから移動した方がいいと思いますよ。ランタさんも行きましょう」

「う……うん」

「はいはい。皆も散ってチョウダイ。ここにいたら、先生に大目玉食らっちゃうかもよー?」

 

 ミシェルがどよめく学生たちを散らす。

 まだ、意識覚めやらないまま、私もルカに手を引かれて、その場を後にした。

 

「相変わらず大胆なことで。ま、花束には私も一瞬ときめいたけど。さすが銀河の帝王」

「ホントでしたねー」

 

 ほとほと感心したようにミシェルとその言葉に頷くルカ。

 ――その傍に座ってるランタは終始無言。

 

 とりあえず、元いた実習室に戻ってきていた。

 ルカが入れてくれた紅茶を口にして、やっと意識がはっきりしてきた。

 

「な……何なのよ、アイツ!!」

「まあまあ、落ち着いて。どーせ、初めてでもないんだし」

「ミシェル!!」

 

 思い出したくない事実をしれっと口にするミシェルを睨み付ける。

 確かに二回目ですけど!! ――シェリオに騙まし討ちみたいにキスされたのは!!

 

「どうしよう。皆の前であんなこと……」

「まあ、しばらく騒がれるでしょうねえ」

「……しばらく学校休もうかな」

「そんなことしたら逆に騒がれると思うけど?」

「う………」

 

 最後の手をあっさりミシェルに却下される。

 人の噂も七十五日。――その諺を信じて、しばらく我慢するしかないのかも。

 

「しっかし、どう考えてもあっちの方が一枚ウワテねー。潔く諦めたら?」

「諦めたらって」

「まあ、いろいろ? それに、どうせ元々あげるつもりだったんでしょ」

「何を誰に?!」

「だ・か・ら、チョコをシェリオに」

「はあ? そんなつもりじゃない!!」

 

 にやにや笑うミシェルを思わず睨み付ける。

 確かに一瞬頭を過ぎりかけたことは認めるけど、渡すつもりなんてなかったんだから!

 

「はいはい。今回はランタのチャンスだと思ったんだけどねー」

「え? そんなチャンスだなんて」

「ごめんね、力になれなくて」

「ミシェル……」

 

 私の話なんてミシェルの耳に入っていないかのように、何故か落胆してるランタに声をかける。

 ――チャンスって、一体、何のだろう?

 

「さて、とんだ乱入者のおかげで台無しになっちゃったわね。

ま、とりあえず、皆でチョコケーキでお茶にしましょうか」

「それじゃ、お茶の準備しますね」

 

 場の空気を換えるみたいに、パンとひとつ手を叩いて、明るい声を出す。

 ルカもそれに合わせて、右手を大きく上げてぱたぱたとお茶の準備を始めた。

 

「ささ、ランタもテーブルについて。ね?」

「う、うん――」

 

 ミシェルに背中を押されて、ランタも移動する。

 ふう。確かに気分を一新したいところかも。丁度いいかな。

 

「ルカ、ケーキも一緒に切っちゃって。モチロン、あなたが渡す分じゃないのでね」

「はい!」

「あ、そうだ。ランタ、せめてアルトにケーキでも食べさせて貰ったら?」

 

 そう言って婀娜っぽくウインクするミシェル。

 

「え――ええ!!」

「ミシェルーッ!!」

 

 とんでもないその内容に私とランタは二人して顔を真っ赤にする。

 

 今年のバレンタインデーは多分、一生忘れられない気がする。

 ……本番は明日なんだけどね。

 


 
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